「兄貴・・・そろそろ運転交代してくださいよ・・・」
「うるせえ!もうちっと寝かせろ!」
「でも・・・いいかげん飽きましたよ・・行けども行けども砂漠で・・」
「ああん?注意してみてれば何か面白い事が起こるかもしんねえぞ?」
「そうですかねえ・・・って!?」
「?どうした・・・・!なんだありゃあ!?」
「か、怪獣・・・・?」
三軍神参上!
第八話前編
暗い部屋に男が一人いた。男は軍服を着ており、恰幅もなかなかいい、しかしその表情は憔悴しきっていた。
「あなたがバール少将ですか?資料で見るより痩せられましたね?」
いきなり部屋に入ってきた中肉中背の眼鏡をかけた男がこの部屋の主、連合軍アフリカ方面軍副指令のバール少将にいきなり、皮肉交じりの挨拶をする。
「貴様は・・・何者だ!いきなり入ってきおって!近衛兵を・・・」
手元のキャッチホンで兵を呼ぼうとするが、
「おや?兵を呼ばれる?別に構いませんよ?ただ貴方とクリムゾンの関係が表にばれたらタダでさえ無い人気がもっと下がりますね。」
男の一言によりバールの手が止まる。
「貴様は・・クリムゾンの・・」
「あっ、申し遅れました。私こういうものです。」
名刺を机に置く、名刺には
『クリムゾン社特務処理班班長
ムラナカ』
とだけ書いてあった。
「あ、特務班と言っても私一人だけですんで・・あ、名前は例に漏れず偽名ですから。」
それを聞きバールの顔に困惑が見えた。
「あ、何でそんな奴が私のところに?って顔ですね。解りました、説明させていただきましょう。」
バールの意思を聞かずにムラナカは話し始めた。
「いや私の仕事は文字どおり処理を専門としていまして・・・不良債権の始末等をやらさせていただいております。」
「不良債権?・・・それがワシに何の関係が・・・」
「私の不良債権処理の対象は人間にも及びます。」
「!貴様まさか!」
バールが相手の意図に感づき檄昂するが、
「あ、ご安心ください、別に暗殺とかそういう事じゃないですから。」
殺気を当てられても、ムラナカは意にもせずに語り続けた。
「不良債権処理の基本は損害を少なくする事・・・消滅させるのは最後の手段、少しでも使える道を選ぶ物ですから。」
「要するに貴様は若造の分際でワシが役立たずだといっているのか?」
ここまで言われてバールもようやく相手の言いたい事に気付く、つまり自分はクリムゾンにとって不要な存在だといわれている事に・・・
「?あたりまえじゃないですか?ピースランドでの一件、忘れたとは言わせませんよ。」
「!?」
ピースランドと聞きバールの顔色が変わった、自分のアキレス腱となったあの事件のことを忘れられるはずが無い。
「聞きましたよ・・・あなた非常時にもかかわらず戦神に賭けを持ちかけたらしいですね?」
「いや・・・・あれは・・」
「しかも家の会長も巻き込んで、そこまでしての賭けで圧倒的な負け。時代の波は停戦に・・・なんでそんなに大負けできるんですか?」
「ぐうぅぅぅ・・・貴様・・・」
バールの顔色が怒りで変貌する。
「で、言質までとられて・・それがアフリカ方面軍中に流れて、貴方の株価は暴落・・・」
ダン!
ついに切れたのか、バールが机を思いっきり叩き、
「何様のつもりだ!たかがクリムゾンの一班長が偉そうな口叩きおって!」
感情の全てをムラナカへとぶつけた。
「・・・・・・・私は貴方を助けに来たんですけどね。」
「助けにだと?」
「貴方の株価を急上昇させるネタを持って来たんですよ。これをクリアすれば貴方は完全無欠のアフリカ方面軍トップです。」
「本当か?」
「ええ、間違いありません。邪魔者が本部に出払っている今がチャンスです、とりあえず貴方直属の部隊を・・・」
このままなら、自分は今の地位から近いうちに蹴落とされるだろう、ならば悪魔の手だろうと何だろうと乗ってやる・・・バールはムラナカの話に耳を傾け始めた。
砂漠に花束がおいてある、その前に一人の民族衣装風の衣装を着た少女がいた。少女は脇目も振らず一心に祈っている・・・
「どなたか・・死んだのですか?」
後ろから声が聞こえる。
クル・・
少女が後ろを振り向くと、ターバン風の布を巻きサングラスを掛け、顔を隠した巨人が立っていた。
「ひい・・」
少女が思わずあとづさる。
「ちょっと待て!そんなに怪しいか俺!」
怪しい巨人が自覚がない叫びをあげる。
「あ、すいません思わず・・・・」
少女も、とりあえず目の前の相手が自分に危害を加える気がないのに気付き謝罪の意を述べる。
「まあ・・慣れてるからいいが・・あんたなんでこんな所に?誰か知り合いでも・・・」
少女がつらそうな顔をする。
