<幻の大地へ>









   第四話「復讐の心再び」






 「………………」


 ―――嫌な……予感がする……


 「あ、アキトさん、どうかしたのですか?」

 
  となりを見ると、ミレーユさんが怯えた表情で俺に問いかけてくる。

  少し目をちらつかせてみると、他の三人も同じように顔をしかめている。 


 「いや、ちょっと……」


  自分でも何故、ミレーユさんが怯えているのかが判っている。

  原因は俺だ。 何故か判らないが、今の俺は無性にイライラしている。

  だから、無意識に俺の殺気が外に漏れてしまっているのだろう。 


  ――――最低だな、俺って……


  「すみません、 原因は判んないですけど、 今なんか俺 気が立っているみたいです。……だから、俺にあんまり近づかない方がいいですよ」


   そういうと、ミレーユさんが少しだけ表情を曇らせる。


  「………そうですか、えっと…私達の世界に来る前に何かあったのですか?」

  「………いえ、何か……嫌な予感がするだけですから…」

  「嫌な……予感、ですか?」

  「はい」


  否、嫌な予感…というより不快感だ。 

  この不快感……俺はかつて、同じものを味わった事がある……。

  
               

                                          

  「……おいアキト、 構えてろ」

   テリーが静かに囁く。

  「私達に何のようなのかな〜?」

   バーバラが、 みんなに聞こえるよう元気そうに喋る。

  「おそらく、 私達の身包みではないのか?」

   アモスがバーバラの疑問に顔を強張らせながら答える。

 
  「アキトさん、 どうやら私達は…盗賊で出くわしてしまったようです」

                                                                         
  「………」


  判っている、 闇の中から一つの人影が視える。 

  明らかに敵意が篭っているこの視線。

  気配の種類から察するに人間のようだ。

  

   やがて、闇の中からひとりの編み笠を被った男が出て来る。

                                                          
  「そこの旅人よ、 命が惜しくば荷物を大人しくこちらに渡すのだな。 ククク…」

  
  ……声が、した。 その声を聞いただけでも吐き気がしてくる。


  ―――脳みそが、とろけそうなくらい熱い。  
  


  「ふん、 たったひとりで俺達を相手にするなんてな、 見くびられたもんだ」


   テリーが不機嫌そうな声でそう言う。
  

  「ほう、少しは名をはせた旅人なのか?」


  「私達はね〜、 魔王をもう四体も倒してるんだからね!」


  えっへん。

  と、バーバラちゃんが自慢げに、見た感じ、爬虫類を思わせるような顔をした男の質問に答える。

  

  「……なるほどな、最近、『4体の魔王が、人間、それも同一人物に殺された』

   というのを 風の噂で聞いた事がある。 それが汝等ということか」


  ニタァ、と、男の口元がいやらしく歪む。


  「そういう俺も風の噂で聞いた事があるぞ。

   何でも最近やたらと強く、凶悪なたったひとりの人間が、町や村、旅人などを襲ったりしているとな」


   テリーはそう言い終えた後、不気味に笑う。
 

  「しかも、どんな魔物を相手にしようとも、かすり傷すら負わずに倒してしまうらしい。」 

  「クックック、我も随分と有名となったものだな」

  「ふん、馬鹿みたいに笑ってられるのも―――今のうちだけだ!!」


  そう言い終えると、テリーが明らかに人間離れしたスピードで、男に接近する。


  「チェァ!」

  勢いよく剣を男に振る。

  正に無駄が一切無い美しい太刀だ。

  ―――しかし…。

  キィン!

  「弱い…」

  「なに!?」


 男は胸元から取り出した小刀でテリーの剣を余裕の表情で弾いた。

  「その程度か小僧?」

  「クォォォォオ!!」

  次の瞬間、テリーの剣の連撃が、普通の人間には目にも留まらぬ速度でで振るわれる。


          
       キィン!     キン! キン!
   キン!    キン   キン! キン!
      キン!    キン!    キン!  
    キン!   キン!    キン!


