機動戦艦ナデシコ

プロトタイプ・ジャバウォック

 

第3話 早すぎる「さよなら」……そうなるのか?


 

 

 

 

ナデシコは現在、地球圏脱出路を飛んでる。

ナデシコのディストーション・フィールドの前に単純なミサイル攻撃や戦闘機の攻撃は無意味なので、

艦内ははっきり言って暇である。

 

「う〜ん……これも良いわねぇ………」

 

イツキは寝ているアキラのお守りをしながらファッション誌を見ている。

 

「帰ってきたら、買い物できると良いけど……」

 

ナデシコははっきり言って地球連邦軍にケンカを売ってしまってるので、

帰ってきたら拘束されると言う可能性もあるのだ。

っと言うか現在もナデシコが移動不能にされてしまったら、捕まるだろう。

 

「ふぁ………うにゅ…………」

 

アキラがむくりと起きあがる。

 

「あら、もう起きたの?」

 

イツキは雑誌から目を放して、アキラを見る。

 

「……にゅぅ………オシッコ…………」

 

「はいはい、我慢して……」

 

イツキはさっとアキラを抱き上げて、御手洗いに連れて行く。

 

「もう4つになったんだし、一人で出来るよね?」

 

「………うん……」

 

アキラは頷いて、トイレに入る。

 

「ん〜……第三防衛ラインまで暇ねぇ……パイロットは……」

 

イツキはそう呟いてまた雑誌に目を戻す。

 

「あ………このセーターいいな………アキラにピッタリ……」

 

クスクスと笑うイツキ。

 

「ん………これも良いわね………よし、帰って来て買い物出来たらカムイに買わせよっと♪」

 

「……ママ……終わった……」

 

トイレから出てくるアキラ。

 

「ちゃんと拭いた?」

 

「…………?………」

 

「もう……ちゃんと拭かなきゃ駄目よ、それに流すのも忘れない。」

 

ジャー……

 

イツキはレバーを捻って流し、アキラに手を洗わせる。

 

「………うゅぅ………」

 

アキラはまだ寝惚けているようで、元気が無い。

案外、低血圧のようだ。

 

「まだ寝る?」

 

「……………お腹空いた……」

 

アキラは首を横に振ってそう言う。

 

「じゃぁ、まずちゃんと目を覚まして………」

 

「ふぁ〜い……」

 

トコトコと歩いて洗面台に行き、ジャブジャブと顔を水で洗う。

 

「起きた?」

 

「うん。」

 

顔を洗って目が覚めたらしく、はっきりと声を発するアキラ。

 

「よし、寝巻きのままじゃダメよ、着替えて。」

 

「は〜い♪」

 

「コ〜ラ〜、走りながら服を脱がない!」

 

イツキはそう叱った。

 

 

 

 

 

 

トレーニング・ルーム

 

「ア〜キ〜ト♪お話ししようよ♪」

 

ナデシコの艦長であるミスマル=ユリカが、アキトに擦り寄る。

どうやらアキトとユリカは、幼い頃に遇った事があるらしく、

カムイとも顔見知りだったらしい。

しかも、ユリカはアキトに一方的な恋心を抱いていたらしい。

十年と数年遇わなかった今も、その思いは変わってないらしく。

曰く<「アキトは私の王子様なの♪」らしい。

はっきり言って、アキトにとって迷惑なのだが、

一方的に、「アキトも自分の事が好きだ」っと、思い込んでいるらしく、手の付け様が無い。

 

「別に話す事なんて無いだろ?何を話すって言うんだ?」

 

アキトは言う。

アキトにとってのユリカは疫病神以外の何者でもない。

突然、蜂蜜が食べたいと言い出し、蜂の巣を突付き、何故かアキトが蜂に追われ、全治一週間の怪我、

山にピクニックに行った時、崖下に落としてしまった人形を取ってきてと言い出し、

アキトを崖から突き落として、アキトは全治半年の大怪我を負っている。

ともかく、アキトにはユリカの所為で出来た、一生消えない傷跡が多くあるのだ。

 

「ほら、昔の事とか……」

 

「…………」

 

ユリカは思い出に浸っていたので、アキトが嫌悪の表情をしたのに気付かない。

 

「……艦長、俺はトレーニング中なんだ、邪魔しないで。」

 

アキトはそう言ってユリカを突き放し、背を向ける。

 

「あ……アキト………」

 

ユリカの事を気に止めずトレーニングを再開したアキト。

 

