ある洋風の屋敷の地下にある一室。

一国と情報戦を展開できるほどのコンピュータが置かれたこの部屋で二人の男女がモニターに向っていた。

カタカタ・・・。

キーボードを叩く音が室内から聞こえてくる。

女の方は真剣な表情で、モニターに映し出されるものを次々に処理して行く。

カタカタ・・・。

男はその様子をただ見つめる。

しかし、心配している様子はない。

それは彼が彼女の能力を信頼していたからだ。

「これはなかなか・・・」

「どうしたんだ?」

「ここのセキリティー、連合のものより遥に高いわ」

「・・・そこまでいくのか」

「でも抜けない事はないわ。所詮、人間の作ったものだもん」

自信たっぷりにそう断言すると、彼女は再び作業に入る。

だが、数分後その自信は崩れ去った。

ビービー!!。

危険を知らす警告音が室内に響く。

「不味い、気付かれた!」

彼女はものすごい速さでキーボードを叩き始める。

ハッキングの心構えとして必要なのは、決して深追いしすぎない事。

そして見つかった場合は、自分の通て来た道のりの痕跡を一切残さず消し去り撤退する事。

無論彼女も引き際を見極められ無い程愚かではない。

細心の注意を払い自分の足跡を消し去りながら来た道を戻る。

だが相手の追跡は彼女が思っていた以上に執拗だった。

逃亡者と追跡者は電脳世界で熾烈な追いかけっこを繰り広げる。

「・・・忍」

「御免、少し静かにして!!」

切迫した声を上げる忍。

それだけで事態が緊迫している事を悟った恭也は、指示通り口を紡ぐ。

目の前のモニター一面に文字が流れ続ける。

それから一体どれくらい経過しただろうか、忍は手をキーボードから離した。

「・・・どうだ?」

「・・・ご免、後少しの所で気付かれた。追っては何とか撒くことは出来たけど」

「いや、こちらも無理を言って悪かったな忍」

「どういたしまして。あっ、ちゃんと収穫はあったよ。連中の中枢部のデータを何個か取って来たし」

盗んできたデーターを記録したCDを取り出すと恭也に手渡す。

「そうか、感謝する」

「もちろん今度の休暇は今日の埋め合わせしてくれるよね?」

「ああ、わかっている。次の休暇は1日付き合おう。約束する」

恭也は普段は見せない微笑みを浮べ肯いた。

この笑みに忍は少し顔を赤くする。

(もう、何でこうも自然にこういう笑みが出来るのよ?。普段はあんなに鈍感なくせに・・・)





