・・・・こんにちは、ルリです

 

アキトさんが来なかったのはかなりショックです

 

絶対に来ると思っていたのに完全に予想が外れてしまいました。

 

今はアキトさん信じて戻ってくるのをここでひたすら待つしかありません。

 

そして、ナデシコこそ今の私たちの戻ってこられる場所なのだから・・・・

 

今、ナデシコは、世界の歴史を作り始めています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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誰かのいない世界で

「やはり」

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真っ暗な空間で私はアキトさんと向き合っています。

まるで、墓参りのときのように二人で話をした時のように、

しかし、二人共ナデシコAの頃の姿で・・・・

 

そして、アキトさんはどこか疲れたような、

何かを諦めたような声で私に話し始めます。

 

「ルリちゃん、俺はナデシコに、いや過去であっても皆の元に戻るつもりは無い。」

 

「どうしてですか?この時代ならまだやり直すことが出来るんですよ。」

 

「いくら過去で歴史を変えても

変わる前の未来で何千何万もの人を殺したテンカワ・アキトは存在しつづけるんだ。

戻る訳にはいかない。」

 

「それでも、それでも戻ってきてください。

そして、これからのことに目を向けてください。

その方が、死んでいった人たちの為にもアキトさんはそうすべきです。

いえ、アキトさんだからしなければならないんです。」

 

「・・・・言ったろ、『君の知っているテンカワ・アキトは死んだ』と、

もう戻る場所など俺には残っていない。」

 

「そんなこと無いです。アキトさんわかっているはずです。

ナデシコのみんななら事情を知っていても喜んでアキトさんの場所を空けてまってくれるはずです。」

 

私の説得にアキトさんは困ったような、悲しそうな顔をして

私に小さな声で

 

「もう俺の決心はついているんだ。サヨナラだ、ルリちゃん。」

 

そう言うと服装が火星の後継者事件の頃に着ていた黒装束に変わり

私に背を向け遠ざかっていきます。

私は、追いかけようと動こうしているのですが、闇に邪魔されてうまく前に進めません。

その間にもアキトさんはどんどん私から離れていきます。

 

「お願いです。アキトさん行かないでください!!」

 

アキトさんは私から離れて後少しで見えなくなってしまいます。

もう私には叫ぶことしか出来ません。

 

 

 

「行かないでください、アキトさん!!!」

 

 

 

 

 

・・・・・そんな自分の叫び声に、今朝私は目を覚ましました。

最悪の目覚め方です。

多分、昨夜までテンカワ・アキトの立場をゴートさんも加えてプロスさんと

三人で検討していたからアキトさんが夢の中に出てきたんでしょうが、

せめてもうちょっといい夢を見たかったです。

でも、どうしてアキトさん来なかったのでしょうか。

 

「どうして・・・・・」

 

いけません。

 

・・・つい泣き言を口に出してしまうところでした。

 

こういう時は何もしないより動いた方良かったんですよね。

確か、今日はナデシコの行き先と目的をプロスさん達が発表する日ですね。

急いでブリッジ行かなくてはいけません。

 

 

 

 

身支度を整えブリッジに行くとプロスさんがブリッジクルーの人数を確認していました。

 

「おや、ルリさんもいらっしゃいましたね。

これで後は艦長だけですか」

 

「艦長ならさっき通信でお呼びした時は食堂にいたので、

もうすぐいらっしゃると思いますが。」

 

メグミさんがそう報告をすると、

 

「そうですか、ではちょっと艦長が来る前に前回の戦闘でエステバリスに乗った

テンカワ・アキト君の処遇についてちょっとお話させていただきます。」

 

プロスさんは、そう言って先日私と決めた事を話し始めました。

 

「えー、ネルガルとしては、

彼をエステバリスのパイロットとして雇う事にしました。」

 

「ちょっと待て、あんな怪しいヤツをパイロットなんかにしていいのかよ!!」

 

すぐにプロスさんが言った事にヤマダさんが反発します。

 

「いえいえ怪しくなんかありませんよ。彼の身元もしっかりしていますし、

出身は火星で今回の目的にはちょうど合っていますから。」

 

「合っている?」

 

ミナトさんが不思議そうな顔をしてます。

 

「ナデシコの目的については後でお話するので・・・

それではテンカワ君に自己紹介してもらいます。」

 

