宇宙を彩るアオイ色
第二話 周囲の「シセン」
























格納庫での再会。

何とも色気のない話だ。

もっとも相手は男性であり双方にそんな気が毛頭無いのは間違いない。

まず、アキトはジュンの頭に外傷がないか確かめ始めた。

「なんの真似だ?」

「・・・ホントにジュンか?

 どうせ、ユキナちゃんとの痴話喧嘩で頭打ったんだろ。」

「僕は変わってないけど、君は随分変わったよね。」

疑われたジュンはアキトの頬を掴む。

そのまま、グニグニと引っ張る。

「なんで、僕とユキナがあの時のままなのに君はこうなったんだ?

 A級だからか? コック見習いとして乗り込んできたと言うことは五感は完治したんだろう?」

アキトの姿は前回と同じ十代の若者、かつてと違い逞しく引き締まっているが。

「ふぃふぁふぃ、ふぁふぇふぉ」

「アキトを虐めないで。」

ラピスがジュンのジャケットを引っ張る。

「ラピスちゃん、虐めているように見える?」

ジュンはラピスに笑顔を向けながら、縦・横・円を描くなどアキトの頬を引っ張り回した。

「・・・見えない・・・」

アキトの助けとならなかったラピスは経験不足故に理解出来ない状況に首を傾げた。

要するにジュンの笑顔に騙されたのである。

肉体年齢26歳・戸籍年齢23歳のジュン、肉体年齢18歳のアキト。

精神のみが逆行したと思われるアキトと違い、ジュンは火星からの避難民に紛れての戸籍偽造。

三十路入りを少しでも遅くする為の年齢詐称。

ジュンの良心はささやかながら懸命に働き、三歳の詐称となったのである。

というわけで、完全に八つ当たりだ

少し落ち着いたジュンは乱暴にアキトの頬を解放した。

解放されたアキトは頬をさすりジュンを睨み付ける。

「後でユキナにも会わせるよ。

 君はいつからこっちに?」

「一年前だ・・・ラピスとは半年前から一緒に暮らしてる。」

不機嫌に答えるアキトの都合は無視して話を進める。

「そうか・・・」

その時、ナデシコ艦内に警報が鳴り響いた。

「やっぱりロリコンの噂は本当だったんだな。」

「なんでそうなる!!」

それは、かつて"桃色の妖精"を連れる"Prince Of Darkness"と呼ばれた男の核心に迫る台詞だった。

残虐非道なテロリストとしての風格を漂わせたダークトーンは既に無い。

そして青筋を浮かべつつ怒鳴りつけるアキトにジュンは素っ気なく答えた。

「いつも年齢の半分近くの少女が傍にいるから。」

「偶然だ、偶然!!」

「僕にはそうは思えないんだけどね。」

とりつく島もない返答だ。

「お前だってユキナちゃんと離れているじゃないか!!」

「な!・・・年齢的に僕はセーフだ!!

 君みたいに犯罪じゃない!!」

五十歩百歩のように思えるが年齢的にジュンに分があった。

ルリなら十一歳から十六歳、ラピスは十代前半、今は十歳未満、それと現在のユキナを比較・・・世間の反応とはそういう物だ。

『パイロットのシラトリ・ジュンさんですよね?

 私は艦長のミスマル・ユリカです!!

