外伝1 翼を得た乙女
夕焼けをバックに大海原の上を背景に溶けるような色の機体と海の色の機体が舞う。
俺の機体は真紅に染まったエステバリス『ファルコン』だ。
ファルコンを一気に敵機の真下に移動させ、ハンドガンを放つ!
だが、蒼い機体はそれをしなやかな動きで回避し、高度を上げた。そして急降下し、こっちに迫ってくる!!
反射的に機体を上昇させ、相対速度を上げる。ウィングを上げ、直角に近い動きで真横に逃げた。だが、蒼い機体はそれさえも予測したかのように真下からレールガンを放ち、逃げ場を無くす。それと同時に敵から射出されたユニットがファルコンの脚に突き刺さった!
「なにっ!?」
回転を始めたそれは、一瞬で脚を貫き、また敵の肩部へと戻った。
「ふざけるなよ...」
呟きながら、手元のパネルを見た。精神衛生上悪いくらいに並ぶ『出力低下』の文字。
ここで死んだら、死体は誰が拾うんだろうな....
少し話を戻そうか。
シュウと遊んで五時間くらい後だ。
突然訓練棟にアラームが鳴り響いた。兵士のトレーニング用にネルガルから軍がレンタルしている施設だから、アラームがなるのは敵の出現以外に考えられない。
けど、敵ってなんだ?
まさか、テンカワ!?
急いで俺はナデシコに戻った。ブリッジに駆け込み、開口一番、
「テンカワか!?」
と、ルリに問い質したが、反応は俺の予想...願いとは違った。
「識別不明機がボソン・アウトしました....テンカワさんじゃありません」
「待てよ、ボソン・ジャンプが出来るのはアキトたちだけだろ!?」
「そのはず....ですが」
テンカワ以外がジャンプできる...?
「ユキナさん、アカツキさんに繋いでください」
「了解ッ!」
『やぁ、艦長。お久しぶり』
「見飽きました」
『そ、それは結構。用件は大体わかるから、エステ隊出してもらうよ』
「貴方に命令権はありませんよ?」
『そうでもないよ。軍のお偉方からナデシコの命令権を買ったから、ある程度命令には従ってもらわないとね』
ああ、あのロンゲェ!!!!
「.....仕方ありませんね。リョーコさん、サブロウタさんと出て下さい」
そういや、ヒカルたちはまだこっちについてないのか。
「わ、分かったぜ、ルリ。ロンゲェ!!後でしっかり説明してもらうからな!!!」
俺はファルコンで、サブロウタはエステカスタムで出撃した。ファルコンのパイロットが俺なのは、単純にテスト成績が良かったのと、新システムをサブロウタが扱えなかったからだ。
デザインが気に入ってるから、万事OKだな。
出てみると、目の前に居たのは闇に溶けるような、それでいてブラックサレナとも違う闇を持ったような蒼い機体だった。
ファルコンと同じように翼をもっている。
「サブ、右に回りこめ!海に誘導して被害を抑える!」
『了解!』
右に回りこんだサブはオートで回避しながらレールガンを連射した。だが、ディストーションフィールドを貫くはずだった弾丸はそれに弾かれて四散した。
『信じられない強度だ!』
「チィッ!」
ファルコンを敵の直下に移動させ地表すれすれまで高度を下げる。柔らかに着地し、地を蹴って再度空を舞い、オリオンを起動させた。
シュンッ
瞬間、左腕の周りの空間がゆがんだ。
オリオンは機体を包み込むディストーションフィールドをその部位に集中させる。オリオンの装備されている左腕が全フィールド出力の八割を占める。残りの二割でその他の部位をカバーするわけだから、当然防御力は落ちる。さらに、オリオンの使用は重力波ビームの範囲内限定だ。エステとの接続中は異常にエネルギーを喰うからな。
左腕に集中させたフィールドを加速に乗せて一気に突き出した!
何度も訓練したパターンだ。敵の行動範囲を狭めるため、サブが四方八方にレールガンを放つ。
「てぃりゃーーーーッ!!」
突き出した腕は、空を凪いだ。
「ジャンプッ!?」
虹色の光と共に消えた蒼い機体はサブの後ろに居た。
「避けろ!!」
だが、俺の目の前でサブの機体は四肢を破壊された。
『生きてる....』
「ルリッ!回収急いでくれ!!」
『了解。回収班を向かわせます』
何でサブを殺さなかったんだ?いや、そんなこと、今はどうでもいい!
