宇宙を彩るアオイ色
第四話 「とりあえず」守っとけ
食事を終えたジュンが、寂しそうにこちらを見つめているプロスに気付いてから会議は行われていた。
一人での食事が寂しかったんだったら声をかけてくださいよ、と話し掛けたらプロスの逆鱗に触れてしまったのである。
最低でも、余計な一言はオブラートに包むべきだった。
新しい教訓を胸に秘め、今はプロスの執務室でゴートを含めた三人で意見を交換しているのだ。
「それでは、対策は必要ないというのですか?」
「そこまでは言いませんけどね。
基地に停泊しての交渉です・・・軍としては制圧する必要がないのでは?」
「シラトリ・・・ネルガルとしては、軍を信用できないのはわかっているだろう。
スキャパレリ・プロジェクトを実行するためにどれだけ時間と労力を費やしたと思っているのだ。」
ゴートが口を開く。
初めからプロスと協力して戦線を張るつもりらしい。
「事前対策に反対はしませんが、これはやりすぎですよ。
民間ならではの雰囲気が失われます。
我々が民間であるということを前提にした対策を練った方が良い。」
「どういうことです?」
プロスが質問するが、それは会話を滑らかにするための合いの手だった。
交渉のプロとしての初歩技術らしい。
「第一に実行部隊の油断を誘える。
民間人と思って侮っている部分があるはずです。
第二に保安部が二人しかいないのにこの計画を実行する場合、失敗する可能性が高い。
この計画は人間の体力について楽観視しすぎています。
ゴートさんくらいですよ、こんな過酷な肉体労働に従事できるのは。」
「むぅ・・・」
露骨に非難されたゴートが渋い顔をする。
実行部隊にジュンとゴートしかいないのだから非難されても無理はないのだが。
「やはり陸戦部隊も載せた方がよかったのでしょうか・・・」
「ナデシコの活動方針を考えれば、ただの無駄飯ぐらいですよ。
そうあることではありませんしね。
交渉の真っ最中に制圧しにくることはないでしょう。」
「そうですね・・・」
プロスは一応納得したようだ。
「実はね・・・第三の理由があるんですよ。」
「と、言うと・・・」
「ナデシコには戦力になる人材がいないんです。
初めから、対策なんて立てられません。
クルーが日本人だけということもあって、銃を持ったことのある人すらいない。」
「そうですか・・・では、仕方ありませんね。」
ジュンの説明を聞いたプロスは気落ちした様子を見せた。
スカウトした人材の穴に気付いたからだろうか。
「これでは火星に到着してからがきついですね。
パイロットに白兵戦能力を当てにするとナデシコ防衛の戦力がダウンしますから。
大問題ですよ。」
ジュンは目の前の紅茶を啜った。
「考えておきましょう・・・」
「ナデシコが大気中で満足に活動できないことも含めてください。
あと・・・」
「まだあるのか、シラトリ?」
ゴートが太い声で先を促した。
計画の欠点をつつかれすぎて精神がささくれてきたようだ。
「責任者でもない僕を何故会議に呼ぶんですか?」
「幅広い意見を聞きたいからですよ。
ゴートくんは常識に疎い所がありますから。
それとシラトリさんは単独戦闘に慣れておられるでしょう?」
明快に答えるプロス。
「なにを根拠に?」
「シオンさんのことと、ゴートくんとの訓練ですね。
こちらからも伺いたいがあるのですがよろしいですか?」
「どうぞ・・・」
ジュンは余り気のない様子で答えた。
各分野のエキスパートをスカウトするだけあってプロスは目が利くのだ。
ろくでもないことを聞かれるに違いない。
「テンカワさんも相当の訓練を受けておられるのではないですか?
火星出身だけあってIFSもお持ちですしね。
もう一つ、ラピスさんもマシンチャイルドです。
社長派の隠匿する施設から助けられたのでしょう?」
「・・・それを訊いてどうするつもりですか?
