無数のエステがフィールドランサーを突き立て、そのまま持ち上げる。
まるで罪人を晒し者にしているように。
貼り付けのトガビト・・・ジュウジンはピクリとも動かなかった。
三軍神異伝
〜運命の神に逆らいし者〜
「諏訪・・・逝ったか・・」
大島が貼り付けにされるジュウジンを見て呟く、戦闘の最右翼が消えたことでこちらの負けは見えてきた。
「もはや負け戦・・だが引けない。あいつを倒すまでは・・・」
傷だらけで戦場にたたずむリュウジン、その前にはテンカワアキトの愛機ブローディアが対峙していた・・・
時は一ヶ月前に遡る・・・
全てが終わり平和になった世界・・異変は突然起こった。
高杉三郎太暗殺
木星と地球の架け橋となっていた男の死、その死体は無残にも心臓が抉り取られていた。
周りに散らばる無数の鋲と手段から犯人の割り出しは簡単だった。
捜査班が犯人のアリバイなどを調べ、足場を固めているころ、一通の手紙が木星の舞歌の元に届けられた。
『絶縁状』
中には優人部隊所属遊人隊の三人、大島、諏訪、富士の血印と簡単な別れの挨拶が入っていた。
その後彼等は、象徴を失い各地に分散していた火星の後継者残党をまとめ上げたとの情報を残し行方不明となった。
五日前
下校途中のハーリーとラピスにいきなり銃弾が浴びせかけられた。
隠れて警護していたネルガルSSが応戦するが、ハーリーは最初の銃弾で心臓を打ち抜かれ命を失った。
警察の介入もあり、テロリストは鎮圧されたかに見えたが・・・
戦闘指揮をとっていたらしい大男が立ち上がり爆弾を持ってSSに囲まれているラピスに突っ込む、
直後、付近を揺るがすような爆音と共に大男、ラピス、ネルガルSSの幾人かはこの世から姿を消した。
後に目撃者の証言により、大男の身元が元木星軍所属富士成晃少尉であることが判明、
しかし関係者以外の人々は、そのことよりも大戦の英雄ナデシコクルーの二人、しかも子供が殺されたことに衝撃を受けた。
三日前
ネルガル本社の会議室ではかつての仲間が三人も殺された事による対策会議を開いていた。
その日本社に大島を筆頭とした火星の後継者残党が乱入、機動兵器の力もあってか小一時間で本社は占拠,
その後次々と本社周辺に火星の後継者の戦艦が来襲、機動兵器が展開され本社周辺は火星の後継者に制圧された。
火星の後継者はネルガルの重役達を人質に取り篭城、しかし彼等は何も要求を出さなかった。
昨日
痺れを切らした軍が攻撃を開始、戦闘状態になる。
しかし、リュウジンとジュウジンの活躍、思っていたより火星の後継者の戦力が大きかったこと、市街地を巧みに利用したゲリラ戦・・・
数々の不確定要素が重なり、攻撃第一陣は敗北した。
今日
攻撃第二陣出陣、第二陣には、漆黒の戦神テンカワ=アキトも参加していた。
前回の失敗を生かした慎重な作戦・・・
火星の後継者は徐々に押されていった。
三時間前
「そうか、あいつが出たか・・・わかった、すぐ向かう。」
通信機を切り懐にしまい、部屋を出て暗い廊下を走り格納庫へ向かう。
しかし彼は出撃前にいくつかの部屋に立ち寄った。
最後の部屋、ドアを開け中に入る、そこには銃を持った兵士数人とネルガル会長アカツキ=ナガレがいた。
「人払いしてくれないか?」
男が声をかけると兵士達は無言で部屋を出て行った、二人きりになりアカツキが口を開く。
「大島君、なぜこんなことをした?」
いつもの口調とは違い、力のこもった口調で目の前の男・・・大島を詰問する。
「世界を取り戻すため、未来を人の手で紡ぐ為・・・」
大島もいつもとは違い、また重い口調で答えた。
「未来?」
思いもかけない大きなセリフにアカツキの顔に困惑が浮かぶ。
「未来は人が皆で創り出す物、しかし・・・奴等五人の逆行者は自分の望む未来に変えるために人々の意思を無視した・・・」
「彼等は不幸な未来を回避するために戦ったんだ!それをとやかく言う権利は誰にも無い!」
アカツキが反論するが、
「・・・・誰が決めたんだそんな物。」
大島が暗い口調で呟き、
「なに・・?」
「これから不幸な未来になるって誰が決めたんだよ!ここはあいつらがいた世界とは別の世界なんだろ!?