転進した蒼い機体は上下左右ランダムに動きながらこっちに向かってきた。オリオンを停止させ、バーニアに出力を向ける。フルブーストに近い状態で後退した。このままこっちに来れば海だ。
駆ること数十秒、海上にでることができた。
同時にエネルギー圏からもはずれる。内部バッテリーで飛んでいられるのはオリオンを起動しないという条件付きで三十分だ。
戦闘レベルで、ここまで稼働時間を延ばしたウリバタケはたいしたもんだな。
海面すれすれまで下がる。海面ぎりぎりまで下がると、蒼い機体もそれを追って一気に高度を下げた。
その瞬間を狙って、全ブースターを吹かして急上昇をかけた.・・・・・
これが、ここまでの経緯だ。
モニターに広がる出力低下の文字を見ながら敵の位置を確認した。
右下、距離は二百程度。
『リョーコさん、“スコーピオン”、使いますか?』
「このままやってても勝てる...って訳じゃぁ!なさそうだなっ!」
応えながら敵の弾を避ける。
『スコーピオン、起動プログラム・ドライブ、許可します』
画面の向こう側でルリがユキナに指示を出した。それを聞いたユキナは手元にあるカバーを外し、中のスイッチを押す。そして八桁の暗証コードを打ち込んでいった。
<スコーピオン、ドライブ開始>
無機質なアナウンスの直後。
ファルコンは、自らの縛めを解いた。
脚を覆った強化装甲が外れ、複数のブースターが露になる。さっき貫かれた脚は膝から先を吹き飛ばした。
肩の装甲は爆薬で吹き飛び、ごつごつとした質感の灰色から、機体と同じ色の滑らかで曲線的なフォルムになる。
閉じたような形のウィングは広げられ、自らの名に恥じない大きな翼となった。
左腕のオリオン・ユニットは複雑に変形し、単独で飛行する支援ユニットに変化した。
右腕のスコーピオン・ユニットは小手のような形からトンファーを逆に持ったような形態になった。
シュウとの模擬戦で使った形態が、今の状態だ。
十分。それが縛めを解いたファルコンの命の時間だ。
瞬間的に、俺は敵に突撃した。対ブラックサレナ、つまりボソンジャンプされてもこの形態ならある程度耐えられる。
理由はそのときになったら話す。分かるだろうけど。
「ていりゃぁ!!」
間合いを詰め、敵の真下に入る。身体を翻し、振り向きざまにハンドガンを放った。だが、強力なDフィールドで弾かれる。
「オリオン、ドライブ!!」
オリオン・ユニットが機体前面に移動し、フィールドを収束させる。
相手は対空ミサイルを放ってきた!何処にそんなものを隠してやがった!?
一つ一つ地道に撃ち落す。
爆煙を利用し、一気に間合いを詰めた。
バシュッ
コックピットにフィールド同士がぶつかり合う音が響く。
前面を収束・強化させたフィールドは相手のフィールドを消滅させ、それごと体当たりを喰らわせるはずだった。
だが、相手のフィールドが消滅した瞬間、ファルコンのフィールドも掻き消えた。
...悔しいけど、収束させたフィールドの強度と相手のフィールドの強度はほぼ互角らしい。
フィールドが消滅した瞬間、スコーピオン・ユニットを相手の胴に突き立てた。一本の棒のようなユニットは分裂し、中央を鎖でつながれたロッドのようなユニットになった。
それ自体に仕込んであるブースターを噴射させ、機体に巻きつける。
「実験台位にはなれよ!!」
それを一気に引き抜く!!
釣り針の返しのような形状のユニットが敵の機体を引き裂く!不意を付かれた格好のそのユニットは両腕が吹き飛び、胴は下半身とくっついているのが奇跡のような状態にまで引き裂かれた。
「!!?」
装甲の隙間からコックピットが見えた。
座高はハーリーとさして変わらない。
桃色の髪を伸ばした少女が座っていた。装甲の隙間から覗くその瞳は、『憎悪』しか宿していない...
滴る血は着ている服を真っ赤に染めていた。
次の瞬間、虹色の光に包まれた蒼い機体はジャンプし、姿を消した。
<スコーピオン・システム、稼動限界まで300秒>
『..自力で戻れますか?』
「....ああ。サブは?」
『幸い軽症で済みました。ニ、三日で復帰できます』
「そうか...なぁ、さっきのパイロット、モニターしてたんだろ?誰なのかわかるか...?」
何気なく質問した。特異な髪の色なだけに、俺の知ってる人物は居ない。
俺自身、昔は緑だったけどな...
数秒の沈黙の後、ルリは重苦しく口を開いた。
『.......ラピス・ラズリ』
あとがき
新学期が始まって書く時間が少なくなってしまいました。それでなくとも先々月の終わりにはスパロボの新作が出たので、それをプレイしてさらに時間が...。一日三十時間欲しいと思う今日この頃です
この外伝はプレートの解析が終わるまでをシュウ以外の視点で書いていく予定です。
『次回予告』
復帰早々、俺は血まみれで医務室に担ぎ込まれた。
ドックの中で艦内ボロボロになったナデシコC。
俺の反撃も通じない。この惨状はすべて奴ひとりで造りだした。奴は、まさに....
次回、『外伝2 鬼神目覚める』
代理人の感想
・・・・・・・ひょっとして、まんまアレ?
これはさすがに確信犯的に似てるとしか言いようがないんですが(爆)。
それはともかく、何ゆえに外伝なんでしょうか?
舞台が変わったりしたようには思えないんですが・・・・