   それに対し、なんと男は、テリーの目にも留まらぬ斬撃を、余裕の表情で全て防いでいた。


  「―――飽きた…」


   ザシュ
 

   「!?――――ばか……な…」

 
  テリーの腹部には男の小刀が刺さっていた。


  「所詮、この程度か…」


  男は、失望した表情でテリーを軽々しく持ち上げ、こっちに放り投げる。

  放り投げられたテリーを俺は受け止める。


  「「「…………」」」



  みな絶句している。

  それもそうだろう。 おそらくこのテリーという男が、この四人の中で一番強いのだから。
  
  それをかすり傷すら受けずにものの数秒で倒し、さらに相手をした男は別段疲れた様子もみせていないのだ。

   
  「ミレーユさん」

  「………は、はい、なんでしょうか?」

  「あの男に、俺達だけで勝てると思いますか?」

  「―――おそらく、不可能でしょうね…」
 

   絞り出すような声で、そう答えるミレーユさん。
  

  「アキトさんの実力は未知数ですが、貴方からは私たちのように魔力が全く感じられません。 

   いかにアキトさんといえど、この人を相手にするのは流石に無理でしょう。
 
   最悪な事に、テリーも赤子のように扱われる始末……残念ながら私達に勝機はありません」



    魔力―――ねぇ?

                     ………………………………………ああ、もう駄目だ。 抑えられない。

  「ですから、今は逃げる事だけを考えた方が良さそうです。―――ッ!!?」


   瞬間、 おぞましい殺気がアキトから放たれる。
   
   その殺気を向けられている相手はもちろん―――



  「なんだ? 同胞が我にやられたのがそんなに腹が立つか小僧」

   爬虫類を思わせる、あの男だった。

  「ふふふ、別に? そんなことはどうでもいい」


   明らかに雰囲気が変わっている。 

それにいつの間にか、アキトの眼のまわりには、黒い仮面のようなもので覆われていた。


   ミレーユは思う。
   ―――アレは本当に、つい先程まで話し合ってたアキトなのだろうか? と



  「ミレーユさん、一緒に旅をする件、すまないがキャンセルさせてもらえないか?」


  「―――え?」 


  「俺が時間を稼ぐ、その間にテリーを担いでさっさと逃げろ…」

  「な!? そ、そんなこと出来ま「いいからさっさと逃げろ」……わかりました……」


  『邪魔すれば殺す』、そんなアキトさんの言葉からは、そんな意味が含まれているように感じた。

  私は、この氷のような殺気からは逆らえない。

  ならば、言う事を素直に聞いた方が身のためだ。

  もし反抗でもしたら自分は一瞬にして死ぬ、素直にそう思えたのだ。


  だから、私達はこの場を諦めた。



  「――――生きていて、下さいね……」
  

  「………………」

   アキトさんは、黙って頷いただけだった。








◆ ◆ ◆







 「……………なぜ、俺達が会話している間に仕掛けてこなかった?」

 
 「それではつまらんだろう? せっかく、我と同じ種類の人間に出会えたのだからな」


 「―――なんだ、と?」


 「汝からは我と同じ匂いがする。 ただそれだけの事よ…」

  
  またしても、『男』の口元がいやらしく歪む。

  ―――俺が、こいつと同じ? ……フン、冗談もいいところだ。


  こいつをさっさと殺そう。 こいつと同じ空間にいるだけで吐き気がしてくる。
 
   

  「そうか、ならさっさと死ね、北辰」

 
  何の感情もこもっていない声で、俺は目の前の男にそう告げた。


  瞬時、この身に昂気を纏い、爆発的な跳躍で一気に間合いを詰める。


 「――なに?」 
  

   俺が知らない筈の、奴の名を叫んだからか、

   それとも、俺が奴に接近するあまりのスピードに驚いているのか……


  奴の……北辰の醜くく歪んだ口元が崩れた。
 
  ならば――――その隙をついて、この『俺』からかつて二度、全て奪った男……北辰を、コロス…!!  



  

 







 後書き

 
  お久しぶりです_| ̄|○

  しかも、遅れたわりには文章が短い拙いの二点セット・・・・(汗) 


 そして、うさんへ。 言われてからめっちゃくちゃ遅れてどうもすみませんでした!m(_ _)m
  
  

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代理人の感想

HTMLがぐちゃぐちゃだったので、ピュアテキストで掲載させていただきました。あしからず。

それはともかく、相変わらずかなぁ。