第十話 もう一度『時間』を



 結局俺はマトモに仕事が出来るようになるまで一週間かかった。その間ずっとヤマサキは薬で眠らされてたらしいが・・・・


 ジャンキーより酷くないか?まあ、自業自得だけどな。


 俺達ナデシコは今ネルガルの本社近くのドックに入っている。

 ヤマサキの尋問とそのテのルートからの補給、俺が得たデータでの連合上層への圧力とかで忙しく人間が走り回っている。



 医務室に居た時に気になったのがやたらとリョーコさんが来てたんだよね。お陰で話す機会が増えてよかったけど・・・・・サブロウタに何か言われたが、忘れた。


 とにかく、新型エステの訓練とか言って対G訓練させられてるんだと。最大で10G以上を三十分間やらされたとか違うとか。



 今俺達が居るのは特別室の中。暗い部屋にライトが一つだけ、出入り口も一つ。机が真ん中に一つ、壁際に一つ。窓側に座っている男と机においてあるカツ丼(日々平穏からの出前)と、すべて基本通りな部屋だ。

「それでは、質問します。貴方の本当の目的は?」

 艦長が奴に聞いた。特に拘束もされていない、手錠さえない男は平然と艦長を見ている。

 男の名前はヤマサキ。俺が捕獲したド外道。友人、兄貴(月臣さんな)、その他もろもろ、こいつにかかって死んだ。

「貴方の身体にはナノマシンが注入されています。虚偽の発言、及びナデシコへ危害を加えようとした場合、貴方を仮死状態にします」

「へぇ、殺さないんだ」

「捕虜としての最低限の人権は与えます」

「どっちにしろ、答えは同じ。S級ジャンパーを造ることだよ。プレートの情報があったほうが良いと思ったからここに来たんじゃないか」

「貴方に研究の命令を出したのは?」

「クリムゾンって言ったら納得する?」

「嘘はついていないようですが、隠し事、ありそうですね」

「お見通しか」


「ラーダ・ブランという人物に頼まれてね」

「...ラーダ・ブラン?」

「草壁閣下の木連時代の使用人。実際には草壁閣下を裏から操ってたみたいだけどね」

「じゃあ、貴方はカート・ブランという人物を知っていますか?」

「ああ。彼の弟だな。僕の研究の手伝いをしてくれていた」

 カート・ブラン....確か、ハッキングしたときに“実験”の結果をLIEに運んだやつの名前だったな。

「ミスマル提督を殺害した理由は?」

「殺害?ああ、僕は掌紋と網膜パターンが欲しいって言っただけだよ。そうしたら、本物をもってくるから、ビックリしちゃったよ」

 艦長の顔がゆがんだが、直ぐに次の質問に入った。


 俺は眉間をぶち抜いて殺したい衝動に駆られてるけど....我慢だ、我慢。

「それを必要とした理由は?」



 ガチャッ


「それは僕から説明しよう」


 突然、取調室に入ってきたのは、アカツキ会長だ。秘書のエリナさんも一緒。気に喰わないガードの奴も一緒。黒服グラサン長身っていうスタイルはどうもな・・・・

「なんですか、アカツキさん?」

「ミスマル提督が狙われた理由は....僕にも責があるからね」

「へぇ自覚してるんだ?」

 ヤマサキの揶揄にも動じず、アカツキは続けた。


「火星にあった古代文明。その遺跡争奪を掛けた前大戦。同じことが、またおきようとしているのさ」

「どういうことッスか?」

「“遺跡”さ」

「?」

 遺跡、つまりボソンジャンプの演算ユニット。だけど、今はテンカワの手中じゃあ・・?

