第八話 『絶望』の姿
地下へと続く階段を慎重に下りていた。現在地下七階。
これまでにあったトラップの数は二十以上。殆どが花火だった。そういうのはセンサーに引っかからなければ特に害は無い。というか俺達が解体して武器に使っている。
いくつか頑丈なバリケードがあったが、それはハイパーショットで粉砕した。
目の前にあるのも、そういったバリケードの類だ。
背負っている四つ折のパーツを取り出し、組み立てる。構造はテントの骨組みとさほど変わらない。組み合わせると、長さ1.5メートル、重さ十キロのレールガンになった。
装弾数を削ったため一度に装填できる弾数は三。今まで使った弾が二発。このマガジンもこれで空だ。
「下がってろよ」
俺が言うまでも無くマリコさんもリュウジも俺の後ろに居る。
引き金を引くとウリバタケ曰く初速百二十キロの弾頭が飛び出した。階段の上から撃ち、爆風が来る前に階段の影に隠れた。
ドオォーーーーーーーーーーーン!!!
ミラーを使って破壊を確認すると、H・Sを折りたたんでエクスプロード・ショットを構えた。
ミラーに移っていたのは破壊されて大穴を空けた壁と・・・・・五体のバーバリアン。
瞬間的にだが、武器も確認した。全員両碗ガトリング砲だ。
・・・・・・アレってバルカンレイ―――
バグシッ!!
マリコさんに銃で思いっきり頭を叩かれた。
「アレなことは還ってから聞いてあげるから、如何するかを考えなさい!!」
「そうです、はい」
むやみやたらと廊下に出たら蜂の巣。もう一度ミラーで確認したが、動く様子は無い。幅三メートル程度の通路にガトリング砲を構えて立っているだけだ。
「ちょっと下がってろ」
俺は助走するのに十分なスペースを空けさせた。
「・・・やるっきゃないって!」
俺は一目散に廊下に飛び出し、適当な奴の目を狙って撃った。同時にガトリング砲をぶっ放しはじめるバーバリアン達。だが俺は弾がこっちまで来る前に壁を蹴って階段のところまで転がり戻った。
その次の瞬間には壁を蜂の巣にする弾丸の雨。
「た、ただいま」
「お帰りって素直に言えるかヴォケ!!」
「突破するにはタマ張るしかないでしょ!!」
・・・・で、弾切れって言葉、知ってるか、アンさん。
飛び出してから十分間、全く弾が止む事がありません。おかげで飛び出すに飛び出せない。タマ張るっつっても自殺はしたくないしなぁ・・・
で、気になった俺はミラーで観てみると、分かりましたさ。弾切れしない理由も、動かない理由も。
あいつらパイプみたいなモノで壁と繋がっている。そこから弾薬の補給を受けてるんだろう。繋がってる限り弾切れとは無縁だ。動けないのも道理だけど、動く必要も無い。
「研究区画まで後何階下りる?」
「そこまでは後十五階ほど下りたフロアです」
「ここを正攻法で通るのは無理だな。やっぱ時間を掛けてでも上を通ろう」
反対意見は無い。隊長命令以前に命は大切だからな。
「じゃあ、穴空けるぞ」
さすがに二メートルしか離れていない天井にH・Sは自殺行為だろう。
プラスチック爆弾をセットして、天井を爆破した。
あとは天井の隙間に潜入すれば良い。
俺たちは天井裏を通ってバーバリアンを突破した。
バーバリアンの真後ろから通路に戻ったが、気づかないあたり、元は人間でも機械は機械だということだな。
後で何があるか分からないから離れたところから破砕弾を叩き込んでやった。見事に吹っ飛んでくれて、ストレス解消にもなったしな。
気を取り直して階段を下って地下十階。
ここは図面だと階段を下りて直ぐが食堂になっている。仕掛けも何も無く、タダの食堂。このフロア全体が食堂で、次の階段まで二十メートル。
エレベーターは階段の横。不便だな、こういう時は。
ゴーグルを通した視界には赤外線のセンサーは写っていない。熱を出すブロックを投げたが、これもシロ。どうやら安全なようだ。
「アローフォーメーション。リュウジはレフト、マリコさんはライトを頼む」
「了解」×2
ゆっくりと進み、結局何事も無く次の階にたどり着いた。
地下十一階、ホール。
特に何も無い、憩いの場のような場所だ。照明も明るめで、観葉植物もある。中央には公園にあるような円形の噴水があった。
「ここで一休みってか?」
リュウジが独り言のように言ったが、実際には何が仕掛けてあるか分かったもんじゃない。
パンパカパーーーーーーン!!!
