Act.0 火星資料館・その一例

 火星資料館。

 そこは、その名の通り火星の歴史について色々な資料がある。

 火星開拓の歴史はもとより、その背景、成功面だけでなく失敗についても。

 例えば、一番最初に拓かれたコロニー、ユートピアコロニーについて。


『ユートピアコロニー略歴』

 火星で最初にできたコロニーで、名称は【火星がユートピア(理想郷・楽園)になるように】という願掛けから由来している。

 以降のコロニーもそれにちなんで、【楽園】、【理想郷】、【天国】といった意味の言葉が付けられることが多い。

 火星開発が開始されたのは2096年。

 現在のユートピアコロニーの中心部近くである。

 2118年に異星人の物と思われる宇宙船が発見された。

 その宇宙船は損傷が激しく、解析に掛かった時間の割に、分かったことは少なかった。

 だが、損傷が激しかったものの【疑似重力発生装置】並びに【慣性中和装置】のデータも発見された。

 それから5年後、実験用ドーム都市が完成した。

 ドーム都市には異星人の技術の一つ、疑似重力発生装置が地下深くに取り付けられた。

 結果として、ドーム都市内の重力は地球とほぼ同じ0.98〜1.02Gが常に掛かるようになった。

(重力の揺らぎは装置が完璧でないためだが、危険は全くない。

 現在では揺らぎは更に少なく、0.996〜1.004Gとなっている。

 将来的には更に揺らぎは少なくなると思われる。

 実際、Gを0.986Gで固定することに成功している。

 それから如何にして1Gに近づけるかが問題となっている。

 これは、揺らぎを減少させることと、揺らぎ0でGを発生させる技術が完全に同一でないことが理由である)

 また、大気組成を地球のものと同じにするように調整された、大気調整ナノマシンが散布されている。

 その危険性が皆無だということは、過去数十年の汚染地域での使用により確認されている。

 問題は、土に悪く、作物があまりいいものが穫れないと言うことぐらいである。

 2124年から、志願者1万人による仮移住がされた。

 期間の5年の間に、問題は何もなかった。

 そのことから2130年から本格的な開発が開始された。

 過去のノウハウ、当時のテクノロジーにより15年でユートピアコロニーが完成した。

 実験用ドーム都市はそのまま残され、そこに技術者が入った。

 仮入植をした人々はそのまま居住した。

 大気調整用ナノマシンが火星全体に散布されたことにより、ドームは撤廃された。

 2年後にヘブンズコロニー、その半年後にコロニーエデン、アルカディアコロニーが完成。

 そして2149年、本格的な火星入植が始まり、ユートピアコロニーはその第一として発展した。





「う〜〜ん、なるほどぉ・・・・・・

 学校で習う火星史って、やっぱり結構端折られてるのね・・・・・・」


 と、『ユートピアコロニー略歴』を呼んでいたユウノが呟いた。








機動戦艦ナデシコif
AnotherNADESICO

第13話 『幸薄』










Act.1 その頃の醍醐

 午前9時35分。

 アキトたち10人が火星資料館にいる頃。


「ああー、昨日は酷い目にあった」


 ホテル『カイゼル・デス・マルス』の一室で1人の男が目を覚ました。

 その男の名前は蔵人 醍醐。

 世紀末馬鹿王の名を恣(ほしいまま)にする男だ。

 彼は昨日、喫茶店『ミルキー・ウェイ』で一人の女性(というか少女)と出会った。

 それは、彼の赤い糸で結ばれた恋人(と勝手に思い込んでいる)との運命の再会(と彼は信じている)だった。

 しかし、不幸にもその再会やら自分にやら嫉妬心を抱いた客たちにリンチされてしまった。

 酷いことに、それを店主たちは見過ごしもしたのだ!

 だが、幸い怪我は軽かった

 だから数時間で完治したし。

 問題はただ一つ。


「・・・・・・我が愛しの君よ、一体君はどこにいるんだい?」


 窓辺に佇み、青空を見上げる。

 ・・・・・・いわゆる二枚目がやれば絵になっただろうが、生憎と彼は三枚目だった。





 だが、彼のことなんざどーでも良かった(核爆)










Act.2 ルーファス=岸根

 ルーファス=岸根。

 すっかり忘れ去られているかも知れないが、彼はミナトのクラスの担任である。

 性別は男。

 出身はヘブンズコロニー。

 教科は体育。

 タイプは熱血教師。

 独身。

 家はラーメン屋。

 趣味は体を動かすことと、歴史。

 そして今、彼はヘブンズコロニーの実家に帰省していた。

 ・・・・・・いや、言い直そう。

 ちょうど、実家に帰省したところだった。


「ただいまー、親父ー、元気してるかー?」


 のれんを分け潜り、ガラス戸を開けながら声を張り上げた。


「!? ルーファス、お前か!?