 すぐに囮としてエステバリスで出撃して下さい!!』

懐かしいナデシコ艦長姿のユリカだった。

ウィンドウはジュンの前に現れている為ユリカにはアキトの姿は見えていない。

「了解。」

『あと、もう一人のパイロットのヤマダ・ジロウさんと連絡が取れないんですけど・・・』

「ヤマダならあそこで転がってますよ。」

コミュニケの通信ウィンドウを格納庫の片隅で転がっているヤマダジロウに向ける。

『・・・出撃出来るんですか?』

「ウリバタケさん?」

「無理だな!! こいつ躾からやり直さないと使い物にならねえぜ、艦長さんよぉ・・・

 一人でつっこんでエステぶっ壊すのがオチだ、止めときな。」

ウリバタケは冷静に答えた。

ヤマダ・ジロウをパイロットではなく犬や猫などのペット扱いしているあたりなお酷い。

パイロットを囮として出撃させる作戦だというのに。

そのパイロットの一人を拘束することが作戦の成功率をどれだけ低下させるか自覚しているのだろうか。

自覚しているからこそヤマダを拘束したのか、単にエステを傷つけられるのが嫌なのか判断に迷う所だ。

アキトとジュンはウリバタケの性格を熟知しているだけに判断に迷った。

そんなことを考えても時間の無駄だ。

だって、ウリバタケだし。

そしてもう一つ。

まだナデシコが一つの色に染まっていない。

この現実がウリバタケの立場を守った。

とてつもなくマニアックな縛り方をしてしまったのでヤマダを解放するには時間がかかる。

隠された事実である。

一見普通のロープでも使用したのは特殊ワイヤーである。

たった一本でエステバリスを二機牽引出来る代物だ。

「艦長、作戦は?・・・」

『は、はい!・・・ナデシコは海中ゲートを通って敵の背面に浮上。

 標的を一点に集めグラビティー・ブラストで一掃します。』

「了解・・・そうだ、艦長。」

『何でしょうか?』

神妙な様子のジュンに気圧されつつ、艦長らしく威厳を保つ。

アキトやジュンにはバレバレなのだが、今はシリアス・モードだ。

一週間に一度あるか無いかの、だ。

数えればわかるが一週間に一度無いときの方が多い。

「娘がブリッジにいるので、よろしく。」

『はい♪』

ジュンはそのまま、愛機のエステバリスへ向かう。

親馬鹿なのか?」

「・・・否定しないけどね。」

「その子がラピスに紹介する子か・・・楽しみにしてるよ。」

「じゃ、また後で。」

今度はエステバリスに搭乗した。

敵襲なのだから急がなければならないはず。

それで急がないのはナデシコならではなのかもしれない。

ジュンにしてみれば、この時代のバッタは問題外だった。

IFSを付けて以来、こまめにシミュレーションをこなしていたのだ。

アマリリス艦長に就任してからはパイロットと信頼を築くため、可能な限り訓練を共にし揉まれた。

パイロット達にしてみれば何故かIFSを持つ士官、興味を引くのだ。

余談だが、アマリリス副長と参謀は虐めと誤解した。

彼らの説得に時間を費やしたことも今となっては良い思い出である。

士官学校で対G訓練・操縦訓練を好成績で修めたこともあって筋は良かったらしい。

腕前は、この時代のリョーコ・クラスはある。

地道な努力が実を結んでいるのだ。

地道すぎて気付かれないのがこれまでの彼だったが。

「シラトリ・ジュン、出撃する!!」













囮任務を無事にこなしたジュンは報告の為にブリッジに入った。

「パパ、お疲れ様。」

「シラトリさん、ご苦労様でした。」

「まだ大丈夫ですよ・・・それよりも一ヶ所に留まるのは危険です。」

そのジュンをシオンとプロスが出迎えた。

現段階の頭の悪いバッタなど問題にならないが、数をこなせば当然疲れる。

ここで自分以外の仕事を増やし負担を増やす。

勝利の美酒の酔いを減らし、ナデシコの性能を過信させない。

ジュンは今のナデシコで火星に行くことは消極的だった。

一方、ちらちらと好奇心に満ちた瞳を向けるハルカ・ミナトとメグミ・レイナード。

それにアオイ・ジュンもだ。

過去の自分にそんな目で見られるのは勘弁願いたい。

そっくりさんが現れれば気になるのは仕方が無いことなのだが。

今逃げ出せば、親しい存在であるユキナが生け贄になるだけで済む。

「はい!!ミナトさん、とりあえずサセボを離れます。」

ユリカはそんな周囲の期待をあっさり裏切った。

「それでは失礼します。

 シオンおいで、お友達を「シラトリさんってジュンくん、そっくりですね!」

甘かった。

ミナトとメグミはやったと言わんばかりににやついている。

ルリのみ正面を向いて作業を続けていた。

「名前もジュンで同じだし・・・サングラス外してみてもらえませんか?」

味方は存在しなかった。

シオンはジュンの葛藤を理解しておらず、ジュンの左手を握っているだけだった。

女性達の視線の他には営業スマイルのプロスと仏頂面をしたゴート、女性と同じ視線を向けるアオイ・ジュン。

頼みの綱のユキナは、"別に良いんじゃない?"と何故か好奇心一杯の瞳をしている。

「・・・ま、また今度で。」

「「「え〜!!」」」

ユリカ、ミナト、メグミが不満げに叫ぶ。

そして、すがるような視線を送る。

泣き落としに近い。

「う・・・」

「シラトリさん、これから共に働き暮らしていくわけですから。」

プロスがサングラスを外すように促す。

この状況を楽しんでいるようだ。

「良いじゃん、ジュンくん。

 私口説いた時みたいに外して、ね!」

「な、な、なに言ってるんだ!!」

女性に対して免疫のないジュンはユキナの発言にうろたえる。

事実としては、口説いていたとしても当時のジュンはサングラスを掛けていない。

尤もユキナを口説く度胸などジュンには有りはしなかっただろう。

「酷い!!あのときの言葉は嘘だったの?!

