ルリの覚醒後、木連、アルビオン両陣営でネルガルに対する諜報活動が活発化していた。

無論、この動きはユーチャリスUのカイトの知るところになる。

そうは言ってもカイトが一番興味を寄せていたのはナデシコの復活であったが。

ちなみにルリの一件は、真澄の独断により報告されていない。

「ナデシコの復活か」

ユーチャリスUの私室でカイトは無関心そうに呟いた。

『再発進は来月だけどね』

カイトはウインドウを通じて話しかける。

「麗香ちゃん、メインクルーは?」

『ほぼ同じ』

「ほぼ?」

『フクベ提督、ゴートホーリーが退艦したわ』

「まぁ老提督にはもう用はないしゴートも大した影響はない。大した問題にはならないさ」

二人をあっさり切り捨てるカイト。

「それにしても、どうなるかなこの戦争は?」

『終るわ。どう言う形で終焉するにせよ』

「・・・何年かかる事やら」

『犠牲者のことを気にしてるの?』

「まさか、俺は顔も見た事のない人間の死を本気で悲しんでやれるほどの人格者じゃない。

 ただ、長期戦も度が過ぎれば世界に再建できる余力がなくなる。

 俺は自分の幸せをつかみたいだけだから、世界が荒廃しすぎることは好ましくない」

『・・・・・』

「まぁその時には統和機構にでも入ろうか」

冗談めいた口調で言うカイト。

『え?』

「麗香ちゃんや真澄ちゃんもいるしね」

そう言ってにっこり笑うカイト。麗香は伝説のジゴロスマイル、『天河スマイル』の直撃を受けた。

『も、もうなに言ってるのよ』

「そう?。俺は麗香ちゃんや真澄ちゃんと一緒の方が嬉しいんだけど」

『・・・(真っ赤)』

「どうしたの?」

だが、ここで横槍が入る。

『ラブラブやっているところ申し訳ないんですが』

『だ、誰がラブラブよ!!』

「香織ちゃんどうかしたの?」

『はい。どうやら木連軍がイギリス本土攻略を開始した模様です』

「そうか。祐一は?」

『敵の第一陣の撃滅を要請しています』

「・・・今から艦橋にいくから」

『わかりました』



     時を紡ぐ者達第23話



 西欧から発進した木連のイギリス攻略部隊の第一陣が、沿岸の基地へ殺到していた。

海軍の艦隊はすぐにスクランブルをかけ出動、それに加え空軍の機動艦隊も現場に急行する。

だがこの時、イギリス本土で生き残っている基地は数えるほどしかなく急行できる戦力にも限りがあった。

これに対して木連は第一陣としてバッタ4000、戦艦100隻と言った大兵力を投入する。

しかも仁美としては、無人兵器の半分をすり潰しても構わないと考えていた。

なぜなら彼等無人兵器の役目とは敵を疲れさせることであり決戦時において主力部隊が有利に戦う下地を作るものであるからだ。

しかし、連合軍にはこの先遣隊すら打ち負かす力は無かった。

「護衛艦『ケント』爆沈!!。戦闘機の消耗率30%を超えました」

「くそ!!」

連合海軍第9艦隊旗艦の戦艦『フッド』のCICで、相次ぐ凶報に第9艦隊司令長官パウンド中将が悪態をつく。

「戦闘機をありったけ出せ!!。もしパイロットが居なかったらコックでも放り込んでだすんだ」

「はい!!」

「第2次防衛線突破されました!!。戦闘機隊の被害甚大」

「空軍機動部隊の到着まで7分」

「!!。敵小型戦艦から多数の対艦ミサイル発射を確認」

レーダーには多数のミサイルが映し出されていた。

「数、本艦のレーダーでは捕らえきれません」

「迎撃しろ!!」

パウンドは大声をあげて指示する。

『ロンドン』をはじめとするイージス巡航艦のVLS(ミサイル垂直発射システム)から次々に閃光と共に艦対空ミサイルが

放たれる。彼らの大半は己の任務を果たし、多数のミサイルを撃墜した。だが数発のミサイルが防衛ラインを突破する。

