皆さんはご存知だろうか…幸運と不運はお互いに手を取り合ってやってくることを…

そして、幸運と不運を司る神様はおそらく女神であることを……

これは、女難の相を持った一人の英雄の物語である……

 

機動戦艦ナデシコが誇るオペレーターであるホシノ・ルリのご機嫌は斜めだった、いや、斜めどころか

そろそろ真っ直ぐになりそうである。

 

 

「なんでこんなにたくさん来るんでしょう(怒)」

 

ルリは呟きながら、前面に開いているコミュニケに視線を落とした。

そこに表示されたデータはある人物に複数のメールが届いている事を知らせている。

「電子の妖精」と称されるルリにとってこの程度のメールを整理するのは造作も無い事である。

ルリの機嫌を損ねている原因はただ一つ。このメールがすべて「漆黒の戦神」こと連合軍最強の

エステバリスライダー、テンカワ・アキトに対する熱烈なファンレターであることにあったりする。

 

今回の英雄であるテンカワ・アキトの人気はイメージアップを図ろうとするネルガルの意向もあり

物凄いものがある、特に女性に対しては中学・高校生からご家庭の奥様にまで幅広い支持を集めている。

因みに、この事態に危機感をいだいたルリの手に寄ってネルガルのコンピュータのテンカワ・アキトのデータは

既にガチガチにブロックが掛けられている。

 

「オモイカネ、お願い」

 

『了解』

 

ルリの前面に複数のコミュニケが一斉に開き、そこに整理されたメッセージが表示される。

 

 

 

――かなりの量ですね……いつもこんなに届くんですか?

「今日はまだ少ないほうですね…いつもはこの倍は届きますよ」

――それは、それは……ところで、彼はこのことを知っているんですか?

「何のことです?」

――いや、それはこのファンレターのこととかですが…

「いいえ、アキトさん宛のメールは、私とラピスで残らずチェックしてますので」

――チェック?

「ええ、私のアキトさんに悪い虫がついたら大変なので」

――プライバシーって………い、いえ!!何でもありません!!ハイ!!!

 

 

 

高速でスクロールするデータを真剣に見つめるルリ。

その時。

ルリの視線が鋭くなる。

 

「オモイカネ、ストップです、今のメールをもう一度出してください」

 

ルリの声に応え高速でスクロールしていた画面が停止する。

今までメッセージを表示していた幾つものコミュニケが一つを除いてパタパタと閉じる。

 

「これは…………………………………」

 

ルリの金色の瞳があるひとつのメールに釘付けになる。

 

「オモイカネ……………」

 

その時、確実に室内の温度が10℃は下がった。

 

『な、なんでしょうか?ルリ(怯)』

 

「緊急事態です………TA同盟の皆さんに召集をかけて下さいね………」

 

『リ、了解!!!』

 

こうして、新たな舞台の幕が上がったのである。

 

 

 

機動戦艦ナデシコSS・ふぁんれたー?らぶれたー?

 

 

 

「で、今回の召集の目的はなんなの?」

 

全員が揃っている事を確かめると「裏方」さんが代表するように言いました。

 

「それは…まず、これを見てください」

 

私がコミュニケを操作してあるグラフを表示します。

グラフは右上がりに上昇を続け一番新しいと思われるデータはかなりの数値を指しています。

 

「だから、何なんだよ?」

 

「そうです、これから食堂でアキトさん手料理を食べようと思っていたのに……」

 

焦らないでください「赤い獅子」さん、それに「銀の糸」さん、今、聞き捨てならないことを聞いたような気がしました

が……緊急事態です、見逃しておきましょう。

 

「これ、何のグラフなのかなあ?」

 

「天真爛漫」さんが小首を傾げます、「幼き妖精」は気がついたようですね、さすがです。

 

「これはネルガルに届いたテンカワ・アキト又は漆黒の戦神宛のメールの総数です」

 

私の言葉に一瞬皆さんの動きが止まりました。

 

「で、でもそれは感謝のキモチとか……」

 

「「「「「そうそう」」」」」

 

いち早く回復した「三つ編み」さんの言葉に「五花」の皆さんがコクコクと頷いています、

でも皆さん笑顔が引きつってますよ……

 

「9割以上が女性それも平均16〜25歳の若い女性からのメールです」

 

私の言葉で…皆さんは今度こそフリーズしてしまいました。

 

「そして……今回このようなメールが紛れ込んでいました」

 

コミュニケに問題のメールを表示します。

 

「「「「「「「「「「「「「「!!!!!」」」」」」」」」」」」」」

 

皆さん顔色が変わりましたね……

 

「おしおきですね……」

 

「金の糸」さん……赤い消火器が良くお似合いです、でもアキトさんには使わないでくださいね。

 

「おしおきね………」

 

「科学者」さん……その注射器に入った緑色のモノはなんでしょうね、いったい。

 

