「最近、日本、地震が多いみたいですね」
イツキが、誰に言うとでは無しに呟いた。
「アキト、大丈夫かな」
Dの部屋で、イツキとラピスが会話している。
ラピスは、Dが帰ってきたときに驚かすんだと、片言じゃなく喋れるよう、頑張った。
その努力は実った。
僅か数週間にして片言でない、普通の日本語を喋れるようになり、Dことアキトをおどろかせ・・・・・・というか、びっくりさせた。
しかも、彼女が喋れるのは日本語だけではない。
英語やフランス語を始めとする、いわゆるヨーロピアンランゲージ全て。
・・・・・・元が同じ言語だったため、意外と簡単に覚えられるモノなのだ。覚えられる人には、ネ。
「一日一回連絡くれるけど・・・・・・」
「一日は結構長いね」
ラピスの言葉に頷く。
「そうね、長いよね。 一日って。
・・・でも、そろそろよね、アキトが連絡くれる時間」
「うん!」
それから五分後、2人の目の前に一つのウインドウが展開した。
そこには、2人の愛しい男性(ひと)が微笑んでいた。
機動戦艦ナデシコ
TWIN DE アキト
サイドストーリー第一部〜蜥蜴戦争前夜〜
エピローグ 戦いへの『序曲』
『昨日ぶり。
イツキ、ラピス』
「「昨日ぶり、アキト」」
微笑みながら挨拶をするD(アキト)に、イツキとラピスも微笑みながら挨拶を返した。
「ねぇアキト」
『何、イツキちゃん』
2人の前だ。
Dはバイザーを付けずに、素顔を晒している。
「アキトのいる日本、最近地震多いみたい。
ううん、日本だけじゃなくて、ヨーロッパやアメリカも。
だから、大丈夫かなって、心配してるの」
ラピスの言葉に頷きながら、
「・・・それで、アキトは無事?
日本のニュース見てると、アキトのいる東京、関東大震災が起こる前兆じゃないかって。
そう、危険視されてるけど」
「それに、富士山が噴火するんじゃないかって言う話もある」
とイツキが続け、更にラピスが言葉を継ぐ。
Dは、クスリと笑い、「大丈夫だ」と告げる。
『心配してくれてありがとう。
大丈夫だと思うよ。
・・・・・・勘だけど、ね』
「あなたが言うんだったら、大丈夫なんでしょう。
私もラピスも、D、あなたが無事に戻ってくるの、待ってるからね」
「だから、なんで神楽グループに呼ばれたのか知らないけど、帰ってきてよ・・・・・・
ナデシコに・・・私たち・・・・・・イツキと私のトコロに」
『ああ、分かってる』
力強く頷いた。
それから10分ほどの間、三人は談話した。
ふとDは、最近精悍さに磨きが掛かった顔を曇らせ、
『ゴメン、そろそろ時間みたい。
明日も、これくらいの時間に連絡入れるから』
「うん・・・・・・、待ってるね、アキト」
「また明日、アキト」
『ああ、また明日な、イツキ。ラピス・・・・・・』
ピッ
Dの前から、愛すべき一人の女性と、一人の少女の姿が消えた。
名残惜しそうに、一瞬前まで2人の姿を映し出していた空間を見つめる。
「・・・・・・Dさん、いいですか?」
そのDに後ろから声を掛けたのは龍之だった。
バイザーを掛けながら「ああ、待たせた」と答え、週に一度開かれる“修行の場”へと向かう。
・・・・・・修行の場とは、通常空間に比べて、局地的にルーン濃度が違う場だ。
ルーンの濃度が薄いところには、強力な術を使える者達が集い、その中で力を伸ばす。
言ってみれば、陸上競技の選手がする高山トレーニングのようなものだ。
また、力が強くとも制御能力がない者達が、制御能力を身に付けるためにも使われる。
ルーンが濃いところでは、ルーンの制御技術があっても、力が弱い者達が集う。
強い力での制御も身に付け、少しずつ、濃度が薄い方へと移るのだ。
また、ルーン濃度は通常と変わらないが、一般に『魔界』と呼ばれる、魔族の住む次元へ続く場もある。
そこでは、瘴気に慣れ、御神楽の実戦部隊(龍之や瞳(いいとこなしだけど・・・)、沙代、沙和たち)になるための訓練を積む。
Dは最もルーン濃度が低い場で、神影の術を学んでいた。
教授しているのは宏美だった。
そこでは、宏美が待っていた。
「・・・Dさん、あなたは昨日、神影の術の上級魔法までを全てマスターしました」
本来は週一の“修行の場”での修行。
だが、Dは時間がないため、先日の羅生門の鬼の時以来、毎日ここで修行していた。
「次は、最上級魔法に移ります。
こちらは、ほんの数種類しかありませんが、その分威力が非常に高く、尚かつ制御の難度は、最高難度です」
「・・・威力はどれくらいなんだ?
