「…従わせたいのなら…力尽くで…来い…」

「ふっ、面白れえ。近頃そこまで気合の入ったセリフはける奴はざらに居ないからな。それでこそ俺の生徒になる価値がある!」

「…いざ…!」

「来いや!!」


三軍神参上!

第十話後編


一流と呼ばれるどこぞの道場、胴着を着た富士がこれまた胴着を着た相手と対峙している。

一閃の緊張の中、

富士の相手が懐に飛び込もうとして、足を動かす。

「うぉら!!」

だがその隙を突き、気合と共に富士が胸倉を掴み、そのまま背負い投げ風に思いっきり投げ飛ばした。

直後、勢い良く男は壁に激突した。

「ぐ…」

壁に吹き飛ばされた男は手を動かそうとするが、その手は一ミリも動いていない。

ま、無理でしょ。だって壁にひびが入ってるし、その勢いで叩きつけられればねぇ…

15人抜きと。

「おらあ!次いねえのか!?」

道場中に響き渡る声で富士が叫ぶ、しかし誰も動こうとしない。

天井に叩き付けられたり、ラリアットで一回転して吹き飛ぶ黒帯選手とかの異常な光景を見れば…挑戦者は出にくいでしょうね。

「いねえのかよ!んじゃあ出稽古は終わりだ!」

そう言うや否や上の胴着を脱ぎ捨て、上半身裸でポージングを取る。

立派な身体をさらした挑発のつもりなんだろうけど…女性の前でそのポーズはちょっと。セクハラで訴えられても文句言えないわよ?

「何だ、ホントにいねえのか?だったら帰るか…シャワー貸してもらいますよ。」

そういうと上機嫌のままシャワー場へと向かっていく。

えらいスッキリした顔してるわね。まあ、加減無しで暴れれば満足でしょ?こっちは見てるだけで、なんも出来なくてストレス溜まったけど。

さて、仕上げといきますか♪

笑顔を造り、苦虫を噛み潰したような顔をしているこの道場の主人の所へ向かう

「どうも、本日は手厚いご指導有難うございました。」

「いえいえ…こちらこそ…」

明らかに声が上擦ってるわね〜。

ふ・ふ・ふ…何しろ、ここに出稽古の許可を取りに校長が連絡付けたときに散々嫌味言われたみたいだし。

電話かける前は『富士、そんなに暴れんなよ?責任は俺のところにくるんだからな?』なんて似合わない控えめな台詞言ってたけど、

電話後は『殺せ!どんな惨劇巻き起こしてもかまわん!ケツは俺が拭いてやる!』って殺気全開の台詞に変わってたのが証拠ね。

「名前だけの学校に所属する私達みたいな未熟者が、こんな立派な道場の生徒さんとお手合わせが出来たなんて…感謝の使用もございません。

本当に有難うございました。」

『第五士官学校?ああ、名前だけの学校ですか。』

『ウチはそれなりに腕のたつ道場生しかいませんからな。果たしてそちらの生徒さんが無事でいられるか…』

『そちらの生徒さん、受身くらいは出来ますかな?いえ、ウチの道場生を殺人犯にはしたくないもので。』

とかの校長が電話で言われたらしいセリフに嫌味たっぷりののしを付け返しながら、勝ち誇った笑顔で右手を差し出す。

ピキィ!!

あ、青筋立ってる。

「いえ、こちらこそ勉強になりましたよ。」

そう言って私の右腕を握り返してきたが…

力入れすぎじゃない?女相手に力入れてどうするの?

こんな馬鹿親父と張り合ってもしょうがない、怪我をする前に自ら手を離す。

「では、失礼いたします。本日はお世話になりました。」

そう言って踵を返し出口へと向かう、後ろでは歯軋りの音が響いていた。

…あ〜快感♪…ひょっとして私Sの気があるのかもね。




「やれやれ…久しぶりに生身で暴れられると思ったのに、相手はあんな馬鹿どもとはな。」

帰り道、富士が不満たらたらの口調で愚痴をこぼす。

馬鹿ども…ま、確かに。

大体全員2メートルの大男に真正面から突っ込んで勝とうとしてたし……無理だって。

せめて虚を突くとか…思いがけない動きをするとか…校長の『馬鹿正直な奴ばっかじゃ面白くねえ!』

このセリフが実感できた事だけが収穫だったのかしら?

「いいじゃない、しばらく不眠不休で機動戦の訓練ばっかやってたんだから。気晴らしにはなったでしょ?」

校長の家に連れてこられてから二週間、伝で借りた実験場で機動戦のイロハを一から叩き込まれたんだけど…

…牢屋に残ってれば良かった。

いや、ホントに。生身でも歯が立たないけど機動戦だと余計に差が…

『何しろ時間が無いからな!実戦でビッシビッシ行くぞ!ビッシビッシ!』

まあおかげで今まで人型兵器になんか触った事の無い素人が、なんとか軍人青葉マーク並みの動きが出来るレベルにまで成長したんだけど…

先は長いわね…

第一おかしいのはこの富士よ富士!何でこいつ機動兵器操縦できるの?おかげで機動戦じゃ相手にならないし…料理も出来るし多才過ぎない?

こいつホントに捕まる前何やってたのかしら?

「う〜む,確かにそうだが…だったらもうちょっと骨がある相手をなぁセッティングしてくれればなぁ。ほれ、お前らの世代で今、うわさになってる月臣とか言ったっけ?

