揺れ動く未来と変わりゆく過去
第一話 「プロローグ」のきっかけ
























「帰ってきてください、アキトさん!!」

 この会話は何度繰り返されてきただろうか。

 スクリーン越しに対面する銀色の髪の少女と全身を黒で包んだ青年。

 彼女の熱い視線とは逆に青年のそれは冷めている。

 ナデシコのクルーたちは今回も彼が使い慣らした台詞を彼女に返し、逃走劇が再開されると思っていた。

 "君の知っているテンカワ・アキトは死んだ"と言う拒絶の言葉を合図にして。

 だが、違った。

「悪いが・・・無理だ。

 君と言葉を交わすのもこれで最後になるだろう。」

「な、なにを・・・言うのですか・・・嘘ですよね?!」

 返事はない。

 重く痛い時間だった。

「ユリカさんはどうするんですか?!

 アキトさんをずっと待っているんですよ!!」

「・・・ジャンプフィールド発生装置に致命傷を負った・・・もう・・・手遅れだ・・・

 ラピスが押さえ込んでいるが、それも時間の問題だ。

 ・・・今、君と話せていること自体奇跡なんだよ・・・」

「そんな、どうして!!」

 アキトの言葉は明らかに足りないが事情を知る者には言わんとすることは明確に理解できる。

 すなわち、ランダムジャンプ。

 彼と再び出逢えるとは思えなかった。

 耐えきれずに声を張り上げるルリ。

 目には涙も浮かんでいる。

「引き際を誤ったという所か・・・」

「・・・火星の後継者ですか?!」

「・・・」

 ユリカの救出を果たした後も復讐に明け暮れていた。

 アキトは帰れない、帰りたいという葛藤を胸に抱いて幾度となく戦闘を繰り返したのである。

 複雑に入り乱れた感情が・・・それは八つ当たり、憂さ晴らしなのかもしれない。

 彼には心配してくれる戦友・知人が存在し、アキトの帰還を待ち望んでいるというのに。

 結局、戦いに明け暮れていたアキトは火星の後継者の残党の一計に引っかかってしまった。

 残存勢力は慎重に慎重を期し、アキトを有利な宙域に誘い込んだ。

 そして、残り少ない力を最大限に使い切った。

 火星の後継者はほぼ壊滅したが、その引き替えにアキトとラピスも仲間の元へ変える手段を失ったのだ。

「ルリちゃん、俺のことを忘れて・・・幸せに生きてくれ・・・」

「格好付けないでください!! そんなの嘘ですよね?!」

「ア、アキト!! もう保たないよ!!」

 今まで処理に追われていたラピスが悲鳴を上げる。

「ルリちゃん・・・お別れだ・・・後を頼む・・・」

「アキトさん!! 納得できません!!」

「・・・あの後、ユリカには挨拶くらいしておくべきだったな・・・」

「諦めないでください、アキトさん!!」

 涙する二人。

 既にどうしようもない状況なのだ。

 そして始まるランダムジャンプ。

 今生の別れだ。

「ルリちゃん、幸せに・・・こんな形になってしまうけど・・・みんなによろしく。」

「イヤッ!! アキトさん、アキトさん!!」

 非常にもルリの叫びは通じず、ナデシコCの通信スクリーンにノイズが入る。

 物言わぬ波が走るようになったのは、間もなくのことだった。

 ナデシコCのブリッジスタッフはスクリーンに視線を吸い寄せられてしまう。

 ユーチャリスは光を纏っていく。

「・・・ユーチャリス、消滅・・・」

 舞い散る光の粒子。

 直後に報告したハーリーの声は震えていた。

 決して大きくない声は静かな艦橋内に響き渡った。

 その報告は誰にも届かずルリは艦長席で俯く。

 人には救えなかった事故、救いたかった人・・・様々な感情が入り乱れている。

 幸か不幸か、俯いている所為で彼女の表情は窺えない。

 だが、痛々しさが伝わるには十分すぎた。









「ラピス、すまないな・・・俺と一緒にいたばかりにこんな目に遭わせてしまって・・・」

「私はアキトと一緒なら・・・何処でも良い・・・」

 ラピスはオペレーター席を離れアキトに抱きついた。

 アキトは抱きついたラピスの頭を撫でる。

 彼の手は不安そうな少女の感情を逆転させることに十分な効果があった。

 さっきまでの張りつめた表情は消え去り、年相応に微笑む少女がそこにいる。

「同じ所に・・・行けるよね・・・?」

「そうだな・・・」

 アキトを見上げるラピスは次々と目の前に現れるウィンドウを振り払った。

 緊急事態を報告されても手の施しようがない。

 現在、ウィンドウはお節介な邪魔者なのだ。

 ラピスはアキトのバイザーに映る自分の姿を見つめ続けた。

 やがて意を決した彼女は今まで言えなかった台詞を投げかける。

「・・・ずっと一緒だよね?・・・」

「ああ、ラピスがイヤって言うまでな。」

「それなら・・・私をアキトのお嫁さんにして・・・」

「な・・・!」

 ラピスがどこからこんな知識を手に入れたのか不思議に思った。

 今までの戦いの日々の中で、何時の間に。

 だが、彼女も色々と夢見るお年頃の少女なのだ。

 その少女を独り善がりな目的の為に社会から隔離しているのはアキトだった。

 彼女が自分の傍にいることを望んだとしても、だ。

「そうだな・・・ラピスがもっと綺麗な大人になったら・・・かな?」

「ホント?」

「ああ・・・後、五・六年すればラピスは誰よりも美人になれるさ。」

「約束だよ、アキト。」

「ああ。」

 二人が笑うと同時に視界が白くなっていく。











 このとき、ヒサゴプラン襲撃犯テンカワ・アキトはこの世界から姿を消した。

 彼のランダムジャンプは、旧ナデシコAクルーだけに伝えられ軍は危険因子のテンカワ・アキトを捜索し続けた。

 そして、そのアキトは・・・風を感じていた。

 目を覚ましたとき、彼は・・・







後書きです。

はじめまして、GAROと申します。

ナデシコ初SSになるのですが、如何でしょうか?

ご想像の通り、アキト×ラピスになります。

脱線する可能性は充分にありますが。

アキトはちょっと冷めた性格になります。

ただ、モテモテのキャラにするかどうかは・・・・・・

今後の展開は、ちょっとしたほのぼのです。

シリアスではないです。

書いた後、立ち直るのに多大な労力を必要とするので。

それでは。


 

 

代理人の感想

ラピスって、公式設定では13〜16だそうですが・・・・・待て。と突っ込みたくなりません?(爆)

容姿はまだしも推定身長120cm前後(175cmのアキトの腹くらいまでしかない)の体格は

どう見ても小学生、下手すれば低学年です。

(参考までに、文部省の調査によると日本の女子小学生の平均身長は一年で116cm、二年で122cm。四年で133cm、六年で147cm) 

下手すれば発育障害とか起こしてるんじゃないかなと時々思いますね。

あるいは大量に投与されたナノマシンが成長を阻害しているとか。

 

・・・・・・・・・・まー世の中には小学生に見られる高校生が時々存在しているので、

あれが素でないとは言えないんですが(爆)。

 

 

と、言いつつ劇場版の設定画を見たら服の胸部に薄く影がついてるので

「ひょっとしたら胸があるのか?(汗)」と焦ったり焦らなかったり。

作中では「五年位して〜〜〜〜」とアキトが言っていますがもし13〜16という設定が正しければ、

ラピスの容姿は何年経ってもあのまんまという可能性も(爆死)。