第四話 しばしの『別れ』
ナデシコを降りる三時間前。
俺は鏡の前で考え事をしていた。
つながっている、何もかもがつながって――――
バスコーーーーーーーン!!
バチコーーーーーーーン!!
「ぐげぇ!」
「何アレなこと呟いてるのよ!」
また思ったことが口に・・・・でもマリコさん、いきなりダブルハリセンはキツイッス。滅茶苦茶痛いんですよ、それ。
まぁ、自分でもアレだと思うけど。
けど、すべてが上手く行き過ぎてないか?状況の悪い時に限って何かが起こる。
「あんたまた髪が元に戻り始めたわね」
「そうなんすスよね。出発する前にまた染め直さないと」
俺の自慢の銀髪君。実はこれ、地じゃなくて染めてたりするんだよね。今はその色も落ちて灰色っぽくなってるし、根元は元の黒になっちゃってる。
バランス悪いよな。不良高校生じゃあるまいし。
「で、リアムとキュールは?」
「臨時隊長はトンズラ、キュール一人で説明を受けてるわ」
あらら、ご愁傷様。
俺達はイネスさんからユリカさん暴走のことについて説明を受ける予定だったのだが、辞退した。俺と姉御は。
ここだけの話マリコさんは歳喰って―――
バスバスバババズバッ!!
「あ、新手のコンボッスか?」
「ふっ・・・オーバードラ―――」
バチコォォン!!
ハリセン一閃!
姉御もアレなことやっちゃいけないッスよ!
「・・・・・フッ」×2
まあ一歳しか歳は違わないんだよね、実は。でも歳喰ってることには変わりはないよな。
「あんた、また失礼なことを?」
「考えて無いッス」
とにかく辞退した俺達以外、つまりリアムとキュールが説明を聞きにいったわけだけど、リアムはさっきの通り。
精神は大切にね!!
「ちぃ〜〜〜〜〜〜〜〜ッス」
グエッ!俺に幽霊の友達は・・・ってキュールか。
「何で皆逃げちゃうんですか〜〜〜」
「だって戦力がゼロになったらしょうがないし尊い犠牲ってことで、ね?」
うんうん。いいこと言うね、マリコさん。
犠牲は最小限に。行動の基本だろう。
「とにかく、君の事はどうでもよろし。400文字以内で明確に述べよ!」
うん。ギリギリだよな。
ハリセンを抱えたマリコさんが視界の端に納まっているけど、OK!OK!!そのくらい気にしてちゃ始まらないさ!!
「じゃあ簡潔に・・・・」
いろいろ面倒なことになってるな。
ユリカさんはどこぞやでジャンプしたテンカワの表層意識を感じ、それを脳裏に焼き付けられたと。
テンカワは艦長やナデシコクルーを拒絶しているからな。心の奥底では遭いたいと願っても表層はそれを否定する。だから表層しか感じなかったユリカさんは俺達が敵だって言い出した・・・・か。
推定の域を出ないって言ってたけど、これで間違いないだろうな。
跳んだ位置に関しては全然分からないそうだ。
地球全域の測定器からのデータでは何処にもボース粒子反応は無かったらしい。
ボース粒子を出さずにジャンプアウトすることは無いし・・・・火星か月、木星のどれかだな、良くて。
太陽系外へ跳んでたら探しようが無い・・・・
俺達は過ぎたことを祈ることしかできないんだよな・・・・・。
「気にしたって仕方が無いわよ。それより、役割の分担が先決ね」
「だったらもう決まってるじゃねぇか」
いつの間にやら部屋の中に居たリアムが言った。
逃げたくせに、偉そうに。
「お前もな」×3
いや、そりゃそうだけどよ。口に出る癖、直さないと・・・・
「マリコはネルガル諜報部員と協力してテンカワ・ユリカの捜索。俺達はクリムゾンの施設に突入してヤマサキの誘拐だ」
やっぱりいつも通りですな。
強行突破は俺とリアム、それに隊長、諜報戦や単独行動はマリコさんの仕事、裏道からの侵入はキュールの仕事だ。
一小隊五人、ちゃんと役割が分かれている。
お互いを信用しているし、頼りにしているからな。
「仲間を信用する。信じて頼ると書いて信頼だ。良い言葉じゃないか」
マリコさん、また口から出ちゃったんですか、俺?でもそれ、言ってて恥ずかしく無いッスか?
髪を染め直した俺はウリバタケたちと持っていく装備の確認をした。病院で使用した『エクスプロード・ショット』は一人につきマガジン十個分、二百発だ。
通常弾はその倍、これを携帯時に割り振って持っていく。エクスプロード・ショットは反動が大きいからあんまり連射できないし、何より銃身が持たない。だから必然的に通常弾を多く持ち歩く。
強行突破用にもらったのがロケット・ランチャーを三つ(何処に隠し持ってたんだ?)とショットガンだ。
後は現地調達。
これで体内通信処置を受ければ――
バチコーーーーーーーーーーーーーン!!
