「名誉ある扱いを頼むわ」
デルフィニウム中隊隊長、カグヤ・オニキリマルは尊大な態度で言った。
一応は捕虜であることを鑑みれば、恐ろしく勝手な言い種だった。
だが、彼女はその自分の言葉がおかしいとは一片たりとも思わなかった。
高慢チキチキモード爆裂中の人間は、そんな些細なこと(?)は気にしない。
「あのーカグヤちゃん?」
ユリカが、恐る恐るといった感じに声を掛ける(ちなみに会議室で尋問中)。
「何かしら、ユリカさん?」
「カグヤちゃん、一応捕虜だっていうこと、分かってる?」
「はぁ・・・・・・・・・」
呆れたような溜息。
憐憫さえ篭もった視線。
「ユリカさんは知らないの?
『それはそれ、コレはコレ』という言葉を」
「知ってるけど・・・・・・」
「なら、『気にしたら負け』は?」
「それも知ってるけどぉ・・・・・・」
「では問題ありませんわね」
「なぜ?
・・・・・・カグヤちゃん、変だよ?」
・・・ユリカに言われたらお終いである。
「相変わらず失礼ね、ユリカさん」
「そう言うカグヤちゃんも、相変わらず変だね」
・・・・・・・・・・・・・・・。
「「ふっふっふっふっふっふっふっふ・・・・・・・・・・」」
不気味に笑うユリカとカグヤ。
室内の温度が3℃ほど下がったり。
ユリカの後ろで、プロスとゴートがひそひそと話していた。
「はぁ・・・・・・、コレでは尋問になりませんなぁ」
「というか、なぜ尋問する?
ここに来た理由など、簡単に想像が付くが?」
「それはまぁ、ナデシコの奪取が目的でしょうねぇ。
しかし、こういうのは、つまりアレです」
「・・・・・・『アレ』?」
「ええ、『お約束』、です」
「・・・・・・・・・・・・」
機動戦艦ナデシコ
THE AVENGER
第十八話 アキトの日常
「火星丼とメロンソーダ一つずつ」
「火星丼とメロンソーダをお一つずつですね」
洗い物の手を止め、客(整備員のフェイチェン)の注文を確認し、コックのホウメイに伝えるアキト。
「あいよー!」
威勢良く答え、火星丼を作り始める。
その隣では、ミカコがコップに氷を入れ、エリがそれを受け取ってメロンソーダを入れる。
それをジュンコが受け取ってアイスクリームを載せ、カウンターの近くにおいてあるトレーに載せる。
流石に白米は炊き起きがしてあるので、火星丼はすぐに出来た。
クリームソーダが完成した頃には、火星丼も出来ていた。
丼でハヤシライス+タコさんウィンナー。
それが、火星丼を表す言葉の全てだ。
その火星丼をクリームソーダの隣に置き、フェイチェンに渡す。
「はいよ、お待ち」
「♪♪♪」
鼻歌交じりでそれを受け取ると、回れ右をし、そこで思い出したかのようにホウメイを振り返った。
「あ、そうだ。
悪いんだけど、アキト借りても平気?」
「何に使うんだか知らないけど、出来る限り早く返しておくれよ」
「うーっす。
・・・・・・というわけだ、ちょっと顔貸してくれ、アキト」
「え・・・あ、はい」
一時中止していた洗い物戦線から離脱し、武装(エプロン)を置いてフェイチェンに付いていった。
「それで・・・・・・何の話ですか?」
一口火星丼を口に含み、モゴモゴやりながら
「ああ、・・・モゴモゴ・・・大したことじゃないんだけどな、・・・モゴモゴ・・・お前のエステの話だ。
モゴモゴ・・・・・・モゴモゴ」
アキトのエステ。
ゴートが臨時にパイロットを務めた、ピンクのエステだ。
それに何かあったのかと訊くと、
「あったというか、ないというか・・・・・・
・・・・・・まあ、いい」
また一口。
「・・・モゴモゴ、ゴートの旦那が言ってたんだけどな。
モゴモゴ・・・何かエステが、スペック以上の性能があったらしい。
・・・モゴモゴ
例えば反応速度だけどな、・・・モゴモゴ(ゴックン)スペック上では0.2ミリセコンドで反応する筈なんだわ」
「はあ・・・・・・」
適当に相づちをうつ。
「それが、0.032ナノセコンドだった。
・・・・・・初めて操縦したときと二回目、何かそう言った差異は感じなかったか?
