現在の時刻は朝の九時を少し過ぎた頃である。

 つい先程東京駅に着いた新幹線から、一人の少年が出てきた。
 その少年、髪と瞳は艶のある黒で、
 服はTシャツにGパン、そしてその上に革ジャンを羽織っていた。
 その全てを髪や瞳の色に合わせたのか、黒で染め上げている。

「ふぅ〜。漸く着いたか。」

 少年は背負っていた大きめのリュックを下ろし、近くにあったベンチに腰掛て息を吐く。
 どうやら長い間電車の中にいた事が窮屈だったようだ。
 その少年の名は、天河明人といった。

「随分久しぶりだな。」

 明人が東京に来たのは実に八年ぶりである。

「父さんも母さんも無理してなければいいけど。ま、無理だろうけど。」

 父親と母親は東京で働いていたのだが、明人が自然を好む為に九州に住む曽祖父の家に預けられ、
 最近までは其処で暮らしていた。

「さて、とりあえず顔でも見せに行こうかな。」

 その曽祖父もつい数週間前に亡くなっている事と、両親の意向を受けて上京してきたのだった。

「多分何かの作業で会社にいるだろ。…よっ、と。」

 そう言って立ち上がり、リュックを背負いなおしゆっくりと歩きながらゴソゴソとポケットを探る。
 そうして目的の物があったのだろう、なにやらプラスチック製らしき黒い目隠しのようなものを取り出してかける。
 これはプッフルプリンセスが開発した超小型ナビシステムの試作品である。
 明人が上京した時、道に迷わないようにと手紙と一緒に入っていた物で、これの商品名は『バイザーナビ』と言う。
 そしてこめかみの辺りの部分を指で弄ると内側に地図が表示された。
 さらに弄ると今度はよく男子トイレに掲げてあるような感じの逆三角と丸で出来た青いマークと赤い丸が表示され点滅を始めた。
 恐らく青が現在地、赤が目的地の表示なのだろう。
 それを確認した後、明人の歩調が速くなった。










