「アトラスよ。魔女討伐に対する準備、滞りなく進んでいるだろうな?」
「無論です。計画に5%の遅れも有りません」
アトラスの執務室ではウインドウを使った会議が開かれていた。
「EOPの進み具合は?」
「《鍵》を奪取されたために遅れ気味です。ですが他のものは順調です。
すでに例の相転移炉は完成しており、只今稼動実験に入っています」
「資料は届いている。だが、ビックバンに匹敵するエネルギーを上手く操作できるのかね?。
下手をすればあの失敗の二の舞だ」
「それには抜かり有りません。稼動実験は順調です。すでに予定された出力の60%まで出せるようになりました」
「なるほど・・・」
「反統和機構組織は?」
「彼らに対する処置も順調です。すでに初期の敵勢力の半数は殲滅しました」
「よかろう・・・アトラス御苦労だったな」
ウインドウから老人からのものと思われる言葉が発せられると、会議は終わった。
だが、老人達の会議は終わっていなかった。
「総監、魔女の討伐に関してはかなり準備が遅れている模様です」
「そうです、その上各方面軍や艦隊に不穏な動きがあります」
「そのうえ奴はこちらが取りこもうとした反統和機構組織をかなり叩いています」
「奴め、我等に対して牙をむくつもりか・・・」
老人達は今まで大したことは無いだろうと見ていた動きが、自分達に対する明かな敵対行為にかわるであろうことを
今になって察知した。
「ゆゆしき事態だな」
「本来、各世界において我々の権益を守るべく設立した『統和機構』」
「いまや我々の手足となって動くべく設立された組織が一個人の専有機関と成り果てている」
「そしてEOPの要たるシステムの《鍵》は魔女の手にある」
「《契約》の時も近い。すべてを我等の手に戻すべく動くべきであろう」
広い暗室の中、12人の老人が若い女性を円卓の中に置くような形をとり会議を行っていた。
「錫よ・・・お前の役目わかっているな?」
「わかっています。魔女を討伐する為にネルガルと言う者たちを使う手立ては整えつつあります」
「だが、奴らだけでは足るまい」
「はい・・・その為に連合軍を使うつもりです」
「連合軍?あの三流どもに何ができる?。
聞いたところに寄れば、魔女相手に散々な目に遭っていると言うではないか」
「左様。それに加え我が軍に煮え湯を飲ませ続けた死神が到着したとの報告もある」
「我々の精鋭部隊、それに加え各世界の精鋭を翻弄したつわものだ。
そう簡単にはいくまい」
「・・・はい。ですがこの世界には中々の強者が揃っています。
奴らを上手く使えば死神、そして魔女の討伐も不可能ではありません」
「ほぉ中々の自信だな」
「ですが現状のままでは難しいと思われます」
「・・・支援を増やせと?」
「はい」
「こちらの親衛隊の一部をまわそう」
「・・・こちらとしては親衛隊第二師団を」
「貴様、何を言っているのかわかっているのか!?」
いきり立つ老人達。だが、議長を務める白人の老人はそれをいさめる。
「・・・なぜ第二師団なのだ?」
「法院親衛隊最強とも言える第二師団があれば、魔女の殲滅も比較的容易になるからです」
「絶対必要ではないのだな?」
「勿論、あの魔女と機構から離反した部隊と戦える自信があるならどの部隊でも」
痛烈な皮肉だった。木連には魔女直属の部隊だけでなく、機構から離反した部隊はかなりの熟練部隊も多く存在した。
魔女の指揮と彼らの力が合されば、数倍の兵力を持ってしてもこれを打ち破るのは非常に難しい。
それに彼らの軍も多くの将軍クラスの人間を暗殺され、指揮系統に大きな打撃を受けていた。
この建て直しにはかなりの時間をかけなければならないが、今この時点ではその時間をかける余裕はない。
ただでさえ、機構が反乱の動きを見せているのだ。魔女は速やかに潰さなければならない。
「よかろう」
「総監!?、一体何を!!」
だが、議長役の老人はそれを無視する。
満足な回答が得られた錫は別の議題に移行させる。
「ところで例の上申書、裁可の程は?」
「・・・本当に必要なのかね、あれは?」
逆に問う老人。よく見るとこめかみがひくついている。
「勿論です。エースの専用機となればそれなりに手を加えなければ」
