――今回は私どもの取材に…プッ、クスクス。
何!!何かおかしいの!!!
――いや、だって………
いいでしょ!!もう!!!
――はいはい…んじゃ、自己紹介から行きましょうかね。
名前はリタ・ランフォード、「漆黒の戦神その軌跡」の編集長をしてるわ。
「漆黒の戦神アナザー」リタ・ランフォードの場合
――編集長はいつ漆黒の戦神と会ったんですか?
えっと、この前のことなんだけど例のナデシコが補給のためにサセボドックに寄った時にちょっとね♪
――でも、仮にも戦艦でしょう?よく入り込めましたねぇ…
メガネをかけたスパナとか工具を持ったおじさんにお願いしたら快く入れてくれたわ♪
――…さいですか…それで、会ってみてどうでした?
うん、第一印象は「かわいい」……かな?正直、噂に伝え聞く「漆黒の戦神」のイメージは浮かんでこないわね。
特にあの笑顔はまさに最終兵器ね。
でも…
――『でも…』なんです?
う〜ん、何であんなふうに笑えるのかなって……
――どういうことです?
これでもマスメディアに携わる人間よ、笑顔が似合う男の子なんて見飽きてる。
――まあ、そうですね。
綺麗なだけだったら芸能人とかに腐るほどいる……でも彼の笑顔はそんなものじゃないと思うの……その人を無条件で受け入れてくれるそんな包み込むような笑顔なのよ……
――随分と高く評価しましたね。
まあね…きっと彼女たちは彼の笑顔を独り占めしたくてあんなドタバタ騒ぎを繰り広げているんでしょうね。
――ああ、例の戦神の寵姫達の噂ですね。
ええ、でもあの噂はガセネタね。
――え?何でです?
だって…あんなにウブじゃあ、とてもじゃないけど信じられないもん。
――へ、編集長?こ、こんどは何をやらかしたんですか……?
な、何よ、そんな顔しないでよ。
――そんなこと言って…前みたいなコトは止めてくださいよ。
あ、あれは大物政治家とか言って人のお尻を触ったからで……
――それで天誅とか言ってあんな写真バラ撒いたんですか(汗)
マスコミの力って怖いわね♪
――………………
ま、まあ…それは脇に退けといてぇ……
彼の話に戻るわよ。
――ハイハイ……それでは最後に彼に伝えたい事があったらどうぞ
そうね……アキトくん!この前は取材に応えてくれて本当にありがとう♪
でも肝心な質問の答はまだだったわ♪
「好みの女の子のタイプ」……今度こそ素直に白状してもらうから覚悟してね♪
そうそうもっと女の子に免疫つけなきゃダメよぉ。
お姉さんで良かったら……手取り足取り丁寧に教えてあげるから……
じゃ♪また近いうちに合いましょうね♪
………あっ!!そうそう、忘れるところだったわ。
メカニックのおじさま!!ナデシコに入れてくれて本当にアリガト(はぁと)
私の友達を紹介するって約束なんだけどぉ〜〜ゴメンナサイ!!
おじさんの写真を見せたんだけどね〜〜ア、アハハハハ……
い、色々と手は打ってみたのよ!!……で、でもね……そんな訳で〜〜じゃあネ〜〜〜!!
――と、ところで実の所どんなことしたんです?
「知りたい?」(ニヤリ)
――ええ、まあ……
「耳、貸して……」
――フンフン……ホ〜〜じゃあ、業と足を滑らせたふりをして彼に?
「そ♪受け止めてもらった後はこ〜んなふうに彼の腕を……」
――オオッ!!こんなにきわどいポーズを!!!
「彼ってばカワイイのよ(はぁと)首筋まで真っ赤になっちゃってさ……コラッ!!!何所に目をやってんの!!(怒)」
民明書房刊「漆黒の戦神その軌跡」第8巻より抜粋
俺は真っ暗な室で目を覚ました。
冷静な俺は目覚めると直ぐ、現在、俺が置かれている状況を悟った。
現在の俺は布団で海苔巻のごとく巻かれたうえにロープで雁字搦めにされた状態――そう、いわゆる簀巻きってヤツだ――で手足どころか身動きひとつできやしない。
「ううっ…ここは?…それに俺は…整備班の休憩室で眠っていたはず……」
パシャ!!
