虹色の光芒と闇がせめぎ合う空間をアキトはもう一人の自分と言うべき存在と共にさまよっていた。

 それはチュ−リップの中の空間と同じものであった。

 つまりそれはボソンジャンプ中ということだ。

 しかし、昏睡中のアキトにイメージングができるわけがない。

 それが示すのはアキトはランダムジャンプをしたということ。

 そう、アキトはランダムジャンプをしてしまったのだ。

 昔に戻りたい・・・・・・そんな不安定なイメージだけを頼りに・・・・・・

 そして・・・たどり着いた先は・・・・・・・・・・・・


 

機動戦艦ナデシコ 

TWIN DE アキト

 

第一話 『男らしく』で行こう





「はい」

 一人の青年が栗毛というか、金髪というか、少々際どい髪の色をした少女にミカンを手渡した。

「わあー、お兄ちゃんありがとう」

 少々舌っ足らずな喋りでお礼を言う少女。

「どうもすいません」

 少女の母が青年に礼を言う。

「いえ・・・」

 青年はそれに返事する。

「ねえ、お兄ちゃん、デートしよ」

「え・・・」

 多分デートというものを余りよく理解していないだろう少女の言葉に唖然とする青年。

「うん。 いいよ」

 苦笑しながらもそう返事をする青年と、苦笑いをする少女の母親。

 これがテンカワ アキトとイネス=フレサンジュ・・・・・・アイ=フォースランドがデートの約束をした時であった。

 ズシーーン

 重い音がシェルターの中に響いた。

「本部! 本部!」

 軍人が慌てた様子で無線機に声をかける。

「無駄じゃよ・・・下がこれじゃ上はもう・・・・・・」

 軍人がその言葉を言った民間人に何かを言おうとしたとき、

 ズガァーーン 

 先ほどにも勝る重い音が 響いた。 いや、今度のものはシェルター内からのもの。

 つまりそれは、木星蜥蜴の、その名前の由来となった虫形の小型無人兵器・・・・・・形状がバッタに似ていることから『バッタ』と名付けられた・・・・・・がシェルター内に侵入してきたことを示す。



「うおおおぉぉぉぉぉおーー!」

 何だかよく分からない乗り物に乗ったアキトが、咆吼と共にバッタに突撃する。

 ガシィッ

 鋭いんだか鈍いんだかよく分からない音と共にアキトはバッタとぶつかった。

 ギュルルルル!

 アキトがIFSを全開---即ち乗り物の出力を全開にして、バッタを畳みかける。

 バッタは壁とサンドイッチ状態になった。

 バッタは小さな爆発をした。

「お兄ちゃんすごい!」

 アイが興奮した声でアキトに賞賛を送る。

「おおおぉぉぉぉ」×たくさん

 その他の大勢の人も歓声を上げる。

 バシュン

「開いたぞ!」

 バッタがシェルター内に侵入してきたときからシェルターの入り口を開けようとしていた軍人と民間人がついに扉を開けたらしい。

 その瞬間、いくつかの光が現れた。

 バッタの軍団が繰り出したレーザービームだ。

 ただ一つを除いて・・・・・・

 その一つの光は、青い、ボソンの光芒だった。

 レーザービームが人々に死をもたらす前に、ボソンの光が実体化した。

 漆黒の禍々しさを感じさせる・・・しかし、どこかもの悲しげなシャープな機体・・・・・・細部はその機体の操縦者が自分の宿敵にして怨敵である人間を屠ったものと対して変わらない、しかしその実、全然別物である機体。

