シャワールームのドアを開け部屋に戻る

自分の部屋・・・明らかに女の部屋らしくない部屋・・

壁には銃が立てかけられ、ぬいぐるみなど一つも無い

そんな部屋の中で唯一と言ってもいい女らしい物

疲れを癒すためベットに横になる

枕もとの写真立て・・・屈託の無い笑顔を浮かべた集合写真・・・

なぜだろう?

その写真を見たとき

心が少し・・・・・・・痛かった


三軍神参上!


第十話前編


私がまだ木星に居た頃、まだ地球との戦争は始まっていなかった。

いや・・・空気は戦争に向かっていた、厳しくなった食料統制、戦気高揚番組の増加、平和主義議員の更迭・・

少しでも考える頭があるなら、戦争が間近な事は予想がつくだろう。

人々は言いようの無い不安に支配されていた・・・

そんな中、私は我関せずの姿勢で日々の精進に励んでいた。



当時の私はそこそこの中流の女学校に通い、木連式射撃術と言う技を学んでいた。

射撃術・・銃を使った武術・・とは言っても部活レベルのものだし、点数制等の競技色が強い武術だった。

決して西部劇の撃ちあいのような派手なものではなかった。正直、当時は撃ちあいもちょっとやってみたかったが。

自慢じゃないがこの射撃術で私は学生トップだった。まあ・・・もともと木連式柔なんかに比べればマイナーで競技人口が少なかったせいもある。

それでもトップと言う事実は嬉しいし、それにつられて部活の入部者も増えた。

私はそれなりに学校生活を楽しんでいたのだが・・ひとつの事件が私の運命を変えた。


あれは大会直前の出来事、練習に余念がなかったときの悲劇・・・

大会直前、私は日々遅くまで、時には深夜と呼ばれるひと気がなくなる時間帯になるまで練習していた・・

後輩達も何人かは私の練習に付き合ってくれた、深夜まで・・・・

あの時一人一人家まで途中までではなく玄関までちゃんと送っていれば・・いや、練習に付き会わなくていいとはっきり言っていればよかったのだ。

部活の後輩の女性の一人に不幸が襲い掛かった。

婦女暴行・・あまりにも下種な犯罪。

木星にももちろん馬鹿な連中はいる、所詮は人間、星が違うからと言って本質が変わる訳じゃあないと言う実例だ。

木星の女性は得てして貞操観念が強い、女性はその後・・・自殺した。

部活代表で葬儀に出た私は女性の父親に殴られた。周りの人が止めてくれたが父親の興奮は収まらず、

「あんたが・・あんたのせいで・・」

言葉にならない嗚咽を続けていた、その拳は無性に痛かった・・

『父親の責任転嫁だ、お前は気にするな』顧問はそういって引きとめようとしたが、私の決意は変わらなかった。

退部届けはその日の内に出した。

次の日から、日々の日課が練習ではなく・・・・狩りへと変わっていった。


あの日のことは忘れられない・・



狩りを始めて十日後だった。

ついに・・・獲物がかかった。

下卑た顔をした男二人。

「ねえ、今さ君暇?」

よく考えてみれば十日の内に五・六組はこの手の連中がいたのだが、こいつらが犯人だと私は直感的に感じた。

まあ・・・ナイフ手に持ちながら寝ぼけたセリフはいてる時点で、どんなアホでもこいつ等が犯人だと気付くが。

「ええ・・暇ですけど・・・」

精一杯怯えた振りをしながら付き合う意思があることを伝えると、男達の顔はいっそう下卑たものになった。

「へへへ・・・じゃあこっち来いや・・」

男達が私の前後に立つようにして、人が居ない廃棄ブロックの方へと誘導していく・・

罠を仕掛ける猟師の快感が少し分かった。



廃棄ブロックのひと気が無い区間、行って見ると幾人かの男達がいた。

お猿の大将・・じゃあなかった、その中でもリーダーらしい男が私のほうへ近寄ってくる。

「へえ・・・このあいだの奴に比べてなかなか・・・」

どうやら人の値踏みをしているらしい、人の値踏みをする前に自分の価値を理解した方がいいと思うけど。

「それじゃあ早速俺が初物を・・・」

そう言いながら男が私のスカートに手をかける。

ま、ここまでね。

キン!