 貴女のユキナになるって「ユキナがパパを誘惑したんじゃなかったの?」

悪のりし始めたユキナをあどけない声が沈めた。

こちらの方が事実に近いかもしれない。

「シ、シオン・・・?」

ユキナの声が震えている。

面白くなってきたとやはり目を輝かせるユリカ・ミナト・メグミの三人。

女性というのは他人の修羅場が大好きである。

「実際はどうなの?」

シオンの瞳は狼狽えるユキナをしっかり捉えている。

「え・・・それは・・・」

「やっぱりいいよ、パパ・・・行こう?」

「あ、ああ・・・失礼します。」

ジュンとシオンがブリッジを出ていくと同時にユキナはコンソールに突っ伏した。

「うぅ〜・・・」

「ユキナちゃん、大変ねぇ♪」

ミナトが気楽に声を掛ける。

「連れ子って大変なんですね。」

「うん、ユキナちゃん。がんばって!!」

メグミ、ユリカがユキナを励ます。

「でも、シラトリさん。

 かわいい顔してたわね♪」

「へ?・・・」

ミナトの視線がユキナと絡む。

「あの・・・ミナトさん・・・それはどういう・・・」

「負けないからね、ユキナちゃん♪」

「うぅ〜・・・・・・」

再び倒れ込むユキナ。

機嫌良く正面を向き仕事するミナト。

「・・・大変だなぁ・・・」

メグミはユキナとミナトをそう評した。

彼女は義理とは言え子持ちの男には興味がないようである。

「あれ、サングラスは?」

ユリカがマイペースに呟く。

もっとも呟いたにしては大きな声だ。

「またの機会にしましょう。

 それより艦長、副長・・・遅刻の件についてお話ししましょうか。」

「「え・・・?!」」

今回も遅刻していたようだ。

ナデシコは初戦を圧勝した。

にもかかわらず、歓喜するわけでもなく妙な雰囲気を作り出していた。

正座してお説教を聞く涙の艦長、副長。

恋人の義娘と操舵士に打ち負かされ失意の通信士。

黙々と仕事を続けるもう一人の通信士とオペレーター。

「馬鹿ばっか。」

本日二度目の台詞は実に正鵠を射ていた。













「ホウメイさん、テンカワいますか?」

「ん、シラトリ? あいつなら調理用具取りに行ったからすぐに戻ってくるだろうよ。」

「ラピスちゃんは?」

「一緒さ、知り合いなのかい?」

ジュンとシオンはカウンター近くのテーブルに座った。

「さっき、格納庫で一年ぶりに再会したんです。」

「ああ、あんたも火星で暮らしてたんだっけ。」

その問いに彼は答えなかった。

「っと、すまないね。」

「いえ。」

沈黙を肯定と受け取ったホウメイは火星の状況に思い当たりばつの悪い顔をした。

「気にしないでください。」

ジュンは罪悪感を感じながらホウメイに嘘を付いていることを内心詫びていた。

「ホウメイさん、イチゴパフェ!! 良いよね、パパ?」

「一杯だけだよ。」

シオンが元気よく注文する。

「ほい、了解!! おや、テンカワが戻ってきたみたいだよ。」

「そうですね・・・ホウメイさん、ラピスちゃんの分もお願いします。

 僕はプディングと紅茶でテンカワにはチョコパフェを。」

「あいよ。」

ジュンはサングラスをジャケットの胸ポケットに入れると二人が席に着くのを待った。

「改めて久しぶりだな。」

「ああ。 口調も大分昔に戻ったね。」

アキトの口調は最後に以前の世界で会ったときの抑揚のないダークトーンではない。

前回の今頃の時期とは違い、クールな口調だが暖かみが感じられる。

「そうかな?」

「シオンちゃん、ラピスちゃん。

 イチゴパフェ、お待ちどう様。」

ホウメイ・ガールズの一人、サユリがトレーに乗せたパフェとスプーンを少女達の前に置く。

「ラピスちゃん、どうぞ。」

「悪いな・・・ラピス、ジュンにお礼を言ってから食べるんだぞ。」

アキトが穏やかに微笑みながら、早速食べようとしていたラピスに注意する。

「・・・ありがとう・・・」

「どういたしまして、食べ終わったらシオンと遊んであげてね。

 シオン、仲良くね。」

「ん!・・・」

パフェを頬張っていたシオンは、笑顔で頷いた。

シオンは同年代の友達が出来るのは初めてなのだ。