そいつとかさ。」

おかしいの―――じゃなかった富士がこちらを見てなんか言ってる。

はあ…

「確かに有名人よ、若き天才って。でもあんた私と年幾つ違うと思ってんの?世代が違うでしょうが!せ・だ・い・が!」

「3だっけ?これくらいたいした事は…」

とりあえず懐から愛銃のリボルバーを出し、富士のコメカミに突きつける。

いや、装弾されてるのは一応暴徒鎮圧用のゴム弾よ?…たぶん。

「チャンスは一度きりよ?」

「8だよ8!あーチクショウそうだよ!お前がキリ年の二十歳になったら28!お前が22になったら大台だよ!ちくしょー!!」

……………………なんか涙流して走って行っちゃった…痛いとこに触れたのかな?

確かにあの年で身分『学生』っていうのは…就職年齢が早い木星としては稀有な存在だし。

まあ帰ってくるでしょ。うちの家事は富士が一手に引き受けてるから、帰りが遅れて残せばきついのは自分だってわかってるだろうしね。

………いや私ができないわけじゃなくて…ただ富士は家事を心底楽しそうにやるから思わず……適材適所ということで。


「おう!お帰り!」

「…ただいま戻りました…ってそれ、どうしたんですか?」

とりあえず校長と富士、それに私が同居している家に着き、部屋に戻る途中居間を覗いたら――――

朝から行方不明になってた校長が居た。

何もいわずに出ていき、前触れ無しで帰ってくる。

まあこの人のいきなりの行動には慣れたつもりだが…

「ああ、これ?いや〜実は今日前々から目星つけてた奴スカウトに行ったんだけどさ、思いもよらぬ抵抗にあって怪我しちまったんだよ。」

珍しく怪我をしており,擦り傷に赤チンを塗っている。

私たち二人がかりでも平気でいなす校長が怪我するとは…明日は流星雨かしら?

「へえ〜すごいですね、その人。私と富士が束になっても校長に勝てないのに…」

「実力的にはお前らとそんなに変わんないんじゃないか?ただ性格が違うんだよ、性格が。」

「性格?」

「俺も近年、あそこまでの狂気を孕んだ奴を見たことが無い。なんせ戦闘中…いや説得中手足を封じたと思ったら、ためらい無くこっちの喉笛を噛み付こうとしてきやがったんだからな。

戦いを諦めない執念、戦いへの集中力…この狂気、きちんと鍛えこめば唯一無二の人材になるぜ。」

狂気か…確かにそれを持っている人間はそうそういない。大体持ってても格子付きの病院の中とか…

普通そういう危険な人間は軍人にしようとは思わない、確かに唯一無二の人材になるだろう、きちんとその狂気を押さえ込むことが出来ればだが。

「安心しろ、狂気を孕んではいるが、狂ってはいない。それは手を合わせた俺が一番良くわかるからな。まあ…どうにかして見せるさ。

教育者としての腕の見せ所だ!!」

校長はそう言うと、気合を鼓舞するためか、自身の顔を両手でパシンと叩き気合を入れた。

おお〜燃えてる…ならこの人はどうにかするだろう、有言実行、この人はそういう人だ。

そういう人でなきゃ、いろんな意味で不信感満々の私たちから尊敬を勝ち取る事は出来なかった。

それはそうと…

「で、その人結局どうなったんですか?」

「ああ、とりあえず納得してくれて、今は隣にいるぜ。」

………えっ?

そういえばいつもは開いているふすまが今日は閉まっている。

まさかこんな近くに居るとは――

「明日から毎日、顔付き合わせる事になるんだからな。挨拶しとけ。」

「はい。」

とりあえず立ち上がり、ふすまへと近寄っていく。

…………………………

「何故ふすまを開けない?」

校長が痺れを切らし口を開く。

「いや、空けた瞬間いきなり噛みつかれたらやだなーと。」

「大丈夫だ、安心しろ。俺が保障するから、な?」

まあ校長がそう言うんだったら……開けないわけには…

とりあえず懐の銃に手を伸ばし、ふすまの脇に体を移し横から覗き込む体勢にしてから、ふすまを開けようとする。

「SWATの突入やってんじゃねえんだぞ?」

校長の突っ込みはあえて無視してふすまを開けた。

灯りを着けていないせいか、いつもに比べて部屋が暗い、思わず凝視するようにして部屋を見つめる――――

「なぜふすまをいきなり閉める?」

全力で音を立ててふすまを閉めた私を見て、校長が声をかけてきた。

「いや…なんか今、拘束着を着て、口にもなんか拘束具をはめた、某映画の殺人博士みたいのが思いっきり睨んできたもんで…つい。」

闇の中で輝く獣の双眸のような眼差し。

とりあえず、恐怖に直面した私の本能は全力で逃避を選んだ、ただそれだけだ。

「だってアイツ病院で暴れたからさ、看護婦さんが全力で押さえつけてアレ着させたんだよ。

それに、あの口につけてるのは拘束具じゃあない。」

「じゃあなんですか?」

「治療のギブスだ。いや〜実はあいつが噛付こうと思って口を大開けした瞬間に思いっきり槍の横っ腹でぶん殴ったんだよ。

そしたら歯が全部折れちまって…顎は大丈夫だったんだけどな。いや〜失敗失敗、ははは。」

いや『ははは。』じゃなくて…まあ突っ込んでも無駄だからしょうがないけど…

「はぁ…」

思わず心の底から深い溜息が出る。

「ふっ、安心しろ。もうプラスチック製の入れ歯を発注済だ。多分一週間くらいでお前らに合流できるだろう。」

溜息を聞いた校長が訳のわからん自信で、微妙に的外れの回答をする。

いや…なんか、その…あの…

「もう寝ます…お休みなさい…」

「おう!歯ぁ磨けよ!!」

ふすまの向こうからなにかが動く音とうめき声が聞こえてくるが…

すっごく精神的に疲れた…もう寝よう、そして現実から逃げよう…



これが諏訪との出会い…そういえばあいつも元々何をやっていたのか知らない。

本人は

『…俺も…知らん…』

なんて言ってるけど…嘘つくにももっとマシな嘘をつけばいいのに。

そしてまた少しのときが流れ―――――




深い宇宙の闇の中、私のテツジンと富士のテツジン。二機のテツジンが対峙する。

同性能の機体の膠着状態、損傷も同じくらいだ、ここは搭乗者の腕の勝負になる。

やはり、なんというか、お約束通り、うかつに動けない…映画なんかじゃ良くあるシチュエーション。実際なって見ると、ホントに動けない。

きっかけは西部劇や時代劇なら枯れ葉なんだろうけど、宇宙だと…なんだろう?

