Act.0 いざ集合

「ごっめーーん、待ったぁー!?」

「おっそいよ、はるかー」


 ミナトが、手を腰に当てながらはるかに文句を言う。


「あははは、早くしないとシャトルが出ちゃうよ」

「ってミサオ、まだまだだよ、さすがに」


 ミナトの言葉に、意味無く「あははは」と笑うミサオ。


「え・・・と、まだ来てないのはナンバ君とレイさんだけかな?」

「お姉ちゃん、まだアキト君とイツキちゃんとガイ君が来てないよ」


 辺りを見回し、ユウノは、


「そういえばそうね。

 それにしてもガイ君がいないと静かね、コトミ」


 姉の言葉に苦笑するコトミ。



 数分すると、ジュウゾウとレイが来た。

「ゴッメーン、遅れちゃったー」


 ズルズルズル・・・


「・・・・・・・・・」


 ズルズルズル・・・


「・・・・・・・・・」 ×みんな


 ズルズルズル・・・


「いやー、ここにきてまたごねちゃってさー、ちょっと説得してたの♪」

「(説得って、アンタ一体何したー!?)」 ×みんな


 心の中で絶叫した理由。


 それは、レイが気絶したジュウゾウを引きずってきたからだ。



 それからまた数分して、


「すまん!

