Act.0 蔵人 醍醐

「・・・・・・ここはどこだい?」


 と、クラヒト ダイゴは呟いた。

 自分は喫茶店『ミルキー・ウェイ』で、赤い糸で結ばれた運命の恋人と、運命的な再会を果たしたはずだ。

 それがなぜ・・・・・・・・・

 お花畑にいるんだ?
 目の前には、青く澄んだ、綺麗な川

 それから、5年前に死んだはずの母方の祖父母が、川の向こうで手招きしている



 ・・・・・・・・・・・・・・・。





 人はそれを、『臨死体験』 と呼ぶ・・・・・・。













機動戦艦ナデシコif
AnotherNADESICO

第10話 『同衾』










Act.1 お茶の終わり

 ・・・・・・ピクピクと痙攣しているダイゴをよそに、10人と他の客達はお茶を楽しんでいた。

 たった1人を除いて、のほほんとして平和な午後だった。

 (なお、結局1時間ほどダイゴをボコっていた)

 ダイゴと趣味を同じくする方々も、ダイゴをドツきまくってスッキリしたというか何というかで、コウギョクやヒスイにコナかけようとはしなかった。

 それどころか、何か憑き物が落ちたかのような、スッキリとした顔をしている。



「う〜〜ん、美味しい〜〜〜」


 目を輝かせ、艶々した頬を手で挟みながらはるかが言った。

 彼女はエスプレッソとミルクレープを頼んでいた。

 エスプレッソは透き通った苦みと酸味で、味わい深いものだった。

 中学一年でその味を理解できるのかどうかは疑問だが、少なくともそれが『美味しい』エスプレッソであることは分かったようだ。

 ミルクレープはふんわりと軟らかく、口の中に生クリームとクレープ生地の甘さ、香ばしい匂いが広がる。

 そこいら辺のケーキ屋では味わえないおいしさ。


「本当ね、このモカもショートケーキも、いい味だしてるわ・・・・・・。

 ・・・・・・スポンジの焼き加減もきめの細かさも、最上品質」


 レイが批評した。

 彼女は役職柄、色々な企業に潜り込んだりする。

 裏だけではなく、表からも。

 その際に役員やそれに次ぐクラスの役職の者と会談するとき、最上級レベルのケーキが並べられることもあるのだ。

 ・・・・・・有り体に言ってしまえば、『舌が肥えてる』と言うことだ。

 そのレイが頼んだのは、ケーキ屋の実力を見るためのケーキの一つたるショートケーキ。

 イチゴの新鮮さやクリームのレベルに手の加え方。

 それからスポンジの焼き加減など。

 ショートケーキには、ケーキ作りの基本が詰まっているのだ。

 基本のなっていないケーキ屋ほど、ケーキの味は悪くなる。

 その中には、材料の品質で誤魔化しているところもある。

 しかし、ミルキー・ウェイでは早々高価な材料は買えない。

 あくまでも、腕勝負なのだ。

 ホナミは生来の料理好きから、末席ならば高級レストランのコックにもなれるほどの腕前まで、その腕を高めていた。

 一流レストランのシェフは、当然の如くケーキを始めとする菓子類の腕にも長けていなければならない。

 料理の腕は末席のコックでも、菓子作りならばセカンドチーフクラスの腕前はあるのだ。

 ・・・・・・モカは、単なる好みの問題だ。


「ん〜〜、料理とお菓子作りの腕、かなり上がったと思ったんだけど・・・・・・

 まだまだだなぁ」


 チョコチップクッキーを口に頬張り、ダージリンを一口飲んで一言。

 アキトは、料理だけでなくお菓子作りもやっていた。

 しかし、その腕ではホナミの腕には遠く及ばなかった。

 ・・・・・・小学生で一流レストランのセカンドほどの腕があったら、それはそれで恐ろしい気もするが。

 紅茶の腕は、言うに及ばず、だ。

 『誰が煎れても同じだろう』などと思っている人間は、実は結構居たりする。

 しかし、煎れる湯の温度、時間(秒単位)など、そのほんの僅かなもので変わってくるものだ。

 煎れる人によって、それらは全く違ってくる。

 その微妙な温度、時間の差で、匂いの奥深さ、味の深みが大きく変わる。

 アキトは、そのことをよく知っていた。


「(うん、さすがはお母さん!)このケーキ、おいしい」


 ミナトが、顔をほころばせながら言う。

 二度と食べられないと思っていた、母・ミナミの、紅茶のシフォンケーキ。

 ミナミが最も得意とするこのケーキは、紅茶のふくよかな香りが、ケーキを口に含んだ瞬間に口内に広がってくる。