 おお、確かに俺の不肖の息子!!」


 ルーファスの父親、岸根 龍(キシネ ロン)氏が叫ぶように言った。

 ・・・・・・岸根家は様々な国の血が混ざっており、ロンの母親は中国系だった。

 そのため、彼は中国風の名となっている。

 同様に、ルーファスの母親に流れる血にちなみ、この名となった。


「お袋はー,元気にしてるかー?」


 無意味にでかい声。


「おう、当然だろ?!

 アイツが殺して死ぬようなタマに見えるか?」

「確かにー、見えないなー」


 二人して『ハッハッハ』と一頻り笑い、


「・・・・・・ところで、ルーファスよ。

 仕事の方はどうだ?」

「人にものを教えるのは楽しいー!

 体を動かす喜びをー、スポーツの歴史をー。

 体育科の教師はー、俺の天職だー!!」


 心の底から楽しそうに、嬉しそうに鼻息を荒くして言うルーファス。


「はっはっは、そりゃー良かったな!

 ・・・・・・で、何しに帰ってきたんだ?

 まさか両親の顔見に来た、なんて殊勝なこと言うんじゃねーだろうな?!」


 ルーファスと同じで、ロンも無意味に声を張り上げている。


「一応ー、それもあるー。

 だけどー、一番の目的はー、火星資料館だー。

 7月からー、ユートピアコロニーで見つかったというー、異星人の宇宙船の1/50サイズの模型がー、展示されているそうだー。

 だからー、それを見に来たんだー」

「ほー、火星資料館か。

 ついさっきな、火星資料館を探してる子供達が来たぜ。

 あんなトコにあるから、迷っちまったみてぇだな」

「そうかー。

 ・・・親父ー、ラーメン一杯くれるか−?

 朝飯まだだからー、とりあえずはー、食ってからだー」

「金払えよ」


 と言いながら、ロンはラーメンを作り始めた。










Act.3 LS(ロスト・シップ)

「うわぁー、何だかよく分かんないものばっかりだー!」


 アキトの感想は、まったくもってその通りだった。


「本当よねー、この重力制御装置なんて、かっわいー♪」


 レイが嬉しそうに言う。

 重力制御装置(以下Gコン)は、真球に3つのパイプを取り付けたものだった。

 立方体の六面に当たる位置関係にパイプの入出が為されており、一本一本のパイプは隣り合う平面と繋がっていた。

 ・・・・・・最後の平面というのは、Gコンの形を真球ではなく立方体と考えたときのことだ。

 形としては、『○あ女神○ま!』のスク○ドボ○を思い浮かべてもらえば、大体の形は分かっていただけるだろう。

 とはいえ、○クド○ムを知らない方もいるだろうが・・・・・・、その時は『あ○ ○神さま!』を読んでいただけばいいだろう。

 作者は講談社の回し者かっ!


「この宇宙船なんか、カッコいいぜぇーっ!」


 ガイが意味無く燃えながら言うと、


「ホントだー。

 ・・・私、こんな宇宙船操縦してみたいかもー」


 御歳12歳にして車やらバイクやら自転車はともかくとして、船舶や宇宙船(航宙機)まで極めんとする少女が言う。

 嘗てアキトに『将来どうしたいか』と聴かれ、『1人だけでも生きていけるようになりたいわ』と答えたミナトの考えの一つ。

 それは、何かそういったものの操縦士(パイロット)になることだ。

 それから、実はマメなミナミに秘書技能の基礎を仕込まれていたので、秘書になるのもいいかもしれない。 マメ、変換したら『忠実』と出た。・・・漢字あったんだ・・・・・・。っていうか、『忠実』って『マメ』って読んだんだ・・・・・・。

 秘書は、そう言った各種運転免許証などが必須なのだ。

 当然の如く、車はもとより小型(場合によっては中型、大型)宇宙船も操縦する。


「確かにカッコいいけど、なんか、こう・・・・・・そう、アレよ!

 宇宙船は、やっぱり木馬型じゃないと!!

(・・・・・・う〜ん、はるか、いい趣味してるわねぇ〜♪)


 実はガンダム好きなレイの思ったことである。

 なお、その宇宙船は何となく円錐に似た感じの、紫色の船体。

 両舷の後方に丸い何かが付いているのが、目を引く。

 また、船首には何かの射出口らしきものがある。 ・・・・・・言ってしまえば、木連の駆逐艦である。

 だが、四つ足でないのだ。

 そこが、たった一つにして最大最悪のマイナスポイント。


(そうよね、やっぱり宇宙船とかそーいうのは、白くて四つ足の木馬じゃなくっちゃ!)


