「さて、他に何か聞きたいことはありますか・・・・・・?」

 宏美の言葉に、Dは迷わず答えた。
       かげこ
「A−10と影児について教えてくれ。

 宏美さん、あなたは前に俺に『A−10と戦うための戦力となって欲しい』と、
 それに俺のことを『神影の影児だ』と言っただろ?

 だが、俺にはそれらのことが全く分からない。

 こう言っちゃなんだが、巻き込まれるにしても事情を知っておきたいからな」

 宏美は静かに頷いた。

「A−10。 それはアメリカの超能力研究機関が元となった組織です。

 最初はサイコキネシス、テレポーテーション、透視、テレパシー、未来予知、過去認知など、いわゆる“超能力”というモノを研究していたわけです。

 そして、彼らの活動が変わったのは5年前ーーー 一人の予知能力者が予知した未来を知ってからーーー です」

「どういうことだ?」

 宏美の後を龍之が継ぐ。

「コロニーーーー 『サツキミドリ二号』が地球に墜ちるというモノです」

「なっ!?」

 Dは驚愕した。

 しかし、宏美はそれを気にした風もなく話を続けた。

「ですが、所詮はコロニーが墜ちてくるだけ。

 地球が滅ぶと決まったわけではありません」

「? どういうことだ?」

 Dが疑問の声を上げる。

「あくまで、サツキミドリ二号は地球に墜ちてくるだけです。

 地球を滅亡させるかもしれませんし、又は地球に被害をもたらす事無く消滅するかもしれません。
               ・・・・・・
 未来予知というモノは、確定した未来しか予知できないんです。

 そうですね・・・・・・ゲームで言えば、『不可避のイベント』が、未来予知によって知りうることのできる未来なんです。

 そしてまた、『運命』や『宿命』というモノも同じです」

「ですけど、彼らはそのことを知りませんでした」

「そして・・・・・・一つの計画(プロジェクト)がスタートしました」

「その計画の名前は『箱船計画(ノア・プロジェクト)』。」

「A−10の上部が『より優れた人類、即ち“超人類”:【超能力者】』と、『自分たち自身を含めた、自分たちが選んだ人々』のみを地球から脱出させ、それ以外の人々を『安楽死』と称して、核の炎と、竜脈を傷付けることにより、死滅させるという計画」

 宏美と龍之が交互に言葉を紡ぐ。

 Dはその言葉の奥深くにある意味に気付き、顔を強ばらせた。

「(・・・・・・俺がこの世界に跳ばされることは運命だったのか・・・・・・・・・?)」
                                  みちすじ
 Dが現れなければ、この世界はDが元居た世界と同じ 運 命を辿っただろう。
                          みち
 しかし、Dが現れたことでこの世界の辿る運命は変わった。

 そのことは、この世界に於いて定められていたということだ。

「ですが・・・・・・」

 Dの表情に気付いているのか気付いていないのか、気付いていても無視しているのか、ともかく宏美はそのまま言葉を続ける。

「箱船計画は潰えます。

 僕たちが潰します。

 Dさん。 あなたも協力して貰えますね?」

 Dは軽く溜息を付いていった。

「断れないようなことを言って、それで協力してくれるか、してくれないかも有ったもんじゃないぜ」

 クスっ、と笑いながら宏美が

「それを望んだのはDさんでしょう?」

「違いない」

 確かに、事情を教えろと言ったのはDだった。

 バイザーの下で顔をほんのりと赤くする。

 その原因は自分の言葉だけではなかった。

「(うう・・・・・・ホントに宏美さん、男かよ?