 そんなやり取りがされているころ・・・。

「そうですか、やはり成果は挙がりませんでしたか・・・」

月村邸に勝るとも劣らない邸宅の中で、佐祐理はSSの報告を聞いて残念そうに言った。

「申し訳ございません、お嬢様」

倉田財閥のSSの長は冷や汗を流しながら頭を下げる。

自分より遥に年下の女に土下座までしかねない勢いで頭を下げる男。

はっきり言ってかなり滑稽な光景だ。

だが、やっている本人は至って真面目だった。

「出来るなら、これからも続けてください」

「勿論です」

男は下がっていった。

「彼らも中々やりますね・・・」

感嘆するように言う佐祐理。

倉田財閥の後継者候補でもあり、連合宇宙軍の重鎮でもある彼女には様々な情報が入る。

そんな彼女の下に、ある筋から一本の情報が入った。

『アルビオンは木星蜥蜴と繋がっている』

取るに足ら無い根も葉もない噂。

だが普段からアルビオンの存在に対して危惧を抱いていた彼女は、

海鳴市の一件を聞いてアルビオンに向けていた疑惑の感情をさらに強めていた。

必ず裏に何かある、そう彼女は確信した。

しかしそれを裏付ける証拠があるわけでもない。

ここで下手に動いて、軍とアルビオンの関係に亀裂を入れるわけにはいかない。

そんな事をしたら間違いなくこの戦争は負けてしまう。

だから彼女は倉田財閥の力を使い、アルビオンの内情を探らせていた。

だがそれでもなかなかアルビオンの尻尾を掴む事は出来なかった。

「祐一さんに依頼してみましょうか。それとも・・・」

彼女と彼女の友人たる川澄舞の共通の思い人たる相沢祐一か、

自分が信頼を置ける人物にアルビオンの内情を探ってもらうことを考え始めた。



      時を紡ぐ者達 第29話



 数々の異様なまでの戦果、そして海鳴市の一件、アルビオンに対して疑念を持った連合軍は様々な諜報活動を行なっていた。

情報省及び連合警察の内部に影響力を持っている陣内啓吾や、

裏世界に大きなパイプを持っている不破家に接触しアルビオンの内情について探りを入れはじめていた。

無論、この動きをアルビオンは察知していた。

「軍の連中も中々やるわね・・・」

憎憎しげに言う真澄は、自社のSSが集めた情報を見ながら溜息をつく。

「まぁどうせ連中が探りだせる内容は、表向きのばかりだろうし・・・」

今までのこの考えが彼女の侮りであった事は、昨晩にハッキングによってアルビオンの機密情報の

一部が忍によって強奪された事で証明されていた。

この事件以降、アルビオンは火星基地や機構本部と繋がっているコンピュータを物理的に完全に隔離し、

また同時に予定していなかったSSの大規模な増強に踏み切ることとなる。

「・・・それにしても、奪われた情報がそこまで大きなものでは無かったから良かったものの、

 これからこちらの動きがとりにくくなることは確かね」

勿論この本社のコンピュータにはEOP、そしてワルキューレ計画の詳細を記したデータは存在しない。

それらのデータは全て書類化され本社の秘密地下金庫に厳重に封印されている。

法院、そして錫によるハッキングを恐れた為だ。

実際に本社のデータバンクに入っている情報は冥王星基地、火星基地、それに火星の状況についてのデータ。

それに加え、カイトの為に用意している艦隊の状況程度。

本社にはEOPばかりでなく、真澄が春日井と共謀して建造しつつある新型戦艦や母艦の情報すらない。

かと言って、そうそう簡単に盗まれて良い情報でもなかった。

恐らく、統和機構と言う組織の名前と火星政府の存在を知られる事になるだろう。

さすがにその詳細なデータは流出していないものの、勝気な彼女から言えば屈辱だった。

「ここまでやる人間がいるとはね・・・」

一方で彼女は改めてこの世界の人間の有能ぶりに感嘆した。

「まったく、事情が許せばアルビオンにスカウトしたわ」

やっかいな敵は味方にするに限る。だが、今回はなかなかそうは上手くはいかないらしい。

「もう、ただでさえネルガルの動きが活発なのに・・・」

最近、ネルガルのSSの活発化が目に付く。

反ネルガル派の人間の排斥や懐柔。

アルビオン施設に対する諜報活動の活発化。

真澄の指示によりそれほど大きな被害は出していないが

法院親衛隊が介入し始めると言う事態に対処するのに色々と面倒が増えていた途端にこれだ。

