再び・時の流れに 
〜〜〜私が私であるために〜〜〜



第4話 水色宇宙に「ドカバキ」……大丈夫かな、こりゃ……


 


 今回の歴史では、ジュンがユリカとあのかわいそうになる会話をすることはなかった。何故かって?……



 ジュンの奴は、ハルナとルリちゃんにコントロールを握られたデルフィニウムの中で、全く予測もつかない方向に最大7Gの加速でぶん回されたのだ。
 鍛え方の足りないジュンの目が回ったのも当然だろう。怪我こそしなかったが、完全にダウン。収容と同時に、医務室に直行となった。
 副長への復帰は、少し先になりそうだ……合掌。



 さて……次はサツキミドリか。リョーコちゃん達と合流だな……
 その前に、どうやってごまかすか……
 さすがに久々の全力戦闘は、今の体にはキツかった。ジュンのことを笑えない。丸一日寝込んだ後、目を覚ました俺に待っていたのは、プロスさんとゴートさんからの呼び出しだった。
 どうせ俺の腕のことだろう。
 もっとも、さらにその前に、心配するユリカが作ってきたお粥から逃げる方が先だったが……こちらには思わぬ伏兵が味方に付いてくれた。
 ハルナだ。
 あの超絶的な大食らいを支える鉄の胃袋は、消化速度だけでなく、対毒耐性も抜群だったらしい。



 ……やっぱり強化されているのか?



 最初は、「はい、あーん」といって迫ってくるユリカに、俺はもう一度『寝込む』事を覚悟したが、そこでうまい具合に呼び出しが掛かった。
 ルリちゃん、援護射撃ありがとう。
 そしてユリカが退出した隙に、ハルナがかわりに平らげてくれたのだ。
 しかも的確な味へのコメント付きで。

 「おいしかったかって聞かれた時、困るでしょ」

 そういってハルナは、ユリカの料理の問題点を指摘し始めたのだ。

 「お姉ちゃん、火星育ちの上に天才肌でしょ? たぶん常人より、体がエネルギーを要求するんだ。特に糖分を。おまけに火星の野菜って、栄養足りないから味が薄いでしょ。結果的にお姉ちゃん、味覚が少しずれてるのよ。糖分に対する要求量が多いから、相対的に甘味に対する感覚が鈍くなっている上に、野菜の旨みに対しては、舌が味を感じたがるからかなり敏感に反応する……とすると、ちょっと待っててね?」

 そう言うとハルナは、残りご飯で作ったと思われるお粥を、小鉢に二つ作ってきた。

 「これ、料理っていうより、化学実験だと思ってね? お姉ちゃんの感じてる味を、逆算して『ずる』してみた奴だから。こっちが普通の奴、で、こっちがお兄ちゃん用に修正した奴。お兄ちゃんも火星育ちだから、その分の影響を計算してみました」

 よく分からなかったが、取りあえず二つの粥をそれぞれ味見してみた。
 二つともほぼ同じ味だった。ほんのりと、作った者のいたわりを感じるような、優しい味。さらに『お兄ちゃん用』という方には、味としては劣るのに、懐かしさが記憶を刺激して、不思議と美味に感じられた。



 何というか、ユリカらしい味だった。



 「おいしい……」

 素直にその言葉が出た。

 「お姉ちゃんは、そう言う味のつもりで、あの凄い味の料理作ってるんだよ。これ、れっきとした味覚障害。ただ極端に酷くはないし、普通の料理もそれなりに『おいしい』とは感じられるから、普段は目立たないだけだよ。けど、愛情を込めて、『とびっきりおいしい、至高の味を』ってなると、この欠点が浮かび上がって来ちゃうんだ。お姉ちゃんの『至高』は、平均的な人には『ゲロマズ』になっちゃうからね。しかもこだわったあげくに、無茶な調理をするから、食材の暗黒面まで引き出してるし。トイレの洗浄剤混ぜるような事してるんだもん……今日のはお腹下すくらいで済むかな? あ、あたしは平気だから。だからお兄ちゃん、お姉ちゃんは、そう言う味のお粥を作ってくれたっていうことを肝に銘じてお礼するんだよ。ただ一口食ったら腹が痛くなったとは言った方がいいかも。味覚障害の件は、あたしが折を見て話しておくから」



 ……これは気がつかなかった。ひょっとすると、メグミちゃんやリョーコちゃんもそうだったのか?

 ユリカの料理がまずいのは、単に料理が下手なのだと思っていたが、こんな理由もあったなんて想像もしていなかった。だんだんうまくなっていったのは、この辺の誤差の『修正』を覚えたからであろう。それに人間、成長や環境の変化と共に味覚の好みは変わる。それがユリカの場合、味覚障害を緩和する方向に働いたのかもしれない。

 「人生、見方を変えるとまだまだ意外なことは多いんだな」

 ふと、そんな言葉が俺の口から漏れていた。そしたら、

 「今頃気がついたの? 人の性格なんて、見方と環境でころころ変わっちゃうんだよ? たとえばさ、ムネタケ副提督って、どんな人だと思う?」

 「な……」

 俺は危うくベッドの上で飛び跳ねかけた。
 こいつがキノコを本命と言ってのけたあの『悪夢』はあまりにも衝撃的すぎる。
 おまけにこっそりとだが、『あんなシーン』まで目撃しているのだ。