「!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・」

股間を蹴り上げられ男が悶絶する、よく女には分からない痛みだっていうけど・・・いや〜良かったわ、女で。

「てめえ!何を・・・」

子分その一が何かを言う前に、傘に見せかけたライフルを抜き放ち足を打ち抜く。

「ギャア!!」

傷口を押さえ子分その一が転がりまわる、その隙に子分その二の顎を銃身で思い切り殴り飛ばした。

「こ、こいつヤバイぜ!!銃もってやがる!」

「じょうだんじゃねえ!こんなイカれた奴相手してられるか!!」

周りに居た雑魚どもが一瞬の惨劇を見て脱兎のごとく逃げていく、不義理ここに極まれりって感じ?

まあ子分一は悶絶中、子分二は気絶・・私は股間を抑え続けるリーダーに近づき胸倉を掴みあげた。

「てめえ・・調子に乗りやがって!こんなことしてただで済むとでも思ってんのか!!」

唾を飛ばしながらがなりたてる。正直うるさいので、

「いいか、俺はこう見えても・・モガッ!!」

口に銃口を噛ませた、どうせ殺すんだったら脊髄撃とうが脳を撃とうが一緒だし。

「えっ?何?聞こえないんだけど?もう一度言ってくんない?」

リーダーはセリフも言えないでガタガタ震えている、まあ平然とされていたら物凄い怖いけど。

「何でこんなことしやがるんだ!俺達は別にこんな事される様な事してねえぞ!」

子分一が足を押さえながら絶叫する。

いや今更そんな事言われてもねぇ…ギャグ?

「安心して、弾はまだ有るから。コレが終わったら次は・・」

「!・・人を殺したらお前も死刑だぞ!」

私は子分一の目をじっと見つめる、子分一は自分の意を汲み取ってもらったのかと思ったのか薄ら笑いを浮かべる。

「悪いんだけど・・私、思ったら一生懸命でね。まあその後の事はあんた達を片付けてから考えるわ。」

「ひい!」

子分一は片足で這いながら出口へ向かっていく、早いわね…こりゃ早くこいつ片付けないと逃げられるか?

「それじゃあね、あの世で自分達が殺される理由は考えて。」

脊髄を打ち抜こうとして銃の引き金に指をかけ力を込めようとしたその時、

「待て〜い!!」

入り口に、ポーズをつけた調子のよさそうなオッサン手前の男性が出てきた。

「そこまでや!極悪非道の連続集団レイプ犯共!天が許してもこの木連警察所属の岡村様が許さへんで!」

指を突きつけポーズを決めるがそのまま固まる。

そりゃ被害者と思っていた女性が主犯格に銃を突きつけて殺そうとしてるような異常事態見れば…誰でも固まるわね。

「いや、あの〜お嬢ちゃん?いくらなんでもそれ・・過剰防衛やで?」

「出来れば邪魔しないで欲しいんですけど?」

「いや〜流石にワイも花も実もある女性が道踏み外そうとしているのを見逃すほどあまかぁないで。さ、お嬢ちゃん、その汚いのと銃を捨ててこっちにきい。」

そういって手招きをする、なかなか愛嬌がある人だが、正直今は邪魔をして欲しくない。無視して発砲しようとする。

「わ〜!だからアカンて!!浅井!何とかしてくれ!」

直後、岡村の後ろから鉄パイプが轟音を上げ飛んできた、鉄パイプは正確に私とリーダーの間の地面に突き刺ささる。

あまりの事態に私はリーダーの口から銃をはずし、一旦距離をとった。

その間に岡村の後ろから浅井と呼ばれた男が出てくる。

岡村とか言うのと同じくらいの年だが対照的に眼光は重く、何か気むずかしそうな顔をしている。ま、数年後のナイスミドルと言うやつね。

その浅井が先程より少し長めの鉄パイプを拾い上げて、片手で構えの体勢をとりコチラへ突っ込んできた。

…速い!?

どう考えても中年手前の男のスピードではない、いや陸上選手でもここまでは――

しかも何か恐ろしいもの気迫を感じる、私は牽制の意味と…恐怖の半々で浅井の足目掛け発砲した。

しかし浅井はスピードを緩めず、銃弾を読んでいたかのようにそのまま上へと跳躍した。

次の銃弾を発砲しようとしたが、着地した浅井はスピードを上げ銃を構える私に恐れなく対峙する。

私の脇を浅井がすれ違った直後、

私の持っていた銃が縦一文字に切断された。

鉄パイプで銃を切断する訳の分からないレベルの技量、銃を恐れない心、銃弾を避ける体術。

恐ろしいレベルで心技体がそろった化け物が私の目の前に居た。

勝てるわけが無い…!