さすがの彼女も手を焼いていた。





 真澄が今後の対応に苦慮しているちょうどそのころ、トライガーでも一つの問題が沸き起こっていた。

「恭ちゃんの馬鹿ーーーーーー!!」

「恭也君の浮気者ーーーーーーー!!」

トライガーの格納庫では連合軍内でも指折りのエースパイロットの御神美由希と、

トライガー内にある医務室ではこの医務室の主であるフィリス・矢沢がわれんばかりの大声で叫んでいた。

ちなみにどのくらい大声であるかと言うと、格納庫や医務室の前を通ていた兵士の三半規管を狂わしその場で蹲ってしまうほどだ。

無論その原因は二人の、いや自分達を含めて複数の女性の思い人である恭也が月村邸に泊まりに行ったことである。

もちろん上司である士郎からの命令である為だが、

どうやらそれだけでは恋する乙女の暴走(妄想)を止めることが出来ないらしい。

二人の脳裏には色々と恭也と忍のまったく謎な関係というかバリエーションは色々とあるだろうが、

そのX指定なことをしている二人を想像(妄想)してしまい非常に機嫌が悪かった。

「おい、何とかできないのかあれ?」

そんな般若や夜叉のごとし表情を医務室の扉越しから見ている兵士達は、

連帯責任(?)と言わんばかりに赤星に彼女達のご機嫌取りを押しつけた。

「おい、何で俺が!?」

反発する赤星の意見は当然無視し、一人の夜叉がいるの医務室に放り入れようとする。

「おい、だから何で俺なんだ!?」

「当たり前だ!一般人である俺達に何が出来ると言う!」

「すまん赤星。俺達を許してくれとは言わない」

「だが、医務室の天使たるフィリス先生があのままだと俺達の精神衛生が害されるんだ」

「栄光ある俺達の精神衛生の礎となってくれ」

「裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったんだ!!」

暴れながら喚き散らす赤星。だがそんなことにはお構いなく彼は自称友人によって地獄の釜とも言える医務室に放りこまれた。

彼を放りこんだあと、彼らは医務室の前に一列に並び、

「赤星の英霊に敬礼!!」

と、医務室の前で敬礼した。

彼らの多くは表面上、悔やんでいるとまではいかないが後ろめたさを感じている表情をしている。

だが内心では、恭也と艦内の女性人気を二分する赤星に嫉妬を抱いていた者がいるのも確かで、

「骨は拾ってやるぞ。だから安心して逝って来い」

「線香はあげてやる」

「香典はやるよ。1000円ぐらいだけど」

等と結構酷いことを言う人間もいた。だがその態度も数分後、崩れることとなる。



 男達が見つめるフィリスの医務室の中から突如、男の断末魔のような叫び声が聞こえた。

「うぎゃああああああああああああああああああ!!」

「ぐおおおおおおおおおおおおおおお、肩が足が曲がっちゃいけない方向にーーーーーー!!」

「ひーーーーーーーーー!!フィリス先生、電撃はーーーーー!」

「ダメです!そんな怪しげな注射器はマジでヤバイですよーーーー!」

そのあまりの悲痛な声に、屈強な男達は震えあがる。

「神よ・・・」

涙目をして十字を切るコック。

「助けてマミー・・・」

頭を抱えて蹲るパイロット。

「許して許してくれ、全部あいつが悪いんです。だから俺は許してくれ」

などと土下座しつつぶつぶつ言う整備士。

この地獄から響いてくるような声は数分続いた後、医務室から響き渡る絶叫は終息した。

「終わったのか?・・・」

「だろう」

これでようやくいつもの日常が戻ってくる。

その最大の功績者である赤星が帰ってきたら労いの言葉でもかけてやろう。

ここに居る者皆がそう思い英雄が出てくるのを待ったが、何時までたっても赤星は出てこない。

「・・・不味くないか」

「何か嫌な予感がするぜ」

ここである提案がなされる。

「誰か様子を見に行くか?」

「お、俺はいやだぞ」

「俺もだ」

このあと、やいのやいのと話し合い(?)が続き、極一部の志願者とクジであたった運の悪い人間が

医務室に突入することとなった。





 何人かの勇者と運の悪かった人間が恐る恐る医務室の扉を開く。

「失礼し・・・」

彼らは絶句した。そこにはもはや肉の塊と言っても良いものが転がっていたからだ。

「あ、皆さん。どうかしました?」