 ……口には出せんが。

 「このナデシコ内でも、連合軍でも評価は最低ランク。人に取り入るのが上手でおべっかで昇進した茶坊主士官。親の七光りすら反射出来ない無能……結構酷いこといわれてるよね」

 うなずくしかなかった。結構シビアな目も持っているな、こいつ。

 「だけどそれって、あの人の本質を全然見てない。ムネタケさん、一皮むいたら、ガイさんそっくりだよ」



 ……俺は2度目の幽体離脱を体験していた。



 そんな俺にかまわず、ハルナは話を続ける。

 「あの人の本質はね、正義を信じる熱血漢。己の手で平和な世界を具現化したいっていう、強いあこがれを持ってるんだよ。立派な軍人だったお父様方達のように、それこそ七生報国、滅私奉公して世界の礎になる、なんて事を本気で思うくらい」



 ……あまりにもかけ離れていないか?



 しかしハルナは、そんな俺の心中を読みとったかのように言葉を続けた。

 「でもね、現実はそう甘くはないでしょ。連合は腐ってるし、木星蜥蜴は強いし。あの人ガイさんと同じで政治力に長けた人じゃないからあんまり上部への受けが良くないし、なまじ純粋で熱血なだけに、普通のサラリーマン感覚の部下はついてこれない。きっと昔は、死んでこいって言われたら、そのままみんなの盾となって死んでこれるような人だったと思うよ、ムネタケさん。
 でもね、それは己の死に意味があると思えるから死ねるんだよ。お兄ちゃんだって、犬死にはしたくないでしょ。でもね、あの人、なまじガイさんより頭いいから、そんな風に自分が死んでも、上の人にははんこ一つ押すのと同じ意味しかないっていう現実に気がついちゃったんだ。純粋な人ほど、それが堕ちた時の反動はおっきいよね。熱血って、ある程度馬鹿じゃないと貫けないものだし。ガイさんはそういうところいい意味で『馬鹿』だけど、ムネタケさんは逆に頭が良すぎたんだ」



 ……俺は、ハルナの意見を否定しきれない自分を感じていた。

 理想が堕ちた時、人がどれだけ変われるかは……ほかならぬ俺自身が良く知っている。
 「きっと、何か事件があったと思う。世界全体からみたら、些細な事件かもしれない。けど、あの人にとっては、世界全部を否定されるような、そんな事件。だって、あの人は無意識的に憎んでいるもの。軍を、そしてこの腐った世界を。理想を追うことが絶望しかもたらさないなら、己の嫌っていた生き様をそのまま追求して、その上で頂点に立つ……それがあの人の妄執。頂点に立って、そしてすべてをあざ笑うために、あの人はあんな性格になった……変形した復讐心よ」

 俺は何も言い返せなかった。そこには、もう一人の『俺』がいた。

 「あの人自身は自分でも気がついていないと思う。本当に悪い人は、ああいうどことなく子供じみた、偏執狂的な態度はとらないものよ。ある意味子供のヒステリーと同じなんだもの。こだわることは求めることと表裏一体。捨て切れちゃえば楽になれるのに、でも捨てきれない。今のあの人には、『出世して偉くなってやる、世界を腐らせた奴等を見返してやる』っていう意地しか残っていない、かわいそうな人なの。だから、ちょっと引かれちゃったのかな……」

 思わずどきりとした。そこには年に似合わない、大人びた『女』がいた。

 「ちなみにね、お兄ちゃん」

 その雰囲気はこちらを向いた瞬間にかき消え、いつもの人なつっこそうな『少女』がいる。

 「あたし、ムネタケさん好きだし、一線を越えてもいいとは思うけど、たぶん連れ添うことは出来ないよ。お互いずっと一緒にいて耐えられる性格じゃないし、あっちも基本的にあたしみたいな女は利用して捨てるでしょうし。でもいいの。あの人はまだ気がつけば『変われる』から」

 「おいおい……」

 俺は兄として、このぶっ飛んだ妹の将来に少々不安を覚えた。しかしそんな俺の思いなど意に介さず、ハルナは何故か楽しげに笑った。

 「変わったら凄いよぉ、あの人。将来は連合軍の双璧とかいわれるようになるんじゃないかな」



 ……何じゃそりゃ。あの、ムネタケがか?



 「ちなみに双璧なのはね、至宝まではいかないから。あの人ぐらいの人材なら、もう一人くらいはいると思うし。いくら連合軍が腐ってるっていったって、全部が全部じゃないんだしさ」

 けたけたと笑いながら、ハルナは立ち上がった。
 と、それを見越したようにウィンドウが開く。

 「ハルナさん、交代の時間です。ブリッジまで来てください」

 どことなく醒めた目でルリちゃんが言った。

 「はーい、すぐ行きま〜す。じゃ、お兄ちゃん、またお昼にでもね。お姉ちゃんへのお礼、忘れちゃだめだよ」

 俺は苦笑いを浮かべながら、ハルナを見送った。



 そろそろ起きるか、と、ベッドから出て軽く体操をしていたところに、ルリちゃんがやってきた。

 「あれ、いいの?」

 と聞く俺にルリちゃんは一言。

 「休憩時間ですから」



 ……そう言えばハルナと交代といってたっけ。



 「そう言えばハルナ、使えそうか?」

 これは純粋に兄としての心配。いろんな意味でぶっ飛びすぎだからな、あいつ……。

 「……どっちの意味でですか?」

 と、ルリちゃんが俺に聞いてくる。おっとっと、そう言う意味にも取れるか。
 同志としての、評価。

 「いや、仕事はこなせるのかなって」

 「それなら全然問題はありません……ただ、ハルナさん、変です」



 ……? 何がだ? 今更「性格が変」とは言わないだろう。



 「物覚えが異常にいいんです。一度説明したことは絶対忘れません。その割に抜けたところが多くて、あんまり応用が利かない……不器用なところがありますね。なんだか思兼みたいです。整備班の方でも物覚えはいいそうですけど、こっちは普通に上達しているみたいですね」



