明日への扉
第弐話 旅出Aパート
眼を開けるとそこは薄暗い部屋の中だった。
澱んだ空気。
カビの匂い。
普通のドアの代わりに鉄格子。
どうやらここ、牢屋の中みたいです。
牢屋――要するに、犯罪者か権力者に疎まれた人が入るところ。
私は犯罪をした覚えはないのでたぶん後者です。
私はまわりをよく見ようとして体を動かそうとした。
動かない。
なんか壁に張り付けにされてるみたいです。
ご丁寧にも足まで拘束されてます。
ため息をついてあたりを見回すと壁にいろんな物が並んでるのが見えた。
鞭の焼き鏝、釘にロウソク、その他いろいろ。
床には黒っぽいシミがたくさん。
それからすると、ここは牢屋じゃなくてきっと拷問部屋ですね。
「ようやくお目覚めかい?」
人の声が聞こえた。
顔を上げると、一人の男が鉄格子を開けて中に入ってくるのが見えた。
黒い髪、そして白衣を着ている。
顔はよく分からない。
ただ目の輝きだけが記憶に残った。
狂っているような、濁った輝き。
「困るんだよ。人を殺すのを躊躇うなんてね。」
そう言って男が近づいてくる。
「いらないんだよ。僕のおもちゃには《優しさ》などと言う物は必要ないんだ。」
『おもちゃ』、別にどうも思わなかった。
小さい頃からずっとだったから。
『人形』『実験材料』『モルモット』、ごくたまに『妖精』とも呼ばれた。
だからこの人にそう呼ばれても特に気にならなかった。
男の手の中には何か環のような物がある。
それは鈍い金属の輝きを放っている。
「けどあの様子じゃあこれを使う他無いみたいだね。」
白服の男はそう呟いた。
「例え魔導の力を持つ君でもこれをつければ僕の思い通りに動く。」
そう言うと笑い出しました。
・・・・・・大声でヒョッヒョッヒョって。
すごく怖いです。
絶対頭いっちゃてますこの人。
それから、笑いを止めると私に向けて手を伸ばしてくる。
イヤ。
私はそれを避けようとした。
けれど拘束された体では避けることができない。
ならば、と私は呪文を唱えようとした。
両手が繋がれてるため印はくめないけど、それでも多少の威力はある。
けど、声がでない。
何で?どうして?
頭の中に疑問が起こる。
男はそんな私の様子を見て、
「無駄だよ。寝ている間に【サイレス】で声は封じておいたから。
魔法を使われちゃ面倒だからね。」
なんか絶体絶命、やばいです。
けど私にはどうする事もできない。
頭に冷たい金属が触れた。
イヤアァァア!
叫び声を上げようとするけど声はでない。
そして男が低い声で呟く。
ゆめ
「良い悪夢を。」
そして意識が途絶えた・・・
「!」
少女は目を覚ました。
全身に寝汗をかいている。
「今のは・・・夢?」
そう呟く。
全身にべったりと寝汗をかいていた。
「・・・ここは?」
少女は辺りをを見渡した。
木でできた壁にはランプが燃えている。
壁には大きな地図と、どこかの城の絵が飾られている。
「おやおや・・・・・・操りの環が外れたばかりだと言いますのに・・・」
部屋の出入口から壮年の男が入ってきた。
顔には眼鏡をつけ、一見穏やかな笑みを浮かべている。
だが、その目は少女の様子を具に観察している。
「頭が・・・・・・痛い・・・・・・」
そう言うと少女は自分の頭を抱えた。
「無理はなさらないほうが宜しいですよ。
これは操りの環といいます。
これをつけられれば、其の者の思考は止まり人の意のままに動くようになる。」
そう言って男は手に持った環を少女に見せると、暖炉に投げ込んだ。
「何も思い出せない。」
頭を抱えたまま少女は呟く。
その様子は今にも熔けてしまいそうな氷細工、そんな感じだ。
男は少女に向かって、
「大丈夫ですよ。時間がたてば記憶も戻るはずです・・・・・」
少女はしばらくじっとしていたが突然、
「ルリ。」
ぽつりと呟いた。
「え?」
「私・・・・・名前はルリです・・・・・」
少女の言葉に男は眼を光らせ、
「ほう・・・・・・強い精神力を持ってますね、さすがは・・・・」
男はなにやら一人で納得していた。
「あの・・・・」
少女・・・ルリは男になにやらいいかけた。
「はい、何ですか?」
男が思案顔をやめ、普段の営業スマイルを浮かべる。
「あなたは・・・誰ですか?」
男はその問いに一瞬戸惑ったがすぐに、
「ああ、私プロスペクターと申しましす。」
炭
坑 夫
「プロスぺクター?」
少女が奇妙な名前を聴き男に尋ね返す
「いえいえ、ペンネームみたいなものでして。」
そう男が笑って言った時、玄関の外でドンドンと戸を叩く音がした。
「おい、ここを開けろ!
