アキトの波乱人生
第一話
未来
「さて・・・これからどうしようか?」
コンビニのゴミ箱に捨られていた新聞によって現在の状況を知ったアキトは呟いた。
用のなくなった新聞を元の場所に戻す。このとき、詳しく新聞を読んでいればこれからのアキトの行動は別のものになっただろう。
「とりあえず、お腹すいたなあ。」
財布の中身を確認しながらコンビニに入る。
早速ATMを使ってみるがカードは使えなかった。となると現金のみだ。
1・・・2・・・3・・・ナデシコの食堂で3回食事したら空になる程度だった。
味より価格と量を優先させて腹を満たすことに決めた。結果、ジャンクフードになってしまったが。
「はぁ・・・」
溜息をつく。この手のジャンクフードは味覚を鈍らせるから極力食べないのはコックの常識だ。
実際、ホウメイが食堂を仕切っているナデシコではあまりの味の格差にジャンクフードを食べる人は少ない。食堂が閉まる夜勤時の夜食ぐらいだ。
そういえば以前ジュンが夜勤はいつもカップラーメンで手料理が・・・とぼやいていたが今ならなんとなく共感できる。
アキトもできればホウメイのようやシェフがいる食堂にしたかったが、財布がそれを許してくれない。
未来になってもあまり変わっていない店内を見渡す。
するとド派手なパッケージがプリントされているものを見つける。
「んー何だこりゃ、『カップラーメンDX木連激我味、マジンシリーズ限定版』?・・・・・ま、いっかこれにしよう」
何やら怪しげなカップラーメンと飲み物はお茶にしてレジに持っていく。
実はパッケージには『今冬限定マジンプラモが当たる!!』と書いているのだが、それが過去街を襲いアキトが跳ばしたものとは全く気づいていなかった。
いつの時代でも変わらないのか、無愛想な店員が値段を言ってアキトはお金を出す。
未来の物価はあまり変わっていなかったし、お金もそのまま使えることにアキトは安堵した
「課長、目標地点に着きました。けどただの広い公園で何もないですよ、今映像送ります」
「ご苦労様カワサキ君。・・・ふむ、確かに何もないわね。」
何もないなら仕事をまわすな。と心の中で毒を吐く。
本来なら今頃第一話を見てる最中なのに、何故自分はこんな街外れの公園に行かなきゃいけないのか?
「こら!あなたにとって今日はどれくらい大切か知らないけど、仕事より意義のあるものかしら?」
顔に出ていたらしい。反省した。
「すみません、しかし本当にここでボソン反応がでたんですか?」
カワサキの顔つきが変わる。そこにはゲキガンおたくはいない。
「ええ、かなり大規模よ。そのくせ出現質量は約60数キロほど。人間一人分ほどね。」
「ちょ、ちょっとそれって下手したら第一級ものじゃないですか!
僕ら『ボソン監視機関』にはそれ相応の権力がありますけど、僕はただの研究者ですよ!
そういうことはそれ専門の人にやらせてくださいよ!」
「あーそうだったわね。でもいいじゃない訓練は一通り受けたんだし
とりあえずこっちからも人寄越すから一緒に現場検証しといて」
通信が切れた。溜息をつく。
元々カワサキは木連の研究者だった。戦争に賛成でもなく反対でもない、ただ研究ができればそれでいいという人種だった。
数年前の火星の後継者事件。通称草壁の乱。当時カワサキは草壁に従っていた。
理由は特にない。研究をさせてくれるという単純な物だ。
ただ・・・そこでやってた事は果たして研究と呼べただろうか?ただの拷問だった。
毎日毎日あふれてくる悲鳴や憎悪の声を受けて笑ってられる、当時の上司ヤマサキのような神経は持っておらず結局途中で抜け出した。
その選択は正しかった。おかげで現在の地位にいる。
ただ、最近思うことがある。草壁は負けた。一年前極刑に科せられた。
しかし、彼はある意味勝ったのではないか?何せ今の自分の仕事は彼のいう『新たなる秩序』の基盤創りなのだから・・・
木連激我味はなんとも表現しがたいものだった。あえていうなら大雑把というものだろうか?