俺が知っている術で一番威力が高かったのは、呪符で使った『邪光矢』だったが・・・・・・」
Dの言葉に頷きながら、
「『邪光矢』の祝詞、私はあなたに教えましたか?」
「・・・・・・・・・、そういえば、教えてもらっていないな。
ということは・・・・・・?」
「はい、その通りです。
『邪光矢』は、最上級魔法の一つです。
ですが、最上級魔法の中では、最下位です」
「なっ・・・・・・!?」
Dは絶句した。
それはそうであろう。
最上級魔法の中では最下位という『邪光矢』。
しかし、それでもDの見たところナデシコのグラビティブラスト並みの威力があるように見えた。
それが過剰評価だったとしても、ディストーションフィールドを纏っていないチューリップならば十二分に落とせるはずだ。
それだというのに・・・・・・!!
「ふふッ、驚きましたか?
でも、最上級魔法の最上位なら、コロニーを破壊することも可能ですよ。
・・・・・・八家でも、類い希なる資質があれば可能性がある、ですけどね」
宏美はそう言うと悪戯っぽく笑って見せたが、Dは笑うことは出来なかった。
「それでは、『邪光矢』ともう一つの最上級魔法の最下位、『降魔弓』の祝詞を教えます。
いくら最上級魔法とはいえ、ここでは中級魔法の最下位ほどの威力もありませんから。
だから、安心して放っていいですよ。
万が一の場合は、僕が何とかしますから」
「そうか? ・・・・・・わかった。
じゃあ、呪文を頼む」
力強く頷くと、宏美は呪文を唱えると同時に、身振り手振りを交えた。
Dは『鏡写(キョウシャ)』という神影の技の壱を使い、それを完全にコピーする。
鏡写は、名前の通り、相手の動きを鏡写しに、コピーする技だ。
絶対に負けられないとき、相手の技を見破るときに使用する技。
「集え集え、漆黒の闇
我が手の内に、闇よ、集え」
両手を腰の高さに、横に突き出した。
「集え集え、漆黒の闇
我が手の内に、闇よ、集え」
Dも、宏美をそのままに、両腕を突き出した。
「幾千万もの闇夜の如き
光存在せざりし無明の闇よ・・・・・・」
手で空間に何か幾何学模様を描きながら、胸の前で両腕をあわせる。
「幾千万もの闇夜の如き
光存在せざりし無明の闇よ
黒き闇は全てを滅ぼす
例え光が、闇が
我が前に立ち塞がろうとも
黒き闇の矢は全てを貫く
我が手に集いし闇よ、今こそ真の力を示すがいい
天空を貫き、虚空を駆け抜く一条の矢よ・・・・・・」
合わせた手を、慌ただしく右へ、左へ、上へ、下へと複雑に動かす。
それが、闇を司る神々の中の神、闇竜王『アルツェード』の紋章だということを、Dは知らない。
「・・・・・・滅びの矢よ、今こそ時は来た
全てを貫き、塵とせよ
『邪光矢』」
「・・・・・・滅びの矢よ、今こそ時は来た
全てを貫き、塵とせよ
『邪光矢』!!」
最後に、両腕を弓を牽いたかのような形に。
Dの右手に、闇が矢を為し、握られていた。
「破ぁっ!!!」
右手が、矢を放した。
解き放たれた矢は重力の干渉を受け付けず、宏美が作り出した羅生門の鬼の幻影へ目掛け、直進した。
そしてそのまま幻影を貫き、暫く虚空を駆けた後、壁に到達する間もなく空気中に溶け消え、消滅した。
「クスっ、完璧ですね。
真児でも、初めて最上級魔法に挑戦すれば、大抵は失敗するのに」
「・・・・・・そーいうもんか?
