再び・時の流れに
 〜〜〜私が私であるために〜〜〜

第17話 それは『遅すぎた再開』……いまさら、ですか。それでは意味がないんですよ……その4




 「……腑に落ちないわね」

 「何かおかしな点でも?」

 「ええ……数字は確かに犯罪を示唆している。けどね、見えてこないのよ……その裏にあるべき、動機や犯人像が」

 そう、それが不審だった。
 私も軍からこの会計監査部に出向して結構長い。その培った経験が、何か変だと私に警告する。
 私の名はカブラギ カオル。現在はおもにネルガルグループの会計監査を仕事としている。



 「すると何ですか? この事件もいつぞやの件みたいに、フタを開けたらとんでもない事実が、とでも?」

 冗談めかして部下はそういうが、私はそれもあるかもしれない、と本気で思っていた。
 いつぞやの件というのは、今回と同じ、ナデシコがらみの横領疑惑の事である。
 今回の件に比べれば遙か少額……とはいえ、成人男子30人分の食料費だから、そんなに少額とは言えない……の横領事件であった。
 この時最初に為された現地の弁明は、『30人前の食料を平らげる大食いのクルーがいた』というはちゃめちゃな言い訳であった。
 信じられない話である。が、その信じられない事をくどいくらい真顔でいう彼らの態度に、私は何か引っかかるものを感じた。
 そこで私は、この件をぎりぎりまで引き延ばした。そうしたら何と、別ルートから彼らの主張した事が真実であったという報告が入ってきたのだ。
 報告書を提出したあと、極秘だが、と断った上で、ネルガル側はその人物の情報を少しだけ教えてくれた。
 問題の人物は、今はすでに中止された遺伝子改造プロジェクトの実験体として誕生した人物で、その影響で常人を遙かに超えるエネルギーを摂取しなければ活動できないのだという。
 それを聞いて、やっと得心がいった。

 そのとき感じたのだが、あの船でもし不正があるとしたら、それは整備班がらみ……あのウリバタケとかいう整備班長の周辺だと睨んでいた。
 私の目と耳はごまかせるものではない。先ほどの件でナデシコを訪ねたときの反応からすれば間違いのないところだろう。念のため周辺情報も調査済みだ。
 そういった事をいろいろとしていたせいで、わたしはあのナデシコ関連の情報にはかなり詳しくなっていた。
 だが今回の横領は、どうもそのイメージにそぐわないのである。犯人と目されるムネタケ提督は、今回のような横領を企てるとはどうしても思えなかった。
 あの手の人物が悪事をはたらくときは、良くも悪くもくっきりとした像を残すのだ。そっちの方面に疎いのならばもっと下手な手口になるし、わかっているのならこんな見え見えの手を打つとも思えない。
 私はせかす連合をなだめつつ、資料の検証に当たっていた。

 ……やはりおかしな点はない。

 「仕方ないか、この仕事にだけかまけているわけにも行かないし」

 とりあえず承認を出し、私は次の仕事に掛かった。
 そして……私は先の承認を慌てて取り消す羽目になる。次の仕事の内容……これが訴え通りなら、ムネタケ提督は紛れもなく無実……彼の主張通り、この件は冤罪であった可能性が極めて高くなる。
 だが一日違いで、ムネタケ提督の降格と懲罰が決まってしまっていた。
 私は一端その場を引き下がった。間に合わなかった以上、手持ちの資料では証拠能力が足りない。
 この冤罪を晴らすためには、もっと完璧な資料を、証拠を揃える必要がある。
 私のプライドをかけた戦いが、この時始まった。







 >KAZUSHI

 その日、俺と大佐は、非常に言いにくい事をクルー達の前で発表する事になった。

 「ああ、みんな……ある意味非常にめでたくない祝い事を発表しなければならない。先ほど、軍より新たな辞令が下りた。この私、オオサキ シュンを独立機動艦隊の提督に、カズシを副提督に任命するという辞令だ」

