第九話 『真意』は何処に
月臣さんは相手が俺だってことを認識しているんだよな、あいつが言うには。
そんなことを考えているうちに腹部を狙った拳が繰り出された。紙一重で避ける・・・ことが出来なかった俺は左腕にまともに受けてしまった。
「グッ！」
痛みをこらえ、体制を立て直すとヴィルの背後に回る。エクスプロード・ショットをかまえ、セオリー通り関節を狙って放った。
だが、それもむなしく反転したヴィルに避けられた。
同時に死んだナノマシンが粉のように床に落ちる。
「少しは黙ってくれよ、月臣さん！！」
聞こえてるんだったら根性で何とかしてくれって！
残っているマガジンは残り四つ。全部で八十発だ。
ハイパーショットは撃つ前に殺られる。肉弾戦・・・論外だ。何とかしないと・・・・
「サイボーグ相手に組み手か・・・」
銃をしまうと、木蓮式柔術・壱の構えを取った。木連時代に何とか使えるレベルになったのがこれだけ。月臣さんは弐の構え、参の構えも楽にこなせる。
壱の構えなんてたいそうなことは言っても、基本的にはファイティングポーズと大差は無い。
繰り出される拳の連撃をギリギリで交わす。銃を持ってる時と違って全身でバランスを保つから回避は楽だ。『疾風のシュウ』の名前も伊達じゃあない。・・・・・銃の腕前で付いた二つ名だけどね。
けど、達人相手にはそんなもの関係は無い。上には上が居る。俺のスピードも月臣さんの、本気とは比べ物にも・・・・比べたら失礼だな。
世間では良く言ってようが、俺は月臣さんには及ばない。
月臣さんを目標に自分を磨いてきたが、パイロットへの転向を機に俺は暗部へ転向した。
格闘家としてはハンパなところで終わった俺と、戦争終結後テンカワと共に鍛えた月臣さん。俺が勝つ可能性より万馬券を当てる可能性の方が高いだろうな。
奇跡、起きてくれ！！
「はぁッ！！」
繰り出される掌底を、息を吐きながら屈んで避ける。同時に地を蹴ってヴィルの死角へ移った。
だが、コンピューター制御が感じることの出来ないハズの気配』を感じるかのように、裏拳を叩き込まれた。まともに喰らったら肋骨粉砕くらいは言っていただろうが、何とか飛びのいて衝撃を和らげる。これでも俺たちは潜入用の特殊防弾繊維製の服を着てるんだけどな。
エステと同じだよな、基本は。人間のカメラアイ、つまり目は二つ。ヴィルは全身いたるところにカメラアイがある。機械の身体だから出来る芸当だな。気配以上に正確な情報を身体に伝えるだろうから。
よろめいたところにもう一度反対から裏拳が来た。下手に体制を立て直すと直撃。俺は素直にその場に倒れ、バク転して後ろに下がった。
骨が悲鳴をあげたような気がするが、かまっては居られない。
バク転ついでにアゴを蹴り上げたが、よろめきもしない。
起死回生、というよりも、バクチに近い気分で手榴弾を床に投げつけ爆発させた。それは目くらましになってくれる・・・はず。だけど、やっぱ甘い考えだったな。
サーモセンサーで俺の位置はバッチリだろうしな。良く考えれば殆ど意味が無かった。
だったら、覚悟を決めて・・・・
準の当て、行くッス！
準の当てっていうのは相手の攻撃を避けて当身を入れる攻撃。カウンターだ。自分から行く真の当てよりは勝機はあるだろう。
俺は壱の構えを取る。何とか持ち直した左手を前に出し、右手には特殊な武器、ショック・ナイフを取った。ショック・ナイフは刃に電撃を通す武器だ。
スタンガンの出力が安定しないのと刃の切れ味が落ちやすいのが欠点で、改良中だとウリバタケは言っていた。その中でも一番安定していたプロトタイプの一つを借りてきたんだ。
・・・絶縁だったらどうしようもないな。
・・一・・・二・・・・三・・・・来る！！
月臣さんが動くと同時に俺は突撃し、直前で床を蹴って後退し、もう一度床を蹴って突進した。
タイミングを崩された月臣さんは一瞬、一瞬だけ隙が出来た！
「神、祈る！！」
叫びながら、俺はナイフを左脚の関節に突き立てる！同時にセンサーが反応し、電撃が流れた！
―――バチッ！
関節パーツの一部がショートしたらしい音を上げ、火花が出てきた。
ナノマシンでもさすがにガードしきれないだろう。
「うっしゃあッ！！」
瞬時に銃を抜き、スパークを上げた場所目掛けてマガジンに残った弾尽きるまで撃つ！！
寸分の狂い無く飛び出した弾丸は切り口を正確に撃ちぬいた！
バンッ
火花は爆発になって完全に左脚が半分になった。マトモな攻撃は出来ないだろう。
「・・・月臣さん」
銃を懐に戻し、俺は歩み寄った。
パンパカパーーーーーンッ！！！
「何だ、ヤマサキ！！」
『何だは酷いじゃないの？もうそいつは役立たずだから、最後くらい会話させてあげようと思ったのに』
「何ッ！？」
『じゃあ、心温かな僕はナノマシンを通して音声出力して上げましょう♪』
『久しぶりだな、シュウ』
マジでやりやがった。
「あ、ああ。兄さんこそ、クリムゾンの方が給料良かったのか？」
『嫌味はいい。俺のミスだ。それと、いまさらだが兄さんは寄せ』
「兄弟子のなんだからさ、良いじゃん」
『・・・・フッ』
「時間が無いんだ。ナデシコに有益な情報ってのがあれば、教えてもらいたい」
