「君を・・・助けに来たんだ」
「・・・・・・(ぽー)」
その微笑に見とれる少女。
追い詰められた所に助けに来た青年は、彼女にとって王子様に見えるらしい。
・・・そして、彼女は極度の緊張と疲労により気絶した。
「・・・またか。 一体お前は何人落とせば気が済むんだ? 少しは俺の気持ちも考えろ!」
「・・・何の事だ?」
もう数えるのも嫌だという感じでアキトを責める北斗に、理由が分からないといった顔で答えるアキト。
『Pitch Black Tornade』テンカワアキトのもう一つの通り名は『Man
of the Love Portion』という。
なぜなら、助ける女性や話しかけた大半の女性が彼の笑顔に屈しているからだ。
しかも、恐ろしい事に本人は全く自覚していない。 彼が後ろから刺される日は、そう遠くない・・・と思う。
ナデシコアナザー
Midnight Warriors ―真夜中の戦士達―
漆黒の竜巻 真紅の炎
Mission 01: 『Pitch Black Tornade』と『Cardinal Flame』 その2
全世界で三割のシェアを誇る、巨大コングロマリット(企業複合体)ネルガル。
下は爪楊枝、上はミサイルなどの軍事兵器を取り扱う、スーパーマーケット顔負けな品揃えが自慢の企業である。
そのネルガル本社、会長室に、アキトと北斗の姿があった。
「いや〜、ご苦労だったね。 さすがは我が社が誇る異能力者だねぇ、二人とも。
『特殊IFS部隊ナデシコ』の名は伊達じゃないね」
「・・・能書きはいいから、用件をさっさと話してくれ。 こっちは寝てないんだぞ、アカツキ」
ふざけた様子で髪を掻き揚げる長髪の青年に、多少いらつきながら話を促すアキト。
年はアキトより二つ三つ上、といったところで、高級そうなスーツをピシッと着こなしてはいるが、
何処かだらけたような雰囲気がする若者である。
「キッツイねぇ、テンカワくん。 そりゃあ、無理を承知で君達に頼んだのは悪かったけどさ」
苦笑とともに頬を掻くアカツキと呼ばれた青年。
アカツキ・ナガレ――若くして巨大企業ネルガルの会長を務める彼は、
その決断力と商才でネルガルをここまで成長させてきた腕利きの経営者だ。
「・・・くだらん。 ふざけたことをぬかしたら、今度こそ燃やすぞ?」
「・・・北斗くん、君が言うと冗談に聞こえないんだけど」
欠伸を噛み殺し、首に掛けてあるナデシコをかたどった銀のペンダントを弄くりながら呟く
眠そうな北斗の物騒な呟きを聞き、背中に冷や汗が流れるアカツキ。
実際、北斗は寝ぼけてアカツキを北京ダックにしかけたことがある。
・・・それ以来、アカツキは北京ダックを食べられなくなったらしい、が今は関係ない。
「話というのは、昨日助けた少女の事さ。
擦り傷、アザ、打ち身、捻挫等いろいろ怪我してるけど、彼女に命の別状はないよ。
まあ、極度の疲労で今は医務室で寝ているけどね」
「そうか、ならいい。 ・・・身元は割れたのか?」
「馬鹿にしないでくれたまえ北斗くん、ウチのSS(シークレット・サービス)は優秀なんだよ?