「“プレート”解析の初期段階で見つかったんだよ。.....火星自体が、一つの巨大なコンピューターなんだ。演算ユニットはその一つに過ぎない」


 火星一つがコンピューター...ねぇ。話がでかすぎて、良く分からないな。

「ネルガルが独自に調査して、今までに演算ユニットの他に四つの遺跡を発見した。すでに破損していてどんな役目があったのか分からないけどね。ちなみに破損原因は100年前に火星に撃ちこまれた核。

 そして、火星の後継者事件の後に見つかったのが五つ目の遺跡、簡単な調査の結果、それはコンピューターのハードディスクに当たるもの。恐らく、古代火星人の文明品の図面やら情報やらが残ってると予測される....」

「結構調べ上げてるんだね」

 ドガッ!

 黙れ、ヤマサキ。


 これで一時間くらいは机に沈んでるな。


「アカツキさん、ミスマル提督が狙われた理由は?」

「あんまり人の目に触れさせたくないからね。ミスマル提督たちに相談して、封印したのさ。ゲートを開くには僕、ミスマル提督、秋山君、ムネタケ参謀のうち三人以上のチェックが必要なんだ」

「そこまでして封印する必要があるものだったんですか、その遺跡は」

「もちろんだ、タカマツ君。古代火星人の使用していた兵器の情報が入っていたしよう。それが現代の科学で実現可能だとしたら。火星人が残した兵器の所在が記されていたら。それを私利私欲に走るような奴が見たら。草壁のような奴が利用したら。考えてみなよ?」


 ......そうだよな。そんなことになったら、一個人が、人類に戦争しかける事だって出来る可能性もあるんだから。

「僕としてはもう少し平和的な情報が欲しいんだけど」

「平和的?」×2

「たとえば、そう....ナノマシン除去処理方法とかね」


 バンッ!!


 艦長が突然机を叩いた。

「そんな便利な方法があれば、苦労は無いですよ...」


「そうかい?君はナデシコAで学んだはずさ。“希望は最期まで捨てない”ってね」

「!」

「ユリカ君と、テンカワ・アキトに、時間を与えられるかもしれない」

「!!」

「それと、艦長....すまなかった。ミスマル提督を巻き込む形になってしまって」

「.....ミスマル提督は、狙われると分かって、判断しました。提督の意思です」

「...ありがとう」




「ここに入るタイミングからして、確信犯か?」

「もちろん」

 にこやかに歯を光らせた。....ライトでも仕込んであるのか?

「後で何かおごらせるよ、リュウジに」

「そりゃどうも」

 一応言っておく。俺は薄給だ。.....リュウジはさらに薄給だけど。



「シュウさん、ヤマサキ博士を叩き起こしてください」

「了解ッス」

「アカツキさん、研究施設一棟借りますよ」

「ご自由にどうぞ」

 やっぱ艦長はこうでなくちゃね。

 艦長はそのまま取調室を出て行った。


「つーかさ、アカツキ」

「ん?」

「何でナデシコに居るんだ?」

「艦長のやる気を出させるのと、ファルコンを持ってくる用があったから」

「ファルコン?」

「エステバリスカスタムのテストフレームの一つ。ファルコンフレーム。高機動と火力強化を狙ったフレーム。ネルガルからのプレゼントさ
 ほら、このごろリョーコ君が対G訓練を受けてるだろ?」

「ああ」

「なにやらかにやらで対Gシステムが過負荷に耐えられない場合があるみたいだから、そのときに気絶しないように、って」

「....何か裏があるんじゃないんですか?」


「....ない!断じてない!!」


「艦長に隠し事が知れたら大変なことになりますよ?」



「ごめんなさい。正直に話します」



 一丁あがり♪




「実は、ファルコンは初期型サレナを元に作ってあるんだよ。つまり、ブラックサレナのお兄さん」

「そんなことはどうでもよろし。別な理由があるだろ?」

「ふう・・・・つい先日、ロールアウトしたファルコンの同系列機・コンドルが奪取されちゃってさ」

「へぇ....」

「で、コンドルっていうのはファルコンよりも後期に作られてるから、徹底的にファルコンの欠陥を取り除いたわけ。だから、ファルコンをもう一度調整するためにウリバタケに預けるんだよ」


