こんにちは、ホシノ・ルリです。
現在、私はアキトさんとナオさん、それにミナトさんを始めとするブリッジの皆さんと一緒にナデシコのある部屋を訪れています。
ことの発端はオモイカネが探知した正体不明の反応でした。
事の次第を確かめるため私達はその反応があった場所へと向かったんですが。
その部屋はタダの部屋ではなかったんです。
イネスさんの手による厳重なセキュリティが設置された、その部屋の中で私達はあるものを発見してしまったんです。
それは、格子が外れてしまった通風孔とそこにこびりついた青い粘液。
イネスさん、ここで一体、何の実験をしてたんですか?
機動戦艦ナデシコSS
みゅ〜ていしょん(後編)
encyclopedia
「そうだな…ルリちゃん。ここの通風孔って何処に繋がってるのかな?」
どれぐらいそうしていたでしょう、何となく疲れた様に通風孔を見上げていたアキトさんが、不意に思い出したように口を開きました。
「確か…格納庫のはずですが……」
ちょっと、自信がなかったので、オモイカネに艦内の見取り図を出してもらいます。
…どうやら、間違いないようです。見取り図にはこの部屋から格納庫まで、通風孔が真っ直ぐ伸びているのがシッカリ載っています。
「それでは、こいつは格納庫に向かったということか?」
ゴートさんが苦虫を噛み潰したような顔で言いました。
そうですね、途中に分岐がない訳でもありませんが、どれも細くて狭いものです、となると、何が潜んでいるとしても、格納庫に向かった確率が一番濃厚のようです。
「じゃあ、どうするよ?イネス博士に問いただしに行くか、それとも格納庫に行って見るか、どっちにするんだ?」
通風孔の辺りを気にしながらヤガミさんが言いました。
私としては見なかった事にして知らん振りを決め込みたい所です。
「そうだな…それじゃ『アキト、大変なの!!』
アキトさんが口を開こうとした、その時です。
アキトさんのコミュニケから呼び出しの電子音が鳴ると、続いて空中につなぎを着た黒髪の女性のバストショットが浮かびました。
ここにいるエリナさんの実の妹でナデシコ整備士さんのひとりレイナさんです。
「どうしたの?レイナ」
横から割り込むようなエリナさんにレイナさんは少し驚いたようでした。
『あれ?姉さん?それに、ルリちゃんも、もしかしてみんなそこにいるの?』
「ああ、みんなここにいる。それで何が起こったんだい?」
アキトさんが促すとレイナさんは困った顔で頬を人差し指で掻きながら言いました。
「う〜〜ん、それなんだけど口で説明するよりも見た方が早いと思うの、だから格納庫まで急いで来てくれる?」
「あ?ちょっと」
「それじゃ急いでね」
レイナさんはそれだけ言うと通信を切ってしまいます。
「それで?行ってみるの?」
「仕方ないでしょう、格納庫で何かあったようですしね」
エリナさんの問いかけにアキトさんは仕方ないとばかりに肩を竦めています。
「じゃあ、早速格納庫に向ってレッツゴー!!」
傍で聞いていたユリカさんが右手を力強く天に向って突き上げながら大声で言いました。
ユリカさん、なんでそんなに元気なんです?
「あれ…かしら……ね……」
「多分…そうだと……」
そう言ったのは誰でしたっけ……
格納庫のほぼ中央。
整備中らしいピンク色にカラーリングされたエステバリスの背後。
「あれって…ミナトさん…もしかして……」
「サラちゃん…その先は言わないでもいいわ……」
「ラピス、アレ知ってる……」
「むう……」
「いやはや何と申しましょうか……」
「私達は夢を見てるのかしらね…メグミさん……」
「いいえ、現実だと思いますよ…エリナさん……多分…」
「わ〜〜い♪おっきい〜〜♪」
皆さん考えている事は同じようですね。
つぶらなと言うより何も考えてなさそうな丸い瞳。
笑ってるような弛んだ口。
やたら鮮やかな青、ゼリーを思わせるプルプルした身体。
手も足もない、たまねぎを思わせるずんぐりしたフォルム。
そして、エステバリスほどもある巨体。
アレ…私、知っています。
「スラ○ム…ですね……」
私の思わず口をついて出た呟きに、皆さん揃って大きく頷いたのでした。
「おおっ!来たか!!テンカワ!!」
「ああ!来てくれたんだね!!アキト!!」
私達が呆然と見上げていると、つなぎを着た中年の男性と女の人が小走りに駆け寄って来るのが見えました。
整備班の班長ウリバタケさんと先ほど連絡を入れて来たレイナさんです。
他の整備班の人は例の巨体を遠巻きに伺っています。
「あれは一体どうしたんです?」
アキトさんがウリバタケさんに言いました。
「どうしたも、なにもイキナリ上から降ってきやがったんだよ」
「そうそう、ヒューーッ、ドサッってね」
どうやら、あれが例の部屋から逃げ出した『何か』に間違いないようです、見取り図にも通気ダクトが、あの部屋から格納庫の天井まで伸びていることが、載っている事から見ても間違いないでしょう。
幸いなことに今は何も暴れることなく、プルプルと震えながら興味があるのかピンクのエステバリスを突っついています。
お互いに顔を見合わせて話し合いますが良い意見が出てきません。
「取り敢えず一旦戻って対策を練るとしましょう」
プロスさんの妥当な提案に揃って肯いた時でした。
「ああ!!オレ様のエステに何して……ムグムグ」
突然の大声に誰もが声のした方を見ました、そこにはヤマダさんを羽交い締めにして口を塞いでるリョーコさん達の姿が見えます、あ…どうやら、ぼでぃにいいのをもらったようですね、グッタリしてしまいました。
「あのバカ……」
アキトさんが天を仰いでます、その気持ち十分解りますよ。
クイクイ
おやっ?誰ですか、服を引っ張るのは?