その化け物が振り返り、私は思わず後ずさったが…

何故か男の顔は先程の仏頂面とは違い、

気持ち悪いほどの、喜色満面の笑みを浮かべていた。

「思いついた!思いついたぁ!」

心底嬉しそうに笑顔で叫び私の方へ近づいてくる…正直逃げたい。

「いや〜ありがとう、サンクス、メルシー。お前のおかげでいい事思いついたわ。悩みも解決!いやマジで有難う!」

何がありがとうだか分からないが、肩を思いっきり叩かないで欲しい、正直痛いし。

「やる事が決まったら後は準備だ!じゃあな!って…え〜と名前は。」

「え、…黒木、黒木冴です。」

別にこんな変人に名前を教える義理は無いけど、機嫌を損ねて暴れられても困るので、ここは正直に答える。

「黒木ね。よし!覚えた!黒木、また会おう!いや〜これから忙しくなるなぁ♪」

浅井はそう言い残し、逃げ出そうとしていた子分Aをふんじばる岡村の脇を通ってスキップで外へと出て行く。

後には負け犬三人と岡村、そして私が微妙な空気と共に残されてしまった。

「とりあえず…警察行こか?」

岡村が空気を破るかのように口を開く。

「そーですね…」

気の抜けた返事で答える、正直もう抵抗する気力は私には無かった。



その後私は警察へ直行、法の裁きを待つ身となった。

しかし一週間後、私は再び彼と会うことになる。



「黒木、面会者だ。」

看守が私への用件を伝え牢の扉を開ける。

面会者?家族には一回目の面会の時、これ以上迷惑はかけられないと言って断っている、友人も同様だ。

正直心当たりが無い…

「あの、なんという方が面会に?」

看守に尋ねると思いがけない答えが返ってきた。

「木星軍実験部隊特佐の浅井嘉弘だ。」

「お断りします。」

間髪入れず返事を返し、牢屋の奥へ戻る。

出来ればあんな人外魔境とはこれ以上付き合いたくない、何の用があるのかに興味はあったがそれ以上に警戒心が…

「そう言う訳にもいかなくてな、何しろ…」

看守が納得いかない顔で呟く、

「お前の仮釈放書を持ってきてる。」

「はい!?」



「あの…ここは?」

「?俺の家だが?」

留置所から訳の分からないまま連れて来られた場所は、そこそこ大きな邸宅の前だった。

「いや、今までどうせ一人だから寮暮らしだったんだが…これを期に退職金と今までの貯金はたいて買ったんだ。何しろお前を含め何人か住み込む事になるからな。

金は天下の周りモノ、どうせならパーっと使わなきゃな。」

?…今なんかこの人おかしい事言ってたような

「む、時間か?今日もう一人連れてこなきゃいけないんだ、悪いけど荷物積み込んで掃除しといてくれ。あ、ここ買う時に業者がなんか幽霊だか物の怪だかが出るって言ってたから気をつけてな。」

…………はっ!?

