タッタッタッターーー

 暗闇の中、数人の男達が駆けていた。

 そして崖の近くにある、締縄が巻き付けられた巨岩の前で唐突に立ち止まる。

 漆黒色の、体にフィットするインナースーツのような物を着た男達。

 その中の一人、鈍色の、変わった形のイアリングをした鉄(くろがね)色の髪の青年が言葉を発した。

「ここか。 ・・・・・・準備を」

 リーダー格のその声に従って、三人の男と一人の女が地面に魔法陣を描き始める。

 副リーダー格の男は冷たい碧色の瞳の、短く刈り込んだ金髪。

 もう一人の男は落ち着いた雰囲気の、東洋系。

 サラサラの黒髪に、黒瞳で、雰囲気に反して、割と童顔。

 最後の男は少し軽薄そうな、銀髪に蒼い目の、少年と呼んでもよさそうな男だった。

 唯一の女は、長い、幾百もの夜闇を凝縮したような漆黒の髪と瞳の少女。

 おそらく、16もいっていまい。

 その5人が描き始めた魔法陣は、数分で出来上がった。

 出来上がったそれは、五紡星。

 五紡星は、巨岩に先端の一つを向けていた。

「おい、明人(アキヒト)。 コイツがいるだろ」

「ああ、そうだな。 グラフ」

 先程言葉を発した青年が、金髪碧眼の冷たい目をした男から、装飾を施された剣を受け取った。

 そしてアキヒトが最も巨岩に近い、五紡星の先端に立った。

 他の者もそれに習って五紡星の先端に立つ。

「それでは解封の儀式を始める。

 間違っても、やりすぎるなよ?」

「ウィズ、準備は?」

「OKっすー」

「神無月?」

「できています」

「重根(ジュグン)?」

「何時でもいけます」

 グラフェレス、通称グラフの言葉に、3人が返答する。

「では、始める!」

 アキヒトの声に、五紡星の頂点に立った男女が低い声で、呪文を唱え始めた。

 最初は小さく、気を付けても聞き取れるかどうかだったという声だったが、だんだんと大きくなってきた。

 そして、声が大きくなって行くに従って、5人の間に雷のような、不規則な光が生まれた。

 その光は五紡陣より七〜八十pほど高い位地を、五紡星に沿って5人と繋がっている。

 さらに、五紡陣自体も呪文を唱え始めると同時に輝きを放ち始め、声高になって行くに連れて、発光量を増していく。

 遂にはその輝きの中に5人の姿が消え去る。

 暫くして、その光の中に動きが見られた。

 光がだんだん一ヶ所に収束してきたのだ。

 収束する場所は、アキヒトが掲げた剣。

 最終的に、五紡陣の、5人にまとわりつく二つの輝きは、淡く儚いものとなった。

 その代わりに、剣は凄まじいまでの輝きを放っていた。

 その輝きは、先程までの五紡陣の輝きよりも凄まじく、まさに真夏の太陽を直視するほどのモノだった。

 そしてアキヒトは、掲げた剣を巨岩に向けて振り下ろした。

 次の瞬間、剣が鮮烈な光を放った。

 その光は剣の輝線に従い、巨岩へ向かい、そのまま通り抜け、消えた。

「・・・・・・・・・」

 暫くの沈黙。

 そして、

「・・・・・・成功だな、アキヒト」

「ああ、そのようだな」

 グラフとアキヒト、その二人が言葉を発した直後、巨岩に巻き付けられていた締縄が切れた。

 その瞬間、空気がネットリと絡みつくようなモノに代わった。

 ーーー 瘴気。

 それがこの近辺を満たしたのだ。

 だが、すぐにその瘴気はすぐに消えることとなった。

 理由は、おそらく瘴気が発した次の瞬間に、朝日が姿を現したためだろう。

 何故なら・・・・・・・・・














 巨岩の下には、あの吸血鬼“ブラッディ”が封印されているのだから。
 
























 その日の夜、雷が巨岩を撃つこととなる。








機動戦艦ナデシコ
TWIN DE アキト
サイドストーリー第一部〜蜥蜴戦争前夜〜

第参話 『修学旅行』物語(後編)









