カリカリカリカリカリ・・・・・・
ピタッ
浦島アキトは勉強中、はたとその手を止めた。
彼は唐突に思ったのだ。
「(2泊3日ぐらいの旅(世間ではそれを“旅行”という)に出よう)」
アキトはそれを次の日に実行した。
「2泊3日ぐらいの旅に出ます。探さないでください」という書き置きを残して・・・・・・
ナデひな外伝
シリーズ 浦島
アキト ぶらり旅
in セフィーロ(短編版)
「何だこれはーーっ!!!?」
今朝のひなた荘は、この声で目覚めた。
・・・素子の叫び声で・・・・・・
「何や!?どうしたんや、素子!?」
「どうしたの、素子ちゃん!?」
「どうしたんですか!?素子さん」
「どうしたんやー?素子ー」
ロビーに出てきたひなた荘の住人に素子は声と手を震わせていった。
「これを・・・見てください・・・・・・」
素子が手にしていた紙を見、書いてあることを読み上げるキツネ。
「えーと、なになに・・・
“2泊3日くらいの旅に出ます。探さないでください”
何考えとんじゃ、あの馬鹿管理人はぁーーっっっ!!!」
そしてキツネはまた暴れた。
この時、アキトがスットン共和国から帰って丁度10日後だった。
「う〜〜ん、賑やかでいいなぁ」
そんなことを言いながら、アキトは東京は浅草、雷門を写真に納めていた。
カメラは、旧式(というか、むしろ骨董品)だが、どこか趣深いものがあるニコンのカメラ(機種はE.Tは知らんので割愛)。
バインダーから、戦争によって焼け落ちたために作り直された、巨大な提灯を覗く。
『雷門』と書かれた提灯と、戦後の復興に沸き、観光を楽しむ人々。
特に、後者はアキトの心に、深い感慨を与える。
「本当に・・・・・・平和だな・・・・・・・・・」
小さな声で呟き、そっと微笑する。
呟きを聞いた者は誰もいないが、聞いた者がいたならば、この青年がよほど平和を渇望していたことを知るだろう。
そして、梳かした髪と伊達眼鏡がどことなく童顔な印象を与えている顔に浮かんだ笑顔は、女性のみならず、男性さえも虜にするほどのものだった。
・・・・・・あんまりどころか、全く嬉しくないけど。
事実、それを直視してしまった男女(とは言ったものの、ほとんどは女性。少女、幼女、老女(爆)も含む)は、顔を真っ赤にしている。
「東京と言ったら、やっぱりこれだよね〜〜」
アキトは、かみなりおこし(雷門トコで買った。人形焼きも)をポリポリと食べながら、東京タワーの列に並んでいた。
・・・・・・この時代も、変わらず東京タワーは東京の名物であった。
雷門も然り、帝釈天然り、明治神宮然り・・・・・・。
かみなりおこしをこりこりと食べていると、隣に並んでいた五歳くらいの女の子が、それを物欲しそうに見ていた。
「・・・・・・・・・・・・。
・・・はい」
欲しいのかな?
そうだよね、欲しいんだよね、きっと。
などと考え、その女の子におこしを一つあげる。
「うわぁーー、ありがとう、お兄ちゃん!」
「・・・・・・!」
一瞬、その女の子がアイちゃんと被って見えた。
アイちゃんは茶金の髪だったのに対し、この女の子は紫系の黒髪。
彼女を見る人全てに、無条件に元気を振りまいてそうなアイちゃんに対し、内気そうな雰囲気。
二人は似ても似つかないのに、重なって見えた。
その子の母親が礼を言っているが、耳に入らなかった。
「・・・・・・?
どうしたの、お兄ちゃん」
「・・・・・・なんでもないんだよ、ただ、知り合いの女の子にちょっと似てたから」
何とか、そう言葉を絞り出す。
「ふぅーん・・・・・・。
・・・ねえ、お兄ちゃん。
もう一個・・・・・・ちょうだい」
「こらっ」
母親が女の子の頭を軽く小突くが、アキトは苦笑しながら、
「はい、いいよ。
俺はもう一袋有るから」
と言いながら、半分ほど食べたかみなりおこしの袋を女の子に渡した。
「どうもすみません」
「・・・・・・いえ」
本当に、この母娘はアイちゃん母娘に似ていた。
そうしているうちに、エレベーターが来た。
エレベーター内でいくらか母娘と会話をし、特別展望台に到着するのを待つ。
チ〜〜ン
古典的なトースターが焼けたかのような音がし、扉が開く。
エレベーターを降りて、親娘と別れる。
暫く、ぼけーーっと復興の活気に溢れる外を眺めていると、一周してきたのだろう、また親娘と会った。
「あ、お兄ちゃーーーん」
女の子が駆け寄ってくる。
と、
「あっ」
女の子が、何かに躓いたのか、アキトの方に飛び込んできた。
アキトのすぐ近くで転んだため、彼にも完全に反応することは出来なかった。
「うわっと」
女の子に突き飛ばされるような形で、一歩二歩と後ろに下がる。
トンッ
その拍子で、後ろにいた三人の少女にぶつかる。
少女達は、丸くなって手を繋いでいた。
「すいません」
アキトがぶつかりながら少女達に謝った瞬間、光が炸裂した。
既視感ーーー
瞬転、今までの景色は消え去っていた。
そこは、まるでお伽話にでも出てくるような宮殿を見渡す、白い建物の中だった。
同日ーーー
「いってきまーす!」
竜咲 海(リュウザキ ウミ)は家の門を出た。
「「いってらっしゃーい!」」
豪邸の門の前で、両親が海を見送る。
バスケットを持った、長い青髪の少女の小さくなっていく背中を見ながら二人は、
「海は最近ますます元気だね、ママ」
「本当に。
誰か素敵な彼でも見つかったのかしら。
パパみたいな」
「だといいね」
そして二人は見つめ合う。
「いってまいります!」
鳳凰寺 風が、姉の空(クウ)に声を掛ける。
「きょうも東京タワー?」
庭の草花に水をやる手を止め、風を振り見る。
「また、ひよこまんじゅう買ってきてねーー 」
彼女は、ひよこまんじゅうが大好物だ。
「はい!」
笑顔で姉に答え、風は門を潜る。
「遅れるーーー!」
時計を見ながら、獅堂 光(シドウ
ヒカル)は叫んだ。
その足元を、ヒカルの愛犬閃光(ヒカリ)がじゃれる。
「ごめんね閃光!
