ナデシコは現在成層圏を突破する為にほぼ順調に高度を上昇させている。

「それにしても、あの連合軍総司令って結構単純ですね。」

 ほぼというのもナデシコは第四防衛ラインである地上からの雨の如く降り注ぐ小型ミサイル群の中を上昇しているからである。

「お前にそんな風に言われたら、あの総司令も終わりだな。」

「むぅ〜。それは酷いよ、アキト。」

 その理由は一時間程前にされた新地球連合軍の司令議会で行われていた国際会議に通信のみで乱入した挙句、
 ムネタケ准将とミスマル極東部司令の行った行動に対する鬱憤を言いたい放題言って晴らした為に総司令の反感を買い、
 逆上した総司令がナデシコの撃墜命令を出した為であった。

 しかし、第六から第五までの防衛ラインは久しくなかった大々的な軍事行動の為に、
 全国各地の休眠中であったチューリップを刺激してしまい急遽目標を木星蜥蜴に変更し防衛線を展開中。
 現在続いている第四防衛ラインからのミサイルによる攻撃もナデシコの展開するディストーションフィールドに防がれ、
 ナデシコに届くのは少々の振動だけである。

「それにしてもあのミサイル一発で幾らするんだ?
 こんな無駄な事に使うんだったら無人兵器どもに吹っかければ十分な戦果を上げれるじゃないか?」

「そうですなぁ。まったくもって血税の無駄遣いですねぇ。」

「正義の味方のやるこっちゃねぇぜ!」

「多分まともな計算の出来る人がいないんじゃないんですか?
 映像を見た限りだと揃いも揃って馬鹿ばっかって感じでしたし。」

「大方『軍の面子』、なんてものを保つのに必死なのよ。」

「酷いですよねぇ。自分達で良いって言ったのに結局こんな事するんですから。」

「むぅ。」

「いやな、彼らもそれだけ切羽詰まっておるのじゃよ。
 まぁ確かにこれは無駄な足掻き以外の何物でもないのじゃがのぉ。」

「え〜。だったら初めからそう言えば良いんですよぉ。ねぇ?」

「うんうん。」×複数

 などとゆったりとしたムード中、果てしなく連合軍批判は続けられた。



<問題の交渉場面>

「諸君、ナデシコは軍とは行動を共にせず、単独で火星に向かうと言う!
"Behavior isn't shared with the army, and it is separate,  and it is said that it goes to the Mars about you, Nadesico!
 しかも我々の誠意ある説得に耳を貸さずにだ!」
 Moreover, it is without listening for the persuasion with our sincerity!"


 ナデシコの拿捕に失敗した連合軍司令議会総司令は自らの下した指令が失敗したのを知ると、
 司令議会に召集をかけ臨時会議を開き、自分のした事を棚に上げてナデシコを批判する。

「こんな勝手を許していいのか!
"May I forgive such a situation?
 否!断じて否である!」
 No! It is no absolutely!"


 他者を扱き下ろすのに熱中しているのかその目は既にキレる寸前である。

「総司令。通信です。」
"Total command. It is communication."

 そこへ総司令の隣に座っていた秘書であろう女性が声をかける。

「なんだと?こんな時に一体どこからだ?!」
"What is when it? Are they anything on earth at such time?!"

 それに対して自分の演説を遮られたせいなのか、
 不満げな雰囲気を隠そうともせずに秘書に聞く。

「いえ、それが件のナデシコからでして。」
"It can say, and it is from Nadesico of the matter."

 何時もの事と割り切っているのか気付いていないのか、
 全く変わらない口調で秘書が答える。

「すぐに繋げ!」
"Connect soon!"


 総司令がそう言うと既に準備を進めていたのか議会場のメインスクリーンにノイズが走り、
 数秒の後にパッと画面が変わり、それに合わせたかのように、

「新年明けましておめでとう御座いま〜す!」
"A Happy New Year!"