 寝坊した!!」

「ホントーにゴメン。

 このバカには後で殴って聞かせとくから勘弁!」

「イツキちゃん、殴らない殴らない」


 ガイ、イツキ、そしてアキトの登場。


「も〜、アキト、遅い。

 シャトル、後5分で搭乗手続き締めきりよ」

「ごめんっ義姉さん、本当に、ゴメン」


 心の底から申し訳なさそうに頭を下げるアキト。

 それを見たミサオ、はるか、イツキ、ユウノ、コトミ、ジュウゾウ、レイの心は一つだった。

 即ちーーー


「コイツ、将来尻に敷かれるな」



 ヘブンズコロニー旅行当日の朝の、極々平和な一幕だった。








機動戦艦ナデシコif
Another NADESICO
第7話 「到着」









 
Act.1 シャトル内にて

 わいわいがやがやと騒ぎながら、一行はシャトルに乗った。

 席は、秀雅の権力と金を使い、VIPルームである。


「いやぁー、ヤッパVIPルームってーのは、何回乗ってもいいねー!」

「えっ、ガイ君そんなにシャトルのVIPルームに乗ってるの!?」


 ガイの言葉にユウノが驚いた。

 ミサオとミナトの祖父秀雅がネルガルのユートピアコロニー支社の支社長と、名士であることは知っていた。

 しかし、ガイがそんなにシャトルのVIPルームに乗れるようには、思いもしなかったのだ。

 妹のコトミも、同様に驚き、目を丸くしている。

 はるかは興奮して昨日は眠れなかったらしく、椅子に座るなり眠ってしまっため、反応無し。

 ジュウゾウとレイは、クリムゾンからの情報で知っているため、驚かなかった。

 小学校の時、部活が同じだったミサオと、親友のアキト、イツキ、そのアキトから聴いていたミナトも知っていた。


「ガイの家は、古くから続く名門の呉服屋なんだよ」

『どうぇええええ!!!?』


 アキトの言葉に、その事実を知らなかった人間は、心の底から驚いた。


『に、似あわなすぎるぅーーっ!!!』


「ついでに、ヤマちゃんはあの名門デパート、山田屋の御曹司」


『これが御曹司ぃーっ?!』

「余計なお世話だ!」


 合掌。










Act.2 その日のミルキー・ウェイ

「やっぱり、夏休みともなると暇な人が増えるのね」


 次から次へとやってくるお客に、さすがに少しうんざりしたように呟いた。


「まあそう言わないで。 ね、ホナミ」

「うん・・・・・・。 まぁ、お客さんがたくさん来るのはいいんだけど・・・・・・・・・」


 そう言って、窓際の四人掛けの席を一人で占領する金髪の男を見た。

 ウェイトレス代わりに働く義理の娘2人にちょっかいをかけ、姉にお盆の一撃を食らっていた。


「あーいう人が、あの人一人だけじゃなくなったから・・・・・・」

「なるほど・・・・・・」


 カズヒサは、妻の言葉に納得した。

 あのロリコン(というかアリコン)男蔵人 醍醐。

 その疫病神と性癖を同じくする男子高校生、大学生がその客の大半を占めているのだ。

 残りは一般の男性客と、女性客なのだが、夏休みに入ってから、だんだん少なくなってきた。

 そして、その代わりに疫病神ドモが増えてきている。



 また一人、義娘の片割れーーー 紅いの美しいショートヘアの少女、紅玉にちょっかいをかけ、翠ポニーテールの少女、翡翠のデンプシーロールを受けて、倒れた。


「アーイム、ちゃんぴおーーーんん!!」

「わーい、お姉ちゃんすごーい!」


 ぱちぱちぱちぱちーーー


 ヒスイの咆吼とコウギョクの拍手の音が、ミルキー・ウェイ店内に、空しく響いた・・・・・・










Act.3 10人

 ヘブンズコロニー中央に位置する宙港を、10人の人間が歩いていた。

 言わずと知れた、テンカワ一行である。

 9人は明るくわいわいやっていたが、一人だけ凹んでいた。

 凹んでいたのは、ダイゴウジ ガイことヤマダ ジロウ。

 その理由は、


「(くぅ〜〜っ、しまった!
  みんながオレが山田屋の御曹司だって信じてくれないお陰で、『晴れ着一揃えプレゼントする』なんて約束しちまったぁ〜〜!!

 ・・・・・・あぁ、一体何ヶ月・・・、いや、何年小遣いがないんだろ・・・・・・?・・・)」


 そう考えると、気がひたすら重かった。

 しかも、ただ言ってしまっただけならばまだ白を切ることもできたろうが、


『ふっふっふ、ヤマちゃん。

 その言葉に偽りはないね?』

『おう! 決まってんだろミサオ先輩!

 オレが嘘付いたことあったと思うか!?』

『・・・・・・何回もあるだろ、ガイ・・・・・・』

『それは言わない約束でしょ、おとっつぁん!』

『・・・・・・おとっつぁんって誰』

『まぁ、それはそうと、嘘じゃないね?』

『オウ!』

『・・・で,何が嘘じゃないの?』

『オレがミサオ先輩達に晴れ着一式をプレゼントすることだ!』

『・・・・・・レイさん?』

『OKよ、ミサオちゃん』

『え・・・・・・? い、一体何が・・・・・・?』

『コレよ!』

【オレがミサオ先輩達に晴れ着一式をプレゼントすることだ!】

『(て・・・テープだと!?

  しかも、証拠能力の高いアナログ式のカセットテープ!?)』


 ・・・・・・などと言うことがあったからだ。

 ミサオとレイは、どうやらアキト関係でなくても仲がよいようだ。

 うむ。 仲良きことは美しきかな。

 ガイとアキトにとっては迷惑千万だが。 この二人の場合は。


「ほらヤマちゃん、早く来るー!」


 ガイは、いつの間にか立ち止まっていた。

 9人は、随分先に行ってしまっている。


「おう・・・・・・」


 イツキに力無く応え、のろのろと歩き始めた。





 ミサオが、3泊泊まるホテルへ先導する。

 彼女が、宿の手配をしたのだ。

 宙港から十分ほど歩いたところに、そのホテルはあった。

 高級軍人や政治家、大物タレントも利用するような高級ホテルだ。


「今旅行のお宿はこっこでぇ〜〜っす!」

『・・・・・・・・・・・・』


 ミサオの脳天気な声に、誰も声をあげることができなかった。


「ね・・・・・・、ねぇ、ミサオぉ・・・・・・」


 辛うじてミナトが声を絞り出す。


「なに?」

「あのさぁ、ホテルの手配、ミサオが3泊4日で3万円以内で出来るって言ってたから頼んだんだよ?」

「うん、そうだよ」


 ミナトの言葉に、事も無げに答えるミサオ。


『・・・・・・・・・・・・』


 沈黙。


「・・・・・・ミサオ、このホテル一泊どれくらいだか分かってるの?