 「それじゃあ……ムネタケ提督は」

 艦長の声が少し震えていた。

 「正式な報告は何もないが……最悪軍を追われたかもしれない。よくて降格及び配置転換だろう。そしておそらく……このナデシコに戻ってくる事は出来ない」

 「そんな……」

 艦長の肩が落ちる。全く、こんなにもらって嬉しくない昇進通知は初めてだぜ。
 今夜は久しぶりに大佐と飲むか。



 そのあとすぐに解散となり、俺も部屋を出た。と、アキトの奴がなんかものすごい形相で歩いていくのに気がついてしまった。
 心配になった俺は思わずアキトの後を尾けた。

 ……………………
 ………………
 …………

 ……心配して損したか。

 あいつが向かっていたのは、バーチャルルームだった。
 あそこには確か、実戦さながらの格闘が出来る体感ゲームがあるとか言ってたな。
 それでとりあえず相手を殴りまくって発散する気か。
 それを見届けて自室に帰ろうとしたときだった。

 「あれ、カズシさん、どうしてこんなところに?」

 「ん、ハルナちゃん。君こそ」

 彼女は不思議そうに、俺の事を眺めていた。



 「なるほど、お兄ちゃんが心配で……ありがとう、カズシさん。相変わらずその見かけによらず、気配りが行き届いてるね」

 「おいおい、そりゃ無いだろ」

 バーチャルルーム隣のメンテナンスルーム。そこで俺とハルナちゃんは雑談をしていた。

 「けどバーチャルルームの隣にこんな所があったなんてな」

 「普段は使う必要ないものね。システムのメンテナンスにのみ必要なところだし、それすらも普通は思兼の調整で十分だし」

 じゃあ何でこんな所があるんだ? と思ったら、聞くまでもなくハルナちゃんが続きを語ってくれた。

 「けどシステムを増設したり、ハード的な改修をした後は、思兼だけじゃメンテしきれないし、何より医療責任者が使用者の肉体や精神に影響がないかを確認しないといけないから、こういう施設があるんだよ。負担をかけすぎないかどうかね」

 「なるほど」

 結構リアルな錯覚を起こすシステムだからな、これは。
 そういいつつ、彼女は先ほどから傍らのシステムをモニターしている。

 「ハルナちゃん……何でいちいちチェックしてるんだ?」

 疑問に思った俺は、彼女に聞いてみた。

 「……お兄ちゃんね、いまちょっと危ない特訓してるから。バーチャルシステムとのリンクを、スーパーマキシマムまで上げているの」

 「なんだい、そりゃ」

 俺はちょっとイヤな予感がした。

 「催眠術で火ぶくれが出来る話は知ってる? 今のお兄ちゃんはそれと同じレベルでシミュレーションを体感しているの。万一仮想敵にやられたら、本当に死ぬレベルで」

 「おい!」

 さすがに俺も焦った。そもそもそんな事、本当に出来るのか!

 「慌てないでって。だからあたしがこうしてモニターしてるんじゃない」

 ああ……そういう事か。

 「お兄ちゃんね……西欧の二の舞は嫌なんだよ。だからこうして、自分をぎりぎりまで研ぎ澄ましている……あたしに出来るのは、そのお手伝いだけ」

 そういわれて、さすがに俺は黙り込んだ。

 「敵は……それほど凶悪なのか?」

 「多分……下手をすると、あの北辰より強い」

 「あれかっ!」

 俺を気づく間もなくブリッジからたたき落とした、あの爬虫類面の男!
 あれ以上、だと?

 「あいつらに勝つには、お兄ちゃんも命をかけるレベルで自分を研がなきゃならない。そのことはお兄ちゃん自身が一番よく知ってるの。あの人は……絶対に負けてはならない相手だから」

 「大変だな、アキトの奴も……」

 「うん」

 ハルナちゃんも、静かにうなずいた。
 そのまま、静かな沈黙があたりを支配した。



 「あ、そうそう」

 その静寂を破ったのは、ハルナちゃんの方だった。

 「副提督、就任おめでとうございます」

 「……どこがめでたいんだ」

 俺がふてくされると、ハルナちゃんは底意地の悪そうな笑みを浮かべた。

 「タケちゃんなら心配要らないよ。細工は流々、仕上げをご覧じろ。嵌めたつもりが嵌め返される。この後連合軍極東支部は震撼するよ」

 「お……おいおい」

 ハルナちゃん……なんか仕掛けたのか?