      にかみ
「ここか、神鬼神社ってのは」

 龍樹が呟いた。

 長い階段の脇に、申し訳程度の大きさの駐車場があった。

 そこにHカブMk−Vを停める。

 そして999個のお守りで膨らんだ鞄を持ち、階段を上り始めた。
               こぼ
 ぶちぶちと愚痴を零しながら。

 階段は500段だった。

 そして彼は妹、園裏 一美(ソノウラカズミ)に頼まれたお守りをゲットする。










「・・・・・・久しぶりだね、龍之の実家に来るのは」

「そうですね。

 二年ぶりほどですか?」

「多分ね」

 そんな会話をしながら、宏美と龍之は神鬼神社の社務所へと向かっていた。

 その時にパンパンに膨らんだ鞄を担ぐスキンヘッドの青年と擦れ違った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 宏美は反射的に、彼を振り返った。

「・・・・・・どうしたのですか?宏美」
              おおみ
「あの人・・・・・・大神家の人間特有の気配が染みついている・・・・・・・・・」

「大神家の?」

「間違いないよ。

 多分、割と親しい人が大神家の人間なんだろうね」










「ここが神鬼神社かーー」

 階段を上り終え、鳥居をくぐったところで、真が感慨深げに呟いた。

 そして心の中で、一大決心をする。

「(今日こそはやってやる! そう!今日こそは!!)」

 彼が何を決心したかというと、好きな女の子ーーー 横山 天乃に告白することを、だ。

 燃える彼を置いて、十人(裕太達+霧人達(クルト含む)は本殿へと向かった。





 お賽銭を投げ入れ、異端の神『阿羅耶汰(アラヤタ)』に祈りを捧げる十一人。

「(この恋が成就しますように!)」×真

「(今度のテストでいい点が取れますように)」×天乃

「(お神籤が外れますように)」×裕太

「(いつか、ユータに告白する勇気が芽生えますように)」×晶

「(妹に悪い虫が付きませんように)」×和也

「(今年も何事もなく、健康に過ごせますように)」×霧人

「(き、きりと君とお付き合いできますように(真っ赤))」×沙奈

「(今年も真琴とらう゛らう゛ふぁいあ〜〜っっ!!!)」×甲

「(今年も甲様と円満な一年を過ごせますように)」×真琴

「(今年中にこそ、私に相応しい男性が見つかりますように)」×園枝

「(全て事もなく済みますように)」×クルト

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 なんか、三が日中にするような願掛けがあったような気もするが、それは多分気のせい。