そんな私の疑問に答えるかのように、一個の小隕石が私たちの間を通り過ぎる。

相手の機体、富士のテツジンの姿が一瞬見えなくなる。

………来る!!

隕石が消え、富士のテツジンがレーザーを撃つモーションを取っているのが見える。

しかし、富士のテツジンはそのモーションのまま静止した。

流石に早撃ちで負けるわけにはいかない、私のテツジンから放たれたレーザーは、一瞬早く富士のテツジンの肩を撃ち抜いていた。

まあ練習なので、命を賭けた所まではいけない。破損率が40%を切った時点で機体は動かなくなる様になっている、富士のテツジンはもう動けないだろう。

後は諏訪のテツジンか…

気配は無い、跳躍による急襲を狙っているんだろうけど…そう上手くはいかない、いつでもレーザーを撃てる体勢で待ち構える。

上下左右、どこから来ても迎え撃つ自信があった。

けど、まさか…

真正面0距離に来るとは思わなかった!!思わずタイミングを削がれ、発射が遅れる。

その隙に諏訪のテツジンが至近距離のロケットパンチを私のテツジンに撃ち込んだ。

破壊音と共にテツジンが振動する、損傷率20%を切ったか…負けた…



「アホかお前!訓練に命賭けてどーするんだよ!!」

帰還し、参加した三人が軍事施設の休憩室で顔を着き合わせた瞬間、富士が諏訪に向かって大声で叫んだ。

「零距離跳躍がどれほど危険か知ってんだろうが!失敗したら二人同時に親兄弟にも見せれねえ無いような死に様で死ぬんだぞ!!」

確か聞いた話によると、周りの機械やなんかと融合したり、コクピットブロックが凄まじい力で押しつぶされたり…どっちにしろぞっとしないわね。

「…すまない。」

諏訪が素直に私に向かって頭を下げる。ちゃんと謝る相手を把握している辺り、結構こいつは一般的な常識がある。

なのに、何で戦闘の練習のときは常識と自分の命を無視したような戦法取るんだろう?

それを見た富士が溜息を吐き、口を開いた、口調はいつもの穏やかな物に戻ってる。

「ま、いいか。俺は責任者のほうに挨拶に行って来るから…先に帰るなり待ってるなりしてろ。」

そう言い残すと、富士は休憩室を出て行った。

今日はいつもと違って軍の演習場だし、初顔のところでの挨拶、礼儀は大事よね。

大体、校長が居ないときはこういう公的な仕事は一世代上の富士が受け持っている。

こういう富士の気づかいは本気でありがたい。

「本当に…すまない…戦いになると…どうも…周りが見えなくなって…」

ベンチに座る私に、諏訪が再び申し訳なさそうに独特の、文法を無視したブツ切れの口調で話しかけてくる。

「再度謝られても出すもん無いわよ?」

「いや…すさまじい…鬼も逃げ出すような…形相の…不機嫌な顔を…」

喧嘩を売っているのか、本気で謝っているのかわからない。ホントこいつは変わっている。

「そうね、機嫌悪いかもね。勝者に謝られちゃねえ〜敗者として立つ瀬が無いですよ、私は。」

少し意地悪く、おどけた口調で本気で怒ってない事を伝える。

まあ言ってる事は本気だしね、アレが実戦だったら、私がやられてんだし。

「…ジュースを買ってくる…そこで…待っていろ…」

そう言うと、諏訪は少し急ぎ足で自動販売機も無い気の利かない休憩室から出て行った。

あれ?冗談効かなかったかな?

アイツ常識は有るけど、妙に世間慣れしていないし…第一、敗者に勝者がジュース買って来るってどういう状況よ?

それにこれじゃあ先に帰れないじゃない、強制場待ち?

あ〜やること無い…

「少しよろしいかな?」

部屋の入り口で野太い声が聞こえる。

そこには優人部隊の制服を着た、角刈りの意志の強そうな男性が居た。

まさに木星男児ここにあり!って感じの人ね。

「ええ、どうぞ。」

雰囲気からしてナンパとかはしないだろう。

それを聞くと男性は私の前のベンチに腰掛け、そして少し私の全身を見てから口を開いた。

「さっきの戦闘見せてもらった。いやー三機ともかなりの腕前、しかも一機に乗っていたのがこんな美しい女性とは。

近頃の女性はたくましい、男性も負けておられんなこれは。」

無骨な口調が声に合い、妙にマッチしている。

それにしても軍人で、ここまで素直に女性である事を褒める人は早々居ない。

軍は男社会だと言う意識から、奇異の目で見られたことも何度かある。

まあ、片目の眼帯のせいもあるかもしれないが。

それはともかく、この人は固そうな外見とは違い、思考の柔軟性はかなり高いらしい。

「はあ…ありがとうございます。」

「?どうした?不思議そうな顔をして?」

「いや、素直に褒めてくれる軍人さんって珍しいもんで…」

「なあに、私の知り合いにはもっと強烈な女性が何人も居る。それに女性軍人にもすごい方がおるしな。」

へえ〜まさか軍にそんな強烈な個性の女性がいるとは……木星も狭いようで広いのね。

「それはそうと聞きたいことがあったのだ。富士という男の事なのだが…」

「富士の事ですか?知っているんですか、彼の事?」

何で富士の事を聞いてくるんだろう?っていうか知っているんだろう?