「すまん・・無理なら言わんでもいいや。ただこの先は危険だ、何しろ原因不明の事故が多発してるらしいからな。」
「・・・・・・知っています・・兄もこの先で・・」
「?お兄さんが?」
「ええ・・・兄は運送業をやっていたんですけど、この先の地域で・・・」
「・・・・」
スッ・・・
巨人が両手を合わせ、祈りのポーズをとる。
「・・・・・・・・祈ってくれるんですか?」
「見も知らない人間だろうと死者に祈るのは当然だろうが?」
「・・・・ありがとうございます。それでは・・仕事があるので・・」
少女が踵を返し去ろうとする。
「仕事?あんた何やってんだ?」
「あちらのピラミッドでガイドをやっております。」
少女が着ていた民族風の衣装はどうやらガイドの制服だったらしい。
「そうか、気をつけて帰りなよ。」
そう言い残し巨人は砂漠の先に消えていった。
少女がそれを見送るが、
「・・・・・・・しかしこんな所にあの方は何をしに来たのでしょうか?」
巨人の不可思議さに気付いたときには、巨人は砂塵の中に姿を消していた。
ザッ・・・・
巨人が立ち止まる、目の前には活動していないチューリップの残骸があった。それを見た巨人が通信機を懐から取り出す。
「・・・・・市川、俺だ、やはり一足遅かったみてえだ。もはや卵は孵った。ピラミッド見物に行ってる馬鹿ども引っ張ってこっちへ来てくれ。」
カチャ・・
巨人・・・富士は通信機を切りチューリップを再び見つめ始めた。
「・・・・・しかし・・もう犠牲者が出てるとはな・・・」
時はシャクヤクで舞歌から任務を聞いた時に遡る。
「新兵器の破壊?」
舞歌の口から出た言葉を富士は思わず聞き返す。
「そう・・・・制御回路が未完成の新兵器のね。」
舞歌が重い口調で繰り返す。
「制御回路が?何でそんな物をわざわざ地球に・・・」
いくら強かろうと兵器としてどれだけ使えるかはいかに命令を聞くかだ。第一制御できないのでは、むしろ強大なパワーが逆にこちらに牙をむくことも考えられる。
「・・・・・・多瑠博士から聞いたときは私も信じられなかったわよ。でも資料も一緒に送られてきたしね。」
そう言うと舞歌は机から一枚の写真を取り出した。
「・・・・・・・・・・・・?普通のジョロじゃないですか?」
写真には格納庫に鎮座する一機のジョロが写っているだけだった。
「やっぱそういうわよね、でもこれを見て同じことが言える?」
舞歌がもう一枚、机から写真を写真を取り出した。
「て・・・さっきと変わんない・・・って、あれ?」
先ほどの写真に人が入り込んだだけなのだが・・・どうみても寸尺がおかしかった。
「人が小さすぎる・・・ってことはこのジョロもしかして・・・」
「巨大・・・寸尺から考えてジンシリーズ並の大きさよ。でもこれは次元跳躍門型の運送カプセルで地球に到来、出陣前にアキト君に撃破されたらしいわ。」
「それならば問題ないんじゃないですか?メデタシメデタシで。」
ふう〜・・・
舞歌が溜息をつく。
「それがね・・・これだけじゃなかったのよ・・実はこれ系の巨大シリーズがね、地球の各地に送り込まれたらしいのよ・・」
「!?いくつも!?・・・・なんでそんな事に?」
舞歌が深い口調で言葉を続ける。
「優華部隊が使っている神皇シリーズと北斗のダリア・・・二機とも地球側の協力があってできた機体・・・」
「まあ、それぐらいは知ってます、多瑠博士が散々言ってましたから。」
「木星独自のジンシリーズに比べかなりの戦果をたたき出したんだけどね・・・それが気に食わない連中が本星の軍部にいたのよ。」
「・・・・・・・・・・・・・」
「その連中が開発部にめちゃくちゃな要求したらしくて・・『ナデシコや優華の顔色を変えられる兵器を実戦に出せ!』って。」
「何でそんな無茶を・・」
「木連軍部は上に行けば行くほど地球全否定の連中が増えるから・・・で、開発部の上層部が自分の保身のために未完成の巨大兵器を世界中に・・」
(・・・・・・未完成兵器群は次元跳躍門型の運送カプセルに乗せられ地球に送り込まれた。ボソン反応がないため、地球側も積極的に壊そうとはしなかったらしい・・・・
極秘の情報が元開発部重鎮の多瑠博士に洩れそこから舞歌様に・・多瑠博士も確かに木連至上主義的なところがあるが、未完成兵器を許せるほど正義におぼれていない。
舞歌様から託されたのはそれらの兵器の破壊。多瑠博士もそれを託したかったんだろうな・・・ほとんど暴走状態の兵器を放置しとくわけには行かないしな。)
とりあえずの考えが頭の中で纏まる。
(しかし・・もう犠牲者が出てる。あれ送り込んだ開発部の連中はあの祈ってた少女にどんな言い訳するんだろうな?)