 それはブラックサレナMk−Uだった。

 ブラックサレナMk−Uは、バッタの放った死をもたらす光を弾いた。

「うわああぁぁ」×たくさん

 アキトは人々の声に反応して振り返った。

 人々には、アキトには、ブラックサレナMk−Uは、バッタたちを従えた死に神に見えた。

「あ・・・・あ・・・・うわあああぁぁぁぁぁぁーーー!!!」

 アキトはその光景に絶叫した。

 その瞬間、アキトの体を光が包んだ。

 その光はシェルター内にいた人々をも包み込む。 ブラックサレナMk−Uも然り。

「あ・・・お兄ちゃん何処に行くの!?」

 アイは動物としての(人間も立派な動物である)本能から、アキトがどこかに行ってしまう・・・自分がアキトと離ればなれになってしまうのが分かったのだろう。





 そして光が炸裂した。





 少し(かなり?)時を進める。 





 ピンクのエステバリスが海を目がけて跳んだ。

 着水。

 沈むと思いきや、海が盛り上がり、エステバリスが持ち上がる。



「敵残存兵器、グラビティブラスト有効射程界内に全て入ってます」

「目標敵まとめてぜ〜んぶ!」

 エステバリスを持ち上げたもの---機動戦艦ナデシコ、その白亜の戦艦から一筋の閃光が放たれた。

 その光に飲み込まれたバッタやジョロは、ひしゃげ、ねじくれ、爆発した。



「って、あれ・・・? まだ十分経ってないけど・・・・・?」

 それを見つつ、アキトが言葉を漏らす。

『貴方のために急いできたの』



 その頃ブリッジでは、

「ほう、すばらしい威力ですな」

「嘘よ・・・偶然だわ、偶然に決まってるわ!」

 ・・・・・・などの会話がなされていた。

 その時だった。

「! 爆発中のチューリップから機動兵器が一機出てきます!」

「ですが、活動はしていないようです」

「グラビティブラスト再チャージまでどれくらいかかりますか?」

「75秒ほどです」

「念のため再チャージしておいてください」

「はい」

『あ・・・あれは・・・あいつは・・・・・・』

「どうしたの? アキト」

『あの黒い奴は・・・・・火星の人たちを・・・・・・・!

 うわあああああぁぁぁぁぁああぁあぁ!!!』

 アキトの駆るピンクのエステバリスが、今や完全に崩れ去ったチュ−リップから現れた所属不明の黒い機動兵器に突進する。

「ア、アキト!」



 ピンクのエステバリスが凄まじいまでのスピードで黒い機動兵器に肉薄する。

 素人が、並のパイロットでも意識が飛んでもおかしくないスピードを出せるわけはないが、激しい興奮がそれを可能にしていた。

 アキトがワイヤードフィストを繰り出した。

 エステバリスの腕が黒い機動兵器に当たる間際、その腕が弾かれた。



「ディストーションフィールド!!」

「! あ、あの機動兵器のディストーションフィールドの出力は、本艦のディストーションフィールドよりも上・・・・です」

「あ、あの大きさの機動兵器が!?」





 数分時を戻そう。





「ここは・・・・・どこだ・・・・?」

 黒いマント、幅の広い黒いバイザーを付けた、夜道であったら問答無用で警察やらなんやらに助けを求めたくなるような怪しい男が呟いた。

「天国・・・・・・? ふぅ・・・・。 まさかな・・・・。 俺が行くのは地獄・・・だな」

 自虐的な笑みを浮かべる。

「少なくとも・・・・・・まだ死んだようではなさそうだ・・・な」

 男の体・・・否、男がいる場所が揺れた。

「くっ・・・・・・」

 覚悟が全くないときの揺れだったため、唇を噛んで耐えた。

「!? 血の・・・・味・・・・・・?

 ばっ、馬鹿な! そんなことあるはずがない!

 何をやっても、匂いと・・・・・・味だけは感じるようにはならなかったんだぞ!?」

 男の名前はテンカワ アキト。」

 アキトがいる場所はブラックサレナMk−U。

「・・・・・・まあいい。 それよりも此処は何処だ?

 オメガ! 周囲の映像を出せ」

『了解』

 オメガとは、北辰との決戦によって破壊されたブラックサレナを強化した、ブラックサレナMk−Uに搭載されている機動兵器用縮小版オモイカネの名前である。

「これは・・・・・・一体どういうことだ?」

 思わずアキトは呟いた。

 映像に出たのはアキトの見慣れた機体・・・・・・ピンクのエステバリスだったからだ。

 ピンクのエステバリスが攻撃してくるのをディストーションフィールドで防ぎつつ、

「オメガ! 今は西暦何年だ!?」

『・・・・』

「どうした、オメガ?」

 オメガは一瞬逡巡し、回答した。

 その回答が示す時は・・・・・・

「そ・・・そんな馬鹿な・・・・・・・・・

 俺は・・・過去に来たのか・・・?」





「例の機動兵器から通信が入っています。

 ・・・・・・どうしますか?」

「う〜ん・・・・・・。 それじゃあメグミさん、通信・・・・・・開いてください」

「はい。

 ・・・通信、開きます」

 ピッ

「これはまた・・・・・・」

「何なのよ! この怪しい男は!?」

「むう・・・」

「・・・・・・ほう・・・・」

「ま・・・まっくろくろすけ・・・・・・」

「何か怪しいです・・・・」

「ユリカ〜、こいつなんか怪しすぎるよ」

「どっかアキトに似てる気が・・・・・・」

「・・・・変な格好・・・・・・」

 アキト(黒い王子様)の姿に対する反応は様々だった。

『・・・・プロスペクターという人はいるかい・・・?』

「私ですが、何か?」

『一対一であなたと話がしたい』

「・・・・・・。 分かりました。

 3分後、此処に回線を繋げて下さい」

 アキト(復讐人)に自分用の、個人用S級秘匿回線を教えるプロスペクター。

『分かった。

 それはそうと、早くこのピンクのエステバリスを回収しないと腕が壊れるぞ』

「そうですね。 艦長、テンカワさんを回収してください」

「あ、はい、分かりました。

 アキト、帰還してください」

『何でだよ! こいつは! こいつは火星の人たちを!』

「艦長命令です!

