「では、成功を祈っております・・・」

「有り難う」

転送装置のオペレーターの挨拶を聞きながら

俺とフィラはシミュレーターの中に入った。

目的はノーマルの森エリアを探索し次のエリアへの道を探すこと。

次のエリアに行ければ今日のノルマはクリアしたことになる。

「まぁこのシミュレーターは今までにラグオルに潜ったハンター達の

やったことをおさらいするみたいな物なんだけどね。」

「ん？」

装備になれるため、一つ一つ持っている武器を確かめていると、

不意にフィラが話しかけてきた。

「最初にラグオルに降りたハンターがついた場所は森エリアだったの。

でハンター達は探索して、洞窟・坑道・遺跡エリアを見つけたの。」

「なるほどな。

いわば俺達は最初にラグオルに降りたハンター達と同じという訳か・・・・」

「そうだねぇ・・・・まぁシミュレーターのモンスターは弱いから楽勝だけどね。」

「つまりゲームという訳か・・・・」

「ははっゲームかぁ、そうだねぇゲームだねぇ。」

まぁ、気楽にやれと言う言葉だろうか？

そうだな、今の俺は少しばかり力が入りすぎているようだ。

「ふむぅ・・・・お部屋には鍵を掛け無かったけど・・・・

まぁいいか。」

「部屋？

なんだ、ここに小屋でもあるのか？」

部屋という全く無関係な言葉の意味が分からず、フィラに疑問をぶつけた。

「ああ、部屋って言うのはハンター用語だよ。

森・洞窟・坑道・遺跡の４エリアをひとまとめにしたものを部屋って呼んでるの。

一つの部屋には公式のハンターズは４人までしかチームが組めないんだよね。

まぁ転送装置がなんだとか理由はあるらしいけど・・・・詳しいことは分かんない。

気にしなくてもいいと思うけどね。

あそうそう続きね。

自分たちの好きな部屋を決められるんだけど４人までだったら

他人のチームの一人として入ることが出来るんだよ。

まぁ、いつももいい人ばかり入ってくるわけじゃないから、

乱入者がイヤなら部屋に入るための暗号を用意するの。

部屋にはいるための暗号・・・それがカギっていうんだ。」

まぁ、専門用語というのはどこにでもある物だが・・・・

しかしいまいち、部屋という単語に納得できん。

「ふむ、カギは分かったが部屋はいまいちわからんな・・・

４っつのエリアをひとまとめにした物が部屋って言うんだろう？

何か言い方がおかしくないか？

『広域エリア』とか『ワールド』とか、他にも呼び方があるだろうに・・・・」

部屋とこの森とは何のつながりも無いぞ。

わざわざ、関係のない単語を使う必要はあるまい

「うーん、『探索エリア』って言う公式の言葉も有るんだけど・・・・

どうしてだろうねぇ、私が初めてラグオルに降りた時も部屋って呼ばれてたから・・・・

まぁ、『探索エリア』にカギを掛けるなんて言葉より、『部屋』にカギを掛ける

の方がしっくりくるからじゃない？？」

「そんな理由なのか（汗）」

あまりもの単純な理由に、頭が真っ白になってしまった。

・・・・安易だ、安易すぎる・・・・

「・・・・業界用語にまともな由来を期待しても・・・・ねぇ・・・・」

「・・・・・そうだな。」

確か『ボソン砲』もあいつの思いつきでつけた名前のはずだが、

いつの間にか連合の公式名になっていたからな・・・・。

名前の由来などそういう物かも知れない・・・・

不意にユリカのほほえみを思い出す。

今あいつは何をしているのだろうか・・・・

もしかして、俺は今すぐにでもあいつのそばに戻らなくてはならないのではないか？？

「ふみゃ？」

いや・・・・もう少し時間が欲しい。

あいつはちっとやそっとで死ぬような奴じゃない。

なんせ、遺跡に取り込まれてもピンピンしていたやつだからな。

「イヤなんでもない」

フィラは俺のとまどいを察したようだが、何も追求せず

「みゅぅぅ・・・・

なら行きましょうか・・・」

といって歩き出した。

「ああ・・・」

何も考えられなくなった今の俺は、こんな返事しか返せなかった。

Pipipipi・・・・

フィラの横に並んだとたん、俺の腕に着けられた端末から電子音が響いた。

だが隣のはずのフィラの端末からも電子音はきこえない。

「ん？なんだ！？・・・・

レーダーが停止している・・・・・

何があったのか！？」

フィラの端末からは何も聞こえなかったが、フィラもこの異変に気がついたようだ。

「ありゃりゃ・・・・乱入者みたい・・・・

お部屋にカギを掛けていればよかったかな？」

そういえばさっき、『カギを掛けなかったけどまあいいか』なんて言ってたな？

おいおい、俺の試験でそんなにいい加減にやられると困るんだが・・・・

「おい、試験は二人でやるんじゃないのか？」

「にゃ〜〜ちがうよぉ。

とにかくどうやってもいいから、次のエリアまで行ければいいの。

本試験は一人きりで行うから、今回は仮免取得ってところかな？」

なるほどな・・・・

特に乱入されても試験には問題がないのか。

だが、これが本番だと思っていたんだがな。

「そうか・・・・本試験があるのか・・・・」

俺は少しばかり気を落としたため暗い声だった。

「だけど武器は持参可能だし・・・・結構楽だよ」

ぽんぽんと俺の肩を叩くフィラだが横を見ると、