「だが、これだけの性能を与えて使いこなせる人間がいるのかね?。
この機体は戦闘能力の向上だけに重きを置いた余り、パイロットに対する配慮を欠いていると思うが」
「パイロットなら作れば良いのです。
それに何人この世界のパイロットが死のうとも我々の懐は痛みません」
「ほぉ」
「準備はほば完了しています。あとは認可さえあれば」
「・・・しかし、この改造案は少し実現が難しいのでは?」
「左様。それになんだね、この面妖極り無いオプションパーツは?」
「浪漫ですよ。特にドリルはあらゆる世界における」
「そんな薀蓄を聞くつもりは無い!!。
ドリルが浪漫か否かを議論する為に我々は会議を開いているのではないんだ!!」
「それになんだね、ドリルにオリハルコンを使うなどと」
「あれは《エリクサー》に劣らず貴重なものだぞ?。そう簡単に回せると思うのか!!」
「・・・仕方ありません。ドリルは取り下げましょう」
しぶしぶと言った様子で言う錫、だが心中ではまったく諦めておらず
(仕方ありませんね、架空の計画書なり被害報告書なりを持ち上げて予算を分捕りましょうか)
等と別の方法で予算を分捕ろうと企んでいた。
「まぁゲシュペンストの改造は認可しよう」
「ありがとうございます」
「他に議題は?」
「ありません」
「それでは会議はここまでだ、ご苦労だったな」
鈍い音と共に11人の老人が消える。
「さて、最後に君はナデシコをどうするつもりだ?」
「彼らには相応の役割をやってもらうつもりです。
私としては敵を滅ぼすためだけの力を、いえ、そう彼らが思い込める位の力を与えるつもりです」
「・・・あの男、葵ジュンとやらは使えるのか?」
「あの坊やは使い物にはなりません。あの男は精々、復讐にとち狂った狂犬になるのが相応しいでしょう。
まぁ多少力を与えてやっても構いませんが」
「・・・彼の未来も決まったな。まぁ良い、彼らの操作は君に任せる」
「お任せ下さい。愚劣な連中も多少は我等に役に立てる様に仕向けるつもりです。
まぁ仮に彼らが役に立たなくても次の手を用意致しますのでご安心下さい」
この答えを聞いたあと、鈍い音と共に最後の老人も消えた。
「・・・さて、お仕事に行きますか」
部屋の灯りがつき始め、外界からの光を遮っていたシャッターが開かれるのを何気なく見ながら呟くと
彼女は部屋を出た。
だが、数分もしない内にある人物と出会う。にこやかに彼女はその人物に挨拶をした。
「お久しぶり、と言うべきでしょうか・・・Mr.K?」
「『お久しぶり』には値しない」
「相変らず、ですね」
「・・・何故だ?」
「主語がない・・・まぁ言いたいことはわかりますけど。私がこんなことをするのはあくまでも自分の意志によります」
「意志か・・・」
「私としては面白ければそれで良いんですが」
「君にとっては法院と機構が行う世界の今後の行方を決める戦いすら、楽しむものでしかないと?」
「そうですよ。それに仕事は楽しみながらするものです。まぁ楽しいから仕事をするのかもしれませんね」
「相変らず、君のそう言った性格変わっていないな」
「そうでしょうか?」
「そうだ。まぁ良い。君は君の道を行き給え」
そう言うとMr.Kと呼ばれた男は彼女の前をさった。だが、その際警告を放つ。
「好奇心猫を殺すと言う諺もある。あまり深く考えずに物事に頭を突っ込まない方が良いぞ」
「猫は猫でも、雌猫は優れたハンターです。そう簡単には狩られませんよ」
不敵にそう言うと彼女もその場を後にした。
時を紡ぐ者達 第28話
男は夢を見ている。
響き渡る悲鳴、轟く銃声、そして頬をあぶる炎。
何もかもリアルだった。
「大丈夫ですか?。しっかりして下さい」
銀髪の少女が必死に問いかける。
彼が辛うじて頷くと、その少女は肩を貸してくれる。
彼が己の不甲斐無さに涙を流すと、彼女は慌てた様に
「何処か痛いんですか!?」
と問いかけてくる。彼が辛うじて首を横に振ると、彼女は心配そうな顔をしながらも黙った。
しばし彼らは無言で喧騒に包まれた病院の廊下を歩く。
そして彼らがとある場所に差し掛かると、窓から反対側の棟の廊下で複数の男達が戦っているのがわかった。
「あれは恭也君!?」
「知り合いなのか・・・」
「はい、でもあの人達は」