 信じられないな、やっぱり)」

 宏美の微笑んだ顔は、そこら辺の女性よりもよっぽど女性的な美しさがあった。

「で、影児ってのは?」

 気付かれていないだろうが、赤面したことを隠すように話の先を促す。

「影児は、言ってしまえば八家の傍流です。

 基本的に一人しか子供が産まれてこない八家に二人以上の子供が産まれることがあります。

 大抵はそのうちの一人しか大きな力を持っていません。

 他の子供たちは、周りの人間から見れば大きな力を持っていますが、八家の人間として生きていけるほどではありません。

 そのため、里子に出されるのです。

 そして、その里子に出された子供達の家系に、時々八家の者にも劣らない力を持つ者が生まれることがあります。

 それが影児です」

「・・・じゃぁなんだ?

 俺には宏美さんや紫苑のヤツみたいな力が?」

「ありますよ。

 ですが、その力は眠っています。

 ・・・・・・もっとも、肉体的な側面としては現れているようですが」

「肉体的な側面?」

 Dの疑問に龍之が答える。

「僅か二年間で、しかも五感を失った状態で一つの武術を修めた。

 ・・・あなたは、自分の異様さに気付きませんでしたか?

 八家十三家の血筋の者、特に影児と呼ばれる者達は例え『力』が覚醒していなくても、肉体的な『力』となって現れてくるんです。

 例えば、武術に対して異様なまでの才能がある、筋肉の断面積に対して、力が強すぎるなど・・・・・・」

「・・・・・・・・・。

 それは分かった。

 だが・・・・・・何故そのことを知っている・・・・・・?」

 Dの顔からは表情が消えていた。

 ほんの僅かな殺気を無意識のうちに纏う。 

 だが、龍之はそれに気も止めずに

「夢見・・・・・・過去認知です。

 私は、夢で過去を見ることが出来ますから。

 それで見たのです。

 ・・・・・・あなたの・・・・・・・・・過去を・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 一瞬の沈黙。

「まぁ、それはどうでもいいんです。

 それよりも、今はA−10と戦う戦力となってくれる人が・・・・・・特に、元A−10構成員が仲間になって貰えれば」

「でも、そんなヤツいるのか?

 相手は狂信者も同然なんだろ?」

「ええ、実際にもう何回か接触しています。

 でも・・・・・・彼は協力してくれないんですよね」








機動戦艦ナデシコ
TWIN DE アキト
サイドストーリー第一部

第参話 『修学旅行』物語(前編)









 5/17(木)/京都/三年坂

 霧人、甲、真琴、沙奈、園枝の五人は、一路清水寺を目指して、坂道を上っていた。

 道を挟んで、大量のお土産屋が並ぶ通を、如何にも不良ぜんとした三人組が、五人の方へ向かってくる。

 一番左端を歩いていた霧人に、ちびのリーゼントがぶつかった。

「ってぇな、なにしやがンだ、おあぁっ!?」

 ・・・・・・と、因縁を付けられた。

 何時の時代も不良の行動は大差ないらしい。

 四人は気付かなかったし、霧人は「相手をするだけ時間の無駄」と、無視しようとした。

 だが、やることが変わらないのだ。

 不良達は。

 となればどうなるか。

 結論は一つしかない。

「っに無視さらすんじゃ、ボケっ!」

 ちびの左後ろにいた金髪モヒカン鼻輪男が霧人の左肩を乱暴に小突く。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 霧人が、そいつを凄まじい殺気と共に睨み付けた。