「うむ、とは言っても私が知っている男とは別人かもしれんがな。」

「特徴を言っていただければ…」

こっちの富士は特徴の塊みたいな男、同性で特徴がかぶる男はたぶん人類全体を含めてもそういないだろう。

「私もあまり知っているわけではないのだが…体格はかなりの大男で、趣味は家事一般…」

「あ、間違いなく同一人物ですね。」

考える間もなくあっさり答える。

大男と家事一般のキーワードの一致の時点で同一人物だと確定できた。

?って事はこの人富士の事知ってるの?

「そうか…彼は新たな道を見つけたのか…」

いや、遠くを見られて自己完結されても困るんですけど―――

「あの…富士の事何か知ってるんですか?」

ちょうどいい、富士の謎のベールを少しでも剥ぐ為に情報収集をしよう。

「ん?いや、まあちょっとな……」

男性は明らかに言いよどむ。

………………あっ。

「あ、やっぱりいいです。すいませんでした。」

よくよく考えてみれば私だって過去を探られたくないのは同じ、それに富士だって刑務所入りしていたんだから暗い物があるはずだ。

第一知ったからってどうにもなる訳ではない。結局は今が大事なんだから。

男性は私の顔をジーと見てから、

「…………やはり貴女はいい女性だな。いや、つい話し込んでしまった。そろそろ失礼するが…」

席を立ち一言付け加えた。

「これだけは言える。彼は優秀な男だ。そして理のある男だ、安心していい。」

ふ〜ん。

だったら――――

「私もこれだけは言えます。貴方もいい人ですよ、間違いなく。」

男の後姿に正直な感想をぶつける、こういう人がもっと軍にいればね〜私も将来明るいのに。

それを見た男が、一瞬呆気にとられた表情をした直後、少し微笑みながら口を開いた。

「ふっ…いつかまた会おう。今度は軍人同士としてな。」

「ええ、それではまた。」

このやり取りの後、男性は休憩室から出て行った。

快活な人だ…なんかちょっと話しただけで得をしたような気になる。

「得したじゃねえか。ありゃあ俺等の世代の出世頭の秋山源八郎だぜ、顔覚えてもらって損はねえな。」

ドアの脇からすっと富士が出てくる…このパターンは…

「どこらへんから聞いてたの?」

「最初っからって言うのがお約束なんだよな、こうゆうのはよ。」

そう言って富士がニヤリと笑う。

「意外と食えないわね〜アンタも。少しは、素直な諏訪でも見習ったら?」

その時、廊下から足音が響いてきた。

このペースからすると急いでいるようだが、事件?