 アキト! 戻りなさい!

 ・・・それに、そんなことしても、エステバリスの腕が壊れるだけだよ・・・・・・」

『くっ・・・・・・。 分かったよ、戻るよ・・・・・・・』

 いかにも渋々と言った感じでアキトが引く。





 三分が過ぎた。

「それでは・・・・・・まず、あなたのお名前は?」

『本名は言えない。

 とりあえず・・・・・・そうだな、“D”とでも呼んでくれ』

「分かりました。 ・・・それでDさん、あなたの御用件は一体なんですか?」

『単刀直入に言おう。 俺をナデシコに乗せてくれ』

「あなた・・・・一体何処でナデシコの事を・・・・・?」

 ナデシコのことはまだ、ごく一部の人間にしか知られていない。

『それは言えない。 しかし、俺をナデシコに乗せてくれるのだったら、ボソンジャンプの資料を少しばかりネルガルにくれてやる』

「(損な取引ではありませんが・・・・)・・・貴方の目的はなんなのですか?」

『戦争のあるべき姿の終結・・・・・・それだけだ』

 Dはバイザーをはずした。

「・・・・・・!(この顔は・・・・・・テンカワさんと同じ! 双子とか・・・そんなレベルではない。

 彼は・・・・・・本当に何者なんでしょう)」

 暫くプロスペクターは悩んだ。

 そして、

「分かりました。

 それではあなたをパイロットとして雇いましょう」

『ありがとう、プロスさん』

「いえ・・・ところでお給料の方はこれぐらいで・・・・」

 プロスペクターが示した金額は、かつてDがナデシコに乗ったときのパイロット分の給料と同額だった。

 しかし、Dには特に使う当てはないので、

『その半分でいいですよ。

 それはそうと、早速ですが、アカツキ・・・いや、ネルガル会長に伝えてください。

“有人ボソンジャンプの実験は今すぐ止めろ。 死人が増えるだけだ”

 と・・・』

「分かりました」





 ------ブリッジにて------

「お待たせしました。 それではDさん、着艦してください」

「ほぇ? どういうことですか? プロスさん」

「彼・・・Dさんは私が今さっき、正式にパイロットとして雇いました」

「どういうことだ! あいつは・・・! あいつは火星の人たちを・・・・・!」

 いつの間にかブリッジに来ていたアキトが文句を言う。

「それについては完全にテンカワさんの誤解です」

どういうことだよ、それは・・・!」

「彼の機動兵器・・・・・・・・・ブラックサレナMk−Uというそうですが、その画像データを確認させていただきましたが、おそらくテンカワさんがいたというユートピアコロニーの内部が映った瞬間に、あたりが光に包まれたかと思うと、光というか、闇というか、そういうものが映り、その後はグラビティブラストの光が映り、テンカワさんが操縦していたエステバリスが映っていましたから。

 嘘だと思うのなら、ご自分で映像を見させてもらってください」

「そう・・・か・・・・・・」

「アキト、元気出して。 きっとみんな生きてるよ」

「ん・・・ありがとう・・・ユリカ・・・・・・」





 こうして黒い王子様〈テンカワ アキト〉は過去に放り出され、再びナデシコAに乗ることとなった。





   次回予告

 ムネタケが反乱を起こす。

 ジュンは再び忘れ去られるのか!?

 次回 『緑の地球』はまかせとけ
              をみんなで読もう!





   本星への報告書1

 執筆時間は2時間半ちょい。 慣れてないからな、疲れた。

 そういえば、プロローグには感想を書いていない。

 ところでどうでしょうか、この時間逆行物は。

 今までオレが読んだナデシコSSで、アキトが二人になるのは読んだことがなかったんで、やってみました。

 予定としては、週一か週二で投稿したいな〜と思っている今日この頃。

 ・・・・・・・・・そういえば、ガイが出てきてないな・・・

 

 さて、送信先のメールアドレスが何故か間違っていたがために、この第一話がプロローグと一緒にUPされませんでした。

 ご迷惑(?)をおかけしました。

 本編のあとがきは『本星への報告書』で、『漆黒の戦神アナザー』ではあとがきが『新本星への報告書』となります。

本星への報告書1 終

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

E.Tさんからの連続投稿第一話です!!

なるほど、こうきましたか。

しかし偽名がDとはね〜(苦笑)

これでディストーション・フィールドを展開したら、そのものだな〜

・・・携帯用のディストーション・フィールドもってるだろ、アキトなら。

 

さてさて今後はどうなりますかね?

 

ではE.Tさん、投稿有り難う御座いました!!

次の投稿を楽しみに待ってますね!!

 

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