子供達に手出しはさせないし、テンカワも戦わせない。
ネルガルでもクリムゾンでも容赦はしない。」
「いえ・・・そのようなつもりはありません。」
『プロスさ〜ん!!もう時間ですよ〜!!』
プロスが話を続けようとした所でインターフォンが鳴った。
執務室の前にユリカが来ているのだ。
コミュニケで呼び出せばいいのに律儀なことである。
「ミスター、何か言いかけてはいなかったか?」
「なんでもありませんよ。
それでは、行って参ります。」
部屋の主が退室するのだから、ジュンとゴートが居座り続けるわけにも行かなかった。
プロスの後に従う。
「副長は艦長とプロスさんの見送りかい?」
「え、僕も行くんですよ?」
副長のアオイ・ジュンに訊いたのはわざとだった。
かつての自分なのだから、彼の行動は分かり過ぎる。
「艦長の留守を副長が守らなくてどうする。
君はナデシコにいるんだ。」
「えぇ!!」
予想通り、いやがる。
「そうですよね、もし何かあったら大変ですよね・・・」
ユリカはジュンの言うことに納得していた。
「ユリカ?」
いぶかるアオイ副長。
「ジュンくん、お留守番お願いね!!」
「それでは参りましょうか、艦長。」
時間が差し迫っているらしく、腕時計を身ながら先を歩くプロス。
ユリカはプロスの後ろを歩きながら手を振っていた。
ジュンは軽く手を振ってから、過去の自分に忠告した。
「金魚の糞みたいにくっついていたって、なにも変わらないぞ。」
「な!!シラトリさん、どういう意味ですか!!」
一言だけ言って無視するつもりだったが、しつこく後を追ってくるアオイ・ジュン。
「・・・いつまで付いてくるつもりだ?」
相手が殴りかかってくることがないとわかっているだけに口調もきつめに話し掛ける。
「あなたが答えてくれるまでです!!」
「君と艦長の現在の関係は?」
「・・・そ、それは・・・」
案の定、口ごもってくれた。
「艦長がどう思っているかは知らないが、客観的に見れば都合の良いお友達だな。
それ以上の関係を望むんだったら、自分の価値をわからせるべきだ。」
「・・・しましたよ、なけなしの勇気振り絞って告白も・・・」
知ってる、と言いそうになって口をつぐんだ。
「相手を普通の女性だと思うな。
お前の相手は超天然だ。」
「だったらどうしろと!!」
「それこそ俺の知ったことか。
俺の相手は普通なんだから。」
突き放してから、今度は追ってこないことを確認して歩き出した。
純情な昔の自分は、その場で立ちつくし思い悩んでいる。
その未来の自分は超難関を落とすことが出来なかったのだから、下手な助言は仇になるだろう。
付け加えると、目先の軍人による制圧問題に悩んでいるのだ。
状況が変わっているだけに現実に起こるかわからないのだから。
言い訳である。
「来るのかな〜♪来ないのかな〜♪」
ジュンは呑気に歌っていた。
食堂の隅にある観葉植物をさりげなく置いた目立たないスペースに陣取っていた。
「「来るのかな〜♪来ないのかな〜♪」」
シオンとラピスがジュンを真似て口ずさむ。
ラピスは、寡黙な性格かと思いきやなかなかノリが良いようだ。
「どうだい、シオン? 招かざる客はいるのかな?」
「ん〜・・・ナデシコの周りに変な人がいるよ。」
「キノコ?」
シオンのIFS端末を隣から除いていたラピスが首を傾げて補足する。
「パパ、キノコって食べ物だよね?
生き物じゃないよね?」
「人間にはね、変な人がたくさんいるんだ。
それはね、マッシュルーム・カットって行って大昔に流行った髪型らしいよ。」
シオンの一言で軍人が誰かわかったジュンは、わかりやすいように説明した。
「ふ〜ん、そうなんだ。」
ジュンの言葉に納得したシオンは、珍しそうに端末を覗き込んだ。
ラピスも同様である。
「軍部も馬鹿だな・・・交渉の最中に実力で徴収はないだろうに。」
ジュンは懐からリボルバーを取り出し点検する。
こちらの世界に来てから本で見つけて、苦労して手に入れたものだ。
「パパ、楽しそうだね。」
シオンが珍しそうにジュンの顔を観察していた。
「そうかい?」
「うん!!ラピスもそう思うよね?」
「笑ってる。」
うなずきなら肯定するラピス。
「お兄ちゃん、疲れちゃったんだよ〜
ストレスの捌け口が欲しいんだよ〜」
嬉しそうに銃器の確認をする姿は壊れていた。
「パパ!!頑張って!!世間の荒波に負けないで!!」
ノリの良い子供のシオン。
ラピスは感心して眺めている。
親子ならではのコンビネーションに見えるのかも知れない。
現在のアキトとではあり得ない阿吽の呼吸なのだ。
「おい・・・ジュン。」
声に反応して即座に銃を突きつけた。
「俺だぞ・・・なにをするんだ?」
「誰だ、この怪しいコックは。」
ジュンの目の前にいるのは、黒ずくめの調理服を着たアキトだった。
「支給された制服がこれだったんだ、俺のせいじゃない。
それで、今何処だ?」