「左舷よりミサイル接近中!!」

「左舷速射砲群、射撃自由、撃て!!」

砲術長の命令の直後、速射砲が、それに暫くしてCIWが次々に火を吹く。

だがゴールキーパーと呼ばれるCIWが火を吹くという事態が、ミサイルが着弾寸前まで来ているといことを示していた。

数十秒後、艦内に衝撃がはしる。

「ダメージレポート!!」

「第2主砲塔大破!!」

「応急処置急げ!!」

あまりの戦力差に多くの兵士は士気を失いかけるが、これにパウンドが叱咤激励する。

「いいか、これ以上木星蜥蜴の侵攻を許すわけにはいかない。何としても水際で阻止するんだ」

彼としては祖国イギリスを壊滅してしまった西欧諸国のようにはしたくなかった。

彼の気持ちも分からないまでも無い。

隕石落しを喰らった西欧諸国は文字通り壊滅してしまい、もはや国家としての体を成していないのだ。

そのうえ、木連軍の降下作戦をうけ都市と言う都市は完全に破壊され、難民が発生していた。

 パウンドの激励の有無に関わらず、一部の兵士達は必死に戦っていた。

生き残る為。家族を、祖国を守る為。そして仇をうつ為。彼らは戦う。

「付いて来てるか、お前ら!!」

『隊長、レッド3が撃墜されました。それにイエロー2が離脱』

「くそ、このままじゃジリ貧だぞ」

こうしている間にも、バッタの攻撃によって戦闘機が打ち落とされて行く。

パラシュートが開くものも多いが打ち落とされた戦闘機のパイロットの多くは愛機の炎により生きたまま火葬にされ死んでいく。

『隊長、こちらレッド2、ミサイル残弾0』

「後退はできない、我々が後退すれば防空網に穴が開く」

『しかし』

部下たちが反論するのも無理なかった。すでに4000ものバッタに押され、戦闘機部隊はその半数が消滅していた。

そのうえ、弾薬の消耗も激しい。

すでに防衛ラインを死守できるかどうかの瀬戸際。だが、この時思わぬ通信が入る。

『こちら、旗艦『フッド』、全機後退せよ』

「何故です?」

『空軍の援軍が到着した』

「本当ですか!」

『真実だ。すみやかに帰還しろ』

「了解。全機帰還する」



 だが、この時連合海軍第9艦隊所属の戦闘機はすでにその60%を失っていた。

「戦闘機の消耗が60%か」

「すでに全滅に近いですね」

フッドのCICでは幕僚達が深刻な表情で話し合っていた。

「増援は?」

一縷の望みをかけた問いがされる。しかし、

「海軍航空隊はすでにここにあるのが全てです。空軍ももう増援は出せないそうです」

「補充はないか」

「はい。それに仮に機体が生産できても、パイロットが居ません」

「・・・・・・」

いやな沈黙が漂う。だが暫くすると、

「くそ、宇宙軍さえしっかりしていればこんなことにはならなかったのに」

「全くだ。あれだけ威張り散らしていたくせに」

何時しか宇宙軍への批判が高まってきた。だが彼らの気持ちもわからないまでもない。

宇宙軍の戦争前期における傍若無人ぶりに陸海空軍はかなり腹を立ていた。

そのうえ宇宙軍は陸海空軍(以後地上軍)を二流と見なし、盾代わりに使ったこともあったのだ。

これで反感を持たない方がどうかしているだろう。

「・・・宇宙軍からは増援は?」

「連中は太平洋で再編中だそうです」

「いい気なもんだ。バカンスでもしてるのかね」

パウンドは嫌味を言う。

「そうかもしれませんね」

だがここで通信担当から報告が入る。

「司令、連合軍総司令部からなのですが」

「何だ、督戦か?」

「いえ、こちらに増援を送ったそうです」

「増援?。我が軍にそんな余力はないと思うが」

「例のアルビオンの」

「ユーチャリスUか。だがたかが1隻で何になると」

「いえ、どうやら40隻程度の艦隊だそうです」

「40隻!?」

一同は唖然とした。