 納得。コンドルって言うのを奪取されたマヌケがナデシコに助けを求めてきたってことか。

「だ、誰にも言わないでくれたまえ、タカマツ君」

「アカツキさん。俺、薄給なんスよ」

「...........分かった」

「大丈夫!俺は口が堅いほうですから。.......男には」



 言ってそそくさとヤマサキを引きずってイネスさんのところに向かった。




 なにやら後ろから絶叫が聞こえたが、気のせいだろ。






「ヤマサキ、使えると思いますか?」

 目の前に座っているブロンドの髪の女性に聞いた。

 ボソンジャンプによるタイムトラベルの経験者、イネス・フレサンジュさんだ。

 講習の人気投票で見事『長い説明はやめて欲しいで賞』を受賞した人。

「彼の頭脳は貴重よ。ユリカさんを遺跡に融合させたり、B級ジャンパー処理技術を確立したり。....人道的な面は最悪だけど、研究結果だけを見るなら、トップレベルね」

「月臣さんやリアムを殺したんだ。少しは役に立ってもらわないとな」

 言いながら銃を気絶している奴へ向けた。実弾入り、引き金を引けばこいつは殺せる。

「止めなさい、そんなこと。分かってるでしょ?復讐は何も生まないって」

「そりゃあね」

「復讐心のまま動くんだったら、ナデシコの乗員全員がこの男の生皮をはぐんじゃないかしら?」

「....その方が良いんじゃないですか?精神衛生上」

「そうね。私も、お兄ちゃんをあんな目に合わせた奴を―――」

「お兄ちゃん....ってテンカワのことですよね?何でお兄ちゃんなんですか?」

 合った当初から不思議に思ってるんだよな。テンカワがイネスさんを“お姉ちゃん”って呼ぶならまだ分かる気も..するけど。

「.....昔、いろいろあってね」

「そッスか」

 深入りはしない。深入りしすぎると、女性に嫌われるからな。




「シュウ君.....」

「んぁ、何スか?」

「ユリカさんの捜索の再開、急いでね」


「.....言われなくても、マリコさんなら回復したら直ぐ開始するって言ってましたよ」

「そう...」

「じゃあ、ヤマサキは置いてきますから。反抗することは無いはずなんで。監視はリュウジが来ます。後は交代で俺とのローテーションですから」

「分かったわ」

「それじゃぁ」



 研究室から出ると、ちょうど来ていたリュウジにタッチし、訓練棟に向かった。

 プレートに記された物が何なのか、プレートの記録は何を語るのか。


 それを知るのは、そう遠くないのかも知れない。




 訓練場に着いた俺が見たのは珍しい人物だった。エステのパイロットのリョーコさんだ。

「珍しいですねぇ」

「IFS戦闘はイメージングが命だからな。格闘戦こなすのにたまにこうやって身体動かしてないと鈍っちまうんだよ」

「そうなんスか」

「ああ...ついでだ。ちょっと実戦形式で頼めるか?」

 本職と素人が実践ですか?......いいか。暇つぶしに。

「いいですよ」






 だまされた―――――ッ!!!

 実戦形式って組み手かなんかじゃないのかよ!

 俺が連れ込まれたのはシミュレータルーム。....実戦形式...エステの。素人VS本職って..形勢逆転ですか。

 俺はパイロット用IFSを持ってないから、インスタントIFSを使う。パイロットIFSの簡易版で、一日たつとナノマシンが消滅する。訓練用とか、アトラクション用にネルガルが開発したものだ。


『行くぜ、タカマツ!』

「シュウって呼んでくれて良いけど?」


『スタート!!』


 シ、シカトですか。

 インスタントIFSでのシミュレータ戦闘は何度か経験があるから、ボロ負けにはならない....ハズ。


 俺が使用しているのはサブロウタと同じタイプのエステ。対してリョーコさんが乗るのはアカツキが言っていたファルコンフレームだ。

 資料を見たが、高速での格闘戦能力に特化した機体で、Bサレナとの戦いを想定したものらしい。懐に飛び込めば勝算があるからだ。

 機体の外見、後部スラスターには羽のようなユニットが付いていて、みたまんま鳥だ。真紅を基調としたカラーリングに、ところどころ格闘戦に耐えるために補強されたと思われるユニットがあった。その場所だけは金属色がそのままだ。

 脚部にも大型ブースターが装備されている。サレナとも十二分どころか、かなり有利に闘えるんじゃないか?