ふと少女の祈る姿を思い出したとき通信機が鳴った。
『富士!もしもし!』
通信機から大島の声が聞こえる。
「何用だ?それより今お前等何処だ?観光やめて早くこっち来いや。」
『いや〜それがまだピラミッドのふもとなんだよ。』
「なにぃ?人が働いてんのにまだお前等観光気分か?」
富士の声が険悪になる。
『いや行きたいのは山々なんだけど・・・』
ドゴーン!!
爆音が通信機の向こうで響いた。
『例の奴・・・こっちで暴れてんだよね。』
「は!?」
『だから陰月はそっちに向わせたから、お前がバクジンでこっちに来てくれ!早く来ないと観光客がヤベえ!』
「!わかった・・俺が行くまで生き延びろよ。」
「へっ!俺は死なない、絶対にな!」
プツン・・・
大島がそう言い残し通信が切れた。
「観光客か・・・・ちっ!これ以上戦えない連中殺らせるかよ!」
そう言い残し富士はその場から駆け出した。
プツン・・・
大島が通信機を切り懐にしまう。
「・・・・富士は・・・・来るのか・・・・・?」
脇に立つ諏訪が聞いてくる、二人は逃げ惑う観光客の群衆の中にいた。
「ああ、すぐ来るってよ。しかし・・・あの機体にこの場所・・・最悪の取り合わせだな。」
大島の目の先には、かつて火星で水中からリョーコに襲い掛かった『オケラ』がいる、それの巨大版が観光客のバスを踏み潰していた。
「でかいなぁ」
「元々・・・大きい兵器・・・だからな・・」
「しかも暴走してるっぽいなぁ?」
ゴゴゴゴゴ・・・・・
もはや怪獣と呼んでも差し支えないほどの巨大オケラが体をうねらせながら砂に潜っていく。
「あいつが氷の中で動けんのは知ってたけどな。砂の中でもいけるとはねえ?」
「・・・・・・やってみなければ・・・わからないものだ・・・・・」
ドバァァァァァァァァァ!!
二人の目の前に砂を撒き散らし巨大オケラが現れる。
「うわぁぁぁぁぁ!!助けてくれ!!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
その姿を見て砂まみれになった周りの観光客が逃げ惑う。
「ゴホッ!ゴホッ!・・なんでわざわざこっちに来るんだろうね?」
咳き込みながら大島が回れ右をする。
パタパタパタ・・・
「・・・・もしかして・・・・・人を襲う・・・プログラムに・・・?」
服に付いた砂を掃いながら諏訪も回れ右する。
「んなことありえるのか!」
ダダダダダダダダダダ・・・・
「・・わからんぞ・・・・・!」
ダダダダダダダ・・・・・・・・
二人はそう言い残し逃げ出した。
グオオオオオオオオオ・・
怪獣の嘶きのような声をだし巨大オケラが追ってきた。
「ちくしょー!なんでジャンケン勝っちまったんだ!」
「・・・・まさに・・・人間万事塞翁が馬・・・・」
二人は、先ほどジャンケンで負けた富士に調査を押し付けピラミッド観光に来たことを後悔し始めた。
グオオオオオオオ・・
しかし巨大オケラは二人を追いかけるのを止め、別方向に向って行った。
「はぁ・・・助かったぁ・・」
大島が安堵するが、
「・・・・・待て!・・・あちらを見ろ!」
諏訪が巨大オケラの進行方向にいる何かに気付く、視線の先には・・・腰が砕けたガイドの少女がいた。
「あ・・・ああ・・・」
少女は恐怖で動けないようだ、巨大オケラが少女に迫る。
「・・・・大島!」
「おうよ!」
大島が少女に向かい鎖を投げる。
少女に巨大オケラが迫り、
ズガァァァァァァァ!!
凄まじい噴煙が少女を襲ったが、
ブン・・・・・
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
間一髪、大島の鎖が少女を空中に釣り出した。
「・・・・・・・」
ガシ!
諏訪が無言で引き寄せられた少女をキャッチする。
「大丈夫か!って返事がない!?」
「・・・・落ち着け・・・気絶してるだけだ・・・」
諏訪が、お姫様ダッコで少女を抱えて脈を採り告げる。
ゴゴゴゴゴ・・・・
巨大オケラが起き上がり、こちらを向いた。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
二人が巨大オケラと眼を合わせる。
グオオオオオオオオオオ!
「ちくしょー!見捨てて逃げりゃ良かった!」
「・・・・・・正直だな・・・・」
大島と少女を抱えた諏訪、巨大オケラの鬼ごっこが始まった。
「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」
「誰のまねだ?・・・・・・お前・・・・結構・・・余裕あるな・・・」
〜続く〜
後書き
やっと物語が時の流れ準拠に突入しました。一応、もうこの頃にはナデシコやシャクヤクは宇宙へ行っています。って言うかほとんどオリキャラだけですね・・・
あ、バールは違うか。でもこいつムネタケ以上に人気ないし・・・・ってことはどんな目にあわせても文句来ないな(笑)。後書き?は後編で・・・それではまた。
代理人の感想
ん〜〜?
巨大オケラとバールの一件は連動してるのかな?
してるとしたら一体・・・・う〜む。
考えてもわからないので後編に続く(をい)。