イクマは多少悩みながら、構えをとった。
構えをとる事をイメージする、と言うのも何だかおかしな話だなと一人苦笑する。普通であればごく自然に構えをとる事が出来るのに。

イクマの構えはサウスポースタイル。右が前である。
いつもとは違う相手の構えに相手との距離感が計りにくい。サウスポースタイルだからと言ってイクマが左利きと言う訳ではない。本来右利きなのだが、構えのスイッチをしているのだ。よって、スタンダードな構えに移行する事も出来る。ただし、この条件下でそれがスムーズに出来るかどうかは疑問だが。

「…変な感じ…」

イクマはぽつりと呟いた。
感覚的に言うのであれば、気持ち悪い。吐き気を催すだとかの気持ち悪さではなく違和感から来る精神的な気持ち悪さと言った所だ。



『準備は良いか〜?新入りぃ?』

『何時でも良いですよ。…名前、呼んでもらえないですか?スバルさん』



イクマはそう言って溜息をついた。いくら何でも何時までも新入りは酷い。
贅沢は言わないから、せめて名前で呼んで欲しい物だ。


『ああ、悪い悪い。シラナミ、だったけか?』

『はい。シラナミです』

『解った。んじゃ、そろそろ始めようじゃねぇか』


リョウコはそう言ってエステを忙しく動かした。
もう待てないと言った様子が手に取るように解る。そもそも待ったりするのは得意ではない。自分でも承知しているが気が短いのだ。
何とマイペースな男だとリョウコは溜息をついた。
イクマはリョウコの前で軽きお辞儀をすると、構えをとった。
それにつられ、リョウコも構えをとる。
サウスポーのイクマにやや前傾姿勢のリョウコ。リョウコの目論見は、このまま突進をかけショルダータックルでイクマを弾き飛ばそうというものだ。





開始を待つ二人のコックピット映像にタイムが表示された。
開始までの時間は僅かに5秒。
イクマは目を閉じ、大きく深呼吸をする。手を抜く事はしない。
それは相手にとっても自分にとっても、武道に対する思いに対しても冒涜であるからだ。
この条件下で何処まで動けるかは解らないがやれる事はやろう。
そう自分に言い聞かすと、大きく息を吐きキッとリョウコ機を見据えるイクマだった。

対してリョウコは、舌で上唇を舐めた。
血の気が荒い、と何度両親、知人から窘められた事か。
良いのだ。それでも。
この瞬間を味わえる為になら別にそんな事は構わない。開始が待ち遠しい。
ムクムクと自分の中の闘争心が鎌首を上げて行くのが解る。










そして、表示タイムが0になり開幕の合図が響き渡った。










リョウコは自身の作戦通り、開始早々ブースターを噴かせ、足についたキャタピラを一気に回転させる。凄まじいスピードで一気に詰め寄ると勢いに任せ、肩口をつきだしイクマ機に強力なショルダータックルを食らわせる。


ガゥーンッ!と凄まじい衝撃音が響く。
外部モニターで見れば、イクマがタックルでリョウコに跳ね飛ばされたように見える。が、イクマはぶつかる一瞬前に後進しつつガードをしてリョウコの攻撃を殺していた。派手に吹き飛んだように見えるのはその為だ。



「考えずに、行動すれば良いって事か」



イクマはリョウコを見据えたまま一人呟いた。
今ので何となしに感覚が掴めたようだ。完全にと言う訳ではないが、それだけでも随分と違う。イクマはフッと小さく息吹くとぐっと拳を固めた。
背中につくブースターが起動するのをイメージする。そして、それと同時に一気にキャタピラを動かし、リョウコに突進した。
距離を一気に詰めると前方に位置した右拳を下からすくうようにして腹に振り上げる。どうにか避けられる事が出来る程度のスピードを乗せてはいるが、次に繋げる為に体重を乗せてはいない。
重心を残したままの捨て攻撃だ。




『食らうかよ!こんな攻撃ッ!』




リョウコはそう言って後進する。この攻撃なら避けられると思ったからだ。
リョウコはイクマの作戦にまんまと引っ掛かってしまったのだ。
イクマはリョウコの機体が反応すると同時にバーニアを軽く噴かせ、更に距離を縮めた。そして、そのまま今度は体重を乗せた左拳の打ち下ろしを人で言う鎖骨部分に叩き込む。
金属同士がぶつかり合う軋みにも似た衝撃音が鳴り響く。リョウコは、それを目で確認するのではなく反射的な行動で辛うじて避けたのだ。
直撃はしなかったものの予想だにしなかった攻撃を食らってしまった。
しかも、イクマは手を休める気配がない。左拳を叩き付けた次の瞬間にはもう行動を起こしていた。イクマから見て右の方向に軸移動するとリョウコの真横に移動し、右のバーニアだけを噴かせ左肩からタックルをかます。




