機動戦艦ナデシコ
白銀と紫炎の双天使
裏1話 過去への来訪者
「…………なんでしょうねぇ?あれは……」
日本、サセボにあるネルガル重工と言う企業の戦艦ドックより出港した機動戦艦ナデシコの前に、
いきなり現れた2隻の戦艦……
片方はナデシコに似ている戦艦、もう片方は……宇宙軍の戦艦に似ているが型がまったく違う。
「ナデシコに似ている戦艦がもう片方に体当たりしたまま繋がっている様ですね……」
ナデシコのオペレーターであるホシノ=ルリがそう言う。
[ルリ、向うから通信が来てるんだけど…]
ナデシコのAIであるオモイカネがアクセスしているルリに言う。
「通信……ですか?………艦長。」
ルリは後ろにいるナデシコの艦長、ミスマル=ユリカを見る。
「繋げちゃって下さい。」
「良いんですか?」
「通信を繋げてくると言う事は話しがしたいのでしょう………多分……」
ユリカはそう言う。
「わかりました、オモイカネ、繋げて。」
[わかった。]
オモイカネはそう言って通信を繋げる。
「あ………」
『あ………』
通信が繋がってウィンドウが開くと、ルリは驚き、相手も驚いた様だ。
「え?……えっと………ルリちゃん……姉妹?」
「いえ………私には姉妹はいないはずですが……」
ルリはそう言う。
『始めまして………ですね、私はナデシコCの艦長、ホシノ=ルリです。』
「は?」
相手がホシノ=ルリと名乗った瞬間、ナデシコブリッジは一斉に口を開けたままポカーンとなる。
ちなみにブリッジにいるのは、艦長のユリカ、副艦長のアオイ=ジュン、操舵士のハルカ=ミナト、
通信士のメグミ=レイナード、オペレーターのルリ、プロスペクターにゴート=ホーリ、
ついさっきパイロット兼コックになったテンカワ=アキト、以上8名である。
『信じないかもしれませんが……私は2203年から来ました………今って2196年ですよね?』
「え、ええ……そうです。」
相手の言った事を理解したわけではないが、素早く立ち直ったプロスペクターがそう言う。
「……ん?………今、2203年とおっしゃりましたか?」
『はい………ボソンジャンプの事故で過去に飛んで来てしまったようですね……ハーリー君。』
『はい、ユーチャリスのランダムジャンプに巻き込まれた所為ですね。』
「ユーチャリスとは?」
『今、ナデシコCと繋がってる戦艦の事です。』
ルリC(ナデシコCの方のルリはルリCとする。)がそう答える。
『……本当に……2196年なのか?』
いきなり別のウィンドウが開き、黒のバイザーで顔を隠した男が映る。
「ええ……間違いはありませんよ。」
「(うわ……真っ黒………)」
「(怪しい……)」
ミナトとメグミがそう思ってたりする。
「貴方は誰です?」
『俺は………テンカワ=アキト………』
「ええっ?!お、俺っ!?」
ナデシコ側のアキトが驚く。
『……まぁ………D……いや、ディオとでも呼んでくれ。』
黒アキト、改め、ディオはそう言う。
『アキ……いえ、ディオさん、どうするつもりです?』
『……俺の見た未来を止める事ぐらいか…………
一応は同一人物だからな……俺と同じ事はして欲しくない。』
ディオはそう言う。
『アキト、ユーチャリス動かないよ?』
『ラピス、ディオと呼べ………動かないのは仕方ないな、
ナデシコCが繋がったままだし、ジャンプシステムはいかれてるんだろ?』
『どうするの?』
『そっちに乗せてもらって構わないか?
