− ??? −
白一色の部屋、スパコンに繋がった端末とインカムをつけ白衣を羽織った一人の男性がいる。
「博士、本日の実験の結果です。
これまでのデータとの比較からこれが限界と思われます。」
「理由は?」
その男性がインカムに向かって話しかけると、イヤホンから声が返ってくる。
「これ以上の実験はデメリットの部分が強すぎます。
最悪の場合、肉体の崩壊もありえます。」
「そうか、なら今までの実験結果をまとめた報告書を所長に提出してくれ。」
「わかりました。」
男性はそう声に答えると、端末にからCDを取り出してケースにしまい込む。
そして端末の電源を落とすと静かに部屋を後にした。
混沌の魂
第四話
− ナデシコ艦内格納庫 −
「よ〜しお前ら!始めっぞ〜!!」
「…「お〜!」…」
ウリバタケの声に整備員全員の気合のこもった声があがる。
「第1班はシステム関連のチェック!」
「…「う〜っす!」…」
「次に第2班と第3班はハード面をチェックしろ!」
「…「う〜っす!」…」
「最後に第4班は武装が使えるようにチェックだ!」
「…「う〜っす!」…」
会話からも分かる通り、今彼らが行っているのは大気圏脱出の際に使用したエステの整備だ。
いくらネルガルがテストを重ねたとはいえ、所詮はテストである。
戦場での不測の事態にも対応できるように、戦闘のデータと機体の消耗している部分を照らし合わせ、
そこからおおまかなオーバーホールの時期を算出していくのだ。
「ウリバタケさん。申し訳ありません、ちょっとよろしいですか?」
「うん?プロスさんじゃねぇか。どうかしたのか?」
指示を出し終えたウリバタケにいつの間にか近付いていたプロスが声を掛ける。
「いえ、もうすぐサツキミドリ2号に到着しますので、
搬入する0Gフレームの仕様書などの書類をお持ちしました。」
「おお、すまねぇな。」
そう言ってウリバタケが受け取った書類をペラペラと読み始める。
「搬入の際にはアオイさんもいらっしゃいますので。
では、お願いいたします。」
「おお、そうだプロスさんよ。
ちょいと聞いときてぇ事があるんだがよ…」
「はい?なんでしょう。」
それを見てプロスは格納庫をあとにしようとしたが、ウリバタケに呼び止められる。
ウリバタケは書類に目を通しながら口を開く。
「いやな、なんだって陸戦、空戦、重武装とあって0Gだけが無いんだ?
仮に今戦闘になったら重武装しか出れねぇぜ?」
ウリバタケからの疑問は実際当然の事である。
仮にも宇宙での戦闘を基本として考えられた戦艦に一機として宇宙戦用の機体がないのだから。
「それは大気圏内では0G戦フレームの調整が完全には出来なかったからです。
本来ならば発進時には調整された0G戦フレームと、
本物の宇宙で実機訓練したパイロットの方が合流する筈だったのですが…」
「もう発進しちまったし合流予定のドックも壊れちまったから宇宙で搬入か?」
「はい。」
「ま、それならしょうがねぇ、かな…。
一応、万一に備えて重武装の気密性を宇宙戦用に改造しといたからな。
事後承諾になっちまったけどいいか?」
どうやらウリバタケが聞きたかったのは勝手に改造をしたのを怒られないかどうかの一点のようだ。
その証拠にいつの間にやらそっぽを向きながらぽりぽりと頬をかいている。
「ええ、かまいません。
今回は此方の不手際ですからね。
しかし…」
「お、おう…」
そう言いながらズズイッと迫るプロス。
中指で押し上げられた眼鏡が反射で白一色に見えるのが不気味でビクビクしながら同じ分だけ下がるウリバタケ。
「他の資材を私的に使用した事に関してはお給料から差し引かせていただきます。
よろしいですね?」
「ちょ!ちょっとま「よろしいですね?」はい!!」
「では、皆さんもお仕事頑張ってください。」
反論しようと口を開こうとしたウリバタケだったが、
眼鏡の下に見えたプロスの視線と素晴らしくドスの利いた声に、一も二も無く頷くしかなかった。
逆らえば殺されると本能が警告を発したらしい。
「ああ、俺の人生最大の浪漫が…」_| ̄|○ガクッ
ウリバタケの返事を聞いて満面の笑みで去って行くプロスが見えなくなると、
それとは対照的にガックリと膝と手をついて涙するウリバタケ。
一連の会話を見ていた整備員達は自分に向けられたかもしれないプロスの怒りの矛先が、
ウリバタケに収まった事に心から安堵した。
しかしそれをおくびにも出さず、ウリバタケの指示通りに整備をしていく。
ようやく茫然自失の状態から回復したウリバタケは、
残りの仕事の指示を出すとフラフラとした足取りで格納庫を後にした。
その背中はいつになく枯れていたそうな…
− 食堂 −
まだ昼時にはいささか早いために食堂に人はまばらである。
そこにフラフラとした足取りでウリバタケがカウンター席にすわる。
「ウリバタケ、どうしたんだい?