やけに晴れやかな表情のフィリスがこの地獄絵図とやけに対照的だ。

光の翼を展開しているフィリスはまさしく天使と言ったところだろう。

まぁこの光景から見れば堕天使と言った方が良いかもしれないが・・・。

「あの〜赤星は?」

勇者達の中でも最も勇敢な人物が声を震わせながら尋ねる。

この光景とフィリスのやけに晴れやかな表情を前にしてここまで言える彼は賞賛ものだ。

「え、赤星君ですか?。ここには入ってきていませんよ」

「でも、確かに、なぁ〜」

他の勇者に確認をとる。

だが、フィリスの発する異様な気配におされて肯けない。

「ほら。入ってきていませんよ」

「・・・・・・」

それでも何か言たそうな沖田浩二少尉を見てフィリスは続ける。

「あら、沖田さん、ひょっとして幻覚を見るほど疲れているんですか?。

 そうでしたら、私が診てあげましょう」

「いえ、結構です!!」

ぶんぶんと首をふり、拒絶する沖田。

「そうですか」

「あの・・・この肉をもっていきましょうか?。邪魔でしょうし・・・」

「ありがとうございます」

フィリスは会心の笑みを浮べる。

普通なら魅了されそうだが、この状況で魅了されるものはいない。

多くの人間は逆に畏怖と恐怖を心に刻みこんだ。

「失礼します」

巨大な生ごみ(酷い)を回収して勇者達は戦略的撤退を果した。



 ちなみに彼は数時間後、見事に復活を果した。

と言っても誰かがフィリス先生の部屋からくすねて来た怪しげな薬品を使ったおかげだが・・・。

「で。次は御神さんか・・・」

「そうだな」

「んーーーんーーー!!」

どこかの怪しげな暗室で、美由紀のご機嫌をどう取るべきか悩んでいたる男達。

しかしその彼らの後ろでは磔にされ、口には猿轡をされた赤星が抗議の唸り声を上げていた。

そんなことにはお構いなく、彼らの怪しげな会議は続く。

「これをご覧下さい」

代表者と思われる四人の男に、書類を配る一人の男。

「・・・これは?」

書類のTOPには、《トライガー乗組員補完計画》などと書かれていた。

だが大層なタイトルの割にやたらと書類の厚みが無い。

「ん?」

さらさらと中身を流し読みした四人は、揃って溜息をついた。

「これでは、フィリス先生のときと変わらないと思うが?」

「いえいえ、最後までよく御読み下さい」

やたらと丁寧な男。

「・・・なるほど。これならいけるかもしれないな」

「それでは・・・」

このやりとりに何気に自分の生命の危機を悟った赤星は

「んーーーーー!!。んんんんん!!」

と猛烈な抗議の唸り声をあげる。

無論、そんな抗議を聞いてくれる者などいる訳がない。逆に、

「煩い!」

「○×△▽%&#!!」

声になら無い悲鳴を挙げる赤星。

男達の一人がどこからか槍を持ってきて一刺しされその抗議の唸り声は沈黙させられた。

「ロン○ヌスの槍・・・」

誰かがそう呟く中、ついに悲鳴を挙げる力も無くしたのか赤星は沈黙した。

「流石に不味くないか・・・」

「大丈夫だ。同志赤星はこの程度のことで死ぬような男じゃない」

「・・・そうか?」

冷や汗を流す。

「そうだ。それにいざとなったら、フィリス先生が何とかしてくれる。

 きっと、トライガー医療班の技術力は世界一〜!!。と言って良い感じに完治させてくれるだろう」

「・・・・・・そうだな」

前例があるので肯く男達。

「さて、次は御神さんだ。どうする?」

この問いに対する答えはただひとつ。

「・・・この計画書通りに彼を使うしかないだろう」

男達はロンギヌスの槍をさされ、血の気を失いつつある磔にされた赤星を見つめた。



 磔にされた赤星が目覚めたのは、この怪しげな会議が終わった数分後の調理室だった。

「いてて、一体何が・・・」

だが、言葉の続きは無い。彼は目を大きく見開き驚愕し言葉を失っていた。

なぜなら、目の前には謎の物体Xを皿に盛りつけている美由紀の姿があったからだ。

「ちょっと、美由紀さん、何をなされているのですか?」

何故か話し方が丁寧になる。

「ふふふ・・・皆さんが勇吾さんが私の新作の料理を試食してくれるって」

心底楽しそうに、いや嬉しそうに言う美由希。ちなみに彼女の料理の腕ははっきり言えば最悪。

いや、最悪をさらに通り越しているだろう。彼女の料理はまさしく必ず殺すと書いて必殺のものだ。