唐突に、あの音楽が鳴り始めた。施設の時に聞いたあの音。
忌まわしい記憶しか引き出せない音だ。
『こうやって面と向かって遭うのも、あの時以来だね』
何処からか聞こえてくるヤマサキの声。
「ここさ」
噴水の裏から現れたのは、紛れも無く、ヤマサキだった。
「わざわざ捕獲されに来るとは、殊勝だな」
嘲りに怒気を混ぜながら俺は言った。
「言ったでしょ。僕はつかまる気なんて全然無いって。その証拠に、護衛も居る」
奴が引き連れていたのは一体のバーバリアン。だが、他のものとは違い二メートル程度の身長しかない。ガトリング砲が装着されるべき場所には装甲を施したと思われる腕があるだけだ。後期型か?だとしたらマヌケだな。遠距離武器も無しに護衛も出来るかよ。
「飛び道具も無しに戦えるかって思ってるでしょ?」
「当たり前だろ。バーバリアンなんていう動きのトロイ奴が護衛とは恐れ入るな」
「それはどうも。でも、こいつはバーバリアンじゃない。アルティメットを追求した一つの形さ。名前は“ヴィル”とでも言おうかな」
「ヴィルだかウィルだか知らんがよ、お前がここに出てきたイコールつかまるってことなんだよ」
その通りだ、リュウジ。俺はあいつを逃がすつもりも、訳のわからない護衛に負けるつもりも無いんでね。
「そうそう。ヴィルは造るのに結構苦労したんだよ」
ヤマサキは飛びっきりの笑顔を見せた。
「何せ格闘戦を重視したサイボーグだからね。素材選びが重要でさ。そこで目をつけたのは某巨大企業のSSの一人さ。スカウトに苦労はしたけどね」
・・・・・・某巨大企業だと?
「タカマツ君なら知っているはずさ」
ヤマサキが握っていたスイッチを押すとヴィルの顔面を覆っていたフェイス・ガードが外れた。
中から出てきた顔は・・・・
「月臣さん!!貴様、月臣さんに何を――」
「木連式柔術の使い手。手に入る限りでは最高の素材だったよ。僕の研究の下積みにしては、ね」
ヤマサキ!!
バァァーーーーーーーーーーーン!!!
ホールに銃声が響いた。俺の放ったエクスプロード・ショットはヤマサキの頭部を跡形も無く消し去る・・・はずだったのだが、頭と身体は繋がっていた。
弾丸を弾いたのだ、月臣さんが。
「そうそう。ヴィルの外部装甲は特殊なナノマシンで構成されていてね。空気に漂っているゴミなんかを集めて膜を作るんだよ。そうすればダメージはやわらかくて済むからね。
そっちのエクスプロード・ショットだっけ?そんなものは効かないよ」
また新発明かよ。ギリギリ実用に耐えるレベル、だと良いんだけどな。
「当たり前の話、ナノマシンは自己増殖するから何発撃ったって一緒だよ。
テスト型なんだけど予算いっぱいもらったからね。それこそナデシコ級戦艦が出来るくらい。だから、負けないよ。じゃあね〜!」
それだけを言いに来たって言うのか!?
ふざけやがって、お前何なんだよ!!!
「アレな台詞のお仕置きは後!とにかく、月臣さんを何とかするよ」
『言い忘れてたけど、一応脳は生きてるし、そっちの言葉も聞こえてるはずだから
でも安心していいよ。痛覚は無いからね』
「人間かよ!?テメェ!!」
『何を研究してるのか、ラボまでこれたら教えてあげるよ』
月臣さん・・・じゃない。ヴィルが飛び出した。恐らく軽量化した素材。殆ど昔のままのスピードで近づいてきた。
俺は紙一重で何とか避けると、二丁拳銃で迎え撃つ。
バァァーーーーーーン!!
バァーーーーーーン!!
二発の弾丸は間違いなく頭部に突き刺さるはずだった。
だが、その弾丸は今ヴィルの足元にある。
空中で叩き落したのだ。月臣さんの身体能力と強化された皮膚。
そのくらいはわけないか。
俺たちはヴィルを取り囲んでエクスプロード・ショットを撃ちまくった。
三人分、俺だけ二丁拳銃だから都合八十発の弾丸が叩き込まれていた。月臣さんの足元に・・・・。
弾を撃ち尽くした瞬間、月臣さんはリュウジに肉薄した。
ゴッ
瞬間的に銃を前に出して防御しようとしたリュウジだが、それさえ紙のように破壊され、拳が腹部に直撃した。
そのまま壁際までヴィルはリュウジを持っていき壁に叩きつける。ほんの一秒くらいの間だった。
瞬間的に俺は銃を捨て、ハイパー・ショットを構えた。弾の無くなったマガジンを捨て、『散弾』を入れる。
マリコさんはこっちに注意が向くように、弾丸を放っている。
動かなくなったリュウジを捨て、こっちに突撃を掛けてくるヴィル。
散弾の命中する角度からリュウジが離れたことを確認すると、一発目を放った。
一発の弾頭から放たれる小さい鉛弾は三百発程度。
おおよそ避けられるようなモノじゃない。
普通なら、ね。
身体が金属で覆われている上に、木連式柔術と抜刀術の皆伝を持ってる人だ。撃った瞬間に視界から消え、残ったのは蜂の巣になった噴水。
そして、マリコさんの悲鳴。
マリコさんも同じように腹部をやられて壁に叩きつけられていた。
残るは俺一人。
あんまり乗り気じゃない、な。
「兄さん、もう少し考えてスカウトされてくれよ」
一人心地にしゃべりながら、俺は次に討つべき手を考えた―――
あとがき
感想を送ってくださった彼のΣさんありがとうございました
管理人の感想
ファングさんからの投稿です。
いやー、今度は月臣が犠牲者ですか?
しかも、まだ山崎は隠し玉を持っている様子。
・・・さて、奴の行ってる実験とは何でしょうかね?