 ・・・・・・などとアキトたちがやっていると、


「おおー、コイツが異星人の宇宙船かー」


 野太いようで甲高い、それでもやっぱり低いという不可思議な声がした。

 興奮を隠しきれない、声が低めの男性のものだった。

 そして、その声はミナトとはるか、ジュウゾウ、ミサオ、ユウノ・・・・・・と、一部の人間には聞き覚えのある声だった。


「この声・・・・・・」

「岸根ティーチャーか?」


 ジュウゾウの声に、やっとそこに他の人間がいることに気が付いた。


「んー?

 ・・・・・・おー、ハルカ二人に湊に難波にモガリじゃないかー」


 ルーファス=岸根は、のーんびりと、そう言った。


「・・・・・・あなた達、知り合いだったの?」


 イネスが、興味深そうな視線を向けてきた。


「私とはるかとユウノとジュウゾウ君の担任なの」

「あら、そうなの。

 いっつも、何か展示品が増えるたびに来て、1日2日、ず〜〜っと入り浸ってるのよね、この人」

「オレは−、体を動かすことが好きだがー、歴史も好きなんだー。

 だからー、この火星の歴史がそろったー、火星資料館がお気に入りなんだー、なー」

「へぇ・・・・・・、意外ね」


 そのはるかの言葉が、10人全員の気持ちだった。

 筋骨隆々の大男。

 顔もゴツく、とてもそう言った歴史に興味を持つようには見えない。

 ・・・・・・偏見かもしれないが、雰囲気的にも体育会系バリバリのオーラを纏っているし。


「湊ー、お前ー、オレを疑っているなー?

 そんな悪い子はー、体育の成績1の上ー、素行の欄にー『素行不良につきー、両親との対話の必要ありー』と書くぞー」

「あああああ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」


 ルーファスの脅しに、必死になって謝るはるか。

 土下座して、『ゴンゴン』床に叩き付けながら何回も頭を下げる。

 ルーファスは『はっはっはー』と笑い、


冗談だー」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 床に頭を擦り付けたまま沈黙するはるか。

 何というか・・・・・・、六連クラスでも逃げ出すほどの殺気を身に纏う。

 本当に中学一年の女子か? 平凡な暮らしをしてきた。

 だが、気付いていないのか気付いた上でなのか、ルーファスはあっさりとはるか達から意識を逸らし、


「おーおーおー、これはまたー、何というかー、ファーストを思い出すなー。

 だがー、どうせファーストならー、やはり木馬よなー」


 PONPON


 肩を叩かれ、振り返った。


「・・・・・・・・・・・・(グッ)」


 笑顔で右手親指を突っ立てるレイがいた。


「・・・・・・・・・・・・(グッ)」


 ルーファスも、笑顔で頷き返すと無言で親指を突き立てた。

 言葉はいらなかった。


「時にあなたの名前は?」


 レイが同志に訊くと、


「オレはー、ルーファス=岸根というー。

 そこの遙 美那都やー、湊 はるかー、難波 じゅーぞー、虎狩ゆーののー、担任だー」

「私は難波 零。

 ジュウちゃん・・・十三の従姉よ」










Act.4 ラーメン屋『幸薄』

「さー、オレが奢るからー、好きに頼めー。

 ただしー、一人二杯とー、餃子二皿までだー」


 ラーメン屋『幸薄』のノレンの前で、ルーファスが10人+1(イネス)に言った。

 ・・・・・・イネスは、火星資料館の館長の仕事はいいのだろうか?

 それとも、実は出てきてないだけで存在感ほぼ0の、都合のいい副館長でもいるのだろうか?


「気にしたらダメよ」


 ・・・・・・モノローグに突っ込まんといてください。


「イネスさん? 誰に話してるんですか」

「・・・・・・いい、アキト君?

 世の中の物事はね、大別して二種類あるの。

 即ち、『訊いて良いこと』と、『訊いてはいけないこと』。

 分かった?」


 身をずい〜〜っと乗りだし、アキトの額に額をくっつけて懇切丁寧に答えるイネス。

 アキトとしては、『Yes』と答えるしかなかった。

 ちなみに、それを見てイツキが頬をぷぅ〜〜っと膨らまし、ミナトの表情が少し硬くなっていたのはお約束である。


 ガラガラッ


 引き戸を開け、火星資料館の目の前にある中華料理屋(その実状はただのラーメン屋)に入る。

 店内はガラガラで、まさしく『閑古鳥が鳴いて』いた。

 決して広くない店内に、椅子は20。

 かなりきつめになっている。

 店主は、トイレにでも行っているのか姿が見えなかった。

 ただ、スープの良い香りが漂っていた。

 11人は思い思いの場所に座ると、メニューを見た。

 ルーファスは卓上に紙を見付け、それを見た。


「うーんと、どれがいいかなー♪」

「やっぱり、オーソドックスに半チャンラーメンかな、私は」


 ユウノとコトミは、ラーメンが大好物だった。

 特にコトミは、半チャンラーメン・・・・・・ラーメンと半チャーハンのセットがお気に入り。


「醤油・・・・・・味噌・・・・・・トンコツ・・・・・・塩・・・・・・トンコツ醤油・・・・・・トンコツ味噌・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・、迷うわね。