確かファイルがこの辺に・・・あれ? 千沙くん、あのファイルはどこに置いたっけ?」
「私が持っています。
・・・どうして会長といい舞歌様といい、私の上司はこんなにだらしない人が多いんですか・・・」
「ハハ・・・耳が痛いねぇ・・・」
何時の間にかアカツキの隣にいた女性秘書が、呆れながらファイルをアカツキに手渡す。
鮮やかな緑色の長い髪を一つに纏め、クリーム色のスーツをビシッと着こなしている。
「相変わらず大変だな、千沙さん」
「・・・いいんです、これが私の仕事ですから・・・」
「お前の実力なら、ナデシコでも十分やっていけると思うが?」
「ありがとうございます、北斗殿。 ・・・でも私が抜けるとココの業務が危なくなりますから・・・」
実際、彼女―各務千沙―は異能力者としても実力はあるのだが、
戦闘より事務作業の方が向いていたため、ネルガルの会長秘書として働いている。
「ハハハ・・・これは手厳しいね・・・。
ところで、彼女を調べて・・・あ、人権に関わるようなことはもちろんしていないからね。
で、分かった事なんだけど、名前はホシノ・ルリ、十六歳の異能力者だ。 それも、S級のね」
「S級か・・・。 それで連合のヤツらが追っていたのか」
アカツキの言葉に、顔をしかめるアキト。
一口に異能力者といっても、ランク分けされていて、S〜Dという様にクラス分けされている。
具体的に・・・
S級――
先天的に固有の異能力を一つ以上持つ者。
A級――
先天的に固有の異能力を一つ持つ者。
B級――
先天的に固有の異能力を持たず、また異能力を連続使用できない者。
C級――
異能力は使えないが、身体能力(頭の回転が速い、力が強い等)が常人に比べて優れている者。
D級――
異能力も使えず、身体能力等も普通の人。 要するに、パンピー。
というように分かれている。 ちなみに、アキトと北斗はS級に分類されている。
「恐らくねそうだろうね。
舞歌さんの『千里眼』で見てもらったんだけど、どうやら木連の方も彼女の力を狙っていたらしい」
「・・・なるほどな、経済面に圧力を掛けることが出来れば、それだけ自分達の目的が達成しやすくなる・・・違うか?」
「そうよ。 よくわかったわね、北斗」
北斗の呟きを肯定するのは、今会長室に入ってきた女性―
東舞歌だ。
その後ろには、彼女の部下である紫苑零夜も控えている。
元木連に所属していた彼女だが、今は訳あってネルガルに身を寄せている。
戦術、戦略の天才で、『ナデシコ』の総指揮を執る才女でもある。
「私の『千里眼』で見たんだから間違いないわ。
ヤツらも彼女を――いえ、正確には彼女の能力である『コンピューター操作』を狙ってるわ」
ちなみに、舞歌もS級能力者で、能力は『千里眼』。
これは遠くで起きている出来事を、まるでその場で見ているかのように見れるという、実に便利なものである。
それで、彼女についた字名が『Clairvoyante』。 千里眼を持つ女という意味だ。
「木連は攻撃的な異能力を持つ能力者は結構いるけど、
補助的な能力を持つ能力者は、私や千沙、零夜を含めても数えるほどしかいないわ。
逆に連合は、彼女が持つ『コンピューター操作』の能力を恐れている。
・・・草壁や連合の考えそうな事だわ」
不愉快そうに吐き捨てる舞歌。 元木連に所属していたから、胸中は複雑だろう。
木連や連合というのは組織の名前で、木連は今の政治体制に不満を持っている能力者達を吸収、支援(利用)して
『能力者のための世界を造る』というスローガン――まあ早い話が世界征服を狙っている団体のことである。
逆に連合は『能力者は平和を乱す者』として、迫害・管理政策をとっている。
だが、実際は自分達の保身や出世の事しか考えていない連中が殆どで、連合内は乱れに乱れきっていた。
ちなみにネルガルは木連や連合などの組織とは違い、能力者を木連や連合の連中から保護するために活動している。
その証拠に、ネルガルで働いている社員全員(今まで保護した人達)がランクの違いがあるものの、
能力者(会長であるアカツキ自身も能力者)なのである。
「何が異能力者の世界だ・・・何が世界の平和のためだ・・・。
自分達の都合で人の人生を弄びやがって・・・人を何だと思っているんだ・・・」
「アキト(くん/さん)・・・」
ギュッと拳を握り、静かな怒りを滲ませたアキトの呟きを心配そうに見ているしか出来ない北斗達。
ここにいる全員が、自分の持つ異能力のせいで、自分の大切なものを失っているのだ。
「あー、やめやめ、こんな辛気臭い話は。
彼女のことは、彼女が疲労から回復して目を覚ました時まで保留にしておこう」
パンパン、と手を叩いて場の雰囲気を変えようとするアカツキ。
彼だって、辛い事を乗り越えてきて、今ここに立っているのだ。