 しかし、彼は中途半端な実力しかなかった。

 即ち、霧人の放つ殺気を察知できず、その実力にも気付けなかったのだ。

 彼に分かったのは、ただ単に霧人が凄まじい形相で自分を睨み付けていることだけ。

 だから彼は霧人にこう言った。

「あにガン付けてんだよ!あぁっ!?」

 次の瞬間、霧人はキレた。

 ドゴッ

 そんな音がし、モヒカンが空を舞った。

 鼻が潰れ、前歯が折れ、顔が血塗れになっている。

 どうやら、霧人が顔を殴ったか何かしたらしい。

 零 霧人(レイキリト)のパンチ力は、パンチングマシーンで400(バグ無し)を軽く超える。

 それをまともに貰えば、こうなるのも頷けると云うもの。

「っめぇ!? よくもタッちゃんを!」

「ぶっ殺してやる!」

「行くぞっ!マサちゃん!」

「おぉっ、ケンちゃん!」

「「喰らえっ! ジェットストリーム・アタぁぁぁぁぁぁっク!!」」

 ケンちゃんの後ろにマサちゃんが続き、攻撃を仕掛けてきた。

 欠点だらけの連携技、ジェットストリーム・アタック。

 先頭を走るケンちゃんの首に、室伏 甲(ムロフシコウ)がラリアットをかました。

「げふっ」

 と悲鳴をあげて倒れるケンちゃん。

 そして、悲鳴に続けて一言。

「お、俺を踏み台にした!?」

「してねーだろ」

 ゴン☆

 甲の無慈悲な延髄切り。 ケンちゃんは気絶した。

 そしてケンちゃんに続くマサちゃんを、霧人のハイキックが襲う。

 それも、ただのハイキックではなく、足を巻き付けるような蹴り。

 足首を延髄に引っかけるのだ。

 そして、首に巻き付いた足でマサちゃんを投げる。

 その鋭い動きに、銀色の髪(彼はロシア人の母を持つハーフ)が舞う。

 ドサッ

 意外に軽い音を立て、マサちゃんが四角いジャングル・・・・・・じゃなくて、公道に沈んだ。

 その様子を見届けた後、竜苑寺 園枝(リュウオンジソノエ)が言葉を発した。

「クルト、いるのでしょう?

 出てきなさい」

 その言葉に、電柱の影にいたクルト=ヴァーナスが現れた。

 彼はこの時期、大会社『竜苑寺グループ』で働いていた。

 なお、竜苑寺グループは、6大企業の一社である。

 もう一社は『スターロード』社という。

「はっはっは、いつ気が付いたんですかぃ?お嬢」

「お嬢と言うなと何回言ったら分かるのですか!?(怒)」

「はっはっは、気にしちゃぁ、いけませんよぅ、嬢ちゃん」

「それもやめなさい!」

 ・・・・・・・・・コントか?