エンジェリックレイヤー+ナデシコ












 それから約一時間。
 明人はとあるビルの前まで来ていたが、入ろうにも入れなかった。

 理由はいたって簡単。
 ビルに入ろうとしていた白衣を着た青年に止められたからだ。

「う〜ん、社員以外はアポが無いと入られへんで。
 一応、此処にゃ機密がつまっとるからな。」

「はぁ、両親が此処で働いている筈なんですが…。」

「両親が?…坊主、お前名前はなんちゅうんや?」

 明人の少し沈み気味な言葉を受けて、確認する為に名前を聞く青年。

「天河、天河と言います。」

「天河?ひょっとして両親の下の名前って戒斗と瑠璃っていわへんか?」

「え?ええ、そうです。」

「なんや、あの二人の子供かい。おっしゃ、俺が連れてったる。」

 言って青年は明人の手を取って強引に引っ張ってビルに入っていく。
 傍から見れば誘拐に見えなくはないだろう。

「あれ?三原さん。その子どうしたんです?」

 中に入ると受付嬢であろう女性が青年に声をかける。

「おう。こいつ戒斗と瑠璃の子供らしいんでな。悪いけど二人呼んでくれるか?」

「はい、分かりました。」

「すまんな。あっちでまっとるわ。」

 用件を伝え終わるとまたも明人を強引に引っ張って行く。

「なあ、結局あんたは誰なんだ?」

 青年はロビーの一角にあるソファーに座り、漸く明人の手を離す。
 そして明人は少し不機嫌そうな声を出しながら聞く。

「ん?俺か?俺は三原一郎や。名前くらいは聞いた事あって欲しいんやけど。
 てかな、自分俺と何度かおおとるんやで?」

「三原?ああ、なんだその白衣と眼鏡を装備した姿にはなんか見覚えがあると思ったんだ。
 いっちゃん、確か俺を脅かしていっつも遊んでたよなぁ。」

 そう言う明人は思いっきりジト目になっており、
 少年からと思えない程の威圧感を放っていた。

「はっはっはっ。人間何時までも小さい事を気にしとったらあかんで。」

 なんとかそう言った青年改めいっちゃんだったが、
 その背中はダラダラと流れる冷や汗で濡らしまくっていたりする。

「明人!」

 そこに薄い水色に近い銀髪をツインテールで纏めた金色の瞳をした色の白い女性、天河瑠璃が走ってきた。
 服装はいっちゃんと同じく白衣だったが、
 背中にはデカデカとプリントされたイルカの絵がある。

「あ、母さん。久しぶり。」

「瑠璃。遅いで、なにしとったんや。」

「もう、来るなら来ると言って下さい。迎えにくらいは行きますよ。」

「いやさ。どうしようか迷ったんだけど距離、こっちの方が近かったから。」

「近いって言っても…。まぁ、いいです。ホントに…久しぶりですね、明人。」

 言いながら瑠璃は明人を抱き寄せる。

「大きく、なってしまいましたね…。」

「母さん。」

 しみじみと言う瑠璃と、少し恥ずかしげに言う明人。
 親子であるのに何故か二人だけの世界に旅立っている明人と瑠璃。
 そんな明人の後ろには、一体何時の間に来たのか警備員の服装をした黒髪黒目の男性、天河戒斗が立っていた。

「明人ぉ〜!」

「ぐ、ぐえぇぇぇ〜〜〜!」

 そして明人の名前を叫びながらいきなり飛び付き腕拉ぎ十字固めを極め始める。

「おお、戒斗。お前ほんまに何しとんねん。息子がきたんやからはよこないかんで。」

「いや、いっちゃん。久々の親子の対面をより劇的にしようと思ってな。」

「そりゃ俺の専売特許やで、戒斗。」

「な、和むなぁぁぁ〜〜〜!!」

 いっちゃんと和やかに話しながらも、戒斗の力は一向に緩む気配は無いどころか逆に強くなっていく。
 それにあわせて段々と明人の顔が赤くなっていく。

「戒斗さん。それくらいにしないと本当に明人が落ちますよ?」

「ん、そうだね。瑠璃ちゃん。」

 瑠璃に言われて明人を解放する戒斗。
 解放された明人は咳き込みながらも戒斗を半眼で睨む。

「息子を殺す気かあんたはぁ〜〜〜!」

「ごふ!」

 ベチャ!

 何とか息を整え今度は明人が叫びながら戒斗にアッパーを叩き込む。

「ふ、まだまだ甘いな。明人。」

 しかしそれを喰らって吹き飛んだのはいっちゃん。
 どうやら戒斗が盾代わりにいっちゃんを使ったようだ。
 そのいっちゃんは頭から床に落下して、今はピクピクと小刻みに痙攣している。

「まだ、まだぁ!」

はははははははははははは!

ふははははははははははははは!!



 もう盾になるものが無いと判断した明人は、さらに攻撃を繰り返す。
 そしてその事如くを某DG細胞に侵食されたお兄さん風な笑いを上げながら避ける続ける戒斗。
 そんな二人の周りではソファーや観葉植物などが宙を舞っており、たまにいっちゃんらしき物体も飛んでいた。

「明人も戒斗さんも、そんな事してたら駄目ですよ。」

「ちぃ。」

「はっはっはっ!」

 仲裁に入った瑠璃の言葉を聞いて何故かそれだけで渋々引き下がる明人と、心底楽しそうに笑う戒斗。
 酷く対極的な二人であった。

「それじゃ私は明人に私の職場を案内してきますから戒斗さんは仕事に戻って下さいね。
 さ、行きますよ。明人。」

「次は必ず一太刀は浴びせて見せるからなぁ〜〜!」

「期待して待ってるぞ、遅かりし復讐人よ。はっはっは。」

 ズルズルズル………

 瑠璃に手を引かれて歩きながら振り返り、戒斗に中指おったてて宣言する明人。
 対して未だに笑っている戒斗はそれにも笑顔で返すと、
 まだ痙攣の続いているいっちゃんを引き摺りながら何処かに歩いていった。
 恐らくはいっちゃんを医務室か休憩室に捨てる為だろう。