『くっ!?』



どうにか立ってはいるものの辛うじてと言った感じでリョウコはその衝撃に持ちこたえた。



馬鹿な。
こんな冗談信じられるか。



相手はエステでの戦闘が初めての素人だ。格闘戦は確かな物だった。
それでも納得がいかない。いくらイメージがそのまま伝達できるとは言えこうも瞬時にそれをやってのけられる物であってたまるか。

リョウコの頭によぎったその一瞬が、動きの乱れを誘発させた。
命取りだ。そしてその一瞬を逃さず、畳み掛けるようにイクマが跳び蹴りをリョウコ機の顔面に叩きつける。だが、リョウコもそれで終わる自分を許せないのだろう。上半身を屈めると、一気に加速前進してイクマをかいくぐり避ける。


「危ねぇ…。なんて野郎だ。油断なんざしてる場合じゃねぇぞ」


油断。
イクマを甘く見ていた自分が許せなかった。初めての機動戦と言う事で浮き足立っていると決めつけ出鼻から大技で沈めてやると思っていた。
そこをつかれたのだ。
冷静なものだ。すぐに対応してきた。
リョウコは油断した自分に喝を入れるが如く頬を二、三度ぱんぱんと叩いた。
自分が誘った。それをこんな情けない負け方で終わらすわけには行かない。
本腰を入れねばイクマに食われる。




外部モニターでそれを観戦していた3人も驚きを隠せない。






「リョウコ。油断したね」

初めの時とはうって変わり真面目な雰囲気のイズミは胸の前で腕を組みながら呟いた。リョウコの油断もさることながらイクマ自身も強い。
もしもあれが既にエステを乗りこなせていたのであれば、始めにリョウコがタックルを仕掛けた次で勝負が決していたかも知れない。




「あやや。イズミ珍しく真面目だね。
 でも、やるね。シラナミ君。油断してたとは言えリョーコをてんてこ舞いさせるなんて」

ヒカルもイズミに合わせて同意した。
格闘戦であればエステの操縦でリョウコにかなう相手などそういないだろう。
そのリョウコをあそこまでてんてこ舞いにさせたのだ。
イクマの戦闘能力には目を見張るものがある。




---シラナミも候補に入れておくか

クロサワはモニターを見て心の中で呟いた。
大した掘り出し物だ。まさかここまで使えるとは思いも寄らなかった。
ここサツキミドリに機動戦艦ナデシコが到着するのは一ヶ月程先の事とは言えこうも良い人材が手にはいるとはと、思う。
リョウコにしろ、ヒカルにしろ、イズミにしろ性格さえ気にしなければ軍のパイロット以上だ。そのリョウコとためをはる事が出来るイクマ。
これは美味しい。






三者三様、思いながらモニターへ再び目を向ける。

そこには先程とはうって変わり適度な距離を保ったまま対峙するリョウコとイクマが映し出されていた。




「焦りすぎたか」

イクマは舌打ちをした。
あのまま畳み掛けて止めを刺す事が出来れば申し分なかったがそこは流石にリョウコも伊達にライダーをやってはいないという事だろう。
跳び蹴りと言う大技を避ける事など造作もないことだ。慎重に攻めても良かったが、リョウコが落ち着きを取り戻しては一瞬で形勢逆転されてしまう、と踏んでの大技だった。もう二度は使えないだろう。

---それにしても

それにしても彼女は、自分がサウスポーなのに対してさほど違和感を感じていないように思える。
天賦の才か、自然とそれを修正するのだろう。思った以上に手強い相手だ。
ならば意表をついて動揺を誘うまで。




「さて、どう仕掛けてくるよ?今度は、さっきみたいにはいかねぇぞ」

リョウコはイクマの強さを認識した。
慎重にイクマの出方を窺う。だが、自分はどちらかと言えばファイタータイプだ。イクマはバランスのとれた万能タイプとでも言えよう。
自分に分が悪い。相性的に見れば最悪だろう。下手を打てばカウンターでやられてしまう。だからこそ、ここは慎重に成らざるをえない。
先程のように小細工を仕掛けてくるのであれば力任せに振り解けば良い事だ。
このまま何も出来ずじまいで終わる事などプライドが許さない。










均衡は、意外にもイクマによって崩された。
リョウコにとってしてみれば出鼻を挫かれた状態だ。突然、本当に突然だ。
いきなりブースターを噴かせたかと思えば初めに自分がとった行動。
ショルダータックルを食らわせてきたのだ。

リョウコはそれをガードした。
土煙をたて、リョウコの機体が後退する。イクマはそのまま止まらずに再びぶつかる。リョウコの機体は大きく揺らいだ。
再三に渡る強力なタックルでガードが崩されたのだ。



---拙いっ!