 場違いな振袖姿で能天気な声で上げられた新年の挨拶が議会に響き、その後暫く議会の面々は思考を停止させてしまう。

「か、艦長。君は疲れているようだ。代わりたまえ。」

「え〜?大丈夫ですよ。これくらいの茶目っ気が無くちゃこっちはやってられませんよ。」

「しかしだね。」

「これくらいで怒るようなら相手がその程度の器量って事だろう?」

「そうそう。」

「テンカワ君。君まで何を言い出すのかね…」

「こんな事で一々怒るような小物ならすぐに政権交替になりますから、
 別に貴方が気にする必要なんてありませんよ。」

「そうは言ってもだな…」


 静止画像のように停止している画面を前にナデシコ艦長ミスマルユリカと
 ナデシコパイロット兼技術顧問テンカワアキトは言いたい事を好き放題言っている。

 本来なら彼らを止めるべきはプロスとゴートの二人であろう。
 しかし今現在二人はブリッジにはおらず自然とフクベが二人を止めようとしているのだが、
 二人の言いたい事も分かっている為に余り強く言えていない。

 そう、艦内で海賊行為を行った挙句に一隻の戦艦に対して三隻による拿捕を目的とした軍事行動。
 その過程における民間人への威嚇射撃及びアキトに対するムネタケの殺人未遂。

 戦時特別法が可決されていないのにこのような事をしたにも拘わらず、
 これらの事は全て一般に知らされておらず、責任を取った者がおらず、謝罪すらも一切ないのである。
 これで軍に好意的な意見や態度を示せと言われても、無理な話である。

 もしもトビウメにムネタケ達軍人を置いておかなければ、
 ナデシコトレーニングルームにおいてサンドバックにされていた可能性すらある。

 それほど今のナデシコの乗員は軍を嫌悪しているのだ。

「君らはもう少し国際的マナーと言うものを学んだ方が良いのでは無いか?」
"You learn a thing to say as the international manners a little more?">
「あら、それどうもご丁寧に。」
"Very much, it carefully."


 何とか再起動を果たした総司令の言葉を聞いたユリカは今まで顔に浮かべていた表情をしまい込み、
 今度は不敵な笑みを湛えて総司令に返す。

「それならあんたらは小学校いや、幼稚園くらいからやり直したらいいじゃないか?」
"No you had better do it again after all from the kindergarten the elementary school."


 それに続いてアキトはまたも好き放題言う。
 その視線と口調には、はっきりとした侮蔑の念が込められていた。

「一体何のようかね!?我々は遊んでいる訳では無いのだぞ!!
"What is it included to be on earth!? Aren't we always playing!!
 それとも我々軍に協力する事にでもしたのかな?」
 Or, did you do in cooperating with the us army?"

「ご冗談を。あんな事をする人間を信用するなんて事は死んでもいたしませんわ。
"Joke. It isn't done even if a thing dies that the human being who does such a thing is trusted.
 率直に申しますとナデシコが宇宙に出るのには障害物が多すぎるんです。
 When it is called it frankly, there are too many obstacles in Nadesico's coming out in the universe.
 別に実力で突破しても構わないのですが、それでは無傷とはいきませんので。」
 Though it doesn't care,
 because then it doesn't go as for the wound-less even if it is broken through separately with the ability."

「なにぃ?!寝言は寝てから言いたまえ!」
"What?! After it sleeps, talking in sleep is said, and it is!"

「そうですか。ではお手柔らかに。」
"Is it so? Well, softly, hand."


 そう言ってユリカは顔だけは微笑を湛えたまま通信を切った。

「これで分かったな!ナデシコは我々の敵だ!
"It was found out in this! Nadesico is our enemy!
 彼らが地球を出る事を許すわけにはいかん!
 It doesn't go to a reason to permit them to leave the earth!
 第一から第六までの全ての防衛ラインでナデシコの成層圏突破を阻止せよ!
 Prevent the stratosphere breaking of Nadesico in all the defense lines to the sixth from the first!
 以上だ!」
 It is the above!"


 そう言うと総司令は誰よりも早く議会を出て行った。



「と言う訳でぇ、これからナデシコは実力で成層圏って言うか全ての防衛ラインを順に突破しま〜す!
 ちょぉっと揺れるかもしれないので皆さん物が落ちたりしないように気を付けて下さいねぇ〜!」

 通信を切った後、ユリカは様子を見守っていたクルー達にそう言って微笑む。
 その笑みは先程総司令に向けたものとは全く違う柔らかなものであった。















混沌の魂
 第三話















「ところで艦長。
 第三防衛ラインは最低でも9機からのデルフィニウム部隊が来るが、どうする気かな?」

 一通り連合軍批判が終わったところで急に真剣な表情になり口を開くフクベ。

「大丈夫ですよ。」

 聞かれても焦る事無くサラリと口に出す。

「アキトとヤマダ「だから俺はダイゴウジ・ガイ!!」もエステバリスとデルフィニウムでは機動性の桁が違いますから
 時間稼ぎだけなら十分過ぎる戦力だと思います。
 勿論アキトとヤマダさん二人でかかっても勝てないようなデルフィニウムのパイロットがいれば話は違いますけど、
 地球のデルフィニウムのパイロットは長く乗っていても実戦経験が乏しいのが現状ですし、
 何よりそんな人間がいたとしても前線で戦っているでしょう。」

