ピーンポーーン、ピーンポーーン
「はーい、どうぞ、開いてまーす」
アキトは屋台の仕込みをしながら声を張り上げた。
・・・・・・・・・ナデシコが遺跡を何処かへ跳ばしてから、ちょうど一年が経過した。
一年は長いようで短く、短いようで長い。
特に、アキトたちのような若い世代には、一際だ。
例えば、ナデシコを遺跡内部から跳ばしたときにキスをした二人の関係。
なんだかんだ言って結局好き合っていた二人は、一週間に3日は泊まり合う半同棲生活を送るようになっていた。
「アキトさーん、入りますよー」
「どうぞ、メグミちゃん」
風邪をひいた日
「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい」
ながしでの作業を中断して、エプロンで手を拭きながら、アキトがメグミを出迎えた。
「おはようございます☆ アキトさん」
「おはよう、メグミちゃん」
お互い笑みを浮かべながら朝の挨拶をする。
お互いの部屋で一夜を明かすのは、先程も述べたとおり週3日ほどだが、部屋の行き来はほぼ毎日している。
大抵はアキトには屋台の仕込みがあるため、泊まる部屋はアキトの狭っ苦しい四畳半の古ぼけた畳敷きの部屋。
しかし、二人にとってはこんな部屋での生活でも幸せだった。
言うなれば、『狭いながらも楽しい我が家』。
・・・・・・愛である。
間違っても『藍』や『哀』だったり、ましてや『AI』だったりはしない。
それはさておき
閑話休題
「アレ・・・・・・、アキトさん、どうかしたんですか?」
「え? どうかって・・・・・・?」
「な、何かふらふらしてますし、顔も赤いですよ・・・・・・?・・・」
「そ、そうか・・・・・・な・・・・・・」
アキトの体が、ぐらりと揺れた。
凄まじい勢いで視界が縁から黒い何かに浸食され・・・・・・
「あっ、アキトさん?!」
メグミの声を聞きながら、アキトは前のめりに倒れ、意識を失った。
「アキト、アキトはしょうがないから私とキスするの?!」
ユリカが、大きな瞳一杯に涙を溜め、絶叫する。
「アキトなんか、イネスさんとキスすればいいのよ!!」
ユリカが蒼い光に包まれたかと思うと、視界から消え失せた。
「アキト君、追わなくていいの?」
ユリカの言葉に呆然とした彼に、イネスが声をかけた。
ある意味、ナデシコ搭乗員の中で最も彼と縁の深い人物。
しかし、『縁が深い』というのは、別に『好き合っている』というわけではない。
ただ、アキトはイネスに責任を感じていることに間違いはない。
イネスもアキトに好意以上の感情を持っているのは間違いないが、それが恋愛感情ほどにまでなっているかはわからない。
だが、それでもユリカにとっては十分すぎるほどの理由だった。
アキトのことが好きだからこそ、アキトが自分を好きでいてくれないのだったら・・・・・・『仕方が無く』なのだったら、アキトとキスはしたくなかった。
『仕方なく』キスをするくらいだったら、彼と最も近しい人物・・・・・・イネスとキスをすればいいと考えるのは、彼女にとっては極自然なことだったのだ。
『縁(えにし)』の距離が『心』の距離ではないが・・・・・・ユリカにとっては、ほとんど同じものだったのかもしれないから。
「オレは・・・・・・好きな人がいます。
ただ、何処かで・・・・・・何処かですれ違って・・・・・・そのまま・・・・・・」
「そう・・・・・・」
悲しげに言うアキトの言葉に、目を伏せながら頷いた。
「・・・・・・キスは・・・・・・ユリカとしなくちゃいけないんですか・・・・・・?・・・・・・」
何かの決意をした表情で、アキトがイネスに聞いた。
ウリバタケがユリカがエステバリスに乗って出撃した旨を伝えてきたが、二人はそれを聞き流していた。
今二人にとって大事なのは、ユリカには悪いが、ユリカのことではなかった。