「何故民間企業がそんな艦隊を?」

「分かりません。恐らくは何らかの裏取引があったようですが」

「全く、そんな艦艇があったのならこちらに廻してくれれば良いものを」

「まぁその民間艦隊なのですが一応、連合軍総司令官九条大将直属だそうで」

「何!?、総司令部は何を考えているんだ!!」

彼ら軍幹部はプロとしてのプライドがある。そんな彼らに民間艦隊を好き勝手させろと言うのだ。

反発するのも無理はない。

「この艦隊は第13独立艦隊として活動するとのことです。それと艦隊提督は宇宙軍の相沢准将だそうです」

「何!!」

宇宙軍という言葉を聞いた途端、パウンドは憤怒の表情を露わにした。

「司令、落ちついてください」

参謀がなだめる。

「くっ、そうだな。で、到着は?」

「あと二時間あれば」

「二時間か・・・」

しかし、事態はさらに逼迫する。

「司令官、敵が大攻勢を掛けてきました!!」

木連軍は全戦線で攻勢を掛けてきた。先まで海軍と戦っていた部隊に加え、第二派が押し寄せたのだ。

これでバッタ6000、戦艦240と言う大戦力になる。

この中には大型戦艦クラスが多数含まれており、大口径のグラビティーブラストが次々に撃ち込まれる。

無論、中口径以下のグラビティーブラストも撃ちこまれ、連合軍は一気に後退を余儀なくされた。

前線で踏ん張っていた空軍の第2機動艦隊は集中砲火をあびあっという間に駆逐されていく。

「3番艦『ゼフィランサス』沈没、5番艦『デンドロビウム』大破航行不能!!」

「くそ、海軍は?」

「再編成中だそうです」

「はやくしろと伝えろ!!」

空軍機動艦隊司令官はそう怒鳴った。だが、

「バッタ、ミサイル多数発射!!」

「近接防禦システムは!?」

「駄目です、防げません!!」

この直後、彼らの視界は閃光に包まれ、意識は消滅した。
木連の大攻勢開始後わずか10分足らずで空軍機動艦隊旗艦戦艦『サイサリス』は数十発のミサイルを浴び轟沈した。

「空軍艦隊旗艦撃沈!!」

「くそ!!」

だが状況は一層悪化する。

「重力波多数来ます!!」

黒き矢は無慈悲にも海軍艦隊に襲いかかる。

「戦艦『リベンジ』、『ハウ』大破。空母『ビクトリアス』、『ハーミス』撃沈!!」

「空母『イラストリアス』、『アークロイヤル』戦闘不能。戦艦『レナウン』戦線離脱!!」

「くそ!!」

この損害で海軍艦隊は戦力の過半数を失った。だがそんな状況に陥った連合軍に無人兵器が手加減をするわけがなかった。

だがここで予想だにしなかった事態が起こる。

「左舷から重力波来ます!!」

海軍艦隊の旗艦『フッド』にこの報告があった直後、木連艦隊の30%が消滅する。

「なんだ!?」

「ユ、ユーチャリスU級戦艦を含む艦隊です!!」





「間に合いましたわね」

「なんとかな」

ユーチャリスUの艦橋では麗香とカイトが安堵のため息をついていた。

彼らは西欧における状況を考えて、早期に到達できるように途中から全速でむかったのだ。

「よし、俺も出る。麗香ちゃん、指揮を頼む」

「任せなさい」

艦隊からBSUを始め次々に機動兵器が発進した。無論、木連艦隊も迎撃準備を整え応戦する。

「数だけは揃ってるな」

カイトはコクピットで呟く。

『まぁ数だけですよ』

『所詮は虫型だ。物の数じゃない』

「まぁ確かに」

『全員聞こえる?』

「麗香ちゃんか、聞こえるよ」

『まぁ相手が雑魚だから大して言う事はないけど、敵艦隊の中型戦艦以下はこちらで潰すわ』

「相転移砲を?」

『グラビティーブラストぐらいで十分よ』

「そうか、ではこちらは」

『バッタはサレナ部隊で叩くから、そのすきに大型戦艦を』

「了解」

無人兵器達は新たに現れた艦隊を攻撃目標とした。空を埋め尽くすばかりの大艦隊。