「で、何の用ですかい、お嬢?」

「・・・・・・危うく忘れるところだったわ。

 ・・・この馬鹿者達の手当をしておやり。

 こんなのでも、目の前で死なれたら食事が美味しく食べられなくなるわ」

「分かりましたぜぃ、お嬢」

 意味無く自慢の金髪を掻き上げ、どこからともなく『きゅうきゅうせっと』と書かれた箱を取り出した。

 何故平仮名で書かれているのかは謎だが、それに書かれた『みっふぃー』の絵(手書き)も謎だ。

 手慣れた様子で、負傷箇所の手当をするクルト。

 そしてそれを、

「さあ、行きましょう」

 と、無慈悲にも置いてけぼりにする雇い主の娘。

 甲の恋人の高原 真琴(タカハラマコト)は「いいのかしら?」と思ったが、言ってもどうせ無視されるだろうから言わなかった。

 真琴の親友の和泉 沙奈(ワイズミサナ)もそう思ったが、やはり賢明に口には出さなかった。










 最高気温28℃という「清水の舞台」で有名な清水寺。

 その「清水の舞台」に、四人の男女がいた。

「うっわあぁぁぁぁ、すっごおーい!」

「ほんと・・・・・・

 『清水の舞台から飛び降りる』って言うけど・・・・・・」

「「これは飛び降りれないよね(わね)」」

 神無月 晶(カンナヅキ アキラ)と横山 天乃(ヨコヤマアマノ)の声が唱和した。

「・・・っれにしても、何だって今だに修学旅行は京都なんだ?」

 清水寺の欄干に身を乗り出して下を見る晶と天乃の横で、鉄(くろがね)色の髪の青年が呟いた。

 陽光に、変わった形の鈍色をしたイアリングが輝く。

 欄干に腕を付くその青年に、茶黒の髪の、眼鏡をかけた青年が答える。

「伝統だからだろう?」

 鉄色の髪の青年ーーー 本名『神無月裕太(カンナヅキ ユウタ)』は、その言葉を暫く考え、

「・・・・・・そっか」

「それはそうと裕太、神無月さん、横山さん、<沼井>はどこだ?」

 瑪瑙 一也(メノウ カズヤ)の言葉に、

「・・・・・・・・・どこでしょうね」

「・・・俺も知らない」

「あ、瑪瑙君、あそこ」

 晶が指さした先には、お神籤を引く肩口程まで髪を伸ばした詰め襟姿の青年がいた。

 彼が件の沼井 真(ヌマイ シン)である。










 5人は、そろそろ三年坂を上り終えようとしていた。

 そこでまた、10人の不良グループが現れた。

 そして、彼らはどーでもいーよーな事を理由にして喧嘩を売ってきた。

 曰く、

「っにイチャイチャしてんだよ!?」(to 甲&真琴)

「ちゃらちゃらした格好してんじゃねぇよっ!」 (to霧人(銀髪について言っているらしい。自分たちは金髪なんだが・・・・・・))

 ・・・・・・他にもあったが、めんどくさい。

 ただ、これだけは書かねばなるまい。

 ここで再び戦いの幕(と言うほどのモノか?)が落とされる原因となる言葉を……

「おい、ネーちゃん。

 そんな優男ほっといてオレたちとイイコトしよーぜ?

 ってゆーか、つまりはS○Xですがー」

 真琴は心の底から甲を愛していた。

 真琴は心の底から性に関しては潔癖だった。

 更に彼は馴れ馴れしくも真琴の肩に手を回してきた。

 だから真琴は彼にビンタをかました。

 ビシッ

 澄んだ音と共に、彼が空に浮いた。

ーーー なっ!?」

 一瞬の沈黙。

 のち、
 
「っにさらすんじゃいっ、この女(アマ)!!」
 
 ナイフを取り出す。

 真琴は額の右の方に「ピキピキ」と青筋を立てながら、

「ヤッパ・・・・・・ですか?

 ヤッパは一流の戦士が使ってこその物。

 あなた方のように根性の腐敗しきった方々には似合いませんね。

 精々怪我をなさらないようお気を付けて」

「お、おい真琴!

