「あ、おいアキト」

「何スか?」

「今出てった客の忘れモンだ。

 届けてくれ」

「あいよ〜」

 サイゾウが指し示した先に在ったスーツケースを持つと、アキトは雪谷食堂の出口
へと向かった。


 ガラガラ


 ドアを開け、アキトは客を追った。

 幸いまだ姿が見えたのでアキトはそれを追った。

 人通りは少なかった。



機動戦艦ナデシコif
THE AVENGER


第3話
 回り始める歯車





「待ってくださーーい!」

 赤いスーツを着た女性が振り向く。

「私に何か?」

「忘れモンです」

 アキトは女性に追いつくと、スーツケースを見せた。

「あ、あら、ありがとう。

 それじゃあね」

 女性はアキトに笑みを浮かべながら礼を言うと、去っていった。

 アキトはそれに答えてから店へと走った。

「さっさと戻らないとな」

 だが、彼は運が悪かった。


 ブロロロロロロ


 通りかかった一目でそれとわかる高級車のトランクから・・・・・・

「・・・・・・・え?」


 グシャッ


 ・・・・・・落ちてきたスーツケースにクラッシュした。

「い・・・・・・いだい・・・・・・・・・(涙目)」

「すっ、すみません、大丈夫ですか!?」

 高級車から一人の女性が降りてきた。

 青く長い美しい髪の女性に、アキトは一瞬見惚れた。

 その照れ隠しのように、

「へっ、平気だよ。

 大体あんた、荷物の仕舞い方が下手なんだよ。

 衣類を・・・・・・・・・

 ・・・・・・なんか俺の顔に付いてます?」

 辺り一面に散らばった荷物を詰め直していたアキトの顔を、女性はまじまじと見つ
めていた。

「あのー、不躾な質問で申し訳ありませんが。

 あなた、どこかでお会いしませんでした?」

「そんなこと言われても、俺記憶喪失だから分かんねぇよ」

「・・・・・・そうですか・・・・・・・・・。

 これ、名刺です。

 何か困ったことがあったらここに連絡してください。

 きっと何とかして貰えますから」

「はあ・・・・・・・・・」

「ユリカー、何やってるんだよー!」

「はーい、今行きまーす!」

 車から降り、女性を呼ぶどこか気弱に見える青年。

「それじゃあ、ご協力感謝します」

 そう言いながら敬礼すると、彼女は車に駆け寄っていった。

「まったく・・・・・・なんなんだか。

 でも・・・・・・ユリ・・・カ?

 どこかで聞いたことがあるような・・・・・・・・・

 ・・・・・・ま、いいか。

 って、あれ?

 まだなんか落ちてら」

 そう言いながらユリカという女性の落とし物を拾うアキト。

「写真・・・・・・?」

 それは写真だった。

 何か嫌そうな顔をした茶髪の少年が、先程の女性と思われる少女に抱きつかれてい
る写真・・・・・・・・・

「これは・・・・・・・・・俺?」

 そして、その少年は、アキトそっくりだった。

「・・・・・・とりあえず店に戻ろう。

 その後だ。

 この写真をどうするか決めるのは・・・・・・」






「で、その女が落とした写真をどうするか迷ってるわけか」

「はい。

 記憶の手掛かりになるかも知れませんし、そうでなくても、彼女には大切なものか
も知れませんから。

 だけど、彼女が何処へ行くのか分かりませんし・・・・・・・・・」

 アキトはサイゾウに相談していた。

「だったら、その名刺に書いてある連絡先に連絡してみたらどうだ?

 そうすりゃ、行き先が分かるかも知れないぞ」

「そう・・・・・・ですね。

 そうします」

 アキトは名刺に書いてある電話番号をプッシュした。


 ぴ・ぽ・ぱ・ぽ


 そんなコミカルな音がして、


 とぅるるるる

 とぅるるるる

 ガチャ


『はい、ミスマルでございます。

 どちら様でしょうか』

 電話が繋がった。

「あ、テンカワという者ですが・・・・・・

 お宅の娘さん・・・・・・ユリカさん?

 という方が落とし物をしていったんですが、行き先は分かりますか?

 分からなければ、『雪谷食堂』という、佐世保の食堂で預かっていると」

『少々お待ち下さい・・・・・・
 
 旦那様ー!
 
 ・・・・どうしたー!?
 
 お嬢様の行き先を伝えてもよろしいでしょうか?
 
 なぜだ?
 
 お嬢様が落とし物をなさったそうです。
 
 そうか。
 
 それじゃあ伝えてやってくれ。
 
 はい、分かりました。
 
 お待たせいたしました。

 お嬢様は佐世保の軍ドックへお行きになりました。

 そこでネルガルの『プロスペクター』という方に会えば、お嬢様に会えるはずです』

「そうですか。

 どうもありがとうございました。

 それでは失礼します」


 ガチャ


「サイゾウさん」

「おう、わぁーってる。

 行って来るってんだろ?

 さっさと行ってさっさと帰ってこい。

 最後の洗いモンを済ませる前までに、な」

「はい」


 パサッ


 アキトはジャンパーを羽織った。

「それじゃ、行ってきます」





 本星への報告書 TA−3

 遂に物語が動き始めました。

 ここからどうなるのか・・・・・・

 後は書き上げればお終い、です。

 どうか、末永くお付き合い下さい。
本星への報告書 TA−3 終