これから出かけるんだ。
帰ってきたらお散歩にいこうね」
そう言いながら、顎の辺りを撫でてやる。
ヒカリは残念そうに、
「クーン」
と声を出した。
「でかけるのかーー ?」
「うん。 海ちゃんと風ちゃんと」
引き戸からひょっこりと顔を出した一番下の兄、翔(カケル)に答えると、
「夕飯までには戻るか?」
一番上の兄、覚(サトル)が声を掛ける。
「うん! かならず!」
後ろを振り返りながら、ヒカルは門へと走る。
「今日はどこへいくんだーー ?」
二番目の兄、優(マサル)の質問に、
「異世界ー!」
と、答える。
「「?」」
マサルと、ヒカリを抱いたカケルは不思議そうに顔を見合わせる。
サトルは、光を優しい笑みとともに見送った。
東京タワーの一角に、『バタバタ』という足音が響いた。
「さすが光!
時間ぴったりね」
海が笑顔で、駆け寄ってきた友人に声を掛ける。
光は肩で息をし、ぜーはー言いながら、
「よ、良かった間に合って」
その光を微笑みとともに見ながら、
「さ、まいりましょう」
と、促す。
「うん!」
ほんの少しの間に光の息は整っていた。
三人はお互いに手を繋ぎ合い、目を閉じる。
そして、三人をヒカリが包み込む。
いつもならば、次に目を開けたときは異世界『セフィーロ』だ。
しかし、今日は少し違った。
光が臨界点に達する直前に、人がぶつかってきたのだ。
「すいません」
三人にその言葉が届くか届かないかというところで、光が臨界点に達したのだ。
爆発した光の中心に深淵の闇と、銀河の如き光の塊が生まれる。
二次元的に生まれたその空間に三人と一人は呑み込まれる。
次の瞬間、何事もなかったかのように二次元的に現れた空間は消滅した。
心地よい風が、海、風、光の頬を撫で、髪と戯れる。
そしてーーー
「こんにちは!」
「よ!」
一瞬にも、永きにも感じられる時が過ぎると、友人達の声がする。
巨大な帽子を被った長身の少年と、左の頬に十字の傷を持つ、豪奢な、それでいて動きやすい服を着る少年がいた。
普段なら、その友人達の元に駆け寄る三人だったが、今回は、
「ね、ねぇ、どうしよう海ちゃん、風ちゃん」
「まさか一般の人が一緒に来ちゃうだなんて思ってもなかったしね」
「そうですわよね。
本当にどうしましょう」
と、三人でこしょこしょと相談していた。
その足元には、腰を抜かしたかのように座りこけ、目を真ん丸に見開いた青年がいた。
「・・・って海、その人は?」
「アスコット・・・・・・それが」
「なんと言ったらいいのでしょうか」
「風まで、一体どうしたんだ?」
三人はどうしたものか、と顔を見合わせる。
そして、真剣な顔付きで光が話し始めた。
「フェリオもアスコットも落ち着いて聞いて欲しいんだ」
「実は・・・・・・・」
「何も知らない、一般の方が一緒に来てしまったんですの」
「「えぇっ!?」」
アスコットと呼ばれた長身の少年と、もう一人のフェリオというらしい少年は、絶句した。
「だ、大丈夫なのかい!?」
「風達以外はまずいんじゃないのか!?」
件の青年は、未だぼへーっとしたまんまだった。
その心境は、
「(ぼ、ボソンジャンプ!?
いや、まさか。
あれは俺しか使えないはずだ。
そうじゃなかったとしても、ナノマシンが活性化しなかった。
じゃ、一体どう言うことだ!?)」
そして、
「あ、あはははははははは・・・・・・
夢だな。 そうだ、夢に決まってる。
ほら、その証拠にチョウチョも飛んでるし」
ひらひらと飛んでいるチョウチョは、青年ーー 浦島
アキトの頭の周りにだけ存在していた。
ついでに、ひよこさんとお星様も。
更に言うなら、彼の周りだけお花畑が広がっていた。
でもって、宇宙人さん(グレイ)とはないちもんめなんぞやっていた。
「「「あ、壊れた」」」
「夢なら何だって出来る筈さ。
そぉーら、俺よ飛べぇー」
次の瞬間、アキトの身体が浮いた。
「あははー、ほぉーら、やっぱり夢だったぁーー」
「えっ!?」
「そんな!」
「どうしてですか!?」
「馬鹿な!!」
「どういうことだ!?」
このセフィーロは、何よりも意思の力が優先される。
『何か』を『為したい』と願えば、それを『現実』へと変貌させる世界。
ただし、『願う者』の意志力、精神力の如何によって、その発現レベルにはかなりの格差があるが。
とはいえ、空を飛ぶこと、それが移動無しの浮くだけだったとしても、これは並大抵のことではない。
特に意志力・精神力の強い者達は魔導師(イル)、その上級職とでも言うべき導師(グル)、魔法剣士(カイル)などと呼ばれるようになる(それらになる際、儀式(『魔法伝承(アクセプト)』という魔法)を受ける必要有り)。
他にもあるのだが、世間一般で言う『魔法』を使える者は、この三職(?)しかいない(例外はあるが)。
浮遊の魔法は、浮遊の能力を持った幻獣・召喚獣の使用を別とすれば、導師の中でも一握りの人間(といっても、現在導師は一人しかいないが)しかできないと言っても良い。
それを、この男は錯乱した状態でやってのけたのだ。
これに驚かずして、一体何に驚けばいいのだろうか?
