部屋の中に二人の女性がいる。
一人は連合宇宙軍の最年少艦長ホシノ・ルリ、もう一人は火星の後継者から救出されたミスマル・ユリカである。
「ユリカさん、これを」
そう言ってルリが差し出したのはラーメンのレシピだった。そう、アキトが渡したものだ。
「だめだよルリちゃん。それは受け取れない」
「でも…」
「それはアキトがルリちゃんに渡したものなんだから。ルリちゃんが返さないと」
「……わかりました」
ルリは部屋から出て行った。部屋に残ったユリカは手元の書類に目を落とした。
職場に復帰したばかりなのでそんなに量はない、さっさと済ましてしまおうと考えた。そこに聞こえるドアの開く音。
「ルリちゃん、忘れ物?」
ユリカは顔を上げずに話しかけた。
「ああ、大切なものを…ね」
男の声、ルリではない。聞き覚えのある、ずっと待ち望んだ声。
「アキト…」
顔を上げる。そこにあるのは忘れられない顔、夢の中でもずっと見続けていた顔。
「ただいま」
「おかえりなさい」
ここに、男の復讐は終わりを告げた。
連合宇宙軍戦艦『アルタイル』展望室
星がよく見えるこの場所に男と女がいる。
二人とも年齢は二十歳、いっているかどうかくらいだろう。
「これを…受け取ってください」
そういって女、ファール・フォンスが差し出したのは一通の手紙だった。ハートのシールで閉じてある、どう考えてもラブレターだ。
男、ジョウ・ライトバーンは顔を赤くしながらそれを受け取る。
「あの…僕なんかで?」
「あなただから…渡しました」
その場を沈黙が支配する。たった数十秒が何時間もたったように感じる。
「…ありがと…」
次の瞬間、周りから聞こえる大歓声。次々と人が走って来てはジョウの頭を小突いて行く。
「このヤロー、よくもファールちゃんと!」
「うらやましいぞこいつ」
「わっ!みんなどうして?いたいいたい、痛いですよ。誰ですマジで殴ってるの」
もみくちゃにされるジョウ、そんな彼の前にウインドウが現れる。映っているのはアルタイルのオペレーターだ。
『みなさーん、ジョウ君をもみくちゃにするのはかまいませんが敵が来たようです。巡洋艦2、機動兵器少数』
「よし、全員持ち場にもどれ」
なぜかここに来ていた艦長の号令で集まった者は帰っていった。ジョウも自分の仕事を果たすため格納庫に向かう。
『あ、それとジョウ君』
「?」
『初めてのデートの場所は決めていますか?今度月に行くからおすすめの映画を教えてあげましょうか?』
「…後でお願いします」
僕はパイロットスーツに着替えてエステバリスのコクピットに入り込んだ。
手の甲にあるIFSの印が輝き、エステバリスが一歩を踏みしめる。
『よう、ジョウ、よくファールちゃんをモノにしたな。俺だって狙ってたのに』
「僕だって、信じられないよ。何で僕なんかって思う」
『このやろう、よく言うぜ、つい昨日俺にラブレターの代筆頼んだくせに。結局役に立たなかったし、艦内に言いふらしてやろうか』
『お前たち、遊びはここまでだ。どんな戦闘でも気を抜くんじゃない。ウルフ1、出るぞ』
『りょーかーい、ウルフ2、出る』
二機のエステバリスがアルタイルから発進する。ジョウも出撃するため重力カタパルトに移動した。
「それじゃあ僕も」
『ジョウ君、ファールちゃんが話が、えっ?なに?いいじゃないの、えーと、話があるって』
『あの、ジョウさん…』
ファールちゃんが出てきた。顔が赤いように見えるのは気のせいではないだろう。
「なに?」
『気をつけて…』
「わかった。それと…、今度月ドックによったら暇ができるからさ、映画行こうよ」
『ウン…』
「それじゃ、ウルフ3、いきます!」
カタパルトによってエステバリスが加速し、宇宙空間へと放り出される。
姿勢制御用のブースターで体勢整えて先に出た二人についていく。
『お前たちは右の奴をやれ』
「隊長は?」
『俺は一人で十分だ、早く終わったら手伝ってやる』
『了解、ジョウ、援護頼む』
「了解」
こっちに向かってくる無人兵器、全部ジョロで数は15ほど。
火星の後継者が瓦解した今、主な仕事はパトロールと残党掃除、その残党もまともな戦力などなくいつもすぐにカタがついていた。
「こっちは終わりました。援護します」
『早いじゃないか、こっちも終わるから先に戻ってもいいぞ』
『それじゃあお言葉に甘えます』
「もう戻ってるじゃないですか、じゃ隊長、僕も…」
『艦に接近する物体があります、これは…機動兵器?でもなんて速さ!攻撃してくる!』
「隊長、戻ります!」
『急げ!』
閃光、爆発、一瞬なにが起きたか分からなかった。
アルタイルの格納庫部分から火が出ている。攻撃を受けたのか?