 まぁ、それは置いといて。

 願掛けが終わった後は、みんなバラバラになった。

 裕太は一人でふらりと居なくなり、

 真は天乃をつっかえつっかえの緊張した声で誘い、

 晶はその後を「面白そうだから」と付いていき、

 和也は本殿などの写真を撮り漁り、

 甲と真琴はどこか二人きりになれるところを探し、

 園枝はクルトを従えて知名度の割に非常に広い神鬼神社内を探索し、

 沙奈はその場で祈り続け、

 霧人は真に「がんばれよ」と囁いて、近くにある巨木の木陰に横たわる。










 さて、天乃を誘った真は今、池の真ん中にある御神木の下にいた。

 目的はもちろん、天乃に告白するためである。

 そのためだけに、ここ、神鬼神社を見学コースに入れたのだ。

 彼も、龍樹の妹一美の友人と同じように考えたのだ。


 天乃ははっきりいって、人気が高い。

 校内に非公式ながらファンクラブを2、3あるほどだ。

 人気の秘密は、おそらく「守ってあげたいオーラ」をビンビンに放射しているところだろう。

 しかもそれでいて、頭の出来が良いのはお約束だが、かなりの運動神経を誇っている。

 彼女は東学園高等部のテニス部に所属しており、エースで、部長なのだ。

 実力の方も折り紙付きで、将来ウィンブルドンで優勝も夢ではないとまで言われている。

 でもって、黒光りする、美しいウェーブがかった髪の、抜けるような白い肌の美人。

 ついでに眼鏡っ娘。


 霧人が下にいる巨木よりも、更に軽く3、4周りは大きい巨木。

 その木陰に、二人は立っている。

 木漏れ日が、二人の肩に、地面に光を投げかける。

 風が吹いた。

 青々と茂る葉が、数枚飛んだ。

 風が吹き止んだ頃、ようやく真が口を開いた。

「あ、あのさ、横山さん」

「はい?」

 ちょこん、と首を傾げる天乃。

「え、えーと、あーと、そ・その・・・・・・」

 真は、今まで考えに考えた告白のセリフを、すっかり忘れてしまった。

 昨晩寝たのは、結局日付を変更して午前3時だったというのに!(それまでずっと考えてた)

 そして頭の中の流砂に埋もれた記憶を何とか掘り返そうと藻掻いたが、全く掘り返せない。

 しょうがないので、『シンプル・イズ・ベスト』って言葉もあるし、と無理やり自分を納得させて、

「横山さん、俺は、横山さんのことが好きなんだ。

 ・・・・・・付き合ってくれないか」





「(天乃、どうするんだろ?)」

 神木の、真達と丁度反対側で聞き耳を立てていた晶は思った。

「(・・・・・・さっきの願掛けじゃないけど、本当、何時か私も告白する勇気が欲しいな・・・・・・・・・)」





 天乃は、外見にこそ現れていないものの、自分の心の中にあるモノを、必死の思いで整理していた。

 そもそも、彼女は自分が男性に告白されるほど魅力のある女だと思っていなかった。

 そして暫くして、必死の思いで言葉を紡いだ。

「私は・・・・・・沼井君のことが好きです。

 でも、それは男性としてではなく、友達として、です」

 そこまで言ったところで、真はがっくりと肩を落とした。

 だが、天乃は気にせずに続ける。

「私は、沼井君のことを好きになるか・・・・・・好きになれるかどうか、分からないわ。

 それでも・・・・・・、それでもいいんだったら・・・・・・・・・

 私と付き合ってくれますか?」



 その時の真の喜びようと言ったら、筆舌し難いモノがあった。





「(・・・・・・よかったね、真君、天乃。

 私も・・・・・・・・・何時か・・・・・・・・・)」

 晶は空を見上げた。

 御神木の、茂りに茂る枝葉の間から、蒼い空が見えた。

 心地よい風が吹き、漆黒の髪が風に舞った。





 だが・・・・・・・・・










 この事は本筋には全くと言って良い程に 
 







関係なかった。





























 木々が折り重なり、林どころか、小さな森を形成している。

 そこは神鬼神社の一角にある。

 裕太は、その小さな森を、草木を押し退けながら歩いていた。

 森は、最初のうちは緩やかな、進むに連れて急な坂になっていた。

 裕太はそこを目的の場所を目指して、ひたすら進む。

 数分して、目の前が開けてきた。

 そこは、ひらけた崖だった。

 京都を一望する、絶景。

 そして・・・・・・・・・真っ二つに割れた巨岩があった。

 その巨岩は・・・・・・
                  ひとり
 かつて、最強の吸血鬼の一鬼と言われた、“ブラッディ”を封印していたモノ。

「(2年前に起きた『連続婦女怪死事件』・・・・・・。

 全ては封印を解かれた吸血鬼によって起こされたもの。

 そして、それは・・・・・・・・・)」

 裕太の思考は、突如遮られた。

「よう、久しぶりだな。アキヒト」

 裕太が驚き振り向くと、そこには金髪の冷たい碧の瞳の男ーーー グラフェレス=バーグマンがいた。

「!? グラフ!?

 何故こんな所に・・・!?」

「さぁ、何でだろうね?