アキトにはムネタケが来たことがわかっていたようだ。
突きつけられた銃を押しのけることは忘れない。
「ナデシコのタラップ前だよ。」
「それくらいは手伝うからな。」
そう言ってアキトは右手を差し出した。
「なんだ、この手?」
「わかった!!"お手"だ!!」
シオンが元気よく断言する。
「違うよ・・・念のために銃をくれ。」
アキトは少女の発言を訂正し、ジュンに重ねて催促した。
「何丁も持っているはずないだろう。」
「たくさん持っているとユキナちゃんから聞いた。」
「・・・いつの間にそんな話を・・・」
ジュンは疑問に思いながらも聞き流していたマシンガン・トークの中にそんな話もあったかも知れないと考え直した。
「ほら。」
テーブルの下に置いてあったケースをアキトに渡す。
準備の良さに戸惑ったアキトだが、好意は素直に受け取るらしい。
「・・・俺が使っていたものと同じ品だな。」
ケースの中身はテロリスト時のアキトが愛用していたものと同じ型式のものだった。
ジュンのリボルバーより一回り大きい。
「君が墓地であった二人に話を聞いてね。」
と言うのは、ルリとミナトがイネスの墓前でアキトととの再会について詳しく尋ねたことがあったからだ。
火星の後継者の叛乱後、ルリとミナトはユキナを交えて苦笑いしながら話してくれた。
大型拳銃を突きつけられたこともだ。
もっとも、その点は誤解だったわけだが。
その後ゴートから他の点も教えて貰った。
「君に会うことがあったらと思って用意しておいたんだよ。」
ジュンは対処法も用意していたことは口に出さなかった。
戦闘に手を出すなと説得し、成功したのだからそれは必要なくなった。
「戦うなといった割には・・・」
「火星では無人兵器と戦っただろう?」
「まあな。」
陥落時の火星にエステバリスは存在しなかった。
だが、生身の戦闘となると話は別だ。
辻褄が合いやすい。
「さて、迎えに行くとするか。」
「シオン、入り口を一つだけ残して封鎖して。」
「うん!!・・・あ、オモイカネ眠ってる。」
「「なに?!」」
ジュンとアキトの声が重なった。
「マスターキーが抜かれてるみたいだよ。」
「俺の言ったことは出来る?」
「大丈夫!!保安用のコンピューターでも出来るから。」
以前のナデシコAと違い、バックアップ用に一般に使われているコンピュータが搭載されている。
非常用のものだが、こちらは保安用の独立配置だ。
メインオペレータはシオン、オモイカネを扱うより遙かに簡単な仕事だ。
シオンはサブオペレータもかねており、ラピスも第二サブオペレータになる。
「それじゃ、これを付けて。」
アキトとシオンに小型のインカムを渡す。
「シオン、ラピスちゃん、後を頼むよ。」
「は〜い!!」
「頑張って。」
「ラピス、これを頼む。」
アキトは黒い調理服を脱ぎ、ラピスに渡す。
調理服の下は黒の長袖ティーシャツだった。
「うん、行ってらっしゃい、アキト。」
「ああ。」
ラピスの頭を撫でる。
くすぐったそうにしているラピスだった。
「キノコと不憫な手下達が入口を捜し始めたよ!」
「わかった。
シオンは近付く人たちを誘導しておいて。」
指示を残すとジュンは早足で誘導地点に向かった。
アキトが隣を歩く。
「君はやっぱり黒なのか。」
「黒い物を身につけてないと落ち着かなくてな。」
「重病だな。」
サングラスの位置を直しながら、一言で切って捨てた。
「こちら目標位置に到着。」
『りょ〜かい!キノコは入り口に気付いたよ!!』
「先手を打つか?」
「先手だな、いきなり銃器の使用はないだろう。」
二人の間で作戦が定まった。
アキトがドアのスイッチ前で待機、ジュンはドアの前に立った。
『ドアに到着・・・』
ラピスの声がインカムから発せられる。
おそらくシオンが羨ましくて代わって貰ったのだろう。
「開けるぞ・・・」
「合図したら閉めてくれ。」
「了解。」
アキトは左手でカウントをとった。
三、二、一と指が折れていきドアが開いた。
「家は新聞、間に合ってるよ。」
呆気に取られるムネタケ以下軍人数名。
虚を衝かれて目的を果たすことも忘れてしまっていた。
ジュンは合図をし、僅かに動揺していたアキトが慌ててドアを閉めた。
「おい!それで良いのか?」
「軍人も怪我しないし、賠償問題も起きないだろ。
こっちは軍人が来るなんて話来てないんだから。」
ジュンはアキトを押し退けてドアを施錠した。
これで外部からは開かない。
「プロスさん達が帰ってきたらコミュニケで連絡するだろうし。
最上の一手だ。」
「この銃はなんのために!!」
「有事の備えに決まっているじゃないか。」
ジュンはぬけぬけと答えた。
「そのサングラスか?そのサングラスがお前を変えたのか?」
「まさか!!君じゃあるまいし。」
アキトとジュンの平行線をたどる会話はすっかりある存在を忘れさせていた。
彼らが施錠した入り口の外側では・・・
「ちょっと!!私を誰だと思ってるのよ!!