 ……くどいようだがもう一度俺は思う……サクヤさん、アンタ、本当に娘に何をしたんだ? 怪しすぎるぞ。



 「そっか、さしあたっては問題ない、ってとこか」

 「ナノマシンの性能も段違いですし。ハルナさん、このナデシコでナデシコCなみの事が出来ますから。もっとも基礎体力の差っていうか、今のナデシコじゃ有効範囲が狭すぎて、敵軍を乗っ取るなんて真似は出来ませんよ。戦艦なら一隻、機動兵器ならエネルギーフィールド内が精一杯ですね」

 「一応、切り札にはなるって事か」

 「はい。もっともそのためにはまたアレをしなきゃなりませんけど……」

 「アレ?」

 このときは何のことだと思った。後で事情を聞いて納得はしたが。
 だがこのとき俺はまだルリちゃんとハルナが何をしたのかはしらなかったのだ。

 「……、もう、そんなこといわせないでください」

 まっかになって『いやんいやん(*^^* )( *^^*)』をするルリちゃん。



 ……妙に女の子ぽくってかわいいんだが、何があったんだ?



 「そうそう、こんな事してる場合じゃありませんでした」



 ……無理矢理話題を変えたな?



 「ラピスからのデータ、受け取りました。プロジェクトの進行は10%まで行っているそうです」

 それは速いな。
 俺がそう言うと、ルリちゃんはにっこりと笑っていった。

 「私が資金を提供しましたから。だめですよアキトさん、ああいうオペレーションをするのに軍資金は一番大事なものなんです。 そこからやらせる気だったんですか?」

 「そうか……気づかなかった。悪い事しちゃったな」

 「そう言うところがアキトさんらしいです……ただ、それに関していいとも悪いともつかない報告があります」

 俺は心を引き締めてそれを聞いた。

 「どうも、正体は不明ですが、あたし達と同じ事をしている人がいるみたいです。幸いターゲットが違いますが」



 ほう、目端の利く奴がいるもんだな。



 「しかもあちらはこちらに気がついているが、こちらは相手の正体がつかめていない。そこが気になるって言ってました。
 相手は自分のターゲットとあたし達のターゲットが双方に相手を狙っているように思わせ、そこに介入することで莫大な利益を受けています。あたし達もちゃっかりそれに便乗してますからえらいことは言えませんけど。だからあれだけのスピードアップが可能だったんです」



 うまく陰謀同士が相乗効果を上げているわけか。



 「けれどもこのままだと最後の最後に逆転を食らうおそれがあるんです。トンビに油揚げをさらわれたら何にもなりません。出来れば相手の正体を掴んで共闘関係に持っていきたいけど、どうしても相手の正体をつかめない、ってラピスからの報告にはありました」



 ラピスやハーリー君にも正体を探らせないとは、こりゃそうとうの腕だな。



 「わかった……といっても俺には何にも出来ないけどな。励ましてやりたいとこだが、ラピスの場合下手に励ますと無理しそうだからな……無理してなんかあったらかえって悪いことになる」

 「そう……かもしれませんね。今のところはまだ大丈夫みたいですが」
 ルリちゃんも心配そうに言った。ほとんど面識はなくとも、何か感じるところがあるのだろうか。

 「あ、そうそう、データの受信は終わりました」

 ああ、あの設計図か。

 「何とかなりそう?」

 「大丈夫だと思います」

 俺はそれを聞いて幾分安心した。そして時計をみる。そろそろ行かないとまずいかな?

 「じゃ、これからブリッジへ行くけど、どうする?」

 「一緒に行きます……ここにいてもしょうがないですから。せいぜい上手に言い訳してくださいね」

 「……助けてはくれないんだ」

 「私、少女ですから」

 はて……何か関係あるのか?







 ブリッジに行くと、ナデシコの主要メンバーがあらかたそろっていた。ウリバタケさんまでいる。

 「さてさて……テンカワさんの戦闘記録を今先程、ブリッジ全員で拝見させてもらいましたが」

 珍しく真面目な顔をしているプロスさん。

 「正直言って、信じられん程の腕前だ」

 ゴートさんも、驚きを隠さない。

 「けどアキトさん……貴方いったい、どこでこれほどの腕前を身につけたのですか? 貴方が軍に所属していた事実はありませんし」

 「そんなの決まってるじゃない、アキトはあたしの王子様なんだよ。あたしのためならアキトは何だって出来るんだから!」



 おいおい……



 そう思っていたら、案の定プロスさんに怒られた。
 普段のお前は全然艦長らしくないなぁ、やっぱり。

 「それはさておき、貴方の実力からすると、装備が整っていれば……」

 「単独でコロニーを、いや、ナデシコを落とすことも出来るだろう」

 コロニーを落とせる。たしかにな……。
 俺の心の中に、苦い思いが広がった。
 あの罪は、過去に戻っても決して消えない……。

 「まことに失礼ですが、その辺の事情を説明してもらえませんか?」

 「どういう事ですプロスさん! アキトを疑ってるの!」

 あ、ユリカがまともに怒っている。こういう事には鋭いな、お前。
 だがブリッジの目は、ユリカとルリちゃん、そしてハルナを覗いて疑い半分、好奇心半分だった。

 「最初は、ゲームだと思ってたんです」

 俺の言葉に、ブリッジがしんと静まりかえる。さて、必死になって考えた言い訳を言うか。

 「俺が餓鬼の頃……研究で家にいられなくって寂しいだろうって、親父が体感ゲームを持ってきてくれたんです。ネルガルの試作品だっていって。最初は体感式の格闘ゲームでした。俺は夢中になって遊びましたよ。ユリカには内緒にしていましたけどね」