 一番安い部屋で、1泊5万円以上だよ?」

「うん、そうだよ」


 再び、事も無げに答える。


「・・・・・・それで、一体どうやって3泊して4万円以内に出来るのかなぁ?」

「それはね・・・・・・」


 ミサオが言った。

 このホテルのダブルは、子供なら3人が十分寝られること。

 一番安いダブルの部屋の代金は一部屋5万5千円ということ。

 料金はあくまで借りる部屋の値段だけだということ。

 更に、このホテルがネルガル系列のため、祖父を重役にもつミサオは4割ほど割引が可能なこと。

 一番安いダブルを4部屋借りると、1泊、5万5千円×4部屋×0.6=13万2千円。

 1日の予算は10人合計で約13万3千円なので、大丈夫だと言うことを。


「なるほどぉ、自分の家を上手く活用したわけね・・・・・・」


 ボソッとレイが呟き、それに全員がコクコク頷く。


「でも、いいの? ミサオ。

 4割引って、さすがにホテルに悪いんじゃ・・・・・・」

「お姉ちゃんもそう思う?」


 とはユウノとコトミの弁だ。

 それに、どこからともなく取り出し掛けた眼鏡を“きらりーン”と光らせて、


「問題ない。

 全てはシナリオ通りですよ、冬○先生」

『(・・・・・・○月先生って誰だーーっっ!!)』


 ガイ以外の心からの叫びである。

 というかミサオ、ガイならともかくなぜ君が二百年前のマンガを知っている!?


「だって、最近復刻版が出たもん」





 借りた部屋は、40階建てのホテルの6階だ。

 地下を含めると43階で、3階までの6階分と15階、39階は和洋中を始めとするレストランとなっている。

 部屋割りをどうするかで揉めていたところ、気が付いたらお昼時になっていた。

 そこで15階にある中華レストラン『園羅大凶殺』で昼食をとった。

 ふざけた名前だが、中華の名門レストランである。

 高級料理から一品3百円代後半のチープな料理まで、料理層は厚い。


「ふぅ・・・・・・、それじゃあ、どうする?」


 食後の中国茶を一口飲み、アキトが言うと、


「やっぱり、男女は別々が基本よね」 ×ミナト

「えー、私アキト君とイツキちゃんかミサオちゃんが一緒がいいわ」 ×レイ

「こう言うときはクジが相場ってモンだ!」 ×ガイ

「え、でもオレたちと女の子が一緒の部屋は拙いんじゃ・・・・・・」 ×アキト

「アキト君とガイ君なら大丈夫じゃないの? さすがにナンバ君は問題有りだと思うけど」 ×ユウノ

「あ・・・アキト君と2人ッきりで同じ部屋・・・・・・(妄想中)」 ×イツキ

「イツキちゃん、イツキちゃん。 戻ってきて」 ×コトミ

「ユウノ、俺が拙いというのはやはり年齢か?

 特に女性に興味はないんだが・・・・・・当然、男にもないが」 ×ジュウゾウ

「ンで、どーするの?

 このままだと、結局さっき見たく決まらなくて、今日の観光できないよ」 ×はるか

「ンじゃクジで決定!」 ×ミサオ



 結局意見はまとまらなかったので、ガイとミサオの主張通りクジで決定した。

 クジの作成ははるか。

 クジを引く順番ははるかが独断と偏見によって決定。

 はるか→ジュウゾウ→レイ→ミサオ→コトミ→ユウノ→イツキ→ガイ→アキト→ミナトだ。

 なお、男女が同じ部屋でもやり直しは一切無しだ。



「ああ・・・・・・きっと4日間、いじめられっぱなしだな・・・・・・(ぼそっ)」 ×ガイ

「くぅ〜〜っっ!! アキト君!!!

 年増女の毒牙に掛からないでね!!

 ・・・とりあえずはヤマちゃんに八つ当たりよっ!!」 ×イツキ

「ちぇっ、アキト君で遊べないや。

 まぁいいや。 イツキちゃんと、ヤマちゃんからかって遊ぼ」 ×ミサオ

「クッ・・・・・・、同じ部屋とは・・・・・・!!」 ×ジュウゾウ

「・・・・・・誰と同じ部屋だと、そんなにイヤなのかな?

