揺れ動く未来と変わりゆく過去
第二話 「あなたたち」汚れてるよ?
「寒・・・」
風に当たっていたアキトの体はすっかり冷えていた。
寒気を感じて目を覚ましたのは良いが、空はもう赤く染まっている。
「・・・日が落ちるな・・・」
今見た光景をそのまま口に出す。
「ここは何処だ?・・・」
辺りを見回そうとして地面に手を置いたとき、堅い物が手に当たり慌てて引っ込めた。
「痛〜・・・石か・・・?」
自身に何事が起こったか理解できずに動きが止まる。
痛覚がある?
それに先程から感じる寒気・・・五感が回復したというのだろうか。
「・・・アキト?」
「ラピス?!・・・無事だったのか!!」
「アキト・・・可愛い・・・」
ラピスの手がアキトの頭を撫でる。
「・・・何を言っているんだ?・・・」
その時、違和感に気付いた。
地面に座り込んだとはいえ、同じように座り込んでいるラピスの手が何故易々と自分の頭に届く。
身長差があるので、ラピスにそんなことが可能なはずがない。
ラピスの顔を見ると・・・若干、記憶よりも幼い気がする。
「アキト・・・小さくなってる・・・」
ラピスに指摘され、まず両手、服装、足をチェックする。
五感はすっかり元に戻っている・・・と言うより実験された事実すらない。
ごく普通の健康体だ。
回復した視力をフルに生かし、じっくりと観察した結果、子供の体だった。
服装に至ってはTシャツに半ズボン、懐かしかった。
・・・子供の頃というのはどうして、座る度にパ○ツが見える事を気にしないのだろうか。
「なにぃ!!・・・」
感情を抑えて以来、久しぶりに自身に起きた変化に驚いた。
フリーズが解けると力一杯叫ぶアキト。
小学校低学年の少年とは思えない大人びた叫びが笑いを誘う。
尤も、ギャラリーは一人もいなかった。
一方、出演者のラピスは嬉しそうにアキトにくっついている。
「・・・過去に逆行した?・・・しかも昔の俺に?・・・
だが、ラピスは?・・・この時代にはまだ存在していないはずでは・・・」
研究所にいた為に正確な年齢は知らないが、どう見ても二次成長期前の印象だった。
現在の自分はおそらく・・・両親が死んでから暫くしてからだろう。
否、殺されてからだ。
ここはその頃によく来ていたユートピアコロニーにある河原だ。
「ラピス・・・この時代について調べるぞ・・・」
「うん。」
アキトの記憶を頼りにやって来たのは図書館だった。
「やっぱり・・・」
アキトは数年内の新聞を確かめ日付を確認、現在八歳。
ラピスは図書館据え付けの端末を使い調査しているようだが、勝手の違いに戸惑っているようだ。
「アキトの経歴あったよ・・・これで間違いない?」
「ああ・・・って、なんだ?・・・この金は・・・?」
アキトの記憶にないかなりの額のお金。
ラピスは画面を切り替え検索を開始する。
「わかった・・・アキトのお父さんとお母さんの残したお金だって。
保険金もおりてるよ。」
「前回はそんなのなかったぞ?」
そうでなかったらあんな貧乏生活してない、と言いかけて原因に思い当たった。
当時は遠い親戚を名乗る奴らが大勢来たな、と。
ついでに金のことばかり口にする役人もいたことを思い出していた。
「この金は両親の遺産だな・・・慎ましく使っていこう。」
当時の大人たちに怒りを覚えつつ、現在の状況もそう変わっていないことを確信する。
幸運なことに遺産問題は両親の死後、幾年経っているが解決していない。
が、頼りになりそうな大人がいない。
「八歳じゃなぁ・・・法的に出来ることが・・・」
当時の信頼できる大人は、せいぜいミスマルさん家のコーちゃんしかいない。
「イネスは・・・まだ学生だよな?・・・」
「・・・じゃあ、ダメ・・・」
「とりあえず、コーちゃんに連絡してみるか・・・」
既に態度がいい加減だ。
「・・・連絡するとどうなるの?・・・」
「・・・さぁ?・・・」
ラピスを連れ自宅に戻ったアキトは早速通信の準備に移る。
連合宇宙軍極東方面軍本部に通信を開いた。
ここでは取り次ぎの御令嬢と問答を繰り広げた挙げ句に泣き落とし、目的を果たした事のみ告げておく。
「おお、アキトくん、久しぶりだね・・・御両親のことは聞いたよ・・・残念だった。」