(同じ未来に進ませない様にするには、そうした方が良さそうだ。)』
心で呟きながら言うディオ。
この申し出にナデシコブリッジは驚く。
「………そう言うわけにはいきません………貴方達が未来から来たという証拠が無い……」
『ボソンジャンプの知識………それでは証拠にならないか?』
「ボソンジャンプ………そう言えば先ほどもボソンジャンプの事故と言っておられましたな?」
プロスはそう言ってルリCのウィンドウを見る。
『はい、ジャンプシステムの暴走、
場所も時間も決められずにジャンプしてしまうランダムジャンプという事故です。』
「ランダム?」
『そうです……飛ぶのは良いんですがどこに出るかわからないんです。
私達は一応ここに…地球に飛びましたが、運が悪いと太陽系の外に飛んでしまうこともありますし、
何年移動してしまうのかはよくわかっていませんが、過去や未来に行ってしまうこともあります。』
「そのランダムで偶然、今の地球に来たと?」
『そうですね。』
ルリCは頷く。
「未来ではボソンジャンプが……」
『ええ、殆ど軍関係ですが移動手段はもちろん、戦略にも使われた事があります。』
「そうですか…」
「あの……ボソンジャンプってなんですか?」
そう問うメグミ。
『それは………言って良いですか?プロスさん。』
「………構いません………私とした事が皆さんがいる事を忘れて話してしまいましたから。」
プロスは溜息をついてそう言う。
『それでは説明します。
ボソンジャンプとは時空間移動……つまり、タイム・ワープの事を言います。
ジャンプする時と出現する時にボース粒子が確認される事からボソンジャンプと呼ばれています。』
『しかも、ボソンジャンプは火星で生まれたものか、
ジャンプするための手術を受けたものしか、耐える事は出来ない。』
「それ以外の人がすると?」
『体が耐え切れず……死ぬ……』
ディオはそう告げる。
『でも、ナデシコ級のD・F(ディストーション・フィールド)があれば、
その中に乗っている人達が地球の人でもジャンプする事は出来ます。』
『火星産まれのオペレートとジャンプフィールドが必要だがな。』
「それは……貴方達や、ここにいるアキトさんや艦長のような人達なのですか?」
『……そうだ……』
ディオは頷く。
『それで………そっちに乗せてくれるか?』
「…………良いでしょう。」
「ミスター!」
「よろしいですね?艦長。」
「はい。」
反対意見だったゴートだが艦長のユリカが頷いてしまっては何も言えなくなる。
「乗るのは良いのですが………貴方の乗っている……ユーチャリスでしたか?」
『ああ。』
「それはどうするのです?」
『このまま海に沈める………
今の世界にはあまりにも強力過ぎて、余計な争いを生み出しかねないものだからな。』
ディオはそう答えた。
『ディオ、ダッシュはどうするの?』
『ダッシュ……すまないが……』
ダッシュとはユーチャリスのAIである。
[僕を殺さない手はあるよ、ディオ。]
そう書かれたウィンドウがディオの前に出る。
『こちらの乗員も乗って良いですか?……と言っても、
生き残ってるのは私とオペレーター一人、パイロット一人ですが……』
ルリCの顔が少し暗くなる。
「生き残る?」
『ランダムジャンプの時、D・Fを展開していなかったので……』
「……(確か、ボソンジャンプは火星で生まれた人か手術を受けた人以外は、
D・F無しでは体が耐えられず死ぬ……でしたね……と言う事は、
ホシノさんと他2名以外は手術をしていなかった……と言う事ですか……)」
プロスはそう考える。
「わかりました、そちらの方々も乗って下さい。」
『ありがとうございます。』
『艦長、こっちのオモイカネはどうすんだ?』
『そうですよ、このままにしておいたらユーチャリスと一緒に……』
生き残ったパイロットのタカスギ=サブロウタと、