 「あ、ずるーいっ! アキト、そんな宝物隠してたの!」

 ユリカが頬をふくらましていた。

 「アレ、お兄ちゃんももらったの?」

 ハルナからもツッコミが入って、俺は内心焦った。
 嘘から出た真か? とにかく俺はとぼけ通すとにした。

 「ゲームには『戦って技を学ぼう』とか書いてありまして、ゲームを通じて通信教育の級が取れるとか書いてありました」

 「あれ? あたしのはディスクだけだったけど。後コンパネ、っていうかセンサー」

 ハルナの声をあえて無視する。

 「だとしたらその辺は親父の偽装だったのかもしれないな。とにかくゲームにうまくなるとホントに強くなれるって言うふれこみでした。その割にはいつもユリカに完敗でしたけど」

 「アキト! どういう意味よ!」

 ブリッジ中の人間がにやにやしている。俺はそれにかまわず話を続けた。

 「そのうち今度はちょうどアサルトピットみたいなものに乗ってやる3Dのロボットゲームとかも持ってきてくれました。ちょうど、両親が……死ぬ、前のことです」

 再びブリッジがしん、となった。

 「『そのままでも面白いが、もしパイロットにでもなる気があったら、IFSを付けてやってみろ、もっと凄いぞ』ってうのが、親父の言葉でした。クリアするまで夢中になりましたよ。親父やお袋のことを忘れようと。あるいは……親父の敵を討とうと。変な話ですが、餓鬼の頃には良くあるでしょう。これを成し遂げればいいんだって思いこんじゃうことが。俺はこのゲームをクリアすれば、両親の敵が討てるって思いこんじゃったんですよ。だから本当に夢中になりました。IFSを付けた後のアレは、今になって考えてみればほとんどエステのシミュレーターと言っても過言ではなかったですね。出港時に乗るまで全然気がついていませんでしたけど」

 「あ、やっぱりお兄ちゃんももらってたの? あたしそっちはつまんなかったから全然やんなかったけど」



 ちょっとまて……俺は今嘘八百を並べているんだぞ。何故そうハマった台詞を吐く、ハルナ……。
 だが俺は動揺を抑え、何とか言葉を繋いだ。

 「だから俺は自分の実力などよく分かっていませんでした。今こうしてプロスさんの話を聞いて、ああ、そうだったのか、って思ったんです。アレは親父がいざというとき、自分で自分の身を守れるようにってくれたものだったって……」

 お、ブリッジの雰囲気が良くなってきた。もう一押しか。

 「けど、火星で木星蜥蜴に襲われた時、俺は何にも出来なかった。奴等に武術は効かないし、武器もない。その反動でか、俺は極端な臆病になっていました。食堂を首になっていたのもそのせいです。でも、ここに来て、エステバリスに乗って、戦っていくうちに、だんだん思い出してきたんです。狙ったところに弾が飛ぶようになると、なんだか何でも出来るような気がしてきて。あのミサイルの雨も、アレをクリア出来た俺なら平気だって思えたんです。で、やってみたら……あの通りでした」

 俺はそこで言葉を締めくくった。ルリちゃんは笑いをこらえるのに必死だ。ハルナの目が一番怖かったが……納得しているみたいだ。
 そしてプロスさんは、にやりと言う意地の悪そうな笑みを浮かべて、俺の前に書類をさしだした。

 「では、テンカワさんはエースパイロットとしても働ける、という事ですな」

 「エースって事はないと思いますが……」

 俺が謙遜すると、そこに大音声が響き渡った。

 「いいや、お前はエースだ!

 残念だがお前の腕が俺より確かなのは間違いなさそうだ! 

 アキト、天空ケンの席はお前に譲ってやる!

 俺は海燕ジョーで我慢するぞ!」



 ガイ……それはないだろ。
 そしてプロスさんは顔をしかめながらも……書類を持ったままだったので片耳しかふさげなかったのだ……改めて契約書をさしだした。

 「とにかく、臨時ではなく、正規のパイロットになっていただきたく思いまして。もちろん、お給料ははずみますよ」

 俺は仕方ない、といった感じでサインをした。コックも兼任だ。
 これで、過去と同じというわけか。



 その夜。
 ルリちゃんが当直なのを確認して、俺はブリッジに赴いた。

 「ルリちゃん、ちょっといいかな?」

 「はい、何ですかアキトさん(*^^*)」

 ん、ちょっと顔が赤いぞ。熱でもあるのかな?