ピッ

 

プロスさんがそう言い終ると、ブリッジ正面の大きなウィンドウに

テンカワ・アキトが映し出されました。

服装はあのマントをまとっていた黒装束ではなくナデシコの制服を着ています。

制服の上着も第一ボタンをはずした明人さん特有の着こなし方です。

ただし、所属を見分けるための上着の色は黒ですが。

それとあの大きいバイザーはつけたままです。

 

そして、画面に映し出されしばらくたってから

重々しく口を動かししゃべりはじめました。

 

「・・・テンカワ・アキト、24歳。

今までは、そこにいるホシノ・ルリのボディガードをしていた。

よろしく頼む。」

 

「フーン、ルリルリのボディガードをしてたんだ。

で、何で自己紹介なのにブリッジに来ないの?」

 

「彼は、エステバリスを無断で使ったからな。その件で謹慎中だ。」

 

ゴートさんがすかさず答えます。

さすがにブリッジでまじかでホログラムを見られたらばれてしまいます。

ゴートさん、ナイスフォローです。

 

「このナデシコは民間の船ではないのかね?

それにもう彼は、正式に採用したんだ。そんな罰を与えなくてもいいだろう。」

 

フクベ提督、あまり余計なことを言わないでください。

プロスさんとゴートさんが冷や汗をかいているじゃないですか

 

「テンカワさん、無理してナデシコまで付き合ってもらって本当にありがとうございました。」

 

「・・いや、クライアントを最後まで守るのが、

ボディガードとしての義務だからな。それに、この後の依頼もなかったからな・・・。」

 

「へえ、それでホシノさんをどのくらいの間守っていたんですか」

 

メグミさんが私に続いて話し掛けます。

 

「・・・大体一年ぐらいだが。」

 

この後テンカワ・アキトは色々な質問をされました。

ブリッジクルー以外からも質問が来てしまい、

受け答えをしているオモイカネが私に助けを求めてきたぐらいです。

 

・・・・・皆さん仕事してください。

 

 

オモイカネ頑張ってください。

何事も経験です。ここは一人で質問をさばいてください。

 

ピピッ、

 

「それはあんまりです」「代わってください」「あなたには義務がある」

 

こんな感じの小さなウィンドウがいくつも出ましたが、

取りあえず話の方向を変え、(オモイカネの悲鳴は無視)

これで何とかテンカワ・アキトをブリッジに来させることを回避しました。

ユリカさんがいない時に自己紹介をやったのも回避成功の原因でしょう。

 

けれど、メグミさん

 

質問のドサクサにまぎれてモーションをかけるのはやめてください(怒)

頼られるのに弱かったんじゃないんですか?

それに、前回よりもかけるのが早いです。

 

これでユリカさんと一緒にアキトさんを探されたら厄介です。

思ったより侮れません。メグミさん、要注意です。

 

 

 

「遅くなりました〜。でも、アキトったら私に会いにきてくれないし、どこにもいないんだもん。

だから遅れたのは仕方ないよね、ねっ」

 

大体ひと通りありきたりな質問し終わったところでユリカさんがブリッジに入ってきました。

これで、質問タイムは終わりです。・・・・オモイカネご苦労様。

 

「ハァ、それでは艦長もいらっしゃったことだし、

それではこのナデシコの目的を発表させていただきます。」

 

プロスさんはため息をつきながら真剣な顔に切り替え話し始めます。

 

「今までこのナデシコの目的を発表するのを避けてきたのは妨害者の妨げを防ぐためでした。

以後我々は、スキャパレリ計画の一端を担い軍とは別行動をとります。」

 

「我々の目標は火星だ!!」

 

フクベ提督がキッパリと行き先を断言します。

 

「では、今地球が抱えている侵略は見過ごすというのですか?」

 

やっぱり今回も、ジュンさん納得がいかないようです。

 

「連合軍は、木星蜥蜴の来襲以来、地球にのみ防衛線を引きました。

では、残された火星の人たちやその資源はどうなったのでしょうか?

答えはわかりませんが行ってみる価値は・・・・・」

 

ピッ!