「ね、ねえ…ルリルリ……」
あ、ミナトさんでしたか。
私は振りかえってミナトさんの方に顔を向けます。
「どうしたんです?」
ミナトさんは別の方向に視線を固定したまま無言で右手をスッと上げると、ある一点を指差しました。
何でしょう?私もミナトさんの指差した方向を見ると――
「………見てますね(汗)」
――例のスライ○がこっちを伺ってました………
「ここは刺激しないようゆっくり落ち着いていきましょう」
エリナさん顔色悪いです、でもその意見には賛成です。
ぬきあし…
さしあし………
しのびあし……………
もうすこしででいりぐちにたどりつきますどうやらなんとかうまくいきそうですねとりあえずここからでたらおもいかねにたのんでかくのうこをへいさしてどうのつるぎとくさりかたびらをそうびしてやどやにとまってかいふくしてまちのひとにはなしをきいてそれからそれからえ〜〜とそうだ!!ぼうけんのしょにきろくをしなくては………
………はっ?!さりげなく錯乱してしまっていたようです、いけません、こんな時にこそ私が冷静にならなくては。
しかし、そんなに上手くは行かないものなんですね……
「そこまでだあ!!!」
何時の間に復活したのか、ヤマダさんが上の移動部分で騒いでいました。
ああっ……バカばっかりですぅぅ(泣)
ここの所言っていなかった口癖を心の中で呟いていた間にもヤマダさんのテンションは跳ね上がってたようでした。
「このナデシコの平和を脅かす悪の怪物め!!このダイゴウジガイ様が退治してくれるわあぁぁぁ!!!!!」
全員、固まってます。
……どうやらス○イムもヤマダさんに気を取られているようです、こうなれば私達はサッサと逃げることにしましょう。
「ゆくぞ!!トウッ!!!」
気合と共にヤマダさんが宙に飛びます。
「くらえい!!ゲキガンキィィーーック!!!!!」
ヤマダさんの身体は引力と勢いに乗ってスラ○ムに向って一直線です。
落下予測地点はスライ○のほぼ中心。
そう、スライ○の口に向ってです………
ゴックン
あ、やっぱり飲み込まれましたね………
おかしいヒト…もとい、おしいヒトを亡くしました、ヨヨヨ(嘘泣)。
ご冥福をお祈りしましょう、ナムナム。
何だかおなかの辺りでヒト型の何かがモゾモゾ動いてるようですが…無視しときましょう。
「ねえねえ、なんだか満足そうじゃないかなあ?」
そうですか?ヒカルさん、私には変なモノを飲み込んで目を白黒させているように見えますが。
「ヤマダ、成仏しろよ……」
リョーコさん、ヤマダさんだったら大丈夫ですよ、丸呑みだった様ですし、さっきも元気にハシャイでいたようですから。
「ヤベ!!こっちに気づきやがった見てぇだ」
私達がヤマダさんを偲んでいるとウリバタケさんが大声で怒鳴りました。
確かに、ゆっくりとですがこちらに向って近づいて来ます。
……もしかして口直しでしょうか?