 「ん、いや、サツキミドリに、ハッキングをかけられないかな、って思ってね」

 「あ、そう言えばそろそろですね(-_-)」



 ……見間違いだったかな? 顔色に変なところはない。



 「そうですね……今のナデシコだと、通信可能範囲まで行かないと無理ですから、全く無意味ですね」

 前回はメグミちゃんが通信中にサツキミドリが襲われたのだ。

 「となると……せめて警報を鳴らせればいいんだけど」

 「ふふふ、みなまでいうことはないですよ、アキトさん」

 すっかりお見通し、というわけか。

 「あの時期のサツキミドリにハッキングを考える理由なんて、一つしかありません……みんなを避難させればいいんですね」

 「ああ、出来るかな」

 「それなら簡単です。その手の悪戯は良くやりましたから」



 ……おいおい、いったいどこでだ。



 「おかげでラピスの実力がよーく分かりました」

 「あんまりいじめないでくれよ、ルリちゃんのほうが先輩なんだから」

 「……そうも言えないんですけど」

 「ん、なんかいった?」

 「いえ、何も」



 ……何か聞かない方が良さそうだ。



 「じゃ、取りあえず襲撃の警報を鳴らすようにします……あら?」

 「どうかしたのかい、ルリちゃん」

 ルリちゃんはいくつもウィンドウを開いて、何かを確認している。

 「船の進行スピードが少し速いんです。まあ、誤差の範囲なんですけど、サツキミドリへの到着が、前より少し速いみたいなので……」

 「そんなに速いのかい?」

 「いえ、前回のこの時点でのスピードを見ていたわけじゃないですから、この後何かの理由で遅れたのかも。取りあえずウィルスつくっておきますね」

 「よろしく。俺は少し体を鍛えてくる。今のままじゃまた倒れるからな」

 「がんばってください」

 ルリちゃんの声に送られて、俺はブリッジを出た。
 さて、寝る前に一汗流すか。







 ……と思ったら、トレーニングルームの前でハルナに捕まった。

 「あ、ちょうどいいところにいた。ね、お兄ちゃん、ちょっとつきあってくれない?」

 「それはいいが、船内時間だと今真夜中だぞ? いいのかこんな遅くまで」

 「べつに。それよりここに来たっていうことはトレーニングする気だったんでしょ? ならちょうどいいや」

 引っ張られていったのは、バーチャルルームだった。何故かウリバタケさんも一緒にいる。

 「何してるんですか?」

 俺が聞くと、ウリバタケさんは俺の頭を抱えてぐりぐりしながらいった。

 「このやろ! お前餓鬼の頃からあんな面白いもんで遊んでたのか? お手本見せて見ろ」

 何のことかさっぱり分からなかったが、ハルナの台詞を聞いて理解出来た。

 「ほら、お兄ちゃんももらったっていうアレ。ディスクはどっちも持ってきてたから、後は端末だけどうにかすれば遊べるの。だからソフトを思兼のライブラリに登録して、格闘ゲーのほうはバーチャルルームで、ロボットもののほうはエステのシミュレーターで遊べるようにしたよ。ロボットもののほうは今ガイさんが遊んでる」

 「そゆこった。せっかくだからお前に実験して欲しくてな」

 ……まあ、嘘から出た真という奴を、試してみるのも悪くはないか。

 「外でモニターしてるからね」

 ハルナの声を背に受けて、俺はバーチャルルームに入った。



 バーチャルルームに入ると、目の前に難易度設定のウィンドウが浮いていた。
 取りあえず「普通」を選択する。

 「Ready GO!」

 へっぽこな合成音のかけ声と共に、舞台はリアルなスラム街へと変貌した。
 目つきの悪いチンピラが、こちらに向かって襲いかかってくる。



 ……結構リアル……すぎないか? 相手の呼吸音がちゃんと聞こえるぞ?



 取りあえず相手をパンチやキックでなぎ倒す。なるほど、クリーンヒットすると色で分かるのか。
 ゲームとしては面白いな。シャドートレーニングのかわりくらいにはなる。結構全身を動かすし。
 5分ほどでクリア出来た。

 「ふぇぇっ、パーフェクトかよ」

 バーチャルルームが元に戻ると、ウリバタケさんが感心した声を上げていた。

 「お前、結構やるなぁ」

 「必死でしたから」

 取りあえずそう言ってごまかす。

 「じゃお兄ちゃん、マキシマムモードやってみる? ものすごく重いから、うちじゃゲームにならなかったんだよね。モニターも出来ないの。凄くリアルだったよ……っていっても頭のところですぐやられちゃったけど」

 「ん、やってみるか」

 今度は「マキシマム」を選択する。
 とたんにバーチャルルームが真っ暗になった。同時にすさまじいプレッシャーが掛かる。



 ……なんだ? これはゲームじゃなかったのか!