銃を持った特殊部隊風の人間達、それに時代劇に出てきそうな笠を被った男達。
彼女は彼らを見た事が無いらしい。
「まさかあれがこの騒動の犯人?」
これには男も慌てて尋ねた。
「と、言う事は、不味いんじゃないか!?」
「はい・・・」
「応援を呼ばないと」
「いいえ、恭也君ならきっと大丈夫、いえ絶対大丈夫です」
その言葉と表情から、彼はこの少女があの黒尽くめの男、その恭也とか言う人物に対する
揺るぎ無い信頼と信用を感じ取った。
そして、その確信を裏付ける事態が発生する。
恭也と言う男が消えると、その数秒後、その廊下にいた人間の大半が倒れていた。
廊下に見える赤い水溜りは、その瞬間に起った惨劇を物語っていた。
そして、それは恭也の圧倒的な戦闘能力をも示していた。
「す、すげ〜・・・」
「でしょう?。だから大丈夫です」
彼はこの時、心の中でこの少女の信頼をここまで得られる恭也と言う男への嫉妬と
それが持つ力への渇望が生まれた。
怪我さえなければ怪我さえなければ、俺も戦場で活躍できるはずなのに、
力さえ、力さえあれば、こんな惨めな思いをしなくてもすむのに!!。
その思いが心を染めていく。
このとき、男は力を、自分が活躍できる圧倒的なまでの力を渇望する事となる。
「・・・またあの夢か」
ある病院の個人部屋のベットの上でである一人の男が目覚めた。
彼の名は山田次郎。かつてナデシコで重傷を負い、パイロットを諦めざるを得なかった男。
「くそ、くそ、くそ!!」
彼は自分の膝を殴りつける。
ゲキガンガーの様なヒーローになろうとしていた彼にとって今の状況は屈辱でしかない。
「何で、俺は俺は!!」
あのとき見た圧倒的な力。
(あれさえあれば、あれほどの力があれば俺も戦場で活躍できるのに!!)
その思いは日々増す一方だった。
彼にとってゲキガンガーになるのは生涯の目標だった。
そう、そのアニメに出てきた主人公の様に悪の宇宙人『木星蜥蜴』をぶちのめす。
それが今の望みでもあり、永遠に叶う事は無いだろう望みだった。
叶わない事の原因は、悪の宇宙人『木星蜥蜴』。
彼からパイロットとして人生を奪い、生涯の目標を奪い、そして自分を絶望に追い込んだ憎き存在。
いや彼の主観から言えば絶対悪。
そして自分はその悪を討ち滅ぼすものであらなければならない。
その思いはこのごろ彼の心を蝕んでいる。
「・・・くっ、散歩でもするか」
松葉杖をついて彼は病室を後にする。
北辰達による海鳴病院の襲撃事件はテロ事件として扱われていた。
だが、真実を知る上層部はことの顛末を知るべく徹底的に関係者を尋問していた。
そして尋問から解放された人間の多くは一旦、彼のいる軍の病院に収容されている。
「・・・ちっ」
山田はロビーにおいてある新聞を見て苦々しく呟いた。
そこにはアルビオンの艦隊による欧州戦線の好転が書かれている。
『第13艦隊、木星蜥蜴を痛撃!!』
似たような文章は他の新聞にも書かれていた。
アルビオンのような民間企業が独自の軍事力を持つ事への弊害やその危険性を書いた新聞はほとんど無い。
他にあるとすれば精々、根も葉もなさそうな中傷誹謗を書いた新聞記事。
大衆は英雄を好む。
しかもこのような暗い戦争の中だ。
このような活躍をされてはそれを誉める記事が増えて当然だった。
だが、彼は苦々しそうな表情をする。
「『副提督』殿は大活躍か」
彼が見ている新聞記事には、たった一機で戦艦を含む敵艦20隻、虫型兵器400機を殲滅するという、
常人では考えられないほどの戦果を挙げた蘭の姿がのっていた。
「けっ、最初からパイロットとしての資格があったんだったらあのときにさっさと用意しておけば良かったんだ」
吐き捨てる様に言う。
彼が蘭の存在を知ったのは、海鳴病院に入院していた時だ。
そのとき、プロスペクターから副提督のことを聞かされたのだ。
「あのとき、副提督が最初からパイロットとして乗り込んで下さっていたらこんなことには
ならなかったんですがね・・・」
そう溜息をつきながら喋るプロスペクター。
プロス自身にはわかっていた。それが自己中心的な考え方に過ぎない事を。
だが彼は違った。
彼は逆恨みとも言える感情を蘭に抱いた。