「兎に角だ!!こんなこともあろうかとセットして置いたウリバタケ特製指向性爆薬をおみまいしてやるゼェェェ!!!!!」
やけにハイテンションなウリバタケさんの片手には、何時の間にやらスイッチが。
「え?!ち、ちょっと、艦内で爆弾なんか使ったら……」
エリナさんが止めようとしていますが、少し手遅れのようです。
「フハハハハハハハ、そおれ、ポチィッとなあぁぁぁ!!!!!」
ドカアアアアアアアアアアアン!!!!!
閃光が弾けました。
ウリバタケさんのアレな高笑いを聞きながら、私は思わず口にしてました。
「バカばっかりです」
ここで話は冒頭に繋がります。
あの後、ブリッジまで戻って来た私達は、現在、対策会議を開いています。
「わ、私の所為じゃないわよ」
皆さんの冷たい視線に晒されて、流石のイネスさんも珍しく焦っています。
「本当ですね(怒)」
プロスさんのこめかみに、青筋がクッキリ浮かび上がっています、そういえばあの後、ウリバタケさんの頭を鷲掴みにして引きずって行ったようですがどうしたんでしょうか?
「なら、あの部屋で何をしていたのか、白状してくれるわね(怒)」
エリナさんもお冠です。
「え、え〜〜と…た、大した実験じゃないわよ……うん」
「「「「「「「「「「「「「「「イネスさん(ドクター)!!(怒)」」」」」」」」」」」」」」」
「はい………」
バレバレですよ、イネスさん。
「私があの部屋でしていた実験はある物質の分析」
「分析?ある物質?」
「それはね……」
小首を傾げるミナトさんに、イネスさんがもったいぶる様に答えました。
「それは?」
「ズバリ、艦長の手料理よ!!!」
か、艦長の手料理ですか?!
一口目で意識を失い、二口目で後遺症に悩まされ、全て平らげれば死に至ると言うあれをですか?!!!
「あ!大丈夫よ、ちゃんと致死量の数千倍に薄めての実験だから」
イネスさんが慌ててフォローを入れます。
しかし、致死量が存在している時点で料理とは呼べないと思うのですが。
「ヤマダ君にも協力してもらったのに、分析の結果解ったことと言えばあれの非常識さぐらいなものだけどね」
お手上げとばかりに肩を竦めるイネスさん。
ホウメイさんが見たところでは食材以外にユリカさんが使用した形跡はないそうなんですが、どんな過程を経ればあの物質が合成できるのが不思議です。
それにしても、ヤマダさんは一段と人間離れしてきたようですね。
「それじゃあ、あの格納庫のあれは何なんですか?」
メグミさんの疑問に誰もが首を捻っています。
「それに関しては私に仮説があるわ♪」
イネスさん嬉しそうですね、そんなに説明できてうれしいんですか?
「事態が事態なので簡潔にお願いします」
プロスさんナイスフォローです。
イネスさんもそんなに恨めしそうな顔をしないでください。
「それはね、突然変異よ」
「「「「「「「「「「「「「「「突然変異?」」」」」」」」」」」」」」」
イネスさんの言葉にお互いに顔を見合わせてます。
「突然変異の意味は分かるわよね?」
イネスさんが見回すと、皆さん慌てて視線を反らしてます。
仕方ありませんね……
「簡単に言えば、何かの要因が加わる事によって、従来とは全く異なった変化が生じる現象のことです」
「そうね、概ねそんなとこかしら」
私の答えに満足したのかイネスさんは大きく頷くと説明を続けました。
「この変化を促す要因としては様々なものが挙げられるわけだけど、そのひとつに外的要因があるわ、そしてそれは強ければ強いほど、大きな変化を起こしやすい……」
ここでイネスさんは言葉を一旦切りました。
強力な外的要因?艦長の料理?まさか?!!
私の中で閃くものがありました。
「それって、もしかして……」
「ええ、恐らく艦長の手料理が、実験に使われた細胞に何かの影響を与えたんじゃないか、とそう睨んでいるわ」
何と言えばいいんでしょうか、言葉が出てきません。
「シャ、シャレにならないわね」
ミナトさんも引いています。
「で、でも、切り離されて実験に使われた細胞片なんて……」
納得したくないんでしょう、エリナさんが懸命に否定しようとしてますが。
「でも、ヤマダ君のだしねぇ……」
イネスさんの一言で粉砕されてしまいました。
ユリカさんの手料理にヤマダさんの細胞ですか…考えられない事がないのが怖いです。
皆さんも想像してしまったのか顔色が悪いです。
「まあ、何が原因かは置いといて、あれをどうしますか?」
アキトさんの建設的な一言が皆さんを現実の世界に引き戻しました。
確かに、単純にやっつけるとしてもウリバタケさんの爆弾にも無傷というタフさは脅威です。
私達がああでもないこうでもないと頭を抱えている中で、イネスさんはひとりニヤリと笑いながら。
「それは大丈夫よ、私に考えがあるわ」
と自信タップリにおっしゃったのでした。
ちょっと、心配です………
ズドオォォォォォォン
爆音が格納庫を振わせ、炎がス○イムの巨体を真紅に染め上げています。
「ぬおおっっ!!何故無傷なんだあぁぁぁ!!!」
ウリバタケさんが頭抱えて喚いてます。
「こうなりゃあ、この最終兵器でナデシコごと木っ端微塵に「するなああっっ!!!」」
ドゴォ!!ゴキャ!!