テロにあったとも、暗殺されたとも聞いているコウイチロウとしては複雑だろう。
しかも、ミスマル家の出発を見送った直後のことなのだ。
「それでお願いがあるんです・・・」
「なにかな?・・・出来る限り力になろう。」
「父さんと母さんが死んでから、親戚の人がたくさん来るようになったんです・・・
親戚がいるなんて聞いたことなかったし・・・
僕のこと、変な目で見て・・・
それに・・・遺産がどうとか、ずっと・・・」
コウイチロウの顔がどんどん厳しくなっていく。
「他にも・・・役所の方から来たとか言う人がお金の話ばっかりして・・・」
消防署の方から来たと言って消火器を売りつける詐欺師と同じである。
伝統的なスタイルは火星でも健在らしい。
「わかった!! そのことは全て私が何とかしよう!!」
アキトの話に事態を深刻と認識し、一肌脱ぐ決心をしたコウイチロウだった。
「ありがとうございます・・・よろしくお願いします。」
「うむ・・・アキトくんも辛いだろうが・・・頑張ってくれ・・・では・・・」
コウイチロウがアキトを安心させるように笑顔で敬礼し、通信は切れた。
「これで大丈夫だな。」
「・・・アキト、これからどうするの?・・・」
「ん・・・まず、ラピスの戸籍を作る。
中学を卒業するまではこのままだな。」
不安そうなラピスにあっさりと答える。
「中学?・・・卒業?・・・」
「学校のことだ・・・ラピスも一緒に行こうな?」
「・・・うん!・・・」
学校についてはよくわかっていないようだったが、あっさりと頷く。
「それからは?」
「地球の料理学校に行こうかな〜、と。」
「・・・?・・・」
「今度こそ、コックになりたいんだ・・・」
遠くを眺めるように呟く。
ラピスは首を傾げる。
さっきからナデシコの件について一言も触れていないのだ。
「・・・ナデシコは?・・・」
「前回通りになるとも限らないし・・・まだ時間はあるさ、じっくり考えよう。」
うじうじ悩む所がなくなったことを誉めるべきか、アバウトになったことを嘆くか、だった。
そして、時は順当に流れていった。
前回になかった金の力を使い、ゆとりのある生活を送りながら。
そして、テンカワアキト・十五歳、ラピス・ラズリ・十五歳は地球の調理師学校に入学。
三年の月日が流れた・・・
後書き
前々から感じていた疑問をお話にしてみました。
アキトの両親はネルガルの中でもそれなりの地位にあっただろうに、何故息子が貧乏してたのかな、という事です。
乏しい詐欺の知識を使い、こんな感じに。
髭パパは友情出演で。
前回の代理人様の感想を読んで・・・・
ラピスの設定年齢13〜16・・・嘘でしょう、これと思ったので。
聞いたことはあったんですけどね〜、TV版のルリより幼く見えたのは気のせいですか?
次からは地球編です。
次からは突っ込みが入るような話を掛けると思います。
ではでは。
代理人の感想
両親が死んで、他に親戚もいないとなれば普通は遺言から「後見人」を指名して
その人が子供の面倒を見るわけですが、それなりの期間財産問題で揉めていたと言うことだと、
おそらく後見人についての明確な遺言(あるいは遺言その物)がなかったと考えられます。
作中では多分家庭裁判所が後見人を選定している最中だったのでしょう。
そこへコウイチロウが割り込み、後見人になる事に成功したのだと思われます。
親類でもなんでもなくて、しかも地球にいる髭パパがどうしてそんな事が出来たかって?
・・・・・ふふふ、権力と言うのはこう言う時にこそ濫用するものなのですよ(爆)。
と言うのは半分冗談ですが、遺言で指名された後見人がいない以上、
アキト本人から指名された(&付きあいのあった)コウイチロウが
家裁へのアピールに成功した、と言うあたりでしょうか?
>ラピスの年齢
やっぱりTVルリより下にも見えますよね〜(笑)。
何とはなしに(TV版及びハーリーとの対比で)11才くらいかな、とは思ってたんですが。
ちょっと気になった文章のコーナー
>五感はすっかり元に戻っている・・・と言うより実験された事実すらない。
この場合は「実験された痕跡すらない」の方がよろしいかと。
「事実がない」と言うとニュアンスが違ってしまいますから。