まあ、『鏡写』を使えなかったら、成功したとは思えないが」
それからDは、かねてより疑問に思っていたことを訊いた。
その質問は、ずっとはぐらかれっぱなしの質問だった。
「なあ宏美さん。
宏美さんはさ、神楽の人間だろ?
だったら、なんでまた神影の技や魔法を知っているんだ?」
宏美がDに教えたのは、神影の術だけではない。
神影の技『神無(カムナン)』もまた、彼が伝授した。
「さあ・・・、ね・・・・・・・・・?」
蠱惑的に微笑む宏美。
それは、例え女性嫌いの人間でも、思わず赤面するほどのものだろう。
・・・・・・とは言ったものの、宏美は超女顔の男性だが。
「(またそれではぐらかすか・・・・・・)
・・・って、お?」
突如、大地が揺れた。
震度4ほどの地震である。
「あー、また地震か。
本当に日本は地震が多いな」
「ええ、そうですね。
でも、ここ二年ぐらい、特に多いんです」
苦笑しながら、Dの言葉に答える宏美。
「そういえば宏美さん、知ってるか?
ここのところ、日本も多いが、アメリカやヨーロッパみたいな、地震の少ない国でも多発しているらしい。
しかも、その地震でか史跡がいくつか崩壊したとか何とか」
「・・・・・・ッ!!」
宏美の顔色が変わったのを見、
「どうしたんだ宏美さん?
何か気になることでも?」
そのDの言葉は、まさしく宏美の心境を表していた。
宏美はDから得た情報で、一つの可能性に思い当たったのだ。
「・・・・・・ええ、気になることが一つ。
ちょっと、確認してきます」
言うなり、彼は疾風の如く駆け去った。
蒼い髪が棚引き、シャンプーであろう、ジャスミンの香りがDの鼻腔をくすぐった。
「(・・・・・・今でも時々、本当に宏美さんが女性じゃないかって疑いたくなるよ、まったく)」
頭を掻き、Dは彼の後を追った。
御神楽の女子寮、弁天寮の一室(管理人室)に、宏美と龍之がいた。
2人は世界地図、世界地図に何か線や点、丸を書き記したもの、どこに仕舞っていたのか、と言うほどの新聞を睨んでいた。
「・・・・・・やっぱり」
「これは・・・・・・」
宏美と、その細君が声を漏らした。
そこに、Dが追いついた。
「宏美さん、気になることって言うのは、どうだった?」
「ええ・・・・・・、最悪です。
懸念したとおりでした」
「で、それは?」
宏美が何か言う前に龍之が、
「その前にDさん、護領侍(ごりょうじ:御神楽の実戦部隊のこと)と紫苑、穂を集めてくれませんか?」
「ん? あ、ああ。分かった」
龍之の指示に従い、Dは護領侍を呼び集めに行った。
十分後、管理人室に宏美とD、護領侍(8(含む龍之))+2人が集まった。
「それで宏美さん、私たちを呼びだしたのは?」
護領侍のリーダー格、奥田
瞳の言葉に、沙代が続く。
「そうだ、オレたちを管理人室(ここ)に呼び出したッてーことは、相当のことだろ?」
頷き、宏美が話し始める。
「まず、これを見てください」
普通の世界地図。
だが、色々な土地や史跡の印にマークが付けられていた。
「これは・・・・・・?」
誰かが疑問を発する。
「これは新聞から入手した、破壊された史跡の位地がマークされています。
それからもう一つ、これを」
線や点、丸が書き込まれた世界地図。
「“竜脈図”・・・・・・?」
宏美は沙和の言葉を肯定した。
竜脈図は、文字通り大地の気の流れ、竜脈を記した地図だ。
「そうです、それは“竜脈図”。
・・・・・・その流脈図と、先程の地図を見比べてみてください」
竜脈図の一部と、崩壊した史跡の大半が合致した。