「それに皆さんが、勇吾さんが美由希ちゃんの料理の腕じゃ恭ちゃんに逃げられるのがオチだと

 言っていた、と」

「待て待て、それは誤解だ!」

「ふふふふふふ」

美由紀の《料理》、と言っては料理の道に生きる人間を冒涜するような物が目の前に迫ってくる。

剣士として、いや生きとし生けるもの全てが持っている生存本能が赤星に告げる。

そう、これはとても危険な状態だと・・・。

「またこのパターンか〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

絶叫と共に、新たな惨劇が彼を襲った。

自称赤星の友人達は、勿論この惨劇の現場に存在しなかった。



 惨劇が終わったあと、ずたぼろにされた赤星は自称友人たちの手によって速やかに回収され、

医務室でフィリス先生のお世話になる羽目になった。

もっとも彼の尊い犠牲のおかげで大分、二人の機嫌が改善され、

男達は《トライガー乗組員補完計画》、もとい《フィリス先生と美由紀ちゃんのご機嫌を取ろう計画》の成功に祝杯をあげた。

もっとも、なぜご機嫌取りが補完につながるのか全く謎だが・・・。



 さて、そんな狂乱の嵐がトライガーで吹き荒れていたことを知らず、恭也達が予定時間を少し遅れて帰ってきた。

予定時間を遅れた理由、それは恭也が今日のお礼を兼ねて忍を連れて甘味所巡りしていたのだ。

もちろん甘い物が苦手の恭也が美味しい甘味所なんか知るはずが無い。

全ては父親である士郎のアイディアなのだが、

忍が知るはずも無く思い人と仕事抜きで一緒に居られたことにほくほく顔だった。

帰ってきた恭也はお土産を渡しに来た医務室でミイラ男になっている赤星を見て呆気に取られる。

「・・・どうかしたのか?」

無論、医務室はフィリスの手によって引き起こされた惨劇の名残はなく、

フィリスの依頼を受けた男達の文字通り決死の清掃によりもとの落ちついた雰囲気を取り戻していた。

汚染された調理室は完全に殺菌され、美由紀の作り出した謎の物体Xは相転移炉の中へ放りこまれ完全に消滅していた。

彼が赤星を心配しているのを見た二人は、赤星に何か喋ったら殺すと言わんばかりの殺気をぶつけつつ

何とか誤魔化そうとする。

「何でも無いよ」

「そうですよ」

「・・・そうか」

美由紀とフィリスから反論を許さぬと言わんばかりの気迫に押され、

恭也もそれ以上突っ込む事は出来なかった。





 トライガーで狂乱(バイオレンス)の嵐が吹き荒れたころ。

「お久しぶりですね、ひよのさん」

「いえ構いませんが、どうしたんですか?。いきなり呼び出したりして。それに第六艦隊首脳が勢ぞろい」

佐祐理は自分のグループ企業が保有するビルの一室に自分が最も信頼を寄せる新聞記者、結崎ひよのを呼び出していた。

同席しているのは香里と舞だ。もっともこの二人も困惑気味だが・・・。

「ねぇ、確か結崎ひよのってあの噂の?」

「はちみつくまさん。噂は聞いたことがある」

「確か、彼女に頼めば憎い奴の弱みを探り出し、脅し上げるって」

「私は人生狂わされた挙句、自殺に追い込まれるって聞いた」

さすがにこれには、ひよのが必死に反論する。

「ちょっと待って下さい!。何ですかその噂は!?。たまにはかわいいお願いを聞いてもらうために

 特別情報で脅しちゃったりしますけど、そんな人生狂わせたり、自殺に追い込んだりするような真似はしていません!」

「・・・『脅しちゃった』時点でもう犯罪よ」

冷たい眼差しを向ける香里。

「その話はここまでにしましょう。・・・ひよのさん、アルビオンと言う会社についてどう思います?」

佐祐理はひよのにまつわる噂話を切り上げさせ、単刀直入に切り出した。

この問いの真意に気付いたひよのは聞き返す。

「それはアルビオンが内部で何かよからぬことを企んでいるかもしれないと?」

「・・・私の個人的な見解なのですが、どうもあの企業には裏があって思えません」 

「・・・組織というものは規模が大きくなるに連れて、その闇も深く大きくなります。

 それはどこの組織も変わらりませんよ、と言いたいところですが・・・」

ひよのは言葉を濁す。

「あれだけの艦隊を秘密裏に建造できる施設。数年、いえ10年は先行する軍事技術。