 それにしても何だい? 昔の仲間が会いに来たってのにさ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 何時も笑顔を絶やさない裕太。

 その顔から笑みが消え、凄惨なものとなった。

 それは或いは、黒の王子時代のアキトと通じるものがあった。

「それはそうとどうしたってンだ?アキヒト。

 ンーな岩の前でコワイ顔しちゃってさ。

 ・・・・・・それとも後悔でもしてるのか?封印を解いたことを」

「・・・・・・・・・そうだったとしたら、何だ?」

 相変わらず、裕太の顔は笑っていない。

 それどころか、目は更に危険なものとなっていく。

「く、ククククク・・・・・・、おいおい、マジかよ、それは?
     スチール・ハート  おおみ あきひと
 あの、『 鋼 の 心 』大神  明人 が?」
 
「その名で呼ぶな!!」
 
 轟っ!
 
 裕太が叫んだ途端、凄まじい風が吹いた。

 一瞬髪が、鉄(てつ)色の光沢を放った。

 裕太の顔は、正しく鬼のよう。

 いや、例え鬼神でも、その前には一瞬たりとも立っていることはできないだろう。

 事実、今の今までニヤニヤとした、感じの悪い笑顔をしていたグラフも、

「ひっ

 おっ、俺を殺すのか!?

 やめろ!やめてくれ!!もう二度と、その名では呼ばないから!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 それでも、暫くの間は彼の顔は微動だにしなかった。

 やおら、彼は目を閉じ、グラフに背を向けた。

「・・・・・・今すぐ消えろ。

 俺が振り向いた時に貴様がいたら、容赦なく殺す。

 ・・・・・・・・・昔の部下への、せめてもの情けだ」

 タッ

 裕太の言葉が終わるか終わらないかという時点で、グラフは地面を蹴った。

 その素早さは稀に見るもので、ほんの2、3秒で彼は森の中へと消えた。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 裕太はグラフの気配が消え数秒経って、一度振り返った。

 そして無表情のまま、再び前を向く。

 だが、すぐにまた人の気配を感じーーー 正確には、後ろに居たのだが気付かれなかったので、気配を漏らしたという感覚ーーー  、振り向いた。

「誰だ」
 すいか
 誰何の声に、気配の持ち主が応えた。

「僕は神楽 宏美です。 大神家の方」

「・・・・・・大神?

 悪いが俺の名字は『神無月』だ」

「・・・・・・・・・?

 何故そんな嘘を付く必要があるのですか?

 貴方からは大神家特有の気配を感じます。嘘は・・・・・・・・・通用しませんよ?」

 裕太は、宏美のことを自分が遂2ヶ月前まで所属していた『A−10』という組織の追っ手ーーー 刺客かと思った。

 彼の名前は、その組織の者と、極々一部の者しか知らない。

 その極々一部の者に『神楽 宏美』という人物はいなかった。

 そして、あの組織には、人的な余裕はあまりない。

 故に、情報が漏れれば、いくら常人に無い力を持っていたとしても、現段階での対処はほぼ不可能。

 そのため、情報漏洩を可能な限り防ぐために、A−10を抜け出した者を、確実に少なくとも【それ以上の】情報の流出を出来ないようにする。
           
 即ちーーー 殺す。

 裕太は自分に害する者に、手心を加える気は全くない。

 だから彼は普段は隠している、その実力を見せた。

 常人には視認不能なほどの踏み込みから右の掌底、そして左足を出しながら、左の掌底を顎に目掛けて繰り出す。

 だが宏美もまた、彼と同等・・・・・・いや、それ以上の力の持ち主。

 最初の一撃は左手で受け、二撃目は一撃目の衝撃を利用して、後ろに下がり、回避。

 裕太はそれを驚いた様子も見せずに追撃をかける。

 しかし、突如裕太を蒼い輝きが包み込んだ。

「ふう・・・・・・大人しくしてくださいよ。

 僕はあなたと話しをしに来ただけなんですから・・・・・・」

 その輝きは、裕太の自由を奪った。

 どんなに力を入れようとも光の戒めは解けない。

 それ以前に、その戒めから逃げようと言う意志さえも消えてくる。

 それは宏美が放ったルーンの力。

 物質、精神、魂の全てに影響を及ぼすルーン。

 宏美はそのルーンの力を持って、裕太の動きを止め、抵抗の意志をも奪ったのだ。

 金縛りの一種だが、それよりも高次元のもの。

 SS級以上の能力を持つ者にしか扱えないほどに・・・・・・

「・・・・・・話し?