違う未来があったかもしれない!しかし俺等は奴等のレールに乗せられたんだ!意思に関係なく!」
暗い口調とは打って変わって、熱い口調に変わった大島が叫ぶ。
「・・・・・・・・・・」
「草壁、北辰、俺は今でもあいつらは気に食わない・・でも、そんな連中も未来を紡ぐ為に今をあがいていた。
俺らだってそうだ、自分の望む未来を掴むために戦ってきたんだ・・それが、たった五人の意思によって、世界の人々は奴等の理想の『平和な』未来を与えられた・・・
冗談じゃない!少なくとも、いくら平和な未来とは言え俺等は奴等の手の上で踊らされるのはごめんだ!」
「幸せのためでもかい?・・・・・・」
「確かに奴等の目の届く連中は幸せになったよ、しかし・・代わりに不幸な人間も生まれたはずだ・・・
そんな事が許されるのか?奴等五人は神か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
アカツキは言葉を発しない、もはや意見を言っても無駄だと悟ったようだ。
大島が振り向きドアに手をかける、退出直前アカツキを見ないまま言葉を発する。
「俺は今から黒い神様と戦ってくる・・全てが終わったらここは開放される、他の連中にも伝えてきたから・・・安心しな。」
「彼を殺したら・・世界は再び戦火の渦に包まれるよ。」
「だろうな。だが、もはや世界に改竄者はいない、人が自分の意思で未来を紡げる・・・奴等から未来を取り戻せる。」
そう言い残し大島は部屋を出て行った。
「・・・・・未来を取り戻すか。確かに今の世界は彼がいなくては一人立ちも出来なくなってしまったのかもしれないな・・
でも、だからと言ってこんな手段が許されるのかい?」
アカツキの問いかけに答えるものは誰もいなかった。
現在
リュウジンの足が切り落とされた。
「ちぃ!」
いったんブローディアと距離をとろうとするリュウジン、だが・・・
ブローディアはその隙を逃さずにリュウジンの左腕をも切り落とす。
距離は取れたものの、ブローディアはほぼ無傷、リュウジンは片手片足・・・リュウジンが押されていることは素人目にも明らかだった。
「・・・・・・さすが神様、尋常ならざる強さってか?」
大島が軽口を叩く。
何度かブローディアと交戦したことはあるが、はっきり言って今までとは強さの桁が違った。
仲間を殺された悲しみ、平和を台無しにされた怒り・・・数多くの感情がブローディアを包み、尋常ならざるオーラを発していた。
「・・・・・ここで負けたら、あいつら怒るだろうなぁ『俺があそこまでしたのにお前は失敗かよ!』『・・・・・アホ』とかな・・」
先に逝った仲間の物真似を交え、大島が苦笑する。
その直後、ブローディアがリュウジンめがけDFSを構え突っ込んできた。
「ま、相打ちなら奴等も許してくれるでしょ。」
鎖も構えず無防備でブローディアを迎え撃つリュウジン、
刹那・・・
ブローディアのDFSがリュウジンのコクピットを貫いた。
だが直後・・・
リュウジンの周りの空間が相転移を始め、ブローディアごとこの世から消え去った。
数時間後
火星の後継者残党によるテロは鎮圧された。
人的被害はほとんど無かったが、
テンカワ=アキト行方不明
この被害はある意味どのような敗戦よりも大きかった・・・
数日後
大規模なテンカワ=アキトの国葬が開かれた。
だがその式の最中、来賓の一人を凶弾が襲った。
参列者にまぎれての犯行・・・その直後犯人は自決した。
周りの必死な応急処置も間に合わず、凶銃に襲われた来賓は死亡した。
ホシノ=ルリ死亡
電子の妖精の死。
この直後、地球圏は新たな戦火に巻き込まれることとなる・・
遥かな未来
記名の無い墓石、その前に一人の老人が立ってた。
「やっと墓を立てることが出来ました・・名前が無いのは勘弁してください、石投げられても困るので。後、三人一緒なのも・・年金ではこれが限界でして。」
老人が墓石を掃除しながら話し続ける。
「やっと戦火は収まりましたよ・・・長い戦争でした・・そう言えば今年の教科書に遊人隊が載ってましたよ。
平和を乱した狂人達ってね・・確かに僕達が何もしなければ世界はあのまま平和だったかもしれない・・
まっすぐに道を切り開いたが皆が選んだ未来ではなく、たった五人の人間にレールを敷かれた未来・・・・
数々の紆余曲折があったが世界の人々皆で掴んだ未来・・・・
はたしてどっちが幸せだったんですかね?
