サレナ 〜希望の花〜 第五話 Cパート

 

 

 

ビーーーーーー

 

 

開始の合図とともに一斉に飛び出すエステバリス・・・・

その中でいち早く飛び出したのはやはりブラックサレナだった。

 

「ほう・・・」

 

はえぇぇ〜〜

 

おいつかなぁぁい

 

「林と杉・・・はやしすぎ・・・・はやすぎ!!」

 

「勝手に飛び出しちゃって・・・・

まだまだねぇ」

完全に飛び出すブラックサレナをただ見るしかないリョウコ達。

このことはブラックサレナが完全に異質な機動兵器だということを示していた。

 

くそぉ〜〜

本来なら完全に飛び出してしまったエステバリスを止めるのが

サポートAIの仕事なのだろうが、今のサレナは違った・・・・

 

・・・・マスターの屈辱は私の屈辱です!!

ふふっ、ただではすまさないです!!

完全に暴走していた・・・・

 

くそくるぞ!!

 

早すぎる!!

 

『レッドショット』は確かに優れた部隊だったがさすがに無策にも

つっこんでくるエステバリスに混乱した。

このエステバリスが今主流のタイプの物であれば十分に対処できたであろう。

・・・・

だが、相手が悪すぎた。

エステバリスの常識を疑う超高速でつっこんでくるブラックサレナに対処が遅れた一体が

何の反撃をするまでもなく一撃のもとに撃ち落とされた。

 

おい!!なにやってるんだ。すぐに体勢を立て直せ。

「ガゼル、リョウお前は黒いやつの牽制だ。

シン、お前はあのキザ野郎の相手だ。

俺はあのうるさいガキの相手をする!!」

(ふふっ、思った以上にいい機体だな。)

 

 

 

「ふふっ、まずは1機撃破です!!」

いくぞぉぉ〜〜・・・・ん?」

不意打ちで一機撃破したブラックサレナだったが、完全に孤立してしまった。

後方からのアカツキ達はカリヤ大佐に阻まれる。

今頃孤立したことに気がつくアキト。

 

「く・・・・1対2は卑怯だぞ!!」

 

「バカめ・・・・

何が一人でつっこんできて『卑怯だぞ』だ。

バカの一つ覚えでつっこんでくるのは素人なんだよ!!」

敵の通信がブラックサレナに伝わる。

その態度がアキトをさらに激高させる。

 

アキトのはなったライフルは完全にはずれてしまい、

それどころか、側面からおそってきたもう一人の敵に完全に無防備になる。

甘いぞ!!

 

くそぉぉ〜〜

アキトは側面からの攻撃を回避のために後方に下がろうとする。

アキトの判断は早く、余裕を持って回避できるはずだった・・・・

 

「あ・・・ダメです!!

そっちに行ったら敵の思うつぼです。」

 

が、アキトが操作する前にブラックサレナは上昇する。

操縦していないのに勝手に動いたのは、サレナがコントロールしたためだ。

ブラックサレナは緊急時にはメインAIが機体をコントロールすることが出来る。

 

未熟なテンカワ アキトの操縦をサポートし、

操縦にミスがあったときの安全対策の機能である。

元々は『黒い王子様』が意識不明になり戦闘中にコントロールを

失うことを防ぐために作られた物なのだが・・・・

 

ブラックサレナが上昇した後、前方の敵が放った砲弾が足下をかすめた。

もしアキトの操縦通りに、後方に回避すれば間違いなく当たっていただろう。

な・・・・

アキトは突然の事態に困惑した。

 

「相手の回避パターンを自分達が有利なるよう誘導する・・・・

確かに対人戦では有効ですけど、バレバレです・・・・くすっ」

敵のコックピットのウィンドウには、冷ややかに笑うサレナが写っていた。

 

「く・・・」

サレナの言葉に返すこともできないパイロット達。

素人だと思って実行した作戦を相手は意図もたやすく破ったのだ。

さらに、たかがコンピューターに作戦を看破されたという事実が

プロの意識を大きく揺さぶった。

 

「他にどんなおもしろいことしてくれます?」

黒髪の美女は笑う。

まるで『受けない芸人』をあざけ笑うかのように・・・・

ウィンドウに写るサレナの目、その目は完全に挑発していた。

 

 

 

「くそぉ、あいつらぁ・・・・」

「相手は対人戦のプロです。

マスターは今までバッタぐらいしか相手にしてないですから、仕方ないです。」

一方、敵のウィンドウに写る顔とはまるで違うサレナ顔がアキトを励ましていた。

 

「このままじゃぁまずいぞ!!

くそっ、じゃぁどうやって・・・・」

完全に孤立して、アキト事態を打開できない。

だがサレナのほほえみは全くかげらなかった。

 

「ふふっ、大丈夫ですよ。

このブラックサレナのポテンシャルは、大抵の事では覆すことは出来ません。」

くすくすと笑うサレナだが、敵のウィンドウのように邪気がない。

まるで勝利を確信しているかのような笑顔だった。

 

「じゃぁ・・・・このまま力押し?」

はい!!思う存分暴れ回りましょう!!

思いっきり暴れられるサレナはアキト以上に気合いが入っていた。

 

 

 

 

「向こうは3対1でこっちは1対1か・・・・

はぁ・・・・

僕も評価してもらっているのかな?」

アカツキの前には一体のエステバリスが行く手を阻んでいた。

最もアカツキはブラックサレナを援護したいわけではない。

ただ間近でブラックサレナの戦闘を見たいだけだ。

 

「口だけは達者だな!!」

アカツキ機に敵のエステバリスがつっこんでいく。

 

「く・・・・格闘戦かい・・・・。

野蛮だねぇ!!」

ヒラリとかわすアカツキだったが、敵のエステバリスは通り過ぎたとたん

素早いターンでアカツキの後ろに着ける。

 

これで終わりだ!!