 お前はA−10の暗殺者ではないのか?」

「A−10の?

 まさか、冗談は止してください。

 僕は御神楽の者、A−10とは敵対関係にありますよ」

「・・・・・・御神楽?

 A−10の最優先攻撃目標の御神楽か?」

「ええ、そうです。

 僕はあなたの力が借りたいのです。

 正確に言えば、僕だけではなく、僕たちの組織『G』が、ですが」

 『G』とは、御神楽を中心とした同盟、対A−10組織『ガーディアン(Guardian)』のことだ。

 人材はA−10とは違い、少数精鋭。

 古くから続く、『退魔師』や『魔法使い』、『エクソシスト』の家系の者達。
             スー
 そう、瞳や岸姉妹、石姉妹,、薫に龍之と言った面々だ。

 特に、神代の時代より続く十三家出身の者。

 十三家の者は遠く神代の時代に、異端の神々の子として生まれた。

 異端の神々とは、即ち前に宏美がDに語った異世界の神。

 異世界といっても、彼が言ったようにこの世界とは表裏一体の世界。

 ただ違う点があるとすれば、空気中のルーンの濃度が高いこと。

 ルーンは、肉体・精神・魂の力の総合と説明したが、正確には違う。

 ルーンというのは、ある意味プラズマと同じような存在である。

 通常、物質に熱エネルギーを与えれば『固体→液体→気体→プラズマ』となる。
                                                         ソ ウ ル  アニマ
 だが、与えるエネルギーが熱エネルギーでなく、『マナ』というエネルギーだと、『物質→精神体→魂→ルーン』となる。

 マナは、現在探知不能のエネルギーであり、また熱エネルギーと同一の存在でもある。

 ただ、そのエネルギーの方向性が違うだけ。

 そして、ルーンの濃度が高いとどうなるかというと、ルーンはある意味プラズマと同じような存在ということがポイントになってくる。

 即ち、ルーンは物質、精神、魂の全ての性質を併せ持つ。

 そうすると、ただの日常生活を送るだけでも、精神に、魂に大きな影響が表れてくる。

 それはその異世界に於いてはそれが普通なため変わらないのだが、ルーンの濃度が薄いこちらの世界に於いては、大きな違いが出てくる。

 異世界からこの世界に魂が肉体を得、現れるとき、その強大な力を持った魂、精神は、こちらの世界では肉体の素材として削られる。

 そしてまた、肉体に蓄えられていたルーンも。

 魔法を扱うとき、意志力は何よりも大切だが、肉体にルーンがある程度以上蓄えられていなければ、魔法は使えない。

 さらにルーンの濃度が濃いと、魔法が使いやすい。

 それはこの世界では魔法を使うとき、わざわざ世界中からルーンを集めなければならないのに対し、向こうの世界ではその場にあるルーンで大体は十分だからである。

 つまり、この世界の人間は、肉体に宿すルーンの絶対量が少なく、尚かつルーンの濃度が薄いので魔法を扱える者は極々少数と言うことだ。

 それに対して神々がその身に宿すルーンは計り知れず、その血を引く者にもまた、圧倒的な量のルーンが内包されている。

 しかも十三家の者達は、それぞれの祖神とアニマレベルでチャンネルを開くことができる。

 それとルーンは肉体的な力も増加される。
 
 結果として、非常に強力な『力』を有する。


 その他の者達も、一代や二代のぽっと出ではなく、神代まで遡れなくとも、少なくとも平安末期まで遡れる。

 基本的にルーンの絶対量、それを操る能力は遺伝する。

 また、その能力は世代を重ねるごとに強まる傾向にある。・・・・・・例外も少なくはないが。


 A−10は例えS級能力者を集めていたとしても、彼らは潜在的な力を扱い切れていない。

 自然に、彼らはC級程度、力のある極々少数の者でもB級程度の能力者と同じ力しか発揮できない。

 ・・・・・・『G』が確認したSS+級能力者が5人ほど紛れ込んでいるが。

 そのうちの一人こそが神無月 裕太こと大神 明人。

 ・・・いや、彼だけはSSS級の能力者だ。


 宏美は、真っ直ぐ裕太を見つめた。

 裕太も、真っ直ぐ宏美の目を見つめた。

 どちらの目も澄み渡っており、一片の曇りさえ見付けることはできなかった。

「・・・・・・一つ訊こう。

 何故俺の力が必要なんだ」

 声は、冷たいまま。

「なぜ?