あまりの驚きに、アキトと一緒に目をくるくる回しながらおたおたと謎のダンスを踊り始める。
「どうした!?」
5人の叫び声を聞き付け、純白のマントを身に纏った、黒髪黒目の男が駆け付けた。
「あ、ランティス!」
「一体何があったんだ、光」
ランティスと呼ばれた青年は、光が、
「あれ」
と言って指さしたものを見た。
・・・・・・ちなみに、光は謎の踊りを踊ったままである。他の四人も。
「・・・なるほど」
ランティスは、5人が絶叫をあげた理由を理解した。
「ところで此奴は一体誰なんだ、光」
「私たちの世界の人。
ちょっとした事故で巻き込んでしまったんだ」
「光はどうするつもりなんだ」
「それが分からないから困ってるのよね」
「そういうことなのです」
ランティスに答えてから、三人娘は溜息をついた。
でも踊ってる。
「錯乱しているうちに連れて帰るか、それとも一から説明するか、だな」
結局、アキトと一緒に目を回しながらおたおたしている5人が正気に戻ったとき、アキトも正気に返っていた。
「はっ、俺は一体何をしていたんだ!?
ーーー って,おぉぉをおっ!!?」
アキトは自分が空中に浮いていることに気が付いた。
様々な物事を経験してきたアキトにも、さすがに空を飛んだことは・・・・・・・・・あった。
「・・・・・・考えてみりゃ、ブっとんでたとはいえスットン共和国行ったときにも空飛んだっけ。
っていうか、寧ろ空、走ったっけ」
そんなことを考えながら周りを見回してみると、謎の踊りを踊る五人の男女と、それを脂汗をかきながら見つめる一人の青年がいた。
その肩には、人形らしき物体が乗っかっている。
とりあえず、アキトは状況を知るために、その青年に声を掛けた。
「ねえそこの君、ここはどこ?」
「・・・とりあえず、降りろ」
「あ、うん、そだね」
ーー ト
静かな着地音。
「それと、お前の名は?」
「あ、俺はアキト。
テンーーー じゃなくて、浦島
アキト。
それで君は?」
「俺はランティス。
魔法剣士(カイル)だ。
こっちはプリメーラ」
「まっ、よろしく」
肩に乗っけている人形は、人形ではなかった。
「・・・・・・魔法剣士(カイル)?」
「・・・・・・?
・・・そうか、そうだったな。
光に聞いていたのに忘れていた。
お前達の世界には『魔法』は存在しないんだったな」
「ま、まほう?」
アキトは固まった。
だが、彼は気付いていなかった。
自分はその魔法よりももしかしたら遥かに不可解な存在かもしれないというその事実を。
・・・・・・ex(例):昂気、幽波霊(スタンド)
そしてもう一つ。
「・・・・・・だけど、考えてみれば、魔法よりも遥かにワケ分からん存在と会ったっけな。
スットン共和国のパッパラ隊の、階級不明、トビカゲ。
あいつに比べれば、こんなコト大したことじゃないか」
「?」
その呟きは、ランティスには聞こえていなかった。
「それに、そのプリメーラって言う女の子・・・・・・なんでそんなにちっちゃいの?」
「私は妖精なの。
このぐらいの大きさが私たちには普通なんだけど・・・・・・そっちの世界にはいないの?」
「うん。
妖精なんて、想像の世界にしかいないよ」
「ふ〜〜ん」
「・・・で、結局ここはどこ?」
「ここはセフィーロという。アキトと言ったな、お前からすれば異世界だ」
「・・・・・・あは・・・あは、あははははははは」
アキトは乾いた笑い声をあげた。
『魔法』という存在を聞いた時点で何か得体の知れない不安を抱いたが、それを思いっ切り肯定する言葉を聞いたのだから。
しかも、なんか聞き流していたけど、プリメーラは「そっちの世界」などと言った。
オマケに、実在しないはずの妖精がいた。
「へ、平行世界だけならまだしも、今度は異世界かよ・・・・・・」
だがすぐに復活し、
「で、一体どういう世界なんだい?」
妙に爽やかな笑顔(←ここ、ポイント。テストに出るよ(何の?))のアキト。
「・・・・・・(なぜ笑う)。
ここの世界では、意志力・精神力に物事のほとんどが作用される。
魔法は、それを象徴するものだな。
魔法伝承(アクセプト)という魔法を受けることによって、扱うことが出来るようになる。
その成功確率・威力は、意志力と精神力次第だからな。
尤も、いくら意志力や精神力があっても、普通は宙に浮かべるものでは無いがな」
「あははは、まあ、俺は偉大だし」
まだ、爽やかな笑顔を浮かべている。
というか、壊れた笑顔の方が正しいのかもしれないが。
「・・・・・・そうか」
こちらは、その言葉に後頭部にでっかい汗を浮かべている。
普段のこの方からは想像も付かない姿である。
アキトが正気に戻るのは、この数分後。
ちなみに、光達はまだ踊り狂っている。
閑話休題
「イーグル、具合どお?」
正気に戻った光が、自分の愛しい男性の様子を見に来ていた。
その傍らには、もう一人の愛しい男性(ひと)もいる。
“だいじょうぶですよ。
眠っていても、ちゃんとあなたの声が聞こえますから”
ベッドに横たわる、女性のように整った顔立ちの、銀髪の男性が答える。
その答えは、声ではない。
頭の中に直接響くような、精神感応(テレパシー)の声。
イーグルは、既に何ヶ月もこのままだ。
だが・・・・・・
“あなたの強い『想い』で、すこしずつですが回復に向かっていると、導師(グル)クレフがおっしゃっていました”
光の顔が、とても柔らかい笑顔になっていく。
“『信じる心が力になる』。
ほんとうに不思議な国ですね”
傍らに立つランティスの顔にも、微笑みが浮かぶ。
“そういえば、みなさんにはもう会われましたか?”
「ううん、まだ。
イーグルの顔見たかったから」
“きょうはうちのジェオやチゼータ、ファーレンのお姫様達もいらっしゃっていますよ”
「アスカやタータ、タトラが?
・・・あ、そうそうイーグル、今日はね、一人珍客が来たんだよ」
“・・・珍客、ですか?”