そんなフラフラして…。」
「ん?おお、ホウメイさんか…いやな、いろいろと資材を流用してやってたのがバレてな…はぁ…」
「なんだいなんだい、まだやってたのかい?
あんたもホント好きだねぇ。」
ウリバタケの資材流用の件を前から知っていたホウメイ。
「そう言うなって。
そこの調理器具だってその産物なんだからよぉ…」
そこで古くなって使いにくくなった調理器具を練習用にして、
搬入された資材で新しい調理器具を作ったのだ。
「まぁ、そうなんだけどね。
それで、今日はなんにするんだい?」
「ふぅ、今日は鍋スパにでもするかな…」
「あいよ、鍋スパ一丁!」
「…「あ、は〜い!(汗」…」
唐突に入った微妙な名前のメニュー。
調理補佐兼ウェイトレスの五人組は内容を知っている為、大粒の汗を貼り付けて調理を開始し、
実物を見たことある者やソレに挑戦した者は信じられないモノを見るような視線をウリバタケに送った。
「そういや今度のパイロットはどんな奴等なんだい?」
慣れているのかホウメイは全く反応を示さない。
「ん〜、そういやパイロットの資料はもらってねぇな…
でもなんでそんなコト聞くんだ?」
「いや、パイロットってのはいつ死ぬかわからない職業だろ?
そうなったときに辛くないように嫌な奴が来ないかなってね。」
そう言って苦笑するホウメイ。
それを見てウリバタケもまた同じように苦笑する。
「な、鍋スパあがりました〜!」
ガラガラ…ドゴンッ!!←料理をテーブルに置いた音
ウェイトレスの一人が荷台を使ってテーブルに運んで来たのは、
どっからどう見ても鍋うどんだった。
麺がスパゲッティでなければ…
「さて、冷めないうちに食べるかな。」
「あいよ、じゃ、スタートだ。」
ウリバタケが箸を手に持って食べ始めると、
ホウメイは何処からかストップウォッチを取り出してタイム計測を始める。
ウリバタケはホウメイと話して幾分落ち着いたのか、凄い勢いで麺を啜っていく。
ナデシコ発進以来、毎回行われている謎の行動だった。
− ブリッジ −
「提督、お茶をどうぞ。」
何故かブリッジ最上段にしかれた数枚の畳。
「ふむ、すまんの。」
そこにコタツを置いてマッタリとしているのは平時は特にする事のないフクベと、
基本的にいつも暇な保安部所属のゴート。
「それにしても、やはりコトツとミカンですなぁ…」
「うむ、平和なのはいい事じゃの。」
コタツの上にはミカンが置かれており、
すでにいくつも食べ終わったミカンの皮が積まれている。
「提督、栗羊羹持ってきました。」
そして平時であろうと事務処理などがあるはずのユリカが、
栗羊羹持参でマッタリとした空間に入ってくる。
「艦長、書類整理はおわったのか?」
「バッチリです!」
聞いたゴートに満面の笑みでそう返したユリカはコタツに入ろうとする。
ガシッ!!
「かぁ〜ん〜ちょぉ〜!!」
「ゆぅ〜りぃ〜かぁ〜」(TT)
しかし深い影を背負ったプロスとジュンに両脇を挟まれ、
引き摺られながらブリッジを出て行く。
「もう、書類の海はいやぁ〜〜!!」
「平和じゃのぅ…」
「ええ、平和です…」
ユリカの魂の叫びを聞きながら何事もなかったかのようにお茶を啜る二人。
ビックバリアを突破して数日。
ブリッジにおいて、最早日常の一コマになりつつある光景だった。
「はぁ、バカばぁっか…」
少女の呟きと共に…。
- 数時間後 -
「サツキミドリ2号を確認。」
「寄港準備に入って下さい。」
「了解、これより寄港準備に入ります。
ディストーションフィールド解除。」
「サツキミドリ、此方ナデシコ。
寄港許可願います。」
「はいよ〜、ちょっと待ってな〜。
さて、こっちが使用中でこっちは改装中だから…
え〜っと三番ドックが開いてるのでそこに入って下さい。」
「解りました。
では、ミナトさん。
車庫入れお願いします。」
「はいは〜い、お任せ〜。」
ズズン…
彼女の返事から少しの間を置いてナデシコ全体を小さな振動が覆う。
「船体の固定完了っと。」
「お疲れ様でした。
これより約一日を自由行動とします。
明日の出港予定時間までにはプロスさんに帰艦報告をして下さい。」
ナデシコは何事もなくサツキミドリ2号に到着した。
- 格納庫 -
「あ、班長〜!