・・・・・・・・・・・解りませんよねそんな事・・それじゃあ失礼します。」
老人は一礼して、墓石の前から去っていった・・・・・
墓石の前には新しい花と鎖・・・・
古ぼけた、遊人隊三人と市川の写真が備えてあった・・・・・
〜了〜
後書き
ほのぼのの後は暗め・・・我ながら単純なベクトルです。
これは自作『三軍神参上!』のひとつのエンディングです、この世界の彼等は逆行者による歴史の改変を許せませんでした。
本編では・・・許しますね、多分。そうしないと話が終わりますから(笑)
私自身は逆行物の歴史改変ははっきり言って傲慢だと思います。
その世界の人々を無視しての、自分の好みに合わせた歴史改変・・・理由は様々なれど、
自分の手で世界を操ろうとする悪役と何の変わりがありましょうか。
第一誰かが幸せになれば、誰かが不幸になります。
たとえば『大学に受かる』この夢を歴史改変でかなえるためには本来受かったはずの誰かに落ちてもらう必要があります、
という事は少なくとも一人の人間とその周りの人間は不幸になります。
夢は大きくなるほど周りへの影響はでかくなる、もしそれが世界全体を巻き込む夢だとしたら・・・
果たして何人の人間が不幸になるのでしょうか?
後、アキトたちの描写がほとんど無かったのは、たとえ議論を酌み交わしても平行線の一途だからです。
感情対感情・・話が続くだけで結論は出ません。
遊人隊も手段を選ばずに戦った弱味がありますから・・
それでは、失礼いたします。
代理人の感想
ん〜〜〜。
作品としてはきちんと完結してるんでやや心苦しいんですが、野暮ながら意見を少し。
逆行者ってそんな大層な存在かなぁ、と。
彼らは「未来を知っている」というだけであって世界に直接干渉する力を持ってるわけじゃありません。
全能には程遠いですし、よく書かれているように全知ですらないと思います。
逆行者が思い通りに歴史を改竄するのが悪いなら、
経済界の実力者とか、政界の大物とかが自分の利益の為に多くの人間を利用するのも悪でしょうか?
個人である主人公たちが彼等権力者の手のひらの上で踊らされてるとして、それも絶対許せない罪でしょうか?
大体、人間と言うのは大方が自分のために生きているものです。
その意志で為されたことを「俺たちの意志じゃなかった!」といちいち否定していたらきりが無いでしょう。
影響範囲が大きいからと言うなら、世界の変化には多くの人間の意志が介在していなければいけない、とか
少数の個人の意志で為された変化は常に絶対悪である、ということになってしまいはしないでしょうか。
ちょっと逆行者というものを過大評価しすぎじゃないかなぁと。
そう思いました。
・・・まー、そんな神様みたいな逆行者が巷にはゴロゴロしてるってーのもまた事実ではありますが(爆)。