 

     『無いわね』 

 

プロスさんが、「ある」を言うよりも速く

キノコが小さなウィンドウを開いて言ってきました。

 

・・・・来ましたねキノコ

 

 

ドカドカドカドカ

 

銃を持った兵士六人を引き連れて

キノコが悠然と入ってきました。

 

「血迷ったか!!ムネタケ!!」

 

「提督、この艦は頂くわ」

 

「解ったぞ!!お前達、木星蜥蜴のスパイだな!!」

 

ヤマダさん以外に絶対に事を思いつかない事を言ってます。

 

「勘違いしないで。・・・ほら、来たわよ」

 

キノコがそう言うと連合軍の戦艦・トビウメが海から浮上し、

ブリッジの大きなウィンドウに強制通信でミスマル・コウイチロウ提督が映し出され

なにやら息をためているのが解ります。

 

・・・・・危険ですね。オモイカネ、音声のボリューム最小に

 

 

 

「ユーリークァーーー!!」

 

キィィィーーーン

       イィィーーーン

            イィィーーーン

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・最小にしてもこれですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で、

結局、私たちクルーはシステムダウンしたナデシコの食堂に閉じ込められてしまい。

トビウメでナデシコの作動キーを持った艦長とジュンさんとプロスさんは交渉中。

 

こうなるのを避けようと思えば避けられたんですが、

アキトさんがいないとクルーに危害が加わる確率が高くて出来ませんでした。

しかし、クルーが閉じ込められた状態。

・・・つまり、連合軍の兵士とナデシコのクルーとが隔離された状態なら

私だけで取り返すことが可能です。

それに、さすがにまたヤマダさんにゲキガンガーを見せられるのは

イヤなので

のんびりなんてしていられません。

 

私は携帯用の端末で

オモイカネにアクセスします。

「オモイカネ打ち合わせ通りにお願い。」

 

 

 

 

 

「ふぁ〜〜、これで俺達は見張りだけだな」

 

「ああ、しかしこれで休暇も取れてあの提督の顔がしばらく見なくて済むな。」

 

「全くだ」

 

食堂前、二人の見張りの銃を持った兵士が話をしていると

遠くも廊下でナデシコのクルーの制服を着た人が通り

それを見た兵士が慌てて通信で他の兵士に連絡を取ります。

 

「おい、こちら食堂前、巡回班、

ナデシコのクルーが近くの通路を移動するのを発見した。

速くそいつ身柄を拘束してくれ!!」

 

『こちら巡回班、了解した。』

 

「やれやれ、またこの部屋の入居者が増えちまうな。」

 

そんなことを言いながらまた世間話を再開します。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・!?オイ、どうした。」

 

「いや、何か息苦しくないか」

 

「感じないけどな。お前、緊張してんのか。」

 

「そんなはず無いだろ!

・・・もうそろそろ巡回班が捕まえる頃だぜ

通信入れてみろよ。」

 

「ああ、・・・巡回班こちら食堂前、首尾はどうだ。」

 

『・・・・・・』

 

「オイ、巡回班!どうしたっ!!」

 

「よぉ!あれあれ!!・・・・」

 

そう言った兵士が指を差した数十メートル先に

ナデシコの黒い制服を着たテンカワ・アキトが立っています。

テンカワ・アキトは、兵士が自分に気付いたのを確認すると

ニヤリと口もとを歪めて笑いゆっくりと兵士から離れていきます。

 

「こ、こらっ、待てっ!!」

 

 

ハァハァハァ・・・・ハァハァ・・・・・バタバタッ

 

 

兵士達もそれを追うために走りますが

数十メートル走ったところで二人共苦しそうに倒れて失神してしまいした。

 

 

これが起きてからの数分間で

ナデシコを占領していた兵士達は原因不明の失神で全員倒れてしました。

 

 

 

 

 

・・・・成功です。

実は、私たちのいる食堂以外のナデシコ艦内の気圧を

ちょっと生命維持装置で下げたんです。

そこへテンカワ・アキトを発見、追うために全力疾走。

最後は酸欠が原因で失神、倒れるという訳です。

 

後はもうナデシコを取り返すのは簡単でした。

私はモニターで全員失神したのを確認して、

艦内の気圧を元に戻しから

ゴートさんに兵士が失神したことを話し、

それを聞いたゴートさんが先頭になって食堂を出たナデシコクルーが、

キノコを含む連合軍兵士を捕まえて、逆に一ヵ所に閉じ込めて完了です。

 

