第五話 廻る『策謀』




 施設に潜入できた俺たちは何事も無く階段を下りていった。一階の天井は大体三メートル。約地下百階ってところまで階段で降りなけりゃならんのよ。


 しかもその階段は十階ごとに別の位置に・・・・・緊急時にどうすんの?


 とにかく俺たちは地下二十階の階段を降り終えた。ここから次の非常階段まで通路を通っていくしかない。天井裏はどうもジメジメしてて嫌だからさ。


「行くぞ」


 へいへい、隊長代理。


「一言余計だ」


 さいですか。


 物陰に隠れながら慎重に奥へと進む。階段同士は全くの反対側に設置されているんだよね。そんでまぁミスってのは誰でもするわけで・・・・・。



 カラァン


 ヤヴァッ!!

 俺が落っことしたのは予備のマガジン。しかも直ぐに来た警備兵に見つかってしまった。俺たちの姿は見られていないけど、アレにはネルガルのロゴが入っている。

「何だ、これ・・・」

 拾うなって言うほうが無理かもしれんが、自分の不運を呪ってくれ!!



 物陰から飛び出した俺はまず腰の通信機を破壊する。飛び出した勢いで狭い通路を転がり、仰向けの状態から今度は眉間へ銃を向け、引き金を引いた。


 パシュッ


 モチ、サイレンサー付き。誰にも気づかれていない。

 ふう・・・

「『ふう』じゃねぇよこのヴァカ!!」

「何をしてるんですか先輩!!」

 むう・・・

「ごめんなさい」


 その後ものの見事に死体と血糊が見つかったらしく警戒警報が出てめでたしでめたし。


「アホッ!!!!」×2



 そんなこんなで非常階段は閉鎖。俺たちはフツーの階段で降りることに。エレベーターで降りたら袋ってのは勘弁だしね。


「見つけたぞーー!!」

 何とまぁ早いこと。てかこの施設普通の十倍くらい人員が居るんですが、何か?

「うるせぇ!!」


 とりあえず俺達全員の怒りを買ったその男、見事にエクスプロード・ショットで頭・心臓・腹部が吹き飛んで絶命しました。

 合唱。

 とまあ、呼ばれたもんはしょうがない。強行突破!!背中のリュックからもう一丁の拳銃を取り出し、二丁拳銃モード!

 けど、正気か?

 明らかに幅二メートルの通路に二十人ほど、前後に居ます。俺たちは三人ですよ。

 つーか挟み撃ちしたら同士討ちする可能性を考えないわけ、あんたら?

 でも、敵さん全員マシンガンを持ってる事実は変わらない。

「おとなしくしろ!」

 隊長らしき人のお言葉。でもね、悪役の見本みたいなこと言っててむなしくない?

 それでおとなしくスりゃ特務部隊は要らんぜ!

 キュールとリアムが同時に飛び出した。両方改造済みの拳銃を使っている。同時に二発出る代物。上手く使えばトリガー一発で二人殺れる。俺は真ん中で動かず、両方の援護だ腕を左右に伸ばし、トリガーを引きまくる!!


ババババババン!!!

「うわぁ!!」

「ぎゃぁぁ!!」


 悲鳴が上がったのは当たった証拠。


 もちろん何処にあたるか分かったものじゃないが、全部エクスプロード・ショットなだけにあたればどんなに良くても痛みで動けないか、即死か。

 もちろん、あいつらは当たるようなヘマは絶対にしない。

 向こうはほとんど無抵抗だった。これだけの人数に囲まれていれば安全とでも思ったのか?アホだ。


 と、言うわけで三十秒ほどで死体の山。ついでに持ってたマシンガンもかっさらって万事OK!!

「んなわけあるか!」×2



 というわけで俺たちはマシンガンを六個ゲット!


 さくさく行こうか!

 走って!走って!!走りぬいて!!ヤマサキにたどり着いた者が特務THE特―――




 バチコーーーーーーン!!!!

      バチコーーーーーーーーン!!!


             ズキューーーーーーーーーン!!!


                  ドゴーーーーーーン!!!



