イツキは回想する。
あの時のことを。
・・・・・・難波家の人間が天河宅に遊びに来たときのことを・・・・・・・・・
それは、6月3日(日曜日)だった。
ジュウゾウが、ミサオに「ミナトン家イコ」と誘われ、天河宅に遊びに来た。
住宅街から、少し離れた位置にポツリと、ドーンと佇む邸宅。
修飾語が矛盾しているが、気にしてはいけない。
実際に、この通りなのだから。
「・・・・・・本当にでかい家だな。
話には聴いていたが」
後頭部に大きな汗を浮かべながら呟いた。
「そんなに驚くこと?」
とミサオが言うと、
「一家全員で暮らしているならば分かるが、ミナトとその弟の二人だけなのだろう。この家に住んでいるのは」
しみじみと呟く。
ミサオも、成る程と頷く。
「・・・・・・・・・・・・。
それはそうと、一つ訊いていい?」
「・・・・・・?
なんだ」
不思議そうに聞き返すジュウゾウと、その他一名。
・・・・・・その他一名?
「その、後ろにいる女の人、誰?」
「・・・・・・これ、は・・・・・・・・・」
「私のことを『これ』呼ばわりするのはこの口か、この口かぁーーっ!?」
ジュウゾウの後ろにいた、茶金の髪をポニーテールにした女性が、彼の口を後ろから“ぐいーっ”とひっぱる。
「や、やめふぉ、フェフィ(訳:や、やめろ、レイ)」
「やっだも〜〜ん♪」
グニグニ
グニグニ
「(・・・・・・楽しそうだな〜〜)」
それを見て、物欲しそうに唇に指を当てるミサオ。
思えば、これが最初のミサオとレイの出会いだった。
「・・・・・・ミサオさん?
それと・・・・・・男の人と、そのほっぺた“みょ〜ん”って引っ張ってんの誰だろ?」
それを見てイツキがポソっと呟いた。
「まあ、親しそうだし、きっとあの人ミサオさん関係の人なのよね」
ともう一度呟き、
「さっ、そんなことよりもアキト君、アキト君ーっ♪」
るんたった、るんたった鼻歌歌いながらスキップするイツキ。
向かう先は当然ミサオらがたむろする天河宅。
「こんにちは、ミサオ先輩」
3人に近付き、ミサオに声を掛ける。
「ところで、この人たち、誰ですか?」
ミサオの腕を、ちょんちょんっとつつきながら訊くと、答えた。
「私は難波 零。
ジュウちゃんの従姉よ♪」
「じゅ、ジュウちゃん?」
「ナンバ ジュウゾウ、この子のことよ♪」
頬を放し、今度は頭を腕に抱き、つんつんと頬をつつきながら宣った。
「・・・私のクラスメイトなの」
と、ミサオがジュウゾウのことを指差し、言う。
そしてこれが、イツキと、その終生のライバルと勝手に認識されたレイの出会いだった。
ぴ〜んぽ〜ん
チャイムを鳴らすと、
ドタドタドタ・・・
という足音がし、
「「は〜い」」
ガチャッ
アキトとミナトの声がし、ドアが開いた。
「いらっしゃい、イツキちゃん、ミサオさん!」
「いらっしゃーい、ミサオ、ジュウゾウ君、それと・・・イツキちゃん」
・・・・・・最後の名だけはどこか声が邪険だった。
「こんにちは、アキト君♪」
「昨日ぶりっ、ミナト!」
「・・・じゃまする」
「おっ邪魔しまぁ〜〜すっ♪」
4人が2人に声を掛ける。
「って、あら?
ミサオ、その女の人は?」
「ジュウゾウ君の従姉のナンバ レイさん」
と、紹介する。
「初めまして、ジュウちゃんの従姉のレイで〜す♪
・・・あなたがミナトさんね。
ジュウちゃんから聴いてるわよ。
それと、こっちの可愛い坊やがアキト君ね。
ミナトさんには弟がいて、名前はアキトだって聴いたわよ」
と、アキトに後ろから抱きつきながら言った。
抱きついたのは、“こっちの可愛い坊や”の辺りからだ。
「うわっ、や、止めてくださいよぉ〜〜っ」
羽交い締め気味に抱きつかれたアキトは、バタバタと抵抗するがレイの戒め(笑)が解けるはずがない。
なお、それを見たイツキは嫉妬の豪火(焦点温度四万度以上)を背負う。
その温度はあまりにも高く、隣にいたジュウゾウの服が燃えていたりした。(滝汗)
これを皮切りに、レイはアキトと会うたびに抱きつくのである。
それも、イツキに見せつけるように・・・・・・・・・
だが、彼女は知らなかった。
レイが別にアキトを好きなわけでも何でもないことを。
アキトは一見モテていないように見えるが、その実とてもモテていた。
だが、ほぼ全員がお互いに牽制しあい、端から見ると別段そうは見えないのだ。
ユリカやカグヤといった、ごく一部の人間を除いて。
イツキは、不幸としてその事実を知っていた。
それ故に、イツキはレイがユリカやカグヤタイプの人間で、アキトに惚れていると勘違いしてしまったのだ。
実際には、ただ単にその面白いこと好きの性格から、
2人をからかっているだけのことを知らずに。
・・・・・・・・・回想の一幕が終わった。