目に見えて喜んでいる。

「詳しいことは場所を変えて話そう。

 どうしてナデシコに?」

「ああ・・・今日、町を二人で歩いていたらトランクがこっちに落ちてきた。

 人目もあったからぶちまけた荷物を詰めるのを手伝って・・・

 フォトスタンドを詰め忘れて、ユリカに届けに来たんだ。

 ゲートで関係者を呼んでくれって言ってな。

 プロスさんが来て、見習いとしてスカウトされた。

 ラピスのことはわかるだろ?」

「ああ、ネルガルとしては喉から手が出るほどの人材だ。」

その点では、何故アキトがラピスを守り続けることが出来たかが問題になる。

親権の保有者、実力行使による誘拐のことだ。

ラピスには戸籍がない、親権はこの点で却下。

早い者勝ちになったようだ。

違法研究なので公然と所有権を主張するわけにはいかない。

それを良いことにアキトはラピスの戸籍を新しく作った。

しかし彼自身未成年だったので、サイゾウが保証人になり戸籍作成は終わった。

強硬策の実力行使はネルガル社長派の情報部によるものが過半数。

他はクリムゾン・グループなど大企業から中小企業まで様々だ。

これらはアキトが全て排除した。

逆に懐柔策はネルガル会長の部下を名乗る人物が来たなど、手段も多数に及ぶ。

そのような人物はアキトが裏社会で過ごしたと知らずに侮り痛い目を見ている。

「お前の方は?」

「ネルガルからのスカウトが偶然来てたんだ。

 返事を保留して行った仕事先に偶然研究機関があってね。

 やっぱり、ネルガル社長派のだった。

 表の顔は規模の小さい研究機関だったからSSのマークも甘かった。

 裏で流された膨大な資金でくだらない科学者を飼っていたのさ。

 そこでシオンと出会い、それからはユキナと一緒に暮らしてた。」

「へぇ・・・ユキナちゃんとはずっと一緒だったのか?」

「運良くね・・・済んだことだから気にするなよ。」

二人の話は、力ずくで事を解決してきたことを黙認していた。

「シラトリさん!! プディングと紅茶お持ちしました。

 アキトさん、チョコパフェです。」

「え?・・・」

サユリの発言にアキトは呆然とする。

「置いておいて良いよ。」

「はい♪」

サユリが厨房に戻っていくことを確認してからアキトはジュンに詰め寄った。

「なんだ、テンカワ? 奢りだぞ。」

「じゃなくて、何でこれなんだ?」

「あまり食べないだろうから。」

平然とプディングを食べるジュン。

「残すなよ、それで一通り許してやるよ。」

「やっぱり根に持ってたんだな・・・」

アキトは溜息をつくとノロノロとチョコパフェを口に入れた。

「パパ、ラピスにナデシコ案内してくるね。」

「変なところ行くなよ。」

「は〜い♪」

シオンはラピスの手を取り食堂から掛けだしていった。

微妙にラピスが引きずられているように見えた。

食堂には親二人が残される。

戦闘終了直後と言うこともあって空いている食堂。

男二人が甘い物を食す微妙な状況は、アキトがパフェを食べ終わるまで続いた。














後書きです。

パソコン、逝っちゃうし・・・文章まとまらないしで大変でした。

気が付いたらキノコ出し忘れてました。

後の祭りですね。

でも、おしいな〜・・・乗せるかな。

一発ネタの為に。

初戦はマンネリの為、書きませんでした。

さて、これからもマイペースに。

なんだか、法律を中途半端に調べて話にすることが多くなりましたが・・・

正しいのでしょうか?

詳しい方、御意見お願いします。









どもー感想代理の龍でーす。

とりあえず一言。

この人誰ですか?

いやージュンだと分かっていても脳が理解してくれない(爆笑)

彼に何があったのでしょう?

なにせあの経験豊富なミナトが目をつけるんです。

中身まで変わったんでしょうからね〜。

そこらへんここから先に期待です。。

PS.

ナデシコSSを読んでて違和感があるものベスト3!

頼り甲斐のあるハーリー。

頼り甲斐のあるジュン。

比較的まともなゴート


…こう思うのですが如何に?(笑)