「またアレなあっちの世界に行くな!」
「相変わらず反応が良いッスね」
「相変わらず口に出る癖が直らないわね」
「・・・・・フッ」×2
こんな会話をするのも、しばらくお預けか。
「アカツキさん、ヤマサキの居所は?」
「ああ、もうバッチリ分かってるさ」
格納庫の隅で整備員の遊び相手をしていたアカツキさんは俺の質問に血だらけの顔で答えた。
よほど面白い遊びだったらしいな、うん。
それでもカッコつけようとしているあたり彼らしい。
「ヤマサキ博士はアフリカにある地下施設に保護されている。ざっと地下三百メートルってところかな?」
なるほど。アースクレイ――――
ボゴッ!!
無様にも顔面から床に叩きつけられてしまった。リアムに。
「またアレなことを」
だからって脳天から345kgと書いてあるハンマーを叩きつけなくても・・・ってか何処から拾ってきた、そんなもの。
「自前さ」
どこか自慢げに言うリアムを、冷や汗をかきながら見つめる俺。
「自前、ね・・・・」
せめてハリセンにしてくれよ相棒・・・・・。
「とにかく、彼はそこの最深部にて研究活動を続けているんだ。ネルガルとしては研究資料ごと奪ってきて欲しいんだけど」
「んな余裕あるかボケッ」
「いいんだいいんだ。僕なんてさ・・・・・・」
ほっとこ。
俺達が居るのは北京から北百キロほどの地点。施設内からヤマサキを見つけるだけで大分時間を喰いそうだな。
性格はともかく、奴の頭脳は貴重だからな。
「リアム隊長」
艦長自らお見送り。他のブリッジ面々は来てないな。まあ、あんまりしゃべったことも無いんだけど。パイロットはさらさら知らない。ほとんど訓練機に乗ってるし、戦闘時俺はユリカさんの護衛に戦闘待機、向こうは出撃準備でエステの中。
「ユリカさんに、アキトさんの本当の気持ちを伝えて上げたい」
「大丈夫ッスよ!俺達が必ず見つけ出します!!」
「ありきたりな台詞ですが、復讐は何も生まないんです・・・・」
そう呟いた艦長は、いつもより小さく見えた・・・。
そして、俺達はナデシコから降り、ネルガルの輸送機に乗っている。予定では施設の北五十キロ地点に降下し、そこから地上に待機してあるホバーカーで施設まで向かう。まあ気づかれないギリギリが十キロ地点だろう。そこからは徒歩。
地道な作戦だな。ボソン・ジャンプが使えないことがここまで不便だとは。
俺達のしゃべる声だけが響いていた。
「なぁキュール、ヤマサキはそこで何の研究をしてるんだ?」
「さあ、ただ人体実験であることには間違いなさそうです」
「またかよ」
あいつの今までで一番の功績、それは木連時代に造り上げたB級ジャンパー処理技術だろうな。
奴のおかげで火星人以外が跳ぶことが可能になったんだから。
それでも、奴の人体実験で死んだ人間は四桁に近いらしい。
大まかな処理を全員に施してふるいに掛け、その後で細々とした実験を行うのが奴のやり方だ。
気に喰わないな。見付けたらその場で射殺しちまいそうだ。
だけど、任務だからな。私怨じゃ何も救えないんだ。テンカワ・アキトが一番それを証明している。
それから二十時間が過ぎ、俺達は降下ポイントに到着した。
「じゃ、行きますか!!」
真っ先に俺がダイブした。二分ほど落ちたところでパラシュートを開く。
まさかと思うが、パラシュートに穴はあいてないよな。槍で突付いたような穴がさ。
見事なくらい万事予定通りにホバーのある場所に着陸した俺達。中型ホバーが一台だ。三人で乗るから結構快適。
そして俺達は施設の入り口まで来た。岩砂漠で、そこら辺岩だらけだ。施設の入り口を隠すにはいいが、逆に俺達も隠れやすい。
見晴らしが良い場所よりよっぽど安心だ。
岩陰からざっと見たところ、見張りの兵が三人。全員殺して騒ぎになると面倒だ。すばやく俺達は兵士の後ろに回りこむと、全員気絶させた。このくらいは手刀の一発で十分だ。
倒れた奴のポケットをあさってカードキーを奪うと、手早く中に入る。
恐らく奴らも日射病とか脳震盪ってことになってるだろう。俺たちの姿は誰にも見られてないんだ。監視カメラからも死角だったしな。
そして、俺たちはヤマサキを捕まえるべく、行動を開始した―――
代理人の感想
いや〜、さすがに三人とも脳震盪とか日射病ってのはないと思いますが(爆)。
それはともかく、反則的な能力を手に入れてしまったユリカ、しばらく出番なしっぽいですなw