ちなみに、現行の技術じゃぁ、マグネットコーティングとかフル活用しても、0.08ミリセコンドが限界だ。
その、千分の一以下、なんだよな・・・・・・」
「・・・って言われても、初めての時はほとんど覚えてないから、二回目の時のが普通だと・・・・・・」
「そうかぁ・・・・・・・・・。
・・・それにしても、一体全体、なんでまたそんなに性能が上がったのかねぇ」
彼は更に、射撃管制能力の向上や、IFS情報伝達量の上昇というものなども告げた。
射撃管制能力は、その名の通り射撃時の命中精度のことである。
同じ距離同じ武器なら、その性能が上の方が、命中率が高い。
命中値が同じ値の時は、射撃管制能力が上の方が、長い射程を誇る。
・・・・・・ともに、同一パイロット時である。
IFS情報伝達量は、多い方が正確な行動が可能になる。
外からの情報が多く伝わり、パイロットからの命令もより緻密に正確に伝えることが出来る。
しかし、多すぎれば今度は脳がダメージを受け、廃人(又はそれと同様)になることもあるが。
「えーーーと、つまりそれは、どう言うことでしょうか?」
「いや、全く分からん。
なんか知らんが性能が上がったことしかな。
だから、一応お前が何かしたのかなーとも思って、な」
と言い、残っていた火星丼を一気に口の中に流し込んだ。
最後に、残して置いたタコさんウィンナーをぱくっと食べる。
「それじゃあ、オレはコレで・・・」
「待て」
ぱくっ、ぱくっ、とクリームソーダのアイスを食べ、ずずぅ〜〜っと飲み干し、空の丼とコップが乗ったトレーをアキトに押しつけて、
「コレ下げてくれや」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
昼のラッシュ(?)が過ぎ去り、アキトはサユリの部屋へと向かった。
手には、トレーを持っている。
ハルミとエリが、そのアキトの後ろに付いている。
ジュンコとミカコは、まだ食堂で仕事中だ。
「テンカワさん」
心配そうな顔のハルミとエリに、頷いて返す。
サユリを除くホウメイガールズ四人の内二人と、毎食ラッシュ後に行われるやり取りだ。
コンコン
「サユリちゃん、入るよ」
断りを入れ、ドアを開ける。
鍵が掛かっているが、保安部(ゴート)とプロスの許可を得、合い鍵をもらっている。
ただ一人、某艦長だけは『絶対ダメ〜〜っ!!』と駄々をこねたが、却下された。
電気が消され、闇に包まれた部屋の中。
廊下の明かりが、ベッドの上に蹲るサユリの姿を浮かび上がらせる。
ドアは開けたままにしておき、サユリを刺激しない程度の光源を確保しておく。
アキトはサユリの方には向かわず、ぬいぐるみが置かれた机に向かった。
「・・・・・・また、食べなかったんだね」
机の上に置いてある冷え切ったお粥と、大根とニンジンの煮物。
アキトが、朝届けに来た朝食だ。
彼女は、既に四日間何も食べていない。
「ここに新しいの置いて置くからね」
手に持っていたトレーと、置いてあったトレーを入れ換える。
新しいものはやはり塩粥と、それから卵焼き。
「・・・・・・サユリちゃん、オレには、なんて言ったらいいのか分からない。
・・・・・・例え言ったからって、サユリちゃんがそれで元気になれるとも思わない。
だけど・・・・・・、これだけは言わせてくれ。
ホウメイさんも、ホウメイガールズのみんなも、サユリちゃんが元気になるのを待ってるから。
もちろん・・・・・・、オレも」
その言葉は、サユリの方を向いては言わなかった。
「それじゃあ、また夜に来るよ」
というと、アキトはサユリの部屋から出た。
夕食ラッシュの後、アキトは言葉通りサユリの部屋に食事を届けた。
サユリが自分の殻から出るまで、ずっと食事を届け続け、語りかけ続ける気でいた。
・・・・・・それから、トレーニングルームでヤマダ・ジロウの指導の元(何だかんだ言って、彼は優秀だ)身体を鍛える。
そしてシミュレーション。
それが、アキトの日常だった。
アキトは知らない。
瞳に虚無しか宿していないサユリが、アキトが語りかけるときだけは光が宿らせていることを。
そして、日常は簡単に崩壊するものだと言うことを。
そう。
ほんのちょっとした切っ掛けで・・・・・・
本星への報告書 TA−18
特に書くことはありませんが、とりあえずこれだけは。
前々回の更新で、破れたりっ! な感じの『E.Tの陣』。
僕個人としては『破れたりっ!』とは思っていませんので、まだ続けようと思っています。
・・・え? なぜかって?
それはですね、更新日前日に既に送っていたからなんですよ、作品(Another
NADESICO)を。
でも、それがやっぱり『代理人様→別人28号さん→代理人様』となるわけで、おそらく別人28号さんの感想が更新に間に合わなかったからだろうと。
・・・・・・あ、べつに、『別人28号さんの所為だ!』などと言う意味ではありませんので、誤解の無きよう。
ただ単に、『クソっ、もう少し早く仕上げられればっ!!』と、自分自身に少々憤っているだけです。
というわけですので。
それでは、この辺で。
本星への報告書 TA−18 終
代理人の感想
>感想逆指名
どうも、ETさんは誤解をしてらっしゃるようなので言及しておきますが、
私を含めて感想書きは大半が社会人であり、職をもっています。
また、作品の送受信に使用しているのはプライベートの回線であり、
従って利用できる時間帯は送る方も受けるほうも互いに限られます。
忙しくてメールを見られない場合があることも考えれば一日二日のタイムラグは当たり前に起ります。
学生さんや自由業の方はあまり理解できないでしょうが、それが普通なのです。
つまり、逆指名をした場合前日は既に手遅れ、二日前でもギリギリだと思って下さい。