俺の言葉に応える様に強いライトが何の前触れもなく俺の顔を照らした、俺は光の眩しさに目を細めながら周囲を見まわすと逆光の為に影になっていてハッキリとは分らないが小柄な人影が俺の正面に立っていることが分った。
「さて……覚悟はよろしいですね………」
唐突に人影は鈴を転がしたような声で囁いた、その御蔭で誰が立っているのか知ることができた。
彼女の名前はホシノ・ルリ……
俺達の乗艦する機動戦艦ナデシコのオペレーターであり、その能力と類まれなる容姿から「電子の妖精」とも呼ばれる存在……
彼女が微笑むのなら世の野郎どもは競って血を流すだろう、だが羨ましいことにその金色の瞳には今のところひとりの男しか映っていない。
そして今の彼女の瞳には何故だが極北のブリザードが吹雪いている。
彼女の絶対零度の視線を浴びて俺の脳みそがフル回転しだす、ここのところの出来事がまるで走馬灯のごとく脳裏を走り抜けていく。
女湯と脱衣所に仕掛けたマイクロビデオカメラの件か?…いや……確か逆さ貼り付け3日間で勘弁してもらったはずだ……ならば、この前の一番星コンテストの時の編集テープを委託販売しようとしたことについてか?……いやいや、それもデータを没収されたうえに関係した構成員全員がお仕置き部屋にてお仕置き監禁生活一週間でけりがついたはず……ハッ?!まさか、ハーリーに女性クルーの生着替えフォトデータと引き換えに製作していた着せ替えルリルリ1/1フルスケールの存在がばれたのか?!
因みに俺の所属する某組織と彼女の所属する某同盟はある理由からシバシバ交戦状態に陥ることが多く俺達はこの一連の行為を聖戦と呼んでいる、だが俺の記憶が確かならここのところ俺達は聖戦を起こした記憶はない。
と言うことは、俺個人の問題ということになるはずなのだが…心当たりが多すぎてドレだか見当が全くつかん。
取り敢えず、証拠は何もないはずだ…ここはしらばっくれて置く事にすることにしておこう、このままでは本当に走馬灯になりかねん。
「な、何の事かなあ?」
いかん、声が震えてしまった。
クールなナイスガイとしては婦女子に怯えることなどあってはならない。
そうだ、自己紹介を済ませておかないとな……
俺の名前はウリバタケセイヤ。
機動戦艦ナデシコの敏腕メカニックにして女泣かせのナイスガイ、只今恋人募集中ってヤツだ……何?妻と子供?……気にすんなイイ男ってヤツは縛られねえもんなんだよ。
「とぼけるんですね……?(憤怒)」
俺はこの瞬間、室内の温度が2〜3度下がったような感じを受けた。
そう言うと彼女はその白くてしなやかな、まさに白魚のような指をパチンと鳴らす。
それが合図だったのか薄暗かった室内に明かりが灯った。
突然の明かりに戸惑いながらも周囲を見まわす。
その俺の視界にふたりの盟友、そして黒い炎を背負った夜叉達の姿が飛び込んで来た。
「おお!!た、助けてくれ!!!我が同志達よ!!」
俺は取り敢えず怒りのオーラを背中に背負った夜叉達をムリヤリ意識の範疇から追い出すと、藁にも縋るおもいでふたりの盟友に助けを求めた。
だが、ふたりとも助けに動くどころかピクリとも動こうする気配はない、それどころか一同揃って妙に冷たい目で俺のことを見下ろしていやがる。
この時、俺は背中に冷たくてイヤアな汗が流れるのを感じた、この感覚はオリエに飲み屋のアケミちゃんのことがバレて滅殺されかかって以来だ。
俺は次の瞬間、自分の勘が正しかったことを思い知らされた。
「ふふふふふ…一服もらせてもらったよ……ウリバタケ君……」
「いい夢が見れましたかぁ?ウリバタケさん?」
なんてこった!!!あの日、血の涙を流して打倒テンカワを誓い合った友……いいや!兄弟がこの俺を?!
信じられなかった、ショックで俺の目の前が真っ暗になる。
だが、俺のそんな繊細な心も全く理解しようともせずに目の前のふたりはさらに冷酷な言葉を投げかけた。
「裏切り者には死を…これが僕達の鉄の掟だったね、ハーリー君……?」
「ええ……アカツキさん、そうです…そのとおりですとも……」
アカツキとハーリーは簀巻きにされた俺を見下ろしながら邪悪な笑いをその顔に浮かべた。
「それじゃあ、ウリバタケ君。生きていたらまた会おう♪」
「アディオスです。ウリバタケさん♪」
ふたりともそう言い捨てると部屋から出て行こうとする。
「な!!何言ってやがる!!おい!!アカツキ!!ハーリー!!」
俺の叫びにふたりの足が止まる。
「ふっ…何を言うのかと思えば…ハーリー君、例のモノを……」
「そうですね……ここは、ウリバタケさんにも罪を自覚してもらわないと……」
そういうと、ハーリーはおもむろに一冊の本を差し出して見せた。
「うっ?!そ、それは……漆黒の戦神その軌跡第8巻!?」
ま、まさか…あのことが?!