ムネタケよ?准将よ!!偉いのよ!!・・・」
延々と自己ピーアールを続けながらドアを叩き続けている。
彼が叩いているのは、戦艦のドアだ。
いくら人が叩いたとしても、その中に振動が伝わることはない。
伝わるようなヤワな構造もしていなかった。
火星陥落の責任を問われ、職場を盥回しにされ、回された簡単な任務をこなすことが出来ずにいる。
また居場所がなくなることは間違いない。
交渉から帰ってきたユリカ達はブリッジでジュンの報告を受けた。
その報告は、直前までユキナとミナトとメグミと談笑していた態度同様いい加減だった。
傍らにはシオンとラピスがいるのだが、だからといって印象が変わるわけもない。
「ほぇ・・・それでムネタケ准将が入り口で喚いていたんですか?」
「あれ、いたのかい?帰ってると思ったんだけどね。
新聞断ったことはあっても、断られたことはないからじゃない?」
訳のわからない発言だった。
「まあ・・・何はともあれ助かりましたよ、シラトリさん。
連れていた兵士達は武装していましたから。」
プロスがようやく表情を崩す。
保安部が人を馬鹿にした防衛作戦をとるとは思っておらず面食らっていたのだ。
ゴートの出した作戦が普通に感じるくらいなのだから。
「そうですね、結果オーライですよね!!
シラトリさん、お疲れ様です!!
ジュンくんもお留守番お疲れ様!!」
労った後にユリカはナデシコのマスターキーを元のように差し込んだ。
ウィンドウが次々と開きオモイカネが起動する。
「マスターキーのことで話があるんだけどね、艦長。」
「はい?なんでしょうか?」
「マスターキーを何故抜いた?」
髭提督の指示に決まっているのだが、一応尋ねた。
「御父様に抜いてこいと言われました。」
「その際の交渉は?」
「してませんけど・・・」
ジュンはプロスに確認するように目を向けた。
プロスが頷く。
「この艦が襲われる可能性を考えなかったようだね、二人とも。」
「はい?」「僕もですか?」
「ああ。」
ジュンの他のブリッジスタッフは、なにが始まるのか興味深そうに見守っていた。
「ここは軍の基地だ。
軍ドックで襲われたというのに、ここで襲われるとは思わなかったのか?」
「そ、それは・・・」
ユリカが口ごもる。
警戒心が無さ過ぎたことにようやく気付いたのだろう。
「ここは基地です!!軍艦が停泊しているんです、ユリカが戻るまでの時間稼ぎにはなります!!」
「危険を冒して戦場を移動するわけだ。
ナデシコに無事に戻ってこられるとは限らないと言うのに。
途中で犬死にすればどうなる? その所為でナデシコクルー全員が巻き添えで死ぬ。」
「・・・でも「でも、じゃない。」
ジュンには、二人の弁解を聞く気はなかった。
かなり厳しい態度だ。
「軍艦があると言ったな・・・所詮ぼろい鉄屑だよ。
勝ったとしても、過半数が落ちているだろうな。
現在、木星蜥蜴とまともに戦えるのはナデシコだけだ。
君たちは自分たちの責任を理解していない。」
「・・・責任・・・」
ユリカはジュンの言葉に考える所があるようだ。
「副長は軍にナデシコを引き渡した方が良いと考えているようだな。」
「ええ、これだけの力があれば地球を守れます。」
「そうだろうな、腐った上層部の飼い犬になれば守ることは出来るが何も解決はしない。」
ジュンはいきなり核心に触れそうになってしまったので自制した。
「解決? 木星蜥蜴を全滅させれば全てが終わります!!」
「思っていたよりガキだな・・・そんなに単純なわけないだろう。
副長、ここで議論する気はない。
君はちゃんと仕事をしろ。」
この言葉に首を傾げるプロス、アオイ・ジュン、ユリカ。
就航して間もないが、アオイ・ジュンはよく働いていた。
「紙を処理するだけが仕事じゃない。
ナデシコが生き残るために自分がどうするべきか考えろ。
艦長に従うことしか能のない副長はいらないんだ。」
それは自分の昔だろうと、この場にアキトがいたならそう突っ込むだろう。
だが、その発言主はなんの痛みも感じていないようだ。
都合良く忘れたのかも知れない。
「軍人はこの船のクルー達が民間人だということを無視して徴収するのか?