私が事実関係を整理している間に、浅井の姿は通りに消えていた。



30分後…

とりあえず私は玄関前を箒で掃いていた。

やる事もないし…とりあえずは指示に従おう、一応彼が立場的には私の保護監察員らしいし。

「おい。」

「?」

声をかけられ振り向くと、いかにも頭が悪そうな男達がいた。

なんかどっかで見たことがあるような…

「へっ、姿を見た時はまさかと思ったが…まさかこんなに早く釈放されてるとはな、おかげで病院から警察への直行コースとなった三人の敵が討てるぜ。」

あ、あの時のザコ共。いきなり銃を見て仲間を見捨てて脱兎のごとく逃げ出した連中に仲間云々言われてもね…

「けっ、今頃そんな怯えた面しても遅いんだよ!」

いや、呆れてるだけなんですが…

「みんな!やっちまえ!」

ザコの一人の号令と共に十人近い雑魚が一斉に襲ってくる。

銃は無い、これはヤバイかも…

とりあえず突っ込んできた一人を箒で殴り倒すが、後から追って来た二人に体を押さえつけられ、地面へと押し倒される。

「くっ…」

「所詮武器が無きゃただの女だ!覚悟しな…たっぷりイイモノを教えてやるぜ!」

男が馬乗りになり下種な顔を近づけてくるが、

「ありゃっ?」

男の動きが急に止まった。

男の後ろを見ると、大きな腕が男の首根っこを掴んでいる。

その後ろには―――巨人がいた。

そのまま巨人は男を持ち上げ高く差し上げる。

「おわ!!!な、なん何だてめえは!」

男が足をじたばたさせ抵抗しているが、巨人の手は微動だにしていない、力有り過ぎ…

「ば、化けもんだ!!」

「まさか…ここの幽霊屋敷の妖怪ってコイツか!?」

逃げ腰になった雑魚共、その二人が逃げ腰で呟く。

「誰が化けもんだ!!」

巨人が雑魚二人に向け手に抱えてた男を投げつける。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「こっちくんな!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

雑魚三人が縺れ合って壁へと叩きつけられた。5メートルは投げたわね…あなたほんとに人間?

「勝てるわけがねえ!みんなここは逃げ…」

「られないんだな、これが。」

「へっ?」

直後、逃げようとした雑魚の一人が音も無く崩れ落ちる。

後ろにはキ○ガイに刃物を具現化した男、浅井がいた。

右手には長い槍を持っている。

どうやらこれがこの人、本来の武器らしい。って事は今は本気?

「どうだ富士?俺が言ったとおり牢屋より退屈しそうに無いだろ?」

浅井が富士に喋り掛ける。

「まあ確かに、いろんな意味で退屈しそうになさそうなとこですね…」

バキバキ

凄まじい音で富士と呼ばれた大男が指を鳴らす。

前門のバケモノ、後門のキチ○イ…男達の運命は決まった。

それに、私もこのまま黙っている気は毛頭無いしね。

とりあえず地面から起き上がり、私は箒を再び両手に構えた。



「さて!色々ありましたが…ついに俺の目標を発表するときが来たな!」

浅井家の居間、畳敷きの部屋で浅井が叫ぶ、ちなみに正面には私とその隣に富士が居る。

『色々』…後一歩で留置場に今日中に帰還するところだった…まあ終わった事は置いといて。

「実は、俺は学校を作ろうと思っている!」

「「学校!?」」

私と富士の声が思わず被る。

「そう、学校。今、木星は地球との戦争準備に入っている、上がなに考えてるのか知らないが…勝てるわけ無いじゃん!

日々の生活に苦労してるほど物資不足&人員不足なのによ、多大な物資&人口を持つ地球とやるんだってさ。いくら技術面で勝っていても…それじゃあ勝てません。

俺はやっぱり木星が好きだし、やるんだったら負けて欲しくないのが人情ってもんよ。少しでも戦況を有利にするために俺が考え出した手段は何か?ハイ!富士!」

「え!?俺ですか…やっぱり供給ラインの確保や、生産技術の向上とか…」

「ま、確かに重要だ。だけど、んなこと悠長にやってたら爺になってもおわらねえ!それにキーワードとまったくかぶってねえじゃん!ハイ、0点!黒木、お前分かるか?」

何でいきなりこんなハイなクイズ番組みたいな展開に?この人の行動パターンがまったく読めない…とりあえずなんか答えとかないとやばいわよね…

「え、え〜っと…人材の育成ですか?」

学校とかぶるキーワードって言ったらこれぐらいしかないし…

「グッッッッド!!そう、量で勝てないなら質で勝つ!それしか手はない!で、本題に入ると、いまのありふれた学校のエリート達じゃねえ…

この間、機動兵器の講習で某士官学校に行ったんだが…ダメだ!あれじゃ!きれいで馬鹿真面目すぎる!確かに一人ぐらいならいいかも知れんが…

皆がみんな生真面目じゃ面白くもなんともねえ!で、あれだ、俺がこの木星の教育界を革命しようと思いたったわけだ。どうせ実験部隊クビになって暇だったし、やるなら0から学校を作ろうかと。」

いや作ろうかと言われましても…所々話がぶっ飛んでるし。

「あの…それと俺等が何の関係が?」

富士、よく言ったわ。それは確かに当然の疑問よ。

「ん、ナイスな質問だ富士。いや確かに俺は生身でも強いし、機動戦でも木星屈指の腕を持っているが…いかんせん実績がない。学校作ろうと思っても出資者がな…」

って言うか自分で強いだとか腕がいいとか真顔で言う奴に出資する奴なんて多分いないと…まあ、確かに実際強いけど。

「慣れないあいさつ回りのつらい日々…だが!なんとそんな中、軍のお偉いさんの一人が出資してくれることになった!しかし条件付でな、半年中に何人か実際育ててみろと。成果の提示を条件に

してきやがった。そいつは確か木星でも屈指の戦略眼の持ち主、生半可な奴じゃ合格サインがもらえない…半年じゃ、ある程度のポテンシャルを持ってる奴じゃないと時間が足りない。

再び路頭に迷う俺…だが!岡村に暇つぶしについていった時!こいつを見つけた!!」

ビシッ!!