「なぁ、いっちゃんて一応社長だったよなぁ…。
 社長があんなんでよくこの会社潰れないな。」

「それは参謀が優秀だから社長があんなんでも大丈夫なんです。」

 いっちゃんこと三原一郎。
 社長であるにもかかわらず、社員から言いたいように言われていた。
 受付嬢が気軽に名前で呼んでいる事からも考えて、研究者としては尊敬されても経営者としてはぜんぜんなのだろう。






「此処が私の働いているエンジェリックレイヤー開発部です。
 エンジェリックレイヤーの名前は、聞いた事くらいはあるでしょう?」

「ああ、確か思ったとおりに人形が動くやつだったよな。
 俺としては実際に体を動かす事じゃないからあまり興味ないんだけどね。」

 瑠璃が明人を連れてきたのは確かに自分の職場なのだが、
 そんな簡単に部外者を入れても良いのだろうか?

「明人、ちょっと頼みたい事があるんです。」

「ん?どうしたの、急に真剣な顔してさ。」

 明人の問いに対する答えの前に、瑠璃は一体の人形を明人に見せる。

「それ…確かドールとか言ったっけ?」

 そう、瑠璃が手に持っていたのは一体のドール。
 まだ何も入力されていないまっさらなドールだった。

「ええ、これがドールです。一応試作の最新型ですけどね。
 貴方に頼みたいのはこれでエンジェルを一体作って貰いたいんです。」

「俺に?なんで開発チームの人間でやらないのさ。
 それって開発テストって事だろ?」

 明人の疑問も尤もな事だろう。
 本来開発テストは社外秘である為、部外者にそれをやらせるのは機密漏洩に通じる行為だろう。
 明人には瑠璃の考えが全くわからなかった。

「まぁ、所謂モニターと言うものですね。
 出来る限り色々な条件の人に扱って貰って、そのデータによってさらに上の技術を目指すんです。」

「ああそう言うことか。でもなんで俺なの?」

 瑠璃から出たモニターの一言で漸く理解する明人だったが、
 やはり自分にそれをやらせようとする瑠璃の意図を理解する事は出来なかった。

「それは、貴方が実践的な戦闘技術に精通しているからです。」

「か、母さん。何処で、それを・・・?」

 明人は両親と離れて暮らし始めた頃から、戒斗の父親に木連式と言う戦闘術の流派を学んでいた。
 その事は両親には言わないようにと回りには硬く口止めしておいたのである。
 そんな行動の全ては父、戒斗に一矢報いる為だけに行われた事であった。
 それを回りの大人達は苦笑しながらも了承してくれた筈なのである。

「去年、お義父さんから貴方が木連式免許皆伝にまで到達したとの手紙が届いたんです。
 それから貴方をモニターにするように、いっちゃんに頼んだら二つ返事で了承してくれましたよ。
 どうです?受けてくれますか?」

 言いながら瑠璃がドールを明人に差し出す。
 その目は真剣なものであり、瑠璃がこの研究にどれだけ入れ込んでいるかがよく分かる目だった。

 暫しの沈黙の後、

「分かった。俺の我儘を母さん達が聞いてくれたお返しに、今度は俺が母さんの我儘を聞くよ。」

 そう言って明人は瑠璃の手からドールを受け取る。
 それを見た瑠璃は満足そうに微笑む。

「じゃあ、早速ドールをエンジェルにしないといけませんね。
 機材はこっちにあります。本当ならこの使用法とかの解説はいっちゃんがやる予定だったんですけどね。
 彼はまだ医務室か何処かでサボってるでしょうから私がします。」

 さっきあれだけモロにアッパーカットを喰らって、
 さらにその後投げられた社長は勝手にサボりと判定されてしまったようである。

「は?解説?それを言うなら説明だろ?」

 瑠璃の妙ないい回しを疑問に思い、聞き返す明人。

 バン!