「いいえ、本当のことを言えば、誰でもいいの。
・・・・・・ジャンプフィールドの生成は、機械的なことを越えたところでは、強く心因的なものが関わってくる。
人は、特に他人との粘膜同士の接触を行ったときに、強い思いを発するわ。
・・・怒りの感情も、ジャンプに慣れていない人間を簡単に跳ばす程の思いだけど・・・・・・、それでは、逆に言えば一人を跳ばすぐらいの強さでしかない。
でもね、お互いを思いやる心は違う・・・・・・。
もっと強くて、それでいて優しい・・・・・・・・・。
・・・・・・それでなくては、到底、戦艦を跳ばす程のフィールドを形成することは出来ないわ」
イネスの言葉を聞いて・・・・・・
アキトは、胸に秘めた決意を新たなものにしたような・・・・・・
そんな『男』の顔付きをした。
「なら・・・・・・オレがキスをして欲しい、したい女性(ひと)はメグミちゃんです。
何処かで心がすれ違っても・・・・・・、それでも、俺はメグミちゃんが好きだった。
どうして好きなのかは、自分でもわからないけど・・・・・・
・・・・・・・・・・・・。
これから、メグミちゃんのところに行ってきます。
拒否されるかも知れないけど・・・・・・その時は、すいません。
そうなっても、オレには他の娘とキスすることは出来ません」
それだけ言うと、アキトは展望ルームから走り出した。
行く先は、愛する人のいるブリッジ。
イネスに言ったとおり、自分がどうしてメグミのことを好きなのかはわからない。
それでも、自分がメグミのことを好きなのは疑いようがなかった。
メグミとケンカ別れではないが・・・・・・別れてしまったあの時から、心は何処か空虚だった。
それは多分、メグミと別れたから。
メグミのことを考えるたびに、胸に疼痛が響く。
メグミのことを忘れようともしたが、それは不可能だった。
(メグミちゃん・・・・・・
君と、もう一度・・・・・・・・・)
アキトが何を想ったのかは誰にもわからない。
・・・・・・アキトは、ただブリッジを目指して走るだけ。
(アキトさん・・・・・・・・・)
メグミは、アキトの言葉を聞くなり、席を立って走り始めた。
「いってらっしゃい、メグミちゃん」
復帰したばかりのミナトが、呟くように優しくメグミに声をかけた。
その小さな声がメグミに聞こえたかはわからない。
「・・・・・・ねえ、ルリルリ」
「なんですか?」
ミナトがルリに呼びかける。
チャンネル
「どうして今の、全 回線
オープンで流したの?」
「・・・・・・・・・・・・。
さあ、どうしてでしょうか・・・?・・・」
ルリは、謎めいた微笑を浮かべた。
「・・・・・・まっ、結果オーライ、か」
「それでいいんですよ、多分、どんなことでも・・・・・・」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
ルリが気を利かせてオモイカネに表示させたパネルを見ながら、メグミは走っていた。
そのパネルには、メグミとアキトの現在位置が表示されている。
ルリはアキトにも、メグミと同じパネルを表示させた。
二人は、もうすぐ出会う。
多分、次の角を曲がれば・・・・・・
タッタッタッタ
タン、タン、タン、タン
靴や体重、走り方の違いが、2つの靴音を生む。
その2つの音は、段々と近付き合う。
そして二人が角を曲がると、お互いの姿が見えた。
「メグミちゃんっ!」「アキトさんっ!」
二人は、同時に互いの名を叫んだ。
「アキトさん、アキトさん、アキトさん・・・」
メグミが、体を投げ出した。
アキトは、その体を抱き留め、メグミの額に、自らのそれをコツンと軽くぶつけた。
「メグミちゃん・・・・・・
オレたち、やり直せるんだね・・・・・・」
「はい・・・・・・。
アキトさん、私たち・・・・・・やり直せます・・・・・・。