それは木星蜥蜴に対する憎しみには劣るが、かなりのレベルのものだった。
そして先日の海鳴での事件。
彼の心のは既に良心とか常識と言うものがほぼ消滅しつつあった。
そしてもう一人、心を闇に染めつつある人物がいる。
その名は葵ジュン。
彼はあの事件以降、人が変わった様に訓練に身を投じていた。
「うおおおおおおおお!!」
連日、軍の訓練施設で彼の声が聞こえてくる。
彼は毎日、過酷とも言える、いや過酷としか言いようの無い訓練を行い、自分の体を虐め抜いていた。
そのため、幾度と無く周りの人間がいさしめた。
だが、彼はそんな身の回りの制止の声も、忠告も聞かず、ただユリカを殺した蜥蜴に復讐する、
ただそれだけのために訓練を続ける。
それを危ぶむ声もあるが、すでに彼の友人の多くはすでに諦めていた。
もはや自分達の声は届かない。
そうして、周りから差し出された手をすべて振り解き、いや見向きもしないで
彼は進み続ける。復讐鬼への道を。
「まだだ、まだ足りない、この程度じゃ」
訓練場でジュンは歯を食いしばった。
「くそ、俺にあれほどの力があれば・・・」
ジュンは嘗てコウイチロウの司令部で見たカイト達や恭也の戦闘能力を思いだし
さらに力を渇望する。
その様子をやや不満げに見ている人物を彼はまだ知らない。
(・・・まだまだですね、これじゃ黒い王子の戦闘力の30%にも過ぎません。
どうしましょうか・・・さっさと『あれ』を植付けましょうか)
その存在は何故か髑髏マークがついたビンを懐から持ち出す。
(どうしましょう)
それは一旦、ジュンの監視をやめランダムに別の場所を目指した。
(ブラックジュン・・・でも大して役に立つとは思えませんし。
まぁこれに限りはありませんが、植付けても大して役に立たなかったら大損です。
それに物事にはコストパフォーマンスと言うものがありますからね〜)
それはぶつぶつ良いながら別の力を得るべき適格者を探した。
(まぁ審査対象がナデシコクルーだけじゃなくても良いんでしょうけど・・・
やっぱり個人的には私から言えばどこをどう判断したら一流なのかわからない
恐らく一般の生活では大して評価されないナデシコクルーの方が良いですね。
本当に優秀なのは捨て駒には出来ませんし・・・)
口の中でそう呟きながら、それは別の場所にたどりつく。
すると、
(ほぉ〜〜〜〜見事なまでに心を闇に染めていますね)
山田が悪鬼のごとき顔をしている場面にたどりついた。
そのとき、その存在には、山田の心の内が手に取る様にわかった。
(そうだ、こいつに力を与えてみましょうか・・・。
どうせこの男、史実じゃあのキノコに殺されるという何ともお間抜けな殺されかたをした男ですし、
ジュンよりかは戦闘能力もありそうです。
まぁこいつを体の中に取り入れて正気を保ち続けられた人間はそうはいませんが・・・こいつなら
死んでも問題ないでしょうし、こいつの生命力と言うか、回復力はだてじゃないと聞きますし。
さぁてどうやってこいつを植付けましょうか・・・)
などと考えていた時、ふとあることを思い出す。そして、
(まぁ今回はこれくらいで良いでしょう。今すぐ力を与えてやる必要性はありませんしね)
それは品定めを止めた。
錫による活動が行われているころ、麗香は執務室で再び事務作業に取り掛かっていた。
第13独立艦隊は現地の連合軍から満足な補給を受けれないために自前で物資を確保する必要があった。
そのため、日本の本社やアジア地区に設置してある物資集積場から物資を運搬しなければならない。
無論、戦時下である現在、輸送船を守る為に護衛艦隊もつけなければならない。
唯でさえ、近頃は木連による通商破壊が激化しているのだ。その上、輸送の成功率を見てか
最近は物資の運搬の仕事が舞い込んでくる。
商売人としては小躍りするほどだが、こちらが運べるものにも限度がある。
おまけに最近色々文句を言ってくる連合議会に対する調整もあったし、
アルビオンに対して援助を申しこんでくる政治家達への対応もこなさなければならない。
労働基準法、何それ?と言う生活が続いている彼女のストレスはマキシマムに近づいていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・もーー!!、何でこんなに仕事が多いのよ!!」