思わず廊下に聞き耳を立てると―――――

「何処のどいつだ!軍施設で暴れている馬鹿は!!」

「さあ…なんでもジュースが全て売り切れてたのを知って販売機を破壊したとか…」

……………………………そう言えば常識はあるが理性はなかったなあ。

富士が無表情で口を開く。

「ホント素直だよな、あいつ。と言うか本能で動いてるのか?」

「富士。」

「なんだ?」

富士が視線を移すより先に、懐からリボルバーを取り出し、特製の麻酔弾の装弾を確認する。

「ここはさっさとふっ飛ばしちゃったほうがいいと思うんだけど?」

「いや、待て。」

富士が袖をめくり、手をポキリポキリと鳴らす。

「俺が張っ倒してからだ。」

そう言い残すと待ち遠しいかのように富士は廊下を駆け出した。

私も後を続けざまに―――――なんか最近やけに行動が刹那的になってきたような気がする…………



ここら辺が常識外の限界だと、当時思ってた………

でも、確かこの日、家に帰ったら居たんだ――――常識外の象徴みたいなのが。



ズルズルズル…何かを引きずる音が道に響き渡る。

まあそんな事はどうでも良くて、とりあえず家に着いたわけだが、いつもと違う事が一つあった。

「おまえらいつまで待たせるんや!すっかり待ちくたびれてもうたわ!」

「「岡村さん!?」」

思わず私と富士の声が重なる。

家の入り口のとこに木連公安部(通称、木連警察)の岡村さんがいた。

いつも通り、少し怪しい関西弁をフルに使っている。

「何でいるんスか?また奥さんと喧嘩したんですか?」

「アホー!!」

スパコーンと景気良いツッコミが、いらん事を言った富士の頭に炸裂する。

確かに、この人はいつも夫婦喧嘩の敗残兵として、よく旧知の仲の校長の元へ来る。

でもそれにしては、顔に引っかき傷もないし…

「じゃあ何しに来たんですか?」

とりあえず聞いてみる。

「ん、まあちょっとな…ま、中に入って話そうか。その前に富士。」

そう言うと岡村さんは富士の右手に引きずられてるモノに視線を移す。

「諏訪はなんか新種のプレイに目覚めたんか?」

富士の右手には熟睡した諏訪がいた、結構長い間引きずって来たので所々汚れている…コブには気付かないようにしよう。

「暴れた猛獣には麻酔弾を。これが自然界の掟です。」

何故か自信たっぷりに富士が答える。

多分この人ならニュアエンスで通じるだろう。

「いつから木星はジャングルになったんや…まあええ、ほな,はいろーか。」

予想通り大体通じたようだ…いい事かどうかは知らないけど。

家に入る岡村さんの後に富士が諏訪を持ったまま続く、なんかゴンゴン頭をぶつけている音が響くが…気にしたら負けだ、ウン。




「おっ、来たな。」

家に入ると、校長が庭の中央に突っ立って、こちらを迎えていた。

足元にある、人一人入りそうなズタ袋がみょうに気になるが…

「ふふふ、今日は新展開。重大発表が二つある。」

そんな私の気持ちなど構わずに校長は話を続ける。

「まずは一つ!!最後の生徒発見!!」

ふーん、今日、校長が訓練空けたのはスカウトに行ってたからか。

「おお、ついに最後ですか。で、そいつは何処に?」

富士が口を開く、ちなみに引き摺っていた諏訪は縁側に寝かせてある。

…おきたら絶対暴れるから拘束衣を着させとかないと。

「ここだ、ここ。」

そう言って校長が足元のズタ袋を指差す。

それを感知したかのように、ズタ袋が、うねうね動き出した。

「むー!むー!」

同時に袋の中から、若い呻き声が聞こえてくる。

……………………………………

「ふっふっふっ…コイツこそリーサルウェポン、そこそこの白兵戦能力に加え、潜入能力も完備。さらには色々な関係で機動戦も―――

むっ、お前等なぜ俺の両脇に沿って立って両腕を捕らえる?これじゃあ捕縛直後の犯人じゃあないか。」

すかさず校長を捕縛した私達に対し、校長が疑問の声を上げる。

「いや、流石に拉致はまずいですよ…」

富士が、やな汗を掻きながら校長に語りかける。

「富士、校長だって、まずかったってわかってるのよ。だから岡村さんを呼んで自首を……大丈夫です。意外に最近留置所は住み心地がいいです。

経験者の私たちが保証します。」

私も、やな汗がにじむのを感じながら校長に語りかけた。

「ちがうわ!ず阿呆ども!!」

校長が叫んだ直後、校長の両腕に凄まじい力が入り、右腕を掴んでいた私、左腕を掴んでいた富士を思いっきり投げ飛ばした。

宙を飛ぶ私たち…って富士って確か100キロ楽に越えてたような…と、どうでもいいことを考えているうちに地面に激突する。

「痛たた…」

受身を取ったが痛みは打ち消せず、思わず声が漏れた。

脇を見ると富士も同じように顔をしかめ、天を仰いでいる。

「幾らなんでも北○鮮じゃあるまいし、拉致なんかするか!それに、もはや岡村は木連警察にあらず!そいつは第五士官学校教頭の岡村よ!!」

なんか悪の首領が必勝の策を自慢するかのようなテンションで、校長が岡村さんを指差し、私達の視点も思わずそこに向かう。

視線の先で岡村さんは無表情に口を開いた。

「いや、まだOKしたわけじゃ、ないんやけど。」

「またまた、公安部辞めてまで来てくれたんじゃないか。」

「いつの間にか、ワイの署名付きの辞表が偽造されて、上司宛に送付されてたのを知った時には涙が出たで。」

校長が捕まる日、いや、刺される日も近いかもしれない…

「まあこのように、心よくOKしてくれた訳で…」

「しとらんわ!だいたいワイには家で帰りを待っている嫁さんと子供が…」

「ちょっと待てーい!!」

「「「「?」」」」

校長と岡村さんの漫才中に一つのの声が響き渡り、思わずその場にいた全員(睡眠中の諏訪は除く)の視線が声の発生先に移る。

声の発生先、それは校長の足元にあるズタ袋だった。

「大体、人様を、こんな袋に入れっぱなしにしたまま放置するなんて…」

声が上がると同時に、一人の男がズタ袋の中から出て来た。

年は私より下ぐらいだろうか?顔立ちもまあまあだし、背も平均値ギリギリの所ぐらいはある、見てくれが悪くないとしたら、あとは性格だが…

「だいたいよ〜学校のスカウトじゃなかったのか?これじゃあ誘拐と変わんない…」

ふっと私達の方を見て、男のセリフが止まる。

そして男はワザとらしく震え、校長に向かい口を開いた。

「やっぱ誘拐だったのか!?あそこに居るの、アレが頭領だろ!?」

えーと…

「奴は誰を見て誘拐集団の頭領呼ばわりしているんだ?」

富士が私に分かりきった事を聞いてくる。

「アンタに決まってるでしょうが…」

富士のデカイ体躯は初対面の人間に恐怖感と威圧感を与える。しかし、あそこまでストレートに怯える人間も珍しいけど。

「違うって、あそこに居るのはお前の同級生となる奴等だぞ。」

校長が男をなだめているが…あの様子だと説得は時間がかかりそうね。

「嘘だ!あの片目の奴が頭領なんだろ?女頭領!あの黒い眼帯、どー見ても善人がつけるデザインじゃないぞ、アレは!」

ん?

「まあ、落ち着け。確かに眼帯が妙にマッチして女賞金首のように見えるが、根は悪くないぞ。前科者だが。」

あれ?

「しかし…あの脇に立ってる人の良さそうな大きい兄さんと上手く対比されて、なんとも言えぬ恐怖感があるぞ。」

ひょっとして、誘拐集団の頭領呼ばわりされたのは…富士じゃなくて私?

