『あら・・・・・・燃料、切れちゃったみたい。 テヘ(はぁと)』

 という、世にも間抜けなセリフを残して捕虜になったカグヤ。

 当然の如く尋問のため、とりあえず会議室に連行(?)された。

 ブリッジからはユリカ、プロス、ゴートが会議室に赴いた。

 え? 副長?

 いたっけ、そんなの?(核爆)

ひ、酷いよぉ〜〜

 この話じゃ、置いてけぼりにもされてないのにぃ・・・・・・


 ま、所詮そんなもんである。

 冗談を抜きにして、副長のアオイ・ジュンはブリッジに残っている。

 ビッグ・バリアを突破したものの、まだ月基地艦隊が出張ってくる可能性がある。

 その時に、指揮官がいなければお話にもなりはしない。

 フクベとムネタケはあくまでもオブザーバーなので、戦闘の参加は基本的に禁止である。

 更には、一応降格の通知が届いたのだが、それでもまだ彼は連合軍の軍人であった。

 ゆえに、連合軍と構えることは出来ない。

 ということで、結局指揮権は艦長のユリカと、副艦長のジュンしかいないわけである。

 軍ではないため,艦長と副艦長不在時の最高階級の人間が指揮権を受け継ぐ(譲渡される)わけにはいかない。

 ブリッジの人間は、(提督、副提督、)艦長、副艦長と順位は決まっていても、それ以外は階級がないため、順位がない。

 順位が無いというのに語弊があれば、全員が同列順位と言い直そう。



「ねえ、ところでさぁ、さっきの『ビッグ・バリア』って、本当に役に立つの?」

 サツキミドリ二号というコロニーに進路を固定し、それから後は暇を持て余しているミナトが誰とは無しに呟いた。

 それに一番最初に反応したのはメグミ。

「そう言われてみれば、そうですよね。

 地球から脱出しようとするナデシコで、振り切れちゃったんですよね。

 だったら、ナデシコよりも重そうなチューリップの進入、防げるのかなぁ・・・・・・?」

「おほほほほほほほ」

 ブリッジ居残り組のムネタケが、懐から取り出した扇子で口元を覆いながら笑う。

「良いところに気付いたわね、小娘」

「私、小娘じゃなくて『メグミ=レイナード』って言う名前があります!」

「悪かったわね、こむす・・・もといレイナード通信士。

 私も詳しくは知らないんだけどね、ビッグ・バリアは、外側よりも内側からの方が簡単に破れるのよ。

 だから、小型と中型のチューリップは、過負荷がかかって縮まったディストーションフィールドで潰れちゃうのよ。

 時々中型が耐えきって墜ちてきても、第二防衛ラインの数十発から百数十発のミサイルで片が付くわ。

 問題なのは大型チューリップだけど・・・・・・」

 もったいぶるように言葉を止める。

「大型はよく分かりませんが、ビッグ・バリア完成後には数基しか来ていません。

 それも、第五防衛ラインまでで何とか片付けられるそうです。

 破壊できなくても、活動不能にまでなるそうですから」

 ・・・・・・ムネタケが続けようとした言葉を、ルリが言ってしまった。

「・・・・・・・・・・・・。

 ちょっと、小娘。

 何で私の見せ場を取るのよ」

「私、小娘じゃありません。 少女です」

 ・・・・・・・・・・・・・・・。





 そんな呑気な会話が出来るのも、ビッグ・バリアを突破したからなわけで・・・・・・。

 ほんの短いその話を・・・。








機動戦艦ナデシコ
THE AVENGER

第一七話 ビッグ・バリア、突破










 『ビッグ・バリア』。

 それは、第一防衛ライン。

 つまり全部で7ある地球防衛ラインの、一番外側である。

 なお、第七防衛ラインは地球発進のジェット戦闘機。

 第六防衛ラインは同じくスクラムジェット戦闘機。

 第五防衛ラインは地球発進の宇宙戦艦隊(巡洋艦や駆逐艦、護衛艦も含まれています。当然の如く)。

 第四防衛ラインは地球発進のミサイル群。

 第三防衛ラインは衛星軌道基地よりデルフィニウム部隊。

 第二防衛ラインは軌道衛星よりのミサイル網。

 そして第一防衛ラインが、前述通りのビッグ・バリアである。

 ビッグ・バリアは、クリムゾングループ制の、全八基の核融合炉を搭載した空間歪曲場発生装置。

 出力的にはナデシコの時空歪曲場(ディストーションフィールド)の方が上である。

 が、いかに相転移エンジンとはいえたった二基。

 連合軍は八基のウチ五基までの核融合炉をナデシコの航路に合わせ、集中してきた。

 さらに、残り三基の核融合炉もを回す気配が見られる。

 そして今、ナデシコは約高度一万メートル地点にあった。

 それは、相転移エンジンの出力が最大になる高度である。

 ちょうどその時、