「……そ………その…………」

 

「…………………」

 

ユリカが近寄って何か言おうとすると、

アキトは無言で別のトレーニング器具に移動する。

 

「………………」

 

ユリカは何も言えない。

 

「あ〜ぁ……嫌われてるな、ミスマル。」

 

カムイがユリカに声を掛けた。

 

「か、カムイさん………私…何かしましたか?アキトに嫌われるような事……」

 

「全部だよ、全部。」

 

「え?ええ〜!?なんで?どうして?」

 

ユリカはパニックになる。

 

「ミスマルはさ……アキトをなんだと思ってるの?」

 

「え……えっと…………アキトは私の王子様で……」

 

「それだよそれ。」

 

カムイは指を指してそう言う。

 

「え?」

 

「それって、物凄い勘違い、相手にとても失礼だよ、アキトはアキト、王子様じゃない。

おとぎ話や本に出て来る、存在と一緒にするな。

夢と現実の区別ってのを、しっかり、はっきり見分けろ……ガキじゃあるまいし。」

 

「そ、そんなこと……」

 

ユリカが口を開くが、

 

「無いってか?」

 

カムイがそう言うと黙ってしまった。

 

「アキトだってな、大怪我すれば死ぬ可能性だって有る。

覚えてるかな……お前が崖下に落ちた人形拾って来てとか滅茶苦茶な事言って、

アキトを崖から突き落としたの。」

 

「………………」

 

ユリカは無言。

 

「本や物語なら、格好良く拾ってくるんだろうが、

現実はではどうなった?…………まさか知らないのか?」

 

「……………はい………」

 

「あらら………最悪………

アキトはあの時、頭部裂傷で十針、頭蓋亀裂骨折、右手は粉砕骨折、右腕と左の腕と足を骨折、

肋骨は三本骨折、亀裂骨折が五本、全身裂傷で皮膚移植が少し必要だったし、全部で四十針近く縫った。

分かる?ほぼ即死間違い無しの大怪我だぞ?」

 

カムイはユリカの知らない現実を叩きつける。

 

「頭を強く打ってたから、もしかしたら障害も残ってたかもしれないんだ。」

 

「あ………」

 

「分かるか?その時から、アキトはミスマルの事をこう認識した。」

 

少し間を空けて。

 

「疫病神だってね。」

 

「そ………そんな………」

 

ユリカががっくりと膝を付く。

 

「辛いようだけどこれが現実……

多分、おじさん当りが言わないようにしてたんだろうけどね、

そう思われて当然の事をしてるんだ、当たり前の結果だろ?」

 

カムイはそう言う。

 

「アキトに振り向いてもらいたいなら、

考えを改めて、自分の仕事をちゃんとこなして、過去の事を謝って……

まぁ、後は自分で考えな。」

 

カムイはトレーニングを始め、ユリカはそのままにされる。

ユリカの周りだけ、時が止まったようだった。

 

 

 

 

 

 

「第四防衛ライン突破シタヨ。」

 

「第三防衛ラインに突入。」

 

ラピスとルリがそう言う。

 

「敵機のデルフィニウム9機を感知、現在のディストーション・フィールドでは防ぎ切る事は不可能。」

 

「迎撃ガ必要ダヨ。」

 

「ヤマダを抜いたパイロットに出撃を伝えて。」

 

ユリカの代わりに指揮を取ってるジュンがそう指示する。

 

「ヤマダさんは連絡してもどうせ出撃できませんよ。」

 

「どうしてだい?」

 

「見れば分かります。」

 

ルリはそう言って、医務室のヤマダの状況を見せる。

 

「…………なるほど……無理だな……」

 

ジュンは頷く。

 

「っと言う事で、アリスの皆さんに連絡して出撃してもらいます。」

 

ルリはそう言った。

どうなっているんだ……ヤマダ……

 

「そう言えばユリカは?」

 

「艦長ナラ、トレーニング・ルームデ固マッテルヨ。」

 

ラピスがそう答え、トレーニング・ルームで石になってるユリカが映る。

 

「はぁ………反応するか分からないけど呼び出して。」

 

≪デルフィニウム接近、距離3000。≫

 

ナデシコのスーパーAI、オモイカネがそう報告する。

 

「ディストーション・フィールド、一時解除、エステバリス!」

 

『了解!副艦長………アンタが艦長になった方が良いんじゃない?<ジャバウォック>出る!』

 

『俺もそう思う、<ダーク・ナイト>行きます!』

 

『事実、艦長は全然役に立ってないでしょ?