「・・・そうだな。 済まない、アカツキ」
「いやだなぁ、僕に謝るようなことじゃないよ。
・・・そうそう、さっきウリバタケくんら開発部から連絡があってね。
二人に頼まれていた物が完成したそうだ。 この後で行ってみたらどうだい?」
「ああ、そうする」
クルリと踵を返し、部屋を出て行くアキト。 北斗もそれに習って部屋を出て行く。
その後ろを、北斗の幼馴染である紫苑零夜が慌ててついていく。
「・・・一体何を考えているんだ、木連と連合は・・・。 戦争でも始めるつもりなのか?」
アカツキの小さな呟きは、アキト達には聞こえることなく虚空に消えていった。
「おつかれさま、北ちゃん、アキトさん。 ・・・昨日の子の容態は安定してるから安心して。
もしかしたら後遺症やトラウマが残っちゃうかもしれないけど、その時は私の能力で解決するから」
「お願いするよ、零夜ちゃん。
・・・俺達が現場に到着した時は、まさに危機一髪だったからね。
彼女に何らかのトラウマが出てもおかしくはないし、女の子同士だったら話もしやすいだろう」
「・・・いや、俺はお前の笑顔を見せれば一発でトラウマなんぞ治ると思うが」
「? ・・・どういう意味だ、北斗?」
「いや、なんでもない。 ・・・ここまで鈍感だとは・・・」
北斗の呟きに不思議そうな顔で答えるアキトに、溜息をつきながら北斗。
その隣では、零夜がつまらなそうな顔で歩いている。
紫苑零夜―
北斗の幼馴染で、木連出身のA級異能力者である。
小さな頃から北斗と一緒に行動してきたため、北斗の考える事は彼女に筒抜けで、
彼女もそれを自慢に思っているふしがあった。
彼女の能力は『回復』。 対象の傷、体調などを癒すという便利な能力だ。
ただ、無機物は直せない、一定以上の深さの傷は治せない、自分の傷を治す時は効力が半減するといったデメリットもある。
そのため、彼女はネルガル内では彼女は『Priestess(女教皇)』と呼ばれている。
「・・・腹減ったな」
「我慢しろ、北斗。 後でなんか作ってやるから」
そんなことを話しているうちに、ネルガル開発室前に到着した三人。
ちなみに、アキトと北斗は会長室を出たあと軽くシャワーを浴び、こざっぱりとした服装に着替えている。
アキトは黒のT−シャツにジーパン、北斗も赤いT−シャツにキュロットスカートといった姿だ。
「ウリバタケさん、テンカワです。 頼んでたもの、取りに来ました」
『おう、待ってたぜ。 鍵は開いてるから、勝手に入ってこいや』
ガチャ、とドアノブを捻って部屋の中に入るアキト達三人。
そこは・・・まさに趣味に生きる人達の部屋だった。
右に目を向けると、等身大フィギュア(北斗、零夜、舞歌、千沙のまである)があり、
左に目を向けると、今まで開発してきた物などが乱雑に山積みされている。
・・・北斗達が自分達のフィギュアを見て殺意を覚え、アキトが彼女達から目を逸らしたのは、ほんの些細な問題である。
そう、ほんの些細な問題だ。
「おう、来たか二人共」
コキコキと首を鳴らしつつ、アキト達の前にいる男はウリバタケ・セイヤ。
ネルガルでは自分の好きな事ができるから、といった理由で入社した、ネルガルが誇る開発部長である。
ちなみにC級能力者で、物を作り出すことに関しては誰にも引けをとらない、といったものだ。
そのため、ネルガル内では彼のことを『Inventer(発明者)』と呼んでいる。
「ウリバタケさん、頼んでた物は・・・」
「安心しろ、ちゃんと完成してるぜ。
・・・しかし、苦労したんだぜ、これを完成させるのはよ。 フレームの設計を一から見直すことになったんだからな。
アキトのはこの二つの銃、『BS‐45
ブラックサレナ』と『EU‐38
ユーチャリス』だ。
二つともフル・オートマチックで、サイト、グリップなんかはお前用に調整してある。
この黒いのがブラックサレナで、装弾数は十発。
弾は俺オリジナルのを使うから、そんじょそこらのマグナムとは比較にならないほどの威力を持ってるぜ。
んで、この白いのがユーチャリスで、装弾数は十五発。
ブラックサレナとは違い、速射性と実用性を追求してある。
弾は9mmパラベラムを使用しているから、汎用性は高いぞ。
弾は下のプラクティスルームに置いてあるから、試射してきたらどうだ?」
と、机の下から二つのアルミのアタッシュケースを取り出し、アキトに詳細を説明しながら銃を手渡すウリバタケ。
アキトは、グリップを確かめたりサイトを覗き込んでいたりしたが、二つの銃を手に取ると
嬉しそうに部屋から出て行った。 たぶん、試射してくるつもりなのだろう。
「俺のはどうなっている?」
「安心しろ、できてるぞ。 北斗のは刀だったな。
銘は『四神』、この武器は特殊金属でできていて、四つの形態に切り替えられるぞ。