「チキュウからな、光たちに巻き込まれて青年が一人、な」
“それは・・・・・・またとない珍客ですね”
小さな、笑いの波動。
イーグルの顔も、普段と変わらないはずなのだが、どこか笑っているように見えた。
“・・・ランティス、ヒカルをみなさんのところへ連れていってあげてください。
ザズも会いたがっていましたし”
「・・・・・・ああ」
イーグルの言葉(?)に返事をし、光の肩に手を掛ける。
「あ! 一人でいけるよ!」
ランティスが軽く肩を押す。
愛しい男性(ひと)に手を肩に回され、光はネコミミ(+しっぽ)という反応した。
それから「大丈夫!!」とも。
すると、イーグルがこんな思念を飛ばしてきた。
“いいえ、ランティスが案内したいそうですから”
そして“クスクス”と、笑う。
その言葉に、ランティスはジト目でイーグルを見ながら、頬に光るもの(汗)を出現させたりした。
「あとでランティスといっしょにくるね!
あ、それからさっき言ったお客さんも連れてくるから!」
二人の姿が身長の二倍は有ろうかという巨大な扉の外に消えてから、イーグルは呟いた。
“・・・・・・ヒカル、ありがとう”
声にこそ出ていないが、そばに誰かがいたとしても聴き取れない、感じ取れないその思念は、間違いなくイーグルの呟き声だった。
「イーグルは、ほんとうに素敵な人だよねっ。
私もあんなふうになれたらいいな」
お茶の場へと向かう二人を、セフィーロの暖かな日差しが包む。
「・・・・・・。
お前たちはよく似ているがな・・・・・・」
「?」
ランティスの言葉に、光は不思議そうに首を捻った。
・・・ネコミミ+しっぽ付きで。
「その『強い心』がそっくりだ」
そう言いながら、彼は立て膝になり、光の頬を両の手で挟んだ。
「ちょっとおおぉお!
ランティスは私のなのよーーー ぅ!!」
突如プリメーラが現れ、二人の間に割って入るなり光の肩を「ぽかぽか」と叩く。
「・・・・・・ヒカル」
が、ランティスは気にせず光に向き直る。
「?」
ぐいーっ
それでも諦めないプリメーラが、光の(ネコ)耳を引っ張る。
「お前の国では愛を告白するとき、なんという?」
プリメーラがすってーんとこけた。空中で。
少し口から魂(エクトプラズム)が抜け掛かっている。
が、光も気にせずに、
「『結婚してください』・・・・・・かなぁ」
誰かさんが聞いたら青白くなりそうな言葉を言う光。
「ケッコン・・・・・・?」
「好きな人と、ずっといっしょにいるって約束することだよ!」
セフィーロには『結婚』という言葉がない。(概念は知らないけど、多分ある)
「ケッコンしたいやつはいるのか?」
ランティスが聞くと、光は間髪空けずに答えた。
「ランティスとイーグル!」
自分の頬に当てられた大きな手に、自分の小さな手を重ねる。
「・・・・・・・・・。
ケッコンは、二人とするものなのか?」
ふるふるっ
と首を振ってから、
「でも、ランティスもイーグルも大好きなんだもん。
海ちゃんも風ちゃんもクレフもプレセアも、フェリオもアスコットもカルディナもラファーガも、みんなみーんな大好きだよ!
ずっとずっといっしょにいたい!」
光はこのセフィーロで知り合った人々の名を挙げる。
ランティスは優しい微笑みを浮かべ、光を自分のマントで包み込み、マントの上から肩に手を回す。
「お前のその『心』が・・・セフィーロをほんとうに美しい国へと変えたんだな」
光は軽く首を横に振り、訂正する。
「みんなの『心』で、だよ」
バサッ
ランティスは頷き、マントを翻すと再び歩き始めた。
取り残されたプリメーラが震える声で、
「ちょっとおお、今のどういう意味よおお」
などと涙目、青ざめた顔で悲鳴をあげていたところを目撃されている。
広大な庭の一角に、セフィーロ、オートザム、チゼータ、ファーレンの代表達、そして海と風、アキトが集っていた。
「すみません,うちの司令官がずっとお世話になりっぱなしで」
とは、イーグルが言っていたジェオの言葉だ。
「いや・・・こちらも新しいセフィーロの制度を作るのにオートザム、チゼータ、ターレン、それぞれの良いところを参考にさせてもらっている」
「そのかわりうちは、環境汚染を止める術をそちらに研究してもらっていますし」
ジェオの言葉に、暫定的なこの地、セフィーロのリーダー導師クレフが言うと、再び彼が言葉を返した。
更には、浅黒い肌の美女、チゼータの王女タータが続く。
「完璧なものなどありません。
それぞれ足りないものを足りたもので補いあえれば、素敵ですわね」
その隣では、妹姫のタトラが微笑んでいる。
「しかし、あの白いふわふわしたのがこの世界を作ったとは・・・・・・わらわもびっくりなのじゃ」
ファーレンのアスカ王女。
そして、再び導士クレフ。
「私は・・・・・・
『創造主(モコナ)』は『セフィーロ』の『変革』を望んでいたのではないか、と思っているのだ」
「え?」
その言葉に、創師(ファル)プレセアが疑問の声をあげた。
クレフは自分の考えを語った。
「・・・・・・もしセフィーロに変化を望まないのなら、そばに別の摂理形態を持つ国など置かない。
『魔法騎士(マジックナイト)』などという存在も、異世界の者である必要はないだろう。
自分以外のものを見、ふれあい、理解し、よりよい『世界』を作ることを、『創造主』は望んでいたのかもしれない・・・・・・」
その場にいた誰しもが、彼の言葉に聞き入った。
その会話は、この世界に起こったある出来事を経験・・・・・・少なくとも、知識として知っている者にしか理解は出来ないだろう。
しかし、アキトもその話に聞き入っていた。
それはとても大切なことだったからだ。
『柱』と呼ばれる者ただ一人が重責を担い、世界全てを導いていったこの国と、それを知る者達には。
アキトも、そのことは聴いていた。
「ヒカルが乗っていた『魔神』は『レイアース』。
『地球』の言葉で『光る大地』という意味だと、ヒカル達が教えてくれた」