・・・・・・アキトさん、抱きしめて、キスしてください・・・・・・。
もう、私を放さないで・・・・・・」
「メグミちゃん、絶対に、メグミちゃんのこと、放さない。
だからメグミちゃんも、オレのこと・・・・・・もう二度と、放さないで・・・」
「はい・・・・・・、絶対に・・・・・・」
互いを抱きしめ合いながら、どちらともなく二人は口付けを交わした。
瞬間・・・・・・
ナデシコを、不思議な輝きが包み込んだ。
蒼とも、水色ともとれる輝き、そして虹色の光・・・・・・。
それが消えると、ナデシコの姿も遥か彼方へ消えていた。
ほとんど暴走同然だった、ユリカの乗っていたエステバリスも、ナデシコとともに消えていた。
「結局・・・・・・オレたちの戦いは、何だったんだろうな・・・・・・」
ポツリと呟いた月臣の声を聞いていたのは、彼の乗るダイマジンだけだった。
「あっ、アキトさんっ?!」
メグミは、突如前のめりに倒れてきたアキトを受け止め、その名を呼んだ。
額に手を当ててみると、赤い顔から付く想像通り、普通ではなかった。
異常なほどというわけではないが、38℃近くはあるだろう。
「すごい熱・・・・・・」
ポツリと呟くと、
「少し、ここで我慢してくださいね」
アキトを襖の脇に寄っ掛からせ、布団を敷いた。
それからそこにアキトを寝かせ、タンスから綺麗なタオルを取り出して水で浸し、額に載せた。
枕はあるが、使っていない。
自分の膝にアキトの頭を載せ、顔を優しい目で見つめていた。
「メグミちゃん、絶対に、メグミちゃんのこと、放さない。
だからメグミちゃんも、オレのこと・・・・・・もう二度と、放さないで・・・」
ふと、アキトがそんな言葉を発した。
その言葉は、メグミにとって思い出深い言葉だった。
多分、彼はあの時・・・・・・再び、自分と彼の心が結びついた時のことを夢見ているのだろう。
今日は、一日中アキトとデートの予定だったけど、たまにはこんな日もいいかもしれない。
後書き座談会という名の言い訳
E.T(以下『E』):えー、後書きで座談会というのは初めてですがー、とりあえず座談会形式で後書きを送らせていただきますー。
メグミ(以下『メ』):それじゃあ早速ですけど、このSS、書き始めたのは7月中旬でしたよね?
E:おう、その気がなかったとはいえ、ネチケットに激しく違反してしまった僕を弁護してくださったEnopi議長の顔に泥を塗ってしまった贖罪代わりに書き始めたSSだからな、間違いない。
メ:・・・・・・やけに説明的ですね。
E:とりあえず、イツキ派の僕がメグミSSを書いた理由をば。
メ:考えてみれば、随分酷い理由ですね、これ書いた理由って。
E:あは、あはははははははは
メ:それに、『その気がなかった』って、もの凄くタチ悪いですよ・・・・・・
E:・・・・・・自覚はしている。
メ:直さないと意味ありませんよ・・・・・・
・・・ところで、ネチケット違反って、何したんですか?
E:・・・・・・・・・・・・『投稿作品、さっさとアップしろ』と要求した。ことになってる。
メ:なんですか、その微妙な言い方は・・・・・・
E:いやな、自分ではその気がなかったんだよ、これも。
元々、原因となった文は噛み砕いて書けばこんなモンだったんだ。
メーラーが壊れた。
『E.Tの陣』、続行不可能だ。
・・・・・・ところで、前に送った作品がアップされていないのはなぜですか?
間に合わなかっただけですか? それとも他の理由ですか?
E:とまぁ、こんな感じだ。
細かいところは違うが、概ね合ってる。
で、最後に一言、『チクショー』とかなんとか、そんなことを。
で、これをだな、代理人氏や他の投稿作家の人たちにはな、
『おめーがアップしてくれなかったから「E.Tの陣」が終わっちまったじゃねーか、虎羅』
E:と取られたわけだ。
メ:違うんですか?