 明人の台詞が途切れた瞬間、勢いよく扉が開かれる。
 正確には『説明』の単語が出た時点で扉は半開きになっており、タイミングを計るように二つの瞳が中の様子を窺っていた。

「それなら。この私が説明しましょう!」

 其処から、これまた白衣を着た金髪の女性が嬉々とした表情をして入ってくる。

「あぁぁ、明人。何て事を…。」

 それを見た瑠璃は急にぐったりとした表情になり、サメザメと涙を流して黄昏ていた。

「え?え?」

さぁ!始めましょうか!
 まずは………それでは次に………これが…で……」

 急な展開に付いて行けていない明人の目の前に陣取りおよそ必要無いと思われる専門的な説明をする女性。

 結局彼女の説明は五時間にも及び、終わった時には明人と瑠璃は現実世界から逝ってしまっており、
 満足げな表情でホワイトボードを片付ける女性だけが動いていた。

 明人と瑠璃が現実世界に返って来たのは、それからさらに一時間が経った頃であった。

「明人…。これからはあの一言だけは言わないで下さいね…。
 あの人はあの単語を聞きつけると何処からとも無く現れて…。」(TдT)

「りょ、了解…。」(TдT)

 外は既に日が暮れ始めていた。






「はぁ、とりあえずさっさとドールをエンジェルにしましょう。」

「そうだね。」

 謎の女性の地獄の説明会からなんとか立ち直って奥の部屋に入る二人。
 其処にはどうやっているのか、ドーナツ状の円盤が二枚宙に浮かんでおり、
 その二枚の円盤の間には不思議な光を発している円筒があった。
 その下にある土台と思われる機材からはコードが数本延び、
 そのコードの先には幾つかのボタンと小さな画面の付いた機材が繋がっている。

「まずはドールに髪の毛を付けないといけませんね。
 これを使って好きなように髪型は変えられますので、今はそのまま付けておきますね。」

「なんか呪いの人形みたいなんだけど…。」

「ではとりあえずその筒に上からドールを入れて下さい。」

 明人の言葉をサラッと流したが、こめかみを一筋汗が流れたところを見ると、瑠璃も恐らく気にしていたのだろう。

 とりあえずは言われるままに明人がドールを円筒の中に入れると、
 またもどうやっているのか分からないがドールが円筒の中央部で浮かんだまま静止した。

「それじゃあ次は、そっちの幾つかボタンと画面が付いてるのを使ってエンジェルに既定分の数値を好きなように振り分けて下さい。」

「これ、か…えっ、と…。」

 明人は次々とパラメータを自分好みのものにしていく。

「体格は俺と同じような感じで良いかな。
 次はっと…。えっとまずは…それで…こっちはっと…。」

 ブツブツと独り言を言いながらも着々とパラメータを決定していく。

「一応終わったけど。これで、いいの?」

「えっと。…記入漏れは、無いようですね。最終決定は真ん中の楕円形のボタンです。」

「それじゃあ決定。っと。」

 明人がボタンを押すと画面が変わり、今度は名前を決める画面が出てきた。

「それでは画面の指示に従ってエンジェルの名前を決めて下さい。
 一応あらかじめ言っておきますが、名前は一度決定してしまうと後から変更出来ないのでよく考えて下さいね。」