連合軍の誰もがアルビオンの艦隊の敗北を予想した。だが、その予想はあっけなく覆される。

サレナ部隊のカノン砲は精密な射撃でバッタを次々に叩き落す。

漆黒の機体が攻撃を放つたびにバッタは成す術もなく撃ちおとされる。

この猛攻にバッタ達も反撃するが、彼らのはなつミサイルは掠る事さえできない。

バッタの苦戦をうけ、無人艦隊は防御陣形にシフトするのと同時に待機中の部隊へ増援を要請する。

「防御陣形に変えたわね、でも甘いわ」

ユーチャリスUを含めた戦艦が次々にグラビティーブラストを放つ。

この重力波により艦隊の前衛部隊である中型以下の艦艇は次々に粉砕され、破片を撒き散らしながら落下していった。

無論、無人艦隊も反撃を試みるが、グラビティーブラストが連射して撃ちこまれた。

これを受け無人艦隊は撃ち返すどころか陣形を再編成することすらできない状態に追い込まれ、

さらに追い討ちを掛けるようにグラビティーブラストの第二波を受け、

陣形に穴があいた無人艦隊はあっさりと、カイト、蘭、香織の陣形内への侵入を許す事となった。

「鴨射ちだな」

「全くだ。手応えがない」

DFSを使い次々に大型戦艦を沈めていく二人。大型戦艦は必死の対空砲火を浴びせるがまったくダメージを与える事が出来ない。

一刀両断され爆沈する戦艦の光が空を照らす。恐らく歴史上最も高価な花火の部類に入るだろう。

「まぁ楽な事に越したことはありませんよ」

そう言いつつ、香織は無人戦艦が対空砲を撃つ瞬間に部分的に解除した瞬間にそこの部分をピンポイント射撃し、

最小限の火力で撃沈していた。この攻撃を受けた戦艦は次々に誘爆を起し沈んでいき、

仮に沈まなかったとしても戦闘不能に陥いるのであった。

「そのわりにはかなり凝った沈め方だな」

ある意味曲芸射ちをしている香織の台詞に蘭が皮肉を返したが、

「そうですか?。私は別に凝っているとは思えませんが」

「嫌味か?」

「さぁどうでしょう」

と反論された。女に口喧嘩して勝てる男は居ないというが全くもってその通りかもしれない。

だがそんな口論をよそに彼らは戦艦を紙細工のように沈めていく。

祐一は過去に彼らの戦闘能力の高さをまじかで見た事があるため驚かなかったが、

はじめて見た連合軍将兵は驚きを隠せなかったと同時に、生き残れる希望を見出した事に歓喜した。

だが、下とは裏腹に首脳部は喜んでばかり居られなかった。彼らにだってそれなりのプライドがあるのだ。

突如あらわれた民間艦隊が連合軍では全く歯が立たなかった相手を、軽々と殲滅している現状はまさに屈辱、恥辱の極地だった。

本来守るべき民間人に守られていると言う事実は、まともな軍人であればあるぼど無力感すら感じさせるものだった。

 たがそんなことを知る由も無くカイト達は戦闘を続け、戦闘開始後僅か10分足らずで無人艦隊の90%は消滅してしまった。

無論この事態は木連も察知しているので、司令部の幕僚の中には攻撃の継続を唱えるものもいたが、

欧州方面軍司令官は一時作戦中止を決定した。

「戦力の逐次投入は避けたい」

それが理由だった。第二陣までの艦隊、いくら無人艦とは言え成す術も無く殲滅されたのだ。

これでは第三、第四陣を投入しても同じ結果になるだけであるというのが司令官の見解だった。

「しかし、無人兵器で疲れさせれば」

「そのために無人兵器を全て磨り潰すつもりか?」

「ですが総司令部も半数なら失っても構わないと言っています」

「このままだと半数どころか八割は失いかねない。それに我々はイギリス侵攻作戦だけに関わっている訳にはいかないのだ。

 東欧軍の残存やロシア、中央アジアの部隊への対応もある。無人兵器とは言え無駄には出来ない。

 我々には兵が居ないのだから」

「・・・それでは如何するお積もりで?」