 微かな甘味が、粉砂糖と生クリームの甘味に打ち消されることなく、優しく舌に囁きかける。

 ・・・・・・このケーキの腕前だけなら、超一流レストランにも堂々と出せる。



 そして約1時間後。

 ケーキや紅茶、コーヒー類を楽しみ、お茶の時間が終わった。

 それは、アキトとミナトが、再び両親と別れるときが来たことを意味する。

 しかし、2人とも普段の自分を保っていた。

 義理の妹2人と仲が良くなったお陰で、ホシカワの家と手紙などのやり取りをしても不自然でない状況が出来たからだ。

 きっかけは、『醍醐ボコ殴り大会』だった。

 それが終わった後、


「いい蹴りしてんね(グッ)」


 と、親指を突き立てたヒスイが、アキトに話し掛けてきたのだ。

 それからコウギョクが、


「お兄ちゃん、すごーい!

 お姉ちゃんよりもすごいかも」


 ・・・と。

 それがきっかけになり、会話が弾み、義理の妹たちと親友になった。

 互いに住所交換をし、手紙(ビデオ・レターが主)のやり取りを約束したのだ。

 アキトとミナトは義理の妹たちに手を振り、ミルキー・ウェイを後にした。





 ・・・・・・なお、ダイゴは未だ生死の境を彷徨っていることをここに明記しておく。










Act.2 ホテル『カイゼル・デス・マルス』

 ゆっくりと歩き、信号にも引っかかり通しだったため、ホテルに戻るのに30分掛かった。

 現在午後5時36分。

 ホテル『カイゼル・デス・マルス』のエレベーター・ホールに、5人は居た。

 エレベーターは全部で八基。

 その八基ともが20階以上に在った。

 それでも、途中で一回も止まらなければ2、30秒後には来るはずだ。



「ン〜〜〜」


 ユウノが呻いていた。


「・・・・・・どうしたの、お姉ちゃん?」


 コトミがそのユウノに声を掛けると、彼女はこう言った。


「・・・『ミルキー・ウェイ』でお茶出来たのは良かったの。

 カプチーノ、美味しかったし、チョコムースも美味しかったし。

 それにあの変態アリコン男クラヒトダイゴをボコボコにしたのも楽しかったし。

 でも・・・・・・、でも、でも」


 俯き、一旦言葉を止める。

 それからやおら顔を上げて力説した。


「火星資料館が見つからなかったんだもん!

 何で地図の場所にないのよおー!!」


 そう。

 第8話のAct.0でも書いたとおり、火星資料館は見つからなかった。

 地図はあったが、その示す位置に行っても存在しなかった。

 そこら辺はいわゆる歓楽街みたいなものだった。

 いかがわしい店こそ無いものの、カラオケや場末の小汚いラーメン屋、地下や半地下のバーだけ。

 後は小さい公園。

 10人が心に思い描くような、巨大な建造物は影も形もなかった。

 そこで夏休みの宿題の一つ、自由研究を終わらせようと思っていたユウノには、それがとても苛ついた。

 妹のコトミもそのつもりだったが、


「まあしょうがないか」


 の一言で片付けていた。

 だから、彼女は気楽に


「まあしょうがないじゃん」


 と言い放った。

 その他8人もそれに同意の意を示した。


「でも納得できないよぉぉ〜〜」


 と、ごねるごねる。



 チーーン


「あ、エレベーター来た」

『だあぁぁっ』


 エレベーターが来るなり態度が変わり、コトミ以外全員がこけた。

 レイもジュウゾウも、例外ではない。










Act.3 同衾

 7時過ぎに、39階のフランス料理レストランで夕食を取った。

 カイゼル・デス・マルスに入っているから、と言うわけではなく、そのフランス料理レストラン自体がネルガル系列だったため、これまた安く済んだ。

 3割引だった。

 それから0632号室(アキトとミナトの部屋)でダベり、遊んだ。

 遊びの内容は、UNOやトランプと言ったモノだった。

 ただし、アキトとガイは『ガンダム・ウォー』をやっていた。

 アキトは青、ガイは白系のデックだったが、それはまた別の話だ。

 そして10時頃になり・・・・・・


「お、もうこんな時間か」


 ふと時計を見たガイがそう言うと、アキトとの勝負をやめ、帰り支度(部屋にだ)をした。

 それを見て、他の8人も部屋に戻る準備を始める。


「アキト君、年増女の毒牙に気を付けてね!」


 イツキがそう言いながら、ミサオに連れ出される。


「あははは、イツキちゃん、イコ!