 お前何言ってんだよ!」

 甲が口を挟んだが、彼女は彼に絶対零度の視線を向けつつ、

「甲様は口を挟まないでください。

 それに、本当のことを言って何が悪いのですか?」

 歯に衣着せぬ物言いとでも言うのだろうか。

 とにかく真琴の発言には容赦という言葉が一切なかった。

 そして、真琴のその発言にキレた三人が真琴に向かってきた。

 ナイフを振りかぶったところを、霧人が懐に入り、右肩にエルボー、顎に掠めるようにアッパー。

 もう一人がナイフを持って振り下ろした腕を、甲は右手でベクトルを左下にではなく真下へと変える。

 バランスを崩し倒れ込んできたところに、カウンターの右エルボー。

 最後の一人は、真琴に斬り付けたのだが、

 キンーーン
 
 澄んだ、金属音。

 真琴がどこからか取り出したコンバットナイフで、相手のナイフを防いだ。

 更にそれだけでなく、テニシアンでナイフ使いが使っていたものと同じチタン合金製のコンバットナイフが、チンピラの使っていたナイフを斬り跳ばす。

「なっ・・・なにぃっ!?」

 驚愕の声。

 しかし、彼に驚いている時間はなかった。

 ドゴォッ
 
 真琴の回し蹴りが炸裂した。

 そして吹っ飛ぶ。

 その様子を、残り6人のチンピラ達は驚愕・怒り心頭の表情で、沙奈・園枝が無感動無表情に見つめる。

 いや、後頭部に汗が貼り付いている。

 こういう光景は、見慣れてはいないが何回か見ているからだ。

 真琴は関東どころか、東日本一の武闘派ヤクザと言われる『高原組』の組長の娘だ。

 そのため、万が一に備えて武術の修練をしていたりする。

 しかも才能があったらしく、めきめきとその才覚を現した。

 だが彼女は、普段はその力を使いはしなかった。

 使うのは怒った時だけ。

 怒ると、霧人も手も足も出なくなるほど強い。
 ・・・・・・ちなみに、霧人は彼らが通う学校「東(アズマ)学園」の高等部で最強と言われている。

 沙奈と園枝は、彼女が怒ったところを何回か見ている。

 その時に比べれば、この程度。

 しかし、チンピラ達の方は女にやられたとなったら黙ってはいられない。

 そして6人の内5人がナイフを構え突っ込んできた。

 突っ込んでこない男は、リーダー格のパーマリーゼント。

 その男だけは他の九人とは、纏っている雰囲気が、格が違かった。

 リーダーが5人を止めたが、5人は止まらなかった。

 だが、5人はあっさりと吹っ飛ばされた。

 吹っ飛ばしたのはクルト。

 いつの間にか先程の三人の手当を終え、5人に追いついたクルトだった。

 5人を吹っ飛ばし、一言。

「やれやれ、この程度の実力で喧嘩を売るもんじゃないねぃ」










「お神籤お願いしま〜す」

 真は、陽気なのかそれとも真剣なのかよく分からない声で、お神籤を頼む。

「はい、100円になります」

 真は手に握っていた100円玉を出す。

「それではこれを引いてください」

 数字の書かれた棒が入っている筒を渡される。

 ジャラジャラ
 
 その筒を振って、棒を出す。

 無言のまま、それを係の人に渡す。

 係の人はその数字を見て、棚から紙を取り出し、真に渡した。

「どうも」

 真はそう言って、晶や天乃、裕太、瑪瑙の方へと歩きながら巻いてある紙を広げた。



 ーーー 内容ーーー

 とりあえず小吉。(そう書いてあったわけではない)

○金運無し 使いすぎに注意

○恋愛運あり ただし女難(男難)の相有り、要注意
 
         自分から相手に気持ちを伝えること
 
○全体的な運は良いが、一部の運はない



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ありがたいお言葉で・・・・・・」

 そっと、小さな声で呟く。

 それから、だんだん近付いてくる友人達ににこやかな笑顔と共に声を掛ける。

「どーだ?