「一旦無人艦隊は再編成。増援を待ってから攻勢に出る。無人艦隊を再建する間我々は優人部隊と紅月で敵の補給路を断つ」

「消極的なのでは?」 

「無論、敵を弱らせる策はある。補給参謀あれは届いたか?」

「はい」

「司令、何をなさるおつもりですか?」

「なぁに、ちょっとしたプレゼントだ。そうちょっとしたな」

司令官の笑みに思わず引いてしまう幕僚達。

このプレゼントはいずれイギリス中を恐怖のどん底に叩き落す事となるのだった。



 そのころ壊滅状態の無人艦隊は決死に脱出を図るもののメタトロンやブラックサレナ改と言った高性能機動兵器の追撃を受け

無人艦隊の残存艦は成す術も無く撃破されていった。

そして、敗走する木連艦隊を麗香率いる主力艦隊と分派艦隊が包囲殲滅し、戦闘は終了した。

「作戦終了。お疲れ様」

「大した疲れは無いよ、麗香ちゃん。さて、次は」

カイトたちは周辺基地へ攻撃を行っている木連部隊の排除を行おうとしたが、

木連軍はカイト達の出現を知ると即座に戦闘を中止し撤退していた。

「足が速いな」

カイトは戦況を映したウインドウを見て呟いた。

「連中はあの程度の戦力でこちらに攻勢を掛けるのは無謀と判断したんでしょう。まぁ、賢明な判断だと私は思うけど」 

「・・・全体の戦局は?」

「西欧の8割は敵の勢力下。おまけにマスドライバーによる爆撃でロシアのほうも大分叩かれていて東欧からの援軍は望めない。

 いえ、それどころか補給もあるか怪しいわね。主だった補給基地は壊滅状態だし、北米方面軍やロシア方面軍は建て直しで手一杯。

 大西洋の制海権も半ば損失してるから、輸送船の安全確保も難しいわ」

「戦局は最悪だな」

「下手したら餓死者すらでるわ」

救いがたい戦局に思わずため息が出る二人。

ここでカイトは祐一に聞こえないように小声で麗香に話しかけた。

「・・・彼女はまだやる気なのか?」

「仁美のこと?。・・・そうでしょうね、ここまでやっても何も言ってこないって事は」

「このままだと連合軍どころか、地球そのものが壊滅してしまうような気がするよ」

「・・・・・・」

重い沈黙が二人にただよう。だが、そこに蘭が通信で入ってきた。

『おい、連合軍の責任者に挨拶しなくて良いのか?』

「おっとそうだったな。水原さん、通信回せる?」

祐一は思い出したかのように言い、麗香に尋ねた。

「ちょっと待って。すぐ繋がるから」

その数十秒後、連合海軍旗艦『フッド』との通信が繋がった。

「こちら連合宇宙軍第13独立艦隊提督、相沢祐一准将です」

『・・・連合海軍第9艦隊司令パウンドだ。そちらの援護、感謝する』

「いえ、当然の義務です」

『ふん。宇宙軍の他の艦隊は?』

「再建中です」

『貴官も大変だな。そんな民間艦隊のお守りとは』

「命令ですから」

『・・・せいぜい死なないように頑張る事だ』

そのあと、2,3のやり取りがなされた後通信が切られる。

「まったく面倒な仕事になりそうだ」

祐一は苦笑いして言った。

「・・・やれやれ」



『第13独立艦隊、木星蜥蜴を撃滅』

この報はイギリス中に報じられた。このところ暗いニュースばかりだった市民は狂喜乱舞した。

だが、その喜びはそう長くは続かない。木星蜥蜴が通商破壊に力を入れはじめ、今まで以上に貧窮に見まわれたからだ。

ちなみにカイト達はユーチャリスUで生活していたためにさしたる影響は受けなかったが。

「かなりの市民が不自由を強いられているな」

「そうだな」

都市を見て回っていたカイトと蘭は惨状を見て言った。街は大きく破壊されており、住む人も疎らだった。

警察組織も半ば麻痺しており、犯罪が多発していると言うお先真っ暗な状態だった。

だがカイトと蘭は名も知らない人々に心から同情してやるような人物ではない。