そう思っていると今度はエンジン部分が爆発した。連鎖でさらに爆発が起きる。
そしてそいつは姿を現した。青い機影、形はデータで見たことがある。確か夜天光というやつだ。ただ機体に比べるとかなりアンバランス
なバックパックとブースターを背負い、これまたかなり大きいライフルを持っている。
そいつが持っているライフルを艦首に向けて…
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そして艦首が消えた。
そいつはそのままこっちに向かって来て、僕に向けてライフルを
『させるかぁ』
エステバリスが夜天光に体当たりをした。あれは隊長!?
『逃げろ、ジョウ!お前はまだまだ…』
夜天光が隊長のエステバリスを引き剥がした。体勢が崩れた隊長に向かってライフルを向ける。
発射される黒い光、あれはグラビティブラストだ。直撃を受けて消滅する隊長のエステバリス。
「コイツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
僕は隊長の言ったことを忘れて突撃した。
弾の残りが少なかったライフルを捨ててナイフに持ち変える。隊長の方に気を取られていたそいつは無防備な背中を向けていた。
グサァ
ナイフがバックパックに突き刺さる。
不意を突かれた夜天光だったがすぐにバックパックを切り離した。
普通の夜天光になったが性能差がかなりあるのは違いない。こちらは量産型のエステバリスなのだ。
だが、今の僕はそんなことを冷静に考えることができる状況ではなかった。
仲間たちを失ったせいで冷静さを失っていた。
夜天光に向かって全力で殴りかかる。が、相手はあっさりと避ける。あの大きなバックパックを捨てたおかげで小回りが利くようになったようだ。
そして、そいつは拳をエステバリスのコクピットに向かって…
グシャ
「ガッ…」
シートと潰れた装甲に挟まれて僕は血を吐いた。とても苦しいはずなのに頭はすっきりしている。肋骨が折れて肺に突き刺さっているようだ。肋骨だけじゃない、折れているのは両足、右手…そんなところか?
息をするのが辛い、空気を吸うことができない。奴が拳を振り上げる。止めをさす気だろう。
こない
なぜだ?
なぜ止めをささない?
『命拾いしたな』
相手の声が聞こえる。
『先ほどの奴に感謝することだ。奴がいなければお前は死んでいた』
夜天光にナイフが突き刺さっている。あれは隊長のだ。
『援軍も来ているし、ここは退却させてもらう』
「ガ、フガッ」
声が出ない。お前は誰だ!お前はぁ!
『名前を聞きたいか?いいだろう我が名は列牙、坂崎列牙だ』
覚えた、覚えたぞ、お前の名前を!
坂崎列牙!僕は、いや、俺はお前を殺す。
殺すだけじゃ足りない!お前の喉を喰いちぎり、ハラワタを引きずり出し、死体だと分からないくらいバラバラにしてやる!
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
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殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
一人の復讐者はいなくなった。だが、新たな復讐者が生まれる。
その連鎖は螺旋のごとく、くるくると回り続ける。
機動戦艦ナデシコ 劇場版アフター REVENGER AGAIN
第一話 『憎しみは絶えることなく』
〜あとがき〜
始めまして、このような場に発表するのは初めてなので嬉しさと恥ずかしさ半々です。
劇場版の後を書くというわけですが、スパロボMXのラストが気に入っているのでそこから話を進めさせてもらいます。
コンセプトとしては『原作キャラはギリギリにする』です。とりあえずユリカとアキトは決定、その他は後で考えます。と言っても、3〜5話くらいの短いものでさっぱりと仕上げようと思っています。
できるだけ早めに上げていこうと思いますのでどうかよろしくお願いします。
代理人の感想
まー、色々と文句を言いたいことはありますが、ナデシコの締め方は良かったMX。
私もあの幕の引き方はお気に入りです。
それはさておき、原作キャラはギリギリとのことですが例えばテレビにアカツキの顔が映っているとか、
主人公の装備が何故かウリバタケ印とか、そういう「くすぐり」は入れてもよろしいかと。
読んでるほうが喜びますし。