 裕太や一也達もお神籤引かねーか?」










 三人の馬鹿共の手当をしてぃ、お嬢の所に向かっていた時だったねぃ。

 五人の馬鹿ドモが、お嬢の友人達に危害を加えようとしていてねぃ。

 具体的に言やぁ、ナイフを持って突進してきたんだねぃ。

 あーあ、全然ダメダメだねぃ。

 やっぱりこの馬鹿ドモは素人だぜぃ。

 腰が入ってないねぃ。

 お嬢の友人達は強いから大丈夫だとは思うけどねぃ。

 それでも僭越ながら割り込みさせて貰ったよぅ。



 一番最初は、振ってきた腕を掴んで背負い投げ。

 二人目は剣筋はなかなか鋭かったが、修羅場を踏んできた俺の相手ではなかった。

 上体を反らしながら避け、サマーソルトを決める。

 しかも、わざわざ顎を掠めるように、だ。

 サマーソルトでこれをやるのは、かなりの慣れ、テクニック、勘が必要だ。

 まぁそれはどうでも良いことだ。

 三人目は突き出してきた腕を取り、その腕を巻き込みながら、もう片方の手で相手の足をすくって投げ飛ばす。

 前にちょっとあって、お嬢の友人の『神無月裕太』にやられた投げ技だ。

 確か、名前は『嵐(ラン)』と言ったはずだ。

 そう簡単にできる技じゃないが、やって出来ないものでもない。

 だが、所詮俺の嵐は偽物(フェイク)。
 オ リ ジ ナ ル
 裕太の嵐に比べれば、キレも威力もない。

 次の奴はナイフを腰だめに構え、突進してくる。

 極道映画なんかである「たまぁー、取ったるで!」って感じのヤツだ。

 だが、これは意外と回避が難しい。

 しかし、俺にとっては造作もないことだった。

 右に避け、フライングニールキック。

 顔面に入り、倒れる。

 最後の男は四人があっさりとやられるのを見て、固まる。

 ・・・・・・隙だらけだ、馬鹿者め。

 一気に間合いを詰め、右の拳を左手で包んだエルボー。

 鳩尾に入り、5人目は「ひゅう」と肺から空気を出し、気絶する。

 そして俺は一言。

「やれやれ、この程度の実力で喧嘩を売るもんじゃないねぃ」



「あら、思ったより早かったですわね、クルト」

 園枝は開口一番そう言った。

「それは非道いんじゃないですかねぃ、お嬢。

 あいつ等の手当を俺一人に任せてさっさと行っちゃったんですからねぃ」

 何故かさめざめと泣くクルト。

 そこに、五人の不良を一瞬にして叩きのめした面影はなかった。

 ついでに言えば、その格好も『単身で京都見物に来た金髪外国人A』でしかない。

 最後に残ったボス格の男は、クルトを見て体を震えさせていた。

 それは、今見た、見せつけられたクルトの強さ故ではない。

 彼にだけは分かったのだ、クルトがまだ本気を出していないことに。

 そして青白い顔をしたまま、目にも止まらないスピードで九人を回収、そして撤退した。
 
「泣いてなんかいねぇよぉぉぉーーー!!!」
 
 血涙を滂沱の如く流しながら、彼は走り去っていった。

 『漢泣き』だった。

 そして、彼が走り去った後、後ろから声を掛けられた。

「よう、お前等。

 久しぶりだな」

「龍樹か」

 霧人が振り返りながら、自分たちに声を掛けたパンパンに膨らんだ鞄を持つスキンヘッドの名を呼ぶ。

 スキンヘッドの名前は園裏 龍樹(ソノウラ タツキ)。

 荒れていることで有名な、私立『明京工業高等学校』の生徒にして、都内で五指に入る暴走族『MAXIMUM』の族長。

 そして霧人達のマブダチ。

 だが、出会いは最悪だった。

 何故なら、細かいところは省くが、MAXIMUMの連中が晶と天野を襲っていて、それを助けた裕太にお礼参り、と言うものだったからだ。

 そのお礼参りに時に霧人達(園枝とクルトを除く)と知り合った。

 更にまたゴタゴタとあって、今の親友関係にある。

 ・・・・・・もっとも、ちょっとしたことで裕太に対しては良い感情を抱いてはいないが。

 まぁ、それはどうでもいいことだ。

「お前、またサボりか」

 霧人の言葉に、

「いんや、昨日から一週間は試験休みだ」

 そう、2001年度から消滅していた試験休みは、この時代復活していたのだ。

 ・・・・・・その代わり、完全週休二日(毎週土曜が休み)は消滅した。

 ついでだが、筆者もその家族も友人達も、完全週休二日は反対である。

「そうか。でもまた、何でここに?」

「一美ーーー 妹に頼まれたモンがあってな」

「頼まれた物?」

「ああ。まぁ、それは歩きながら話そうや。

 どうせお前等も目的地は清水寺だろ?

 俺も一応はそうだからな」

 そう言うと、龍樹は霧人を伴って歩き始めた。

 5人はそれに会わせて歩き始めた。










「やったー!

 大吉だ!」

「・・・私は末吉」

 晶の喜びの声と、天乃のちょっと残念そうな声。

「ユータは?」

「俺か?