「名前、ねぇ…。」

 明人は操作を中断して腕を組み、顔を俯き加減にして暫しの間思案したが、
 いい名前が思いついたのか操作を再開する。

「サレナ。こいつの名前はサレナにする。」

「サレナ…和訳は百合、ですか。いい響きの名前ですね。では、最終決定ボタンを。」

 瑠璃に言われ、名前を入力して明人がボタンを押す。
 すると今度は二枚の円盤の内、上にある円盤が光を発し始めた。
 その光は円筒の外周部分をなぞりながら下に進む。
 光がドールの上を通過すると、能面のようだったドールの顔に人間のような顔が出来ていた。
 さらに間接部分の形状が変わり、中の線が見えていた手や足の指の間接部が覆われていく。

「これで、貴方のエンジェルは完成しました。」

 今や円筒に入っているのはドールではなく、エンジェル『サレナ』である。

「これが…俺のエンジェル。」

「ええ。さて、それではもうその筒に入れておく必要はありませんから出してあげて下さい。
 これであとやる事はその子の服を作る事と、髪を整える事だけです。」

「服、か…。」

 服と聞いて明人が嫌そうな顔をする。

「明人?服がどうかしましたか?」

「え?いやね、俺、裁縫あんま得意じゃないから。」

「はぁ、別に無理して裁縫をする必要は無いですよ。
 一応市販のものでそれなりの形状をした完成済みの服もありますから。
 あと、デザインを送って貰って此方で作るといった方法もあります。」

 明人の漏らした台詞に溜め息を付きながら言う瑠璃。
 それを聞いて明らかに安堵の溜め息を漏らす明人だった。

「そうなんだ。じゃあ、今日中にデザインを作ってこっちに送っとくから後は頼むわ。」

「そうですか。ではどんな服を貴方が考えるのか。楽しみにするとしましょう。」

「いや、そんな大したもんじゃないんだけどね。」

「いいんですよ。此方が勝手に期待しているだけですから。
 ところで、もうそろそろご厄介になる方のところに行かないといけない時間帯ですよ?」

 そう言って壁にかけられている時計を指差す瑠璃。
 時計はもう七時を回っていいる事を示していた。

「げ、もうこんな時間か。それじゃ母さん。仕事頑張ってね。父さんやいっちゃんにもよろしく言っといてよ。」

「ええ。分かっていますよ。貴方こそ気を付けて下さいね。」

 瑠璃の言葉に笑顔で答え、明人は部屋を出て行った。

「さて、私もいい加減仕事に戻らないといけませんね。」

 明人を見送った瑠璃は、明人の姿が見えなくなるとそう呟いて、
 さっき出て来た部屋にもう一度入っていった。






 ピッフルプリンセスを出た明人は、外してポケットにしまっておいた『バイザーナビ』で次の目的地を確認して歩き出した。
 バイザーと服装とがあいまって、モノホンのヤクザでさえも道を譲るほどの怪しさと凶悪さを醸し出しており、
 何度も補導されかけその度に全力で逃げたのは完全な余談であり、逮捕されなかったのは奇跡だった事だろう。

 そして二時間ほどぶっ通しで歩き続けた明人は、漸く目的地である両親の同僚の家に到着した。

 ピ〜ンポ〜〜ン。

「はい、何方ですか?」

「あ、夜分遅くにすいません。天河ですが。」

「ああ、明人君か。話は聞いてるけど、随分遅かったわね。
 鍵は開いてるから、とりあえず入って頂戴。」

「あ、はい。」

 もう既に夜の十時を回っており、外を出歩く影は殆どいなかった。
 遅いと思われるのも仕方が無い、と言うより当然だろう。

「すいません。これ作ってたら遅くなっちゃいまして。」

 玄関先で明人を出迎えてくれたのは少し緑が入ったような茶髪をストレートで伸ばした、
 スラッとした長身の女性、祥子だった。
 彼女に作ったばかりのエンジェル、サレナを見せながら事情を話す。