君たちの正義を押しつけるな。
偉そうに平和を唱える前に足下から見つめ直せ。」
ジュンは言いたい放題言うと、ブリッジを出て行った。
副長のジュンは憮然としていたが、ユリカは明らかに落ち込んでいる。
「パパ楽しそうだったね。
ね、ユキナ?」
「そ〜だね〜」
楽しそうに野次馬しているユキナとシオン。
この二人は良心の呵責という物を感じなかったらしい。
「シオン、遊びに行こう。」
「うん、行こう!!」
ラピスに誘われシオンはさっさと遊びに向かう。
「お姉ちゃん、これあげる。」
シオンはその前に缶ジュースをユリカに渡してドアに駆けていく。
ラピスはアオイ・ジュンに何かの瓶を渡していた。
「ありがとう・・・ホウメイさんにお土産のケーキ預けてあるから二人も食べてね。」
無理矢理微笑むユリカ。
「それ、パパが後でわたせって言ってたヤツだから・・・頑張ってね。」
ジュンはユリカに対するアフターケアは忘れなかったようだ。
「シラトリさんの勤務姿勢は、なんと書けばいいのでしょうか・・・」
プロスは一人悩んでいた。
「ゴートくんは何処で仕事しているかわかりませんし・・・」
なんと書くかでボーナスが決まる。
「ゴートくんの評価を低く・・・ばれそうにないですよね。
シラトリさんは・・・扶養家族が・・・難しいですねぇ・・・」
彼もナデシコの枠に漏れずマイペースだった。
「はぁ・・・」
ユリカはジュースを飲んで溜息を一つついた。
考え込む節が多すぎるようだ。
「不味い・・・」
ラピス経由でアオイ・ジュンに渡された瓶は青汁入りだった。
「艦長、これからどうするの?」
「あ、はい!ナデシコは予定通り訓練航行を行います。」
「りょ〜かい♪」
ミナトが明るく返事を返しナデシコは動き出す。
「艦長、落ち込むことないわよ。
今回は何も起こらなかったじゃない、良い経験よ。」
ミナトがユリカをフォローする。
この世界でも面倒見の良いお姉さんとしての気遣いは健在だ。
「そうですね・・・でも、あんなに厳しいこと言われたの初めてだったんです。
今までミスマル提督の娘としか見てくれる人がいなかったから・・・
でも、私個人を見てくれる人は何処にでもいるんですね!」
「そうよ!頑張ってね、ユリカさん♪」
「そうだね、ユキナちゃん!!」
ユリカの見せた笑顔に首を傾げるユキナ。
どこか元気を取り戻した物とは違う気がした。
ジュンが駆けずり回るこの世界は、別の色に着色されつつあった。
ナデシコでさえも。
後書きです。
あ〜・・・歯止めが外れてきた・・・
キノコは友情出演だった、今回。
どうも誰かが破天荒なキャラにならないと駄目です、僕は。
誰かがおかしくなります。
ところで逆行ジュンとノーマルジュンはどう区別すればいいのでしょう。
表現が・・・一般的な呼称を求めます。
誰か、助けて・・・
代理人の個人的感想
人間の心と言うのは事ほど左様に都合よくできておるものでして。
自分に都合の悪い事は最優先で忘れてしまうものなんですよね〜(笑)。
まぁ、忘れやすい人と忘れにくい人はいるわけですが、
ジュンは未来での経験で一皮剥けた様ですね(爆)。