 そう思いつつも、背後に感じた殺気に向けて俺は蹴りを放っていた。
 肉体に足が食い込む手応え。手応え、だと?
 そのとき、突然明かりがついた。目がくらむ。そこに襲いかかってくる敵の気配。
 馬鹿な! リアルすぎる! 何故気配を、殺気を感じられる!
 俺の手足が動くと共に、さらに2人の敵が倒れていた。落ち着いてあたりを見るとどこかの研究所のようだ。かすかに非常警報と思われるブザーが鳴っている。そして多数の敵の気配……
 いつしか俺は、これがゲームであることを忘れた。群がる敵を蹴散らしつつ進む……だが50人ばっかり倒したところで、俺の息が上がってきた。
 そして肉体が俺の制御についていけなくなった時、背後から銃弾の一撃を受けた。
 その一撃で俺の意識は遠くなり……気がついたらバーチャルルームの中にいた。
 ウィンドウに得点と、再現ビデオパックのダウンロードの表示が出ている。

 「何だったんだ、今のは……」

 もしあんなゲームを毎日やっていたら、本当に格闘戦のプロになれるかもしれない。マキシマムモードのリアルさは、それぐらい凄かった。

 「どうだった、お兄ちゃん」

 そんなことを考えていると、ハルナが入ってきた。

 「懐かしかったでしょ」

 「ああ……けどやっぱり腕が鈍っているな」

 取りあえず俺はそう答えておいた。俺は『このゲーム』で特訓したことになっているからだ。

 「いつでも使えるから、たっぷり練習してね。じゃあたしはそろそろねるね」

 言うだけ言って、ハルナは出ていってしまった。ウリバタケさんも帰ったらしい。
 けどやはり今の俺に必要なのは地道なトレーニングらしい。俺はそのままトレーニングルームへ引き返そうとして……ガイに出会った。

 「アキト! お前はなんてうらやましい奴なんだ!」

 なんだ? どうした、ガイ?

 「あのゲーム、本当に『物凄い』じゃねえか……そうか、お前カスタム機能は使わなかったな!」

 「ああ……それがどうした?」

 取りあえず調子を合わせる。

 「馬鹿野郎……お前の腕が凄いのは理解出来たが、何故カスタム機能を使わなかった! 使っていれば、あの熱い思いを追体験出来たというのに! 後で絶対やれよ!」

 そのままガイは感涙を浮かべながらいってしまった。

 「次こそはアカラ王子に勝つぞ!」



 ……機動兵器のシミュレーター、いったいどんな奴だったんだ?
 何となく予想はついたが。







 そうしているうちに、サツキミドリが近づいてきた。
 襲撃の一日前に、エマージェンシーコールが鳴って、全乗員が待避してくるはずだ。

 「サツキミドリより、脱出艇発進。まもなくすれ違います」

 ルリちゃんの声がブリッジ内に響く。俺はいつものように出前の特製チキンライスを持ってきたところであった。

 「おや……何かあったのでしょうか」

 プロスさんがそう呟いた時、ルリちゃんの顔が不意に厳しくなった。

 「レーダーに反応、木星蜥蜴、サツキミドリ周辺に展開」



 ……なにっ!



 そう言えばルリちゃんがナデシコの船足が少し速いとは言っていたが……そうか! 今回は間に合ってしまったというわけか!
 前回は通信と同時にサツキミドリが破壊……つまりナデシコは間に合わなかった。だが前回よりやや船足が速まっていたため、今回はほぼ同時に到着したというわけか!
 しかもウィルスのせいで、乗務員は脱出済み。最悪サツキミドリが大破しても被害者はない!

 「サツキミドリよりエステバリス3機発進……多勢に無勢ですね」

 表面上は淡々と……しかし、そばにいる俺にだけは分かるふるえを伴って、ルリちゃんが報告する。

 「ナデシコに搭乗予定のパイロットが迎撃に出たようですね……彼女たちに何かあると、この先大変困るのですが」

 プロスさんがそろばんを片手に、しかめっ面でいう。

 「ナデシコ全速前進! サツキミドリとパイロット3名の救出に向かいます!」

 ユリカの声がブリッジに響き渡る。その隣でフクベ提督もうなずいていた。

 「艦長、宇宙空間用の0Gフレームはここで納入予定だったため、今回エステバリスは出動出来ません」

 「そっか、アキトは出動出来ないのか」

 ルリちゃんの忠告に、残念そうな顔をするエリカ。それを見てプロスペクターさんが言った。

 「せめてサツキミドリのそばにナデシコを付けられればいいんですが」

 「どうしてですか?」

 ユリカが質問する。

 「サツキミドリを守る盾にするという目的もありますが……何よりそうすれば予備を取りに行けるんですよ」

 「予備?」

 「ええ。ここでの納入予定のフレームはアサルトピット付きが4機、アサルトピットなしの予備フレームが1機と、修理用のパーツが実質フレーム3機分でした。パイロットは4名の予定でしたしね。で、出撃したのは3機ですから、まだ格納庫に1機、使えるエステバリスがあるはずなんですよ」

 「わかりました。進路4−5−2、ミナトさん、お願いします! フィールドはぎりぎりまで薄くして、その分速度を上げてください」

 「まっかせなさいっ!」

 そしてナデシコは、大きく進路を変えた。



 「……アキトさん」

 ルリちゃんが俺に小声で話しかけてくる。

 「なんだい、ルリちゃん」

 俺も小声で答える。

 「また、ハルナさんのせいみたいです、歴史が変わっちゃったの」

 「……どういう事だ?」

 またあいつのせいか。でも、何故?