「ふぅ。やっぱりカエルの子はカエルね。」

 それを見た祥子は溜め息交じりに呟く。

「祥子さん、それは酷いですよ。俺は母さんの我儘に付き合ってるだけなんですから。  それにしても、ご無沙汰してます。」

「そうね。最後に会ってからもう結構経つのよねぇ。
 まぁいい加減上がりなさいよ。何時までも立ち話なんてするもんじゃないわ。」

 そう言ってさっさと家の奥に入っていく祥子。
 そしてそれを見て、明人も家の奥に入っていった。






「姉さん?明人君着いたわよ。」

 リビングに入って行く祥子は、リビングにいた車椅子に座って書類を読んでいる、
 祥子と同じような色をした長い髪にウェーブをかけた女性、萩子に向かって声をかける。

「あ、祥子ちゃん。ありがと。」

 そう言いながら萩子は視線を書類から祥子の後ろに立っている明人に移しす。

「久しぶりね、明人君。早速で悪いんだけど瑠璃さんと一緒にエンジェル作ったんでしょ?ちょっと見せてくれない?」

「え?いいですけど、何するんです?」

 萩子の言葉に疑問を抱きつつも、とりあえずサレナを渡す。
 サレナを手にとった萩子は隅々、特に間接部分を重点的に観察し始める。
 そして急に真剣な表情になって明人に疑問を投げかける。

「ねえ、明人君。攻撃力重視の軽量型なんて言わば相反するタイプ同士の組み合わせににしたのは何故?
 攻撃力を最大限引き出すなら重い方がいいと思うけど…。」

 萩子の言う事ももっともである。
 幾ら攻撃力があるとは言っても所詮は軽量型、
 重量型のエンジェルや防御力重視のエンジェルなどには致命傷を与える事が困難なのだ。

「その事ですか。」

 明人はこの質問を予想していたのか、

「一番の理由は俺の戦い方は基本的に一撃必殺のカウンターかゴリ押しだからですね。  重いと反応が遅れて先読みに頼らなくちゃいけないですし、速度が無くちゃ手数で押せませんから。」

 すぐに答えを返す。

「明人君の、戦い方?どういう事?」

「う〜ん。一応これでもある流派で、師匠から免許皆伝を貰ってまして。
 分かり易く言えば、その流派での俺の戦い方を再現する為、
 つまりエンジェリックレイヤーにおいての俺を作る為にそんなタイプになったんですよ。」

「そう…。」

 明人の言葉を聞いて曖昧な返事を返した後、急に思案顔になる萩子。

「ところでエンジェリックレイヤーをやった事は?」

「え?いえ。知ってはいましたけど、俺は自分の体を動かす方が性に合ってましたから。」

「それじゃまずは慣れる事が先決ね。明日社の練習場で練習しましょ。」

 萩子はまずエンジェリックレイヤーに慣れさせる事から始める気のようだった。
 だがその前にどうしてもやらなくてはいけない事があった。

「あ、萩子さん、それと祥子さんに見てもらいたい物があるんですが。」

 そう言いながら背負っていたリュックをガサゴソとあさり始める明人。

「え?私達に?」

「なにかしら?」

 何が出てくるのか、興味を示して明人の方を見る二人。

「これ、なんですが。」

 言って明人が見せたのはスケッチブックに描かれた服装のデザイン画だった。

 それはバイザーによって顔の大半を隠し、ボディスーツで全身を覆うというものだった。
 さらにその横には付属品らしきマントも描かれている。
 そしてその全てはこれでもかというくらい黒一色で彩られていた。

「「・・・」」

「母さんがデザインを送れば服は作ってくれるって言っていたから、  此処に着くまでに歩きながら描いてみたんですけど。って、何か変っすか…?これ。」

 無言になった二人に向かって話す明人だったが、二人から反応が返ってこない事に不安を抱いて語尾が萎んでいく。

「明人君。貴方なかなか渋いセンス持ってるわね。」

「でも、これってなんか悪役みたいな格好じゃない?
 これも明人君の趣味?」

「う〜ん、全身を一色で纏め上げる事で相手に自分の動作を隠すのは師匠の受け売りなんですよ。
 それに黒は一番見難くなりますから。ま、俺の趣味ってのは否定しませんよ。」

