マシンガンの連続した銃声が、通路に響く。それは補修して間もない真新しい壁を削っていった。
幸運にも、特別休暇の名目でほとんどの乗組員が出払っていたので、残ったクルーは全員ブリッジに非難している。
「ヤバイな・・・・」
E10部隊の連中はすでにナデシコCから降りている。テンカワ・アキトが合流し、テンカワ・ユリカの居所も判明したためだ。お陰でネルガルから出向してきた俺はこんなメにあっている。
ブリッジの前の通路で応戦している俺とサブロウタ、それにサカイは異口同音、悪態をついた。
ついでに自己紹介。リュウジ・シンドウ。E10部隊に出向していたけど今はナデシコC勤務。それが俺だ。
この状況の説明・・・・と行きたいが今は忙しい。簡単に説明する。
0400時 起床。銃器の整備を行う。
0547時 テンカワが『サカイ・ユウタロウ』の偽名を使うことを報告される。
0800時 特別休暇の名目により全整備員(班長除く)・技術者がドックを出る。
1200時 昼食
1559時 ナデシコCとネルガル本社の通信リンクが物理的に切断
通信衛星・通信中継ポイント全ての信号が途絶
1600時 ネルガル第2ドックがクリムゾンの部隊により制圧
1615時 ナデシコBが奪取される
1618時 ナデシコCに特殊部隊出現。警備と交戦状態に入る。
1619時 ナデシコC警備班全滅。生存者なし
1620時 ナデシコCドック及びエステバリス格納庫占拠
1623時 ナデシコ内に残った人間の艦橋への退避完了。
艦長が“プログラム”を起動させる。
艦内艦橋付近を除く全隔壁閉鎖。
1624時 クリムゾン系列企業のサーバーが同時にダウン。
1652時 俺たちと敵部隊が交戦状態に入る。
というわけ。まぁ、取捨選択すればこんな感じだ。“プログラム”を起動させたお陰で指揮系統が乱れてくれた。だから交戦状態になるまでの時間が少しは稼げた。
だけど俺とサブロウタとサカイが艦橋に持ち込めた武器はそう多くはない。近いうちにここもやられるだろう。
研究棟の方までは回れなかったからな。イネスさんが心配だけど・・・・。
敵は確認できただけで重装備兵二個小隊クラス(突撃班1個小隊が20人。ああ、そう考えると俺たちでメチャ少ない・・・・)。
「アキ・・・ユウタロウさん、リュウジさん、サブロウタさん、ブリッジに戻ってください」
ブリッジから小柄な少女、これでも艦長のホシノ・ルリが出てきた。
「ルリちゃん、まだ敵がいるんだ、下がって!」
「理由は後でお話します」
そういった後、壁の端末に触れると、ナノマシンの文様が現れた。直後、残っていた隔壁も全て閉鎖された。
「で、理由っていうのは?」
「先ほど、カート・ブランから通信が入りました」
・・・・・・・・・・誰よ、それ。
「誰だ、そいつは?」
テンカワ・・・・・じゃなくて、サカイが俺の変わりに質問をしてくれた。
「ミスマル提督以下極東重鎮を殺害した人物です。あ、アオイ中佐は生きてますけど」
「ああ、そういえば見かけたな。直ぐには思い出せなかったけど」
テンカワ・・・貴様、戦友さえも忘れていたのか・・・・。
滝涙を流すアオイの背中は、いつもよりちょっぴり、ふた周りほど小さかった。「の」の字を書く仕草がなんとなく不気味だ。
「ついでに言えば、現クリムゾン・グループの副会長です。そして、その兄ラーダ・ブランが現会長」
「会長交代劇が起きたと?」
「そうです。私がマリコさんに頼んでいたプログラムを作動させ、全サーバーをダウンさせました。その混乱の中で、警備システムが全て死んでいましたから、殺すには容易かったようです」
つまりなんだ、前会長をぶっ殺して、アレしたと。
「重役その他もろもろが納得しないだろう?」
当たり前のサカイの質問に、艦長は首を横に振った。
「すでに承諾済みのようです。彼らは、もともと他の遺跡の存在を知っていたようです。
さらに現在の重役はクリムゾンが遺跡の存在を確認した後に就任しました。つまり・・・」
「この時点で、すでにクリムゾンの目的は遺跡のみか」
「クリムゾン、というよりも、ブラン兄弟のですね。彼らから<ナデシコC>を譲渡するように警告がありました。現在、休暇を出した全てのスタッフが彼らの手の中だそうです」
・・・汚い手だ。
「要求をのむのか?」
「・・・・はい」
「そうか」
サカイはそういうとラピスの方に歩いていった。彼女の頭を数回なでる。
「しばらく、お別れだ」
いやだよ、と言いたげにサカイに抱きつく。サカイは黙ってそれを受け止めた。
「ハーリー君、先方にノン・エンコード通信を送ってください。内容は、『クリムゾン・グループの脅迫に応じ、直ちに要求をのむ』だけでいいです」
「りょ、了解」
ノン・エンコード通信というのは、暗号化していないもので、誰にも・・・それこそアマチュアでも傍受可能だ。テキストのまま送られるから、ウィルスを一緒に送っていないという証拠にもなる。つまり、全面降伏。
艦長は通信を送ったことを確認すると、オモイカネのキーの前まで歩いていった。掌紋・網膜パターンを入力すると、三つのキーが表れた。オモイカネの起動キーだ。コレを全て抜くと、オモイカネはシャットダウンされ、全ての隔壁が開放される。
シャットダウンだけなら一番左のキーを抜けばいい。
だが、そのキーを抜かずにその下にあるパネルを操作した。複雑なパスワードを入力すると、そのパネルもせり上がってくる。そこには数十本のケーブルが煩雑に納まっていた。
「オモイカネ」
<・・・・・・>
ウィンドウに律儀に<・・・>マークを浮かべて、オモイカネは答えた。ネルガルが開発した現在のAIの中でもトップの性能。同時に、艦長の無二の親友でもある。
「ありがとう」
そして、オモイカネの、艦長に対する最後のメッセージが、ウィンドウに現れた―――。
外伝4 『サヨウナラ』
その返事を確認すると、無造作にケーブルを引き抜いた。ブチブチという音と、ケーブルが外されたことで消えてゆくウィンドウの音が艦橋に響いていく。
全部のケーブルを引きちぎった奥にある何かを彼女が引っ張ると、ついに全部の電源が落ちた。
彼女の瞳から、一筋の滴がこぼれる。
その滴が頬をつたうよりも早く、敵が突入してきた。隔壁が開いた瞬間に催涙弾が打ち込まれる。
俺たちを殺すような命令は受けていないようだ。
サカイもサブロウタも、抵抗しない。艦長の“決意”を無駄にしないために。
灰色の煙が充満して行き、一人、また一人と気を失っていった――――。
あとがき
前の投稿から半年ほど経ってしまいました。すごくマッタリと執筆しています。
すごーーーーーーーーく短いですし、内容も薄っぺらでアレですが、ご容赦ください。
次回からはまた本編に戻ります。外伝といっても語り手がシュウ以外というだけでしたが。(もしかしたら三人称になるかも)
次回はいつ投稿できるかは分かりません(ぉぃ
商業簿記と工業簿記の勉強を頑張らないと・・・留年しちゃう・・・。ダブったらネットにつなぐことも許されそうにないんで、そうならないように頑張ります(ぉ
代理人の感想
・・・相変わらずアレな。