「プッ…」

脇で富士が吹き出している。ふと後ろを振り返ってみると、岡村さんも肩を震わせ、何かをこらえている。

………………………………………………

とりあえず、懐の銃の残弾を確認して、撃鉄を上げ、いつでも発砲できる体勢にする。

「恐怖感がなんだろうと、アレは一応お前の同級生となる女だぞ?確か同い年だし。第一、ちゃんと、お前の親の許可はもらっているぞ。」

同い年?てっきり年下だと思ってたけど。

「ゲッ!あのクソ親父、勝手な事を…」

「納得してくれたか?と言うかしろ!…という訳で黒木。」

「はい?」

「入学祝だ。相手してやれ、白兵戦だ。」

ふふふ…校長、よく分かってるじゃないですか…

「武器の使用は?」

「許可する。ただしゴム弾な。」

ちっ…せっかく実弾を込めたのに…

それはそうと、それを見た男の顔が青くなり、校長に勢い良く口を開いた。

「ちょっと待て!?ゴム弾?銃使うのかアイツ!!」

「大丈夫だ。暴徒鎮圧用の特性弾、実弾と違い殺傷能力は無い。」

「いや、そういう問題じゃないだろ!!」

「まあ、当たり所が悪ければ骨ぐらいはいくが。」

「ちょっとマテや!」

「それじゃあ試合開始。」

「話を聞け〜!!」

待てるか!

男の体勢が整えられる前に、足元に向かい牽制の弾を撃つが…

男はそのまま一回バク転、そして一気に背後に跳躍し、庭沿いの塀に飛び移った。

軽いのは雰囲気だけだと思ったが、身のこなしもかなりの軽さ…リーサルウエポンの名は伊達ではないといった所か。

男が屋根の上に立ち、こちらを見下ろし、傲然と話す。

「ふふふ…やってくれるじゃないか、女頭領!しかし俺に銃弾を当てるには一千年…ってちょっと待て!話ぐらい聞いてくれ!」

躊躇わずに銃口を向ける私を見て、男が急に慌てる。

「はあ?なんでアンタみたいなのに見下ろされて、わざわざ話を聞かなきゃいけないのよ?」

「ちっ…これだから雅を知らない悪役は…おい、浅井さん!向こうも武器使ってるんだ、俺の獲物、持ってるんだろ!?」

「おうよ!許可するぜ!」

それを聞いた校長が、懐からサイドパックを取り出し、男にめがけ投げつけた。

男はそれをダイレクトにキャッチする…獲物がなんだか知らないけれど、先手を打つ!

男がサイドパックを腰に付けている隙に銃弾を撃ち込む。

しかし男はまたも跳躍し、今度は庭へ着地、私の追撃の弾丸を転がりかわし、何かを投げるようなモーション取った直後、空を切り裂き何かが飛んできた。

何かは私のほうを掠り、背後の家の支柱へと突き刺さる。

…何を投げた?

ほうから流れた血を舐めながら、突き刺さった物体を凝視する。

支柱に突き刺さってた物、それは鉄鋲だった。

こんな物をあのスピードで?器用ねー。

「いつまでも大人しくしていると思ったら、大間違いだ。俺だって獲物があればこれ位は出来るんだぜ?」

ほお…これぐらいで私と撃ち合いで渡り合う気?いい度胸してるじゃない…

「ふ〜ん、それじゃあ…」

喋りながら弾のリロードを行なう。弾は6発、久しぶりだけど出来るか?

「これはかわせる!?」

そう言い放つと同時に、思いっきり手元の銃を撃ち放つ。

辺りに少し大きめの銃声が一発響き、それが止んだ時、男は少し移動し顔を伏せ肩を押さえていた。

ふむ、ギリギリで避けたか…二、三発は当たると思ってたんだけど…

「な、なんや?なんでアイツ避けられなかったんや?」

事態の飲めない岡村さんが呆然と呟くが…

「むう、あれはシックス・オン・ワン…」

富士がどっかで聞いたような口調で呟く。

「知っているのか、富士!?」

「地球のアメリカの西部時代に全盛を極めた銃の技、その中でも早撃ちの究極の形といわれたシックス・オン・ワン。

その名の由来は、あまりの早さのために六連発リボルバーの銃声、全てが重なった事にあると言われている…」

「そうか…つまり今の銃声は一発やが、実質は六発の弾が一気にあいつに襲いかかったんか。

そりゃ〜避けられんわ…ところで富士。」

「何ですか?」

「んなマイナーな知識一体何処で…」

「もちろん、民明書房です。」

「ふふふ…わかってるねー自分。」

どうでもいい事で盛り上がってる、背後の男どもはとりあえずほおっておいて…

使い切った銃弾を再装填しながら、男に声をかける。

「これでも真似できると?」

それを聞いた男は顔を上げ―――笑った。

「いいね、いいね!こんぐらいやってくんなきゃ面白くない!浅井…いや、校長!大島克明、この学校に入学させてもらう!」

男…いや、大島は本気で嬉しそうな顔を浮かべた直後、私に向かい高らかに叫んだ。

「よっしゃあ!気合入った!!黒木よ、俺も行かせてもらうぜ!!」

女親分→黒木は出世と考えていいの?

それはともかく、何が来るんだろう?

愉しみ…思わず私の顔にも笑みが浮かぶ。

直後、大島の手元が動き、一本の長い鎖が私へ向け襲ってきた。

鎖?鉄鋲を組み合わせて作った!?まったく、器用にも程がある…

そんなくだらない事を考えている内に、鎖は唸りをあげ、私に向かい襲い掛かってきた。

直線的な一撃と判断して、横に跳んだ直後、大島の手元が動くと同時に鎖の軌道が変わり、横に払うような一撃に変化する。

間に合わない!