「で、作戦は?」

「はい。まず、デルフィニウム隊をこちらの有効射程圏内に確認したら、
 一番から八番までの直進形時限性ミサイルを最前列に向かって発射。
 その後、ミサイルに続いてエステバリスを発進させ時間を稼ぎ、デルフィニウムの燃料切れを誘います。
 尚、相手は仮にも地球を守る為の貴重な戦力ですのでコクピット付近への攻撃は厳禁とします。」

「あっちは殺す気で、こっちは殺さずってか?
 アッサリ言ってくれるねぇ。」

 ユリカの言った作戦に対してそう言うヤマダだが、目は爛々と光と放っており、
 早くエステバリスを使って戦いたくてウズウズしているといった風情である。

「それくらいは朝飯前でしょう?
 なにしろエステバリスとデルフィニウムじゃ機動性の違いが大きすぎますから敵にすらならないんじゃないですか?」

「グラビティブラストは?」

 今度はフクベである。

「現在の相転移エンジンの出力状況では使えません。」

「そうか。」

「出来るだけ弾薬代は押さえて頂きたいものですな。」

「むぅ。」

 それに対する答えはルリから返って来る。
 フクベはそれを聞いて素直に納得し、プロスは予想範囲内とは言え上手く行けば無かった出費を電卓で計算し、
 ゴートは頷いて懐から手帳を取り出してそこになにやら書き込んでいく。

「では、パイロットはデルフィニウムが発進されるのを確認されるまでコクピットで待機して、
 出撃の合図は此方から出しますのでそれに従って下さい。
 メグミちゃんは艦内放送で安全確認を。
 ミナトさんはルリちゃんとルート確認を。」

 三人がそれぞれ納得したのを見て、他に何か無いか質問が無いかを確認し指示を飛ばすユリカ。

「了解。」

「よっしゃあ!俺様の華麗な戦闘技術を披露するぜ!!」

 それを聞いてアキトとヤマダがブリッジを出て行った。

「艦内各所へ・・・」

「ミナトさん。これが大気圏脱出ルートです。
 現在はセミオートで操艦されていますが戦闘が開始されてからはマニュアル操艦となりますの。
 あと・・・」

「はいは〜い。ありがと、ルリルリィ〜。」

 メグミは全艦放送を、ミナトはルリから説明を聞いている。

「艦長、勝算は?」

「大丈夫ですよ。…信じてますから。」

「フゥ…。ならばワシもそうするとしようかのぉ。」

 ユリカに満面の笑みでそう返されたフクベは、満足そうに頷きどこからか取り出したきゅうすと湯のみを出し、
 ゆったりと提督席に身を沈めた。
 そんな二人のやり取りを見たプロスは、

「(やはり彼女を艦長に据えて正解でしたね。)」

 などと考え、人知れずニヤリと笑みを作っていた。



 一方、第二防衛ラインの一翼を担うステーションサクラの医務室。
 士官用の制服を着込んだ並々ならぬ雰囲気を漂わせて医師に詰め寄っている青年と、
 そんな青年を諌めようとしている詰め寄られた眼鏡をかけた初老の医師がいた。

「貴方がこれを付ける必要はですねぇ…」

パイロットなら皆やってる事じゃないか!!

「しかし貴方は士官候補生なんですよ?やはりそんな人が付けるべきでは…」

もう良い!!それを貸せ!!!

 パシッ!プシッ…

 声を張り上げて医師の持っていた無針注射器を強引に奪い取り自らの首筋に押し当てトリガーを引く。

「ハァ…やっちゃったよ。あ〜あぁ。全く、これだから世間知らずのボンボンは…。」

 そんな青年を見る医師の目には軽い呆れが浮かんでいた。

「ユ…リカ…」

 彼、アオイ・ジュンの呟きは、口元に耳を近付けてすら聞こえないほどの小さな声だった。



 それから一時間程の後、ステーションサクラの格納庫ではデルフィニウム用のパイロットスーツを着込み、
 フルフェイスヘルメットをかぶったジュンの姿があった。

「増槽を付けておきましたので、一時間は確実に飛べます。
 あとは重力に気をつけていればまず墜落はしません。」

「色々とすいません。」

 突然の命令に嫌な顔一つせずに対応してくれる整備員の一人に心からの礼を述べる。

「構いませんよ。その代わり、絶対に無事で帰って来て下さいね!」

「ああ。分かってる。」

「それでは……………はぁ…。」

 言われてジュンは笑顔とともに答えるが、彼を包むその雰囲気は表情や答えとは正反対の暗いものであり、
 それに気が付きはしたものの、整備員に出来たのは何も言わずにただコクピットハッチから離れ、ため息をつく事だけだった。