「おしおきです………」

 

「メンテ」さん……いったいどこから取り出したんです?その特大スパナ。

 

「オモイカネ……現在、アキトさんは何処に居ますか?……」

 

『い、今は厨房で料理を作ってるよ(怯)』

 

ウフフ……如何したんです?オモイカネ……いったい何を怯えているんですか?……

 

「では、おしおきの時間です……アキトさん、待っててくださいね……」

 

 

 

その頃、厨房では「漆黒の戦神」ことテンカワ・アキトが包丁を振るっていた。

トトトトトトトトトトトトトトトトトトトト

野菜を刻む小気味のいい音が厨房に流れる。

 

ビクッ

 

その手が唐突に止まる。

 

な、何だ?い、今の殺気は?

 

きっと動物的直感といった人間の本能に属する何かが働いたのだろう(笑)

 

「き、気のせいだよな……ウン、気のせいに違いない」

 

アキトは自分に言い聞かせるように呟きながら厨房内を見回した。

その手には何故だか中華なべが握られている。

 

「ウン、ダレモイナイヨナ、チョットツカレルノカナ?オレ、ハハハ……」

 

アキトは妙に引きつった笑いを顔に貼り付けたまま後片付けもソコソコに厨房から逃げ出そうと回れ右をして

そのまま止まる。

出入口に小柄な人影がアキトの行く手を遮るように立っている。

ルリである。

その顔にはまさしく妖精にふさわしい微笑を浮かべているが目は全く笑っていない。

 

アキトの脳裏にこのところの行動がよみがえる。

 

………うん、このところおしおきを受ける事は何にもしていない筈なんだけど。

 

何時の間にあらわれたのかアキトの背後には残るTA同盟の面々が顔をそろえている。

 

「ど、どうしたのかなあ?ルリちゃん、それにみんな揃って……」

 

ただならぬ雰囲気に段々と声が小さくなる。

目が笑っていない……はっきり言ってかなり怖い。

 

「ア〜キ〜ト、ユリカに何か隠し事してないかなあ(怒)」

「今、話してくれれば出来心という事で許して上げますよ(怒)」

「テンカワ、さっさと白状しちまえよな(怒)」

 

見に憶えのないアキトはユリカ、メグミ、リョーコの言葉に思わず聞き返してしまう。

 

「え?い、いったい何のことなの?」

 

「ひどいですアキトさん、この期に及んでまだしらばっくれるんですね(怒)」

アリサが文字通り滝涙を流しながらアキトを睨む。

 

「だ、だからいったい何の話なんだよ!」

 

見えてこない話にアキトの声が少々大きくなる。

 

「そうアキトったら、ひらきなおる気なのね(怒)」

「これは、おしおきしかないね(怒)」

サラ、ラピスの言葉にホウメイガールズの面々がまさしく風のように動きアキトの身体を手際よく拘束する。

 

「ホントはアキトさんにこんなことしたくないんです(怒)」

「でも、アキトさんも悪いんですよ(怒)」

「そうそう、いつまでも本当のこと言わないから(怒)」

「素直にしゃべっちゃえば楽になれるのに(怒)」

「だから、おしおきです!!(怒)」

 

――すごいですね。

「何がです?」

――あ、これは電子の魔女……もとい、電子の妖精ことルリさん。

「何か言ったような気もしますがちょっと忙しいので勘弁してあげます」

――はは〜ありがとうございますぅ、いえそれがよくあのテンカワさんを拘束できるなあ、と思いまして。

「まあ、彼女達は実行部隊ですから」

――……………深くは言わないでおきます……私も命が惜しいので……

「賢明な判断ですね」

 

そうこうしているうちにアキトはグルグル巻きに縛り上げられてしまった。

 

「ちょ、ちょっと待った、せめてキチンと説明してくれええ!!!」

 

説明という単語に心引かれたかイネスがうっすらと笑みを浮かべる。

「いいわ、説明してあげる。これはねアキトくんが私を差し置いて浮気をしたのに白状してくれないから

 仕方なく身体に聞こうってことなの、分かった?」

 

「分かるかあああああ!!!そもそも浮気ってなんの………(モゴモゴ)」

 

アキトは絶叫虚しく猿轡を噛まされてしまう。

 

「レイナ。例のアレ準備はできてる?」

「ルリちゃん、ラピスちゃん、イネスさん合作のおしおきプログラム18禁ヴァージョンのこと?