 俺は凶だ。

 ・・・・・・厄介事に巻き込まれるらしい」

 晶の質問に、顔を多少引きつらせながら答える裕太。

「瑪瑙さんは?」

 天乃の言葉に、一也はドンヨリとした空気を纏いながら籤を見せた。

「「「「え゛・・・・・・?」」」」

 天乃、その横から覗き込んだ晶・裕太・真は疑惑の声を上げた。

「な、なに、これ?」×晶

「ホントだな、全く」×裕太

「でもこれって・・・・・・?」×天乃

「何故?」×真

 それもそうだろう。

 何故ならば、籤に書かれた言葉は・・・・・・




























「外れ」 



















 ・・・・・・と、一言だけ。


「・・・・・・外れって・・・・・・・・・・・・・・・何?」

 ちなみに、字体は「CRC&G流麗行書体」である。









 
「おーーい、あきらーー、あまのーー!」
 
 明るい、少し舌っ足らずな声が、五人の硬直を解いた。

「あ、沙奈」

 晶が、自分たちの名前を呼んだ小柄な少女の名を呼んだ。

 少女の名は沙奈だ。

 身長は144cmしかないが、立派な高校二年生、晶や天乃達と同学年である。

 彼女の窮屈な白いブレザーに隠れた胸がぶるんぶるんと揺れる。

 ユリカどころか、ミナトと同等の胸の持ち主である。

 それを見た晶、天野が思わず胸に手を当てて見下ろす。

 そして想う。

「貧弱、貧弱、貧弱ぅぅぅぅぅ!!!」
 
 なんか、時を止める人みたいな感じに。

 沙奈(の胸)は、男共からはもちろんのこと、女性達からも憧れられる。

 そう、某零夜の様な女性達からも!(核爆)
 
 曰く、「あんな子に『お姉さま』と呼ばれたい!」(爆死)
 
 顔も、少し子供っぽいがかわいい。

 ・・・・・・ちょっと、『ロリ系』?

 ついでに髪は亜麻色のセミロングで、ポニーテールにしている。

 話を元に戻す。

 沙奈は、晶と天乃が何故自分の胸を見下ろしているのか分からなかった。

 だからその行動を全く気にせず、そのまま晶に飛び付・・・・・・・・・こうとして、段差に足を取られてこけた。

 べちっ

「あ・・・あううぅぅぅーーー・・・・・・・・・(涙)」

 額と鼻をもろに打ったらしい。

 赤く腫れている。

 その様子を見て、

「「(か・・・かわいい・・・・・・・・・)」」

 そのケの無い晶と天乃も、背筋にゾクゾクと来た。

 後ろで偶々それを見た単なるちょっとオタクっぽい(偏見)人が悶絶していたりする。

 直視した真が、

「俺は何も見ていない

 俺には彼女がいる

 俺は何も見ていない

 俺には彼女がいる」

 などと呟きながら、五円玉を目の前で振っていた。

 因みに、【彼女】は付き合っている女性ではなく、彼が好きな女性のことだ。

 一也は上を見ながら首筋をとんとんと叩いている。

 唯一何ともないのが裕太だった。

「・・・・・・大丈夫かよ、お前ら」

 裕太に答える者は誰もいなかった。





 そして、再び空気を正常にしたのは後ろから来た三人の言葉だった。

「あら和泉さん、一体何をしていらっしゃるの?」

 と言う嘲りを含んだ高圧的な女性の声。

 それに、

「和泉ー、大丈夫かー?」

「沙奈様、お怪我は?」

 という、沙奈に対する気遣いの声。

 後者の声に沙奈は

「ううぅ・・・・・・痛いけど大丈夫だよ、まこと、むろふしくん」

「怪我が無いならそれに越したことはないさ」

 甲の言葉を聞きながら、沙奈は裕太に起こしてもらっていた。

「ありがとう、ゆうたくん」

 沙奈は彼に礼を言った。

「あれ?