自分の顔からみるみる血の気が引いていくのが分る。
「まさか、君がこんな裏切り行為に走るなんて…残念だよ……」
いかにも残念でならないというように肩を竦めるアカツキ。
「大人って汚いんですね…さっ、行きましょう、アカツキさん」
アカツキの言葉に軽く頷き寂しげに頭を振るハーリー。
「ま、待ってくれ!!そ、それは一瞬の気の惑い……」
俺の必死の嘆願にも係わらずアカツキもハーリーも鼻で笑うと問答無用とばかりに踵を返す。
「……ナオが優華部隊の娘に貰ったラブレターをナオの彼女に匿名で届けて一緒に楽しんだ仲じゃねえか!!!」
俺の最後の足掻きとばかりの台詞に部屋を出て行こうとしていたアカツキとハーリーの足がピタリと止まる。
「な、何のことだい?」
「そ、そうですよ、口から出任せなんて汚いですよ!!」
ひとりで逝くには少々寂しいんでなあ!!アカツキィィ!!!ハーリーィィィ!!!
ふたりの顔が蒼白に変わる、焦った様に弁解を繰り返すふたりの顔を見て俺はニヤリと笑って見せる。
「そうか…お前達の仕業だったんだなぁ………(大激怒)」
壁に寄りかかっていてニヤニヤ笑っていたはずのサングラスの男が、何時の間にかふたりの後ろに立っている、その声には危険なものが含まれているのを感じ取った俺は無意識に視線を下げた。
「フ、フフフ……色々と聞きたい事があるんだ…ゆっくり別の場所でお話しようかぁ?」
「はっ?!イヤ、あれはウリバタケ君が主犯で……」
「そうです!!僕達が嫌がるのをムリヤリ……」
「まあ、その辺のことはジックリと聞かせてもらうよ……」
「はああ!!ナオ君、笑顔が怖いよ」
「暴力はんた〜い!!」
ズルズルズルズル
「さあ、キリキリ歩けやぁ」
「ヘル〜〜プ……!!!」
「ルリさ〜〜ん……!!!」
フッ…愚か者には死あるのみ……
薄っすら微笑む死神に首根っこを捕まえられながら引きずられていく愚か者どもを横目で見ながら俺は心の中でガッツポーズを取る。
「さて、次は貴方の番ですね」
ささやかな復讐に酔いしれる俺を可憐な妖精の一言が現実に引き戻した。
ルリルリの言葉に俺は自分の置かれている状況をハッキリと思い出させるのに十分過ぎる威力を持っていた。
まだ、俺はこの虎口を脱してはいない、それどころかその顎は確実に閉じられようとしているのだ。
落ち着け!!落ち着くんだ、ウリバタケ!!何処かに脱出する手段が残っているはずだ!!!
ここで屍を晒してみろ、オリエやキョウカが悲しむことになるんだ!!ここは悪魔にでも魂を売ってでも生き延びなくては!!!
何?ひとり足りなくねえか?だとぉ、べらんめい!!漢ってヤツはひとりでも強く生きていけるもんなんだよ!!余計なチャチャ入れるんじゃねえ!!!
おっと、話がズレちまったな、つまり…あ〜〜なんだ…そう!!
つまり、家族の愛の為にってヤツだ!!!そう、所謂ラヴの為に!!!
「そうそう、オリエさんには今度のことは報告済みです、ちゃんとお仕置きの許可も頂いていますので、あしからず」
………
……………
……………………
……………………………………
オリエ…俺はいらない…父親なのか……?
「如何しました、ウリバタケさん?聞こえてますか?もしも〜〜し?」
「如何したのルリルリ?」
「あっ、ミナトさん。突然、泣き出しちゃって……」
「あらあら…すっごいわね〜〜こう言うのを滝涙っていうのねえ」
ふたりの会話を聞きながらこうして俺は意識を手放した……
カゾクッテナンダロウ…そんなことを考えながら……
あとがき
え〜〜今回、通しての一人称は初体験ということになるencyclopediaです。
今回のSSですけど主人公はウリバタケさんってことになるのかな?(苦笑)
私はウリバタケ見たいな大人ってスッゴク憧れるんですよ、自分のポリシーを持って何があろうと自分の人生を心底楽しむ!!ある意味理想の大人の形だと思うんです。
まあ、今回は結構トホホな扱いを受けている彼ですけどハーリー君と違ってかっこいい大人の姿もいつかは書いて見たいと考えて下ります。
正直なとこスッゴク動かしやすいキャラクターでもあるんですよね〜〜彼って(笑)
それでは、経験の薄い一人称と言うことで拙い個所も多いと思われますが是非お見捨ての無いようお願いします。
そして、最後まで読んで下さり本当にありがとうございました。
管理人の感想
encyclopediaさんからの投稿です!!
本当に職業を制覇しそうな「漆黒の戦神シリーズ」です(笑)
あとはスチュワーデスさんくらいか?
女教師もまだだったよな?(核爆)
・・・その他にヤバイ職業しかないか。
女傭兵まで落としてるんだし(苦笑)
それにしても、ウリバタケさん・・・今回は目立っていましたね(笑)
それでは、encyclopediaさん投稿有難うございました!!
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