 一緒にヤマちゃんからかってあそぼ!」


 ・・・・・・等々、各々が言いたいことを言って部屋から出ていく。


「楽しい夜を〜♪」


 最後にはるかが部屋を出る。



 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 2人きりになった。

 姉弟とはいえ、異性と。

 しかも、ただの姉弟ではなく、血の繋がりなど一滴もない義理の姉弟。

 つい先程まで大勢でガヤガヤと騒いでいただけに、余計に2人きりだという事実が際だった。


「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


 お互いに意識しあい、会話どころか言葉を発することすら出来なかった。

 それに、ましてやベッドはダブル。
 ・・・・・・
 一つしかないのだ。

 そう、同じベッドに一緒に寝る。

 同衾するしかない。

 毛布なども一つしかないため、アキトが床で寝たりするわけにもいかない。

 ・・・・・・第一、ホテルの部屋も、外履き、普通の靴なのだから、寝られるわけがない。

 それらの事実が、2人の心臓の鼓動速度を2倍速にしていた。

 例え姉弟でも、他人。

 その他人が同じベッドで眠るのだ。

 思春期の少年少女に、この事実は重かった。



 やがて、意を決したミナトがアキトに声をかけた。


「・・・アキト、寝よ。

 明日も観光で忙しいんだから、起きてなんかいられないわよ」


 その言葉に、頬を赤くしてアキトが頷いた。

 バスルームで着替えを済ませたミナトがベッドの中にはいる。

 同じく着替えたアキトが、その隣に入った。










 今夜は、2人とも眠れそうになかった。










後書き
 まず最初に、『湊 はるか』及び『蔵人醍醐』は、別人28号さんの許可の元出演しています。


 ダイゴ・・・・・・臨死体験って(汗ッ)

 なんか、気が付いたらこんなンなってたし。



 えーと、特に後書きに書くことがないので、E.Tの戯れ言にでも付き合ってください。



 皐月さん、『皐月の陣』、ご苦労様でした。

 毎更新時にアップ、大変でしたね。

 誰も突っ込んでくれた人がいないんですが、僕も皐月さんに遅れること1日(というか3日)、その後毎回更新してきましたから、その苦労は分かります。

 ・・・・・・にしても、この事に気が付いてた人って居たのかな?

 本当と書いてマジでツッコミが0。

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 なにか、とても寂しいものがありました。



 これからも、力尽きるまで毎回更新頑張ってみようかなーとか愚考しております。

 応援してくれるととてもありがたいです。




 6月1日、午前0時3分。

 『裏皐月の陣【E.Tの陣】』陣中より、E.T


コメント代理人 別人28号のコメント


まぁ、こういうのは 目立ったモンの勝ちってとこありますからねぇ

それでも 『継続は力』です これからもがんばってくださいね・・・力尽きるまで


それにしてもケーキ談義がスゴイ

今回はその一言に尽きますね

アキトがコックへの道を進んだのは血筋だったのでしょうか?


火星資料館がなかったのは私も残念ですねぇ

どんなのが置いてあるか興味があったのですが




夜の方は・・・鈍感王アキトがああも如実に反応するとは・・・

これもミナトの魅力? それともどこかの誰かにナニかよからぬ事を吹き込まれたのでしょうか?

とりあえず、観光で歩き回って汗かいた後(しかも ぼこりでもイイ汗かいてるの)に

シャワーも浴びずに寝るのはやめた方がよろしいかと・・・そういう匂いが趣味?











あ、あと 醍醐の扱いですが・・・GOODJOBデス!

決して活躍する事なく、ヒドいめにあって話にささやかな笑いの花を添える

醍醐なんてその程度でいいんです 今回はお見事でした!