思わず慌てた足がもつれ、腰砕けの体勢になる。

そんな私の頭上を、唸りをあげ、鎖が通過していった。

危な…髪何本か持ってかれたし、これシャレじゃすまないわよ。

とりあえず、腰くだけの体勢のままで幾発か銃弾を大島へ向けて打ち込む。

当たれば見っけモンレベルの攻撃だったが、銃弾は結構いいとこを狙ったらしく、大島が慌てた表情をして一端後ろへ跳ぶ。

おかげで鎖の連撃が止み、立ち上がる余裕が出来た。

私が立ち上がると同時に、大島が口を開いた。

「いいね、いいね!たまにゃあレベルの高い相手とやりあうのも刺激があっていいもんだなあ?おい!」

興奮しているのが手にとって分かる。まあ、私も人の事は言えないが。

「そうね。でも、刺激は短いから楽しい。ここいらへんで決着をつけるのが、双方の為になると思うんだけど。」

私の言葉を聞いたとたん、大島の顔がそれなりに真面目な物になった。そして、重々しげに言葉を発する。

「決着いってみるか?」

「早々と決める…」

私も真面目な顔になり、場を緊張が支配する。

ギャラリーの三人も自ずと緊迫した表情となり、私たちを見つめる。

しかし次の瞬間、静寂は破られる事となった。

「…喧嘩か…ならば…俺も混ぜさせてもらう…!!」

後ろを振り返ると血走った目で眠っていたはずの諏訪が起き上がっていた。

しまった…眠ってた諏訪の事を忘れてた!

あいつのことだ、絶対状況が飲み込めてない!

「ちょっと待って、諏訪…」

私の言葉を無視しって、はじめっから聞いちゃいないか…

「ウォォォォォォォォォ!!!」

諏訪はそのまま駆け出し、その勢いで大島目掛け絶叫と共に襲い掛かる。

「うわ!何だコイツ!」

大島が突然の乱入者に動揺しながらも、私用に作り出していた鎖を諏訪目掛け打ち出すが…

「シャァァァァァァァ!!」

奇声を上げた諏訪は鎖を避ける…って軌道が読みにくい鎖攻撃をあっさり避けるなんて…野生のカン?

そして、その勢いのまま諏訪は大島目掛け飛び膝蹴りを放つ。

ドゴッ!

肉の砕ける鈍い音がして大島がその場に座り込む。

しかし諏訪は手を緩めずに大島の顔面を蹴り込んだ。

顔面の砕ける音が響くかと思えたその時、大島が片手に隠していた短めの鎖で諏訪の足を止め、そのまま低空のショルダータックルで諏訪を引き倒した。

そして馬乗りになり、何かの関節技を仕掛けようとするって…私の立場は!?

本来、私VS大島のカードじゃなかったの?

「こりゃあ、お前対大島は無効試合だな。」

いつの間にか私の傍らに寄っていた校長が私の肩を叩き呟く。

「不本意ですが…まあしょうがないでしょう、もう諏訪が燃え上がってるみたいですしね。」

私の視線の先では何処がどうなったのか、大島が諏訪にキャメルクラッチをかけている。

身体の反り具合から見て、かなりきつそうだ。

「で、どうだった?アイツはよ?」

「かなりの変わり者ですね…戦術も、性格も…」

「ふむ。で、どうだ好きか嫌いか?」

そう言えば、校長ってゴシップ好きだもんなぁ…

「なんか質問に軽い罠の臭いを感じますが…まあ、好みではありますね。」

「好み?」

そう言って周りを見つめる。

「あいたたたー!!」

「グルルルル…」

正面を見ると、諏訪が大島の指を噛んでいる。

諏訪の歯は硬質プラスチックだったような…まあいい、指が喰い千切られない事を祈ろう。

「噛み付きで脱出!噛み付きで脱出!まったく、派手な事しますねえアイツは!」

「昭和プロレスの世界やな。吸血鬼VS謎の鎖使い、くぅ〜金取れるカードやでコレは!!」

背後では富士と岡村さんが実況と解説を始めている。

いつの間にか持ってきた羊羹付きで…後で貰おう。

「面白い人間は好きなんですよ、飽きないですからね。」

「まあ確かに飽きないな、見てて。」

思わず顔を見合わせ苦笑いする。

快活な苦笑、明らかに矛盾したこんな行為がある事を久々に確認したのだった――――



「隊長、隊長。」

耳元で何かしつこい無粋な声が聞こえる。

「隊長、起きて下さい。隊長。」

しつこい…正直、辟易する。

とりあえずこんな事してる奴が、どんな奴だか確認するため、目を開けベットから起き上がる。

人はいなかった、かわりに通信用のコミュニュケから声が聞こえる。

「もしもし…?」

寝起きで声が出ない、ちゃんと出れば一発ぐらい怒鳴りつけたいが。

「あ、睡眠中でしたか。申し訳ございません。」

起こしといて申し訳ないもクソも無いと思うのだが?

「あーしばらく寝てなかったもんでね。んで?用件は?」

「ムラナカさんがお呼びです。至急こちらに来てください。」

あの親父、何時もやなタイミングでこっちを呼ぶ。

性格の悪さを示すのは商売相手だけでいいだろうに。

ま、直属でないとは言え上司には逆らえないしね。

とりあえずベットの脇の盆においてあるタバコに火を付け、眠気覚ましに一本吸う。

「わかった。準備するからあと10分待つように言ってくれる?」

「了解しました。」

相手先の通信の切れた音を確認し、タバコの煙を蒸かす。

どーせあの親父の事だ、めんどくさいか厄介かどっちかに属する仕事だろう…両方に属する可能性も高いが。

とりあえずタバコの火を消し、身支度を整えようとするため立ち上がろうとした、その時。

何故か枕元にあった学生時代の集合写真が目に入った。

若かったんだろうな…あの頃は…別にまだ若い二十歳の身の上だが。

あの頃とは大分変わった、タバコも吸う様になり、髪に軽いメッシュも入れた。

人はいつまでも同じ状態のまま生きていくのは不可能だと思う、それは人間関係も…

とりあえず枕元の写真立てを倒し、着替えを始める。

――――――今の夢はなんだったんだろうか?昔を思い出す意味は?