 「ムネタケ提督の横領疑惑はね、経理コンピューターのバグのせいなのよ。そろそろそのことがバレてる頃じゃないかな、あちこちに」

 「バグ?」

 ウィルスの間違いじゃないのか、とは言わなかった。
 聞くまでもないだろう、そんな事。

 「で、質問。政敵を葬り去ったと思ったら、その根拠が間違いだとわかった。葬った側としては、どう思う?」

 「出来る事なら、そのバグそのものを無かった事にしたいだろうな。プログラムにバグがあった事が立証されたら、せっかく葬った敵がゾンビよろしく甦る事になる」

 「はい正解」

 ハルナちゃんは、意地悪く笑った。

 「名目はプログラムのバージョンアップだから、管理者権限で堂々と変更できる……こういう問題に関わってさえいなければね。このことを知りながらバグを消去したら、証拠隠滅だからね。でもそうは言っても、監査部とシステム管理部は別組織。監査部からの差し止め要求が来る前にシステムを更新してしまえば、ごまかしきる事は可能だよ」

 「縦割り官僚組織の弊害だな」

 俺はぼやくように答えた。

 「当然敵方もそう考える。大したバグじゃないから、こっそり差し替える事すら不可能じゃない。大急ぎでシステム更新をしているだろうね……罠とも気がつかずに」

 「おいおい、ひょっとして……」

 バレなきゃ問題ないが、システム上のバグで冤罪が生じたときに、そのバグを故意に抹消するのは、バレたられっきとした犯罪だ。

 「バレてるのよね〜、監査部側に。もし気がつかない振りをしてシステムを更新しちゃったら、逆にそれが歴然とした証拠になる。彼等は自分達の手で、自分達を追いつめる事になるのよ」

 俺はそれを聞いて、つい言ってしまった。

 「ひょっとして……仕掛けたのか?」

 「もちろん」

 即答されてしまった。

 「タケちゃんも納得済みの大ばくちだよ。タイミングがむずかしかったけどね」

 「おいおい……」

 もはや何も言葉は出なかった。

 「名誉回復がなった提督は、その経歴からしても、極東軍の中枢に食い込む事は間違いないわね。そして極東軍の派閥はミスマル−ムネタケ親子のラインでがっちりとまとまる事になる。西欧はお兄ちゃんとグラシス−オオサキラインで固まっているから、これで方面軍のうち2つはこっちの味方になるね」

 あきれた。なんて大胆な手を打つんだ、この娘は。

 「よくそんな事を思いついたな」

 「でもね、まだまだ序の口だよ。この後どうなるかはわからないけど……本番はこれからなんだ」

 「そんなもんなのか」

 「うん……戦いは決戦の前から、すでに始まっている。ここでの戦いに負けたら、そもそも和平なんて言ってられないよ、今の連合軍と連合政府じゃ」

 「全くだ」

 俺は大きくうなずいた。







 そして、確かにこれが序の口に過ぎない事を、オレたちはこの後思い知る事になった。
 まさか、なあ……これは予想外だったぜ。







 >SADAAKI

 「いずれは戻ってこれるのでしょうけど……しばらくはお別れね」

 私はここしばらく使っていなかった、士官用軍アパートの自室を片付けていた。
 正式に降格と配転が決まり、私はアフリカ方面軍へと出向になった。
 と、表で呼び鈴が鳴った。誰かしら。

 「はーい」

 私が玄関を開けると、まだ若い連絡員が敬礼をして立っていた。

 「ムネタケ少将ですか」

 「ええと……まだ辞令は発令されていないからそうなるわね」

 ややこしいけど処分の提示と発効には時差があるわ。私はアフリカへ出発した時点から大佐になるのね。

 「直ちに軍事法廷に出頭してください。緊急審議が行われます」

 「何事よ……わかったわ。ちょっと待っていて。着替えるから」

 私は作業用のジャージ姿だった。慌てて一着だけ残してあった制服に着替える。
 そして私は再び軍事法廷に立っていた。
 被告ではなく、参考人として。



 「……以上の通り、ウエムラ中将及びササキ大佐が、本来冤罪であったはずのムネタケ少将の横領疑惑を解消する証拠を、意図的に無視、抹消しようとした事は明白です。最初から彼らがこれを仕込んだ証拠はありません。彼らの主張通り、元々は偶然であった……その点は私も否定はいたしません。しかし! その後の処置を見る限り、彼らに著しく公正を欠いた、悪しき意図があったことは明白です!」