とでも効果音がつきそうな勢いで浅井が私を指差す。って私!?

「銃付きとはいえ男三人を叩きのめす腕、一人で敵陣に乗り込む度胸、そして何より美人だ!こいつレベルの奴なら半年で何とか…そう思ったとき、俺の頭に豆電球が光った!

木星はそれなりに広い、もしかしたらこいつみたいな社会の鼻つまみ者だが優秀な奴が居るかもしれない!こいつらを育てれば何とかなる!」

持ち上げられて落とされた…誰が社会の鼻つまみ者!?っていうか何で会って合計2時間ぐらいの人間にそこまで言われなきゃいけないの!?

「と思いついた俺は再び例の軍のお偉いさんのところへ、んで100%の成功を条件にお前らの釈放を頼んだわけだ。いやいくら情状酌量の余地があったとはいえ、まさか一週間で許可を出すとは。

さすが四天王じゃなくて…四人衆…あれ?なんだっけかな…まあいい、それの一人だ。」

?つまりこの隣の富士とか言う大男も何かやらかしたって事?思わず相手を見ると――向こうもこっちを見ていた。

なんか急に親近感が湧いてきたような…妙に黒い親近感のような気もするけど。

「と言うわけだから。お前らに俺の人生の今後がかかってるから、ヨロシクな。ま、とりあえず今日は遅いからもう寝ろ、部屋は好きなとこ泊まっていいから。」

そういうと浅井は席を立ち部屋を出ようとする。

確かに色々あって疲れたから、私も今日はもう寝たい…

「ちょっと待て!何か忘れてないか!」

富士が浅井を呼び止める。

何か?え〜と…

あ、あの人私たちの最終的な意志の確認してないじゃん!

って言うかそんな重要な事を私も忘れていた。

…染まってきたの?私も?

「あ、そうだそうだ…忘れてたな。はい、これ。」

浅井が戻ってきて懐から二つの箱を取り出す。

「これは俺からの入学祝だ。んじゃお休み♪」

『♪』は止めて…いい年こいた男が使う記号じゃないから…

ハッ!?

またくだらない事を気にしている間にすでにいない!またしても…実は計算なの?

「っておい!ちょっとまてや!」

隣にいた富士も脳がバーストしたのか私と同じように動きが止まっていたらしい。

「行っちまいやがった!一応意思の確認ぐらいして欲しかったんだが…」

「一応?ってことはあなたはここにいる意思があるって事?」

「まあな、暗い牢屋にいるよりはまだしもここの方がいい。と、言うか…今のここの司法は厳罰主義だからな、普通に考えたら俺のやらかした事は終身刑になりかねん。」

「終身刑って…何やったの?」

「ちょっといざこざがあってな…五、六人病院のベットに放り込んじまったんだよ。一人はどうも再起不能らしいしな。」

この体で暴れて5,6人はある意味奇跡のような気もするけど。

「私もそんなもん。三人だから人数的には貴方より少ないけど…武器使ってるから私のほうが殺意ありってことでヤバイかも。」

「お前がか?んなかわいい顔して…」

可愛い顔って言われたのは嬉しいけど…

「別に顔は関係ないでしょ?ね、私たちもう引けないんじゃない?」

「ああ、実は俺等は奴に救い出されたのかもしれんな。ま、牢屋にいるより退屈しなさそうだ。しばらくアレに付き合ってやるか。」

「ちょっと性格的に問題は有りそうだけど、そんなに悪い人間にも見えないしね。ま、私もしばらく付き合うわ。」

「ま、ヨロシクな!」

そういって富士が右手を差し出す、やっぱりデカイ手だ。

「こちらこそ。」

私もその手を握り返した。その後、富士が思い出したかのように呟く、

「そういえば。さっきの箱、あれ何入ってるんだ?」

そう言えば入学祝と言われたあの箱の中身を確認していない。

「ちょっと空けて見るか…これは?パワーリスト?って!めちゃくちゃ重いぞこれ!まさかこれつけて生活しろって言うのか!」

そのガタイで重いバンドって?人間用?