 今は宙間戦闘フィールドを再現してある。俺はエステ用ハイパーショットを構えると、一気に間合いを詰めた。

 接近と同時に接近武器が届かない距離をとって逆噴射し、ロックせずに一発ぶち込む。だが...というより、やはり予期していたリョーコさんはブースターを吹かして俺の後ろ側に回りこんだ。

 腕を振って後ろを向き、もう一度ハイパーショットを撃とうと構えたが、そこにはすでにリョーコさんの姿は無い。

『もらったぁ!!』

「下ッ!?」

 俺はとっさにハイパーショットを捨て、身軽な状態でフルブーストする。パイロットにかかるGも再現するこのシミュレータのお陰で、さっき食べたものを吐きそうになってしまった。

 ああ、このエステは対Gシステムが低いんだっけ。

 そのお陰でアッパーの一撃を喰らわずに済んだけど。


 格闘戦や射撃戦の実戦は経験があるからイメージするのは楽だが、ここは宇宙。上下左右前後三百六十度に気を配るしかない。俺は上下前後左右には慣れているが、そのぶん下方への注意力が落ちる。

 アッパーを回避されたリョーコさんのエステは俺の真上から踵落としを喰らわせようと知ったが、左手を振り上げていなす。


「リョーコさん、このシミュレーターの裏ワザって知ってますか?」

『何だ、そんなもんあるのか?』

「見せてあげますよ!」

 俺のとっておき、ウリバタケに教えてもらった技!


 次の瞬間、俺はリョーコさんの後ろに居た。突き出したナイフは見事に左腕を切断した。

 同時に反転し、中距離から腕に仕込んである小型レールガンをありったけ飛ばす。瞬時に対応したリョーコさんにはさすがに避けられたけど。

『は、反則だ!!』

「素人相手に反則は無いでしょ!!」

『ええい!こうなったら!!』






「あんなんインチキですよ、リョーコさん」

「お前が言うな、お前が」

 結局、キれたリョーコさんにボコられて俺の惨敗になってしまった。....ボソンジャンプの裏ワザまで使ったのに・・・・・


「で、アレってもう実戦で使えるんすか?」

「さあ。アレのシステム起動権限をもらってないからな、俺」

「パイロットが起動させられないんですか」

「ああ。艦長の許可がないとだめらしい」

 ゲームでしか使えないっていうんじゃ、ボソンジャンプの裏ワザと変わらないよな。

 難しいシステムだ。


 まるで金の腕で緑の石がはめ込まれたライオンと合体す―――――



 ボゴッ!!



「アレな台詞を吐こうとしたら殴っても良いってさ」


 見事に肘鉄を食らわされた俺は顔面から崩れ落ちた。

「マリコさんの入れ知恵ッスか」

 リョーコさんにまでアレなツッコミされてちゃ、たまんないッス。






 何はともあれ、ナデシコはしばらくはここから動けないな。



 艦長にまた振り回されそうな気がするけど――――

あとがき
一ヶ月ぶりの投稿です。新学期が始まって書く暇が少なくなりましたが、最期までキチンと投稿します。
ファルコンフレームは『エステ顔』の『ゲシュペンスト』に『ゼロカスタム』の羽がくっついたような形です(スパロボ知らない人申し訳ないです。





代理人の感想

つーか、なんとはなしに蒼カブトムシことビルドビルガーっぽいんですが、コレ(爆)

「コンドル」の存在も敵に奪われたビルドファルケンチックですし(苦笑)。

・・・・・うーむ。