魔導アーマーに乗っていた娘を出せ!」
外から大きな声が聞こえてきた。
怒りに満ちあふれた、そんな感じの声。
その声にプロスとルリは部屋から飛び出し玄関の方へ向かう。
ドアの外からは、
「ここを開けるんだ!」
「娘を出せ!」
「そいつは帝国の手先だ!」
などと、さまざまな怒鳴り声が聞こえてくる。
「帝国・・・?・・・魔導アーマー?」
ルリは何の事だか分からずプロスを見やる。
「ともかくここを出るんです。私が説明した所で彼らは聞かないでしょう。」
プロスはそう言ってドアの方を指し、
「こっちです。」
と、ルリの手を取りドアとは逆の方へひっぱる。
そして、勝手口の所まで来ると、
「裏の炭坑から逃げられるはず。
ここは私にお任せ下さい。さあ、速く!」
そう言ってルリを家から出して、あちらだと指指した。
とうに太陽は落ち、辺りはほとんど真っ暗である。
今夜はつきも出ていない。
ところどころにあう薄暗いランプの光だけが辺りを照らしていた。
プロスペクタ―は少女に闇にまぎれて逃げるようにと言って背中を押し出す。
ルリはプロスに押されるままに駆け出した。
そして、長い吊り橋を渡っていると、
「あそこにいるぞ。」
下を見ると何名かの人間が彼女を睨んでいた。
(どうして?なんで追われなくちゃいけないの?)
彼女は訳も分からずただ炭坑の入り口を求めて走りつづけた。
そして、暗い入り口を見つけると中に入った。
(暗い。)
坑道の中は本当に暗かった。
ぽつんぽつんと置かれたランプとランプの距離はかなり離れている。
夜目が利く者でも自分の身体さえ満足には見えないであろう。
だが、ルリにはその闇もたいした障害ではなかった。
魔法の力を持って生まれた者ゆえか、少女の目は薄く黄金色に輝き、しっかりと暗闇を見据えていた。
しばらく歩いた後、ルリは突然立ち止った。
そして耳を澄ます。
かつーん。
だだだだだ。
彼女の気のせいではなかった。
ガード達が追いついてきたのだ。
そして、
「いたぞ!」
彼女が進んでいた方向から数名のガードが近づいてきた。
「!」
ルリは怯えを浮かべると、今まで来ていた道を駆け戻った。
しかし、
「こっちだ!」
こちらからも兵士がやってきた。
前にも後ろにも兵士。
逃げ道はない。
ガード達が彼女のほうへじりじりと近づいてくる。
そしてその分だけルリは後ろへ下がる。
しかし、ここはさほど広くない坑道の中。
すぐに少女は隅に追い込まれた。
そして、壁にガツンっと背中をぶつける。
「追い詰めたぞ!」
ガード達の勝ち誇った叫びが洞窟に響き渡った。
その瞬間!
「え!?」
ガラガラッ、ボーン!
ルリの足元が音を立てて崩れる。
「きゃっ!」
慌てて飛び退こうとしたが、間に合わず少女は崩れた地面の底へと落ちていった。
すぐに地面にぶつかる音が聞こえてきた。
後に残ったガード達は、呆然として互いに顔を見合わせる。
そんな中眼鏡をかけた女が隣の女に、
「まさか地面が崩れるなんてねー。あの子、運が良いのかな?それとも悪かったのかな?」
その声に、話し掛けられた女は我に返り、
「ば。ばか。んなこと言ってないで追いかけるぞ。」
そう言って眼鏡の女の背中を押す。
「はいはい。言われなくてもいくってば。」
駆け出した二人に続いて残りの者達も足を動かした。
人が消えた後、そこには暗闇と静寂だけが残った・・・・・・。
都市を望む高台に建てられた一軒屋の中、プロスは窓から外を見ていた。
ガード達の声もかなり前に聞こえなくなっていた。
恐らく今ごろは娘を追いかけて炭坑に入っているだろう。
はたしてあの娘は逃げ切れるだろうか?
そんなことを考えているうちに、窓の外に白いものが降り始めた。
「雪ですか。・・・これは吹雪になりますね。」
そう呟くプロスの顔には少し焦りの色が浮かんでいた。
「早く来てくださいよ、手遅れにならないうちに・・・。」
そう言ってプロスぺクターは一つの顔を思い浮かべた。
まだ若い、二十歳をすぎたばかりではある。
だが、その実力は自分達の中でもかなりのものだ。
・・・そして、自分が守れなかった友人の忘れ形見。
外ではプロスの言葉どおり、強風とともに吹雪きだしていた・・・・・
後書き
ええと、またまたお久しぶりです。
たしか前回は八月ごろだったんで、二ヵ月半ぶりです。
何かもう忘れられてそうですが・・・・・
いや、どうも気分がのらなくて書き出すのも遅く、
書き出したら今度はうまくまとまらなく、
結局半分に分けちゃいました。
書く事無いんで次回予告。
"自称トレジャーハンター登場"です。
ではでは
代理人の感想
・・・え〜と・・・
原作の展開忘れちった(爆)。
まぁ、多分某人物が助けに来るんでしょうけど(笑)。
・・・・・・・しかし、健気な薄幸の美少女的ルリって妙に新鮮だなぁ。
大抵のSSだとあざといか壊れてるかのどっちかなんで。(笑)
それと余談ですが、「プロスペクター」っていうのは本来「鉱脈探し(いわゆる山師)」の意味ですので、
炭坑夫というと微妙にニュアンスが違いますね。