ついに切れたのか、大声を挙げる麗香。
ただでさえ、戦闘時には艦隊の指揮をとることも多々あり、そのつどに別の仕事が溜まっていくのだ。
はっきりいって終わりがない。
「誰か手伝ってくれたって・・・無理か」
諦めの溜息をつく。
「HFRもあるけどここまで戦線が大きくなると定数じゃ全然足りないわよ・・・」
しばし手を休め、不満を言う。
「はぁ〜〜〜〜」
そんな不満爆発中の彼女がふと目にした先には、何かの明細書があった。
「ん?・・・何これ、と言うか使途不明金がこんなに」
彼女はその書類に書かれている使途不明金の額に愕然とする。
そこには、彼らが当初プールしてあった資金の実に10%ちかくが消費されていた事が示されていた。
おまけに気になってよく調べてみると、資材もかなりの量がどこかに消えている。
その上、使った人間、使用目的に関しては機密事項に指定されていた。しかも指定レベルは最高クラス。
「・・・一体、何が起きてるの?」
最近の連合軍からの兵器の発注の増加のおかげでアルビオンは大盛況だが
この額は決して見逃せない。
(これだけの資金と資材を使えば、ネルガル位なら簡単に買収できるし
ナデシコ級戦艦なら一ダースは揃える事が出来る。・・・あとで真澄に聞いてみましょうか)
新たに頭痛の種が出来たと言わんばかりに頭を振る麗香。
「そう言えば、カイト君が気晴らしにパーティーとかお祭りをしようって言っていたわね。
・・・私も多少は気分転換したいし、やってみるかな」
『人、それを現実逃避という』
等とどこぞの正義の味方が言ってきそうなことを呟く麗香。
・・・だが、人は時には現実から逃げたくなる時もあるのだ、という意見もある。
「さてとそうと決まったらさっそく準備に取りかかりますか」
そうして彼女は事務仕事をほっぽりだしてパーティーの準備に取りかかった。
ユーチャリスの会議室。
「・・・なるほど、でも何処でやる気なんだ?」
会議室で蘭はカイトと麗香が提案したパーティーについて疑問を呈した。
彼らが欧州において根拠地にしている北部の町にはそんなに大きな会場はないし
何より警備の問題もある。
「別にそんなに大きなものをするわけじゃない」
「だが、それなりの芸人を呼ぶのだろう?。ならそれなりの大きさがいるはずだ」
「う〜〜〜ん」
カイトは黙りこむ。
「・・・そうだ。だったら、うちの艦隊の中でやれば良いじゃない」
「機密保持はどうする?」
「大丈夫」
「・・・なら良いが」
「私としては戦闘母艦『フヨウ』を使えば良いと思うわ」
「母艦を?」
「格納庫も広いし、パーティー会場にはもってこいよ」
「・・・そうだな」
「じゃあ決定ね」
ここで、この議論を見守っていた祐一はふと思い出した様に言う。
「そう言えば、香織ちゃんだったけ?。あの人は?」
「そう言えば、いないわね」
「奴なら、今昼寝の最中だ。まったくあれだけ大声で怒鳴って起きないなんて奴の耳はどうなっているんだ?」
「(まるで名雪だな)まぁそう言った人間もいるさ・・・」
「やけに実感が篭っているな」
「蘭、世の中には似たような人間が多いのさ」
「・・・お前の周りにいたのか」
「ああ。名雪は高校時代、何時も俺に朝に起させたんだ。おまけに起さなかったら夕飯を紅生姜にするって
脅すんだよ。おまけに食べたくなかったら学校の帰り道には苺サンデーを奢れって。あのおかげで俺は
高校時代、好きな物をほとんど買えなかったな・・・」
遠い目で語る祐一。
「・・・かなり酷いな」
心底同情するように言う蘭。カイトや麗香も同情の眼差しを向けた。
しかし、このとき麗香がふと気付く。
「でも、何で夕飯をネタに脅されるの?」
「家庭の事情であいつの家に居候していたからな」
「へぇ〜〜。と言う事はその人って彼女?」
「違う。単なる従妹だ」
「そうなんだ」
「そうだ」
「ふ〜〜ん。そう言えばその苺サンデーっていくら?」
「850円だ」
「それなら850円以下の外食して来れば良いじゃない?」
「「「・・・・・・」」」
会議室が静まる。
「そうだよ!!と言うか何でそうしなかったんだ〜〜〜!!!」
祐一絶叫。
(((何で気付かなかったんだ?)))