 零はどうしたんだ?」

 復活した一也の言葉に、真琴が答えた。

「霧人様は、園裏様と地主(じしゅ)神社の方へ行かれました」

「ふ〜ん・・・・・・。

 でも、何でまた?
                 ここ
 それに、あのハゲが何で京都に?」

「禿げ、って・・・・・・晶様・・・・・・・・・」

「だって事実じゃない」

「おい、神無月さん。アレはハゲじゃなくて、スキンヘッドだぜ?」

 晶のあまりな言葉に、真が助け船を出す。が、

「でも結局髪の毛がないんだから同じよ」

 ・・・・・・どうやら言葉を変える気はないようだ。










「っかし・・・・・・お前も大変だな、龍樹」

「分かってくれるか、霧人」

「でも、さすがにお前はシスコンの度が過ぎると思うぞ」

「・・・そうでもないさ。

 世の中にゃ実の兄弟姉妹と関係しちまってるようなヤツもいるんだからな・・・・・・きょうだい愛じゃなくて男女愛で」

「ま、まあ世の中は広いからな」

「それにしても・・・・・・恋愛成就のお守りを買うようなことになるなんてな・・・・・・・・・」

 そう、龍樹がわざわざ東京から京都まで来たのは、愛する妹のために恋愛成就のお守りを買うという使命を果たすためであった。

「しかも、その妹の好きな相手が、お前の宿敵の裕太だもんな」

「全くだ・・・・・・。

 あいつと一美がくっつくのは許せないが、一美があいつに振られるのも許せねぇ」

 かなり無茶なことを言うな(汗)

「で、一体お守りは幾つ頼まれたんだ?」

「・・・・・・1000個だ」

 ・・・・・・・・・弁慶?
 
「・・・・・・・・・・・・・・・(汗)」

 鞄がパンパンなのにはワケがあった。

「ついでにこれで999個目。

 後もう一つ、だ。
    にかみ
 『神鬼神社』っつー、かなりマイナーな神社の、な」

「『神鬼神社』?聞いたこと無い・・・・・・いや、今日行く所のリストに入ってたような・・・・・・・・・」

「そうなのか?」

「待てよ・・・・・・

 ああ、そうだ。確かに行く。

 だが、神鬼神社に祀られているのは恋愛成就の神じゃなく、戦神だろ?」

「・・・・・・・・・何でも、『恋愛も戦いよ!』とのことだ。一美によれば。

 一美の友人がそう考えて京都に来たときに戦神の祀られる神社のお守りも買い漁ったそうだ。

 その結果かどうか、好きだった奴と付き合っているらしい」

「・・・・・・・・・。」

「ま、そーゆーワケだ。

 それじゃ、ここまで付き合って貰って悪かったな。

 じゃあな、また会うときまで」

「おう。すぐ会えそうな気もするが、また会うときまで」

 自主神社へと通じる、狭い階段での会話だった。

 この後、霧人は友人達の元へ、龍樹は愛車(カブ)の元へと戻る。

 なお、何故カブなのかは不明だが、この『H(ハイパー)カブMk−V』は、2500CCもあるとか。

 ・・・・・・カブの分際でっ!










 五条橋の中程で、蒼い長髪の、女性と見間違いそうな男性が立ち止まり、辺りを見まわした。

「・・・・・・・・・」

「・・・どうしたの? 宏美」

 その男性に、少々古風な、美しい漆黒の髪の女性が声を掛ける。

「いや、何でもないよ。龍之。

 ただね、これからやっと探していた八家の人間に会えるかと思って、ね」

「・・・・・・。そうですか」

「・・・・・・探していた、元A−10構成員。
                                     おおみ
 そして、何故か十三家の名を名乗っている、八家が一家、『大神家』の・・・・・・」















 後編へ続く




















 本星への報告書 TDA−S1−3

 ご無沙汰のTDAです。

 とりあえずきちんとした後書きは後編に。

 あ、因みに後編にはナデシコキャラは登場しません。

 ・・・・・・それでいいのか、ナデシコSSなのに・・・・・・?
本星への報告書 TDA−S1−3 終