 懐かしきジャンヌ=ダルクが、私を庇護してこの場で戦ってくれていた。
 あれは確か……以前小娘が出張中に、食料費の横領問題でナデシコにちょっかいを出してきた監察官よね。
 あの娘……確か元軍人で、ネルガルの会計監査担当で出向中だって言ってたわね。だとしたらある意味当然の人選、というわけね。
 けど因果ねえ……かつての敵が、今の最大の味方とは。
 まあ、そんな事を思いながら話を聞いているうちに、アタシにもあの小娘が仕掛けた罠の全貌が見えてきたわ。
 まずお得意のハッキングかなんかで、軍と企業の取引を管理している経理プログラムを改変し、バグでアタシと実際にはなんの関係もない人数名が、不正をしているように見える状態を作り出す。
 そしてまず最初にアタシが監査に引っかかる。ウエムラちゃん達の一派は、しめたとばかりにこれに飛びつき、狙い通りアタシの名誉は地に落ちる。
 けどその直後、まるで関係のない人物から、原因不明の送金その他があった事が監査部に報告される。調べてみると、関係者として処断された私と同等の事が、権限も因果関係もない複数の人物に起こっている。
 そこに経理プログラムにバグがあるらしいという報告が上がる。それを聞いたウエムラちゃん達は強引にプログラムの修正、バグの抹消を図ったけど、その警告は同時に監査部にも回っていた。そしてそれに続けて、なぜか強引にプログラムを改変されそうだという匿名の内部告発もあった。
 結果ばっちり警告無視の証拠を押さえられたウエムラちゃん達は、進退窮まったというわけ。
 さっきの追求にあったとおり、プログラムのバグによって冤罪が生じた可能性があるのならば、事実関係が確認されるまでプログラムのバグを消去してはいけない事になっているのね、少なくとも建前上は。それを無理に強行しようとしたら、何かあると思われても仕方がないわ。
 さっきからウエムラちゃんもいろいろと反論を試みているけど……無駄ね、これは。
 あのカブラギちゃん、見た目より遙かに頑固よ。そして気になる事は徹底的に調べつくすタイプだもの。融通も利かないしね。
 アタシも以前、食料費問題の時にさんざん苦労させられたものよ。軍出身なのにあそこまでまっさらな人間でいられたっていうのは、奇跡か、もしくはよっぽど煙たがられたかのどっちかなんだから。
 あんた達の手に負える相手じゃないわよ、彼女は。



 で、結局ウエムラちゃんの反撃は徒労に終わったわ。
 なすすべもなく撃沈。私の処分取り消しと、ウエムラ中将以下の処分が正式に決まったわ。

 「やれやれ……以前はあなたの誤解を解くのに苦労したけど、今度は思いっきり助けられちゃったわね」

 私がそう声をかけると、彼女はこう言ったわ。

 「私は職務に忠実なだけです。失礼」

 鋼鉄の筋金ね、あれは。



 ただ問題なのはアタシの行き先だった。すでにオオサキ副提督とタカバ少佐が昇進している以上、それを取り消す事は出来ない。かといってナデシコには例の取り決めによって、そうそう人を送り込むわけにも行かない。

 「この件は少し時間が掛かる……しばらくは休暇だと思っておとなしくしていなさい」

 そういったのは、父だった。

 「わかっているわよ」

 私は素直に答える。父はそんなアタシに向かってこう言った。

 「しかし……黒幕は誰だ? とんでもない策士だな」

 「あら、何の事、父さん」

 アタシは顔色一つ変えずに切り返す。このぐらい出来なきゃこの世界はわたっていけないわよ。

 「ふっ……こんな偶然がそうそうあるものか。まあ、いい」

 父はそれだけいうと私の前から立ち去った。
 さすがね、伊達に参謀やってる訳じゃないか。
 さて、それはともかく……



 小娘、こっちは準備完了よ。あの様子なら間違いなく、父はアタシを貴重な手札の一枚として取り込むわ。
 次の手は、何かしらね……。
 けど、次の手は、小娘ではなく、あまりにも意外なところから投じられたわ。
 こんな事もあるのね。







 それは、一通の招待状だったわ。
 永世中立国、ピースランド王国。
 ここで、このたび長らく行方不明だった世継ぎの姫君が発見された。
 そしてそのお披露目パーティーが、各国の代表や、軍の高官、銀行の高額預金者、その他各種有名人を招いて行われる事になった。
 戦時中だというのに、ものすごい規模のパーティーよ。
 でも一番の驚きだったのは。
 その招待名簿の中に、この名前があった事ね。



 木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパおよび他衛星小惑星国家間反地球共同連合体代表 東 八雲