 「ハルナさんがオペレートしている間、ほんの少しナデシコの巡航速度が速くなっていました。たぶん誤差というか癖というか、そんなもんだと思いますけど、結果それが積もり積もって、今回間に合っちゃったみたいです」

 「とことん歴史を変える奴だな、あいつ」

 「そこっ! 何密談してるの!」

 ユリカが珍しく真面目な声で怒っている。そう言えば戦闘前だ。

 「するんならあたしも混ぜなさい!」

 あ、ジュンがこけた。復帰そうそう、大変だな、お前も……。



 敵の部隊はそれほど大規模なものではなかったが、エステバリス3機でどうにかなるほど小規模でもなかった。ナデシコが全速で予定のポジションに入ると、出動していたパイロットから通信が入った。

 「ナデシコか! 助かったぜ! こちらスバル リョーコ、取りあえずエネルギーくれ! バッテリーがつきそうなんだ!」

 「同じく、アマノ ヒカル。こちらもお願いします」

 「同じく、マキ イズミ」

 お、イズミさん、シリアスモードだ。

 「こちら機動戦艦ナデシコ艦長、ミスマル ユリカです。直ちにエネルギーラインを接続します」

 「エネルギーライン、接続します」

 ルリちゃんがそう言うと同時に、リョーコちゃんの歓声が上がった。

 「おっしゃあっ! これでもう一頑張り出来るぜ!」

 「スバルさん、アマノさん、イズミさん、現在ナデシコはサツキミドリのカバーのためにそれほど自由な機動が取れません。出来れば敵をこの範囲に追い込んでください。そうすればグラビティブラストで一網打尽に出来ます
 」
 さすがはユリカだな。こういう時には頼りになる。

 「了解! あ、俺のことはリョーコでいいぜ。スバルさんなんて言われるとケツがムズ痒くなっちまう」

 「了解! アタシもヒカルでいいです」

 「了解。あたしはイズミでいい」



 ……シリアスモードだと普通の美人なんだけどな、この人。



 「では、こちらはフレームの回収に参りましょう。テンカワさん、こちらへ」

 「あ、はい」

 そして俺は、形を変えてサツキミドリへと降り立った。



 サツキミドリに降りたのは、俺、ガイ、ウリバタケさん、ゴートさんであった。

 俺とガイは当然として、何故ウリバタケさんがいるのか。

 「一機はそのまま乗り換えればいいんだが、もう片方は換装しなきゃなんねいからな。そこでこのRユニットの出番だ」

 高々と小さな箱をかかげるウリバタケさん。

 「こいつをフレームに取り付ければ、ハルナのリモコンで基本動作くらいはどうにかなる。あとはそのまま換装すりゃいい」

 「ガンガークロスオペレーション・イン・スペースってわけだ」

 ガイが高らかに笑う。
 ちなみにゴートさんは万一の時のウリバタケさんの護衛だ。いつ流れ弾が飛んで来るか分からない。陸戦フレームで何とか進んでいるうちに、案の定先のほうから振動があった。

 「まずいな。ちょうど格納庫からのほうだ。急ごう」

 ゴートさんの声に、俺たちはスピードを上げた。
 やがて格納庫についた時、そこの壁に大穴があいていた。

 「ちっ、いい方が飛んじまったか」

 そこにはアサルトピットなしのフレームが、でんと横たわっていた。

 「ちょっと待ってろ……ちょちょいのちょいなと」

 寝てるのが幸いして、ウリバタケさんは難なくフレームにとりつくと、ユニットを接続した。

 「よしオーケーだ。ハルナ、立たせてみてくれ」

 『了解〜』

 無線にその声が入ると共に、アサルトピットなしのフレームがゆらりと立ち上がった。

 「相変わらず便利なもんだな。整備ん時も、彼女のおかげでちょっとエステの位置動かすのに、いちいちパイロット呼んでくる必要ないしよ。ハルナ様々だぜ」



 ……確かにそれは役に立ちそうだ。



 そう思った時、俺は強烈な『殺気』を感じた。
 歴史は繰り返すというのか!
 だが俺がそちらを向くと同時に、サツキミドリの床が抜けた。

 「アキト!」

 ガイの声が耳に飛び込む。まずい。いくら俺でも、陸戦フレームで宇宙空間に落ちたら何も出来ない。サツキミドリの重力制御がまだ生きているから虚空に流されることはないが、このままでは絶好の的だ。

 「ガイ! ウリバタケさんとゴートさんを!」

 「そっちは任せろ!」

 そういいつつ、ガイの持つライフルが唸る。
 しかしそれを襲撃者は難なく交わす。
 やがて俺たちの視界に移ったのは、頭部を乗っ取られたエステバリスであった。

 「デビルエステバリスっていうわけか!」

 ガイが叫ぶ。前回はヒカルちゃんがそんなこといってたような……。

 「アキト、クロスオペレーションだ! それしかない!」

 確かにそれしかない。だが問題は、うまくいくかだ。合体はともかく、奴を牽制しないと俺もフレームも蜂の巣だ。
 そのとき上の方から物凄い勢いでライフルが火を噴いた。

 「俺が牽制する! 速くしろ!」

 分かったよ、ガイ。お前の信頼には、応えてやるぜ!