 

 

 

 

 

 

「それでは艦長を取り返してくる。」

 

テンカワ・アキトはそう言うと

空戦フレームのエステバリスでマニュアル発進を開始します。

・・・どうでも良いけどこの発進は、やっぱり格好悪いです。

 

ナデシコを取り戻した時の周囲の状況は、

もうチューリップは動き出して護衛艦クロッカスとパンジーを吸いこんでいました。

ユリカさん達もヘリコプターでトビウメを既に脱出してました。

 

「だってナデシコには、あそこには私の好きな人がいるから」

 

「なぁ〜〜〜〜!!!ユリカ〜!!」

 

・・・何か揉めてるみたいですけど

 

 

 

 

エステバリスの方はチューリップの触手を回避しつつ

それをディストーション・フィールドで破壊していきます

前回と比べてだいぶ動きが自然になってきました。

わずかな時間でしたがプログラムを改修した結果です。

 

これなら宇宙に出たときにリョーコさん達に

引けは取らないくらいに経験を積んで成長できそうですね。

 

 

 

私たちブリッジクルーはブリッジに戻って

エステバリスの戦いを観戦し始めたところでユリカさんたちも戻ってきました。

これでナデシコのシステムが再起動できます。

 

「ナデシコのシステム全て正常に回復しました」

 

「ナデシコの針路をチューリップへ!!」

 

システムの回復を確認したユリカさんが号令をかけます。

 

この後、チューリップに飲み込まれる寸前で

グラビティーブラストを発射してチューリップを破壊して

その空域から離脱してトビウメから逃げます。

取りあえず今回のゴタゴタはこれで終わりのはずです。

 

 

 

 

 

しばらく経ってトビウメが追いかけて来ないことが解ると

クルーは、今回ナデシコを取り返すのに連合軍兵士を倒して

一番活躍したテンカワ・アキトをみんなで絶賛しはじめました。

 

曰く

「さすが私の王子様」

 

あっちの世界に行ってます。

 

「フーン、ボディガードってすごいのね。」

 

本物のアキトさんはもっと凄いはずです。

 

「中途採用でしたがさすがは一流ですな。」

 

演技ご苦労様です。

 

「わたしもホシノさんみたいにボディガードされてみたい」

 

それはしません。というよりも、させません。(怒)

 

 

・・・・などなど色々とみなさん褒めちぎっていましたが

内心みんなほっとしていたんでしょう。

テンカワ・アキトがどこにいるのか、なんて探しませんでしたし。

 

そんなみなさんの話しを聞きながら私は今回使った

プログラムの整理をしていました。

 

 

 

 

・・・・・・アレッ?・・・・・オカシイ

 

しかし、そんな中私は一つの謎があることに気付きました。

どうやってブリッジにいるキノコを失神させたか、です。

ブリッジに一番乗りしたゴートさんに聞いても

すでに失神していたと言っていました。

 

艦の核であるブリッジは気圧の設定を変えても

その設定をはねのけ一気圧を維持する機能がついているんです。

まず、キノコが失神する可能性はありません。

明らかに矛盾しています。

一体何が起こったんでしょうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・これが度々ナデシコに起こる不思議な現象の始まりでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談

オモイカネ記録映像より

 

「・・・皆!このシチュエーションに燃えて艦を取り戻そうと思わないのか!!」

 

 

「もうとっくに取り返しちまったよ。

もう仕事の邪魔だから出てっておくれよ。」

 

 

「・・・・・えっ!」

 

 

 

 

 

オモイカネ記録映像より  

その2

 

 

ユリカ「あれっ、ジュン君は?」

 

 

「「「あ」」」×ブリッジクルー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  あとがき

どうも本当にお久しぶりです(爆)  F.Kです。

アキトがいないとこんな形でナデシコが取り返すんだろうな〜

と、思って書いてみました。

最初はガイを暴走させるつもりだったんですけどけど

それじゃ逆行者ルリが一人でナデシコにいる理由も無いのでこういう形にしました。

 

これからペースをあげていくので見守ってやってください

それでは4話「あの人は」を読んでいただけることを願って

 

 

代理人の感想

 

さすがは電子の魔女(笑)。

こんな手で来るとはね〜。

ルリちゃんも悪知恵がついたもんだねぇ(うんうん)。