 漸く返って来たのがそう否定的な意見ではなかったので安心する明人。
 以前これと同じ様な服をオーダーメイドで作った時は、
 回りの殆どの人間が引きまくった事を考えれば素晴らしい反応であろう。

「悪役みたいな格好ってのは否定できませんけど、悪役って渋いから好きなんですよ。
 真面目で熱血な主人公と冷静沈着で冷酷な悪役!!
 そんな悪役の格好はやっぱこうでなくちゃ!!」

 天河明人十四歳。
 仮面ライダーや戦隊物を始めとする特撮系、そして熱血系アニメ等の渋い悪役や格好いい悪役の信奉者であった。

「でも服はともかく黒いバイザーと黒いマントは作れるかどうか微妙ね。
 いっちゃんなら面白がって作るだろうけど、これだとエンジェルの表情を見られないからつまらないわよ。」

「悪役はやられキャラは素顔を曝しているけど、ラスボスやライバルは謎だからこそ渋いんです!!
                              ヒーロー
 そう断言する明人のBGMとして、何故か『嵐の○者』が流れていた。
 冒頭の台詞は妙な脚色が施されており、

銀の∞∞∞に思いを乗せて、目指せ正義の○○○!

ドリル少女スパイラル××!

見、参!!



 となっているのはご愛嬌であろう。

「明人君、すっかり漢らしくなったわねぇ…。」(−−)b グッ!

「祥子ちゃん。貴方も?はぁ…。」


 力説している明人を傍で見る二人。
 祥子はグッと親指を立てて明人の成長振り?を喜んでいる。
 萩子はそんな熱くなっている祥子と明人を見て、人知れず溜め息を付いていた。






続く…?












 あとがき+人物紹介

 エンジェリックレイヤー+ナデシコ、第一話をお送りしました。
 いかがだってでしょうか?

 GBA版エンジェリックレイヤーをやっていて無性に書きたくなった為、
 殆どノリと勢いだけで書いています。
 話に勢いはあったでしょうか?

 そう言えば『★イト☆イン』+『スパイラル××』のネタが分かる人いるのだろうか…?

 鈴原萩子が車椅子に乗っているのは漫画ではなくGBA版の設定(アニメ版は殆ど見なかったので覚えてません)です。
 漫画版じゃしっかりと走り回ってますから。

 その他の漫画やアニメ、ゲームで出て来た正規のエンジェリックレイヤーキャラは、
 とりあえず漫画版の設定に少し手を加えるくらいにしておく予定です。
 きっとそのうち公開するとは思います。何はともあれ面白く感じて頂けたらと思います。

 下は今回出て来たナデシコ系キャラの簡単な設定です。
 では。

○天河明人
 主人公。十四歳、エリオル学園中等部二年生に編入予定。
 小学一年の頃から木連式を学び、十三歳で免許皆伝の腕を持つに至るが、
 未だに師である北辰には勝った事は無い。
 攻撃力重視の軽量型エンジェル、サレナのデウス。

○北辰
 明人の師匠で道場主で、流派は外道流。
 明人に木連式を教えたのは暇潰しで、単なる気紛れ。
 本業は探偵で、別に暗殺とかはしていない。
 天河戒斗の実父であり、天河明人の祖父であるにも拘らず本名不明年齢不明素性不明。
 天河姓を名乗っていない為、北辰の名だけで呼ばれている。

○天河戒斗
 明人の父親。
 ピッフルプリンセス警備部部長。

○天河瑠璃
 明人の母親。
 ピッフルプリンセス、エンジェリックレイヤー開発チーム副主任。

 

 

代理人の感想

まぁ、こう言うものかなぁと。

13才で免許皆伝を受けたり親の人格が崩壊してたり、そういう作風なんだろなと。

一番辛いのは話に凹凸が全くない事ですが。