特にカイトとしては出来るだけ多くの人間が生き残っていた方が何かと都合がいいとしか思っていないのだ。

「まぁ餓死者がでるようなことは避けなければならないな」

 そのころ参謀役である麗香は今後の方針を練る為にも情報の収集にあたっていたが、

あつめた情報はどれも救い難い内容ばかりで脱力させられるものばかりだった。麗香はため息を着きながら、

「・・・産業が壊滅状態ね」

島国であるイギリスにとって通商路の破壊は致命的だった。

おまけに隕石落しとマスドライバー、カタパルト艦の爆撃で国内の主要基地、主要都市は大打撃。

はっきり言って救いようの無い状態だ。

「ヨーロッパ各国政府は一刻も早い本格的反攻作戦を願っているけど、これじゃあね」

と言って頭を抱えるのであった。


 ちなみに祐一はと言うと、欧州方面軍臨時司令部のあるロンドンで軍のお偉方との交渉に当っていた。

「補給が出来ない?」

「そうだ。補給線が分断されてこちらも組織の維持で手一杯なのだ」

「・・・つまり自給自足しろ、そうおっしゃる訳で?」

「端的に言えばそうだ」

祐一は敬礼をし、さっさと欧州方面軍司令官室を後にした。

「何が補給が出来ないだ。闇市に横流しする物資はあっても補給できる物資はないだと、くそ」

祐一は連合軍の腐敗振りに嘆息した。

「まぁ水原さんは、数ヶ月は補給なしでも戦闘継続が可能と言っているから良いけど」

ぶつぶつ言いながら彼は司令部を後にする。

車に乗って、第13独立艦隊が停泊している港を目指す。

だが、運転しながら目に入る光景はどれも憂鬱なものばかりであった。

この貧窮でもっとも被害に遭っているのは社会的弱者達であり、とくに孤児達は非常に厳しい生活を余儀なくされている。

このまま物資不足のまま冬に入ればとんでもないことになるだろう。

「なんとか通商路の確保する手はない物かな?」

普段使わないような知識までもを総動員して祐一は新たな作戦を模索し始めるのであった。



各人なにか手を打たなければと言うことは理解していた。

カイトと蘭、それに祐一が帰ってくると、即座に会議が開かれた。

「食料は補給艦や無人艦艇に積んできたからかなりの期間活動できるわ。

 資材もそれなりに詰めこんできているから、3ヶ月はもつだろうから戦力の維持も当面は問題無いけど」

「つまり連中が消耗戦にでたら危ないと?」

この祐一の台詞に麗香は肯く。

「ええ、連中がそれこそ無人兵器の大半、欧州で確認された戦力の80%でもぶつけてきたらまずいわね」

「・・・しかし、それは可能性は低いでしょう。彼らもイギリス本土攻略作戦だけに関わっていられる訳にはいきませんから」

「香織の言うことも確かよ。でも可能性が0ではない以上楽観は禁物。

 それに連中が何か別の手段で攻撃してくるかもしれない。でも一番まずいのは」

「不味いのは?」

「一般市民の現状よ。資材さえ輸送できないのだからライフラインの再建すらままならないわ」

「資材の備蓄は?」 

「あの隕石落しと戦略爆撃で大半が吹き飛ばされてる。そのうえ、交通機関も大打撃を受けて運べないのよ」

「・・・軍は?」

「残った資材を横流ししてる」

「相変らずの腐敗ぶりか」

会議室は一気に暗くなる。

「それに地上軍と宇宙軍は仲が悪い。イギリスに展開している部隊の大半は地上軍だから共同作戦も難しい」

祐一の台詞を聞いたカイトは決断した。

「大規模な輸送船団を結成して送りこもう。工廠で建造を終了した艦艇を護衛に廻せばなんとかなる。

 麗香ちゃん、1ヶ月以内に投入できる数は?」

「大体30隻。輸送艦をあわせれば40隻前後になるわ」

「連合軍に供与する艦艇は?」

「100隻前後が完成して、引き渡されているわ。このままいけば反攻作戦の開始は遠くない」