今、副艦長がやってる事は、艦長がやるべき事なんだよ?

ホワイト・ラビット>!行きます!アキラ、良い子で待っててね。』

 

紫、黒、白の順にエステが出撃する。

 

「敵数は9機、殺さないように破壊して、すぐ戻って来て。」

 

『了解、一人3機だな。』

 

『了解。』

 

『かるいかるい♪』

 

「エステ全機、交戦開始。」

 

ルリがそう言う。

 

『あ〜!私の獲物取ったぁ!一発無駄弾使っちゃったじゃない!』

 

『早い者勝ちだろ。』

 

『むぅ…』

 

「敵機4機減ッタヨ、残リ5機。」

 

ラピスが言う。

 

「エステ全機、エネルギーウェーブ範囲ギリギリです、注意して下さい。」

 

メグミが通信で注意する。

 

『3機目……お先に失礼するよ、兄さん、イツキさん。』

 

黒のエステバリスがナデシコに帰艦する。

 

「敵機の残り3機。」

 

『ラストォッ!』

 

『まとめて一丁上がり♪』

 

「敵機全滅、帰艦して下さい。」

 

ルリがそう言った。

 

「あんまり時間かかんなかったわね。」

 

「さすがはアリスってとこだね。」

 

ジュンが言う。

 

「第2防衛ラインに突入。」

 

「ミサイルノ接近確認シタヨ。」

 

ルリとラピスが言う。

 

「ディストーション・フィールド全開!全速前進!」

 

「やはりアオイさんを艦長にしたほうが良かった様ですね……私とした事が……」

 

プロスが呟く。

 

「ミスター……間違いと言うものは誰にでもある。」

 

ゴートが言う。

 

「万能な人間など居らぬよ。」

 

フクベがそう言った。

 

 

 

 

 

 

「お〜!本当に戦闘してきたのか?お前ら。」

 

ウリバタケが言う。

 

「ああ。」

 

「いやぁ、さすがだねぇ………被弾数ゼロ。」

 

「あんなの目隠ししてても当らないよ。」

 

アキトがそう言う。

 

「おお、言うねぇ。」

 

ウリバタケはアキトを肘でつんつんする。

 

「………さて……一眠りするかね……」

 

「その前にシャワー浴びてよね、汗の匂いがすごいわよ。」

 

「へいへい。」

 

カムイはそう返事をした。

 

 

 

 

多少、艦内が揺れたりしたが、第2防衛ラインのミサイルの雨も、

第一防衛ラインのビックバリアも無事に突破、ナデシコは火星に向け、進んで行くのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく…


ども、軍神です。

え〜、ジュンが活躍しだしました。

それと、

ユリカファンの皆様、ごめんなさい。

自分でも虐め過ぎてるなと思って居ります。

だがしかし、ユリカと言う人物の性格と思考を見たり聞いたりしてると、

どうしても疑問に思った事があるので、今回こうなりました。

 

プロス、ゴート、フクベがセリフ1行。

ヤマダがセリフすら無し。

 

ふぅ……全てのキャラを目立たせる事が出来るのはいつになることやら……

 

では……

 

 

 

 

代理人の感想

全てのキャラを目立たせるなんて無理ですって(笑)。

全員を喋らせようとすればそれだけで行は稼げますが個々の個性は中々出ません。

 

ただ、目立たせなくても「立たせる」ことは可能なわけで、

かの傑作「絶対無敵ライジンオー」(及びゴウザウラー)の如きは主役である地球防衛組のキャラを

十八人全員立たせる

という荒業を披露してくれました。

実際敵味方含めて三十人近いキャラが「立って」ましたからね。本当に大したものです。

 

で、具体的にはどうすればいいのかというと

一に各個人の活躍の場、主役のエピソードを作ること。

ちょっとした活躍ではいけません。極論すれば一話の半分を占めるくらいの、

それも他の人間が(それが主役であっても)添え物に思えるくらいの「見せ場」が必要です。

二にはちょっとした会話、描写などにも「らしさ」が出るように気をつけること。

これは一の「見せ場」で見せた個性を裏打ちし、また強化する働きがあります。

ただの一言で「らしさ」が出てキャラが立つ。これが理想ですね。

(もちろん口で言うほど簡単でもありませんけどね)

小説で言えば田中芳樹の銀河英雄伝説などが参考になるでしょう。