三人は心の中で同じツッコミを浴びせた。
「話をもどそうか・・・香織ちゃんはそんなに寝てたのか?」
「ああ、ぐっすりだ」
祐一を無視して会議(?)は続く。
「まぁ近頃は戦闘激しかったし、今回の会議はそう重要な物じゃないから良いんじゃない?」
麗香が庇う様に言った。
彼らが前線基地としているこの地には、完成するまでは建設作業を少しでも妨害しようと
幾度となく無人機が攻撃を仕掛けて来たのだ。
カイト達としては、基地の建設を妨害されるのも困るが近くに存在している都市が攻撃を受けると
その都市に住んでいる人間から色々恨みを買いかねないし、イメージダウンにもなる。
彼らは連合軍が防空に非協力的なのを悟ると、独自に基地を中心に強力な防衛線を敷いた。
おかげで最も木連軍の攻撃を受けている地方にもかかわらず、もっとも民間人の死者が少ない
地域になってしまったのはご愛嬌だ。
「それもそうだな・・・」
「だが、俺は解せない。あのお祭り好きの香織がこんな会議に出ないなんて・・・天変地異の前触れか」
「蘭、それは言い過ぎだと思うが」
カイトの苦言に蘭は首を振る。
「言い過ぎじゃない。誰がなんと言おうと事実だ」
「・・・まぁあとで彼女の意見を求めれば良いとおもうが」
「いや、このままいこう。奴の意見を取り入れたらとんでもないものになる。
そんなことになるんだったら俺は平凡極まりない普通のパーティーが良い」
蘭はそう力強く断言する。
麗香もうんうんと肯いた。
「そうか・・・」
冷や汗を掻きながらカイトは麗香に振り向く。
「そうね。あの性格だととんでもない提案をしそうだし」
「なら決定だな」
(一体、彼女ってどんな性格なんだ・・・ってあの破天荒というか何と言うかの性格じゃ確かに・・・)
カイトもこれまでの彼女の奇行を思い出して、この意見に賛同した。
このあと、香織は自分が呼ばれなかった事に腹を立て、蘭にやつあたりした挙句にあることを思いつく。
(ふふふふ、誰が気分転換なんてさせますか・・・)
彼女は何人かに招待状をだした。
(下手をしたら、と言うのは変でしょうけど、このパーティーは歴史に残るものになるかもしれませんね)
怪しい薄笑いを浮べる香織。背後には何故か黒こげとなり気絶している蘭がいるため光景的に言うとかなりシュールだ。
だが、そんなことを指摘するような人物は存在せず、彼女は思考の海に沈む。
(仕返し以上に、楽しい事が起きそうな予感がしますね)
この彼女の予感は当らずとも遠からずとなるのであった。
後書き
お久しぶり、earthです。時を紡ぐ者達第28話をお送りしました。
何気に山田がダーク化している・・・このままいけばジュンとコンビを組んで活躍する日も遠くないな(笑)。
それでは駄文にもかかわらず最後まで読んで下さってありがとうございました。
第29話でお会いしましょう。
それと現在、メールがうまく受信できません。
感想等を送ってくださる方がいらしたら、掲示板の方にお願いします。
管理人の感想
earthさんからの投稿です。
ブラック化しても、使えないと判断されるジュン!!
・・・なんか、存在がとことん軽いとゆーか、なんとゆーか(汗)
逆にブラックヤマダは将来有望と判断されてるし(苦笑)
ダブルブラックの登場が楽しみですねぇ