「・・・ちょうど、この崩壊した史跡は、竜脈の制御位置に置かれていました。
つまり、最近多くなった地震は、竜脈が暴走しかけて起こっているものと考えられます。
・・・・・・私たちは、竜脈に核を打ち込み、地球を崩壊させるものと思っていましたが、どうやら違ったようです。
彼らは竜脈を野放図に解放した後に、核を要に打ち込み、過活性化した竜脈全体の無制限暴走を狙っていたようです」
竜脈が適度に活性化すれば、土地は実り豊かなものとなる(当然雨も適度に降らなければならないが)。
しかし、必要以上に活性化する“過活性化”が起これば、大地がそのエネルギーに耐えきれずに崩壊することもあり得る。
また、竜脈はアンプとしての効果もある。
要にエネルギーが流れると、そのエネルギーを増幅してしまうのだ(逆の効果もあるが、それは要の性質次第)。
少量のエネルギーならばまだしも、核のエネルギーは凄まじいものがある。
過活性化に加え、核のエネルギーを増幅してしまえば、大地どころか地球その物が崩壊してもおかしくはない。
・・・・・・その崩壊を、『竜脈の無制限暴走』と呼ぶ。
宏美たち、御神楽のものが考えていたのはその逆だ。
竜脈を核で寸断する。
すると大地は死に果て、いわば『腐って』しまう。
その状態で核のエネルギーが無理やり竜脈を走り抜けようとすれば、抵抗力を失った地球は簡単に崩壊してしまうのだ。
これは『竜脈の腐壊』と呼ばれる。
どちらにしろ、地球は滅ぶ。
「これは・・・・・・、一刻の猶予もありませんね。
では・・・・・・?」
瞳の問い掛けに首を上下に振って肯定すると、
「みんなには、四人一組でA−10の根拠地を潰してもらいたいと思います。
組は、沙代ちゃん、沙和ちゃん、理樹、龍之。
もう一組は瞳ちゃん、麗宝、美宝、薫ちゃん。
僕と穂は、竜脈の沈静化に務めます。
それから、Dさんは紫苑と組んで下さい。
あなたと紫苑は二人で十分でしょう」
宏美の指示に11人は頷いた。
「それでは、今から用意して明日か、遅くても明後日には出ます。
・・・・・・A−10の根拠地は?」
「前に地図を渡しましたね?
その時と変わっていないようです。
まあ、こちらから攻勢はかけていませんから、当然かも知れませんが」
以前に渡した地図というのは、Dが来る前に渡したものだ。
本来、アメリカに行っていた紫苑が日本に戻ってきてから攻勢を掛ける気でいたのだが、Dのことがあり、遅れた。
だが、その遅れの価値だけはあった。
「それでは・・・・・・、頼みましたよ」
戦いの序曲ーーー
全ては、ここから始まる。
本星への報告書 TDA−S1−5(終)
はいはい、またまたTDAです。
なんか、筆が乗ってきました。
それにしても、イツキとラピス、久々の登場でしたね。
というか、ナデシコが出てきたのにこの二人以外出番無し(苦笑)
キャラや設定把握のができなくなっている方も多いと思いますが、ご安心下さい。
サイドストーリー第1部の設定集が近々アップされます。
>代理人様
『TheAVENGER』第16話の感想にて『・・・・ナデシコに対空機銃なんてあったっけ?』と申されましたね。
その答えは、第12話の後書きにありますが、ここでも再度言いましょう。
ナデシコ、武装貧弱すぎ。
だから、コレ(TheAVENGER)では武装を変更(追加)しています。
それでは。
本星への報告書 TDA−S1−5(終) 終
代理人の感想
いや、設定で誤魔化す前に作中でキャラを立てて欲しいんですけど。
それが出来ないくらいなら最初から出さないほうがマシだと思いますよ?