ナデシコCのオペレーターマキビ=ハリ(通称、ハーリー)が言う。
『オモイカネを殺さない方法はあります。
オモイカネ、マザーシステムに入って寝ていて下さい。』
[わかったよ、ルリ。]
『………マザーシステムを抜き取るんですか?』
『プロスさん、オモイカネとダッシュのマザーシステムを置くスペース……ありますか?』
ルリCが問う。
「ちょっと待って下さい……ルリさん?」
「……オモイカネ?」
[僕のマザーシステムの所ならなんとかなると思うけど……]
「入れられる?」
[穴を開けた方が速いよ。]
「他に入れる方法は?」
ルリは問う。
[……一度、格納庫に入れて、分解……
そして分解したパーツを僕のマザーシステムがある部屋に持ち込む………
時間が掛るけど、それしかないね。]
オモイカネがそう答えた。
「だそうですが…?」
『わかりました、ディオさん。』
『了解だ、ラピス。』
『うん、ダッシュ、マザーシステムで寝てて。』
[わかった。]
ユーチャリスのオペレーターであるラピス=ラズリが行動を起す。
ナデシコCもユーチャリスもすべてのシステムを管理する存在であるAIが機能を停止した事により、
少しずつ海に落ちていき、ただの海に浮いている鉄の塊となった。
ディオやルリCが映っていたウィンドウも切れる。
「ナデシコCとユーチャリスより爆発、ハッチを壊したようです。」
ルリがそう言う。
「(うわ、機体も真っ黒………でも良いかも……)」
ユーチャリスから出て来た機体を見てミナトはそう思っていた。
「それぞれの艦の一部を破壊、AIのマザーシステムを引き抜きこちらに来ます。」
ブリッジから見える範囲でもそれを確認出来る。
『ハッチを開けてくれ、着艦する。』
「わかりました、オモイカネお願い。」
[わかったよ、ルリ。]
ディオからの通信でルリはオモイカネに頼み、ハッチを開ける。
『ディオ、ブラック・サレナ着艦する。』
『タカスギ=サブロウタ、スーパーエステバリス、着艦します。』
それぞれのAIを担いでいる機体が格納庫に入る。
双方のコックピット内は狭いが乗せて入る者の体が小さいのでなんとかなったようだ。
「ふぃ〜、狭かったぁ……」
そう言ってスーパーエステバリスから降りたマキビ=ハリ。
「ウリバタケさん、うちのオモイカネ、壊さないで下さいね。」
スーパーエステから降りた後、整備員班長のウリバタケ=セイヤにそう言うルリC。
「ディオ、ダッシュ……任せて大丈夫かな?」
「ウリバタケさんは機械関係に関しては天才だ……任せて大丈夫だろう。」
ブラック・サレナから降りてそう言うラピスとディオ。
「過去の自分に会えると思うと………良い気分じゃないね。」
サブロウタはそう呟いてスーパーエステから降りる。
その後にブリッジに居た面々が格納庫に来る。
「え〜、この艦に乗ってもらうと言う事は、ネルガルの社員になると言う事でして……契約書です。」
プロスはそう言って、ルリC、ハーリー、サブロウタ、ラピス、ディオに紙を渡す。
ディオ、ラピスは何も言わずにサインする、
男女交際に関してのことを言わないと言う事は、Dは恋愛をする気は無いようだ。
が、ルリCとサブロウタ、ハーリーはその事に関してプロスに変更するように言っていた。
「では、ホシノ=ルリさんが二人いると言う事は、なにぶん混乱するので……」
「そうですね………わかりました、私の方が名前を変えます。」
ルリCが言う。
「そうですねぇ……ルリと同じで……
宝石の名前が良いですから………ヒスイ………ホシノ=ヒスイ、
ホシノ=ルリの姉、にしてもらって良いですか?」
「え?」
ルリが驚いてルリC、改めヒスイを見る。
「ダメですか?ルリ。」
「……いいえ、構いません。」
「本人が了承しているのでしたら、私は何も言いません、そうさせてもらいます。」
プロスはそう言った。