 もちろん、すでに組み込み済みよ」

エリナ、レイナの会話を聞いてアキトがジタバタするがもはや手遅れである。

 

「さあ、おしおきの時間ですよ、アキトさん」

 

この後ナデシコの一室でテンカワ・アキトのキヌを引き裂くような悲鳴が聞こえてきたと言う、

そしてそれは問題のメールが全くの誤解であることが判明するまで暫く続いたらしい。

なお、それから解放されたテンカワ・アキトは暫くの間、夜うなされ続けたらしいが何故だか理由は定かではない。

 

 

 

 

 

ナデシコの一室で2人の男が顔を揃えている、その手にはワインが注がれたグラスがある。

「それでは」

「作戦の成功と」

「我らが怨敵の滅殺を祝って!!!」

「「カンパーイ」」

カチーン

2人の男がグラスをぶつける澄んだ音が響いた。

 

「いやあ〜それにしても今回はうまくいったねえ、さすがは作戦部長だね」

 

某組織の会長ことネルガル会長アカツキ・ナ「おおっと、僕達の名前はオフレコで頼むよ」

……いいでしょう、どうせバレバレだと思うのですが。

 

「ああ、今回の成功はハーリ……いや、情報統括部長の手柄だな」

某会長の言葉に某組織作戦部長が満足そうにグラスを傾ける。

 

「それにしても、あのルリ君とラピス君の目を欺いて良く成功したよねえ」

「まあな、あのルリルリもテンカワのこととなると目の色が変わるからなあ」

「ふふふ、電子の妖精も所詮はお子様って事かな」

「まあ、盲点をついた勝利だな」

 

しばらく、笑いながらワインを飲んでいたが、程よく酔いが廻り始めた頃、某会長が思い出したように言った。

「それにしても、今回の英雄はどうしたんだい?」

某作戦部長も訝しげな表情になる。

「ここで合流する手筈になっていたんだが……確かに遅いな」

 

その時。

 

「ハーリー君は来ませんよ………」

 

「そ、その声は!!!」

「ルリルリか?ど、どうしてここが!!!」

 

2人は椅子を蹴って立ち上がると、慌てて声のした方に向き直る。

よほど驚いたのかホロ酔い気分はきれいに吹き飛んでいる。

 

「ハーリー君にしては手間を掛けさせてくれました………」

極北のブリザードを髣髴させる、澄んだ声が無常にも響く。

 

「か、彼はどうしたのかな?」

 

「ハーリー君はユキ・キクノさんのお部屋にお届けして置きました、

 今ごろじっくり可愛がってもらっているでしょうね………オモイカネ」

そう言うとルリはうっすらと笑い合図を送る。

 

プシュー

 

通気の為のダクトからピンク色のガスが噴き出す、ルリは何処から取り出したのか

携帯用の酸素ボンベをつけている。

 

「イネスさん特製の麻酔ガスです、後遺症は………たぶんありませんから安心してくださいね」

 

「「その間はなんなんだー!!!」」

 

この後、2人は半死半生で簀巻きになって格納庫で発見されることになるが全身に紫色の斑点があったとか、

改造手術が施されていたといないとか、これはまた別のお話である。

 

 

 

 

 

おまけ?

今回のゲストは、見事大人になったハーリーくんです!!!。

「ちょ、ちょっとなんですか、その紹介は!!」

お赤飯だっけ?こんな時に作るのって。

「だ、だからあ〜〜〜」

天上の染みを数えてたらすぐだよ〜とかって言われた?

「………」

これで、ハーリー君も文字通り一皮剥けたってことだネ♪

「うわああああああああああああああああああああああああああん」

行ってしまった……いじめすぎたか……

う〜む、いきなりゲストが居なくなってしまった(笑)

「それじゃ、私が相手するね」

おお!!これは天使の愛らしさと魔女の奸知を兼ね備えたと言われるラピスさんではありませんか!!!

「おしおきされたい?」

い〜え、滅相もございません。

「………まあ、いいわ」

お許しいただきありがとうございます。

「反省してないね………」

………オホン、一つ聞きたいんですけど

「何?」

今回はハーリー君については分かったんですけど、残った人はどうなったのかな〜と?

「本文書いたのってあんたでしょ?」

はあ、まあそうなんですけど………

「はあ(タメ息)〜〜2人ともイネスさんのラボに引き取られてったよ、なんだかジタバタしてたみたいだけどね〜」

麻酔ガスを嗅いでいた筈では?

「意識はあったみたいだよ?イネスさんが対某組織構成員用に調合したって言ってたから」

そういうものは神経ガスというのでは………?(怯)

「さあ?」(ニッコリと笑う)

ナマゴロシってやつですか……哀れですね……それでは、ご冥福をお祈りしながら今日はこの辺で。

「じゃ〜〜ね〜〜」

 

「「勝手に殺すなあああああ」」

某日某所楽屋にて――

 

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

encyclopediaさんからの投稿です!!

ははは、相変わらずのナデシコクルーですね。

しかし、ハーリーよお前・・・

まあ、彼の事はこのさい忘れましょう!!

真実は彼の心の中にあります!!(爆)

でも、どんな内容のラブレターだったんだろう?(笑)

 

それでは、encyclopediaさん投稿有難うございました!!

 

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