E:ああ、違う。 少なくとも、僕には代理人氏を責める気持ちは塵の欠片ほどもなかった。
最後の一言は『メーラーのバッキャロー』という意味だったんだ。
一番最初にメーラーの話題を出したから、わざわざ注釈が必要だとは思わなかったから書かなかったんだが・・・・・・
それのお陰で、いろいろとなったわけだ。
メ:議長さんの顔に泥を塗ってしまったとかですか?
E:そういうこと。
あ、でも、一つ言い忘れてた。
メ:何をですか?
E:その時にだな、まぁ、当然責められれば、こちらはこちらの事情を言うわけだ。
メ:まぁ、そうでしょうねぇ。
E:その中にだな、無茶苦茶なものがあったんだよ。
メ:どんなですか?
E:自分でその気はないかもしれないけど、こっちからすればどう見たって調子に乗ってるような言葉。
ぶっちゃけ、責められてる僕がしたことを、責めてる人間がしたわけだ。
無茶苦茶だね。
そいから、『自己弁護だ』だの『自己正当化だ』だのとか言う言葉。
メ:・・・・・・違うんですか?
E:いんや、その通りだからこそ無茶苦茶だと言ってるんだよ。
結局、言い訳とか何だとかってーモンは、自己弁護や自己正当化その物だ。
それを『自己弁護だ』だの『自己正当化だ』だのと責められちゃぁねぇ・・・・・・
メ:成る程。
自己弁護(≒自己正当化)編
終
メ:ところで、話は大きく変わりますけど。
E:なんだ?
メ:これって、書き始めてた頃と、全然話が違いませんか?
確か、最初書いてた頃はTV if
アフターもどきじゃなくて、13話 if
じゃありませんでしたっけ。
E:うぃ、その通り。
メ:それがどうしてこんなに変わったんですか?
E:まぁ・・・・・・一言で言えば、『書いたは書いたが気に入らなかった』からだな。
ver3.4ぐらいまで書いて、ver1はゴールドアーム氏に推敲してもらった。
で、『ここはこうした方がいい』というアドバイスに忠実に従ってver2を書いた。
それが、どうにも読みにくい文章、面白くないなどの理由により、自分で却下した。
そのver2を、自己流で昇華(多分、昇華だ)させたのがver3。
読みにくいトコとかを改良して、出来たのがver3.4だ。
メ:・・・・・・それで、結局どうしてこんな形になったんですか?
E:うむ。どうも全部、『メグミがメグミらしくない』ものだったんだな。
それでメグミSS(『策謀のメグミ』ではなく、『健気なメグミ』)を探して彷徨った。
そこで、ある場所で見付けた!
と思ったらな、最初健気だったメグミがどんどん策謀し始めてさー。
ちょっとナデシコから離れるか、と思って、某氏のホームページ行って、そこからリンクで水萌とかいう戦慄の女子中学生を見てたりしてなー。
で、まぁ華音SS漁りしてたら、風邪ネタを見付けたわけだ。
メ:で、これを書いたと・・・・・・?
E:おう、その通り。
読んだ瞬間、ピンときたね。「これだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」って。
何となく、ニュータイプになった気がしたよ。
メ:気のせいです。
E:ああ、そんなあっさりと・・・・・・
ヤマ無し、オチ無し、意味無しのヤオイで、これにて後書き座談会終了。
ラストに一つ。
「キスは、A級ジャンパー同士じゃないといけないんじゃないでしょーか?」
そんな些細なことは忘れてください。
代理人の感想
ん〜〜〜。
オーソドックスなラブストーリー、なんですが。
何故か「きちんとまとまっている」という言葉が出てきませんでした。
なんというか・・・締めが妙に言葉足らずな印象を受けるんですね。
ラストに一行、「そしてメグミは幸せそうに微笑んだ」とあればそうは思わなかったと思うんですが。
それまでの三人称からいきなり一人称になった事に違和感を感じたんでしょうか?
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