 ・・・・・・予想はついているでしょう。

 僕たちには、残念ながらA−10内部のことに詳しい人間はいません。

 ならば、それを元A−10構成員を仲間にすることによって解決しようとするのは極々自然のことでしょう」

「・・・・・・・・・もっともだ。

 だが、何故俺なんだ?

 俺の他にも、元A−10構成員で殺されていない者は何人かいるだろう」

「あなたが大神家の者だからです。

 A−10の者達が、僕たち『G』のメンバーよりも“力”は弱いとはいえ、その人数は十数倍以上になります。

 なればこそ、強力な“力”を持った、八家十三家の者達の協力が欲しいのです」

 八家の人間は、十三家よりも強力な神より生み出された魂を持つ。

 ルーンに対して最も影響を受け、与えるのは魂。

 魂が強ければ強いほど、“力”が強くなる。

 ・・・・・・精神や肉体が弱ければ、潰れるが。

 また、八家の真児は常に竜王との魂レベルのチャンネルを開いている。

 そして、裕太は八家が一家、大神家の真児。

 その“力”はまさに一騎当千。

 だが、それ故に八家十三家の者には制約がある。


 1.その“力”を【悪】に与する者以外に使用してはならない。

   ただし、“力”を持つ者を育てるときは、その限りではない。

 2.可能な限り、【悪】といえども殺してはならない。

 3.1、2の制約を守らない場合、その“力”は剥奪される。

 ・・・・・・・・・例外も当然あるが。


 それでも、八家十三家の者の“力”は強力だ。

 『G』の実質的戦力の十数倍の能力者が相手のため、その力を、『G』は是が非でも手に入れたい。

 そのため『G』は八家十三家の者達を探し続けていた。

 そして、今渡りがついているのは、八家は宏美の神楽家、穂の神重家、紫苑の神崎家、天神家、十三家は龍之の天王寺家、薫の文月家の六家。


 裕太は、結局、

「悪いな。

 俺がA−10を抜けたのにはそれなりのワケがある。

 だが、あそこには思い出があるんだ。・・・・・・山ほどのな。

 良きにしろ・・・・・・・・・悪きにしろ、な」

 宏美から視線を逸らし、京都の町を見やる。

 その顔は、ひどく悲しそうな笑顔だった。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 宏美はその顔を見つめ、目を瞑った。

「分かりました。

 今回はこれまでです。

 ・・・・・・でも、諦めたワケじゃありませんからね?

 気が変わったら、いつでも御神楽学園に来てください。
  リヴァイアサン
 『水の竜王に会いたい』と言えば、僕が話しを聞きに行きます」

 彼は裕太に背を向け、一言言って消えた。

「それでは、また会いましょう」





「・・・・・・・・・ったく」

 クシャっ、と髪を掴む裕太。

「厄介事・・・・・・・・・か」

 ポケットの中から、クシャクシャになったお神籤を取り出す。

 そのお神籤は、先程清水寺で引いたもの。

 それを見ながら、裕太はボソッと呟いた。

「嫌な予感はしていたんだがな。

 ・・・まさか・・・・・・A−10絡みのとは・・・・・・・・・」

 左手に持った紙ごと左目に手を被せる。

「・・・ったく・・・・・・ほんと、やンになるぜ・・・・・・・・・」

 指の隙間から、一滴の水が落ちた。










 本星への報告書 TDA−S1−3

 ほらね、ナデシコキャラが出てこない。

 ・・・・・・アキトが名前のみ出たのを除けば、ね。

 それと、この話もいつかと同じように、「ナデシコSSでなくオリジナルSSの方に投稿すれば」と言われそうですが、やはりその話しと同じように、この「TWIN DE アキト」にとっては、欠かすことのできないストーリーです。