さっきの新聞が捨ててあったゴミ箱に空の容器を捨てる。
「ここにいてもしょうがないから歩くか。」
繁華街を歩く。
偶然にも今日はクリスマスなので、街には人があふれている。
やたらとカップルが目立つが、数時間前?までアキトもメグミと同じようなことをしていたので気にはならなかった。
ここは未来なのだが街並み、人の格好などはほとんど変わっていない。
アキトはそんな何でもないことにほっとした。
この街がこうしてにぎわっている事が、何となく自分の行為が街を救ったという気分になれるからだ。まあただの自己満足でしかないが。
そういう気分なのかアキトはそんなに焦ってはいなかった。
「さて・・・どうしよう?なんか地球に来た時と状況が似てるけどなぁ。」
アキトは意外と楽観的だった。未来へ跳ばされたがあまり危機感はない。
というのは、以前火星から地球へ跳んだときの状況はこんなものではなかった。
最後にバッタに囲まれる光景やアイちゃんを失ったことが忘れられず、しばらくはまともに眠れなかった。
おまけに初期の頃はテレビで木星蜥蜴を見るだけで震えが止まらなくなる。
もしサイゾウが拾ってくれなかったら、あのまま路上で死んでいたのではないか?と今になって思った。
「サイゾウさんの所はちょっと遠すぎる。
うーーむ、この辺りで働ける所を探すか、それとも誰か知人に連絡をとるか。」
考えながら歩き続ける。
とその時街頭テレビが
「この番組の提供は・・・・とネルガルグループと・・・・でした。」
というどうやらさっきのニュース番組が終ったらしい。
それを聞いてアキトの歩みがピタリと止まる。
「ん?ネルガル・・・・!!そういえばネルガルのビルがあった!!」
急いで街の案内板まで行き、現在地を確認する。
大体の住所は覚えていたので目線を辿っていくと・・・・あった!!。
遠くない、走れば十五分ぐらいで着く。
「よし、エリナさんかプロスさんに連絡が取れれば何とかなるだろ。」
道順を覚えて走り出す。途中何人かとぶつかったが、軽く謝るだけで立ち止まらなかった。
・・・
・・
・
着いた。
「はぁ、はぁ、つい・・・た
しかし、何か・・・」
その先を口に出すのは失礼だと思い、言わなかったが心の中で呟く。
「(何か、規模が小さい。いや、ボロくなったなぁ。)」
過去この地にあったビルより格段に大きさも外装もこじんまりとしている。
「落ち目になったのかな?まああまり関係ないけど。」
アキトは恐る恐る中へ入っていった。
果たしてプロスかエリナに会えるだろうか?
自分が過去から来たテンカワアキトだと信じてもらえるだろうか?
わかった途端またエリナに実験動物にされないだろうか?
様々なことが頭の中を駆けていった。
「そうですか、この公園の中には装置そのものどころかあった形跡すらないのですね?」
課長が寄越した人間がカワサキと話している。
「はい。しかしカワサキさん、ボソン反応が誤報かもしれませんよ?」
「いや、それはないでしょう。課長が言ってましたから。あの人があそこまで言うなら誤報ではない。」
男は顔には出さなかったがいらだった。カワサキはいつもあの課長を高く買っている。
本来課長の地位はカワサキがなるはずだったが、「私はあくまで研究者ですから」と言ってあっさりその椅子を蹴った。
蹴られた椅子は自分の所にまわってくると信じていたが違った。目の前の男のせいだ。
あの女を推薦したからだ。だからなのかカワサキが課長を高く評価するようなことを聞くといらだってくる。
二人は現場検証を終らせた。やはり物証は何もない。
「となると考えられる可能性は、A級ジャンパーですか。
跳躍門も何もないならそれしか考えられません。」
カワサキは地面を見ながら言った。
すると男の顔色が変わる。悪い方向へと
「しかし、A級ジャンパーが絡んだジャンプ実験は関係者皆たいてい死刑ですよ?
それをボソン観測装置がついているってわかっている街中で無防備で行いますかね?
いくらなんでもそれは・・・」
カワサキはしゃがんで土を一握り手に取る。
「?何を・・・!っていきなり何するんですか、土を!あーあ、服が汚れたじゃないですか。」
思わず叫んだ。無理もない。いきなり土を服に投げつけられたらそうなる。
男は手で叩いて土を払い落とす。が完全には取れずうっすらと土色が残った。
それを見ながらカワサキはしばらく沈黙している。
「・・・・・・(さっきの青年・・・)
いいですか、可能性がそれしかないのなら受け止めてください。
おそらくはA級ジャンパーが跳躍に関与してます。出現地点はここ。
質量と運び出した形跡がないことからおそらく人間でしょう。
たとえどういう理由だろうが跳躍技術は危険な物。
跳躍技術が確立しつつある現在、新たなる秩序のため何事も見逃すことはできないのですよ・・」
それを聞いて男は顔を歪める。
たまにカワサキは使うのだ。「新たなる秩序」という言葉を。かの草壁春樹が演説の際多用した言葉を。
それを言う時のカワサキの顔を見ると背筋が寒くなるのは気のせいだろうか?
「では残りの検証と手続きはやっておいてください。私は一度自宅に戻って着替えてから本部に行きます。
どうやらクリスマス祭りは来年にお預けみたいですね。」
そう言い残してカワサキは公園をあとにした。
あとがき
どうも、フッキです。
第一話、未来です。本当は未来の世界観をほとんど出そうと思ってたのですが・・・うまくいきません
見慣れない単語などもあるかと思いますが、その辺りは物語の後々で明らかにしていきます。
しかし話が進みません。他のSSでは逆行してからネルガルに行くまでわずか数行ほどなのに・・・
いつになったらアキト以外のナデシコキャラが出てくるのやら・・
では感想、批評などよろしくお願いします
代理人の感想
うーん。世界観つーか、世界設定を見せたいなら全然情報が不足してますよねぇ。
フッキさんが見せたかったのは一般の「雰囲気」なのでしょうが。
物語において読者の代理たる主人公、つまりアキトに情報を伏せたまま、
一方で読者に情報を与えるというのはかなり難しい事かと。
世界の情報を読者に与えたいなら、アキトに体験させることによって読者に追体験させるのがやはり正道でしょう。