「あ、危ないっすね」


 明らかにエクスプロ―ド・ショットを撃ったぞ。


「あ?」×2


 怖いですよ、あんたら。
アレな言葉も穏便に返さなくちゃいけないです。



 ピピピッ


 隊長のコミュニケがなった。相手はホシノ艦長だ。

「なんですか、艦長?」

『テンカワ・アキトが拿捕されました』

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジ?

『南アメリカの支部に拘束されています。私達はそれを回収しに行きますので、なるべく早くそちらもお願いします』

「了解しました」

 それでコミュニケは切れた。

 どうやって拿捕したんだ?『闇の王子様』を。

 聞いた限り、あいつらはネットワークをハックしてすべての装備を使えないようにしてから滅多打ちって言うのが基本らしいけど・・・・・・。確かに今のご時世ネットワークが組まれていない機器なんてないし、掌握されればドア一つ満足に開かない。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・?



 後でキュールに聞いてこさせよう。イネスさんから。


 尊い犠牲は無駄にせず!

「イヤです」

 何か聞こえた?


 地下八十七階。いいかげん疲れてきたな。だけどゴールは近い!


 でもさ、ここに来るまでに殺しただけで百人近く居るんじゃないのか?


 とにかく、このあたりから各階が何区画にも分かれていて、いちいち扉をハックしてロック解除するしかない。


 こういう時に便利、もとい必要なのがキュールだ。オモイカネの時もそうだけど、電脳戦のエキスパートだからな。


 アクセスには十分程度掛かるから、その間俺たちは追っ手と遊ぶ・・・・・じゃないな。追っ手の注意を引き付ける役。



 エクスプロード・ショットはもったいないから通常弾をぶっ放す。


 また三人ほど獲物が来た。

 ここは通路の突き当たりの場所で、逃げることは出来ないアーーーンド、隠れる場所が無い。

 でも、ここは専門家。花火を仕掛けてある。

 奪った六つのマシンガンにセンサーを取り付け、壁に固定する。センサーの前を通るとモーターが巻き取られ引き金を絞る。つまり、自動で迎撃してくれる。弾のある間は。普通に行けば十分持てばいいほうの仕掛けだ。

 花火にやられて半死半生のガードの頭を暇つぶしにぶち抜いた時に、扉が開いた。




 何ですか、これ?

 怪しげな光りを放っている巨体、大体身長は二メートル半はある。右手にはガトリング砲、左手にはバーナー、特殊な場面で用いるレーザーカッターもついている。

 ありきたりな言い方をすれば、『サイボーグ』って奴?

 頭部にあるのは映画なんかでよく見かける機械仕掛けじゃない、人間の顔だ。手足にも生身の部分がある。

 これって、ヤマサ―――


 ズガガガガガガガガガガッ!!!!

 警告もなしにガトリング砲をぶっ放しやがった。見覚えはある。陸軍の演習で使ってた毎分八千発のシロモノ。

 俺とリアムは横に避けたが、キュールは直前まで気づいていかった

「キュール!!!」×2


 声に反応し、とっさに端末を抱えて後ろ、つまりサイボーグの方に飛んだ。


 致命傷こそ無いが、脚に何十発も受けた。まともに動けないだろ。

 俺と隊長は同時にサイボーグの方に飛び、隊長はキュールを、俺はサイボーグにプラスチック爆弾を貼り付けた。そしてもう一回飛び、爆風のギリギリで避けられる場所に来ると、点火スイッチを押す。



 ドォォォォォォン!!!

 通路自体にも亀裂が入ってる。これだけの威力があれば木っ端微塵だな・・・・っておい!!


「生きてやがる」


 リアムの呟きは全員の心境でもあった。強化装甲のメタリックな部分には焦げ目はあれど、破損は無い。ただ、生身の部分は吹き飛び、筋肉が剥き出しになり、火傷が酷い。

 それでもサイボーグは動き続ける。

 舐めやがって!!


 俺は立ち上がると銃から通常弾のマガジンを弾き、エクスプロード・ショットの入ったマガジンに変える。二丁共だ。

 そして俺は両方とも寸分たがわず顔面・肩関節・股関節・腹部・心臓の位置に撃ちこんだ。

 撃ちながらも突進する!