「100隻か。祐一、連合軍はこれらの艦艇を即座に戦線に投入するつもりなのか?」

「いや、おそらくある程度の艦艇を揃えた後に反攻に移るだろう。

 艦艇だけでなく、機動兵器の更新も進めなくちゃならんからもう少し後になると思うが」

連合軍では従来の機動兵器どころか、ある程度の活躍が見こまれたエステバリスが夜天光シリーズに良い様に叩きのめされるのを

見て、機動兵器の大幅な更新を決意していた。艦艇はアルビオンからかなりの数をかなりの安値で提供される為、

艦艇の建造予算を大幅に縮小。縮小分を機動兵器の予算に当てていた。

 次期主力機動兵器として挙げられていたのはアルビオンから供与されたブラックサレナ改だが、

パイロットの問題と予算の問題から量産化は断念され、それによりアルビオンの量産型サレナに目をつけた。

まぁ、実際にはアルビオンも量産型サレナを推すつもりだったので交渉は良いように進んでいる。

おそらく1ヶ月もしない内に連合軍に供給される事になるだろう。

 ちなみに供与されたブラックサレナ改は2,3機かは研究用とされたが、のこりは連合軍のエースパイロットの専用機に改造された。

それを行ったのは連合軍技術将校の月村忍。水瀬秋子以来の才媛であり、月村財閥の跡取でもある。

蛇足だが、彼女は戦艦トライガーのパイロット、高町恭也の自称内縁の妻であると言うのはかなり有名な話だ。

ちなみに彼には他に、歌姫だの、従妹の眼鏡っこだのと自称恋人が多くいることで有名である。

「そこまではこちらで戦線を維持しなければならないか」

「すまない」

「謝る事は無いさ・・・」

そのあと、彼は言おうとした台詞を飲みこむ。

(この事態を引き起こした原因は俺にもあるからな)

その直後、麗香が驚くべき発言をした。

「私としては攻勢に出る事を提案するわ」

「攻勢?。現状維持が精一杯じゃ」

「今引き篭っていても、戦力差は開く一方よ。それにわざわざ敵が来るのを座して待ってやる義理はないわ」

この過激な発言に祐一が反論する。

「この艦隊がいなくなれば連中は英本土を目指すと思うんだが」

「否定は出来ないけど、持久戦になるよりかはましよ」

「う〜ん。増援を待って攻勢に出るのは?」

「連中がその間戦力の増強をしないと思う?。それに精鋭部隊がやってきたら」

「・・・今回の攻勢の狙いは敵の分断か」

「楽に戦争をするために重要なことの一つは各個撃破よ。貴方達はどう思う」

「賛成する」

「私もです」

蘭と香織が賛成した。これを受け会議は一気に攻勢にでるための作戦会議に変わった。

そして数時間の議論を経て、彼らは第1次ヨーロッパ反攻作戦の発動を決意する事となった。

押され続けてきた欧州戦線で地球側による初の反攻作戦が始まろうとしていた。







 後書き

 earthです。時を紡ぐ者達第23話をお送りしました。

・・・何気にカイト外道になってるよ、どうしよう(笑)。

何と言ってもナデシコクルーを知らぬ他人扱い、おそらくユリカのことももはや眼中にないでしょう(笑)。

でも今、一番の問題はそのナデシコが活躍しうるかどうかというところですね。

ガイを活躍させるか否かも問題だな〜。やっぱサイボーグとして出すかな?。

それでは駄文にも関わらず最後まで読んでいただきありがとうございました。

次回、第24話でお会いしましょう。












代理人の個人的な感想

平然と女を口説いているあたり、別に冷血酷薄の男になったと言うわけでもないようですが・・・

どういう変化がアキトの身に起きてるのかいまいちわからないかな、と。

まぁ、この作品に置いては割とどうでもいい部分かもしれませんが(爆)。

 

 

 

サイボーグガイは是非是非(笑)。