「お前もちょっと空けてみろや。多分びっくりするようなモンが入ってるぞ。」

ちょっと不安になってきた。恐れていてもしょうがないので、とりあえず箱を開けてみる。

ってこれは…?

「なんだこれ?銃か?」

「リボルバーよ。昔地球で使われてたって言うけど…よくこんなもん手に入れたわね。」

箱の中には黒光りする、大振りの銃が入っていた。造りから見て、なかなかいい品のようだ、思わず顔に笑みがこぼれる。

「あ、あの〜銃をじっと見て笑みを浮かべるの止めた方がいいと思うんだが。」

「!あ、あー…ごめんごめん!」

確かに人に見せるもんじゃないわね…部屋でゆっくり見よ♪

「じゃあ、私は寝るから。また明日ね。」

箱を大事に抱え、席を立とうとすると、箱から何かがこぼれ落ちた。座っていた富士が拾い上げる。

「お、なんか落としたぞ。これは…」

富士が私が落としたものを広げてみせる。

なにこれ?黒い…眼帯?

「う〜む、これを付けろって事じゃないのか?おまえ、眼病でも患ってるのか?」

「いや視力2.00のいたって健康体なんだけど。」

「とりあえず付けてみろや。お前綺麗な顔立ちしてるから意外に似合うかも知れんぞ。」

そういって富士が私に眼帯を手渡す。綺麗な顔立ち=眼帯が似合うって方程式の意味がいまいち分からないけど。

とりあえず富士から手渡された眼帯を付けてみる。

…すっごく見にくい!視界が隠れてものすごい視野が狭くなってる。

?狭い視野で富士を見ると嬉しそうな顔でニヤニヤしていた。

「なにニヤニヤしてるの?」

「いや、お前にあうぜ、その眼帯。いがいにアリかも知れんなそれ。」

眼帯が似合う顔って言われても…どんな顔?それ?

「フフフ・・・」

思わず顔から笑みがこぼれていた。

「くっくっく…ははは…」

富士もそれを見て嬉しそうに笑う。

手を血に染める決断をしたあの日以来、笑ったのは久しぶりだった―――





富士と岡村教頭、そして浅井校長との出会い。

恩師二人と親友一人と出会ったときだった。

しかし出会いはいまだ終わらず…その後、『狂犬』『真性馬鹿』と呼ばれた二人と出会う事になる。

そして、ある別れも迎える―――――



〜続く〜




後書き

富士視点で書くつもりでいましたが、キャラ紹介も兼ねて、前回初登場した黒木視点で書きました。オリキャラ全開ですね(苦笑)

次回で過去話は消化する予定ですのでそれまで平にご容赦ください。


後書き?

相方が『何で主人公なのに俺の出番がないんだ〜〜〜!!』

って言って逃げ出したので設定資料だけ抜き出します


陽炎                    搭乗者   クリムゾン実験部隊隊長 黒木冴


簡単に言えば『迷彩色モノアイのブラックサレナ』。

北斗の初期搭乗機『レッドサレナ』と同時期に小型相転移炉の雛形として用意されていた。

しかしネルガルからの小型相転移炉奪取で手に入れたモノが一つしかなかったため第一搭乗者の北斗本人にあわせ格闘戦重視の『レッドサレナ』に相転移炉は搭載。

射撃戦重視の『陽炎』はお蔵入りとなる。

しかし黒木がそれを見つけ自分の機体とし、その際にセンサーの強化等をされ射撃戦専用の機体にカスタマイズされた。

右手の実弾銃、左手のビームランチャーによって中距離、遠距離では絶対な強さを誇る。

しかし、他のサレナ型にくらべ出力はかなり低く、接近戦能力もかなり低いクセの強い機体になっている。

なお、元々「〜〜サレナ」と言う名前があったらしいが黒木が自分好みの名前に変えたため、前名は不明となっている。


ではまた次回に。



 

 

代理人の感想

・・・お前のせいだったか、八雲(爆)。

 

 

まさか、巡り巡って妹がその「人材」の相手をすることになるとは彼も思わなかったろうなぁ(爆)