「ま、そんなこと考えてもしょうがないか。」

簡単な結論を出し、簡素な着替えを終え、部屋を出る。


とりあえず言えるのは

私は過去にはとらわれない――――




「なるほど。そこで今の3人が集まったって事ですね。」

「ああ、これで第五士官学校一期生は全員集まったってワケだ。」

戦艦陰月の格納庫で富士が市川に昔話を語っている。

内容は黒木の夢と然程変わらない様だ。

「それでその後どうなったんですか?」

「あーそれがなかなか上手くいかなくてなぁ…」

富士が力が抜けたように呟く。

「軍の上官からも合格点ギリギリの点しかもらえなかったしなー『アクが強すぎて指揮官を選ぶ』って、

まあ合格点はもらったから学校出資の件はOK出たんだけどな。

それに俺達卒業後はその上官の下に付く予定だったのに、失脚して死んじまったんだよなー

おかげで黒木なんか軍のほうにいけなかったんだよ。」

「?ちょっと待ってください。」

語っている富士に水をさす様に市川が口を開く。

「なんだ?」

「黒木さんって軍人として劣ってたんですか?話を聞くとそうでもないような…」

「資質でいったら、万年お気楽な大島や綱の付けられない獣の諏訪よりはるかに高いよ。だがな…」

一層、気が抜けたように富士が溜息をつき、言葉を続ける。

「女だからな…前科付きという悪条件もあるが、やっぱり男性至上主義の軍隊に入るのは難しい。本人も相当悔しかったかったんだろうな、だからクリムゾンのスカウトに…

やっぱ優華部隊は特別なんだよな…それに、大体同時期に校長が行方不明になってな…」

「行方不明?」

「ああ。なんかクリムゾン産の試作兵器が木星に来て、それが誰にも乗りこなせなくて…藁をもすがる思いで開発部が元一流テストパイロットだった校長に声かけて来たんだよ。

乗らなきゃいいのに『最後のお勤め、行って来るぜ!』っていって出てってな。それっきり、なんか機体がオーバーロードして制御不能になって銀河のかなたへすっ飛んでってそのまま…

それでとりあえず今は教頭だった岡村さんが校長やってんだよ。」

合いの手も入れられない雰囲気に市川が思わず沈黙する。それにも構わず、富士は言葉を続ける、

「そう言えば、なんか変な名前の試作機だったなぁ、漢字3文字の。もうロールアウトしたのだろうか…まあ、とにかく波乱万丈の人生を送ってきたわけよ、俺らは。

悲しいなぁ、平穏が欲しいよ、平穏が。」

結論付けるようにしみじみとした口調に変わり、富士が語りを終える。

市川も話を反復するように考え込み、先程まで話し声が流れていた格納庫に沈黙が走った。

「いいんじゃないですか?」

沈黙を破るかのように言葉を発したのは市川だった。

市川はそのまま言葉を続ける。

「だって…富士さん楽しそうですよ、いつも。平穏がこない事の悲壮感なんか普段ありませんよ?」

それを聞いた富士は一瞬無言になるが、すぐに視線を市川へ向け、いぶかしそうに質問した。

「俺、楽しそうなのか?いつも?」

「はい。」

考える間もなく、当たり前といった感じの即答で市川が答える。

「そ、そーかー。楽しそうか…」

冷や汗をたらしながら富士が上空を仰ぎ、虚ろな口調で呟く。

「ははは…染まるって怖いなぁ…」

「元からじゃないですか?」

市川の情け容赦ないツッコミが富士の心に突き刺さる。

直後、格納庫の主導権は沈黙から殺気へと移り変わった――――――



〜続く〜





後書き?


ふじいさん(以下F)久々の三軍神、いかがだったでしょうか?過去話なんか持ち出したせいでナデシコほとんど関係ないですね(汗)

解説スパット(以下S)つーか分かってんならもっとナデシコと絡ませろよ…

F それは分かってるんだがな。なんせナデシコや優華のみなさん宇宙に居るから。本編じゃあ正直、あと2〜3話直接の登場は難しいな。

  まあ間接的に出したり地球在住の関係者はできるだけ出すが。

S でも出さないとナデシコSSとしての説得力が…

F とりあえず外伝と異伝では絡ませる気満々だ。まあ外伝は軽いし、異伝はアレだからなんとも言えないが。

S まあ当面の問題はそこまでにしといて。質問が…

F なんだ?

S 第五士官学校のイメージって男塾?

F いや…なんとも言えないなぁ。とりあえずこの話で出た、生徒4人の時のイメージはチャイルドマン教室なんだが。

S エリートを集めた天才による集中教育?

F 生徒自身のアクの強さも参考にしているが…第一に俺、男塾って知らないし。

S 豪快な嘘をつくな!今回ネタにしてるじゃねえか!

F (無視)ふと思ったんだが4人の特徴を適当に並べると…

S ?

F 筋骨隆々の巨漢、片目の美少女、バトルジャンキー、実力者の曲者…某作の南陽学園四天王だな。

S まあそうとも言えるが…全然本筋と関係ないじゃねーか…

F あの作品の孫策と周喩を見てるとユリカとジュンを思い出すな

S (シカト)それでは次回お楽しみに〜

F 陳宮と呂布は零夜と北斗な。

S もーええちゅうに。

 

 

代理人の感想

なんちゅーかコメント不能(笑)。

ああ青春の光画部、って感じで(爆)。

 

ちなみに一輝当選(誤字上等)ネタはわからんのでスルーさせてもらいまっさ。w