な・・・・

ナイフを抜いて斬りつけようとする敵エステバリス。

この距離では間違いなくはずしようもない。

だが、彼は重大な過ちを犯した。

 

まず一つはナイフを構えたと言うこと・・・・

パンチよりも間違いなく破壊力があり、敵の後方に着けている状況では

間違いなく一撃で破壊できる。

 

「まだまだ甘い!!

ナイフを構えたとたん敵パイロット「シン」は激しい衝撃を受けた。

アカツキ機が後ろ向きに体当たりをしたためだった。

ナイフを構えるという動作がアカツキに十分な余裕を与えてしまった。

 

そしてもう一つのミスがあった。

「ふふっ、僕の期待は最新型でねぇ

フレームの強度は君のより15%ほど強化されているんだよ・・・・」

アカツキ機のダメージは大したことはないが、シン機にはそれなりの衝撃があった。

数%程度だが間違いなく機能がダウンしている。

そしてもっと深刻なダメージも発生した。

 

「くそ・・・・ワイヤーフックが機能不全だと!?

そう、ナイフを構えたとたんにタックルを受けたため右腕にダメージが発生したのだ。

そしてさらに悪いことにタックルの衝撃でナイフが飛んでしまった。

 

「さてとこれではは格闘戦は難しいんじゃないかな?

ふぅー、やれやれ、僕は格闘戦は苦手なんだよ・・・・」

くそぉ・・・・

敵の悔しそうな声が聞こえたような気がして

アカツキは敵エステバリスに向かってニヤリと笑っていた。

 

 

 

 

 

「久しぶりじゃねーか 『教官』」

カリヤに牽制されて、アキトの援護に思うように進めない。

リョウコはいらだちながら、ガゼルのエステバリスに通信をした。

 

「ふん、お前らもまだ生きていたのか・・・

ふふ・・・・、お前ら3人の相手は俺がしてやる。

あの坊やのことはしばらく忘れているんだな!!」

リョウコとカリヤは互いに、にやりと笑っていた。

 

「ふふっ、特にリョウコは足が太いのよ・・・・

あしふとい・・・・しふとい・・・・しぶとい・・・・」

「わっはっはぁ、イズミったら図星だよそれじゃぁ」

「うぐぅ・・・・・」

最近2キロ太ったリョウコはそれっきり何も言えなくなった。

イズミさん・・・・戦う前からリョウコちゃん叩いてどうするの?

 

「ふん、まぁ今まで生きていたところを見ると、

軍を辞めてまんざら腕が落ちたわけじゃぁないようだな。

時期早々軍を辞めたお前らは根性なしのひ弱い女と思っていたが、

まぁあの火星から帰ってこれたんだ、少しは腕も上げたか?

 

おう、ところでイズミ・・・・さっきのはなかなかおもしろかったぞ。

特にリョウコのリアクションがな。

さすがは漫才トリオだな。」

 

 

「うぐぅぅぅぅぅ。

う・・・・うるせぇぇぇ

ただ感情のままに突進していくリョウコ機を軽くあしらうとカリヤは、

彼女たちを一時は教えていただけはあり、イズミが格闘戦に弱いことは分かっていた。

フォーメーションが崩れ一人になっているであろうイズミ機へと迫ろうとした。

 

だが・・・・・イズミ機が見あたらない。

 

 

「く・・・・後ろにいたのか??」

どうやらリョウコがあしらわれる間に後ろに回っていたようだ。

「ふふふふ・・・・思い出したぞ!

確かお前らはチームワークだけならトップだったよな・・・・」

 

リョウコ達は完全に体勢を取り戻していた。

「リョーコがあそこでつっこむのは当たり前。

私たちはサポート・サポート」

「後を付けさせてもらいます。」

 

「お前ら・・・・わざと俺につっこませたな。」

そう、イズミ達はリョーコを囮にして、アキトの援護に向かうために後ろに回ったのだ。

ただの囮では間違いなくカリヤ大佐に見破られるのは目に見えている。

だからわざとイズミをけしかけてカリヤ大佐に向かわせたのだ。

仲間をよく知るパイロット3人娘だから出来る技である。

さすがにカリヤでもそんなことまでは頭が回らない。

 

「ふふ、あなたを怒らせれば簡単につっこんでくれるから・・・・

あの本のおかげね、自由にギャグが出るわ・・・・ふふふふ」

あの本(ギャグ大辞典)のおかげで、ある程度自由にギャグが出るようになった。

今までは気ままにギャグを言っていただけに、かなりの進歩だろう。

 

「じゃぁアキトの助っ人に行って来まーす。」

カリヤの意表をつきすぐさまアキトへの助っ人に向かうヒカル。

カリヤが追いかけようにも、後の二人に阻まれてしまっている。

後ろに逃した時点で、止めることは出来ないだろう。

あのブラックサレナをのぞいてすべては同じ性能だ。

(アカツキ機は少しばかりUpしているが、戦況を覆せるほどではない。)

それこそ追いかけるのは不可能だ。

 

「・・・・ふふ、さすがに俺でも1対3では止めようがないか・・・・

なら仕方ない!! お前らの相手だけをしてやる!!

 

あのブラックサレナとか言うエステバリスを甘く見ていたか・・・・・

いきなりつっこまれて一人脱落したときすでに勝敗は決着していたのかも知れないな。

カリヤの独り言は誰の耳にも届かなかった。

 

 


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