 そう、ただ一行のこの文こそが、すべての震源だった。
 あたし達にとてつもない混乱を巻き起こした、あの大事件の。







 >ROBERT

 「はっはっはっ、イセリナ王妃もなかなか味な真似を」

 招待客名簿を見た私は、思わずそう声に出していた。
 私はその後、秘匿手続をした後、ある装置に火を入れた。
 かすかなうなりとともに、時と次元を越えた映像が浮かび上がる。

 「こちら木連超空間通信部……はっ、ロバートどの!」

 「緊急の連絡だ」

 「はっ、南雲閣下ですか?」

 「いや……事が事だ。直接草壁中将殿と、秘匿通信で会話できるとありがたい。すぐに無理ならば、予約を取って欲しい」

 「はっ、直ちに。少々お待ちください」

 そしてしばし後。

 「これはこれはおひさしぶりです。わざわざ私を指名とは、何かありましたかな?」

 「うむ……地上でこのような動きがあってな」

 私は事情を説明する。

 「ふむ……地上でそのような動きが」

 「ああ。ピースランドの性格や利害を考えるに、この国はおそらく木連との和平を狙っていると思われる。銀行屋はあまり戦乱が続くと儲からんからな。販売業と違って、貸し付けた資金が失われる可能性の方が高い」

 「なるほど。で、老はどうしたいとお考えですかな?」

 草壁の問いに、私は答える。

 「この会談……鍵を握るのはあの若造だろう。初めて知ったときは大したことはないと思っていたが、案外大物に化けてきたようだ。残念ながらこれ以上出しゃばられると、少々やりにくくなる」

 「そういう事ですか……そちらの手駒でどうにかならんのですかな?」

 「いや……こちらの手のものでは手に負えない事はすでに確認済みだ。紛れとして放った手駒も、残念ながら期待はずれに終わりそうでしてね……そちらに貸した『おもちゃ』も、まだ確たる結果が出ていないようで」

 わたしは狂的なところが見え隠れする、あの科学者に渡した『駒』を思う。あのままでは今ひとつだが、さて、どう化けるやら。

 「それについては、もうじき動けるとの報告が来ている。だが今回は間に合わんですな。そちらに結果が戻るのは、この会談が終わった後になってしまうでしょう」

 「そうか……間に合わんものをどうこう言っても始まらん。そちらにあの男を倒せそうな人材はいないかな? 以前そんな自慢を聞いたような気がするが」

 「……そういう事ですか。わかりました。切り札を一枚お貸ししましょう。標的は、テンカワアキトでよろしいのですかな?」

 「ああ。妹も気にはなるが、まずは『武』を砕かねばならん」

 あの八雲とかいう男が生きていたのは計算外であった。あれとテンカワが結びつきでもしたら、こちらの計算は大きく狂う。
 だがあの男がいなければ、『智』を『暴』によって砕く事が可能になる。
 また、最大の難敵である『ナデシコ』を暴走させる事も。

 「わかりました。侵入の手はずとかはどうなさいますかな?」

 「それは詳しい事が判明し次第だが、こちらである程度用意する。ただし、犯人は出来るだけ所属不明の方がよいだろう。そちらとしても国家としての立場が生じかけている今、暗殺のような真似は著しく威信を落としかねんだろうしな」

 「うむ。その辺はもう少し後で」

 「では」

 そして通信は切れた。

 「ふん……草壁め、すんなり了承したところを見ると、あ奴、この地球圏が混乱する事を望んでいるな。という事は、狙いは『街』か……よかろう。この儂が、せいぜい地球圏に混乱を蒔いてやろう。はっはっはっ!」




 >AQUA

 「おじいさま……」

 端末に映った光景に、私は胸が痛みました。
 レポートを執筆中に届いた緊急チェック。それはおじいさまが、あの通信機を使ったという報告。
 そこで私は、また一つ、おじいさまの影を見てしまいました。
 レポートを書く気もしなくなった私は、端末からひみつディスクを取り出し、電源を落とします。
 スクリーンが静かに光を失っていきました。
 そして私は、敬愛する人が、人として大切な何かを失っていくの感じてしまいました。
 一瞬、私の手は『切り札』に伸びそうになります。
 ですが、それを使うのは『まだ』です。
 まだ、早すぎると、私にはわかります。
 私の悩みは尽きません。
 と、そのときでした。
 切ったはずの端末が、勝手に立ち上がります。