今の状態が『四神・白虎』、二尺八寸の日本刀の形状で、四神の基本形態でもある。
次に『四神・青龍』、エストックという突きに特化した剣の形状だ。
三つ目に『四神・玄武』、斬馬刀という、馬鹿でかくて重さで斬る剣の形状になる。
最後に『四神・朱雀』、斬るのにも突くのにも適した、バスタードソードの形状だ。
ちなみに、四神は変形に3秒かかるし、白虎→青龍→玄武→朱雀という順番でしか変形できないから気を付けてくれ」
同じく机の下から細長いアルミのアタッシュケースを取り出し、詳細を説明しながら刀を取り出すウリバタケ。
「ああ、わかった。 ・・・試し切りがしたいんだが?」
「ああ、それなら・・・」
「ウリバタケさん、でどうかな?」
「!?」
試し切りをする場所に案内しようとしたウリバタケに、零夜が爆弾発言。
よほど等身大フィギュアのことで怒っていたらしい。
「そうだな、これから連合や木連の連中を切るんだ、ちょうどいい。
・・・よろこべ、記念すべき第一号は貴様だウリバタケ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ二人とも、な、何で俺が・・・」
「・・・自分の胸に聞いてみてください」
「女子更衣室を盗撮したことか? そ、それとも、女湯に仕掛けた隠しカメラのことかッ!?」
「・・・そんなことまでやってたんですね。 ・・・北ちゃん、やっちゃって」
「わかっている」
「ひぃッ! や、やめろぉ!」
ガチャッ
「ウリバタケさん、レーザーサイトも付け加えてもらいたいんですが・・・って、これは?」
「アキト・・・一つだけ忠告しておく。 『好奇心猫をも殺す』だ。 ・・・わかったな?」
「アキトさんはそんなことしないと思いますが・・・確かに伝えましたよ?」
「あ、ああ・・・(一体何が起きたんだ?)」
試射を終えて開発室に戻ってきたアキトが見たものは、
粉々に打ち砕かれた等身大フィギュアとビデオテープ、ボロボロになったウリバタケであった。
後にアキトは、あの時の北斗と零夜ちゃんは人間ではなく夜叉を連想させた、と語ったそうだ。
そんなこんなで、ネルガルの一日は過ぎていく・・・。
To be continude...
あとがき
どうもこんにちは、Excaliberです。
Midnight Warriorrsその2、お送りいたしました。
「今回は組織や物語の背景、キャラ紹介の話か」
「新たに登場したのは極楽トンボの会長に、千沙、舞歌、零夜、ウリバタケか・・・。
謎の少女であるホシノ・ルリは、名前だけだな」
ん〜、ルリルリはこの話に登場させようとすると結構無理が出るからね。
今回はお休みしてもらったんだ。 しかし、みんなかっこいいなぁ、このSSは。
恐らく次回は、アキトと北斗(おまけでルリ)を主体にしたアクションになると思うよ。
「木連と連合、そしてウチことネルガルの戦いか・・・。 クリムゾンはどうするんだい?」
そうだねぇ、木連と裏で繋がってるとかいう設定作って登場させようか。
いくらなんでも、これだけじゃ話に面白みがなさすぎるもんな。
「どうして舞歌様や零夜の能力は明かしたのに、私と会長の能力は明かさないんです?」
それはね、二人が協力して敵を撃退する、っていうお話を考えているからさ。
そして二人にはやがて愛が芽生えて・・・っていうのは大げさだけど、そんな感じで考えてるの。
「私は結構長い科白言えたから満足してるわよ」
舞歌さんには、そのうち主役を張ってもらおうと考えてます。
何故舞歌さんは木連を捨て、ネルガルにやって来たのか、という話でね。
「私の能力はちょっと意外だったな。 Excaliberのことだから攻撃的な能力だと思ったけど」
う〜ん、零夜って本当は優しい人だと思うんだよね。 北斗のこと心配したりしててさ。
だから、回復っていう能力を付けたんだ。 まあ、そのうち釘バットかなんか出てくるかもしれないけど。
それに、零夜の能力は当初『暴走』、つまり理性のたがを外し身体能力を暴走させ、とんでもない力を得るっていう能力だったんだよね。
・・・さすがにそれは女の子っぽくない能力なんで止めたんだが、正解だったよ。
「私は!? 私の出番はどうなったんです!?」
前の後書きに書いただろう、たぶんあるって。
大丈夫、数少ないS級能力者なんだから。 次回で必ず出番があるから。
では、今回はここまで! 感想下さった方、ありがとうございました。
また、こんな能力どうだ、っていう意見やメールも待ってます。
それでは、次回までごきげんよう!!
代理人の感想
あっはっはっはっは(笑)。
取合えずウリバタケも命は助かった様で。
零夜は・・・・釘バットを振りまわすのは某氏の創作した壊れバージョンであって、
オリジナルの特性じゃありませんよ?(爆)