レイアース・・・・・・Ray Earth。
光る大地。 ーーー 輝く、大地・・・・・・
炎と情熱と、そして『未来』を象徴する一柱の神。
その名が示すのは、いつか生まれくる、物質的な意味でなく、全てが美しく光り輝く世界。
いわば、『希望』そのもの・・・・・・。
「全ての『世界』が『光あふれる』所であれとの願いが込められていたのかもしれない」
「では・・・・・・私たちをもう一度招喚したのはやはり・・・・・・」
風が呟く。
マジックナイトの招喚は、本来セフィーロの『柱』にしかできない。
「『柱』なきセフィーロで異世界の者を召喚できるのは『創造主』だけだろう。
もう一度セフィーロに行きたい・・・・・・。
そしてこの国を変えたいという異世界の少女達の強い『願い』が『創造主』を動かした・・・・・・」
クレフが、語るように考えを言う。
「お前達ならこの世界に『変化』をもたらせると『信じた』のかもしれんな」
海が、どこまでも透き通った目で言った。
「だって、私たち『仲間』ですもの。ね!」
「はい!」
その言葉に、嬉しそうに力強く笑みを浮かべて、風が答えた。
ふと、光とランティスの姿が見えた。
「先に始めちゃってるわよーー!」
と海が声を掛けると、2人は駆け寄ってきた。
光とランティスがお茶の席に着いた。
海が焼いてきたというケーキと、アスコットの煎れた紅茶。
それらが、人々の前に並んでいた。
「ねえ、光」さん
「なに、風ちゃん」
「イーグルさんの様子はどうでしの?」
「うん、 元気だったよ」
ケーキを食べながら、質問に答える。
「? イーグル?」
アキトが、誰それと誰とは無しに訊くと、ランティスが答えた。
「さっき話しただろう、このセフィーロのことの全てを。
ついこの間までの戦いで、セフィーロの柱となり得たかもしれない、オートザムの司令官だ」
「ああ、そういえばそんな名前だったっけ。
でも、どうして倒れたんだっけ?
それは聞いてないと思うんだけど・・・・・・」
「オートザムは、機械が発達した国だ。
そして、そのエネルギー源は人間の精神力。
使い続ければ、無くなる。
そうすれば、寿命か、他の病気かで死ぬまで、起きることも、何をすることも出来ない」
「ふーーん、植物人間みたいなもんかー」
「そういえば、光もそんなことを言っていたな」
その会話を聞いていたのか、光が、
つ く
「でもね、でもね、今のセフィーロは、みんなの『想い』が『創造って』いく世界なんだ。
だから、私の・・・ううん、私たちの『想い』が、イーグルを癒していくんだ。
最初は、本当に何も出来なかったけど、今は精神感応で人と話すことも出来るんだ」
嬉しそうな笑顔。
「(そうか・・・・・・光ちゃんは、そのイーグルって人のことが大好きなんだな・・・・・・)」
・・・人のことには聡いンかい、コラ
「・・・・・・・・・? あれ?
人の思いが、この世界を創造っていくんだよね」
「・・・? うん、そうだけど。
それがどうかしたか?」
「うう〜〜ん、むむむむむ・・・・・・」
いきなり、アキトは唸りながら何かを考え込んだ。
「どうしたんですか、アキトさん」
「分からないんだ、風ちゃん。
『人の思いが、この世界を創造っていくんだよね』って聞いてきて、『そうだ』って答えたら、こうなったんだ」
「何か悩み事でもあるのかしら?」
海が不思議そうに言った。
そして、その海の言葉は、正解であった。
「(『人の思いが世界を創造っていく』!?
そっ、それじゃあ、俺の心の奥深くに眠っている【闇】はどうなる!?
もしかして具現化してしまうのか!?)」
と、考え込んでいた。
そしてその懸念は、セフィーロで数時間を過ごした後、現実になる。
この地で数時間を過ごし、そろそろ帰ろうかと言うとき。
唐突に空を暗雲が埋め尽くした。
暗雲は、から流れてきた。
ふと、その暗雲が発生した地点に、火柱が立った。
『魔神』レイアースが在った火山が、火を噴いたのだ。
「なに!? どうしたの!!?」
さらに、その火柱の中に、影が現れた。
黒い影が火柱を突き破った。
赤が軽く爆ぜる。
黒はどんどんと大きくなってくる。
いや、大きくなっているのではない。
近付いてきているのだ。
「鳥・・・・・・?」
海が漏らした単語は、まさに的を射ていた。
黒は、巨大な鳥だった。
まるで機械のように、不自然な堅さを持つ、丸みを帯びた体躯。
そして、翼。
寧ろ、顔は鳥と言うよりもある種の竜に似ている。
角を持ち、顎が突き出た、不気味に輝く緑の目の竜。
首は長く、丸みを帯びた躯は頭から随分と離れた位置にあった。
その移動速度は尋常ではなく、音速の壁などとうに突破している様子だ。
黒の龍はその軌道を変えながら、アキトたちの元へとやってきた。
マッハを超えたスピードから一瞬にしてゼロへ。
驚異的なスピードの変化に、普通ならば耐えられるはずがない。
だが、その知性を感じさせる、無機的な瞳に苦痛の色は全くなかった。
ブウォッッ!!
凄まじい風の塊、衝撃波がこの場にいた人々を襲った。
「殻円防除(クレスタ)!」
クレフが手に持つ杖を振るった。
クレフの身長は低く、小学生低学年より少し高いか、といった程度しかないが、その杖の長さは異様だった。
彼の身長の二倍に少し足りない程度。
つまり、大人の身長よりも更に長いのだ。
そして、クレフが杖を振った瞬間不可視の壁が現れた。
壁は衝撃波を完全に相殺した。
だが、その壁が覆わなかったところは、凄まじい被害を受けていた。
木々は太い幹から折れ、緑の葉も全てが吹き散り、白い宮殿の壁はひび割れ崩れている。
「(・・・今のが魔法か・・・・・・?・・・)」
アキトの想像通り、今の不可視の壁はクレフが使った結界の魔法だった。
「クレフ! あれは!?」
光がクレフに訊く。
クレフはこの世界で一番の知識人、賢者だ
この世界に存在するモンスターは、全て知り尽くしている。
しかし、
「分からない!