 (どれがどんなんだか、さっぱり分からないわ)」


 レイは、今までラーメンを食べたことがなかった。

 故に、サンプルで見たものしか知らない。

 味が予想できるわけでもなかった。


「ふむ・・・・・・、確かあの時に食べたのは、『一平ちゃん』とやらの『トンコツ味』だったな・・・・・・。

 その前が、『ホームラン軒』の『しょうゆ味』・・・・・・?

 確か『ラ王』とかの『みそ味』も食べた・・・・・・よな。

 なら・・・・・・、冷やし中華とやらでも食べてみるか?」


 ジュウゾウは、任務時の携帯食料に、カップ麺をいくつか食べたことがあった。

 どうせなら、食べたことがないものを食べてみようと、殺伐とした中で生きてきた彼も、子どもらしい好奇心を発揮した。


「やっぱ男は東京ラーメンだよな、アキト!」

「え、オレはワンタン麺にするつもりだけど・・・・・・」

「ええ?! ラーメンって言ったら、トンコツでしょー!?」


 幼馴染み3人組は、どーでも良いことで口論する。

 ・・・・・・彼らにとってはどーでも良いことではないのだろうが。


「ミナトはやっぱりトンコツ?

 コッテリ系じゃないと食べた気がしないって前言ってたけど」

「そうね、でも、トンコツ味噌も捨てがたいのよね〜〜」

「はるかは? 私は五目とチャーシュー味噌にするけど」

「ミサオは二杯?

 ・・・・・・それもありね。

 それじゃあ、私は塩とトンコツにしようかな」

「塩? あんなあっさりしたのじゃ、食べた気がしないよ〜」

「あははは、はるかははるか、ミナトとは違うんだよ」


 仲良し3人組である。

 なお、ミナトのコッテリ好きは公式設定だ。


「そうねえ。今日はみそにしておこうかな」 『機動戦艦ナデシコルリAからBへの物語』内のセリフ、そのまま引用。


 と、最後の一人、イネス。

 ・・・・・・・・・最後の一人?

 では、ルーファスは・・・・・・?


「ねえ、先生は何にするの?」


 と言いながらミナトが辺りを見回すと、


「先生・・・・・・・・・?」


 その姿はなかった。

 と思いきや、


「みんなー、注文はー、決まったかー?」


 厨房の奥にある、邸宅部分から現れた

 ・・・・・・割烹着と、白い帽子を装備して


『・・・・・・・・・え?』


 イネスを除く、お子さま10人全員が驚きの声をあげた。

 それに怪訝そうな顔をし、一言。


「んー、言ってなかったかー?

 オレはー、この『幸薄』のー、長男坊なんだー。なー」










後書き

 まず最初に、『湊はるか』は別人28号さんの許可の元出演しています。


 うぃ、火星資料館のお話でした。

 別人28号さん、コレが火星資料館の全て(ではありません)です。

 ただ一つ、『良い勘してますネ』と一言。

 ちなみに、あんな風にもろ古代火星人の痕跡が展示されていたのには理由があります。

 ですが、それはまだ伏線段階なんで、明かしません。

 予想するのは、自由です。

 僕の伏線のパターンを見破ったりー、という人ならきっと分かるでしょう。


 あ、それとこの話、所々に反転した文があるんで、そこんトコ



>ガイの『ゲキ・ガンガー3』入手経路について。

 1.金にものを言わせた。

 2.マニアの共同体がある。

 3.わざわざ地球に行った。

 4.その他

 さあ、どれでしょう?

 正解は次話で。

 と言いつつここで。

 正解は2のマニアの共同体がある。

 彼は、それを通じて『藍青』の初版(復刻ではない)もゲット。

 今後も、影に闇にとマニアの共同体、『まにあーず』の活躍が見られる。・・・・・・・・・かも?



コメント代理人 別人28号のコメント


5.天から授かった

え? 違う?


とりあえず質問

ルーファス=岸根さんって ガイの血縁者ですか?

なんか 根本部分で似ているような・・・

生き別れのブラザーと言われても信じますね、私は


岸根さんの実家がラーメン屋なのはいいんですが

この出来事はアキトの料理人人生に影響を及ぼすのでしょうか?

・・・ミナトは認めそうにはないですな





イネス?

彼女に関しては今更何があろうとも驚きゃしませんて