 ねぇ? ジュウちゃん♪(謎笑)」 ×レイ

「お姉ちゃん・・・・・・私がいなくても、きちんとしててね・・・・・・」 ×コトミ

「コトミ、何でそんなことを言われなくちゃいけないの?」 ×ユウノ

「ふっふっふ、作戦、成功!」 ×はるか

「何が成功なの? はるかさん」 ×アキト

「きっとしょうもない悪巧みしたんでしょ。 はるかのことだから」 ×ミナト


 クジを引き、部屋が決定した後の言葉である。



 結果は以下の通り・・・・・・

0629号室
 山田 次郎&風間 樹&遙 美紗緒


0630号室
 難波 十三&難波 零&虎狩 琴美


0631号室
 虎狩 悠乃&湊 はるか


0632号室
 天河 明人&遙 美那都

 ・・・・・・部屋は、南東角部屋と、その隣と向かいの4部屋だった。





 荷物を置き、サイフなどの必要となる物だけを持ち(ディパックを持った者もいた)、ロビー前に集合した。


「それじゃあ、まずは火星資料館。

 それから“ミルキー・ウェイ”でお茶。

 その後は夕食まで自由・・・・・・で、間違ってないよね」



 今日の予定を確認し、ホテルを出た。










 これもーーー 運命なのだろうか・・・・・・・・・










後書き
 まず最初に、『湊 はるか』及び『蔵人 醍醐』は、別人28号さんの許可の元出演しています。


 というわけで、『ANOTHER NADESICO』第7話でした。

 この話は、いわば伏線その物。

 次回以降に、この話がしつこい位に絡んできます(予定)。



 なお、前々回で後書きに書いた、ジュンに知ってもらう恐ろしい事実ですが、考えてみるとそれを知ってもらう前に、誰かがそのネタを使うかも・・・・・・

 一応、この事だよ。 とでてきた回の後書きで書きますけど、他の人が使ってても、パクリじゃないからね。




追伸
>代理人様
    前回の後書きにて書くのを忘れていたのですが、

>代理人注その2:ミナトはナデシコ出航当時22歳です。
          醍醐との差は六歳ですから、作中では一才ほど若い計算になりますね。


 ふっふっふ、そうなりますねぇ。

 ですが!

 わたくしE.Tの手にかかれば、あら不思議!

 ミナトのナデシコ出港時の年齢と、醍醐の別人28号さんの作品登場時の年齢がピッタリ合ってしまうのです!!

 まぁ、E.Tマジックとでも呼んでください(いつになるかはワシャ知らん)。



 じゃ、この辺で。


コメント代理人 別人28号のコメント


↑の後書きにある通り、はるかと醍醐はウチのキャラなんですが

E.Tさんはミナトとはるかの出会い等、教えた裏設定に忠実に書いてくれてるので

こちらとしても有難い事です これからも2人をよろしくお願いしますね

(醍醐はいぢめちゃってください、それが『愛』です)


私信はこれぐらいにして コメントをば


今回は つなぎだったみたいで

前回までの「年寄り衆」の陰謀が気になるところですが

それは 次回のお楽しみですね


それにしても、山田が御曹司・・・似合わん(キッパリ)

(公式設定上 両親は普通のサラリーマンと専業主婦らしいです)


あと、部屋割りですが、普通に考えたら大部屋ひとつ借りて

人数割りにした方が安上がりだと思うんですが・・・

やっぱり 誰かさんの企み? 当の誰かさんは一番問題なさそうな所に落ち着いてるし

なんか、ガイ×イツキが成立しそうで ちょっと心配・・・


アキト達が店に着くまで 『ミルキーウェイ』が無事営業を続けられるかどうかも心配(笑)

人死にが出る前にアキト達が到着する事を祈っておきます




追申

作中にあった 黄色文字ですが

背景が白だと すっごい見にくかったです

(反転しなけりゃ読めなかった)