初めて見るぞ、あんなモンスターは!」
焦った様子で答えるクレフ。
「Gi−Syahhhhhhhhhh!!」
不気味な、咆哮。
そして、口を開く。
この世に、それに襲われて無事でいられるものはないと感じさせるほど鋭く、そして禍々しく輝く牙。
ぬらりと光る牙の向こう、喉奥に、蒼白い光が灯った。
そして、放たれる!
Gwoohhhhhhhh!!
咆吼と共に吐き出された閃光は、アキトたちに襲いかかる。
「殻円防除(クレスタ)!」
「護りの風!!」
再びクレフが生み出した不可視の結界と、風が作り出した風の結界が、閃光の行く手を阻んだ。
蒼白い閃光は結界と衝突し、凄まじい衝撃を結界の内に撒き散らしながら、光の飛沫となって、中空に消えていく。
しかし、圧倒的なまでに破壊力を有する閃光は、それだけでは済まさなかった。
「くうぅぅぅっ!!」
「きゃあぁぁぁぁ!!」
暫しの間押し合い圧し合いをしていた二つの力に、決着が付いたのだ。
即ち、結界の崩壊。
「紅い稲妻ぁっーー!」
結界を貫通した閃光に、紅い閃光が飛ぶ。
紅く放電する閃光は、蒼白く輝く閃光と激突し,白い閃光を発した。
「水の龍!」
拮抗する二つの光に、新たな光が加わった。
龍の形をした、激しき水の流れ。青き光の奔流。
それを生み出したのは海だった。
三つの力の決着はすぐについた。
蒼白い、破壊のエネルギーの消滅という形で。
紅い雷と龍の形をした水流が、そのまま螺旋を描きながら黒の竜へと伸びる。
雷と水は竜に襲いかかり、凄まじい爆発を引き起こした。
激しい振動は破壊のエネルギーそのものとなって、先程の衝撃波で脆くなった宮殿の壁を破壊する。
「い、一体なんなのじゃ、あれは!?」
アスカ王女の叫び声。
それに呼応したかのように爆炎と煙が収まり、再び竜が姿を現す。
「Gi−Syahhhhhhhhhh!!」
竜は怒り狂ったように咆哮すると、全身を振るわせ始めた。
それに合わせて彼の周りに蒼白い電光が現れた。
翼と顔の角の三点を中心とし現れた雷の破片は、その角のすぐ前に雷球となって集まり始める。
雷球はどんどん膨れあがり、少なく見積もっても全長20メートルほどはありそうな竜の体躯よりも、更に巨大になる。
「なあっ!?」
それは誰の悲鳴だっただろうか。
「ザズ! GTOは出せるか!?」
ジェオが、自分の部下である少年に声を掛けた。
GTOはオートザムの主力兵器であるヒトガタ兵器の固有名称。
その操縦者は彼、ジェオ。
精神を糧として動くこの人型兵器は、精神を糧とするが故に扱う者によれば神の一柱たる魔神にも劣らない力を発揮する。
その正体、目的ともに不明なこの竜も、そのGTOを持ってすれば、抑えることも出来るであろう。
・・・・・・魔神は、先の戦いのおり、創造主とともに別世界へと旅立った。
「無理だよ!
今はオートザムの方で分解整備中だって!」
「くっ!」
ザズの言葉に、悔しそうに呻く。
雷球が、竜の身体から離れた。
遅々としたものが、だんだん加速してくる。
そして一条の矢と化した稲妻に、再びそれを阻もうとする力が働く。
「「稲妻招来(サンダス)!」」
クレフとランティスの声が重なった。
すると、2人が突き出した手の前に白い稲妻が生まれた。
尾を靡かせながら、稲妻は竜の雷球へと突進する。
三つの雷球がぶつかり、凄まじい音と、衝撃と、そして放電を撒き散らした。
「衝電破撃(アスキス)!!」
アスコットが両の手をつきだした。
その先に五紡星が浮かび上がり、中心から電光が奔った。
迸る白い閃光は雷球の生み出した電磁場の渦をかいくぐり、竜へと肉薄する。
そしてーーー
ドッゴオオオオォォォォォオオオオオンンン
命中。
爆炎に轟音と渦巻く衝撃波。
それらと電光が渾然一体となって竜を襲った。
しかし、幾人かはその光景に疑問を感じた。
それは即ち。
「(・・・・・・何で爆発したんだ?)」
・・・本来、『衝電破撃』は爆発するものではない。
相手を砕くものだ。
爆発するとすれば、それは内圧の関係か、そうでなければ相手を砕けずに、そのエネルギーが爆発という形になって現れるか。
前者ならば、炎が現れることはまずない。
しかし、後者は爆発時のエネルギーが空気中の水分を加熱し、爆発的にその体積を広げることによって、自身の電子と原子をプラズマ状態になすことが有り得る。
プラズマは端から見れば、炎と見える形を作ることがある。
つまり、爆炎を伴ったこの爆発から、竜は生きているどころか、大した傷を負っていないことが分かる。
実際に、煙を引き裂いて再び蒼白い閃光が現れた。
「「殻円防除(クレスタ)!!」」
クレフとランティスの声が再び重なった。
「炎の矢ぁっ!!」
「蒼い竜巻!!」
「翠の疾風!」
更に、そこに光、海、風の声も重なる。
直径が人の身長よりも大きいであろう炎の塊が、矢の如く閃光を迎撃に出た。
水で出来たとでも表すればいいのだろうか、とにかくそう言った竜巻も閃光を迎撃に出る。
翠色に煌めく風が、炎と水同様、閃光に向かう。
二重の結界に支えられる蒼白い閃光。
その正体は超々高熱のブレス。
その高熱のエネルギー体に赤、青、緑が切迫する。
そして激突。
再び撒き散らされる爆炎と爆光、衝撃波。
渦巻く風と煙が収まると、再び彼女等は魔法を使った。
「「「閃光(ひかり)の螺旋!!!」」」
圧倒的な光量を持つ光が虚空に現れ、螺旋を描きながら黒の竜へと迸る。
3人の少女達の前に展開された宙に浮かぶ五紡陣。
そこから現れた光は、一瞬の後に竜を包み込んだ。
・・・・・・この魔法は、マジックナイトのみが使用できる、最強の魔法。
いや、最強の魔法の筈だった。
何ものにも防ぐことの出来ない、絶対の光。
事実、神官(ソル)ザガートという、このセフィーロでマジックナイト達を別とすれば、二番目に意志力が強かった者が、永い時をかけ、その想いの限りを練り込み創り上げた人造の魔神を、苦もなく一蹴してのけた・・・・・・いや、消滅させた魔法だった。
「そっ、そんな馬鹿な!」
「まさか、あれを!?」
「傷一つ無いなんて・・・!!」
だが、光が消え去ってみれば、そこには傷ひとつ付いていない竜の姿。
ザガートのことを知らない者でも、光が持つ圧倒的な力を感じた。
しかし、竜は傷ひとつ付いていない。
「何だと!?