リョウコは焦った。このままではやられる。
だが、今度は先程のようには行かない。何故なら、自分も冷静でいるからだ。
イクマの行動もしっかり追っている。



『そこだぁっ!』



リョウコはバランスの崩れた衝撃を利用して、横に移動してきたイクマに倒れ込みながら肘を叩き込んだ。そのまま折り重なるようにしてイクマ機の上に被さる。イクマが動けないようにしっかりと固定すると、マウントポジションからのパンチをお見舞いする。
暫くの間、激しく鈍い殴打音が鳴り響いた後リョウコの勝利が宣言された。










プシューとハッチが開かれ、イクマとリョウコはほぼ同時にシミュレーターから出る。リョウコは満面の笑みを浮かべると、イクマの肩をばしばしと嬉しそうに叩いた。イクマに勝てた事も嬉しいが、何よりも強い相手と巡り会えた事が嬉しかった。イクマの方も、多少苦笑混じりではあるものの表情が綻んでいた。言い訳するつもりはない。自分の完敗だ。まさかあのような方法で勝ちをもぎ取られるとは思いもしなかった。


「危なかったぜ。オメェ、強いな!」

「参りました。完敗です」


イクマはそう言って今度は爽やかに笑った。
有意義な時間だったように思う。イクマはリョウコに握手を求め右手を差し出した。リョウコも、一瞬戸惑いを見せたが、すぐにイクマと握手する。




「よし!これでオメェも仲間だ。よろしくなシラナミ!」

「こちらこそ。よろしくお願いします」




ナデシコ搭乗の補充エステバリスライダーの中に、イクマの名が連ねられる事になるのはこれから暫くたってからの事だ。
現在の補充ライダーはスバル・リョウコ、マキ・イズミ、アマノ・ヒカルの三名。
女性を軽視するわけではないが、補充ライダー全員が女性だと言う事がクロサワには苦く思えていた。戦うのは男、ずっと思っている事だ。
苦々しく思えるのは、教習所にいる男連中の不甲斐なさにもある。
事もあろうにこの三人のファンクラブまである始末。追い抜こうという気持ちはおろか、追い付こうという気迫すら見受けられない。
何時から世の男どもはこのように軟弱になったのか。
だからこそ、イクマの存在に期待が高まると言うものだ。



横目でリョウコ達三人娘と会話するイクマを見ながらクロサワは一人ほくそ笑む。ナデシコ到着までの間、イクマをしごく時間が大部分を占めそうだ。


















後書き



第三の主人公現るッ!!(爆


と、なるかどうかは今のところ未知数。
と、言うかアキト君が主人公枠から↓行きぽいのに自ら首を絞めてどうする。自分よ…。

今回はイクマ君の紹介と、戦闘描写の実験を兼ねてみた回です。



それでは今回の登場人物情景描写デス。


シラナミ・イクマ

年齢16歳。髪はやや短めの茶髪。染めたわけではなく色素が薄いのです。アキト君より少し短いかな〜位の長さデス。
性格は素直で頑固な直情的な男の子です。彼にはTV版ナデシコのアキト君の役割を少し担って貰う予定であります。
努力家で才能も豊かな少年イクマ君。エステでの戦闘ならバイツ君はアッという間に追い抜かされるデスね。
と言うか、現時点で既に負けっぽい。


リカルド・ウォーレン・クロサワ

年齢43歳。頭はつんつるてんのスキンヘッドであります。やや褐色系の肌で見事なマッスル。
上腕の太さでもイクマ君の太股ほどの太さが…。実はクロサワさん自身も凄腕のライダーでした。
今は、既に現役を退き何年も過ぎているので実戦に出でる事はありません。
現役の頃のエステバリスライダータイプとすれば、思い切りパワーファイターと思われます。


スバル・リョウコ

年齢18歳。原作通りの外見です。
リョウコさんの実力がかなりのものと踏んだので、イクマ君の実力を計る為に今回戦って貰いマシタ。
原作版とあまり大差がない性格かと思います。
直情的なファイタースタイルのリョウコさんですが柔軟な応用力も持っています。


アマノ・ヒカル

年齢18歳。この人も原作通りの外見です。
性格も原作通りかと。
中間距離で戦うのを得意としています。後は間接的な攻撃等です。
格闘戦はボクシングで言うとアウトボクサータイプです。


マキ・イズミ

年齢18歳。上に同じデス。
性格も変わらずと。
長距離からの狙撃です。(リョウコさん→接近、ヒカルさん→中間、イズミさん→長距離)どうもこれ以外思い浮かばない(汗)
もう、そう言うものだと刷り込まれてしまっているようです。これ以外にはどうもしっくり来ないッす。
と言う訳で、超接近戦も得意と言う事にしてみました。「夫の仇ぃ!」みたいな感じのアレっぽい攻撃です。
いや、何となしに似合いそうだなと思ったので。
格闘戦はカウンターファイターです。



パイロット三人娘登場〜。
と言うか、イズミ、辛ッ!!(補足:からいではなくつらい)
アレは一緒の才能が必要なのだろうか…。



 

 

代理人の感想

むう、もしや無意識の内にアキト脇役化を画策しているのでしょうか(爆)?

バイツに食われ、セリフを奪われ、挙句の果てに作者にまで遠ざけられるとは、

なんて可愛そうな主人公ざましょ。よよよよよ・・・(爆)

 

 

>イズミ

いいのです。あれは人の手が触れてはいけないものですから(爆)。