 「これは……」

 そう思ったとき、勝手にビデオチャットのソフトが立ち上がりました。

 「そろそろ手に負えない悩みを抱えたんじゃないですか? お姫様」

 そのときの私の顔には、きっと笑みが浮かんでいたに違いありません。

 「魔法使いさん!」

 スクリーンの中には、懐かしい仮面が浮かんでいました。



 「単刀直入にいうよ」

 挨拶もそこそこに、彼女の懐かしい声がいいました。

 「おじいさんにねだってね、ピースランドのパーティーに、お友達共々潜り込むといいよ。研究会のみんなを誘ってね。そうすればあなたは、いくつもの事と、かけがえのない味方を手に入れられると思う。具体的な確証はないけどね。でも、あなたならきっと、そこで大切なものを見られると思う。がんばってみてね!」

 それだけ言うと、再び端末は沈黙しました。

 「唐突なんですね、いつも」

 私はクスリと微笑むと、どうやっておじいさんにおねだりをしようかと考えはじめました。







 18話 水の音は『嵐』の音……そのとき、時代は動いたのです……に続く。








あとがき

 4ヶ月ぶりにお届けいたしました、再び17話。
 アフターは少しお待ちください。なんせ結局、ブローディア出てきませんでしたし(核爆)。
 しかし最後の最後で少し暴走。アクアまで顔出すとは。
 つまり必然的にテツコちゃんも……(汗)。



 この先18話はいよいよピースランド大乱闘。ありとあらゆる勢力がごちゃ混ぜになって、しっちゃかめっちゃかの大騒動になりそうです。
 いよいよ北斗も『真・デビュー』だし。
 今まで目立てなかった鬱憤を、存分にはたしてもらいましょう。
 ただ……ダンパの最初はきちんとルリちゃんと踊る事になりそうですけど、アキト(笑)



 この辺20話あたりまでは、原作におけるエピソードが前後しながら綴られていく事になると思います。時ナデも含めて。
 ブローディア&ニューエステはいつ出る!
 サツキミドリは落ちるのか!
 そして『再び版ブーステッドマン』はどんな連中なのか!(元と同じですが、理屈が少しご都合主義(爆)。但し時ナデよりは納得のいく設定です(豪爆!))
 まだ長くなりそうですが、どうかお付き合いくださいませ。

 ……しかし、次は何キロになるかなあ。思いっきり長くなりそうだし。
 (ちなみに今回は短め(爆)の130Kです。この量で4ヶ月は長いなあ)



 なお、その4登場のカブラギさんは、李章正さん原作のキャラクターです。
 このたびはご使用を許可していただいてありがとうございました。

 同じく、『ボソン砲による拠点攻略』も、李さんの作品よりアイディアを戴いております。
 重ね重ねありがとうございました。

 

代理人の感想

うわ強ぇ。

 

圧倒的じゃないですか、北斗!

北斗が原作より強いのか、それともアキトが弱くなったのか。

もっとも、この作品の北斗の設定は原作とはやや異なるのでどちらかと言えば前者の可能性が強いでしょうか?

 

ムネタケの軍部復帰も伏線としては重要なんですが、

どっちかというと原作のバランスを決定的に崩しかねないこちらの方が今回の最重要ポイントですかねぇ。

アキトも特訓してますし、案外次回は互角に近くなっているかもしれませんが。

 

その次回ですが、なんと木連大使として八雲さん参上!

尤も通信の後でわざわざ因果を含めてますから、実際に来るのは舞歌さんかもしれませんが。

「水の音」イベントは起こるのかどうかも注目ですが(「絶対素直な形では発生しない」に500ガメル)、

なんと言っても一番の注目は「テツコちゃんV.S.ライザ」! これでしょう。(爆)

いや〜、今から楽しみです。(笑)

 

え、ジュンとチハヤ?

・・・・・・・・・・・・・隅っこの方でまったりしていてくれれば彼らにはもう後は何も望みませんとも、ええ(爆)。

 

追伸

今回最大のオオウケはムネタケの「ばかばっか」でした。

いや〜、不意打ちだったもんだから笑った笑った(爆笑)。

ちなみに次点は「舞歌様の目にかなう女がいれば」の下り。

思いっきりブラコンだとバレてますね(笑)。

追伸その二

「紛れ」(まぎれ)・・・囲碁とかで様相を混乱させる目的で打つ手の事、だそうです。

ご参考までに。

 

>(ちなみに今回は短め(爆)の130Kです。この量で4ヶ月は長いなあ)

痛い、痛いよぅ(自核爆)