あれで傷一つ付いていないだと!?
俺のGTOがあっても、何の役にも立たない!!」
「そんな・・・・・・ヒカル達の、マジックナイトの魔法が・・・・・・!?」
魔法を放った光、海、風たちだけでなく、周りにいた人々もざわめく。
そんな中、アキトはふと思った。
「(・・・・・・この龍、俺の心が生み出したものかもしれない・・・・・・)」
そう考える根拠はいくつかあった。
「(『疾く速く(とくはやく)、何ものにも傷付くこと無き鎧もて、全てを滅ぼし後に自らも滅ぼさん』・・・・・・。
あの素早さ、防御力と攻撃力、自らを傷付けかねない機動と攻撃・・・・・・。
間違いない。
俺が復讐者時代に思ったことそのものだ。
もう・・・・・・大切な人々を護るための力だけを望んでいると思ったのに・・・・・・心の奥底では、まだ名残が・・・・・・。
本当に、具現化してしまったんだな・・・・・・。
俺の中の【闇】が)」
竜は、一度攻撃することをやめ、その巨大な翼を打ち広げた。
そして一瞬にして音速の壁を越える。
グゴォウゥッ
その際、凄まじい衝撃波が発生した。
「うわぁっ」
「きゃああ」
などと、悲鳴がいくつも聞こえる。
竜のスピードは、軽くマッハ5は越えていた。
今見てみると、竜はマッハ7、8ほどまでは出すことが出来そうな体躯をしていた。
音速を超えたときの衝撃波は、直径一センチの円の中心から、マッハの係数センチ伸ばした先から引かれた接線が作り出す角の外に吹き荒れる。
この時、二線が作り出す角は移動する物体の最先端である。
この竜の飛ぶときの最先端は、頭の角。
そこから、上記に当て嵌めて考えると、衝撃波によって自らを傷付けない最大のスピードは、マッハ7.6。
まさに、『疾く速く』。
あまりの高速故に、人々の目から消え去った竜が、再び舞い戻ってきた。
破壊を司る、死の翼を持った黒き竜が。
アキトは叫んだ。
強く、心の中で。
「(もし!
もしもあの竜が俺の中の【闇】が生み出したものだったとしても!
俺の中には【光】も存在する。
大切な人たちを護ろうという、この意思!
これは決してマガイモノなんかじゃない、本当の願いだ!
セフィーロよ、この願いを受け取ってくれ!)
全てを護る盾を、鎧を、闇を切り裂く刃を、ここに!!」
気が付くと、絶叫していた。
何事かと、その場にいた全ての人々がアキトを見る。
突如、アキトを光が包み込んだ。
光はみるみるうちに膨張し、人間の10倍ほどの人型となった。
黒の竜が、方向転換する。
発生した幾度目かの衝撃波が襲いかかってくるが、その時、人型が左腕を衝撃波が来る方向へ挙げた。
腕を覆っていた光が一ヶ所に凝縮すると盾を形作った。
その燦然と白く輝く、金縁の盾から薄い光の皮膜が現れ、辺りを覆い尽くした。
・・・衝撃波が来た。
しかし、衝撃波は光の皮膜に阻まれ、内側には衝撃すら及ぼさなかった。
「なんという強力な結界だ・・・!」
その様子に思わずクレフが零した。
それを見た竜は、明らかに様子が変わった。
今までは、どこか相手も嬲り、破壊することに愉悦を見出しているようだったが、今は違う。
そのような中途半端な破壊への衝動ではなく、明らかな殺意を持った、完全なる相手の抹殺になっている。
低く、唸り声をあげると、口を開いた。
蒼白い閃光の発現を、人々は予感した。
しかし、そうはならなかった。
確かに口内に蒼白い光は灯ったのだが、それはどんどんその圧力を高めたかのように、色を変えた。
どこまでも白い、究極の炎。
先程までの閃光など、問題になどなりはしない。
そしてソレが放たれた。
ギュオオオォォォォォォォォォォ
轟音とともに放たれた光の塊。
全てを、焼き尽くし、蒸発することすら許さずに、一瞬にして原子へと還す輝き。
それに対し、アキトが変じた白の巨人は、慌てずに右腕を振った。
その手にいつの間にか握られていた銀に輝く剣が、輝線を描いた。
輝線は、そのまま光の刃と化し、純白の閃光ごと竜の翼を薙いだ。
一瞬、全てが止まった。
時は流れているのだが、全く動くことはなかった。
そしてーーー
Gya-ahhhhhhhh!!!