 そしてあの第13艦隊の戦闘能力。それに指揮官とされている水原麗香と言う人物は・・・」

この疑問に佐祐理は同意する。

「あれだけの作戦や艦隊指揮能力、士官学校を卒業した士官でもそう簡単にはなせません。

 よほどの天才か、それとも・・・」

「・・・履歴が嘘の物だと?」

「はい」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

ふたりの間に沈黙がおりる。

「それに加え、ネルガルにも動きが見えます」

「ネルガルに?」

ひよのは眉をひそめる。

「はい、どうやらアルビオンに倣って極秘裏に戦艦を運用し始めるというのです」

「軍としてはどう対処するつもりなのですか?」

「・・・ここだけの話にしておいて欲しいのですが、構いませんか?」

「はい」

「・・・軍上層部としては、運用を認めてやっても良いと考えている節があります」

「それは軍が自ら自分の存在意義を否定する事になるのでは?」

「・・・私もそう思いますが、軍上層部には何かしらの思惑があると思われます。

 まぁ今はアルビオンの新造艦にまわす人員の確保でも精一杯ですから」

「・・・このところの連合軍が消耗は著しいからですか?」

「木星蜥蜴の猛攻はまだまだ続いていますから」

だが佐祐理はある程度のことは知っていた。

木星蜥蜴が実は人類であることを、そしてアルビオンが和平の為に動いていた事を。

だが、それでも彼女の疑念は晴れなかった。

彼らのあまりの隔絶した技術力、軍事力、資金力。

それらの出所がまったく掴めない。

海鳴市の事件は単にテロリストがアルビオンを落し入れようとする狂言を吐いただけだと言う意見もある。

確かに普通は協力者を苦境に陥れようとするような真似はしないだろう。

だが、その狂言を差し引いてもアルビオンの力は大きすぎ、そして怪し過ぎる。

今は何も掴めて居ないが、いずれ地球連合そのものの存亡を左右する事態を引き起こしかねない。

「ですが、細心の注意を払って下さい。彼らと縁を切る訳にはいきませんから」

「わかっています」

連合軍、特に宇宙軍はアルビオンの力を必要としていた。

一応、ネルガルも貢献してくれているが、アルビオンの兵器はネルガルのものより安くて性能も高い。そして信頼性もある。

必然的に、連合軍はアルビオンに頼らざるを得ない。

それに加え、軍は資金面でも決して少なくない額の援助をアルビオンやその関連企業から受けている。

この関係を切ることは恐らく難しいだろう。




 だが、一方で連合軍のアルビオンに対する疑念と不安は高まりつつあった。

すでに述べたが、連合警察を筆頭とする機関へ極秘裏に調査を要請する一方で、

不破家、御神家、倉田家と言った裏、表両方に影響力のある一族にも働きかけを行なっていた。



 これに対してアルビオンは決死に機密情報を守ろうとしていた。

最もアルビオンの警備システムは簡単にぬけるものではなく、月村忍という稀代の天才がいてこそ中枢部へ侵入を

果せたのだ。しかも、忍に情報の奪取を許したことからさらに警備を厳重にすることを決定している。

この電脳、現実世界両方の厚い壁を破り、彼らが真実を知る事ができるかはまだわからなかった。









 後書き

時を紡ぐ者たち第29話お送りしました。

さて、連合軍内部に燻るアルビオンへの疑念と不信が少しづつ表面化してきます。

とらハ3のメンバーは、主に電脳世界から、Kanonメンバーは助っ人と雇い、主に現実世界から情報収集に取り組みます。

ちなみに《結崎ひよの》、彼女のことわかる人どれくらいいるかな?。

彼女は原作(元ネタ)では一介の高校生にも関わらず、その情報収集能力はスパイ並と言っても良いおひとです。

その彼女が新聞記者なのですから・・・アルビオンはどこまで機密を守りきる事が出来るかな〜?。


それでは駄文にも関わらず最後まで読んで下さってありがとうございました。

第30話でお会いしましょう。













管理人の感想

earthさんからの投稿です。

今回は裏で行われている情報戦の模様ですね。

それにしても赤星・・・哀れだな(苦笑)

耐久力だけは、ガイなみらしいけど、不幸度までためを張らなくても・・・

 

ナデシコキャラ、一人も出てないっすね(笑)