 最後に乗っけたオマケと、中盤の、『真が天乃に告白するシーン』は本当にほとんど関係ありませんが。

 それと、「シュバルツカッツェ」と「瑠璃の香」は実際にあります。

 ・・・・・・・・・うちの親父達が美味そうに飲んでた。

 その他は、いろんなSSから引っ張り出してきた。


 因みに、第弐話で出した暗号ですが、

 土 金 木 水 火 月 日
     
   と へ  ほ に は ろ い 1or8
  か わ を る ぬ り  ち 2or9
  な ね つそ  れ た よ 3or10
  く  お  の イ  うむ ら 4or11 ←「イ」を、ワ行の「イ」にしてください
 て え  ふ けま や 5or12
  し み  め ゆ  き さ  あ 6or13
   ん  す せ も ひ  エ 7or14 ←「エ」を、ワ行の「エ」にしてください

 この暗号表に当てはめます。

 漢字は部首、数字は、旁の画数に対応しています。

 では、解いてみましょう。

「胸炸゛鋭肘゛鋭肺坂炉梢旦歴、地氷昨坪鋭板!」

 ・・・・・・え゛

 字、間違えてるじゃん、俺・・・・・・

 「歴」じゃなくて「暦」だよ!

 これじゃ解けやしねぇ・・・・・・


 ま、気を取り直して。

 「歴」を「暦」にして解いてみると、

「さげんだんまくうすいよ、なにやってんの!」

 ・・・つまり「左舷弾幕薄いよ、何やってんの!」

 というわけで、答えは「ブライト=ノア」でした。



 それでは、この辺で。
本星への報告書 TDA−S1−3 終










オマケ

 京都の某旅館の一室は、宴会会場になっていた。

 飲めや騒げやの大騒動。

 そこで騒ぐは、真、甲、霧人、クルトの四人。

 何故そこに園枝の護衛のクルトが居るのかは不明だが、彼らは酒盛りをしている。

 清酒「美少年」や、名酒「熊殺し・改」、「改・鬼殺し」をはじめとした日本酒から、ワイン「シュバルツカッツェ(和訳すると黒猫。因みにフランス語で「シャノワール」というそうだ)」と、洋の東西を問わずに、大量の酒がある。

 ・・・・・・非常に呑み合わせが悪いような気もするが。

 スピリッツとワインに濁酒とか、さ。

 騒ぎはしていないが、ナニゲに裕太と和也も飲んでいたりする。

 裕太は窓から見える京都の夜景を見ながら、少しぬるくなった「瑠璃の香」を口に含む。

 微かにアルコールが喉を刺激し、胸を焼く。

 それは、アルコールの仕業だけではなかった。

「(・・・占いは、信じてはいなかったんだがな・・・・・・・・・)」

 和也は3人の馬鹿騒ぎを、面白そうに目を細めて眺めながら、水割りにしたコニャックの入ったグラスををグイッと開けた。

 突如、

 ガラッ
                   ありの  かずま
 襖が開いて、裕太達の担任の有野 一馬教諭が現れた。

「はっはっは、二十歳未満は飲酒禁止だよぉ〜〜」

「げっ! 一馬先生!?」×真

「先生も一杯どうだ?」×甲

「・・・・・・・・・・・・・・・」×霧人

「大人もいるんだし、堅いこと言いっこ無し、言いっこ無し!」×クルト


 待てや、ヲイ
 オンドレ子供に酒飲ませンな!
 

 で、真、甲、霧人は連行された。

 ・・・・・・裕太と和也は、咄嗟にグラスを隠したため、飲んでいたことに気付かれなかった。





 その夜、3人は一晩中正座をさせられた。





補足
 真は足の痺れに屈し、崩れた時に頭をぶつけ、場所が悪かったらしく気絶した。

 甲と霧人は強者で、正座を崩すことなく一晩を明かした。

 ・・・・・・それも、正座のまま寝て。
 









 おしまい。