搬入される予定の0G、予備も含めて5機分でしたよね?」
「あ〜っと、そうだな。
一機がヤマダ用で三機が新しいパイロット3人分で一機が予備…のはずなんだけどなぁ…。」
搬入された資材と、完成した0G戦フレームを見て整備員の一人がウリバタケに疑問をぶつける。
「なんでこんなに多いんだよ…。
そりゃ資材は多ければ修理のヤリクリも楽になるけどもなぁ…。」
「はぁ、申し訳ありません。」
「のわっ!」
ウリバタケの呟きに、いつの間にそこに立ったのかプロスが返事をする。
少なくともついさっきまでは格納庫に彼の姿は無く、
誰も入ってきた姿を見ていない。
「実はですな、アキトと現ネルガル会長は幼少からの友人でして。
それで「心配だから予定の倍の資材を自力で掻き集めてナデシコに送る。」と、
先ほど連絡がありまして、正直私も驚いています。」
「じ、自力?
会長ってのは…その、なんて言うか…暇、なのか?」
「そんな筈は無いんです…けどねぇ…はぁ。」
そう言ってこの世の全てに絶望したかのような深いため息をつくプロス。
さっきからしきりに胃の辺りを擦っている。
きっと彼の入院も近いことだろう。
- 24時間後 -
「新しいパイロットのお三方!
私がこのナデシコの艦長の、ミスマル・ユリカでぇ〜っす!!
これから一緒に戦っていくナデシコの皆さんに、自己紹介をお願いしまぁ〜す!」
異様にテンションの高いユリカの指示の下、
新しくナデシコに配属された三人の女パイロットの自己紹介のために格納庫は宴会場と化していた。
最初に自己紹介を始めたのは大きな丸眼鏡をかけた癖っ毛の女性。
「え〜っとぉ、アマノ・ヒカルでっす!
好きなものはパンの端っこと、ちょぉ〜っと湿ったお煎餅です!」
『眼鏡っ子キターーーーーーーーーーー!!!!!!』
その直後、整備員達が雄叫びを上げる。
二人目は髪を碧色に染めた女性。
「あたしはスバル・リョーコ。
好きなものはおにぎりで、嫌いなものは鳥の皮。
趣味ってか特技は居合い…だなぁ…。
一応言っとくが髪の毛は染めてっからな。」
『姉御ぉーーーーーーーーーーーー!!!!!!』
やはり整備員達が雄叫びを上げる。
最後は艶のある濃紺の髪を伸ばし顔半分を隠した女性。
「マキ・イズミ。
趣味は、ウクレレと駄洒落。」
そう言いながらどこに隠していたのかスッとウクレレを出して掻き鳴らす。
『お?』
その姿を見て固まる整備員達。
「ふふ、ふふふふふふふ…
ここで一「やめんかぁーーー!!」ぐふっ…」
彼女が不気味な笑い声を上げて何かを言おうとした瞬間、
リョーコの拳が鳩尾に突き刺さった。
「い、痛い。
…私ももうすぐ仲間入り、そりゃ「まだ言うかぁーーー!!」
…む、無念…」
それに耐えたイズミは、更になにかを言おうとしたが、
再び鳩尾に突き刺さった拳の前にマット(注:床です)沈んだ。
「イ、イズミさぁ〜ん?」
それを見たユリカが慌てて様子を伺う。
そして、リョーコに駆け寄り、
ガシッ!!
「うぃなあぁ〜、いず、スバル・リョーコォ〜〜!!」
「おっしゃぁーーーー!!!」
リョーコの右腕を高々と掲げた。
右手を掲げるリョーコの笑顔は一仕事終えた爽快感を伴っていたそうだ。
何はともあれ何事も無くナデシコは補給を終え火星へと旅立った。
続く
○あとがき
・・・あれ?
ちゃんと戦闘入れる筈だったのに…
どこで間違ったんだ?
ま、いっか(爆
なにはともあれ、皆さん。
お久しぶりです、愚者です。
すいません(土下座
なんか作風が凄いヤバイ事にw
本当はバッタと戦闘してから自己紹介のはずだったのに、
何度も書き直してたらいつの間にか戦闘そのものが無かった事に(汗
しかも主人公全然でてこねぇし…
とりあえず次は戦闘シーンが主になると…タブン
ま、まぁそんな訳で今回はこの辺で…(逃
管理人の感想
愚者さんからの投稿です。
えっと・・・アキトの台詞一つありませんでしたねぇw(ついでにガイも)
ま、今回はリョーコ達の登場がメインという事で。
それにしても鍋スパかぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
嫌な思い出しか浮かばないなぁ(涙)