ウリバタケさんが、懐から取り出した怪しげなスイッチに手をかけるよりも、一瞬早く、エリナさんが何処からともなく取り出した金属バットが、ウリバタケさんを黙らせます。
それにしても、奇麗に振りぬきましたね……大リーグも狙えますよ………
「ね、姉さん!?」
「ハアハアハア……レイナ、状況は?」
「え?!あ〜〜見ての通りよ」
レイナさんは床に転がったまま、ピクリともしないウリバタケさんが気になるのかチラチラ横目で伺っています。
赤いものが急速に広がっていっているようですが気にしないで置きましょう。
例のスライ○は爆発の衝撃にも炎にも動じることなく、あの何を考えているんだか分からない、弛んだ表情のままプルプルと震え続けています。
「何やっても効き目なし、まさにお手上げってやつね」
レイナさんはそう言いながらヤレヤレと肩を竦めると溜め息をつきました。
「それにしても、どうするの姉さん?アレ……」
そう言って背中越しに親指であのスラ○ムの巨体を指差しました。
「それについては、ドクターが考えがあるって……」
「お・ま・た・せ〜〜」
エリナさんとレイナさんが会話をしていると、イネスさんが白衣を翻して格納庫に姿を現しました。
「それでイネスさんの考えって言うのはどうなったんですか」
私が質問するとイネスさんは白衣のポケットから拳大のカプセルを取り出して見せました。
カプセルの色は茶褐色、何が詰まってるんでしょう?
「ンフフフフフ♪これよこいつを口に放り込めばOKよ」
そして、そのカプセルをアキトさんに手渡して言いました。
「さあアキト君、お願いネ」
「はあ、まあ、いいですけど」
アキトさんは釈然としないようでしたが、イネスさんの指示通りカプセルを放り投げました。
カプセルは奇麗な放物線を描いて口の中へ。
すると……
みょおぉぉおおぉおおおぉぉぉおぉおおおおおん!!!
それまでどんな攻撃にも動じなかった青い巨体が、奇妙な雄たけびを上げゆっくりと崩れ落ちたじゃありませんか。
その様子に、固唾を飲んで見守っていた皆さんの間から、歓声が湧き上がります。
「うわあ、完全に白目剥いちゃってる……」
ミナトさんが感心したような声をあげました。
確かに、スライ○は完璧に白目を剥いた状態で、その巨体を床に横たえたままピクリとも動きません。
「あのカプセルは一体……」
アキトさんもその威力を見て冷や汗を掻いています。
「フフフフフ、流石ね…惚れ惚れするほどの破壊力だわ、これはもう一度ジックリと分析する必要があるわね………」
イネスさんは満足そうです。
「あれ何だったんですか?」
「知りたいの?アキト君」
上機嫌だったイネスさんが、同情というのか痛ましげな表情に変わります。
「あれはね……出来たての艦長特製ビーフシチュー………」
それを聞いたアキトさんの顔が真っ青になったのでした。
………ユリカさん。
私、これだけは越えられそうにありません。
あとがき
どうも、妄想を文章にするencyclopediaです。
まず初めに今回は初の前後編ということで、どうも未熟な文章になってしまったことを御詫びします。
やっぱり、難しいですね、活躍させたいキャラが多いと(笑)
どうも、中途半端な感じになってしまいました、猛省です。
今回は、私としてもアキトの活躍が少ない、ハーリー苛めが少ないなどと未練の残る文章でしたが、最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。
では。
管理人の感想
encyclopediaさんからの投稿です!!
・・・ユリカの手料理に始まり、ユリカの手料理に終る、ですか?(笑)
見事なまでにその姿勢を貫きましたね(苦笑)
いや、まあ、確かに強力そうえすがね?
スライムの体内にいたガイはどうなったんですか?
ついでに、後半は姿も見せなかったハーリー君は何処に?
最後に・・・ジュンはこのナデシコに乗ってますか?(爆笑)
それでは、encyclopediaさん投稿有難うございました!!
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