「エステバリスとデルフィニウム、収容完了しました!」

 メグミの報告。

「相転移エンジン、ディストーションフィールド、出力全開へ!!」

「バリア衛星に接触します。 総員対ショック防御!」





 それから一分もせずに、激しい振動がナデシコを見舞った。

 バリア衛星と接触したのだ。





「まさか・・・・・・連合軍のバリア衛星がこれほどとは」

 プロスが、半ば呆然として呟いた。

 シミュレーションでは、バリア衛星五基を想定していたが、それでも楽に打ち破ることが出来た。

 この五基という数は、ナデシコがバリア衛星と接触する際の、最大数と予想された数である。

 現在、その五基のバリア衛星と接触している。

 しかし、そのバリアを打ち破ることが出来ないでいる。










「バリア衛星が壊れても構わん!!

 絶対にナデシコを地球から出すなぁ!!










 と、連合軍最高司令官殿が叫んだための苦労だ。

 現在、バリア衛星の出力は128%。

 通常、『100%』と言っても本来の『100%』ではない。

 安全装置というか何というか、5〜15%程の余裕を持たせている。

 しかし、128%は、その限界をかなり超えた数値。

 それが示すもの。 それは・・・・・・





 バチバチ

 大気の薄い(というかほとんど無い)、この高々度域。

 そこに、微かな音が響き渡った。

 その『バチバチ』という音は、断続的に続いている。

 途切れ途切れに、ほんの少しの間を空け。

 その音は、『スパーク』とでも言うべき蒼白い光を伴っていた。

 いや、蒼白い光に、その音が伴っていたのかも知れない。

 そして、その音とスパークは一般に『ビッグ・バリア』や『バリア衛星』と呼ばれる人工物から発生していた。

 限界を超えた出力を出しているためだ。

 限界を超えた出力を出すとなると、安全設計以上の電流を流すことになる。

 過電流は、熱の発生量を増やし、抵抗を増す。

 抵抗が増すと、今度は電圧が高くなる。

 電圧が高くなると、熱の発生量が増える。

 その繰り返し。

 コレが『短絡(ショート)』。

 そして、ショートの末には発火することもある。

 このバリア衛星の出力は、並みではない。

 なぜなら、核融合炉一基まるまるをバリアの出力に回しているのだから。

 となれば、当然の如く発生した熱量も並みではない。

 結論。

 ドンッ、ボンッ

 ほぼ同時に、全八基の内五基のバリア衛星が火を噴き、爆発した。





「バリア衛星、突破しました!」

 メグミが、弾んだ声で報告する。

「でも、な〜んで、いきなり爆発しちゃったの?」

 と、ミナトが訊くと、

「限界出力を越えていた模様です」

 ルリが答える。

「ふぅ・・・・・・、安心しました。

 もう少し持ち堪えられたら、もう一基バリア衛星が来てしまいましたからねぇ」

 感慨深げに、溜息を付きながらプロス。

 さらに、

「今頃、地球ではバリア衛星爆発の影響で、大規模なブラックアウト現象に見舞われているでしょうね」

 と、なにやら微妙に達観した様子で言う。

「確かにね。

 でも、そのツケは連合軍が払ってくれるわよ。

 身から出た錆だし、さもなければマスコミにたたかれるわ。

 それに何より、ネルガルのあの敏腕会長秘書が根回し手回しするでしょうし」

 と、ムネタケ。

 ちなみにゴートは、まだ格納庫のエステバリス内で待機中だ。

「それじゃあ機動戦艦ナデシコ、火星へシュッパァーーッツ!!」










 本星への報告書 TA−17

 と言うわけで、バリア衛星突破なお話でした。


 特に書くことがないので、『抵抗がどうたら』について一応説明します。


 電気の世界には『E=RI』という法則(オームの法則という)があります。

 『E』は電圧、『 』は電流、『R』は抵抗です。

 簡単に言えば、『Eボルトの電圧を掛けるとIアンペアの電流が流れます。その時、抵抗はRオームです』ということです。

 それはつまり『Iアンペアの電流が流れ、抵抗がRオームの時、電圧はEボルトです』とか『Rオームの抵抗のものにEボルトの電圧を掛けるとIアンペアの電流が流れます』とも言えます。


 熱で抵抗が増すというのは、式があるんですが忘れてしまいました(汗ッ:そんなだからテスト悪いんだよ〜、覚えろよ、オレ!)

 う〜〜ん、科学、選択で二分野(電気系)取ってるのになぁ・・・・・・



 それでは、この辺で。


本星への報告書 TA−17 終


 

 

代理人の感想

・・・・感想も書くことがない(爆)。

カグヤの尋問シーンが入るかと思ったんですけどね(苦笑)。