背が低いので背伸びをしながら肩を叩いていた。

「そうか？」

滑稽な様子を見て、少しばかり気が晴れた。

俺は本来の調子に戻っていた。

「うん、アキトは元がいいからはじめからヴァリスタもてるしね。」

「ああ、この銃は使いやすいな。」

フィラから渡された銃を２・３度ほど試射したが、反動も少なく使いやすい。

「うん、フォトンの修正もかなり大きいからこれさえ有れば大丈夫だよ。

・・・・

にゅ？

転送が終わったみたい・・・・」

『ＴＫさんとＫＡＯＲｉｎさんが転送を終了されました。』

そう端末には表示されていた。

俺がその表示を確認したとたん、ものすごい声が端末から響いた。

「フィラちゃぁぁぁぁん！！！！！」

「うわっ」

「・・・・・・・・」

「に゛ゃぁ〜〜」

一瞬、大声のために思考が混乱してしまった。

キーン

耳鳴りがする・・・・

「元気だった？

寂しくなかった？

カゼとか引かなかった？」

出会って早々まくし立てる女性らしき声。

返事をしたいが、俺は耳鳴りに悩まされ頭を抱えていた。

「！！！　かおりんだ！！」

フィラがとたんに目を輝かせた。

「・・・・・なんだ！？？？」

どうやら知り合いらしい・・・・

「ふみゅぅぅぅ、KAORinもう直ったの？？

もう、だいじょうぶなの！？

痛いところない？？」

「あうぅぅぅ、心配掛けてごめんねぇ〜〜。

もう大丈夫だからねぇ〜〜」

「・・・・まぁリハビリが必要だけど、もう心配ないそうだ・・・・・

ん？

アキト君かい？

初めまして・・・」

「ああ・・・・

名前はＴＫだったな・・・・よろしく。

（耳がまだキンキンしてるぞ・・・・）」

まだ先ほどの耳鳴りが残っていて満足な挨拶が出来ない。

「ん〜、君はハンター志望かい？」

どうやら向こうも俺の状況を察しているらしく深い追求はなかった。

あいつはあの声が平気なのか？

「ええ、他に何もすることがないんでね。」

「ふふ、ハンターズは逆に何も志望しない方がいい。

下手に英雄願望を持てば、長生きできないからな・・・・」

どうやらＴＫはかなりの戦場を生き抜いてきた男らしいな。

つまりは、何人もの仲間との別れがあったということか・・・・

「英雄か・・・・・」

英雄・人々を救い、命をなげうってまで人に尽くす人。

俺はそんなに大物じゃない。

俺は人一人すら守れなかったのに・・・・

「ん？？

まずい！！

アキト君すまんが、そっちにKAORinが行ったみたいだ！！

今すぐ止めてくれ！！」

感傷に浸っているとＴＫからせっぱ詰まった通信が届いた。

しかし、何がなんだかわからんぞ。

フィラはＫＡＯＲｉｎを知っているようだし、

特に危険な人物だと言っていない。

ＫＡＯＲｉｎはどちらかといえば友達とか知り合い

などのかなり親しい関係者に見えるが・・・

「何だ？

何か問題があるのか！？」

俺は訳も分からず聞き返した。

「理由は後だ、いぞげ！！

俺もすぐ行く。

だぁもういい、もうマグはいらないって・・・・

金もいいって、おいおいいつ俺が金を下ろすって言った？」

急いでいるらしく、ＴＫは店員ともめているようだった。

しかし、よくわからんな・・・・

ＫＡＯＲｉｎという女性がそんなにも危険な人物だとは思えないが・・・

まぁこえを聞いただけだが、ＫＡＯＲｉｎの声を聞いたフィラの反応から考えても

親しい友人としか思えない。

シュ〜〜ン

「フィラちゃぁぁぁん！！」

転送装置から女性が現れたとたん、猛スピードでフィラに抱きついた。

「かおりぃぃん、寂しかったよぉ」

フィラも女性に抱きついていた。

・・・・フィラに抱きつく女性に全く悪意が見えない。

ＴＫに止めるように言われたのだが、全く理由が分からなかった。

シューン

しばらくするとＴＫも転送装置から出てきた。

「おい！！

KAORinやめるんだ！！

お前止めなかったのか・・・・・？

ってあれだけじゃあ何がなんだかわからんか・・・・・

おいフィラ・・・・大丈夫か！？」

そこには、熱い包容を受けたフィラが女性の胸の中でぐったりとしていた。

「あぁぁ、フィラちゃん！！ごめんねぇぇ」

しかし、KAORinの声はもうフィラには届かなかった。

「きゅぅぅぅ〜〜」

「なるほど、これを止めろと言うことか・・・・」

KAORinという女性は一体どのくらいの力で抱きついたのだろうか・・・・

なおフィラが回復するまでに２０分の時間を必要とした・・・・

あの後俺達は、木陰で完全に気絶したフィラを介抱していた。

「お〜〜い」

ぱたぱたぱた・・・・

ＴＫはなぜか持っていたうちわを振りながらフィラに風を送っていた。

「うぅぅ、フィラちゃんがとっても可愛かったから・・・・」

KAORinは謝りながら、持っていたハンカチを近くの小川で濡らし、

フィラの頭の上においた。

「どうやったら、武装している人間をこんな簡単に気絶させられるんだ！？」

ぱたぱたぱた・・・・

俺はなんだかんだ言いながら、ＴＫから分けてもらったうちわを振っていた。

KAORinと呼ばれる女性のどこにそんな力があるのか・・・・謎である。

ふぅ、この冒険は出始めからトラブル続きだな。

さて・・・・これからどうなるやら、ふぅ〜。