 一気に横を通り、跳躍した。頭部にありったけの弾を叩き込む。そして俺はサイボーグの背中を蹴って着地した。


 これで動けるはずがねぇ!!

 案の定、そいつはそこらじゅうスパークを上げながら倒れた。

 何とか殺れたか・・・・・・・・。俺たちが安堵した時だった。


 パンパカパーーーーーン!!

 何だ、この気の抜けた音は。

 死を意識した戦いの後にこの音楽。ふつふつと湧き上がる怒りを抑えることは出来ないだろう。




『大変よく出来ました!よく僕の作った“バーバリアン”を倒せたね!あ、僕はもうこの施設には居ないから安心してね?

そして本題!こいつが機能停止状態になると自動的にこの施設は吹っ飛びま〜す!タイムリミットはこのアナウンスが終了した十分後!

そして君達にプレゼント!!

この通路の先に分かれ道があります。どちらもエレベーターにつながっていますが、片方は地上行き、もう片方は奈落の果てへ。

皆助かりたいなら二分の一にかけてね。

誰か一人でも助かればいいって言うなら分かれて乗ってね?

それと、僕はナデシコにつかまる気なんて全く無いから、よろしくぅ!

それじゃあ、また遭う日まで。グッドラック、イーグルの皆さん!!』





 ヤマサキの声が告げたのは、俺達の行動はすべて無意味だったことと、俺たちがハメられたこと。


 気に喰わない奴だったが、ここまでやるのかよ・・・・。


『あ、言い忘れてたけど、右のエレベーターの名前はインディペンデンス、左のエレベーターの名前はフリーダムね』


『ピー!ピー! この施設は侵入者破壊プログラムに移行しました。爆発まで、後10分です』



 昔、あったな、そんな映画が。大勢の人間を救うために旅立った宇宙船は、片方は墜落し、片方は英雄になった。

 俺は二人の場所まで歩くと、どうするのか聞いてみた。

「分かれて乗ろう。それが一番効率がいい」

「リアム、分かってんのかよ・・・いってる意味」

「ああ。全滅は意味が無い」

「だが、全員助かることもありえるんだよ」


 チッ・・・自分でも甘いと思うけどよ、


 何人殺しても、何人裏切ろうと、ずっとつるんでいたいって奴は居るもんだよ。


 仲間が死んだら、悲しいじゃねぇかよ。自分の身代わりによ。


 両方助かるかもしれねぇんだぞ。


「俺はインディペンデンスに乗る。お前はキュールを連れてフリーダムに乗れ」



 リアムはゲンを担ぐのが好きだ。その映画は俺もリアムも見た。





 墜落したのは、インディペンデンスだ。





「念のためだ。何かの役に立つかも知れねぇ」


 俺はリアムから蒼い石を手渡された。C.Cだ。

 ボソン・ジャンプのキー。今は、たった一人を除いて完全な無用の長物。

「なあ、シュウ。俺たちは、逃げるのも仕事だ」




 そして、俺たちは分岐路を通った。








 ドォォォォォォォォォォォォォォォォンン!!!!!!



          ドドドドッ!!!





 ヤマサキも、あの映画を見ていたんだろうな・・・・・


 俺達のエレベーター、フリーダムは地上へ続いていた。


 リアムのインディペンデンスは、奈落の底。

 キュールを安全な場所まで運びながら、俺は考えた。

 分かっているさ、復讐なんて、何も生まないんだ。

 表面じゃ分かってるんだよ。だけどな・・・・・・・・。


 俺はエクスプロード・ショットを構えると、天に向かって放った。

 雲ひとつ無い大空が、俺の心を抉る。

 サイレンサーを外した銃声も、爆音に消される。

 相棒の亡骸も、爆発で消える。


 通信士の白鳥ユキナに連絡を入れると、ただひたすら迎えを待った。

 黒煙を上げる施設を、見つめながら―――――

 

 

代理人の感想

合掌。

「実はA級ジャンパーだった」は既に使い古されているので、やっぱり本当に死んだんだと思いますが・・・。

やっぱ死んだか?