暫しの間を空け、響き渡る絶叫。
半ば引き裂け、紫色の体液が滴り落ちる。
更に、衝撃が内臓(と言うものがあれば、の話だが)に響いたのか、鋭い牙の間からも、紫色の体液を吐き出した。
「なっ、なにぃっ!」
「『閃光の螺旋』で傷一つ付かなかった竜が!?」
「あの巨人、本当にあの青年が一人で、一瞬にして生み出したものなのか!?」
・・・・・・永い時をかけ、その想いの限りを尽くして生み出された、ザガートの魔神。
それをもただの一撃で滅ぼした『閃光の螺旋』。
魔神を通した威力の増幅がないとはいえ、結局その威力は核をも遥かに凌ぐ。
その一撃を受け、傷一つ付かなかった竜。
だが、白の巨人の剣は、剣から放たれた純なる光は、ただの一振りでその竜の右の翼を使い物にならなくした。
しかも、やはり核をも遥かに凌ぐ力を有する、純白の閃光を蹴散らして。
・・・そして、竜はその右翼が引き千切れるのも構わず、己が耐えられる最大のスピード、即ちおよそマッハ8で突進してきた。
口から、千切れた翼の付け根から、紫色の体液が滴る。
白の巨人も地を蹴った。
全身を覆っていた輝きは、いつの間にか消え失せていた。
無垢な純白の体躯に、燦然と輝く金色の縁取り。
民草を護る、聖騎士を彷彿とさせるカブト状の頭。
肩には、意匠化されたブローティアとストレリチアの花の紋章。
そして・・・・・・背中には聖天使の如き、純白の三対六枚の翼。
その翼がはためくと、巨人は一瞬などと言う言葉では長すぎるほどの短い時間で、そのスピードをゼロから音速を遥かに超えるスピードへと高めた。
そのまま、白の巨人と黒の巨竜が交差するーーー
次の瞬間、竜の角が巨人の胸を打った。
ーーー やられたーーー!!
誰しもがそう思った。
おそらく、巨竜自身も。
だが、巨人は動いた。
長剣を振り上げて、逆手に持ち替え、両手で振り下ろした!
ドシュッ!
剣が、巨竜の胴体と首の付け根に突き刺さった。
・・・・・・『逆鱗』というものを御存知だろうか?
『逆鱗に触れる』と、人を怒らせる行為をしたときに使われるこの言葉。
その語源は、龍の持つ、全ての鱗の中でたった一枚だけ在る特殊な鱗。
もしも触れたならば、龍の怒りを買う、即ち死出の旅の入り口となる場所。
そして『逆鱗』は、龍の唯一無二の弱点。
・・・・・・逆鱗の真下に、龍の心臓があるというのだ。
そして・・・・・・・・・
逆鱗とは、首と胴の付け根に在るもの。
そう。
知ってか知らずかアキトが貫いた場所は、竜の死点。
Gu-Gyahhhhhhhhh ! ! ! !
断末魔の悲鳴。
苦悶の声をあげながら、黒の竜は錐揉みしながら地上に墜ちた。
落下地点近辺に、人は誰一人いなかった。
白き剣が、竜とを大地へ縫いつけた。
アキトは呟いた。
巨人の中の、コクピットと思しき空間の中で。
「さらばだ・・・・・・俺の中の【闇】よ。
過去の俺との決別・・・・・・
その意味も込めて、お前に名を・・・・・・。
再開の時のないことを祈り・・・・・・
さらばだ、『ガイア』」
ガイア、Gaia、Gaea。
それは地球を意味する言葉。
それは地球を司る神を表す言葉。
それは【闇】を意味する言葉。
それは・・・・・・アキトの、自らの【闇】との、【過去】との決別を意味する。
・・・・・・長剣を失った白き巨人。
その胸には、傷一つ無かった。
『全てを護る盾、鎧、闇を切り裂く刃』
巨人はアキトの願いとは違わなかった。
そして、白き巨人・・・・・・【光(ヴァルハラ)】は、再び光に包まれた。
それからその輝きは爆発したかのように、セフィーロという世界が存在する、この宇宙に広がり、消えた。
残ったものは、傷一つ無くそれを呆然と見つめる人々。
それと完全に修復された城。
優しい光が溢れる、どこまでも蒼い空。
輝きに包まれながらゆっくりと舞い落ちる、アキト。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・アキトたちが、元の世界へ戻る時が来た。
見送りはアスコット、フェリオ、カルディナ(幻惑師(ラル):踊り子のようなもの)、ラファーガ(剣闘士(ダル):元柱の近衛兵長)らを始めとする人々。
そして・・・・・・
「では、また会いましょう。 ヒカル」
銀髪の青年が、ヒカルに声を掛けた。
「うん! また今度ね!
イーグル!!」
そして、イーグル。
回復に向かってはいるが、未だ寝たきり状態の筈のイーグル。
光、海、風、アキトを光が包み込んだ。
セフィーロと地球とを結ぶ扉。
その光の柱を見ながら、イーグルは心の中でそっと呟いた。
「(ふふ・・・・・・
・・・本当に素晴らしい世界ですね、ここは。
見ず知らずの方でも、本気で護ろうとする人がいる。
そのおかげで、僕はここに起きることが出来た・・・・・・。
・・・・・・ありがとう、異世界の青年、テンカワ
アキト。
そして・・・・・・、この世界を望んだ、我が愛しい君、ヒカル)」
アキトは、様々な感慨を抱きながら、ひなた荘へと向かっていた。
帰り道の道中、思うことは3日間の旅行の初日の出来事だった。
異世界に飛ばされる寸前に出会った、アイによく似た少女。
異世界で対面した、自らの【闇】の具現化した黒き巨竜。
あの異世界での出来事で、初めて本当に、過去の柵から逃れられたような気がした。
「(・・・・・・次に旅行するときには、何があるのかな・・・・・・?)」
本星への報告書 N−4
と、言うわけで!
お待たせしました(特に混沌の覇王さん)、アキトぶらり旅
in セフィーロ(短編版)ですっ!
え?(短編版)って言うことは(長編版)もあるのかって?
いやぁ、お客さん、お目が高いですねぇ!
その通りッス!
全話書き終えてからの投稿にするつもりだから、いつになるかは全く分かりませんが、その通りです。
長編版もあるんです。
短編版はこの様な形を取らせていただいたこの「in
セフィーロ」。
長編ではまた違った形です。
まぁ、ぶっちゃけて言っちまえば、『時ナデ(ナデひな(?))アキト入りレイアース』、ですが。
ま、この辺でさらば! ・・・デス。
代理人の感想
・・・・昔TV版をざっと見たきりですからねぇ。
誰が誰やらさっぱりわからんわ(爆)。