 「やるぞ、ハルナ、ガンガークロスオペレーションだ!」

 『フフフ、ガイさんのリクエストに応えるのね。よっしゃ、やりますか』

 ハルナにも通じたようだ。俺が陸戦フレームからアサルトピットを切り離すと、ぴったりそれに同調するように0Gフレームが移動してきた。
 位置、速度、OK。
 そして俺とハルナは、ガイに聞こえるように叫んだ。



 「『レッツ、ゲキガ、イーン!』」



 ガイの援護もあって、俺は換装に成功した。

 「後は任せろ! ガイは2人を避難させてくれ!」

 「おうっ、頼んだぞ! あのゲームをクリアしたお前なら、デビルエステバリスなんぞ敵じゃねえっ!」

 ……よほど凄いらしいな、あのゲーム。帰ったらやってみるか。
 デビルエステバリスは、ライフルの1斉射でアサルトピットを打ち抜かれて沈黙した。これならフレームは使えるだろう。

 「さて、リョーコちゃん達の加勢に行くか」

 ガイ達が無事に避難していくのを見て、俺は宇宙空間に飛び出した。







 「ちいっ、弾切れか!」

 オレはそう言うと、ただの棒きれになったライフルを投げ捨てた。後はワイヤーフィストしか武器がない。

 「艦長さんよっ! どんなもんだ!」

 そう言った時、通信士から連絡が入った。

 「今最強の援軍がそっちに向かっていますよ。ですからナデシコの陰に入ってください」

 「おいおい、そいつは大丈夫なのかよ」

 オレがそう言ったにもかかわらず、通信士の奴はこう抜かしやがった。

 「まあ見ていてください……おそらく、史上最強のエステバリスライダーの戦いを」

 なんだと、と思った時、通信が入った。

 「ね、ね、リョーコ、アレじゃない?」

 「最強のライダーが行く……さー、いきょー……くくくくく」

 あかん、イズミの気が抜けとる。どうやら2人とも待避してきたみたいだな。
 取りあえずイズミは無視して戦場に目を向けた時、オレは思わず自分の目を疑った。

 「花火……?」

 まるで花火のように、光の花が咲いた。その中で踊る、黒い影。0Gフレームのバーニヤが光る度に、バッタやジョロが光となって消えていく。
 オレは全身が震えるのを止められなかった。それほど目の前のエステバリスの戦いは……美しかった。

 「アキト、もういいよ〜。残り全部、射界に入った」

 「了解、離脱する!」

 艦長のどことなく脳天気な声に、まだ若い声が応える。
 そして踊りの幕を下ろすかのように、黒いカーテンが戦場をなめ尽くした。
 ……敵は光の海に沈んでいた。

 「なんて、奴だい……」

 オレはそう呟きながら、ナデシコへと向かっていった。







 俺が着艦すると、ほかのパイロット達は皆着いていた。クルーのみんなも、出迎えに来ている。

 「俺の名前はスバル リョーコ、18歳だ。よろしく」

 「うおおおおおおお!!!」(メカニック達の熱き叫び)

 「特技は居合抜きと射撃。好きな物はオニギリ、嫌いな物は鶏の皮、以上」

 「おおおおおっ!」(メカニック達の心の雄叫び)

 相変わらず熱いな……などと思いながら俺はその様子を見ていた。

 「はじめまして!! 新人パイロットのアマノ ヒカルで〜す!!」

 「おおおおおおお!!!」(メカニック達の魂の叫び)

 今度はヒカルちゃんか。

 「18才、独身、女、好きな物は、ピザのはしの硬くなった所と、両口屋の千なり。後、山本屋の味噌煮込みで〜す!!」

 「おおおおおおお!!!」(メカニック達の血の叫び)

 とすると次は……

 「うわあああぁぁっ!!」(メカニック達の驚愕の叫び)

 いつの間にか彼らの背後をとっている。

 「どうも、新人パイロットのマキ イズミです。ふふふふふふ……ヒカルとリョーコ……二人揃って……ヒカ」







 ……はっ、今俺は何を聞いた!……だめだ、思い出せん。







 「アキトさん、速く降りてきてください」

 ルリちゃんからの通信でようやっと正気に返った。

 「良く平気だったね」

 俺がそう聞くと、ルリちゃんは平然といった。

 「耳栓していましたから。二回目ですし」



 ……賢いな、ルリちゃんは。



 後で聞いたら、ナデシコは約1時間にわたって活動不能になっていたらしい……戦闘直後でよかったな。ほんとに。
 けど今回、メグミちゃんとああならなかったな。これも歴史が変わったせいか。

 ……その方がいいな。俺に……関わる人物が少なくて済む。



 こうしてサツキミドリ攻防戦は、無事に終了した。
 目指すは……火星だ。



 次回 ルリちゃん「後悔日誌」……何者なんです、あの人 に続く。








 あとがき。

 また一つ、歴史が変わりました。
 今回ハルナはおとなしめ。でも歴史はだいぶ変わっています。
 メグミちゃんがアキトに絡んでこないし。リョーコは危なそうだけど。
 その分何故かガイがかっこいい。病室の主だった前回とは大違いです。
 ハルナ効果……恐るべし。
 次回の第五話で、ハルナの秘密のベールが、また一枚はがれます。
 でも後何枚重ね着しているんだ、この女。

 

 

代理人の感想

 

はげばはぐほど秘密のベールが何枚も・・・って、ラッキョですかハルナは(笑)。

まあ、話の要素の殆ど全てが重なる所にちょこんと位置してると思しきキャラクターなので

当たり前と言えば当たり前ですが。

 

それにしてもユリカの毒料理の解釈には脱帽ですね。

いや、お見事。

しかし、今回私の心を捉えたのはなんと言ってもあれでしょう。

そう!

 

私もカスタム機能で遊びたいッ(笑)!

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

ゴールドアームさんからの投稿です!!

見事にアキトのサポートをしてますね〜

その上、ガイのサポートまで(笑)

うう、何て良い子なんだ君は!!

それにしても何処まで本気、何処までが嘘なのか分からない態度が良いですね〜

最後に私も一言・・・

 

俺もだよも代理人(笑)!

 

 

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