 プシュゥ…

「さよなら。」

 それを見送ったジュンは小さな声で呟きながら、発進の為の確認を続ける。

「アオイ君…。ユリカの事。頼んだよ。」

「えぇ、分かっています。」

「では、な。」

 それだけ言ってコウイチロウからの通信は途絶えた。
 それを確認して一つ大きな深呼吸をして落ち着きを取り戻そうとする。

目標、機動戦艦ナデシコ!デルフィニウム隊、発進!!

 力強く張り上げられた声とともにジュンを軽い浮遊感が包み、
 間をおかずに今度は前方から強いGがかかる。

「ユリカ。君を、行かせはしない…。」

 呟いたジュンはやはり暗い雰囲気を背負っていた。



 カタカタカタカタ………

「こっちは通常通り、こっちは警戒態勢だな。」

 殆ど光源のない暗い部屋にキーボードを叩く音とパソコンの駆動音、
 一人の男の呟きが響いていた。
 声から察するに青年であろう。

「これで…よし。終わりだ。」

 そう言ってエンターキーを押した。

 ビィー!ビィー!ビィー!

 そして同時に暗かった部屋を赤い非常灯が照らし出す。
 青年はそれを確認すると座っていた椅子からゆっくりと立ち上がり、
 地球が見える大きな窓に歩み寄る。

「さて、どこまで耐えられるか…。」

 そう呟いた青年は頭からつま先までを真黒い貫筒衣で覆い、顔も貫筒衣の先を下げて隠している。
 唯一肌を確認出来るのは顎のラインと首で、その肌は病的なまでに白い。

「後は暫く静観…でいいんだな?」

 青年は顔を少し上げて、まるでそこに誰かがいるかのように呟く。

「まぁ、とりあえず今はあいつに期待するとしよう。」

 そう言いながら青年はゴソゴソと懐を探り始め、
 その手に蒼い輝きを放つやや細長い六面体の石を握り瞑目する。
 それにあわせて青年を虹色の光が包み始める。

「………」

 暫しの間微動だにしなかった青年は僅かながら唇を動かしそれと同時に光を伴って消え、
 後に残ったのは部屋を照らす赤い非常灯の光とけたたましく鳴っている非常警報、
 そして辺り一面に転がる肉片だけだった。










続く







○中書き

 皆さん、こんにちは。
 作者の愚者です。

 え〜…恐ろしく遅筆である事から友人に、

「前後編で出すんなら前編だけでも書けたなら中書き書いて投稿したら良いんじゃない?」

 と言われたので今回から前編が完成した時はそれを投稿し、さらに中書きを追加する事にしました。

 さて、話は変わりますが、自分で再度読み直しても相手に伝わっているかどうか分からない今日この頃。
 学校の先生には簡単な言葉でもいいから分かりやすい言葉で書けと言われ、
 何度も読み直して出来るだけ簡単な言葉で多くの事を表現出来るように成るまで、
 まだまだ練習が必要のようですね。
 頑張って読みやすい作品になるように努力します。

 あと、文中の英文に関してですが、日本文を「訳せ!!ゴマ」にて変換し、
 変換されなかったものの中で固有名詞をローマ字読みで英文化した後に、
 残りの日本文を削除しただけですのでおかしな表記があるかもしれませんが、
 見つけても見逃してやって下されば幸いです。
 日本語すら怪しい昨今、外来語なぞ出来る訳がありません。

 では、後編の後書きでまた会いましょう。

追記

 物凄く遅いですが、新年明けましておめでとうございます。
 皆様にとって今年が良い年になりますように。





 

代理人の感想

・・つーか、お偉いさんたちはムネタケの事件のいきさつを知ってるんでしょうか?

そうでないならまったくの無意味ですが(爆)。

まぁプロスさんたちも乗ってるわけですし、裏は取れてるんだと思いましょう。(苦笑)

 

 

さて、文章ですがそれ自体はわかりやすくまとまってると思います。

ただけれんに欠けるというか、文章テクニックに関してはこれはまだまだ改善の余地があるのは勿論ですが、

少なくとも「人に読ませる文章」という意味での最低ラインは楽々クリアしてるかと。