『ヤマサキのバックについているのは・・・・いや、ヤマサキを使っているクリムゾンじゃあ無い・・』
・・・え？
『・・・・殺すな、ヤマサキは』
「クリムゾンじゃあ・・・・無い？」
『奴の研究は――――』
『もう良いでしょう？それじゃ、お別れッ！』
「ヤマサキ、テメェ！！」
『不味い！離れろ、シュウ！！！』
ドォォーーーーーーーーーーーン！！
とっさに俺は引いた。直後、プラスチック爆弾数キロが爆発したような爆発が起こった。
「ぐ・・・」
何とか直撃は避けたが、潜入服、通称スニーキングスーツがぼろぼろになり、破片が身体に突き刺さった。
ダメージを受けた左腕に追い討ちをかけて突き刺さった骨組みらしきパーツを引き抜き、右足に刺さっていた金属片を一つ一つ抜いていく。
「ヤマサキ、この糞外道が！！」
『改造する時にちゃんと言ってあげたよ。極秘事項だって』
「ふざけるな！！」
直後、咳き込んでしまった。
今になって気づいたが、熱風を吸って気道が軽く焼けたらしい。
それだけ爆発がすさまじかったってこと、だな。
「ヤマサキ・・・・待って、やがれ―――」
マリコさんとリュウジを何とか物陰、安全そうな場所に持っていき、装備をガメた。簡易止血剤で何とか血を止め、包帯を巻いた。
でも、頭がクラクラするな。爆音直撃だったから平衡感覚とか、とにかく耳が変だ。
二人にメモを残して俺は研究区画へ向かった。気付く前に終わってるか。
外道ニハ、外道ニ相応シイ最期ヲ・・・・・・
身体を引きずりながら歩いていくが、障害となる物は何も無かった。
研究区画。ヤマサキの研究室に俺は居る。
銃口の先にはヤマサキがニヤついて立っている。手も上げていない。
「艦長の命令で、お前を捕獲する」
「ふうん？」
「だが、お前が抵抗したからやむを得ず射殺。そういうことだ」
バァァーーーーン！！
バァァーーーン！！
抵抗したから、撃った。それだけだ。その辺でくたばっているのがお似合いだ。
そう思った瞬間、目の前にあったのは、変わらず笑い続けるヤマサキだ。
「・・・・」
「不思議そうだね」
「不老不死の薬を作ったところで驚かないが？」
「そう？」
「生きているのなら、訊くぞ。貴様の研究目的は？」
「S級ジャンパーを造ることさ」
「S級？」
「そうさ。人類でただ一人、その力を持っている人物。それを知ってるだろう？」
「ミスマル・ユリカ」
「そう。そして、その能力はA級以下の比ではない。ちなみに、今はA級のジャンパー体質を人工的に作り出す実験さ。僕が撃たれても死ななかったのはさっきのナノマシンのお陰。Dフィールドを個人レベルで張ろうって言う考えの途中で出来た亜種ってところかな？」
「だったら、撲殺でもしてやろうか？」
「いや。こう見えても痛いのは苦手なんだ。注射とかね。さあ、ナデシコにつれて行けよ」
あっさりしてるな・・・
「何が目的だ？」
「・・・・僕も興味があってね。“プレート”にさ」
「・・・・・」
ドゴッ！！
「痛いの・・・は・・・」
無言で気絶させると、手を後ろで縛った。
同時に、端末から艦長に頼まれたデータをダウンロードする。
流すように頼まれていたプログラムもあったが、さっきの爆発で媒体ごとヤられちまった。データを壊す奴だろうから、とにかく壊しとけば良いだろ。
ダウンロードが終わって媒体を取り出すと、景気良くハイパーショットでぶっ壊した。
二発、三発と撃ちこんで原型をとどめない程度まで壊したところで、俺はゴミ(ヤマサキな)を担いでその部屋を後にした。
広場でくたばってる二人は俺一人では如何しようも無い。こいつを持って地上に出たら救護班を寄越そう。
身体を引きずるくらいダメージを受けた俺は途中から担ぐのをあきらめて引きずることにした。
ニ、三十回くらい奴は頭をぶつけたろうがどうでもいい。
いっそのこと首から上だけもってくか？
「ご苦労様でした」
「向こう岸を見るよりつらかったかですよ」
「・・・・」
無事にナデシコに還ってこれた。とりあえず俺は医務室に寝かされている。一つ奥にはリュウジ、その奥はマリコさんが眠っている。
「尋問は何時？」
「シュウさんが動けるようになったら直ぐ。今は薬で寝てもらっています」
「そうッスか」
「それと、プログラムは流してくれましたか？」
「ああ、どうせファイルぶっ壊すプログラムでしょうから、直接ぶっ壊しました」
「・・・・・」×２
不味かったか？
「恐らくアキトさんが見るだろうと思ってメッセージを入れて置いたんですけど」
やっぱ、不味かったな。
「死をもって償いを・・・・」
め、目が据わってます・・・・。
「ご勘弁をーーーーーー！！！」
ここが、俺の居場所。機動戦艦ナデシコC―――――
あとがき
これにて『ヤマサキ捕獲編』終了となります。次回からは『クリムゾン決戦編』です。
管理人の感想
ファングさんからの投稿です。
・・・やけにあっさり捕まりましたな、ヤマサキ？
まだまだ、何か仕掛けてくると思っていたんですが。
もし、月臣の自爆にシュウが巻き込まれて死んでれば、どうしたんでしょうね？
一人で地上に出て降伏をする姿は・・・・何と言うか、間抜けですな（苦笑）