「それで、ナデシコCとユーチャリスは……」
「少し名残があるが、俺が破壊してこよう。」
ディオがユリカに答える。
「でも、グラビティブラストの方が速いと思いますが……」
「海に撃ったら津波が起るぞ。」
ディオはそう言って自機、ブラック・サレナに乗り込む。
「あ……」
ユリカは言われてそれに気がついたようだ。
宇宙空間なら良いが、地球上で海の上、
海に向かって撃ったら陸地には津波のような高い波が起るだろうし、
海面に沿って撃っても、戦艦2隻の爆発は凄まじいものになるだろう。
「でも、かなり陸地から離れているので大丈夫だと思いますが…」
ルリが言う。
「自分でやりたいのよ……気持ちを切り換える為にね。」
ヒスイがルリの肩に手を置いて、そう言った。
その後、ブラック・サレナによってユーチャリスとナデシコCは小さな爆発を繰り返して海に沈み、
その後に起ったムネタケ=サダアキ准将による反乱は、ディオやヒスイの記憶により容易く制圧、
更に艦長の父親、ミスマル=コウイチロウのトビウメと護衛艦のクロッカスとバンジーが、
ナデシコを引き止めにきたが、近くにあったもう動かないと思われていたチューリップが活動を再開、
クロッカスが取り込まれたものの、ブラック・サレナとスーパーエステバリスの活躍でバンジーを救出、
チューリップを破壊し、ナデシコは全速力で宇宙へと向う、
(この時パイロットであるヤマダ=ジロウが、足を折っているにもかかわらず出撃しようとして、
整備員達に格納庫でフクロにされ全治2ヶ月の負傷。)
そのついでにムネタケ准将ら一味を脱出艦に詰め込んで海に落して行く。
艦長のユリカにトビウメに忘れ物となった副艦長のアオイ=ジュンがナデシコを止めに来て、
コック兼パイロットのテンカワ=アキトに敗北、ジュンは副艦長としての役割に戻り、
第二防空圏のミサイル群はブラック・サレナ一機ですべて破壊され、
ナデシコはD・F全開でビック・バリアを突破する。
「やっとこれでのんびり出来る……」
サブロウタはそう言う。
「そうも行かないようです。」
「前方に所属不明機が2機。」
ルリとヒスイが言う。
「俺が出よう。」
「あ、俺も行きます。」
ディオとアキトがブリッジを出て行く。
「回線繋げられる?」
「……無理です、向うが拒否しているのか、
壊れていて向うからの回線が繋がらないのかはわかりませんが。」
ヒスイがユリカに言う。
「ブラック・サレナとエステバリスが出ます。」
ハーリーがそう言う。
そして、運命の歯車が換わり、別の運命への道が開かれて行く。
ども、軍神です。
裏1話でした♪
黒アキトの名前…始めはDのつもりだったんですけど……
どこかのとかぶってしまうらしいので変えてディオにしました♪
さて……第2話に続きます♪
では〜♪
代理人の解説(説明にあらず(^^;)
おお、気持ち良くすっ飛ばしましたね(笑)。
もっともここらへんの展開は今更見飽きてる人も多いので正解でしょう。
ジャンパーに関する解説が出てきましたが、誤解をしてる人も多いのでちょっと解説しましょう。
ジャンパーはA級とB級に分けられます。
アキト、ユリカ、イネスら火星生まれの人たちがA級ジャンパー。
彼らだけがジャンプのイメージング、オペレートをこなすことができます。
ちなみにラピスもA級ジャンパーである可能性があります。
一方で優人部隊、北辰、ルリハリ達がB級ジャンパー。
彼らは「ジャンプをしても死なない」という以外一般人と何ら変わりません。
チューリップを通るか、ジンタイプやアルストロメリアに積まれている短距離ジャンプ補助装置を使わないと
ジャンプはできない(ランダムジャンプになってしまう)のです。
結構重要な概念ですのでナデシコSSを読む際は覚えておいてくださいね。
ちなみに、時々ナデSSで見かける「S級」というのは作家さんの創作です。